バーチャルグランドオーダー
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1 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/11/10 06:35:39 ID:e2ryl5IgSn
鯖化Vtuberを皆で妄想するスレ様から着想を頂いて書くSSの長い奴です

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812 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:20:07 ID:bpu0C9cgaI
>>811

 まぶたを細め、指折り数えながら一人一人名を挙げる。かつてここにいた、そしてもういない者達の名を。オレィは全て覚えている。名前も、声も、姿も、性格も。
 幻霊とは、名を世界に刻めず死んだ存在。故にオレィは彼らを忘れない。誰かが死ぬたび、必ずこうして過去を振り返る。

「俺は”計画”を達成する。そして皆を救う。そしたらお前らは、晴れて救済の英雄だ。石像も建ててやる。だから…………」

 『人間の男』としか認識できない彼の顔に感傷が浮かぶ。だが感傷はすぐさま奥底に沈み、見えなくなった。オレィが腕を振る。ビュウ、と侘しい風が吹く。風が食器やテーブルを吹き崩す。乾いた砂の城めいて。

「……」

 彼が立ち去った後には、何も残っていない。



??視点

 彼は困惑していた。己の感情がなんであるか、理解できなかったからだ。『楽しい』と『嬉しい』はよく知っている。『悲しみ』、『怒り』、『恐怖』……これも解る。だがこれは何だ? 自分の体をフツフツと満たす、この感情は。怒りにどことなく似ているが、違う。

「uyukq@b;f?」

813 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:20:30 ID:bpu0C9cgaI
>>812

 砂辺に腰を下ろし、深く思考を巡らせる。ヒビだらけの黒い節足をくゆらせて。

 ────こうして、深く考えたことがあっただろうか? なかった気がする。なにせ己は”ラフム”だ。ティアマトに創造された新人類。何も考えずとも、大概の相手は蹂躙できる。母たるティアマトが消えてからもソレは変わらなかった。
 仲間と共に弱者を、旧人類をいたぶる日々。その繰り返し。正直あまり楽しくはなかった。仲間は楽しそうで、それが何とも不思議だった。

 仲間から離れ……海に出たのはなぜだったか。そうだ…………知るためだ。
 旧人類には、楽しそうに死んでいく奴らがいた。武器を使い果たし、血まみれになり、指一本動かなくなり、それでも笑っていたのだ。不思議だった。自分は理由を知りたいと思ったが、仲間は同意してくれなかった。
 だから一人で海へ出た。何となく、そこに答えがありそうだと思って。

「体t@t8e」

 海へ出て……グガランナに吹き飛ばされて…………ばあちゃるとか言う変な奴と戦って、負けた。そして何故か見逃された。それ以降、この感情が取りついたまま離れない。
 この感情がなんなのか『私』は知りたい。それを知るために──────

「モウイチド、タタカイタイ」

 旧人類の言葉が口をついて出て来た。不思議と悪い気持ちはしなかった。
 波打ち際に体を預ける。海水がヒビの内側にジーンと染みる。旧人類の文化である”フロ”の真似をしてみたが、中々悪くない。
 ふと、『私』は自身の肉体に違和感を覚えた。長く発達した四本の腕が肉体を支えているが、それとは別に足が生えている。だがその足は酷く萎びている。使われていないからだ。
 これではダメだ。こんなムダを放置したまま同じように戦って、同じように負けて。それでは何も得られない。
 そう思った。

814 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:21:17 ID:bpu0C9cgaI
>>813
 ────私は背中側に生えた腕二本を千切る。ガクン、と体が沈み込む。萎びた足が体重を支え切れない。

「私ハ、ヘンカスル!」

 それでも、それでも私は『楽しい』と思った。足裏に食い込むこそばゆい砂の感触。先程までのそれとはまた違う、新たな感情の湧出。全てが未知だ。
 千切った腕が、なにか使えそうな気がした。早速加工に取り掛かる。とはいえ私の腕に指はない。昆虫のそれと同じ、黒い甲殻に包まれた節足だ。かなりの試行錯誤が必要になるだろう。かまわない。
 それすら『楽しい』のだから。

「…………」

 海の奥底から、ドロリとした黒い潮が立ち上る。恐らく、母たるティアマトの残滓。ケイオスタイド。ソレが私の体に纏わりつく。そして旧人類じみた五指や健全な脚を形成しようとし──────私はザブンとそれを振り払った。
 深い意味はない。何となく、自分一人だけの力でやってみたかった。それだけだ。




 その後しばらくラフムはそこに留まった。ひび割れた殻はいつしか治り、彼の体に白い網目模様を名残として残すのみ。萎びていた脚はいつしか太く頑強になり、以前よりもずっと俊敏になっていた。
 千切った腕の先端が残った方にくくりつけられ、カニのハサミと同じように腕一本で物を掴めるようになっている。人間の手に比べれば恐ろしく不便ではあるが、ラフムにとっては大きな進歩だ。

「ヘンカハ、タノシイ! タノシイ!」

 ラフムは自身の腕をゆっくりと開閉させ、ケタケタと笑う。その声はまさしく怪物。しかしどこか、赤子の笑い声にも似ていた。

815 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:21:54 ID:bpu0C9cgaI
>>814


 視点は移り、ばあちゃる。
 ここは海。船の上。顔を上げれば緩く弧を描いた水平線が見える。今日の風はよい具合。オールを漕がずとも船は進む。海図もなく、羅針盤もなく、目的地へ向かって。
 四枚翼のカモメが異様な速度で空を飛んでいる。「クーッ、クーッ」という鳴き声がドップラー効果付きで聞こえた。

「いやー、見渡す限りの海っすね。どっちを向いても水平線……ハイ……」

「申し訳ありません、失念しておりました。人間には食料が必要だったことを……あと三日あれば次の島があるはずなのですが」

「三日、三日かぁ。そこまで持ちますかね、ハイ……しかし、何故か怖がったり怒る気持ちが湧いてこないんですよ。いやぁ、人って死が近づくと穏やかになるんすかね? ハイハイ」

 古代文明のアンドロイド『2CH』と共にばあちゃるは────遭難していた。

 ウルクの人々が用意してくれた船の上で、ばあちゃるはオールに糸をくくりつけて垂らす。釣り針はない。一縷の望みにかけ、ただ糸を垂らしているだけだ。太公望の逸話によく似た情景だが、再現と言うには風情が不足している。
 ふと、2CHが遠くを指差した。

「見てください、ばあちゃるさん。あそこに何か浮いてます。もしかしたら食料などの物資かも知れません」

「ハイハイ、あぁホントですね。しかも二つ……ていうかあれ、人じゃないすか? は、早く助けにいかないと!」

「…………おかしいですね、人影には見えなかったのですが」

 2CHはやや怪訝そうに言いつつ、手指を複雑に動かす。青く透き通る流体が彼女の背部から湧出し、浮遊し、スクリューめいた形状で固体化。船の後部で回転しだす。
 宝石の生成・操作。2CHが持つ”機能”である。

816 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:23:54 ID:bpu0C9cgaI
>>815
 見る見る内に人影が近づき、顔がハッキリ視認できるほどの距離まで行き────そこで、ばあちゃるは自身の迂闊さを呪った。
 そこに居たのが溺れかけた人間ではなく、体表の濃淡を巧みに変化させ、人影に見せかけていた……怪物であったからだ。
 モノトーンの鱗に包まれた体はウミヘビのようで、しかし頭部に生えた二本のツノが竜であることを主張している。ビビッドカラーのサイケなギョロ目。サイズは人を一人、ギリギリ丸&#21534;みにできそうな程度。

 名を付けるのであれば『海竜』といったところか。

「方向転換、五時の方角」

 2CHが船を方向転換させ逃走を開始。だが、即座に回り込まれる。海竜の動きは速くなかったが、距離が近すぎた。
 ばあちゃるはとっさに拳銃を抜いて銃弾を撃ち……鱗に弾かれる。多少の痛みはあったのか、海竜が警戒交じりの鳴き声をあげた。

「これはヤバーシーですよ……ハイ」

 ばあちゃるは思わずボヤく。
 ────見た所、耐久力は常識的な部類。目や鼻に銃弾を当てれば撃退できそうだ。だがここは海の上。足元が波で不規則に揺れる。ゴルゴでもない限り無理だろう。
 ではナイフで斬りかかるか? リーチが絶望的に足りない。
 2CHに頼るのも厳しかろう。彼女の宝石生成・操作は攻撃手段に乏しい。操作する宝石の質量が増えるほど操作速度・精度が落ちるそうだ。
 もはや詰みか──────

 そう諦めそうになった途端、ばあちゃるの脳内に一つのアイデアが浮かぶ。

「ウォラァ!」

 海竜が近づくのを見計らい、おもむろに船のオールをフルスイング。相手の胴体に叩きつけた。当然…………ダメージは入らない。所詮木製だ。海竜が嘲るように鼻を鳴らす。
 ────ここだ!

「2CHさん! イイ感じにお願いします!」

「了解」

817 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:25:07 ID:bpu0C9cgaI
>>816
 ばあちゃるがそう言って船を飛び出す。何をして欲しいのか具体的には言わない。言えば、海竜になにをするのかバレるリスクがあった。
 怪物が言語を解する可能性。2CHが意図を汲めない可能性。両者を天秤にかけ、前者のリスクを避けたのだ。それは2CHへの信頼でもある。

「ハイ! ハイハイハイハイッ!」

 空中に足場。小さな面積の宝石板が何枚も浮かび、ばあちゃるは駆け上がる。そして海竜の顔面に──────オールをフルスイング。魔術で硬化させたオールを。
 最初に素のオールを叩きつけて油断させ、その後硬化させた状態で顔面をぶっ叩く。基本的に脳ミソは鍛えられない。流石に殺せはしないだろうが、逃げる時間ができる程度には怯んでくれるだろう。
 ばあちゃるはそう考えていた。

「ヨシ…………ッ!?」

「シャアアアアアア!!」

 ────そう考えてしまったのがダメだった。
 海竜は大きく首を振り、ばあちゃるを撥ね飛ばした。多少ふらついてはいる。だが確かに動いていた。威力が足りなかったのだ。
 打撃というものはとかく踏ん張りが大事だ。踏ん張りのない状態で打撃をしても衝撃が逃げてしまう。ばあちゃるがオールを振ったのは空中。踏ん張りなど望むべくもない。

 撥ね飛ばされたばあちゃるの下で海竜が口を開く。2CHが即座に対応しようとするも、海竜が尻尾を海面に叩きつけ、船を揺らしつつ彼女の視界を塞いだ。
 ばあちゃるは全身を硬化させて牙に備えた。一回二回咀嚼される程度なら耐えられるだろう。だが────────────

「竜頭…………断ちィ!」

818 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:25:41 ID:bpu0C9cgaI
>>817
 海竜の首がスパンと飛ぶ。極限まで円運動のモーメントをかけた、馬鹿馬鹿しいほど大きな槍の穂先に薙がれて。一拍遅れて噴き出す血しぶき。赤い噴水。
 それらを成したのは、空を駆ける半獣の女戦士。身長は2m以上。かつて戦った敵にして友、ヴォーパルであった。まあ、ばあちゃるはそのことを事故で忘却しているのだが。

「うむ、久しいな! 息災であったか? ばあちゃるよ」

 ヴォーパルは空を駆けてばあちゃるをキャッチし、返り血を浴びながら豪快に笑う。

「ちなみに、此方は絶賛遭難中だ! そこに居るのはお主の友か? よい目をしてるな」

「あ……え…………その、すみません。オイラ、記憶喪失中でして、ハイ」

「なんと! …………まぁ、とは言いつつそんなに驚いてはいないのだが。何を隠そう、我のいた場所では記憶喪失が風邪と同じくらいメジャーな病気でな」

 船に着地するヴォーパル。彼女の頭部に生えた長耳が、ばあちゃるを慰めるように揺れていた。

「どこそこの乙女と愛を誓い合った男が、精霊に魅入られて記憶を奪われたりとかな。話し合いで解決する場合もあるが……大概の末路は血みどろの殺し合いよ。
 あと、実は男と精霊が心底から愛し合っていて、俗世を捨てるため記憶喪失のフリをしてた…………なんて事もあってな。男はそのまま精霊と駆け落ち、そして乙女は二股をしていた。アレは色々な意味で酷かった。
 と、名乗りが遅れたな。改めて、我はヴォーパル。リューン・ヴォーパルだ。よろしくな、ばあちゃる。そして、そこの御方もよろしく頼む」

819 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:25:51 ID:bpu0C9cgaI
>>818
「当機の名称は2CHと申します」

「うむ、2CH卿か。良い名だ! あそこの者にも名乗ってやってくれ!」

 ヴォーパルがおもむろに遠方を指さす。そこには…………木材の集合体があった。浮いているのが不思議なくらいの。なんと、上に女が一人乗っている。

「……何あの……え? なんすかアレ?」

「ヤッホー!」

 あちこちから漏出する水を手桶でかき出しながら、木材に乗った女はブンブンと手を振った。
 艶の濃い金髪を長いツインテールでまとめた髪型。脇をモロにだした改造巫女服。緑の瞳からストレートな闊達さが見て取れる。顔立ちはモデル系で、健全な自信が表情全体に満ちていた。
 女はこちらの船に乗り移り、拝むように手を合わせる。

「はい、みなさんおはようございます。私立■■■■■学園■■■■■の金剛いろはです! 今はブイデアのサーヴァントやってるよ&#12316;」

820 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/28 23:38:02 ID:bpu0C9cgaI
お久しぶりです…………かなり忙しい時期が続いていました
イベント盛り沢山で嬉しみ

裏設定
ミミックサーペント;
危険度A(命の危険、対策困難)
 体表の濃淡を変化させることで、狙った獲物そっくりの影を作り出し、救助しにきたところを襲う海竜。相手が近づいて来さえすればいいので、擬態のクオリティ自体はそこそこ止まり。
 体表に特殊な黒い微生物を飼っており、難水溶性のフェロモン物質を分泌することで群を制御し、体の濃淡を変化させている。
 戦闘力は怪物基準だと中の下程度。フィールド込みで中の上程度。だが頭がキレる上、割と好戦的なため危険度は高い。

今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=jDjxXR4eUgM

821 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/10/29 08:46:27 ID:bpu0C9cgaI
寝落ちしてました
クアッドシーガル 危険度C(やや危険だが対処は容易)
 捕食されないよう翼を四枚に増やし、飛行速度をバチクソに増加させたカモメ。
 時折地上に急降下して小動物を食っていくが、夕暮れ時などでたまに小動物と勘違いして人間を食おうとする。所詮カモメなので人を殺すほどの性能は無いが、つけられた傷から菌の入るリスクがある。
 対処法としては、両腕を上げて自身の大きさをアピールするのが一番良い。

822 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/11/01 00:08:40 ID:8oc1tIADK2
おっつおっつ、ラフムくんが楽しそうで何より、ごんごんだああああああああああああ!!!???いまだにアプランとつながりがあるから嬉しいよエアコン買えよ。

823 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/11/01 09:09:12 ID:DoPqR.g/tf
>>822
引退後も関係あるのごんごんらしくて良いですよね……

824 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:30:56 ID:L8TkQFTt8z
>>819


「ブイ……デア?」

 ばあちゃるは首を深く傾げた。知らないからではない。記憶喪失の自分がソレを知らないのは当然である。彼が疑問に思ったのは、その言葉に強いデジャブを感じたからだ。鈍い痛みが脳をくすぐる。
 それを認めたいろはが、どこか年季を伺わせる仕草で手を横に振る。

「あっ、覚えてないなら大丈夫! うん…………どこまで知らされているのか、解らないし」

「どこまで?」

「げ、いや、その…………そうだ! いろはさぁ、ここまですんごい大変だったんだよね」

 途中から露骨に声が高くなり、凄まじく不自然に話題を転換するいろは。彼女の瞳は酷く泳いでおり、「何か」があるのをこれ以上ない位に示していた。

「なにがあったんすか? ……いろはさん」

 だが、ばあちゃるは敢えて欺瞞に乗った。
 深く突っ込めばポロッと吐いてくれそうではある。だが船上でいさかいを起こすのはリスクが高すぎるし、それに、そう悪い人に見えなかった。
 そもそもばあちゃるはブイデアについて何一つ記憶がないので、今その「何か」を知ったところでなぁ…………という気持ちがある。

「ゴンゴンで良いよ。さん付けは要らない」

「ゴンゴン様……当機の名は2CH」

「おお、ロボっ子やんけ〜! ぱっと見が人と変わらん系の! あと様付けもしなくていいよ!」

825 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:31:51 ID:L8TkQFTt8z
>>824
 いろはの表情がぱあっと明るくなり、安堵の笑みを浮かべながら2CHとばあちゃるの手を握り、ブンブンと振った。

「でもホント助かったわ&#12316;いろは達の船さぁ、もうちょい沈む所だったから……『言葉』の解釈を間違えなくて良かった、マジで良かった」

「言葉?」ばあちゃるが首を傾げる。

「そそ、言葉。ベ〇ータっぽい声で助言……指示? とにかくそんな感じの言葉を天から受け取れるの。まー、解釈をしょっちゅう間違えるんだけどね。ダハハハッ!」

 いろはが豪快に笑い、船のヘリに腰を下ろす。

「とはいえ、必ず当たる予言など大方悲劇の前フリよ。当たるも八卦当たらぬも八卦、それくらいが丁度よい…………真にな」

 海水で返り血を洗い流したヴォーパルは、血や潮でべたついた自身の毛皮が気になるのか、何とも言えない表情を浮かべて言葉を切った。
 ダマになった毛を指で解きほぐし、塩の結晶をこそげ落とし、その間にも潮風が吹き付けてヴォーパルの体をベタつかせる。彼女は小さく肩をすくめ、いろはの隣に腰を下ろす。

「それはさておき、大嵐で漂流する中、いろは卿と巡り会えたのは僥倖であった。彼女の力がなければ、我はとうに野垂れ死んでおったわ」

「そんな褒められるとマジ照れるわぁ! あ、そうそう。来て早々マジで申し訳ないんだけど……ご飯ある?
 サーヴァントってホントはそういうの要らないんだけど、いろは達はちょっと特殊でさぁ。人間っぽい事してないと霊基が”よくない方”に変質してっちゃう感じというか何というか。あとシンプルにお腹減った!」

「あー……」

826 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:32:17 ID:L8TkQFTt8z
>>825
 ばあちゃるは口から息とも言葉とも言えない物を吐き出した。霊基どうこうの話はよく解らなかったが、食料がないとマズイのは解る。
 先ほど、いろは達は船……のような木材の塊に乗ってやって来た。そしてソレは今丁度、波に攫われてバラバラに散っていった所だ。食料を持っている訳がない。
 そしてそれは……ばあちゃると2CHにも似たようなことが言える。

「はい、はい、はい…………実はその、オイラ達も遭難中でしてハイ。こちらも食料はヤバーしというか、ぶっちゃけ無いというか…………あ、でも。さっきの水龍を食えば少しは持つんじゃないすか?」

「あれね……マジで食えたもんじゃないよ。マジで。不味さも極まると一種の毒だわ。いろはさぁ、口に入れた瞬間吐いたもん。食用カブトムシの方が全然美味い」

「マジすか……カブトムシ?」

「あっ、カブトムシのことは気にしないで」

 奇妙な沈黙が降りかけた時、2CHがおもむろに口を開く。

「当機の計算によれば、三日で最寄りの島にたどり着きます」

「三日かぁ……いろはは大丈夫だけど、馬ピーの事考えるとちょい長いなぁ」

「一応、オイラが『岩石化』────前の島でもらった力を使えば、水と食料なしでも問題ないっす」ばあちゃるが補足を入れる。

「んー……それってさ、ハ〇ターハ〇ターのゴンさんみたく代償ある系? あるなら使わないで欲しいかなぁ」

「……」

827 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:33:20 ID:L8TkQFTt8z
>>826
 馬マスクの鼻を撫で、ばあちゃるは黙り込む。確かに人間性が徐々に削られる代償はあるが、ソレ込みでも使うメリットの方がはるかに大きい。とはいえ、下らないウソをついてまで使う程では無いだろう。
 それに、ウルクの皆が問題なく使えたからと言って、ばあちゃるもそうである保障はない。

「代償はある、と代弁します。代案として『漕いで船を加速させる』ことを提案します。この人数であれば二日弱まで短縮できるかと」

「二日漕ぎっぱ…………まっ、大丈夫か!」

 カラカラと笑って、彼女は拳を天へと突き上げた。ばあちゃる、ヴォーパルもそれに続く。
 風は強く、空の向こうに見えるのは不穏な雲。海底から四本腕の醜い人魚が様子を伺っている。サーヴァントでも楽には倒せぬ怪物だ。だが今この時。空は晴れ、海は青く綺麗だった。真っ白な骨船が白い船跡を背に、四本のオールで賑やかな音を奏でながら、前へ前へと進みゆく。



時を大きく遡り、マリン視点。

「Wow! ここは通れねえぞぉ! このオペクン・ブラザーがいるからなぁ!」

「兄ぃはなぁ! ゴリ―・ヤガ最強の男なんだぞ!」

 大嵐に会い、とある島に流れ着いたマリン海賊団。彼女と船員らで人里を目指していたところ、よく分からない二人組に絡まれてしまった。

 彼女らが今いるのは、森を切り開いて作られたと思わしき一本道。両脇には針葉樹の森が鬱蒼と広がり、それがずっと続いている。正午であるにも関わらず道は薄暗く、森はもっと暗い。ジトっとした土や菌糸の匂いが鼻にまとわりつく。
 マリンは鼻先を指で擦り、肩を竦めた。

828 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:33:44 ID:L8TkQFTt8z
>>827
「オペクン、ロシア語だっけか。意味は……なんだっけな?」

「ロシアってなんだ?」「知らねえのか、恐ろしい物の名前だよ。おそロシアってな!」「うわ寒っ」

 バカみたいな会話を船員らが繰り広げる傍ら、マリンだけは相手をしかと分析していた。
 ────相手は二人。中学生くらいの男に、兄ぃと呼ばれる大柄な男。ケモミミが生えている以外は普通の人間と同じ。

 所持している武器は両者共にシールドのみ。大柄な方は体が隠れるほどデカいタワーシールドを一枚。小柄な方はラウンドシールドを二枚。変わった取り合わせだ。だがそれより、一番気になるのは────

「二人ならブラザーじゃなくてブラザーズじゃない?」

「「「……?」」」

 マリンの言葉に、その場にいた全員が首を傾げた。

「マリン大船長の言うことは深いな」「ああ、深い深い」「ところでフカイってなんだ?」「フカイって言ったら、昔いたコックの名前だろ。エイに刺されて死んだやつ」「あいつの料理いつも薄味だったよな……」

「Wow……そうなのか?」「兄ぃが解らないなら僕にも解らないよ」「まぁ良いか…………退治すっぞ」

 弛緩した空気の中。マリンの視界に壁が迫った。タワーシールド。重さ数十キロはあるであろう巨盾を構えた状態で、大柄な男が走り迫ってきた。尋常なことではない。

「どうよ。今のはす──────」

「兄ぃ危ない!」

 マリンは跳躍してシールドを飛び越し、フリントロック式の銃を抜いて、撃った。大柄男のかかと────ではなく、飛来してきた二枚のラウンドシールドを。撃たれたシールドは軌道を乱し、ふらつきながら持ち主の元へ戻る。

「Wow……助かったぜ。そんでもう、容赦しねぇ」

829 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:34:01 ID:L8TkQFTt8z
>>828
 大柄男が方向転換して再度突進。対するマリンは、小柄な方へ銃を向けた。させるかと言わんばかりに大柄男が突進速度を上げ────強烈な発射音と緑光をともなって繰り出された、彼女の回し蹴りに吹き飛ばされた。
 そして彼女の放った銃弾はラウンドシールドを一枚、破壊していた。

「新品の盾がぁ!? さっきは大丈夫だったのに!」

「ごめんねぇ。ちょっとしたタネがあってさ」

 マリンは指先で銃をスピンさせ、逆手に持ち替えた。銃口が自身の側に向いた状態。正気とは思えぬ構え。だがマリンは正気だ。

 ────宝鐘マリン。サーヴァント、ライダー。自覚を奪われたまま人理に召喚された存在。彼女は『女海賊のコスプレをした普通の人間』というバックボーンを持つ。だがライダーとして召喚された時は例外的に海賊として振る舞う。
 彼女の特筆すべき特徴は主に二つ。船を同時に七隻まで宝具化するスキル…………そして、威力可変の銃型宝具。

「この、銃にね」

 マリンはそう言って銃を掲げながら、自身の海賊帽をさり気なく、敵の二人から見えない場所へ置いた。海賊帽から羽飾りがなくなったことを気取られぬように。

 ───彼女の銃は、所持財産を代償に弾丸を生成することができる。過剰に財産をつぎ込むことで銃弾は光を纏い、威力と反動を増す。光は青、緑、橙、赤、と変化し、後ろへいくほど威力と必要財産が高くなる。
 今回彼女が使用したのは『緑』。強化された”反動”をブースター……つまり擬似的な魔力放出として使うことで強烈な蹴りを繰り出しつつ、弾丸で盾を破壊したのだ。

「……クソ、火薬がシケってら。弾が撃てねぇ」「船ぶっ壊れてしこたま水浴びたしなぁ」「しゃーね、突っ込むぞ」

830 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:34:27 ID:L8TkQFTt8z
>>829

 何手か遅れて、船員らがカトラス(海賊がよく使う曲剣)を抜き、突撃を始める。足取りはバラバラ、剣の握りも構えも実にお粗末。だが肉を切り刻むことはできる──────

「そ、そこまでなのじゃ!」

 邪魔さえなければ。
 横から小柄な影が割って入り、身の丈の二倍はある棒を振るう。瞬く間に船員らの武器が全て叩き落とされる。誰一人として傷つけず。凄まじい技量である。

「え、えっとぉ、何というかその、わらわ的には双方に取り違えがあると思うのじゃ……」

 ……にも関わらず、それを成した当人はオドオドしている。見た目もその態度にふさわしく小動物めいていた。大きな狐耳、真ん丸な目、ふっくらとした頬。髪は薄い亜麻色。狐耳の下から流れ出る髪房が目をひく。薄桃色の巫女めいたへそ出し服を煽情的と感じさせないのは本人の振る舞い故か。
 もっとも特徴的な箇所をあげるとすれば、外見が童女そのものであるにも関わらず、声が男性のソレであることだろう。

「プリジヂェーント(総統)!」

「Wow! プリジヂェーント、良いところに! 一緒に海賊を倒しましょうや!」

「わらわは『ねこます』なのじゃ……総裁はちょっと。まあ、それはそれとして。戦いは辞めるのじゃ。バーシィ、ラーシィ」

 『ねこます』と名乗った少女?はそう言って、タワーシールド男とラウンドシールド男を順番に指差した。

831 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:34:54 ID:L8TkQFTt8z
>>830

 ────新手の登場により話に置いていかれたマリンと船員らは、所在なさげに佇んでいた。マリンはそっと身をひるがえして海賊帽を拾う。

「grrrh……プリシヂェーントの命令なら聞くけどよぉ。聞くべき、なんだけどよ。納得できないぜ。あいつら見た目からして海賊だぜ? 悪者じゃんかよ」

「兄ぃの言う通りだ! 悪者はやっつけて、ゴメンなさいさせなきゃダメなんだぞ! プリシヂェーントの教えてくれたことだぞ」

「う、うん。相手が悪者ならそうじゃよね」

 いきりたつ二人に若干気押されつつも、ねこますは諭すような笑みを浮かべ、二人の肩に手を置いた。その動作からは見た目年齢不相応の成熟さが感じられる。
 ねこますは先ほど破壊されたラウンドシールドの残骸を手に取り、中に埋まっていた弾丸を摘まみ上げた。

「わらわが戦いの気配を感じてこっちへ向かってた時、赤髪の女性がバーシィを撃つのが見えたのじゃ。その時、女性はバーシィの頭ではなく踵を狙っていたんじゃよね。
 それにこの弾丸。刺さっている角度からして明らかに持ち主……ラーシィを狙っていなかったのじゃ。つまり、不殺を貫くあの女性は悪人ではない! のじゃ」

「Wow……で、でもそれだけで悪人じゃないとは……」

「じゃないとは限らない。それで襲い掛かったら、それこそ悪人と変わらないのじゃよね」

832 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:35:00 ID:L8TkQFTt8z
>>831

 ────船員らは落とされた武器を拾い、各々鞘に納めた。そして神妙に直立姿勢を取る。何となく収まりが悪いのだ。彼らの心情を強いて例えるなら『お前ベジタリアンかも』と言われた肉食獣の心持ちである。
 確かにマリンは善人だし、船員らも自衛以外でカタギに手を出すことはない。ただカタギでなければ普通に殺す(マリン以外)。今この場にはいないがラークなど特に悪質な類だ。卑屈な面と傲慢な面が絡み合って、人を騙す方向へ特化している。

「……兄ぃ。プリシヂェーントのいう通りだよ」

「…………だな。マジで申し訳ねえ! 俺ぁ早とちりしてアンタ等に襲いかかっちまった! ホントはいい奴らなんだろ!? 海賊っぽいだけで!!」

「あっ、いや、海賊ではあるよ」

「イイ海賊ってことだな!」

「いい海賊……? 稼ぎのいい海賊ってことか?」「まあ、価値観次第では善人になりうるか」「カチカンってなんだ?」「カチカチの缶のことだぜ、多分」「カンってなんだ?」「流石にそれは知っとけよ……」

 そんなこんなで戦いはグダグダな空気で終わりを迎え、マリン海賊団はねこます等の住む里で歓待を受ける運びとなった。

833 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/29 23:49:43 ID:L8TkQFTt8z
卒論が忙しすぎてかなりの間投稿できてませんでした
星祭に行く時間は意地で確保しました

ちょっとした裏設定

愉快なマリン海賊団のプロフィール

ストライク・ラッキー;砲撃手 目をつむって撃つ「天任せ撃ち」が得意技 実際下手に狙うよりは当たる

マルボ;航海士 権力者と娼婦の隠し子 嵐で漂流した時に事故って死んだ

ブンスター:コック 「○○ってなんだ?」が口癖 変な祠に立ちしょんべんしてから記憶が定期的に吹っ飛ぶようになった レシピだけは何故か忘れない

パーラ:戦闘員 女性海賊 男のように振る舞う、男のような見た目をした女性海賊 女だと気づかれたことは今まで一度もない たまにそれとなく女性アピールをする

834 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/30 22:48:57 ID:VeUa3MK8kS
おっつおっつ、退いた重鎮が来ましたねぇ面白い、星祭楽しんでってねぇ地方民は現地民の健康を祈るよ

835 名前:名無しさん[age] 投稿日:2024/12/31 00:22:12 ID:q59s0dA5vD
>>834
楽しんできます
ねこますはシロちゃんに縁深い存在なので出せて良かったです

837 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:16:44 ID:kiQfXZ2Oak
>>832
 獣道をしばらく歩き、人里に出る。
 見渡す限り一面の田畑。獣避けの案山子が黒ずくめの衣装とペストマスクをつけている。首に大樹を象ったネックレス。不思議な恰好だな、とマリンは思ったが特に何も言わなかった。異文化とは基本そういうものだ。
 遠くで畑仕事をしていた獣人がねこますに手を振る。彼女は少し恥ずかしそうに手を振り返す。
 細いあぜ道を縫うように進む。心地よい風。気温はやや涼しめ。土と草、独特なたい肥の臭い。青虫がまとわりつき、マリンは慌てて足を振る。船員とバーシィ・ラーシィが賑やかに笑い、ねこますが軽く追従した。

 それからしばらくして、船員の一人がふとつぶやく。

「俺の故郷もこんなんだったな。見渡す限り畑の海。波の音なんざ全く聞こえなかった」
「へぇ、キミは……砲撃手担当の”ストライク・ラッキー”だっけ? 聞かせてよ、故郷の話」
「あ……マリン大船長、聞こえてましたか。別に大した話じゃ無いですぜ」
「いいから、いいから」

「……元々俺ぁ、とある島の農家の次男坊でして。シェルター・プラント────生き物が住みやすい環境を人工的に構築した、都市一個分の面積をもつデカい施設────その中で農業してました。施設内だけで全てが完結するから、外に出る必要がない。そもそも出入り口が開かない。ずっと昔の頃からそうで、これから先もそれが続くと思っていましたよ。
 でもある日、ものすごい揺れが起きました。地震じゃないですよ。アレは異様な、普通なら有り得ない揺れだった……でまあ、その直後、プラントがぶっ壊れました」

838 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:17:13 ID:kiQfXZ2Oak
>>837

 船員は頭の後ろで腕を組み、遠い目をしながら歩く。

「先祖がプラントを作ったらしいんですけどね。簡単な直し方すら伝わってませんでした。どっかで失伝しちまってたんだろうな。真っ赤な光がプラント中を満たして、ノイズが酷すぎて意味の分からない放送が鳴りまくって、開かずの出入口が開いていた。
 何かマズイことが起きていた。
 俺は何人か引きつれてプラントを出たけど、ほとんどは残った。誰も『このままで大丈夫』なんて思っちゃいなかった。けど動かなかった。怖かったんでしょうね。それに、小さい子供を抱えた人だっていた。
 外はカラッカラの荒野で、やたら臭い極彩色の川が流れてました。しばらく歩くと、プラントのあった方角からデカい音が聞こえた。黒い煙も上がっていた。何があったかは確認していない。怖くて出来なかった」

 彼の口調から徐々に海賊然としたモノが抜けていくのが、彼の心が昔に回帰しているのが、マリンにはよく分かった。
 マリンが思うに、彼は確認しなかったことを、誰かがまだ生き残っていたかもしれないのにと、後悔があるのだろう。やらぬ後悔はとかく尾を引く。膿んだ傷のようにジクジクと痛み続ける。そして、傷と違って治ることはない。

「半日くらい歩いて港────だった廃墟にたどり着いた。多分、すごく運がよかったんだろうな。ボロボロだけど動く船もあったし、保存食まであった。
 船で進んでいくとさ、油でテラテラした海面が透き通りだして……爽快な風が俺を吹き付けた。冷たくて、磯の香りが鼻の奥に広がって、風が吹くたび目に見えない汚れが落ちていくようだった。その時分かった。プラントの空気にいつも付いていた香りは、海や森に寄せた香りだったんだ、プラントを作った祖先は自然に思いを寄せていたんだ」

839 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:17:32 ID:kiQfXZ2Oak
>>838
「それはなんというか、少し不思議だね。ちょっと海に出ればすぐキレイな自然があったのに。それで、海に出てからはどうなったの?」

 あぜ道を抜けると、建物の密度が徐々に増していった。和風の木造と険しい石造りが混在した街並み。石造りの建物の多くは、所々に通常考えられない損壊が見受けられ、その数も配置もかなり少ない。過去に大規模な破壊があったことをうかがわせる。

 好奇心に満ちた目で遠巻きに眺める住民ら。程度に差はあるものの、全員が狼めいた特徴を有している。他動物の要素を宿した人は、ねこます以外に現状見当たらない。

「驚きの連続でした。空飛ぶ魚、ヤバいくらい首の長い動物、目が眩むほど色鮮やかな魚、獣の毛皮をもつ人間、頭から水を噴き出すデッカイ魚、岩のような人間。本でしか見なかった生き物や人がたくさんいた。魔術、宝島、幽霊船、古代都市…………本で夢見た不思議がそこにあった。作り話だと思っていたことは、全部マジだった。
 そんなこんなで順調な航海が続いた────嵐で遭難して、食い物が尽きるまでは。飢えは……本当に惨い。必要にかられて仲間の死体を食った次の日、みんなゲーゲー吐いてた。俺は背中をさすって「ここさえ乗り切れば、また色んな景色が見れるぞ」と励ました。
 仲間の一人が目を伏せて、カラカラの下唇を噛んで、小さな声で「ありがとう」といった。次の日ソイツは冷たくなっていた」

 気が付くと、マリン以外も彼の話に耳を傾けていた。
 海賊の多くはあまり過去を語らない。どんなに悲しい過去があろうと、海賊が略奪者である事実は変わらない。語るタイミングを間違えればタダの自己弁護になってしまう。
 だからこそ、こういう話は希少であった。

840 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:18:22 ID:kiQfXZ2Oak
>>839
「……ラーク船長に会ったのはそんな時だ。後ろから海賊船がやってきて、乗り込んで、俺らを甲板へ引きずり出した。船長は俺らに水とスープを飲ませて、こう言った。
『いつもなら根こそぎ略奪するところだが、今日は機嫌がいい。一つ、一つだけ差し出せ。ソレが素晴らしい物なら、部屋が満杯になるくらいの水と食料をくれてやる。下らねえ物でも……何もせず解放してやろう』
 この言葉をあえて翻訳するなら、こうだ。
『俺を喜ばせろ。チャンスは一回。成功すれば命を助けてやる』」

「運がいいね」

 マリンの言葉に船員は頷いた。

「ええ。あん時の船長はスゲェ機嫌が良かった。で、まあ、俺は色々と悩んでから
『俺自身を差し出します。俺がアンタの部下になります』
 と言った。実を言うと、俺は仲間とノリの“ズレ”を感じてたんですよ。死んだ仲間の分まで生きるため、平穏な地を見つけるために航海する仲間たちと。でも俺は航海自体を目的にし始めていた。未知とスリルの虜になっていた。
 ……聖書のどっかにこうあった、「人は必ず死んで、塵に帰る」。命あるものはいずれ死ぬ。だからこそ、死から目を逸らしてはならない。でも俺は死から目を逸らし、航海に没頭した。俺は他と違ってたんだ、悪い意味で。
 だからラーク船長の申し出は、イイ感じに別れるチャンスでした。でも船長は
『部下の数は十分に多い。これ以上は増やせない』
 と言った。だから手近な海賊から銃をもぎ取って、テキトーにぶっ放した。上手いこと当たってソイツは死んだ。それで俺はこう言った。
『これで増やせますね』」

 右手で銃を打つジェスチャーをしながら、彼は事もなげにそう言った。

「えっ」

841 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:20:19 ID:kiQfXZ2Oak
>>840
「言ってから後悔しましたよ。軽率なことをした。殺されちまうって。でも違った。船長はヘビみたいに瞳孔を細めて、俺を部下にした。他の奴は俺の度胸と、死んだやつの思い出話に花を咲かせた。ンで、元いた船には約束通りたくさんの食料が積み込まれました。そこから先は知りません。幸せに暮らしてるんじゃないですかね…………長い話になりました。すんません」

「いやいや、面白い話だったよ。あと最後らへんの吹っ切れ方エグ────おや」

 マリンが目を細め、言葉を続けようとしたが、ねこますが足を止めたのを見て止めた。目的地についたのだ。

 バーシィ・ラーシィに入口を守るよう言い含め、ねこますは大きな建物の扉を開けた。比較的新しい、沖縄の古民家めいて開放感の強い和風建築の建物。
 中に入ると、やはり壁が薄いのだろうか、外の雑踏や声がダイレクトに聞こえる。

「ようこそなのじゃー。ここはクループ。人を招いたり集会の時に使う……要は公民館なのじゃー」

「すっごい俗な要約だぁ」

「まあね。ぶ、ぶっちゃけわらわ自身、プリシジェーント(首長)とか呼ばれてるけどぉ…………要はいくつかある村のリーダーってだけなのじゃー……で、皆さんは……どういう経緯でここに来たのか教えて欲しいのじゃー」

「マリン達? グガランナだよ。えっぐい嵐を纏った、四本足で海をうろついてるデカい奴。あれに船ごと吹っ飛ばされてさぁ」

「そ、それはかなり運が悪かったのじゃあ。いや、生きてるだけ運がいいのかな? でもアレに会った時点で運が悪いわけじゃし……まいっか。
 そういうことなら、船が入り用だと思うのじゃあ。もちろん手助けはしたいんじゃけど、なんというか、その、タダでやっちゃうと面子的なあれこれが……一応わらわは代表な訳で…………」

842 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:21:31 ID:kiQfXZ2Oak
>>841
 短い腕をパタパタさせ、言葉の自家中毒におちいるねこます。幼い見た目とあいまって中々に微笑ましい。
 マリンはクスリと笑って助け船を出す。

「対価を払って欲しいと。いいよ」

「対価かぁ……なんかあったけな?」「オレ服の下に金貨ぬい付けてる! 錆びちゃったけど」「金は錆びねえだろ」

 マリンの首肯に船員らも追従する。ねこますはホッと息をついて、近くの棚から地図を取り出して広げた。

「ありがとうなのじゃー。さ、早速地図を見てほしいのじゃけど、ここ……漁をするための船着き場じゃね。その近くに変な浮島がやってきたのじゃー。何かしてくる訳じゃないけど、普通に漁のジャマなのじゃ。あ、あとこう……見た目が景観に良くないというか。ちょっとアバンギャルド(前衛的)すぎるんじゃよね」

「ソレをどかして欲しいってこと?」

「お、おおむねそうなのじゃー。ただ、少し前にも同じような客人が来て、島の撤去に臨んでるのじゃけど……上手く行ってないのじゃあ。浮島の住民にさんざおちょくられて毎度毎度追い返されてるとか、なんとか」

「住民いるパターンか、やりづらいなぁ」

「あ、ああいや、そこら辺は大丈夫なのじゃー。というのも浮島の人らが言うには、どうも愉快犯? みたいなノリで来たみたいで、島ごと自由に移動できるっぽいんじゃよね」

「わぁ……」

 マリンは半ば無意識に唇を尖らせた。安全を確保した上でやらかす愉快犯か。命をかけて冒険に挑む海賊として、あまりそういう手合いは好きになれない。
 少しの間、口の中で思考を吟味し────

「!?」

 言葉にする直前、ズシンと重い音が響いた。
 直後、空気が変わった。濃密な魔力。それまで外から響いていた音が断絶した。代わりに聞こえてきたのは、妙なささやき声。

843 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:23:07 ID:kiQfXZ2Oak
>>842
『すぐ近くにいた。顔も見れずにお別れ』『女王様はゲームがお好き』『女王様の下す命令はここじゃあ絶対。女王様自身だって逆らえない』『なんでもない日、おめでとう!』

 マリンが窓から外を見ると、色とりどりの花々がお喋りをしていた。花の花弁が顔のような形相を作り、口にあたる部分をせわしなく動かしている。おしゃべりというより、各々が勝手に言葉を吐いているだけではあるが。
 無論、花以外は正常かといえばそんなことはない。先程まで存在していた村はどこにも見えず、異様な森が広がっている。セル画アニメに似た重い色彩。空は夜明け前のような薄暗さで、雲の形がどうにか確認できる程度。

『カードの騎士にはたくさんの顔、52枚はいくね』『カードの騎士は終わる場所からでてきた』『キラキラ光るコウモリさん。いったいお前はなにしてる? この世をはるか下に……下……おかしいな』

「全然切れ……!」「助けてプリシ」

 花々に混じって微かな悲鳴。バーシィとラーシィのモノだ。
 それを認識し最初に動いたのはねこます。即座に長い棒状の武器を両手に一本ずつ呼び出し、目にもとまらぬ早さで振るうと、壁を切り抜いて通過した。

「今助けるのじゃ!」

 焦燥を含んだ声と共に、亜麻色の風となってねこますが駆ける。バーシィ・ラーシィは何本かの奇怪なツタ(地面から直接生えており、勝手に動く)に絡みつかれ、その身を地面へ引きずり込まれていた。
 一閃。

844 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:24:17 ID:kiQfXZ2Oak
>>843
 前髪にハサミを入れた時のように、スパンと一直線に切り落とされる。だが次の瞬間には再生していた。本数を二倍にして。それを、ねこますは全て切り刻む。四倍。全て切り刻む。八倍。切り刻む。十六倍。どうにか刻む。三十二倍。対応のキャパを超える。
 ねこますには一切襲い掛かる素振りを見せず、ただ粛々と二人を地面へ引きずりこんでゆく。

『切れないツタが切れちゃった』『ないよりはある方がいい!』『過ぎたる=及ばざる』

 ツタにラッパ型の花弁が生え、妙に間延びした口調でほざき出す。

「ふうん、切れないんだ。じゃあこうしようか」

 そこに、状況を注視していたマリンが弾丸を一発だけ放つ。自身の海賊帽を丸ごと捧げ、最大まで威力を向上させた弾丸。弾丸は小爆発を起こし、ツタ────ではなく、それらが生えてる地面を吹き飛ばした。
 切れないというならば、いくらでも生えてくるのならば、発生元である地面を壊してしまえという発想だ。

「大船長、あれ巻き込んでねぇか?」「死ぬよかマシだろ……あー、ダメだこりゃ」「気のせいかも知れねえけどよ、こっち狙ってきてね?」「来てるな」「やべっ」

 だが抉れた地面からもツタは容赦なく生え、バーシィ・ラーシィを包み込んだ。加えて、余ったツタが船員らを絡めとった。各々がカトラスを使ってツタを切り付けたが……僅かな傷すら付かない。
 マリンは二発目を構え───少しの間をおいてから、その手を下した。

845 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:24:54 ID:kiQfXZ2Oak
>>844
 部下の命がどうでもいい言い訳ではない。だが強力な弾丸を放つには価値ある物を捧げなければならないし、今現在、捧げられる物はほとんどない。あの海賊帽は捧げるコストとして作った特別製だった。幻獣の尻尾で飾りを作り、貴石喰らいの蜘蛛から採取した糸で生地をあつらえ、古代都市の王宮から見つけた染料で染めたモノだ。売ればその金でちょっとした豪邸が建つ。

 あと捧げられそうなモノといえば、虎の子である「首につけた宝石」くらいのモノか。アレなら最大チャージの赤が一発、橙なら二発、緑なら四発、青なら八発は撃てる。だがそれで打ち止めだ。今二発目を撃ってどうにかなる可能性と、ここから先でチャンスが来る可能性を天秤にかけた場合、後者が勝る。そう考えた結果だった。

『人生上手くいくことばか────』「ふざァけるなッ!!」

 ペチャクチャ煩い花を踏み潰し、踏み潰し、そしてまた潰す。獰猛な叫びをあげて、真っ赤なツインテールをはげしく揺らしながら。
 宝とロマン目当てに海を渡るロクデナシ……それが海賊。彼ら自身で選んだ生き方。どんな目に合おうが自業自得。やむなく悪の道を進むにせよ、もっと賢い悪のやり方はいくらでもあるのだから。それはマリンも理解している。
 だが、だがそれでも。理屈だけで感情をどうにか出来るなら苦労しない。

 ────近辺の花があらかた地面のシミになった辺りで、ようやっと正気を取り戻す。
 マリンの様子を見計らい、ねこますが声をかける。

846 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:25:05 ID:kiQfXZ2Oak
>>845
「……落ち着いたのじゃ?」

 マリンが激怒している間、ねこますは最後の最後まで二人を助けようと武器を振るっていたようで、真っ赤になった掌を地面に当てて冷やし、力なく座り込んでいた。

「ごめん。取り乱した……現状は?」

「まず、ここは例の港近くにきていた浮島で間違いないのじゃー。報告された外観の特徴とこの空間がほぼ同じなのじゃ。あと、バーシィ・ラーシィ以外に巻き込まれた住民はいないのじゃ。わらわが把握している限りでは、多分」

「部下と二人はどうなった?」

「頭だけ地面から出した状態で連れてかれたのじゃ。あっちに」

 ねこますが指さした先には、巨大な樹木のアーチがかかっていた。先は真っ暗でなにも見えない。それでもそちらへ進む以外にない。
 マリンとねこますは顔を見合わせ、足早にアーチをくぐっていった。

847 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/22 01:28:29 ID:kiQfXZ2Oak
超お久しぶりです
やっと卒論が片付きました

船員の話は脇道に見えてこの特異点の構造を語る上でかなり重要だったりします

それはそうと、最近ぶいぱいが順調で嬉しい
3D配信も今から楽しみです

今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=Av8XANAKK60

848 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/27 08:32:46 ID:njS.UYnebi
おっつおっつ、お疲れ様やで、やだこの花怖いオマツリ男爵思い出す

849 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/02/27 13:19:28 ID:QHESFTxFcb
>>848
微妙に人っぽい要素の入った理不尽なバケモンって怖いですよね……

852 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:54:45 ID:BDjYC19Pit
>>846
 アーチをくぐると、そこには城と広大な庭が広がっていた。桃色に装飾された城の尖塔が曇天を貫き、庭にはバラの生垣迷路と極彩色の巨大キノコ。生垣は人の背丈の二倍ほどの高さ。息が詰まりそう、とマリンは襟元に指を入れた。
 重い色彩、地面に大きな影を落とす生垣、鈍色の曇天、天辺の見えない城。どれもこれもひどい圧迫感だ。
 一歩、また一歩と芝生を踏みしめ、マリンとねこますは慎重に進む。生垣迷路の奥へ踏み込む。さらわれたバーシィ・ラーシィ、それと船員の痕跡を探しながら。
 だが歩けど歩けど痕跡は見つからない。ふと、ねこますが振り向く。頭がホウキになった犬が二人の足跡を掃いて消していた。ややうんざりして、手で犬を追い払う。犬はとぼけた動きでどこかへと消えていった。

「……」

 進む、進む。生垣迷路の奥、高い高い城へ向かって。袋小路に行き当たる度、ねこますが生垣を切り裂いて通過する。生垣は泣き声とも、笑い声ともつかぬ音を立てて修復していった。
 バラは赤いペンキを滴らせている。その下にあるのは全て赤いバラ。赤の上に赤が塗られている。死者を殺すがごとき不毛さだ。
 ディズニー版の「不思議の国のアリス」を思わせる場所だが、どこか違う。足元の芝が人工物的なチクチクした感触を返す。

853 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:55:25 ID:BDjYC19Pit
>>852

 どこからか声が聞こえる。花々の声。進めば進むほど意味のある言葉は減って、不明瞭な、赤子の呻きめいたモノになってゆく。
 進行方向をさえぎる石。ねこますが石を縦に割ると、何かしらの影が昇って消えた。具体的に何だったかは解らない。どうでもいい。

 曇天。

 じっとりと暑い。嫌なぬめりのある汗が二人の背中を流れる。城はバカみたいに高く、どれくらい近づいているのかすら分からない。そもそも辿りついた所で何かある保証もない。さらわれた人が見つからず、目ぼしい場所が他にないから目指しているだけだ。
 高い生垣と蓋をされた空。マリンはそこに何らかの意味を見出そうとして、すぐに自戒した。無駄な考え事は油断の証。敵地での油断は死を呼び込む。

 かすかに気配。一人分。

 マリンは懐のフリントロック式拳銃に触り、具合を確かめる。ねこますは気づかないフリをしつつ歩調を遅らせ、相手の反応をうかがう。いずれにせよ荒事を予期した行動。
 二人が身構えた直後、”気配”がいっそ清々しいほど無警戒に、盛大な足音を立てて近づいてくる。
 存在を察知された。額にじっとりと汗が浮かぶ。

854 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:55:41 ID:BDjYC19Pit
>>853
 二人が足早に距離を取ると、”気配”は小走りで距離を詰めてくる。生垣を壊したりしている様子はない。迷路の構造を把握し、順路を辿ってきている。地形を把握出来るほど感覚が鋭いか……もしくは、ここの住民か。

「……」

 気づけば、”気配”は生垣一枚を隔て、すぐそこにいた。結局、ここに至るまで”気配”について、敵か味方かすら分からなかった。
 だがきっと敵であろう。そうに違いない。どちらから言うともなく、その合意に達していた。

「マリンさん。新手の警戒を頼むのじゃ」

 小声でそう言うと、ねこますは大地を踏みしめ、棒状の武器を二本構える。生垣を長方形に切り抜き、飛び込む。視界の端で相手を捉える。
 足二本、腕二本、それなりの長身。身長は160cm。それ以上は分からない。その必要も、余裕もない。不要な情報を切り落とす。

「へっ!? うわあああああ!!」

 相手は動揺した声を出しつつも、自身の武器──矢印めいた形状の白い剣──を振り返りざまに切り上げる。

 ねこますは棒で地面を突き、跳ね上がって透かす。そのまま一本目を生垣に刺し、そこを足場に三段目の跳躍をし、頭部に縦振りの空中攻撃。
 回避される。

855 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:56:11 ID:BDjYC19Pit
>>854

「ちょちょちょちょ! 待ってぇ!」

 極度の集中により、色も音も霞んだ世界。スローモーションの主観。相手の声など聞こえない。強引な回避で体勢を崩した相手の首を両足でからめ取り、地面に引き倒さんと────

「あ "あ”もう! ウニやぞッ!」

 ダミ声混じりの絶叫と共に、相手は剣を生垣に叩きつけた。そこから無数の黒いトゲが生える。かなりの速度で。
 ねこますは即座に距離を取る。だがそれでも、何本かのトゲは彼女?の足を貫き、眉をしかめさせた。
 トゲが乱雑に組み合わさった即興フェンスが幾重にも生じ、両者の間を隔てる。
 この間、マリンは言われた通り周囲を警戒しつつも、少し困惑した様子で戦いを横目に見ていた。

 トゲにさえぎられ、しばしの膠着が生まれた。色と音がねこますの主観世界に戻る。相手を初めて詳細に認識する。そしてソレは……知っている女性の姿だった。
 赤みのあるアイライン。ビビッドカラーがわずかに入った赤目。天然物の麻呂眉。よく手入れされたアルパカの毛並みめいた髪色。ねこますに似た……されどモチーフを異にする羊獣耳。足長なモデル体系に比して、顔立ちは大分あどけない。
 モコモコをあしらったケープに、厚手気味の黒インナー。大胆にスリットの入ったスカート。靴下は派手なアシンメトリーの柄物。総じて「装着者自身で仕立てた服」という印象を与えてくる。
 先ほどの戦闘の影響だろうか。葉の香りを濃くまとっている。

 ────風もないのに、芝生がわずかに揺れた。

「めめめ……さん? なんでここに?」

「……ねこますさん!? いや、でも襲ってきたし偽物……どうなの?」

856 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:56:50 ID:BDjYC19Pit
>>855
 もこ田めめめ。
 マリンらが来る少し前、島に来た獣人(本人曰くキメラ)だ。なんでも楔?とかいう、強い魔術のかかった品を回収する必要があるそうで、この島にそれがあるかも知れないとか。
 ねこますは”楔”について心当たりがあり、ソレを既に自分の管理下においていた。使い方次第ではかなり危険な道具だ。いくつか依頼をこなして貰い、それを通じて人間性をしっかり見てから渡すか判断するつもりであった。

 その一環として、港近くに現れた浮島の調査に向かって貰っていたのだが、まさか今会うとは────否。
 まず、ここが例の浮島の中であることは分かっていた。報告にあった島の外観と、ここの景観が一致していたためだ。当然、めめめと出会う可能性はあった。むしろ高かった。それに思い至らなかったのは単に、ねこますとマリンの頭に血が上っていたからだ。

 ねこますは己の失態に渋面を浮かべ、それから申し訳なさで目を伏せた。

 気まずい沈黙が10秒ほど続いた。
 最初に沈黙を破ったのは、めめめの生み出したトゲ。パキパキと乾いた音を立てて自壊して、二人を隔てるモノがなくなった。黒い粉が芝生に散らばって、魔力に還元されて形を失って、それからようやく、ねこますが口を開いた。

 ────切り刻まれた生垣の葉が集まり、何らかのパターンを作る。マリンはソレに気付かず、されど異様な空気を感じて、無言のまま警戒をめぐらす。

「申し訳ないのじゃ…………敵と勘違いしたのじゃあ」

「そっ、そんなこと言ったって騙されないからなぁ! 本物のねこますさんがここに居るわけないだろぉ! ここに来てまだ1時間やぞ? 救助に来るにしても早すぎるだろっ!?」興奮するめめめ。

857 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:57:45 ID:BDjYC19Pit
>>856
「め、めめめさんが行ったのは三日くらい前なのじゃ」

「えっ? あー……えっと、ねこますさんの所から港までどれくらい必要だったけ?」困惑の後、めめめは冷静さを取り戻す。

「すっ……少し急げば、ギリギリ三日かからないくらいじゃね」

「えと、つまり、めめめを追うような感じで……こっちに来たってこと?」

 めめめは剣をしまい、芝生に腰を下ろす。その動作から疑う気持ちは感じられない。
 ねこますは虚を突かれて、目を開いた。よもや、ここまでアッサリ説得できるとは思っていなかったのだ。状況を考えればもう少しごたつくのが自然ですらある。こうなったのは彼女の善性故か、それとも、この異様な環境がそうさせたか。ねこますには判断がつかなかった。

 ────二人の話し声に紛れ、どこかで微かに空気が揺れる。マリンは無言のまま銃に手を添えた。

「いや、そうじゃなくて、多分あっちの方から来たのじゃよね」

『…………が……』

「あっち?」

『女……が……である』

「わらわにも良く分かってないのじゃけど……マリンさん、何か喋ったのじゃ?」

『女王様がお呼びである』

 生垣のバラが全て、三人に顔を向けた。一つ一つのバラから声が何重にも声が響く。葉が舞い上がり、深緑のゲートを作り上げる。正確無比なマリンの実弾がゲートやバラを打ち抜くが、変化は止まらない。
 ゲートがハートを形作り、拡散し、世界を塗り替え────

858 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:58:12 ID:BDjYC19Pit
>>857
 気が付けば三人は、先ほどまで目指していた城の直ぐ近くにいた。城は大きすぎてもはや下の部分しかマトモに見えない。猫、老婆、赤子、巨大な板、目玉……様々なオブジェが、生垣を刈り込んで作られていた。
 通常の物理法則であればまず不可能な形の物もあるが、マトモに考えるだけ無駄であろう。地面に生えた花が各々勝手に囁きあっている。

「ようこそ。僕はトランプの騎士」

 小柄な騎士が三人を出迎える。声は落ち着いた男の子といった所。そしてその容姿は、三人と比べても相当に特徴的であった。
 トランプのスペードを象った槍に、クローバー型の兜、赤いダイヤ模様の鎧。黄色と黒のシマシマ模様に染められたサーコートが特に目を引く。兜の中にある顔は影になって見えず、右目だけがその輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。

 マリンが攻撃を加えようとするも、騎士は穂先を向けてけん制を行う。けん制したまま、騎士はラッパを盛大に吹いた。

「女王様の……おなーり!」

『おなーり!』『おなーり!』『おなり……』『ちょっと声小さい!』『間違った時に一緒の道を歩んでやるのも友情よ』『間違いを正すのもな』『朝だよ!』『おなり!』『夜でもある』『時間なんて関係ないよ』『インスタントニヒル=チェックポイント』『パパラパー! パラッパ! パラッパッパー!』

 マジメに復唱するバラ達。マイペースな地面の花達。赤い絨毯がひとりでに動いて道を敷き、女王が城から足早に出てくる。
 女王は、ハート模様のドレスを着た、背の低い痩せ気味な女だった。黒い前髪が目元まで垂れ、眉に薄くしわが寄り、鼻筋は骨ばっている。胃腸が弱いのか、腹の上をせわしなくさすっていた。

『女王様だ!』『女王様! 水仙の奴が僕の土から栄養をさぁ!』『お前が先にやったんだろ!』『お前だ!』『お前!』

859 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:58:32 ID:BDjYC19Pit
>>858

「お黙ンなさい!」

 女王は裏返った大声を出し、手に持ったハートの錫杖を地面に叩きつけた。シンと静まり返る花達。それから3秒ほどの間をおいて、女王はぎょろりと三人を見た。

「ようこそ。待たせました。私はハートの女王。ハートクイーン、クイーン、好きに呼んでください」

 先ほどとは打って変わり、過剰なほど事務的な口調。機械的に両手を広げ、騎士にテーブルと椅子をもってこさせ、マリンらへ座るよう促す。無論、誰もそれには従わない。
 マリンは地面を踏みしめ、威嚇するように首をかしげた。

「私たちをいきなりこんなところ連れてきて、部下をさらって、それで今は歓待の準備? 一体何のつもり? ちゃんと返答してね…………さもなきゃ殺す」

「返答は可能です。私の目的はそこの現地指導者……Mx.(ミクス)ねこますが持つ……秘宝の奪取です。そちらの部下を攫ったのは、交渉のカードを手に入れるためです」そう言いながら、女王は先んじて椅子に座る。

「秘宝ってのはよく分からないけど……欲しい物が相手の手元にない状態で交渉しても、意味がないとマリンは思うよ」

「いいえ。Mx.ねこますは持っています。現にここに来てから、ソレを何度も使っていました」

「え? いやでも、あれってタダの?宝具なんじゃ……」

 その場の視線が、全てねこますに集まる。ねこますは少し躊躇して、それから二本の長い棒を呼び出した。

「わ、わらわの宝具は別にある……いや、”あった”のじゃー。でも今はこれ使う代償に持ってかれたというか、何というか」

860 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 00:58:47 ID:BDjYC19Pit
>>859

 一本はどれほど強い光が当たろうと、一切反射を行わぬ真っ黒の棒。もう一本はどれほど深い暗闇の中であれ、一切変わらぬ純白を保ち続ける棒。どちらも、持ち手のみが尋常の薄茶色を帯びている。

 ────ソレは、炭素生命体以外の遍くを切り裂くことができる。切り裂かぬこともできる。
 ソレは、作られた”世界線”に存在したあらゆる有形の神秘、聖剣や遺骸を集積し、圧縮し、成型し、二本の武器として再定義した物だ。それはあらゆる攻撃をエネルギーとして吸収し、世界を滅ぼさんとする外宇宙のケイ素生命体を切り刻むための最終兵器である…………否。最終兵器”であった”。ソレは、もはや役目を終えている。

「これが欲しいのじゃよね」

「その通り」女王は頷く。

「色々知ってそうだから……一つ聞きたいのじゃけど、この秘宝ってなんなのじゃ?」

 ねこますが聞くと、女王は無表情のまま何度か瞬きし、それから喋り始めた。

「この世界は、どん詰まりの果て。かつての主は言いました。
 袋小路に入った世界線……良きにしろ、悪きにしろ、変化のなくなった世界線は”剪定”されます。不要になった枝のように、切り落とされる。そして、剪定された世界線が行き着く先が、この世界です。
 そして”秘宝”とは、袋小路に差し掛かった世界が、現状を打開するために生み出した、かつての切り札。残されたリソースを結集して生み出す、最後の一滴。一つ一つが弩級のリソースを秘めた、そして殆どが有効活用されぬままこの世界に流れ着いた……敗残兵の遺産。それが秘宝です」

861 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/05 01:15:18 ID:BDjYC19Pit
メチャ久しぶりです
新規配属された後輩の指導+生誕祭見る時間と金を捻出するためにバタバタしてました

シロちゃんの新衣装期待以上だった……



設定補足
第二特異点について
特異点といいつつ、性質的には異聞帯の方が近い
人理的には100%終わった世界です というか人理そのものが息をしていない
世界の土台は地母神の死体 構造は半無限の平面 星の運行に至っては天動説採用

特異点を解消できないまま詰んだ世界線、空想樹引っこ抜かれて維持できなくなった異聞帯、シンプルに剪定された世界線……全部ひっくるめて受け入れてくれる場所
ただ、そのまんまの状態ではなく、剪定される過程でバラバラになった世界の残骸(たまに生存者が付属してる)を『島』として受け入れてる感じです

イメージ的には容積無限のシュレッダー
処分された書類の破片が島、容器が海

今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=UkK2Dg8kB1I

864 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/07 23:02:01 ID:axOEBV1PfA
>>861
細かい裏設定
外宇宙のケイ素生命体
色んな物を直接エネルギーに変換する永久機関モドキを作ろうとして盛大にミスった産物
あらゆる物質、観測可能な物理現象をエネルギーに変換して取り込む

現地民がガンメタ張って殺したが、外宇宙から地球にくる過程で太陽系の星をいくつかエネルギーに変換し尽くしており、星の運行が盛大に乱れたことで氷河期が到来 あえなく剪定事象ゆきとなった

865 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/08 08:46:18 ID:RHsp8CwI3K
おっつおっつ、まぁ海は全て受け止めてくれるからね、めめめのウニやぞでBASARAの信長を思い出すなど

866 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/05/08 19:45:01 ID:q5qCJFOqOx
>>865
地面から尖ったもん出すのはやっぱカッコイイですよね
この特異点の設定に関しては「誰が何と言おうと、ワシは切除された異聞帯が完全に消えてて欲しくないんじゃ!」の精神で作りました

867 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:42:48 ID:ebWCA.T/ER
>>860
 ねこますも、マリンも、彼女の言葉に驚きは無かった。ただの海にしては余りにも……文明の残骸や滅びから逃れた人が多すぎるからだ。何と比べて多すぎるのかは分からない。そこに思考がたどり着く度、漠然とした欠落と焦りに襲われる。それすら最早慣れた。

「ふうん、秘宝を手に入れて何をしたいの? ”主”とやらと一緒に世界征服?」マリンがやや挑発的に口を挟む。

「主とは昔に決別しました。互いの理想に、相容れない箇所がありました。しかし、世界征服ですか…………いいですね。今している事が終わったら、目指しましょうか」

「女王様。世界征服するって事は、世界と戦争するってことですよ。戦争なんてね、ハラが減るばかりで良いことナシですよ……ああイヤだ、イヤだ」槍を肩に担ぎ、トランプの騎士は気だるそうに言った。

「それでも、二度目の人生なのですから、夢を追わねば。私が世界を征服した暁には、そうですね、世界中の飴を献上させましょう。好きですよね、飴」

「…………うん」

「めめめ、あんま話を理解できてないけど……それでも、秘宝を渡しちゃいけないことは、理解できたよ」

 稚気じみた夢を真顔で語るハートのクイーンを見て、めめめは呟いた。獣耳を尖らせながら。
 ハートのクイーン。ルイス・キャロルの書いた原作『不思議の国のアリス』では、お節介で強引なイングランドの母親を暴君に重ね合わせたキャラとして描かれている。そして、ディズニー版ではコメディチックな暴君としての側面が強調されている。
 目の前の女王はディズニー版にありようが近い。もっとも、コメディチックな面には欠けているが。

 女王はめめめの呟きを聞きとがめ、錫杖の先端を突きつけた。

「いいえ、貰います。秘宝の中に蓄積されたリソースが必要なので」

868 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:43:01 ID:ebWCA.T/ER
>>867
「えっとね、どうやって? めめめは強いし、ねこますさんも強いよ……それにマリンさんも。今2対3でしょ? こっちのが有利だと思うけどなぁ」

 めめめの啖呵を耳にし、女王は口元を薄く吊り上げた。ほほのこけた青白い顔で、目元に一切の感情を浮かべぬまま。

「人質がいるのに、実力行使にでるつもりですか……ああ、もちろん、私の方から力づくで秘宝を奪う気はありません。野蛮で、女王らしくないので。人質を盾にして、無条件で渡せというつもりもないです。どうせ飲まないでしょうし。
 それで、秘宝をもらう方法ですが──────」

『出番』『出番だ!』『ティーポットのラット、裁判で証言』『キラキラ光るコウモリさん、この世をはるか下に見て』『裏切りネズミ、いつでも主人公の傍に』『お駄賃ちょーだい?』『お駄賃欲しい!』『お金!』『金くれ!』

「意地汚い事を云うンじゃありません!」

 声を張り上げ、女王がタン、タン、と錫杖で地面を突く。

 顔つきの花が、生垣やらを箒ではくように片付けて、馬鹿げた広さの平地を作り出す。過剰に彩色された彫像(モチーフは不明)や、所々が異様に生い茂った芝生。平地の最奥には……鉄製のゲート(天辺の高さはヒザ程度)と、赤いハートのフラッグ。地平線のギリギリにそれが見える。
 平地の中程にもゲートが三つ。

869 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:43:18 ID:ebWCA.T/ER
>>868
「これは……ゲートボール? にしては、フィールドがやけに広いけど」

 マリンが一人首をかしげた。
 異様に捻じれた巨木からツタが垂れ下がり、果実めいてオリを吊るす。数は三つ。中に何が入っているのかは見えない。声すらも聞こえてこない。

「ゲートボール勝負で秘宝を貰います。そちらの三人と順繰りに勝負し、そちらが勝つたびにオリを一つ開放。三つのオリの一つには、マリンの部下…………残りのどちらかに、バーシィ・ラーシィが入っています。もちろん、人質が全て開放されたら勝負は終わりです。
 そして、こちらが勝つ度に秘宝を一本づつ貰います。もちろん、こちらが二回勝った時点で終わりです。それともちろん、第三者によるボールへの干渉は禁止です」


「ゲートボールで勝負。わらわ達は運が良ければ二回、悪くても三回勝利すればOK。そちらは二回勝てば目標達成……そういうことで良いんじゃよね? それで勝負の順番は?」


 ねこますが冷静に話をまとめ、横目で仲間を見る。マリンはフィールドを観察して最適なコースを考えている様子だった。そして、めめめは順応の早いねこますとマリンに困惑し、ビビットな線の入った瞳で二人を交互に見ていた。

 ねこますは思う────無理もない。短期間に異常な事態を経験しすぎて、感覚が麻痺した自分らの方が可笑しいのだ。

「話が早くて助かります。そちらは勝つたびに交代。そうですね、順番は……マリン、ねこます、めめめ…………これでいいでしょう。こちらは勝ち負け関係なく、一勝負ごとに私、トランプの騎士の順番で交代です。先攻はそちらがどうぞ」

870 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:44:11 ID:ebWCA.T/ER
>>869
「な、なんというか、わらわ達に不利な条件じゃね。こっちが負けたら交代ナシ……要は勝てる相手と連続で戦ってぇ、で、手早く二勝を稼ぎたいってルールじゃよね。
 運次第でこっちが三勝必要にしたのも、三人全員と戦って、相対的に一番弱い相手と当たる可能性を上げたいのじゃね。不公平な勝負を強いられるなんて、世知辛いのじゃ」


「文句があるなら実力行使でどうぞ。その場合人質は……処刑しますが。ああもちろん、今すぐ秘宝を献上してくれるなら、すぐに人質は解放して、元の場所に返してあげますよ」

「せ、世界征服がどうのとほざく相手の思い通りに動くとかさぁ、めめめにはちょっと考えられないなぁ」

「世の中全て、私の思い通りに動きますよ。私は偉大なハートのクイーンですから」
 
 女王はトランプの騎士にハート模様のクラブケースを持って来させ、マリンに一本投げ渡した。クラブは打撃部にフラミンゴの頭、持ち手に足を模した派手な品だ。

 対するマリンは額にシワを寄せ、慣らしとして何度かスイングした。ムチめいた音を立ててクラブが空を切る。

「偉大? たった一人の騎士と、ペチャクチャ喋る花しかいないのに偉大? まあ、今は従うよ。人質がいる内は…………あとアタシね、ゲートボールは結構上手いよ」

 パン、と硬い音が響く。マリンがボールを打った。鋭く、正確に。
 ゴルフボールと違い、本来遠く飛ばすように作られていないソレはしかし、弧を描いて遠く飛ぶ。『1』と札のついたゲートをキレイに通過し、そのままの勢いで『2』の札がついたゲートとの距離を1/3ほど縮める。
 マリンはクラブを肩に担ぎ、騎士の方へ視線を向けた。挑発的に。

「次で2と3のゲートを二枚抜き、かな」

871 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:44:37 ID:ebWCA.T/ER
>>870
 ────ゲートボールの基本ルールは『1&#12316;3までのゲートを順番に通過し、それからゴールに球を入れる』というもの。
 今回のフィールドは常識外れなほど広い。最初のゲートにボールを通すだけでも困難であろう。そもそも、ゲートボールは本来ゴルフのような広いフィールドを想定したゲームではないのだ。

 だがマリンは一発で通した。その上、2と3のゲートが一直線になる位置にボールを停止させている。順当にいけば次で二枚抜き。

(相手はどう出る? 一番あり得るのは、フィールドへの細工だけど……)

 このショットすら、サーヴァントたるマリンにはさしたる難易度ではない。だが、ソレは恐らく相手とて同じこと。
 彼女の感知能力では相手がサーヴァントかは分からない(憑依幻霊はそもそも又聞きでしか知らないので判断不可)。だが少なくとも、眼前の騎士からは強い魔力が感じられる。夕暮れ時の大きな影めいた、不気味で捉えどころの無い魔力だ。

「マリンさん、上手ですね……でも負けませんよ。僕は女王様の騎士ですから」

 毒のない、浮世離れした口調でそう言うと、騎士はかしゃりと兜を持ち上げ、フィールドを見渡した。それから”無造作”にボールを打った。叩き壊すような、力任せの動きで。
 ボールは1番のゲートに向かって20°ほどズレて飛び──────

「あれ?」「……は?」「……のじゃ?」

 複数回のカーブを描き、1番ゲートを通過、マリンの打ったボールにぶつかって、止まった。ただのスピンや空気抵抗ではまずあり得ない軌道だ。
 トランプの騎士が、手持ちのクラブを放り投げる。クラブは空中で何度か直角に曲がり、クラブケースの口へ垂直に落ちて収まった。

「物をむやみに投げてはいけませんよ」

「はい、女王様」

872 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:45:03 ID:ebWCA.T/ER
>>871
 明らかにズレた事を言う女王。素直に頭を下げる騎士。それは決定的な宣告だった。『マトモに勝たせる気はない』という。
 三人の内心を見透かすように、女王が血色の悪い唇を持ち上げる。

「ああ、『第三者によるボールへの干渉は禁止』というルールは破らないで下さいね」

 ……人質を盾にした最悪のゲーム。その全貌は未だ見えず。





 少し時間の離れた、とても遠い場所での事。

「シッ!」

 ばあちゃるはフェンシングのような手捌きでナイフを突きこむ。相手がクルリと身をひるがえす。ナイフが空を切り、行き場のない慣性がばあちゃるの足並みを乱す。
 反射的に硬化の魔術───ばあちゃるが唯一使える魔術───を右半身に巡らせる。直後、横凪ぎの衝撃。相手の裏拳。破城槌めいた重音。1mほど、ばあちゃるが地面を削り滑った。
 ナイフを逆手に持ち替え、刃を鋭く走ら──────

「行くぞ」

 置き気味の左フックで手を打たれた。衝撃が回転のモーメントとなって体を捩じる。相手の喉輪がばあちゃるを持ち上げ、近くの木に押し付ける。地面から足が離れ、出来る呼吸も最低限。苦し紛れにヒザをかち上げるが、片手で軽くつかまれた。
 膠着。沈黙。小声の潮騒が遠くから響く。

「…………」

「…………」

「いやー、素手相手なら一発くらいはと思ったんすけどね。ハイハイハイ……」

「そんなすぐ当てられては我の立つ瀬がないさ。これでも生前は長らく戦っていたのだからな……年季が違うとも」

 少し間を置き、ばあちゃるが負けを認めると”ヴォーパル”は手を離し、獣長耳を上機嫌に揺らした。
 地面にドカッと豪快に座り込み、ばあちゃるを隣に座らせる。人懐っこく目を見開きながら。

873 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:45:25 ID:ebWCA.T/ER
>>872
 ──────ばあちゃる(記憶喪失)、2CH(世界を旅する古代文明のアンドロイド)、ヴォーパル(ばあちゃると剣を交え、友人になった半獣の戦士)、金剛いろは(元気いっぱい)の四人はどうにか島へたどり着き、保存食の制作・貯蓄をしていた。
 保存食というものは作るのに時間が要る。そうして島で足止めを食らっている間、ばあちゃるはヴォーパルに鍛錬をしてもらっていた。
 彼が鍛錬を望んだ理由はシンプルで、実力不足を痛感したからだ。

「それに、なんだ。我が鍛錬をつけてまだ数日だが、中々に進歩していると思うぞ? 攻める時の思い切りが大分良くなった」

「大概の攻撃は硬化魔術で弾けるのだから、前のめり過ぎるくらいで丁度いい……ですよねハイ」

 正直、ばあちゃるは自身のことを『結構強いんじゃね?』と思っていた。なにせラフムという怪物に勝ったのだから。恐らく、2CHにも4割くらいの確率で勝てる。
 だが、海へ漕ぎだして……海竜に殺されかけた。ヴォーパルという戦士に助けられた。そして、金剛いろはという飄々とした女性。二人に手合わせを申し込んだが、まるで歯が立たなかった。

「もちろん、避けなければいけない攻撃もある。大事なのは、硬化魔術だけで対処できるか否かの見極め。要は立ち回りよ。お主は武の基礎が十分できている。見るに、シロ卿から学び取った物であろう。丁寧に理論立てられた、堅実で、無駄のない基礎。だが基礎の上に乗せるべき”応用”が足りておらん」

「その一つが立ち回りということっすね」

874 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:45:40 ID:ebWCA.T/ER
>>873
「ウム。これはシロ卿の手落ちというより、教える為のまとまった時間がなかったのであろう。付け焼刃の基礎はないよりあった方がマシだが、付け焼刃の応用はない方がマシだ。
 生前、『炎を斬れるようになった。これでブレスも怖くない』と言って火竜に挑んだ奴がいてなぁ。止める間もなくワッと走って行って、”爪”でバラバラにされておった。ウム……使い方だけではなく、使いどころも覚えねばという話だ」

「うわぁ」

 彼がその時感じたのは……『このままだと死ぬんじゃね?』という懸念だった。
 自分の思い上がりに対する不甲斐なさや、忘れてしまった”使命”を果たせないのではないかという焦りもある。だが、それより先にまず危機感があった。ばあちゃるは割と小市民的な性格なのだ。

 そういう経緯で今、ヴォーパルに訓練をつけて貰っている。なお、2CHや金剛いろはにも頼もうとしたが────

『肩を上方向へあと2.4度。あとそこの動作、平均反応速度から0.2秒ほど遅れています』

『……?』

 2CHは理論的すぎで、

『違うんだよなぁ。バーッと打つの! 馬Pのはダー!』

『…………ウビ?』

 いろはは感覚的すぎた。そんなこんなでヴォーパルに教えを受けている。

「……もっとも、今のばあちゃるなら高等技を覚えても問題あるまい。時間もあることだしな」

「おお! じゃああの、空走るやつとか覚えたいっす!」

「あー、我の空中走行は無理だな。申し訳ない。あれはな、執念深いドラゴンから三日三晩逃げ続けて、ひたすらヘルメス様に祈ったらたまさか頂けた力なのだ。祈っておいてアレだが、なんで貰えたかは正直分からん」

875 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:46:07 ID:ebWCA.T/ER
>>874

 ヴォーパルが気まずそうに長耳を伏せる。ばあちゃるが慌てて手を振る。

「いやいやいや! ばあちゃる君ね、ホント、テキトーに言ってみただけなんで! ハイ……それで何を教えてくれるんすか?」

「ウム。よくぞ聞いてくれた。我が教えるのはな、竜のウロコを貫く一撃────”竜鱗貫き”よ」

 おもむろに立ち上がり、ヴォーパルは海辺へばあちゃるを連れてゆく。そして、波打ち際の大岩に向かって槍を構えた。
 穂先も合わせれば長さ2mはある大槍。潮騒が、風が、虫が息を潜めた。ザリ、と。砂を足すり、体を深々と沈める。陸上のクラウチングスタートに似た姿勢。もっとも、手を床についてはいないが。
 呼吸や鼓動、集中力の波。それらが噛み合った瞬間。動いた。大地が揺れた。極端に強い踏み込み。

「────」

 大岩が穿たれた。一点に力を集中した穂先によって。大岩の先、寄せる波にすら穴が開く。

「これだ、これを覚えればお主は強くなる」

「おお……! 早速練習を────」

「飯取ってきたぞぉ! なんか面白いキノコ! 真っ赤でスゲー美味しそう! 2CHちゃんの作ってる鍋にこれ入れようぜ!」

 いろはの声が二人を振り向かせる。彼女の持つキノコは真っ赤で、白い斑点があり……ハッキリ言って、ものすごく毒キノコぽかった。

876 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:46:13 ID:ebWCA.T/ER
>>875

「なるほど。美味しそうですね」

「ちょいちょいちょい! それマジでヤバーシーですよ!」

 急いでばあちゃるが駆け寄り、いろはは聞く耳持たず鍋へ向かう。鍋番をしている2CHは平気な顔でキノコを入れようとしている。ヴォーパルは少しあっけに取られた表情を浮かべて、それからカラカラと笑った。

 ────なお、この後キノコの鍋入りを辛うじて阻止することに成功したが、「これは食える」と強固に主張したいろはがキノコを生で食い、半日ほど腹痛でのたうち回ることになるが、それはまた別のお話。

877 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/08 23:50:08 ID:ebWCA.T/ER
お久しぶりです。ここしばらくかなり頻度が落ちています……修士一年を抜ければ少しはマシになるのですが…………

それはそうとピノ様の新衣装メッチャすこ
ボンネットが大正辺りのお嬢様感ある

今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=fKF2HIjxtNA

878 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/24 12:29:41 ID:Q5zGd7P.9p
おっつおっつ、最近スレ開いて無くて反応遅れてもいた、童話な敵と戦う中、現実ではシロちゃんが童話モチーフな格好してコラボカフェをやるという。最近暑いですし体調お気をつけくだせぇ。

879 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/07/24 21:38:02 ID:yi6pKb7eLp
>>878
数年ぶりのコラボカフェマジで嬉しいです
ちなみに童話モチーフの刺客たちですが、実はそこ以外にも共通項があったりなかったり

880 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/08/31 11:37:26 ID:bh7OPsXRw0
おうワイや
スレ主ことワイがきたで(⌒▽⌒)
ほな今日もあんたァらの質問に答えたるわ
なんでもええで

881 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/13 16:14:23 ID:PEcuhN6yj8
( ‘j’ )あ!今日土曜日ど!

882 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/19 08:07:20 ID:zutXN7nxjU
うよんびき

883 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:31:57 ID:NrNXI2fbKl
>>876


「さて、と」

 人質を盾にして始まったゲートボール勝負。現在はトランプの騎士、マリンの勝負で、互いに一打ずつ終わったところ。次はマリンの手番──────では無い。”トランプの騎士”が”マリンのボール”を打つ番だ。

「ああそうだ、このゲーム……制限時間はナシです」

 新しいクラブを取り出し、マリンのボールを強く打ち、2番ゲートから反対側……かなり遠い場所に追いやった。サーヴァントの膂力をもってしても一回ではゲートには届かない距離。

 ──────ゲートボール固有のルール。『自身のボールを相手のボールに当てた場合、相手のボールを打つことができる』というモノ。『タッチ』と呼ばれている。

 これを初めて聞いた人間なら『互いにタッチを繰り返したらゲームが終わらないのでは?』と考えるかも知れない。それは半分正しい。
 まず大前提として、本来のゲートボールは5対5のチーム戦である。敵のボールにタッチして妨害するか、味方にタッチしてサポートへ回るか。そういった駆け引きの果てに、30分間で得た総得点を競うスポーツだ。

884 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:32:58 ID:NrNXI2fbKl
>>883

 つまり、狙った場所にボールを打てる人間同士がタイマンで勝負し、なおかつ時間制限がない場合──────クソゲーが生まれる。

「えらく飛ぶ球だね」

 マリンが打ち、騎士のボールにタッチ。先ほどまでマリンのボールがあった場所に、騎士のボールが着地。

「ご先祖様の体から作った球ですから。それはもう」

 騎士が打ち、マリンのボールにタッチ。ボール位置が入れ替わる。

「おお、うん……ちなみに高いの? これ」

 マリンが打つ。タッチ。ボールは元の位置。

「価値の分かる人にとっては……それと、気味悪いとか言わないんですね」

 騎士が打つ。タッチ。

「色んなとこ航海してるとね。髑髏の盃とか、骨の杖だとか……そういう系の奴は見慣れて来るよ」

 マリンが打つ。

「ううん……困りますね。皆がそうなると”居れなく”なってしまいます」

「どういう意味?」

885 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:33:18 ID:NrNXI2fbKl
>>884

 騎士がボールを打ち、手番が回ってマリンが次に打つ。「内緒です」また騎士がボールを打ち、手番の来たマリンが次に打つ。騎士が打ち、手番の来たマリンが打つ。騎士が打ち、マリンが打つ。
 ひたすらひたすら、繰り返す。



「……」

 互いに無言。それを見守るねこます、めめめもまた同様。トランスじみた精神状態でマリンは過去を想起する。

 ──────彼女の記憶は酷く混濁していた。山奥で一人貧乏に暮らし、いつか自分の船を手に入れようと望んでいた記憶。多くの船員を従え、七つの海を渡り歩く大海賊としての記憶。両者の記憶が同時にある。
 自身の生涯と、周囲からの信仰(イメージ)で成り立つサーヴァント特有の症状だ。一般的には『無辜の怪物』というスキルとして発現する。ヴラド・ツェペシュなどが代表的な例であろう。彼もまた君主と怪物という相容れない二面性を抱え込んでいる。
 マリンの場合……山奥に居たというのが本質(本来の設定)、海賊としての側面は信仰による後付けだ。

「…………」

 機械的な動作でマリンが打つ。続いてトランプの騎士。お互い常識外れに力強い打球であるが、ボールにカケ・ワレの気配はない。ボールを打つ棒の予備は無数にある。現状、この膠着を崩す要素はない。
 マリンがミスするのを待ち、騎士は雑に打ち続けるだけでいい、この不公平な膠着を。

886 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:34:01 ID:NrNXI2fbKl
>>885
 ──────彼女が特異なのは『海賊部分のウェイトが重い』という点だ。特に今回はライダー……船乗りとしての側面が強くでているため、それが顕著となる。
 それ故の混濁であり、彼女が”膠着を作れている”理由でもある。
 『多重記憶』────複数の人生、どちらも本物で、偽物。多くの”余白”をもったつじつま合わせの記憶。マリンは”余白”に経験を書き込むことで任意の技能に熟達することが出来るのだ。
 疑似的な皇帝特権とも言えるスキル。一つ欠点を挙げるとすれば…………『記憶を書きこみ終えるのに時間がかかること』であろう。


「っ!?」


 マリンのボールが地面スレスレを飛び、騎士のボールの上を擦り、次の目的地───2番ゲート───からやや離れた丘の上に着地。傾斜に従って落ちつつも絶妙なスピンによって軌道を変え、ゲートを通過した!

「おおっ!」

「はえっ!?」

 ねこますが拳を握りガッツポーズ。めめめは口の右側を開け、瞳孔を細めて驚愕を示す。

「いきなり?」「変だ!」「皆のヒーロー? 違う。誰かのヒーロー」

 口のついた花々が騒ぎ、女王がクビを90度横に傾ける。怪訝そうに、生気の枯れた眼球を回しながら。

「……妙ですね。ズルでもしましたか?」

「アタシみたいな”海賊”に道理とか説いちゃう? 不毛じゃない?」

 マリンは騎士のボールに足を乗せ、セル画めいた太陽に向かって銃を──────いつもの方へボールを打つ。

887 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:34:39 ID:NrNXI2fbKl
>>886
 不確かな己はしかし”海賊”である。如何に昔の記憶が不確かであろうと、広い海に身一つで放り出され、自らの手で海賊団を結成し、多くの冒険に身を投じてきた経験は揺るぎない。
 無論、やりすぎれば発狂する可能性もある。記憶をいじるという事はそういう事だ。それすら込みでマリンは使用を恐れていない。海賊にとってハイリスクは”日常”と同義語である。

「切り捨てるような論調は嫌いですね。『埋めれば見えず、埋めども消えず』。切り捨てたものは堆積し続けます」

「話が逸れてますから、それくらいで。それとズルはお互い様ですよ。女王様」

 ハートのケインを地面について微かに苛立つ女王。騎士が諫め、スティックを振る。強い力を込め、マリンのボールの軌跡を再現。
 そして、彼のボールは丘の──────頂上”手前”に着地し、坂を転げ戻る。

 怪訝そうに鎧を鳴らす騎士。飛び出さんばかりに目を見開き、異様に白い歯をむき出すハートの女王。
 傍から見ていたねこますは腕を組み、深い首肯を一度だけした。

「お互い様なら、上手くズルをした方が勝つ。世知辛いけど事実じゃよね」

「どういうこと?」

「マリンさんは『ボールを軽くした』のじゃよね。ほら……マリンさんって銃弾にエンチャント? をして、モノを消費できるから、えっと…………とにかく『相手のボールを軽くして飛距離を出せなくした』。それがわらわの予想なのじゃ」

888 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:35:43 ID:NrNXI2fbKl
>>887
「分かるような、分からないような」めめめは唇の上を指先でさする。

 ────ねこますの話は的を得ている。特にモノを消費”できる”という点が。
 宝鐘マリンの宝具。名称は『色づいた声(カラードチャット)』。効果は『価値ある物を捧げて強力な弾丸に変換する』。ランスロットの『騎士は徒手にて死せず』にかなり近い特殊型。

「ソレさ、”軌道”を弄れるだけで、”飛距離”は打球に与えた運動量依存でしょ? 何度も見たから分かるよ」マリンが呟く。

「アハハ、そりゃバレますか。だから、球を軽くしたんですよね。どうやったのか教えてくれますか?」騎士が子供っぽく肩を竦める。

「教える義理はないけど……いっか。さっき銃を撃ったでしょ? その時に宝具……アタシの不思議パワーでボールの中身を銃弾に変換して、くり抜いたって訳」

 彼女の宝具で捧げる条件は“自身が触れている”こと。自身の所持品である必要はない。
 触れた宝物を力に変え、削る。”青”から”赤”まで数段階……弾丸の強度によって削る量はもちろん、削り方も調整可能。価値あるモノに触れ、使い潰す。彼女の宝具の本質は───────『略奪と消費』。多重記憶とは違い、ストレートに海賊らしい力である。

「なるほど、一本取られました。それでタネを明かしたという事は……そういうことですよね」騎士はカジュアルに頭を下げ、ヘルムの格子の奥から視線を送る。

「うん。今のでアタシの手番での価値がほぼ確定したからね。奥の手があるなら、長期戦にもつれ込んだ時点で使うだろうし」

「そうですね。このまま続けても結果は見えてますし、降参しましょう。ところで………………」

 ふと、騎士が黙り込む。電池が切れたかのように。10秒、20秒経っても沈黙したまま。マリンが口を開こうとした瞬間、ダレカの声が足元から響く。

889 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:36:03 ID:NrNXI2fbKl
>>888

「本当に怖くないのか?」

 声のした方に目を向けると、そこには大きな目玉があった。セル画めいた重い色彩に支配されたこの場所で、ソレは真っ赤な虹彩を生々しく光らせていた。ギョロギョロと一人でにソレは動く。皮膚が総毛だつ。
 何故か理解できた。”ソレ”はさっきまで打っていたボールであると。
 思わず目をつむり、目を開けるとタダのボールに戻っていた。否、何の変哲もなく”見える”ようになっただけで、実際はあの眼球のままかも知れない。

「……」

「ちなみにソレ、少ししたら自己修復するので。では女王様。次、お願いします」

 絶句するマリンを他所に、騎士は離れた地べたに座る。汗をかいていたのか、少しばかりヘルムをズラし外気を取り込む。隙間からわずかに現れる顔。よくよく見ると左目がなかった。





「うむ……」

 ヴォーパル──何やかんやあってばあちゃる達に同行している半獣の戦士──は一人、悩んでいた。薄暗い密林。船旅で立ち寄った島の奥地だ。

 ばあちゃるに戦い方を教えてはや一か月。ボチボチ目に見えて成果がでてくる……そういう時期。だが、ばあちゃるは違う。二週間くらいの時点で成果が出始めていた。
 それ自体は喜ばしい。実に喜ばしいのだが……

「追いつかれてきておるな。想定より早く」

890 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:36:26 ID:NrNXI2fbKl
>>889
 彼女は手を上に伸ばし、何度か指を動かす。神経に伝わる微かな痺れ。ばあちゃるとの模擬戦にて、自身の伝授した技「龍鱗貫き」をガードした際のモノ。未だ不完全ではある。だが、己がその段階に行くまでかかった時間を思うと……苦笑は禁じ得ない。

 ばあちゃるに才能があると分かっていた。恵まれた体格、そして胆力。こればっかりは努力じゃどうにもならない。だが技術面はというと、彼女の見立てでは”そこそこ”程度。

 ”天才”と呼ばれる人間は……”体系化”とでも言えば良いのだろうか。学んだことを自分なりの理屈で解釈し、意義を明確化し、発展させる。そういった作業が上手い。
 逆にばあちゃるは愚直。教わった事をひたすら練習するタイプ。それ自体決して無意味ではない。ないが、どうしても成長スピードで劣る。
 だが実際は異様に成長が早い。そしてこの現象自体、ヴォーパルにとって初めてではない。

「……そういう事、なのだろうな」

 樹冠の隙間から日矢が刺す。矢は彼女の目を焼いて、すぐに消えていった。木々のざわめきに飲み込まれた。
 ヴォーパルは眉を潜め、視線を落とす。それはただ眩しかったからではない。


 ────ギリシャ神話のただ中を生きたヴォーパルは、類まれな英雄を多くみてきた。名のある戦士として。叙事詩のたった数行に表れ、英雄の活躍を彩る脇役として。

 英雄が好きだ。暗がりに差し込む日差しのように、眩しく、熱がある。
 英雄の運命が嫌いだ。ほとんどが非業の死をとげる。己はいつも取り残される。ヘラクレスの死は未だに忘れられない。
 何度この腕で、泣き崩れる遺族を抱きしめた? 遺体すらない葬儀の虚しさに、若くして死んだ者の痛ましさに、一体いつ慣れた?

「思い出せんな……もはや」

891 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 22:37:16 ID:NrNXI2fbKl
>>890
 彼女には分かる。ばあちゃるにも英雄の運命があると。あの成長は……英雄に特有のモノだ。それも矢面に立って戦う部類の。
 きっと多くの試練が待っている。今までよりずっと厳しく、辛い試練が。

 ────遠くから、大きな猪がやって来る。ヒグマ並の体重がありそうな大猪。鋭い牙を構え、風を切りやって来る。
 ヴォーパルは槍を真正面に構え、身を翻して突く。猪はスルリとそれを避け────それを予期していた彼女の回し蹴りに側頭部を打たれ、沈んだ。

「……よし。ばあちゃる達に持っていくか! きっと喜ぶぞ!」

 頬を叩き、ヴォーパルは声を明るくして猪の解体に取りかかる。

「そういえば、海の方から客人が2人ほど来そうだと、2CHが言っておったな」

 せめて、この平穏が少しでも長く続きますように。彼が十分な強さを得るまでの時間を下さい。
 彼女は声に出さず祈る。

892 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/09/25 23:09:23 ID:NrNXI2fbKl
文化祭メチャ良かった……! 次のイベントあるのも嬉しみ
次は二期生三期生たちも3D体を得て参加すると予想

ちょっとした裏設定

ヴォーパル
豪快な性格だが根は慎重派
自分より強い人間が死ぬところを何度も見てきているため

ハートの女王
神経質で配下の花に対しても厳しいが、実は花にそれぞれ名前を付けて脳内で区別しており、個体ごとに若干待遇の差があったりする

トランプの騎士
普段から鎧をつけっぱなしにしている。脱いで放置すると花にいたずらをされるため

893 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/10/12 12:53:16 ID:huOI/A7Dwl
おっつおっつ、特有の頭脳戦みたいなの見ると熱くなれますわ。イベントおおすぎぃ!財布イタイイタイ

894 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/10/12 23:24:52 ID:G6lmv3VWEn
>>893
頭脳戦は大変な分書く楽しさもひとしおです!
きゃんちゃんの3Dすこ

895 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/10/25 06:49:14 ID:adpuRFim9q
( ‘j’ )あ!今日土曜日ど!

896 名前:桃色倶楽部|店長靜香[age] 投稿日:2025/12/17 23:48:36 ID:BGbNsecWp1
"「仕事に影&#21709;しない関系が欲しい」
「&#35841;にも言えない趣味を叶えたい」

&#8212;&#8212;そんな男性のために。
体だけ、生活には入らない。
完全匿名・完全&#29616;金制。

Googleで『静香秘密の楽園』を検索"

897 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:34:54 ID:TEsGVJK.IQ
>>891
「次はわらわと女王さん……だけどその前に、約束通り人質の三分の一、ちゃんと開放して欲しいのじゃ」

『負けた』『負けちゃった!』『そういう日もあるよね』『今日の敗北は明日の前進である!』『まぁ騎士は割と負けるよね』花々がはやし立てる。

「もちろんです。『約束は金より重し』ですから。では、一番左から」

 ボソボソと自作の格言を呟き、ハートの女王は自身の杖を振るう。三つある茨のオリが一つほどけ、地面に降ろされた。中から出て来たのは……配下の船員ら。多少疲れた様子はあるが、それだけだ。少なくとも外傷などは一切ない。

「マリン大船長! おれマジで信じてました!」「ウソつけぇ」「あと五分……眠い」「敵、敵だよな!? 殺していいんすか!?」

「アハハ! 全くしょうがない……ねこますさん。次を頼むよ」

「すんません。今どういう状況ですか? 大船長」「zzz」「…………殺しちゃダメそうだな」

「あとで説明してやるから! ほら、こっちきな!」

「おおっ!」めめめがパッと表情を明るくする。

 海賊帽のツバを下ろし、思わず口元を緩ませるマリン。まだ終わってはいない。あの女王がゲームに勝ち、秘宝───ねこますの双剣───を手に入れれば酷いことになる。
 アレはドストレートな暴君だ。『やりたい』が何よりも優先されるタイプ。何を望んでいるかはついぞ聞き出せなかったが、ロクな内容ではなかろう。仮に何かしらの善意であったとしても。だが……だがそれでも、船員らが戻ってきたのは嬉しい。

898 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:35:16 ID:TEsGVJK.IQ
>>897
 不安定で不確かな己が、確かに築き上げた繋がり。船乗りの北極星めいて、大切なことだ。

 船員らを脇に引っ張りつつマリンは──────眉をひそめ、ねこますにささやく。

「……このままだと”詰む”よね?」

「わっ、わざわざ人質を取ってゲームを持ちかける、ということは『約束を守らせる手段がある』のじゃ。互いの承諾を得て、決まったゲームを始め、約束は守られる。えっと、グリム童話のルンペルシュティルツヒェン(小鬼の名前当て)とか、スフィンクスの謎かけとか……色んな伝承で見かける話じゃよね。
 力のある存在ほど、自分の言葉も強くなる。だから大体の怪物は約束を守るし、悪魔はウソをつけない。そういう面では童話も結構リアルなのじゃ」

「ただリアルだと大抵、ゲームを用意した側に必勝の手があるんだよね。ラークの奴によくやられたよ。全部アタシが勝ったけど」

「トランプの騎士の力は無法だったけど……こ、こっちもソレは大概で、相手はそこら辺も知ってるハズじゃよね。ある意味でフェア? なのじゃ。
 相手は秘宝が欲しくて、人質を取ってるんだから……まずは要望を上からふっかけて、人質の価値を測るのが普通。そ、それをしないのは多分、相手はゲームに勝つ前提で────」

「どしたの? マリンさんの船員が解放されたんだしさ、もっと喜ぼうよぉ!?」

 長話に気づいためめめが声をかける。ねこますは狐耳を跳ね上げ、手をワタワタと振った。

「あっ、あ、いや……なんでもないのじゃぁ」

「……そっか、頑張ってね!」

 めめめはそれだけ言って、やや気まずそうな表情を浮かべた。


899 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:35:49 ID:TEsGVJK.IQ
>>898
 少し間を置き、ねこます対ハートの女王のゲームが始まる。
 運次第ではリーチがかかっているのにも関わらず、女王は平然とし、ねこますは険しい表情。
 先攻はねこます。

「……ちなみに、わらわがゲートボールで使うクラブは自由じゃよね? ルールで指定されていないし」

「棒状なら何でもどうぞ。ちゃんとクラブとして使う…………そうですね、”クラブ以外のモノを使うときは、必ずボールを飛ばす”としましょうか。でないと、”空振り”という名目で相手に直接攻撃出来てしまいますから。
 空振りした場合は失格、では『喧嘩に鉄砲』ですね。順番を飛ばす、くらいが妥当でしょう………………それと、秘宝の使用もご自由に」

「ば、ばれてるのじゃ」

 口角を上げる女王。本人としては笑ったつもりだろう。だが、酷くやせた容貌のせいか、内心が漏れ出たためか。とてもそうは見えなかった。
 ねこますは気弱そうに頬を引きつらせ、それから自身の秘宝……その片割れを握り、振り上げ、打つ。
 ボールは一番目のゲートに向かって飛び────否、飛ばなかった。

「へ?」

「あー、今度は”逆”かぁ」

 マリンが渋い顔でつぶやく。彼女の視線が向く前に、ねこますの打ったボール。ソレは虚空から出現し、地面に落ちたギロチンの刃────くすんだ赤でバラがペイントされている────に進路を遮られ、わずかな距離しか進んでいなかった。

 女王の方と言えば、涼しい顔で先端にハートの飾りがついた錫杖を握り、確かめるように何度か杖を振るっていた。

900 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:36:26 ID:TEsGVJK.IQ
>>899
「危ないなぁ、ボールを切らないでくださいよ女王様。すぐに治るとはいえ」

「はいはい、分かってます」

 ボールの軌道を自由自在に操るトランプの騎士。対して女王は『ギロチンの生成』による妨害。厄介さでは女王が遥かに高い。

 とはいえ僅かな距離でも少しづつは進める……わけではない。

「では次、また最初から」

 一打で最初のゲートに潜れなかった場合のみ、最初からやり直し。そういうルールがゲートボールにはある。
 腕前さえあれば千日手に持ち込める騎士と違い……相手の介入する余地を徹底的に削いでいる。勝ち負け以前にゲームとして成立していない。クソゲーとすら言えない。ただの儀式だ。決まった勝利を得るための。

「では、私の番ですね」

 続いて女王がボールを打つ。
 さして上手くもなく、下手でもないその腕前は……最初のゲートを辛うじて通過。

「…………」

 ねこますは軽く肩を竦め、秘宝の一本を両手で持つ。両手を棒の中央に寄せ、円を描くように振る。360度。最初の半回転で地面を抉り取り、二打目で地面ごとボールを放り投げる。豪快に。

901 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:36:50 ID:TEsGVJK.IQ
>>900
 飛んだボールは土煙に隠れ、上から落ちるギロチンをすり抜け、ゲートを通過。それに留まらず、土くれが女王のボール周辺に堆積し、疑似的なダートを生成した。
 マリンほど上手くはないが……サーヴァントの身体能力と動作精度でゴリ押せば、概ね狙った場所に物を飛ばすくらいはできる。ねこますは気弱そうな、それでいて挑発的な笑みを浮かべる。

「一回は一回。ル、ルールには違反してないのじゃぁ。ただ、うん、普通のゲートボールでやったら絶対に退場じゃけどね」

「別に、わざわざ言わなくても大丈夫ですよ」

 女王の手番。ボールを打つ。ねこますの妨害もあり、ボールはフィールドのくぼんだ場所に着地した。傾斜がそこそこキツく、中からの見通しは良くない。女王視点でかなり嫌なところに入った。ねこますに一本取られた形だ。

 だが女王は何も言わず、しかめっ面でハートの錫杖を振るう。直後、ギロチンが空中から斜めに降下し、刃の側面が球をくぼみから追い出した。

「一回です」

「か、完全に止まってから動かすのもアリなのじゃ? こっちは民の身柄がかかってるから……ちょっと、そういうルールは明確にして欲しいのじゃあ。
 ハートの女王。わらわと同じ統治者として……その言葉がとても重いことは分かって欲しいのじゃ。かっ、仮に名ばかりの女王だとしても……ここを支配する、暴君ではあるのじゃよね?」

 そういって、ねこますは呆れたように鼻を鳴らす。瞳の奥に探りの意図を宿しつつ。チープな挑発、ほぼ難癖。意図を看破されるのは前提。人質を全て取り戻すまで……本気で怒らせるのは避けたい。

 情報を一つでも引きだせれば御の字。チープな挑発でも少しは言い返したくなるのが人情。言葉が増えれば自然と情報も────

902 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:37:24 ID:TEsGVJK.IQ
>>901
「なるほど。暴君ですか。なるほど、なるほど。私は暴君であると、名ばかりであると。そう決めつけているんですね。出会って一日も経たぬのに。真っ当に生まれて、真っ当に生きた分際で。傲慢ですね。とても、とても」

 べキ、と女王の口から音が聞こえる。口元から零れる赤黒い血。強く&#22169;みしめ過ぎて、奥歯が割れたのであろう。元より青ざめていた顔はより青く、暗く。死人……それも時間が経って、腐敗の始まった死人のような顔色。

 珍しく、トランプの騎士が焦りの感情を見せた。兜の奥に浮かぶ眼光が大きく揺れる。何秒か間をおいて、騎士は努めて穏やかな声をだした。

「女王様、少し落ち着いてください。それ以上は”ダメ”です。女王でいられなくなりますよ」

「なぜ、あなたは落ち着いているのですか? 同じ根っこでしょう? 同じ理由でここに居るのでしょう? 確かに私は暴君かも知れません。当てずっぽうの正誤など知ったことではありません。”あり方”を他人に決めつけられるのは………………不愉快です。とても、とても」

 セル画めいた重い色彩の空が夕暮れ、辺りが冷え込む。嫌な湿気と土の匂い。骨の髄まで沁みるような冷気。城はハリボテめいて立体感を失う。

「ヒィッ!」

「陸で死ぬのは嫌だなぁ」「イバラ使われたら……どうにもなんねぇ」「死ぬ時が来たかもなぁ」「覚悟する時間はある」「して何か変わるのか?」「気持ち」

 明らかに女王の地雷を踏んだ。それも相当デカいのを。完全に自分の世界に入り込んでいる。
 ねこますもマリンも、額に汗を浮かべて口を閉じた。顔面を蒼白にして震える めめめ を手でなだめながら。何が相手を刺激するのか最早分からない。
 対して、船員らは苦笑いを浮かべている。なにか、大事な物のマヒした笑みだ。

903 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:37:54 ID:TEsGVJK.IQ
>>902
 口のついた花々がクスクスと笑いだす。

『言われた』『土の上に置かれた、あの花が欲しい!』『言われちゃった』『お水もっとちょーだい?』『一人の領地。一人の女王。一人の騎士様。仲間が数人。僕らは何人?』

「お黙ンなさい!! ……とにかく、不愉快なのですよ。私”たち”のあり方を決めつけられるのは。表面だけみて、何かされるのは。”普通”という特権を無自覚に、無責任に振りかざされるのは…………まぁ、それだけです」

 茶々を入れられ怒りの矛先を見失い、女王は落ち着きを取り戻す。
 それに伴って、周囲の光景が元に戻る。ヒュー、ヒューと喘息めいた深呼吸。女王は少し間をおいて、それからねこますの目を覗き込んだ。

「しかし、こちらの言葉足らずでもありましたね。目的を隠せば、邪推をする不届き者が出るのも道理。『恐れは暗がりから生まれる』です。秘宝を求める理由……何がしたいのか…………教えましょう」

「言っちゃうんですか、女王様?」騎士が口を挟む。

「知れば、止めようとする者はいるでしょう。私の願望はすでに、かつての主と決別しています。しかし、決めつけられるよりはマシです…………さて」

 沈黙を挟み、女王は相手方の反応をうかがう。
 ねこますとマリンは困惑と、冷静な期待のこもった目。もう1人はまだ顔が真っ青。船員らは……表情を見るに、話をほぼ理解していない。やや腹立たしい。
 ────”自分ら”の生前も大体はあのような感じであった。同族嫌悪なのだろうか。

「さして遠くもない場所に、”生きた大地”にある種族がいました。2足で歩く、人に似た、しかし明確な違いをもつ種族です。名前は『エーハブ』」

「生きた大地ってのは、なんなのじゃ?」

904 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:38:22 ID:TEsGVJK.IQ
>>903

「大地のように大きい生き物です。それこそ大陸ほどに。そこには多くの生命が住んでいて、しかし”生きた大地”には寿命が迫っていました。『生きた大地』が死ねば、エーハブらも生きてはゆけない」

「……移住させちゃダメなの? 人助けなら、アタシの船を貸すけど」マリンが目を細める。

「エーハブは、魂の溶液…………”生きた大地”でのみ取れる液体を飲まなければ、死んでしまいます。自分等で作れるような物でもありません」

『かわいそー』『でもシゼンのセツリだよね』『生きるって大変』『僕らが言えた話じゃないけどね』

「……」

 ハートの杖で地面を突き、花を黙らせる女王。

「『生きた大地』から分泌される液体からしか摂取できない栄養があって、それが足りなくなると死んじゃう……って認識で良いのじゃ?」

「大きく間違ってはいません。実際はもう少し、神秘的なものですが。
 ……それはさておき、滅びを待つだけの今に異を唱えたのがかつての主、オレィです。
 主は『魂の溶液』がなくとも生きていけるよう、エーハブら一人一人に神秘的な手術を施す……という救済を唱えました。
 そして、主は「手術の準備には寿命が迫りすぎている。わずかでも大地の延命が要る」ともいった。私は憑依幻霊(幻霊に他の概念を重ねたモノ)で、そのために呼び出されました。しかし延命の方法が…………我慢できなかった」

「なにが許容出来なかったの?」

「忘却」

 たった一言を、鋭く強く吐き出す。乾いた額にシワを寄せて。

「”他の世界に迫る忘却”、その手助け。世界を切り分け、歴史を無かったことにせんとする『■■■■■■』と契約を結び、主は延命の手段を手に入れました。それ以外なかった……というのは違いますね。”それ以外の手段をアレが潰した”というのが正しいでしょう」

905 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:39:05 ID:TEsGVJK.IQ
>>904
 それはさておき、人間の過去に穴を空け、人間の記憶を漂白し、人間の空白に都合のいい内容を再定義する。アレのしたいことは要するにそれです。死にはしません、大した苦しみもないでしょう。アレも家畜をわざわざ苦しめるほど阿呆では…………多分、ないです」

『忘れられたら、もう居られない』『鶏ってかわいいよね、モフモフ!』『触ったことないけどね』『それ言ったらお終いじゃん……』

「生きられない無念は分かります。己らの種族が生き延びるために……他の世界の尊厳を犠牲にする。多分、正しいのだとは思います。二つを天秤にかけて、軽い方を切り捨てるのは。はなはだ気に食わないですが。
 しかし忘却を『軽いもの』としてみること自体が──────相容れない。
 有り様を忘れられれば、そこにあるのは人型の空白です。しかし人は”空白”を”空白”のままにしておけない。『きっとこうであったのだろう』と決めつけて扱われ、違う名を押し付けられもする。
 ……それは、死ぬより悲惨です。■■■■■■の玩具に成り下がることを考えれば、なおさら」

『本人は気にしてなかったりするけどねー』『ヒサンとか良くわかんない!』『アリスは行く。ウサギを追って土の下、不思議の国へ』『僕らは行った! 筆に乗って土の上、不思議とそれ以外の国!』

 女王は言葉を区切り、話が終わったような空気を出した。ねこますとマリン、そしてめめめは視線を合わせ、互いに懸念を示す。
 ────主とやらと決別した理由は分かった。本人なりの考えも。だが今、なぜ秘宝を集めているのか、何をしたいのか、それがまるで分からない。

「えっとその……女王サマ? めめめから一個質問なんですけど、目的はなん……ですかね?」

906 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:39:32 ID:TEsGVJK.IQ
>>905
「肝心なことを忘れていましたね……端的に言うなら、皆の幸せが目的です」


 ふっと表情を緩め、女王は子供っぽく手を口元に当てる。


「エーハブらの肉体から精神を切り離して、私の領地……ここに移住してもらうということです。つまり、幽霊として。そうすれば■■■■■■の契約を白紙にして、エーハブらも忘却から逃れ、永遠に在り続けることができます。
 あなた方の、万物を切り裂く秘宝が欲しいのは、そのためです。魂程ではありませんが……魂に付随する精神も、簡単に干渉できるものではないですから」

「は? いっ、いや……に、肉体から精神を抜き取るって、殺すってこと……ではないんじゃよね?」

「真に辛いのは死ではなく、誰にも知られず死んで、忘れられることです。いやでも、■■■■■■の目から逃れる必要があるので…………領地の外には出れなくなりますね。不便を強いてしまいます。しかし、『正しきものに銀貨は降る』です。いつかきっと解決できます」

「……精神に魂? ってのはついてこないんだよね。魂がないなら、それって記憶とか言動が同じだけのニセモノというか、ただの痕跡じゃないの? 詳しくないけどさ」マリンが額に大粒の汗を浮かべる。

「そうですよ。そもそも魂が残っているなら……死んだとは言い難いですからね。残念ですが、魂まで切り離すのは無理です。魔法でもなければ流石にどうにもなりません」

 その声に悪意はなく、むしろ純粋な善意が満ちていた。おぞましいほどに。

907 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/27 23:56:03 ID:TEsGVJK.IQ
超絶お久しぶりです。後輩の研究指導、あと学会の資料作成と実験に追われていました
とりあえず後輩が卒論出す目途が立ったので一安心です……年末は休みナシになりそうですが

細々とした裏設定
ハートの女王の"領地"について

移動可能な固有結界 規模はディズニーランドくらいで結構小さめ
固有結界と言いつつ、厳密には既にあった異空間をそれっぽくリフォームしたモノ
イベントに出てくる極小特異点に近いが、規模が小さい分及ぼせる影響力が強い

今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=erNuvARUji0

908 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/30 15:25:22 ID:FToHC04ZNm
おっつおっつ、お疲れ様やで、お身体にお気をつけてね

909 名前:名無しさん[age] 投稿日:2025/12/30 23:21:04 ID:ADx7s0RY7F
体壊さない程度に頑張ります!

910 名前:名無しさん[age] 投稿日:2026/01/01 21:58:36 ID:dL1jGIabps
やあボクだよ
スレッドマスターことボクがきたよ( ^∀^)
じゃあ今日も君たちのクエスチョンに答えちゃおうかな
なんでもいいよ

911 名前:桃色倶楽部|店長靜香[age] 投稿日:2026/01/04 17:29:33 ID:ZZoDO.RHDE
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