>>723
スーツってガタイが良い程映えますよね
箱イベはきっと配信があるのでそっちで楽しみましょう!
>>720
歩き始めてから数十分。シロとプアナム、それとラークの三人は大樹の近くにまでたどり着いていた。直径3m程もある木の根が無数に隆起し、絡み合い、立体的な地形をなしている。
「……」
この数十分間、会話らしい会話はなし。普段のシロであれば空気を読んで程々に場を盛り上げる所だが……いかんせん今は余裕がない。そしてプアナムは寡黙な人間であり、ラークは顎に手を当ててなにやら考え事をしており、誰かと話すつもりは無さそうだ。
よってこの気まずい沈黙は保たれ、この先も続くかに思われていたがしかし、プアナムがそれを破った。顔についた殻と皮膚の境をやや気まずそうに掻きながら。
『そういエば……御客人の名前を直接伺っテおりまセんでしたネ。一応、そこのラーク様より一通りの事情は伺っておリますが』
「……ん、ああ、えっと……」
唐突に声をかけられたのと、精神状態の悪さ故に口ごもるシロ。
「おいおいプアナムさん。様付けは勘弁してって前に言いましたぜ。俺ぁこれでも名うての海賊……それが様付けで呼ばれちゃ形無しってもんでさぁ」
そこへラークがスルリと会話に割り込んだ。彼の気安い態度からは自称するほどの海賊らしさはない。
そのまま自身の”らしさ”を誇示するように海賊帽を指先でクルクルと回して放り投げ……そして取り損ねた。一連の動作を見たプアナムが小さく吹き出し、ラークはゆっくりと帽子を拾い上げ、誤魔化すように肩をすくめる。
>>725
「まあ、今回は失敗しましたがね、これでも俺は名うての海賊なんですって……ああそうだ。白髪の姉御、プアナムさんに名前を教えてやって下せえよ」
「……そうだね。私の名前はシロ、よろしくね」
シロは軽やかに頭を下げ、自身の頭頂部に生えたアホ毛を揺らす。
周囲の気安い空気が彼女に精神的余裕を取り戻させ、ある程度いつもの様に振る舞う事を可能とさせていた。
「話は変わるんだけどさ、馬みたいな頭部をした人を見かけた事ってある? シロの……まあ、大切な人でさ、でも今は逸れちゃっててさ」
『馬の頭? 頭部が馬に変形した人というのは聞いたことが御座いまセんネ。基本的に人が変異する時は黒い怪物になりますのデ』
「ああいや、本当に頭部が馬そのものって訳じゃなくてね、馬のマスクを被ってるの」
シロは幼げな顔に苦笑いを浮かべ、手をパタパタと振る。
────話しながら歩く三人。彼らの行く先に薄っすらとした光が見え始める。光の色は穏やかな薄青。
『そういう事デすか。しかし、馬のマスクというのも聞いた事が御座いまセん……申し訳ございまセん、シロ様』
「謝らなくて良いよ、ダメ元で聞いただけだし。それと、シロも様付けはしないで欲しいな。助けて貰ったシロ達の方が本来そっちに敬意を払うべ────」
『そレだけはあり得まセん』
>>726
プアナムは唐突に足を止め、酷く疲弊した悔恨の表情をシロへ向けた。それはどこか祈りめいていた。
────薄青の光が不規則に揺れ動く。
深く息を吸い込み、彼女はまた歩き始めた。
『私達はかつて大きな過ちを犯しました。そレにより、完成しテいた”楽園”へ続く船は押し流され、同胞たる石と砂漠の民は……楽園へゆく機会を永久に失いました。故に私達は罪人デす』
「ど、どういう事?」
『……そうデすね。少し長い話になりますが、よろしいデすか?』
シロは小さく頷く。
『今は昔。かつての故郷、ウルクが荒ぶる神に滅ぼされた少し後の話。ウルクの民は二つの島に分かれていました。二つの島は距離こそ近いものの、環境は大きく異なっておりました。怪物がはびこる森の島、不毛の砂漠の島、どちらも違った地獄。ただ幸運なことに森の民である祖先は今よりずっと強く、砂漠にはまだ大地の恵みが多少残っていました。故に祖先は怪物に抗することができ、砂漠の民もなんとか生きてゆく事ができたのです』
滔々と流れる語り口。それまでの言葉にあったぎこちなさは立ち消え、彼女がこれを何度もそらんじてきたであろう事が伺える。
>>727
『しかしそれらの幸運は、いずれ無くなる事が目に見えていました。祖先の血は少しずつ衰えてゆき、砂漠の恵みも同様に枯れてゆき……ジワジワと迫りくる衰退と破滅に、祖先たちはどうすることも出来ませんでした────そんなある日、遠くの海から二隻の船がやってきたのです。一隻はこの島へ、もう一隻は砂漠の方へ』
プアナムは寝れない子供をあやしつけるように単調な抑揚をつけて語る……実際、彼女はこれを子守唄代わりに聞かされてきたのかもしれない。何度も、何度も、夜が来る度に。
────話を聞きつつシロ達の足は前へと進む。遠くに見えていた光が僅かに強まる。
『祖先の方に流れ着いた船は怪物たちによって破壊されていましたが……幸いなことにその乗員と通信を行う装置だけは生きておりました。そこから砂漠に流れ着いた船と連絡を取ることが出来……それを通じて砂漠の民とも連絡を取ることが出来たのです。
祖先は流れ着いた男から様々な話を聞きました。途方もなく発展した都市からやってきたこと。その都市には不治の病が蔓延していること。男もまた病に犯されていること……しかし不思議なことに、祖先が霊薬を使うとその病はあっけなく治りました』
────光がさらに強くなる。
>>728
『男は勇み喜び故郷へ帰ろうとしましたが……肝心の船が壊れてしまっており、直せるような状態でもありません。とはいえ、手が無いわけでは有りませんでした。砂漠の方に流れ着いた船はまだ直せる程度だったのです。
砂漠の民との話もつつがなく進み、砂漠主導で船の修理を進めようという話になった時……男は言いました「厚かましい願いになるが、あなた達も一緒にきて欲しい。仮に故郷の病を治したとしても、もう住民はほとんど死んでいるだろう。万が一……一人で生きていくことになったらと考えるとゾッとする」と。実際のところ、それが地獄めいた環境に住む祖先を慮っての言葉なのは明確でした』
────光はこれ以上ない程に強くなり、巨大な木のウロが見えてきた。
『砂漠の民も共にいく意向を示し、そして男の故郷……”楽園”へ行くための大事業が始まりました。砂漠の民は船に載せられていた機械により岩の体を手に入れ……その体でもってある者は船を治し、ある者はその為に必要な資材を収集していました。そして私の祖先はかつてウルクを滅ぼした荒ぶる神の成れの果て…………創造龍を島に閉じ込める為の儀式を始めていたのです。
かの龍は周囲を改変しておぞましい生命を生みだす怪物。この島から外に出さぬよう、定期的に結界が張られておりました。その結界を永遠の物とするための儀式を行っておりました。改変を受け付けないようにした迷いの霧で島を包み込み、永久に閉じ込めようとしたのです』
────ウロにたどり着くまで後少し。
>>729
『長い長い準備を経て船の修理が概ね終わり、封印の儀式がほぼ完了した頃。私達の祖先は…………気のゆるみから儀式の手順を間違えてしまいました。
それによって霧を出すだけだったはずの魔術は暴走を起こし、島を包み込む迷い霧の巨人となり……そして三日三晩島の周囲は霧の濁流に晒され……霧が薄まった時にはもう……治りかけの船は沖の遥か遠くに流されてしまっていたのです。故に────』
「プアナムさん。目的地に着きましたぜ」
トントンとつま先を打ち鳴らし、話を遮るラーク。彼の言う通り、目的地と思わしき大樹のウロが目の前にあった。樹皮は長い年月によって色褪せ、その質感もあいまり樹というよりは岩のそれに近い。
先ほどまで眩しい程に感じられた光はもうない。不思議だ。
ウロの中には────
「……シロちゃん?」
眠たげな瞳をしばたかせるイオリの姿があった。
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=AKaRUH5wPaQ&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=14
今回は過去回でした
それはそうと.liveの箱ライブメッチャ良かった!
またみたいなぁ
裏設定
砂漠の民と森の民で伝承の精度に格差がある理由
ウルクが滅んだ辺りにゴタゴタについて砂漠側が詳しいのは、砂漠の民の先祖が『最後までウルクに残り抗戦した末、王権の象徴である粘土板を死守して生き延びた人たち』である為。
楽園周りのゴタゴタに関してはあえて『そんな物なかった』となるように色々改変したりぼかしたりした上で当時の事を後世へ伝承している。
というのも、『森側がなんかやらかしたなコレ』というのを薄々察知していたため『会えもしない相手への恨みを子孫が抱いてもアホ臭いだけ』という発想に至ったため。
ちなみに森側はケツァルコアトルに拉致られたウルク民の末裔。
エルフっぽい見た目になってるのは文化圏がメチャクチャ違う神の守護を直に受けた影響。
フルパワー状態の南米ゴッドが気合で彼らを守り切ったため、ラフムとかについてはあんま知らない
おっつおっつ、いろいろと考えられる過去でして、箱イベマジでよかった、まぁちょっとロス気味だけど、でも星物語の円盤も来るしこれからも楽しみだぁ
>>732
DVD楽しみですよね!
過去に関してはこの特異点の正体を語る上でどうしても外せないのでここに差し込みました
>>730
「シロちゃん、シロちゃんだ……ウッ」
ウロに横たえた体へ力を入れ、起き上がろうとするイオリ。しかし出来ない。長い間寝たきりだったせいで、体の動かし方を忘れてしまっているのだろう。
イオリの倒錯した美貌もあいまって真に痛ましい姿である。
だがそれでも────シロは嬉しかった。蒼い瞳を細め、寝たきりのイオリの手を優しく握りしめる。そして静かに涙を流す。
「良かった……戻ってきて良かった……二度と治らないんじゃないかって……」
それは、遭難してから一度も口にしていなかったシロの弱音だった。彼女の顔には相手を懐柔するためのモノではない、心底からの笑みが久方ぶりに浮かんでいた。
「ありがとうプアナムさん。他人のシロ達を、イオリちゃんを助けてくれてありがとう」
『いえ、イオリ様は助けテも大丈夫であると解っテましたから……その症状は例の大亀によるもの。あれは周囲の邪念を吸い取っテ生きる無害な生物ですが……邪念のなさすぎる相手だと稀に心の大事な部分まデ……つまりこの症状が出たイオリ様は善良という事デす』
「そんなこと言っちゃって、別に善良じゃなくても助けてたでしょ?」
『……人命救助は人としテ当然のことデすから』
顔に付いた殻をポリポリと掻くプアナム。彼女は気恥ずかしさを振り払うように、話題を変える。
>>734
『それはさテおき……今後の話をしましょう。貴女方はこの島に漂流しテきてますので、イオリ様が治り次第、船デ外へ……と、言いたいのですが問題がありましテ』
「問題?」
『エエ……先祖が創造龍を閉じ込めるために使用した魔術が……ややこしい状態になっテおりまして。島沿岸部が霧の異界と化しテおり、外に出ようとすると誰であろうと引き戻さレてしまいます。血は衰え、同胞は数を減らし、もはや私たちが祖先の魔術をどうこうするのは不可能なのデすよ』
彼女はゆっくりと手を振って周囲を霧で満たした。霧はプアナムによく似た……しかし彼女よりも大きな人型となる。直感的な魔術行使のもたらす現象。これだけで彼女が一流の魔術師であるという事が解る。
────そんな彼女が断言するのだから本当に不可能なのだろう。ブイデア本部にいる牛巻やあずきと連絡が取れれば、また話が違っていたかも知れないが。
シロはそう考え表情を歪ませた。イオリから手を離し、彼女から自分の表情が見えないようにしてから。
「……じゃあ島から出るのは不可能って事?」
『いえ、祖先が遺した秘宝『霧払いのランタン』があれば霧を超えて島の外ヘ行けるでしょう。ですが、以前に秘宝を持ち出し外に出ようとした者がおりましテ。まっ、海岸にたどり着く前に捕食されましたがね。今更海へ出たとテ、楽園への道などないというのに…………と、無駄話が挟まってしまいましたネ』
霧を操り奇妙なランタン──涙を流す目玉が中央に浮かんでいる──を形作った後、プアナムが手を乱雑に振り払って霧を消し去り、自嘲めいた笑みを浮かべた。
>>735
『まあ、そんなこんなデ秘宝が怪物に持ち去らレまして。祖先より伝わるモノなので取り返そうとはしたのデすが……どうにも歯が立たず……』
「解った、シロがその怪物を倒して────」
シロが頷こうとした瞬間、腕を引く者がいた。横たわったままのイオリだ。彼女の紅い瞳から強い意思が感じ取れた。
「シロちゃん……イオリも一緒に戦う…………」
そう呟く彼女はシロの腕を強く握る。その力はつい最近まで寝たきりだった人間のモノとは思えない程に強く────しかし英霊のソレには届かなかった。
シロは笑みを浮かべ、イオリの髪を手櫛でとかす。
「ううん、大丈夫。安心して、シロが全部どうにかしてみせるから。もう失敗しないから。大切な人はみんなシロが守るから」
そして手の中に魔力を集め、単純な眠りの魔術でもってイオリを眠らせる。
まぶたを伏せるシロ。彼女の顔に影がかかる。プアナムはそれを困惑気味に見届け────ラークはヘビのように瞳孔を細めつつ口を開いた。
「じゃあ姉御……俺も守ってくれるんですかい?」
「もちろん、ラークは仲間だからね。まだ完全に信頼してる訳じゃないけど」
「おや、まだ心底からの信頼は勝ち取れてないんですねぇ」
「そりゃ海賊相手だからねぇ。それにラークが協力してるのは打算ありきでしょ? あくまでビジネス仲間だよ、ビジネス」
「そりゃ酷いですぜ。俺ぁこんなにも尽くしてるってのに」
胸に手を当て、ラークは大げさに悲しむフリをする。
会話の内容に反し、お互いの態度は至極気安い。確かにラークは海賊であり、言動も胡散臭いが、何十日も接していれば人並みの情は湧く。少なくともシロはそうであった。
>>736
「尽くしてくれてるのは認めるけどね。まぁ、イオリちゃんとは付き合いの長さが違うからね」
「へいへい、さいですか……じゃあそうだ!」
ラークが唐突に目を見開く。そしてシロの肩に手を回す。何故か体に触らないよう微妙に手を浮かせ、シロの顔色を伺いながら。なんとも奇怪な気の使い方だ。
「どうしたの?」シロが首をかしげる。
「その……ここじゃちょっと話しづらい内容でしてね、ちょっと場を移しましょう。じゃっ、プアナムさん。青髪の姉御をしばし頼みましたぜ」
※
歩くこと僅か数分。ラークとシロの二人は巨大な切り株に、互いに背を向けて座っていた。この場所は彼たっての願いによって選ばれたモノだ。
「場所を移した訳だけど、話ってなんなの? あそこじゃ話せない内容ってなぁに?」
「まあ、他の人にゃちょいと聞かせたくない話でしてね……まあ言うより見せる方が早いですかねぇ。ほら」
そういってラークが一枚の紙を渡す。その紙には複雑な魔力が込められていた。
シロは紙上に指をしばし這わせた後、瞳に驚愕の色を浮かべる。
「これは……セルフギアススクロール!?」
────セルフギアススクロール、またの名を自己強制証明。魔術師が実質違約不可能な契約を結ぶときに使う、極めて強力な魔術契約書だ。間違いない。
シロはブイデアの機密保持のため何度かこれを使った事があるため、その存在を知っていた。
「ご存知でしたか、じゃあ話が早い。話というのは、この契約書に署名して欲しいって内容でしてね。なに難しい話じゃございません」
「いや……署名って言ってもさ。肝心の文面がないんじゃ契約書としてなりたたないよ」
>>737
真白いアホ毛をいじりながら、そう答えるシロ。彼女の顔には困惑と警戒が浮かんでいた。ラークを敵か味方かどちらに認識するか決めかねているのだ。元より打算ありきでの協力だとは解っていたが、ここまであけすけに駆け引きをして来るとは予想していなかった。
そんな懸念を他所に、ラークが契約書をひったくってシロに背を向け、手際よく文字を書き連ねた。
「そりゃそうですなぁ……内容を……書きましたよと……ほいっ」
契約書がシロの手に戻される。
「……内容は『1.シロ及びその仲間に対し、ラークは直接的・間接的に意図して危害を加えない。2.シロはラークに対し、一度だけどんな願いでも聞かなければならない。3.ただしシロに対し直接的な不利益を及ぼすような願い、遂行不可能な願いは無かったことに出来る』……この契約でシロにメリットはあるの?」
「ありますとも、ありますとも!」
契約書を再度ひったくって手元に戻し、ラークはもみ手をしつつ笑みを浮かべた。混じりっ気のない悪党の笑みを。
冷え切った風が二人の間を吹き抜ける。
「なんと、俺に裏切られるリスクを無くす事ができるんですよ! コイツは、昔に俺を殺そうとした魔術師崩れから何枚か分捕ったモンなんですがね……これ使った契約が破られた事は一度もないんですよ。ただ信じるのと、100%信じられるのとじゃ任せられる事が大分変わりますぜ?」
「……それで、ラークのメリットは?」
「そりゃ勿論『願い』の部分ですよ。俺の目的を達成する為にゃ姉御の力が必須でしてね……目的がなんなのかは秘密ですぜ? これだけは誰にも言えないものでして。それで、署名はしてくれるんですかい?」
ラークが切り株の上で仰向けになり、紙を差し出す。彼の表情は海賊帽に隠れて見えない。
>>738
対するシロは顎に指を当てて思案する。
────願いの内容や態度など不明瞭な点は多いがメリットがあるのも事実。リスクのない協力者が手に入るのは確かにありがたい。
それにこの先……シロの力でどうにもならない敵が出て来た場合、『馬や他の娘たちに知られたくないような』手段に訴えかける覚悟がある。良心は痛むが、仲間を失う痛みに比べれば些細なモノ。なんにせよ、その場合ラークが手駒として使えるのは大きなメリットだ。海賊であればそういった手段に抵抗はないだろう。
「解った。サインを────」
『する』と口にしようとした瞬間、つむじ風が巻き起こり無数の青葉がシロの手にまとわりつく。彼女を思いとどまらせるかのように。
しかし、シロはそれを振り払った。
「サインを、する」
そう口にするとペンが手に握られていた。
シロが名前を書き、ラークが紙を三度ひったくって懐にしまう。それで終わり。
契約書に名前を書いてもこれといった変化は現れない。ただ、契約してしまったのだという実感がシロの胸を重く締め付けた。
ふと上を見上げると空は夕暮れで、夜がすぐそこまで迫って来ていた。
森の夜は危険だ。たとえ獣がいなくとも。
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=ETEg-SB01QY&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=69
次回更新で地味に久しぶりの本格的な戦闘回の予定です
それはそうとバーチャル歌伝楽しみ!
裏設定
森の怪物について
理性のない創造龍が作り出した存在であるため
ほとんどが生理機能の不備で死ぬか仮に生き残ったとしても子孫を残せず一代限りの存在で終わる事がほとんど
しかし極まれに生き残り繁殖する種族もいる
スケイラー
危険度B(危険ではあるがある程度有効な対策アリ)
トカゲと木が混ざって変異した怪物
生態系の頂点に位置する
二足歩行の鱗つき熊といった風体をしている
鱗のせいで異様に頑丈な上
半分木であるためか怪我にも並外れて強い
腕力は言わずもがな
脚力も山道で時速40kmをだせる程のパワーを誇る
しかし体温調節機能に重篤な欠陥を抱えており
夜は体が冷えてマトモに動けない上
太陽が出てからも動けるようになるまで数時間かかる
かといって運動をしすぎて熱が溜まっても動けなくなるため
実は10分〜15分程度しか全力で動けない
なのでその間どうにかして凌げば対処可能
ハイブビースト
危険度A〜C
夜行性の獣
ラクダとハエとサソリが混ざって変異した怪物
ラクダの頃に存在した背中のコブは穴の開いた肉塊で
手足はサソリめいたグロテスクな形状
夜行性とはいいつつ昼夜関係なく自身が動くことはほとんどない
コブから出るフェロモンで肉食昆虫を操りそれによってエサを得る
昼でも普通に活動できるが天敵のスケイラーに目を付けられたくないのでやらない
サソリ由来の巨大なハサミを持っておりそれを用いて地下に昆虫用の巣を造営している
また、手駒の虫自体も自身で産んでいる
虫を産む為の産卵機構は本来の生殖器とは別にオスメス関係なく存在しているが、メスの生む虫の方が微妙に大きく強い
出来損ないのキメラのような見た目をしているが知能は非常に高く
弱った獲物にしか手を出さない(出させない)
なのでそこを弁えてさえいれば対処は比較的容易
しかしそもそも万全の状態でも貧弱な人間の場合
弱っていなくとも襲われる場合があり油断は禁物
>>742
戦闘回の前半はオーソドックスな能力バトル
後半はジャンプラのダンダダンのような変わり種のような感じにする予定なので
楽しみにして頂ければ幸いです!
>>739
※
プアナム達の住む里に戻ると、彼女と同じような見た目をした人らが準備をしていた。里の皆で集まって準備を行い、明後日には歓迎の催し物をしてくれるそうだが……数は二十と少し、目視で数えきれる程度。子供に至っては二人しかいない。
わざわざ今ウソをつく意味はないので、本当にこれで全員なのだろう。
シロは里で久方ぶりに身を清め、食事を取る。里の空き家に案内され、そこで眠る様に言われた。
里の建物はどれも巨大な木の枝から果実の様にぶら下がっており、一度木を昇らなければ中に入ることが出来ない。恐らくは、怪物が侵入して来ないようにする工夫なのだろう(里には怪物を退ける結界が張ってあるのだが、たまにそれを突破してくるのがいるそうだ)。
建物はそれほど広くない。住めて三人……頑張っても四人といった所か。木にぶら下がっている割には、歩いても特段揺れなどは感じられない。そういう魔術をかけているのだろう。
内部には生活感のある家具が置かれたままになっている。形が元の世界のモノと大分異なっているので確かな事は解らないが、シロが見る限り割と最近まで使われていそうだ。人の住まなくなった家は急速に寂れて行くそうなので、最近まで人の住んでいた家を客人用として選んだのであろう。
シロは小さく伸びをして、ベッド?(床に四本支柱を立てて水平にハンモックを張ったようなモノ)に身を横たえ────
>>744
「……これは」
ベッドの下に古びた日記帳を見た。
シロは日記を一度手に取り、肩をすくめながら元の場所に戻す。好奇心で他人のプライベートを覗き見るのは流石に趣味が悪すぎる。
────元の場所に戻す時、偶然のいたずらによってページがめくれた。
そこには『妻が怪物に食われた。一矢報いに行く』とだけ書かれていた。
「……」
何処から吹き抜けた隙間風がビュウビュウと、恨み言とも泣き言ともつかぬ様子で鳴いていた。
※
次の日。シロはラークと共に例のウロにいた。
イオリはもうすっかり良くなって、ふらつかずに歩くことができる。通常であれば寝たきりから回復するために長期間のリハビリが必要なのだが……そこは流石英霊といった所だろう。
「じゃあラーク、イオリちゃんの事は頼んだよ」
「へい! ……しかし良いんですかい? 病み上がりの姉御を護衛するのに俺を使っちまって。そりゃ姉御達にゃ敵いませんがね、これでも俺ぁそこそこ名の知れた海賊ですぜ?」
腕に力こぶを作り黄ばんだ歯を見せるラーク。本気で疑問に思ってるというよりかは、じゃれつくような聞き方だ。
シロは微かに苦笑を浮かべて、
「今確実に信じられるのは、契約があるラークだけだからね。一番大事なイオリちゃんを護衛していて欲しいの」
>>745
といった。
────シロとラークが話している間、イオリは適当な所に腰掛けて二人をジッと見上げていた。普段はやや過剰なくらいに感情豊かな彼女の表情は今や、菩薩様を思わせる微かな苦悩を孕んでいる。
青く長いイオリの前髪が沖波のようにゆるりとのたうち、濃く紅い彼女の両瞳がシロを不意に捉えた。
「シロちゃん、イオリの事も信じて欲しいな」
そういったきり彼女は口を閉ざす。
『もちろん信じているよ』そうシロは返そうとしたが、何故か言葉が出てこなかった。
「…………いってくるね」
結構、こう返すのが精一杯だった。
※
数時間後、シロはプアナムから貰った地図に沿って森を進んでいた。
常軌を逸したサイズの木々、砲弾を打ち込んでもビクともしないであろうそれらは、半ばから融解し倒れ、開けた場所を形作っている。
鼻をつく酸の匂い。
シロは足を止め、目の前の光景を驚愕と共に見据えた。
「……」
プアナム曰く、獰猛な森の怪物達ですらここには近づかない。『アンケグ』がいるからだ。大型動物を持ち上げられる程に発達した長い節足を持つ……大長虫。強大な顎で穴を掘り地下を潜行し、上を通った動物を喰らう。
喰らった獲物の消化しづらい部分、骨や殻などを体内の消化液と共に吐き出す習性があり、それ故にアンケグの巣には酸の匂いが絶えない。
この酸はドラゴンブレスのように吐き出すこともでき、マトモに喰らえば英霊でもタダでは済まない。また原始的な魔術を使うことができる。巨大なムカデめいた外見に反しその知能は比較的高く、魔術のかかった品を収集することを好む。
魔術回路を持つプアナムの同胞死体もアンケグのコレクション対象であり、薬草を取りに里から出た人間などがコレの餌食となっている。
>>746
数百年前に創造龍の力で偶然生まれた怪物であり、森の一角を長らく支配する生態系の絶対的上位者。龍が産んだおぞましき龍モドキ。
それがプアナムの語る、『島から出るための秘宝』を持ち去った怪物の全容。
英霊であるシロといえども容易に勝てないと覚悟を決めた相手。
「……死んでる」
その怪物が、死んでいた。
おかしな格好をした男に殺されていた。紫と黒の縞々模様の服に身を包み、仮面──猫を模したモノ──を被った男に殺されていた。
男は左手にランタン、右手に無骨なレイピアを持っており、道化師めいた服とのアンバランスさが余計に可笑しさを強調している。服の上からでも解るしなやかな筋肉。明確な目的意識をもって形作られた、アスリートめいた筋肉だ。
「こんな森の奥にお若い女性が一人。新手の怪物……ではない。しかし人間でもない……おお、サーヴァントか! こりゃ珍しい! 野良の同族と会えるとは」
レイピアについた血を袖でふき取ると、男は大仰に腕を広げシロに近づいてくる。
「実は私も英霊でしてね! 厳密にいうと『英霊に近しい存在』ですが、これ以上言うと……おっと!」
彼の足元に打ち込まれる銃弾。シロが手元に愛用の銃剣を呼び出し、撃ったのだ。
男は顎を引いてくつくつと笑う。
「中々に熱烈な返答で。まだ私が敵と決まった訳でもないでしょうに」
「アナタ、憑依幻霊でしょ? 前に会った憑依幻霊と魔力の感じが似てるから一目で解った。そっちの実力は身にしみて解ってるから。前回は一応……勝ったとはいえ、油断はしないよ」
「おお、よくご存じで! 一応、憑依幻霊については機密事項なんですが……同胞で漏らしそうなの……暴走して制御を離れた”ハートの女王”、もしくはお喋りなウサギ騎士とみた!」
>>747
「まあ……ウサギ騎士の方だよ」
「なんと!? アレに勝ったと? 召喚されて一年程度の新参で、憑依幻霊として与えられた力への理解もまだ浅かったとはいえ……それを差し引いても割と強い方だったんですがね…………大変な仕事になりそうだ」
最後の部分以外をお道化た声で言い切った男は、手元のレイピアをクルリと回して鞘に収めた。
男が剣を収めたのに応じて、シロも銃の引き金から指を離す。
「ああそうそう、私の名前はチェシャ、チェシャ猫。かの名作文学『不思議の国のアリス』を彩るトリックスターにございますにゃあ。この度は主の命を受け、”願望器モドキ”である『霧払いのランタン』とかいうのを回収しにきた次第でして」
「……私の名前はシロ。目的は大体同じで、シロもそのランタンが必要なんだけど……願望器モドキって何?」
「おや、知らないのですか。じゃあ聞かなかった事にしてください。それはさておき、どうもお互いの目的は競合しているようで。衝突は不可避ということで早速……」
そういって男、もといチェシャはレイピア────ではなく羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「宣誓書にサインを」
「……へ? どういうこと?」
「生前に色々とあり、無秩序な闘争って奴が大嫌いになりまして。人と戦う時は誓約書を書いてもらうようにしてるんですよ。まっ、ポリシーって奴です」
「そ、そう……」
>>748
ペースを崩されたシロは誓約書に目を通す。特段魔力などは感じられない。本当にただの誓約書だ。内容も『どちらが死んでも恨みっこなし』という……至極当たり前のことしか書かれていない。
手の中で羽ペンをしばし弄んだ後、シロはやや躊躇い気味に署名した。
「どうもどうも、こちらの我儘に付き合ってくれてありがとう。じゃあ戦いますかね、ボチボチそろそろ、真剣に」
チェシャは署名のお礼とでも言わんばかりに銀貨を親指で一枚弾いて投げ渡し、二枚目を自身の真上に弾き上げ……遡る雷のような剣筋でソレを刺し貫く。
シロの目をもってしてもレイピアを抜く瞬間は捉えられなかった。
距離にしておおよそ五歩分まで距離を取ると、ランタンを安全な場所におき、チェシャはレイピア片手に頭を下げた。抑揚のついた道化師じみた動作で。
「仮面越しにどうも失礼! 改めて、私の名前はチェシャ。剣に長けた我が身ですが、汚い手も積極的に使います……どうかご容赦を!」
頭を上げ、チェシャが裂帛の気合と共に踏み込んでくる。
初手で繰り出したのはもちろん突き……ではなく真上からの振り下し。手首の向きを固定したまま振る、古い剣術のやり方だ。
シロはそれを横に動いて捌き、愛用の銃剣で返しの突きを────
「……痛ッ!?」
額に走った鈍い衝撃により妨害された。シロの額から血が流れ、彼女の視界を少なからず苛む。突きをとっさに横凪ぎの動きに変更してチェシャをけん制しつつ、シロは安全な距離まで下がった。
────今、何をされた? 銃弾や石礫であれば見て避けられたはず。魔術であれば発動に何かしらの予兆があるはず……憑依幻霊としての能力か。つまり能力は『見えない弾を飛ばす』事…………か?
>>749
袖で血を拭い去り、シロは一瞬の内に思考を終える。そして銃弾を三発打ち放つ。
「アン! ドゥ&トロワ!」
急所に飛んで来ていた一発目だけをハンドガード(レイピアの柄につけられた簡易的な盾)で弾き、二発目と三発目を体に掠らせながら前へ踏み込むチェシャ。
再度レイピアを直上に振り上げ放たれたのは……鋭い袈裟斬り。手首を返すことで剣の軌道を操る、オーソドックスな技術だ。
シロは例の衝撃に警戒しつつ半歩退いて銃剣で攻撃を受け止め、お返しに最小限の動作でチェシャの手首を傷つけ、出血を強いる。続けざまにそのまま────
「まずっ……!?」
背中に走る悪寒。死の気配。
目を見開きながら本能に従って体を後ろに逸らす。シロの首元スレスレに斬撃が走り、産毛を斬っていった。
シロはたまらず大きく後ろに飛んで距離を稼ぐ。
────また、動作が見えなかった。銀貨を貫いた時と同じ。おかしい。多分さっきのは袈裟斬りからの切り上げ、それほど高度な技って訳でも無いのに。もしもこんな時……いや、もしもの話はやめよう。今ある手札で頑張らないと。
歯噛みし、冷や汗を流すシロ。彼女の青い瞳が疲労と焦りでかすかに濁る。
「……!」
本能的な危機察知に従い、シロが銃剣を振って『見えない弾』をガードする。『見えない弾』は妙に硬い感触と共にアッサリ弾かれた。
チェシャとシロ……互いの距離はおよそ十歩分。互いに決定打を失い、戦いの中に小休止が生まれる。
>>750
「ねえチェシャさん……そっちの能力はなんなのかなぁ? ヴォーパルちゃんのは『無限再生』だったけど」
「さあ? それは言えません。まっ、正解を当てたら教えてあげますよ。それが真実か保証は出来ませんがね」
猫の仮面を小さくズラし、毛づくろいする猫のように手首の血を舐めとるチェシャ。彼の態度からは確固たる自信があふれ出ている。
対するシロは大きなダメージこそないものの、精神的に疲労気味。とはいえ勝機がないかと言えばそれは違う。
(能力の正体は掴めないけど……真名を見抜くか、憑依の”核”になってる部分を壊せば、憑依状態を保っていられなくなるはず。ヴォーパルちゃんが確かそんな事を言ってた。
真名は見当も付かないけど、核になってるのは多分猫の仮面だね。仮面ってのは人の本質を多い隠すものだし、チェシャ”猫”だし)
良いことだけを考え、力強い意思で己を満たし、シロは銃剣を握りしめる。拳が白くなる程に。弱気な考えが湧いてこないように。
戦いはまだ始まったばかりである。
久しぶりの戦闘回でした
今回出て来たキャラですが、一応FGOのキャラに薄っすらと関係がある感じです マジで薄っすらとですが
チェシャのイメージはディズニー版のチェシャ猫に18世紀辺りのヨーロッパ貴族成分をブレンドして擬人化した感じです
それはそうと、ぶいぱいのライブすんごい楽しみ!
メンバーの身長差を3Dで改めて確認してみたい所存
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=qz7WxuR6z7o
裏設定
アンケグ
危険度A(極めて危険 対処困難)
D&DというTRPGから七割方設定を引っ張ってきたモンスター。出オチ要因として登場したものの、元ネタではドラゴン数歩手前くらいの強さはある。
おっつおっつ、これまた厄介そうなやつですこったい、ライブも楽しみですねぇ、この前のシロゲームも面白かったせいでイオリンに強運というか突拍子の無さというかを覚えた
>>754
ハイ、結構厄介な敵です
実のところチェシャはかなりの古参の憑依幻霊であり
危険性物わんさかな森に単騎で派遣される位には信頼されてます
もちろん 信用度=強さ と言う訳ではありませんが、危険な任務を幾度となく切り抜けてきた油断ならない敵なのは間違いありません
シロゲームのイオリちゃんはアレ凄かったですね
>>751
「さあ……幕間は終わりですよ!」
チェシャはそういうとシロに向かって深く、体が沈むほどに深く踏み込む。その体勢から繰り出すは抉り込むようなレイピアの突き。防御の難しい一撃。
対するシロは銃剣の先を巧みに回し、死の切っ先を受け流した。深く踏み込んだチェシャが体を後ろへ戻すのに合わせて前へ────
「クッ!」
アゴをしたたかに打ち据える見えない弾。シロは首に力を込めて強引に堪え、銃剣で切り返した。チェシャの体に切創が走る。だが浅い。
口の中が切れて血がシロの喉に絡む。こういう些細な不快が重なればいずれ集中を欠く。このままズルズルいくと危険だ。シロは眉をかすかにひそめ、二歩下がりながら弾丸を放った。一発は相手の方へ、もう一発は────
「今更この程度……なっ!?」
頭上の枝へ。
今シロ達が戦っている場所は森の中。打ち落とす枝はふんだんにある。落ちた枝が行く先は当然チェシャの上。自分に向けられた弾をかわすのに一手使った彼はソレを避けられない。絡み合った枝葉が動きを一瞬止め、彼の視界を塞いだ。
シロは近くの木を蹴って跳ぶ。頭上から銃剣で刺しにゆくために。相手からこちらがほぼ見えていないとはいえ、正面からバカ正直にいけば流石に反撃を────
「ッ!?」
ホンの一瞬、目の前の枝が不自然にチラつき、直後レイピアの刃が上空のシロを正確に狙って突き出された。
シロは辛うじてそれを避けて着地し、その勢いのまま体を沈めて強烈な足払いを繰り出す。つま先がチェシャの足首に当たる。木製バットのスイングめいた乾いた打撃音。骨がひび割れた音。
>>756
足首を蹴られたチェシャはどうにか倒れるのを耐え────ようとはせず、蹴られた際のモーメントに体の勢いを付加して回転、枝を振り払いつつ立ち上がる。
そのままレイピアを構え直し、突く。動作が見えない。時間が跳んでいるのかとすら思えるほどの奇剣。シロが辛うじてかわし、銃剣で薙ぎ払いつつ距離を取る。
小休止。
シロは銃剣を握り締めながら歯嚙みした。しかし結果として受けたダメージが多かったのは、チェシャの方である。
「これは……中々に痛烈ですねぇ。ハハ」
歩く度にチェシャを襲う激痛。それでも彼は抑揚のついた動作で肩をすくめて笑った。己の感情を瞳に秘めて。
対するシロはかすかに首を傾げた。その瞳にどこか、道化師じみた彼に似合わないモノを見出したのだ。ソレが具体的に何なのかまでは解らない。シロは浮かびかけた疑問を振り払うように目の前の闘いへと意識を戻す。
────それなりに良い蹴りを入れたが、こちらも完全に無傷とはいかなかった。まぶたの上を浅く斬られた。ほんの少しずつだが目に血が入り始めている。だがそれを差し引いても得られたモノは大きい。
先ほどの攻防を通じてシロの中で一つの仮説が立っていた。見えない弾、動作の見えない突き、そして先の不自然なチラつきと見切り。これらの事象を合わせれば一つの答えが見えてくる。
痛みでチェシャの表情がかすかに歪んだ瞬間、シロは銃剣に残っていた弾丸を決断的に全て吐き出した。地面に向かって。
辺りに立ち込める土煙。
「……」
シロは重い槍となった銃剣を魔力に戻して収納し、ナイフを呼び出した。ばあちゃるに持たせていたモノと同じ型。とにかく折れづらく、滑りづらく、信頼できる一振りだ。
>>757
爆発的に間合いを詰めて飛び込み、一撃。あえて足を乱雑に運んで土煙を絶やさないようにする。
チェシャは足を止めてシロの攻撃を右手のレイピアで打ち払い、左手から『見えない弾』を打ち出し────
「やっと見えた」
それを掴み取られた。
「……ありゃりゃ、種が割れちゃった感じですかね?」
これまでシロを的確に妨害してきた見えない弾の正体。それはただの石礫であった。左手に石を握り込み、指で弾き飛ばしていたのだ。もちろんただ飛ばしていた訳ではない。
シロの攻撃。
「うん。チェシャの能力は多分『透明化』でしょっ? それも割と融通効く感じの透明化」
土煙が揺らぐ。チェシャの反撃、息を付かせぬ五連刺突。シロは揺らぎを頼りにそれを避け、受け止め、往なし、弾き、最後に切り返す。
五連撃の中に先ほどまで散見された『動作の見えない攻撃』は一度もなかった。
「じゃあ私の攻撃……パッと繰り出す不思議な斬撃の秘密もお解りで?」
「解るよ」
────人間には攻撃の”予兆”というモノが必ず存在する。
個人個人で微妙に違うソレを読み取って対処するのが防御の基本で、その予兆を可能な限り減らすのが攻撃の基本だ。
だが一部の極まった達人はそのセオリーを無視する。予備動作ゼロの攻撃…………無拍子。
ソレを強いて例えるなら『虚空から唐突に飛来してくる弾丸』のようなモノである。神代の英霊でもなければ見切ることなど不可能。
当然その域に達する人間はほぼいない。凄まじい才能のある人間が生涯を捧げればもしかしたら……というレベル。
だがチェシャは、憑依幻霊として与えられた『透明化』スキルで疑似的にだがそれを可能にした。
>>758
「体の一部を透明化させてたんだよね。攻撃の予兆として動く部位だけ厳選して、透明化させる時間を凄く短くして、バレないように」
シロの切り上げ。体全体を使って振り抜く重い一撃。チェシャは無事な方の足で円を描くように体を動かし往なす。
────攻撃の予兆を知覚するのは眼球で、ならば予兆となる動きを透明にして、見えないようにしてしまえば疑似的な無拍子ができあがる。剣を極めるよりはずっと楽だ。
だが決して安易な業ではない。透明化させるタイミングが攻撃の予兆とズレれば無意味だし、透明化させる時間が長ければすぐに種が割れる。
チェシャは召喚されて憑依幻霊となってから、膨大な反復練習によってこれを身に着けた。手の皮が剥け、腕が動かなくなるまで努力した。自分を召喚した主や幻霊仲間の見ていない所で密かに努力した。
『優雅な道化師』たる自分に泥臭い努力など似合わないから。だけど主の”望み”は絶対に叶えてやりたいから。
「正ッ解! そう、私に憑依幻霊として与えられた力は透明化! 透明化させる対象は自由自在、そして透明化させるスピードは超絶的ッ! ご存知でしょう? アリスインワンダーランド、神出鬼没のチェシャ猫を。自在に姿を消し、自在に現れるのですよ。チェシャ猫というのは。
まっ……透明化させられる”体積”は大きめの猫一匹分だけなんですが。でもこういう”ズル”が出来ちゃうんだから、それくらいの縛りがないと強すぎるんですよ」
>>759
砂煙の中、チェシャはニヤニヤ笑いながら巧みに剣を操る。自分の能力が見破られているのにも関わらず。
────いかに巧みに透明化を操ろうと、チェシャの動きに応じて対流する土煙までは誤魔化せない。そして不定形の土煙まで透明化させるのは流石に無理だろう、というのがシロの算段であり、実際それは読み通りであった。
唯一読み違えがあるとすれば、それはチェシャへの対処。能力さえ攻略すれば押し切れると無意識に踏んでいた事。
「それにこういう事も……出来ちゃいますしねッ!」
まぶたから垂れた血がシロの目に入った瞬間、チェシャはおもむろに手をゆらりと動かし────そしてヒビが入った方の足でシロを蹴り上げた。不意を打つためだけに。
つま先が顎を捉えて脳をしたたかに揺らす。
チェシャ。真名はチェシャ・フルート。『主』が最初に召喚した憑依幻霊であり、最も忠義深きもの。
シロの体が後方へぐらりと傾き……
「ッ……フゥッ」
終幕とはならず、シロによる反撃の頭突きがチェシャの顔面、ひいては彼のつけている黒猫の仮面に突き刺さり、それを割った。
当初シロが憑依の核と踏んでいた部分はこれで破壊できたことになる。
────シロはブイデアのリーダーで世界の命運を背負っている。そう簡単に負けはしない。負けてはいけない。チェシャはそれを知らず、故に彼女の限界を読み違えた。
「ああ残念。”そこ”は核じゃあ────」
チェシャの言う通りその憑依は解けていない。
彼は努めて軽薄さを保ちながら勝ち筋を冷静に────
>>760
「やっぱりそうなんだ。透明化の力を知った時から思ってたんだよね、シロなら絶対弱点は透明化で隠しとくのになって」
取り戻す間もなく致命の一手をシロから叩き込まれた。滑るように回りこまれ尻の辺りに刃を通された。
これまでずっと透明化によって隠されていた憑依の”核”……紫縞模様のシッポが切り飛ばされ、地に落ちる。
チェシャの紫縞模様の服がプウと膨らみ、クラッカーめいた音とカラフルなリボンを伴って弾ける。弾けた後には誰もいない。
シロが怪訝に眉をひそめた次の瞬間……木の枝上に彼はいた。チェシャは足の半分ほどの幅しかない枝の上でクルリと回る。
「どうも、どうも! 真の姿で改めてご挨拶!
18世紀フランス国民の皆々様方に愛されし芸術の一つ、コメディア・デラルテ(予め決まったキャラクターたちが演じる即興劇)の演じ手、劇団チェシャ! 私は座長兼、用心棒兼…………アルレッキーノ役。チェシャ・フルート。
私の演じるアルレッキーノ、その性質はトリックスターの道化師! 否! トリックスターというアーキタイプの原型こそがこれ、アルレッキーノですよ」
バク宙を決めつつ枝から”軽快に”飛び降りるチェシャ。
「なんで……」
「おや、知りませんでしたか? 憑依幻霊から憑依が剝がれる時……存在が切り替わる事によりある程度傷が治るのですよ。まっ、流石に限度はありますし、もちろんスペックの低下はさけられませんがね」
そう嘯く彼の体には、傷一つなかった。
久しぶりの投稿です
学業で消費した体力を配信の視聴でどうにか補う毎日です
コメディア・デッラルテについて
決まったキャラクターたちによって演じられる即興劇
トムとジェリーのような黎明期アニメの演劇版みたいな感じ(というかアニメがそっちの流れを汲んでいる可能性もある)
■■劇団の○○役は基本的に××さんが演じる、といった風に役者ごとに演じる役が固定されいたらしく
そこら辺割とvtuberにも通じる感がある
有名なキャラとしては
アルレッキーノ:
別名ハーレクイン、アルルカン
道化師というキャラのご先祖であり、道化師衣装もアルレッキーノの衣装が元になったとかなってないとか
性格としては気まぐれでずる賢く、しかし悪人ではない
社交的でロマンチスト
黒猫の仮面をつけて演じられることが多かったらしく、チェシャが猫の仮面をつけていたのもこれが理由
あと物凄い頻度で西洋絵画の題材になってる
確かピカソもアルルカンというタイトルの絵を書いている
コロンビーナ:
理知的で活発な女使用人
アル×コロのカプで有名らしい
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=DZfNAObp-bo&t=168s
>>760
文章に拙い所と間違いがあったので一部書き直し
「やっぱりそうなんだ。透明化の力を知った時から思ってたんだよね、シロなら絶対弱点は透明化で隠しとくのになって」
判断する間もなく致命の一手を、背後に回り込んだシロから叩き込まれた。
これまでずっと透明化によって隠されていた憑依の”核”……紫縞模様のシッポが切り飛ばされ、地に落ちる。
チェシャの紫縞模様の服がプウと膨らみ、クラッカーめいた音を伴って弾けた。弾けた後には誰もいない。
シロが怪訝に眉をひそめた次の瞬間……木の枝上に彼は移動していた。チェシャは枝の上で深々とお辞儀を行う。
「どうも、どうも! 真の姿で改めてご挨拶!
18世紀フランス国民の皆々様方に愛されし芸術の一つ、コメディア・デラルテ(予め決まったキャラクターたちが演じる即興劇)の演じ手が一人! 私はチェシャ一座所属、用心棒兼…………アルレッキーノ役。チェシャ・フルート。
アルレッキーノとはすなわち、劇をかき回すトリックスター。自由気ままな道化師に御座います!」
バク宙を決めつつ枝から”軽快に”飛び降りるチェシャ。
「なんで……」
「知りませんでしたか? 憑依幻霊から憑依がはがれる時……存在が切り替わる事によって傷が治るのですよ。もちろん限度はありますし、憑依がなくなる事によるスペックの低下はさけられませんがね」
そう嘯く彼の体には、傷一つなかった。
>>764
元ネタのアルレッキーノが完成度高い設定だったのでキャラも中々イイ感じになりました
ちなみに裏……と言う程でもない設定ですが
チェシャが死んだのは丁度フランス革命真っ只中の頃だったりします
>>761
「そしてこれはもうご存知かと思いますが……実のところ、憑依が解けて初めて使える力というのがあるのですよ。どうか油断なさらぬよう。
”来たり至るは二人の役者。至り来たるは無数の目。喝采。薪の原に我ら立つ。もつれた糸と意図をより紡ぎ、果てに待つは悲劇と喜劇。定まらぬモノ、貴きモノ、その名は────”」
不穏な詠唱、シロはとっさに相手の額へ弾を打ち込む。チェシャの頭が後ろに倒れ、猫めいた琥珀の瞳が周囲を睥睨し、
「”未来”」
────濃霧が一帯を満たした。
「まずっ……!」
シロは呼吸を抑え、その場から離脱しつつ彼のいた方へ拳銃を撃ち放った。だが銃弾は霧を搔き分け遠く遠くへ飛ぶばかりで、何かしらに当たる気配はない。チェシャにはもちろん、そこら中に生えた木々にすら。
木々のざわめき、下草の囁き、虫の声。森を満たしていたそれらが消え失せる。
入れ替わるように別の音が来る。咳払い、足擦り、そして大勢の話し声。
夕暮れの空。
『即興劇、コンメディア・デラルテの開場です。貴女方が勝った暁には霧渡りのランタンを差し上げますが、どうか皮算用はなさらぬよう』
>>766
チェシャの声が響く。霧が薄れ、周囲の光景が見え始める。
「これは……一体……?」
シロは青い瞳を震わせた。現状になんら対処せず、呆然としながら。
足元に木と釘の硬い感触。パリッとした空気。抑制された土の匂い。シロとチェシャを取り囲む……人間達。
シロは今、野外に組み立てられた舞台劇場の上に立っている。
木組みの舞台はあちこちが赤い布で装飾され、しかしシロから見て正面──舞台の正面にあたる部分──だけは無地の白布がピンと張られ、周囲の人間達とシロを隔てていた。
周囲にいる人間は観客だろうか。かなりの人数。西洋貴族から物乞いまで、様々な時代の様々な格好をした彼らは、身分の垣根なく互いに顔を突き合わせて何かしら囁き合っている。
「ここは私の固有結界、心象風景。これから始まるのは即興劇。演者の心はいつもここにある。解るでしょう? 貴女方も────本質は同じエンターティナーなのですから。ヴァーチャルユーチューバーの電脳少女シロさん」
「……どうしてそれを?」
シロの問いに、チェシャはほのかに光を放つ眼をトントンと指で示して返した。どこか中性的な動作で。踊るように、誘うように。
「なんでも良いじゃないですか。それよりさぁ────早く劇を始めましょう。アナタも出て貰います。もちろん拒否権はありませんよ。なにせこれ、自分ルールを押し付ける為の固有結界ですから。
それと、劇の筋書きに干渉するのはどうぞご自由に。もちろん観客の許す範囲内で、ですが」
チェシャが手を叩く。舞台と観客を隔てていた布が落ちる。鼓膜を割らんばかりの喝采と野次。期待の目でシロとチェシャを見る無数の観客たち。
>>767
シロはvtuberとしての本能で期待に答えようとし、すんでの所で思いとどまった。
────流されてはいけない。合理的でいなければならない。間違えてはいけない。間違える度に周りの人間が傷つく。それは自分が傷つくよりも、ずっと、ずっと耐え難い。
迷いを振り切るため、ナイフでチェシャに切りかかろうとするシロ。しかし体が動かない。固有結界にて定められた、何かしらの禁則事項に引っかかったのであろう。
固有結界は所有者の心象風景を具現化したモノ。扱いは難しいが……発動中は固有結界の法則によって世界が塗り替えられる。
舞台の背景に大道具が立つ。ロミオとジュリエット辺りによく使われていそうな、塔を模したモノだ。
「さぁ御客様方。此度の演目は私、道化師アルレッキーノの快速破滅劇!
……さる貴婦人の寵愛を受けた道化師が一人おりました。貴婦人は大層器の大きいお方で、周囲を太陽のように照らしておりました。その傍らにいる道化師もまた、その光に照らされて……」
低く、伸びのある声。彼はひょうきんな大股歩きで塔へ近付き、塔から顔を覗かせる青い目の女性にかしずく。彼の声も動作も先程までとはまるで別人であった。
劇を始めた瞬間、彼は『チェシャ・フルート』から『アルレッキーノ』に成ったのだ。
パンと塔に光が当たり、女性を照らす。その女性とはシロであった。塔が生えた時、シロはその場所に移動していた。固有結界の力によって。
「羨ましい道化師だぜ!」「器の大きい貴族って、なんか肉嫌いの狼みたいな話だべ」「流石にそれは酷くないかしら……」
>>768
レトロなパンクロック風革ジャン男、頬のこけた百姓、王冠風の赤帽子を被ったお嬢様。観客の三人が語り合う。この三人は”劇”の常連仲間である。
チェシャ……否、アルレッキーノは彼らを見て緩やかに笑う。
「しかし! 道化師は足るを知らない愚か者でした。ただ寵愛を受けるだけでは嫌だ、その光を我が物にしてしまいたい。そう、道化師は────貴婦人を力づくで我が物にしようと考えたのです。到底上手く行くわけないと、そんな事すら分からずに。
そも、その野望すら貴婦人を良く思わない人間に吹き込まれた物。仮に上手くいったところで、道化師の心は満たされなどしない。故にその末路は破滅だけ……もちろんその破滅がいつになるかは、まだ解りませんが」
「そんな願いを抱けるなんて……恵まれた人だべな」「借り物の野望ほど虚しいモンもねぇぞ」「どんな願いでも私は貴いと思うわ」
アルレッキーノが剣を取り出す。それは過剰に装飾された、刃のない剣であった。剣と言うモノから一切の暴力性を抜き取ったような形をしていた。
「東の果てより来たと嘯く詐欺師より剣を買い、道化師は貴婦人を殺しに……破滅へと走り出す! 携えた剣は愚者をだまくらかすための────否! それは真、魔性の剣!
なんの因果か、偽物の中に本物が有ったのです……まさに呪いめいた奇跡、いえ、魔性を帯びた剣は自ら主を選ぶと言います。きっとそれは、魔剣が選んだ運命だったのでしょう」
舞台の中央に立ち、アルレッキーノは剣をフラフラと振り回す。それはまるで素人が剣に振り回されているようであり、そう見えるように意図された動きでもあった。
>>769
「剣があるなら、魔性のクワもありそうだべ」「クワは知らんけど魔性のギターなら見た事あるぜ」「ホープダイヤっていう魔性の宝石が宮殿にあったわ」
「魔剣が力の代償に求めるのは正気! 遠からず狂い死ぬ定め! それを知らぬ道化師は借り物の野望と力を頼りに、貴婦人の元へ……」
塔の大道具が引っ込み、舞台の背景が切り替わる。ほどほどに豪華な室内へ。とても清貧とは言えないが、かと言って居住性を損なうほどの装飾はない。
アルレッキーノは胸に手を当て、傲慢な、それでいて媚びる色も混ざった声を出す。
「おお、貴婦人様! 私の光! 私のモノになって頂けませんか! どうか、どうかご返事を!」
「…………」
舞台の下手側にアルレッキーノ、上手側にシロ──いつの間にか空色のドレスを着させられている──が立つ。
演劇などでは基本的に上手側にいる役者が善側なので、話の流れを考えれば自然なことではある……ここがアルレッキーノが発動した固有結界の中である、という前提を無視すれば。
>>770
シロは微かに口をすぼめ、思考を回す。
────体が動く。いつの間にか手に剣が握られている。先ほどまで追っていた傷が治っていた。
ここまでの流れを鑑みるにこの固有結界は『相手を劇に引きずり込む』というモノであるのはほぼ間違いない。傷が治ったのは『貴婦人の顔に傷があるのはおかしい』とかそんな理由だろうか……それよりも不思議なのは、こちらが即死するような内容の劇にしなかった事だ。
固有結界の使い手が非常に希少であるため、あまり知られていない話だが、固有結界というのは維持するのが非常に難しい。持続時間はどれだけ多めに見ても10分程度。なので固有結界は基本的に短期決戦を旨とするモノが────
「ああ! なにゆえか、怯えていらっしゃるのですね! 声も出せない程に! でもご安心ください! 私の、この剣であらゆる敵から守……殺して差し上げますから!」
アルレッキーノがそう言葉を発した途端、シロの体が突如として震え出す。まるで怯えているかのように。
彼の発動した固有結界が、その"厄介さ"を徐々に現し始めていた。
感謝祭メチャクチャ楽しみ! リアタイはできないけれど
宝具お披露目回でした
次回でチェシャ戦は畳む予定です
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=weRoddfZI-4&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=64
>>771
アルレッキーノは自身の眼前に剣を立て、顔を左右に区切る。左眼を焦がれるように細め、右眼を狂気的にカッ開きながら。
「アナタが何故怯えているか、それは私には解りません。だからせめて、貴女を抱きしめます。怖くないように……そう、胴から切り離された、アナタの首を! 大丈夫。一度も人を斬ったこともない────」
「アルレッキーノ。私の道化師よ、一体どうしてそのように? 貴男は人どころか虫も殺せない、優しい優しい御人であったはず」
道化師の言葉をシロが遮る。生前培ってきた技術による、自分らしさと繊細さを両立した演技で。
────イオリが昏倒して以降、シロは二度と選択を間違えまいと常に意識している。慎重に、合理的に、仲間が傷つかないように。相手と状況をつぶさに観察し、考察し、理解し、確実に勝利する。直感等の不確かなモノには極力頼らない。彼女が一人で葛藤した末にたどり着いた最適解。慎重さはソレを遂行する上で重要なファクターとなる。
だがしかし、慎重さを捨てなければならない場面というのはどうしてもある。それが今、この時。差し迫った危険に対しては早急に対処せねばならない。例え次に打つべき最善手や、固有結界の全貌すらまだ解らないとしても。
>>775
「あ、喋った」「あの女優さん、声通るわね」「体幹ガッツリ鍛えてる動きだぜありゃ」
剣で目元を隠し、観客の方を向いたまま足を止め、アルレッキーノが口元を大きく歪めた。遠くから見てもそうと解るくらいに大きく。
「運命が私を導いて、それに逆らわず進んでこうなった。だから貴女を私だけの物にして……その後は……そうだ! 皆を殺しに行くんです! 私とアナタの間に誰かが割り込んだりしないように!」
「……そうですか。我が道化師よ、シ……私は今震えるほどに悲しいです。この手で貴方を斬らねばならぬことが。せめて、苦しませずに殺してみせます…………そう……鉄棘の白薔薇と謳われた、私の剣術で」
シロがそう言うと震えは止まり、手の中に剣が現れる。柄に薔薇の意匠を象った……白塗りの細い模擬剣だ。シロはそれを静かに構える。胸元に剣を寄せ、平らに寝かせた構え。フェンシングのソレにやや近い形。
(……やっぱり。多分ここでは”役者のセリフに合わせて現実が書き換わる”んだ。まだ断定はできないし解らない事もいくつかあるけれど。やけに改変の仕方が控えめなこととか…………やり過ぎると反動があるのかも)
アルレッキーノは呼応するように、顔を覆っていた剣を突き付ける。露わになった彼の眼は……左右どちらも狂気に染まっていた。
観客たちが息を呑む。
「ならば私は、この剣でそれを断ち切ってみせましょう! 白薔薇様! アハハッ!」
そう言い切るやすぐさま襲い掛かるアルレッキーノ。飛びあがってからの振り下ろし、その勢いのまま身を伏せ、その体勢から獣めいた動きで突きを放つ。シロは振り下ろしを半身になって捌き、突きに剣先を合せて逸らし────後頭部に打撃を受けた。
>>776
アルレッキーノが突きを逸らされた勢いのまま飛び上がり、空中でカンフー映画のワイヤーアクションめいた回し蹴りを放ったのだ。
シロは蹴りの衝撃を前方に跳んでいなし、距離を取り、空中で体を捻ってアルレッキーノに向き直る。跳んだ勢いのまま脚をたわめ、解き放ち、爆発的に直進。強く深く踏み込み、打ち放つは袈裟斬り。玄人好みの研ぎ澄まされた一撃。
対するアルレッキーノ。彼は曲芸めいたイナバウアーで斬撃をかわし、のけぞったまま剣を床に叩きつけ、剣先を支点に縦回転する。アクの強い玩具じみた非現実的挙動。
縦回転の勢いでアルレッキーノはアゴを蹴り上げる。シロは腕でそれをガードするが、衝撃を殺しきれず頭がのけぞる。だが彼女とて特異点で実戦経験を重ねた戦士、アルレッキーノの蹴りを強引に掴んでブン投げた。
「……白薔薇様の鼓動を感じます。トクン、トクン。斬ったらどんな音に変わるのでしょうか?」
本来であればしばらく動けなくなるほどの、受け身許さぬ強烈な投げ。だがアルレッキーノは糸の切れた人形のような動きですぐさま起き上がり、奇怪な剣技を繰り出した。
それは剣をペンやヌンチャクめいて体の周囲でメチャクチャに回し、刃を相手に叩きつけるという、剣を用いた舞踏と呼称すべきモノ。本来であれば防御する必要すらない軽く鈍い斬撃…………だが、この固有結界の中では違う。
アルレッキーノの攻撃は不可解な”重み”を帯び、明確な脅威となって襲い掛かる。
シロはそれに対して堅実な対処を重ねる。往なし、かわし、防ぎ、絡めとり、最小限の動きで反撃を────
「ッ!?」
>>777
しようとした瞬間アルレッキーノが剣を真上に放り投げ、回し蹴りを放った。ハイキック気味の鋭い蹴り。シロは非現実的な軌道で10mほど吹っ飛ばされる。
互いの距離が開く。
小休止。
「すごっ」「おお……」「アクション映画みてぇだ」小声で反応する観客たち。
「……うん」
────小休止を思考に費やし、シロはいくつかの疑問を脳内に吐き出す。
何故、攻撃を受けたはずなのに痛みを感じない?
何故、相手にもダメージを受けた様子がない?
ダメージの蓄積がないとしたら、勝敗の条件はどこにある?
考えるのを止めてはならない。考察、理解、勝利。それが重要だ。
『舞台に血は不要』
アルレッキーノがホンの一瞬観客に背を向け、口の動きだけでシロにそう伝え、そしてゆるりと身をひるがえす。黒猫の仮面──荒々しく歪んだ木彫り──を顔につけて。
「アハハ! 白薔薇様……白薔薇様! 私の行為を、受け入れて下さらないのですね。遠くから、ハハ、終わりの音がもう聞こえてきます。蹄鉄の音、鎧と剣のぶつかる音! きっとアレはアナタの騎士様、にっくき婚約者ァ!」
────シロはアルレッキーノの言葉に反応せず、深く考え込んでいる。
彼はそれに対して少しぎこちない笑みを周囲に振りまくことで応えた。
(この調子でいけば勝てる。主様に霧渡りのランタンを献上できる。固有結界を使う羽目になったのは…………少々想定外ですが)
この固有結界の最たる特徴は『発動者と相手を即興劇に役者として引きずり込み、その中での勝敗を現実世界に適用する』というモノ。実に強力である。
加えて、役者がセリフと演技を通して設定やストーリーを宣言すれば結界内の世界が書き換わる。
>>778
大まかにまとめればこれだけの話。だが、
・相手のセリフを無理に否定する行為、劇を破綻させる行為は結界によって阻害される。(シロが序盤動けなかったのはそのせい)
・観客に危害を及ぼす行動も当然禁止。
・無理のある設定やストーリーでは世界を書き換えられない。
・宣言した設定に沿った戦い方をするほど動きに補正が入り、冗談めいた動きも可能となる。
・設定に無理があるか否か、どれだけ設定に沿っているかの判定は観客たちの集合的主観。
・観客の人気を引き込めば動きの補正は増し、多少無理のある展開や設定でも通るようになる。
・観客は『生前演劇をある程度以上好んでいた』事を条件に様々な時代・場所の英霊や幻霊を無力な霊体として固有結界に呼び込んでいる。
・舞台にいる内は如何なるダメージも演劇上の演出として無効化され、最終的な勝敗はストーリーの流れ等を汲んだ上で観客たちが判断する。もちろん攻撃を多く当てた方が勝者と判断されやすくなるので戦闘技術が一切無意味という訳ではない……が、高い技術に基づいたモノよりも派手でアクロバットな方が贔屓されやすい。
このように細かいルールがいくつも巻き付いて結界のルールを複雑化させている。そしてこの固有結界の厄介な点は、この”複雑さ”そのものにある。
結局のところ『観客からの人気を得たものが有利を得る』というのが要点であり、他はそう重要ではないのだが……シロがそれに気付くのは至難の業だ。なにせ、固有結界が発動される直前まで殺し合いをしていたのだから。
「騎士が来る前に、終わらせてしまいましょう。そしたら、アナタの骸と共に行きましょう…………どこかへ。ずっと一緒にいられる、どこかへ」
「……」
>>779
────シロは考える。深く、より深く。頭の中で仲間の顔と言葉がリフレインする。ピノ、双葉、牛巻、あずき、すず、ばあちゃる、イオリ。それと一応ラークも。
しつこくリフレインされる、”あの言葉”。シロの心に刺さって抜けない棘。
”殺し合いと劇は違う”、文字にしてしまえば至極当然の話。だが……その二つが固有結界でシームレスに繋がる事で相手は錯覚を起こす。
敵に勝とう、敵の動きを見逃すまいとして、真に重視すべき観客から視線が離れる。派手でエモーショナルな行動が力を持つ”劇”という場に、戦場の冷たい鉄臭さを持ち込んでしまう。前提を間違えたままズルズルと不利を重ねてしまう。
相手の思考、そのベクトルを狂わせる。故に深く考えれば考えるほど相手は正解から遠ざかってゆく。
無論、”フィーリングで物事を考える手合い”にはあまり通じない手立てではあるが、その場合は主から与えられた『部分透明化』の力で封殺する。あちらは逆にロジックを重ねて思考しなければ能力のタネは割れず、タネさえ割れなければ非常に強力である。
二段構えの心理戦。それこそ彼を憑依幻霊として今日まで生き残らせた────
「いいえ、それは出来ません。なにせもう……騎士様が来てしまいましたから。私の愛しい騎士、婚約者である────卿が」
シロが唐突に口を開く。祈るように瞳孔を細めながら。アルレッキーノの方を見たまま。
舞台の木台が軋み、新たな役者を迎え入れる。
南の海めいた青髪。夜と夕暮れの境を閉じ込めた瞳。嫋やかな美と明朗快活な美が共存した顔。
役者の名は────ヤマトイオリ。”フィーリングで物事を考える手合い”の最たる例。
「シロ……薔薇様。イオリの事、信じてくれたんだね」
今回メチャクチャ難産でした
やりたい事詰め込めるだけ詰め込んだら今回で終わりませんでした
シロちゃんの生誕祭めちゃんこ楽しみ
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=Jfo-kRN9PeE
おっつおっつ、面白くなって参りました、ストグラとか見てるとイオリンてマジで周りを巻き込みつつゴーイングマイウェイするからなぁ。しかも許せちゃうし。
>>780
「……うん」
シロは、はにかみながら頷く。
これまでのシロは自分だけで全て解決しようとしていた。だがそうすること自体が無謀であり、仲間を傷付けていると自覚した。その経緯をこれ以上語るのは……無粋であろう。
「俺ぁもっとロックな女優がいいな。顔面白塗りで歯を黒に染めてる感じの」「歯を黒、顔を白……ジャパニーズ貴族が好みなのね!」「多分違うべ」
「イオリ卿、ここに来たなり! 騎士の誓いにのっとり、シイタケ流剣盾術によって白薔薇様の敵を! 倒さん!」
玩具の剣を振り上げ、珍妙な流派を名乗るイオリ。しかしその声に曇りなし。観客らの承認を受けて舞台上に改変を齎す。
イオリの和装ドレスが赤白の姫鎧になり、シイタケめいた十字模様の入ったバックラーが左手に生成された。盾も鎧も見栄えだけのフェイクだが、ここではフェイクが力を持つ。故に────
「悪ら、悪い道化師よ! イオリの剣を受けてみよ! シイタケ流十字撃!」
存在すらしない流派の技を、流麗に繰り出すこともできる。
掛け声と共にイオリの剣が垂直に振り下ろされ、その隙を補うようにバックラーのフチを用いた横なぎ。アルレッキーノは反射的に振り下ろしを最小限の動きで避け、イオリの横なぎにミニマルな回し蹴りを合わせた。
足と手ではパワーが全く違う。通常であれば当然蹴りが勝つ。
だが彼の蹴りはバックラーに弾かれ、そのまま吹き飛ばされた。合理的な動きよりも、観客を楽しませる動きの方が強い。この固有結界におけるルールだ。
>>784
「……!」
それを最も理解していたはずのアルレッキーノがルールを失念したのは、彼の胸中にて渦巻く動揺が原因であろう。
……あのタイミングでイオリが呼び出されたこと。そして、そうなった経緯がもっとも彼を動揺させていた。
この固有結界は即興劇の概念を基盤としており、役者であれば劇の流れに矛盾を起こさない範囲で事象を改変できる。当然さっきのような「固有結界の外にいるイオリを騎士役として呼び込む」という行為も不可能ではない。だが、シロには出来ないはずであった。
大きな改変をしようと思えば、観客の支持が必要になる。あの時の彼女は固有結界に翻弄されて支持どころではなかった。
それでもシロが「登場人物の追加」という大きな改変を行えた理由は────
(不覚……!)
アルレッキーノ自らが起こしてしまった、矛盾。
劇の序盤では「これが終わったら皆を殺しに行く」といいつつ、イオリを呼び出される直前に「ずっと一緒にいられる、どこかへ」と、人のいない場所にいくかのように示唆してしまった。
矛盾は疑念を呼び、疑念は支持を失わせ、失われた支持は相手に集まる。
こうなった理由は解っている。勝利を確信して気を抜いてしまったことだ。
言い訳をしようと思えば出来る。実際、短時間で能力のタネを見抜き、即座に対応策を打ってきたシロに対し勝利を急いでしまうのも無理はない……だが、失態は失態。
「イオリ卿だけに戦わせては白薔薇の名折れ!」
畳み掛けるように剣を構えて突貫するシロ。
対するアルレッキーノはどうにか動揺から脱して役に戻り、狂気めいた笑い声をあげながら倒れ込み、四つ足の極低姿勢から剣を執拗に突き上げる。狂った道化師という役に沿った攻撃……だが押し切れない。
>>785
「……なぜ私を選んでくれない! 私はずっと、ずっと白薔薇様に仕えてきたというのに! 答えろ騎士! イオリ卿!」
「選ばれなかったのは…………選ばれなかったからだねぇ! シイタケスタンプ!」
「思いつかなかったのね」「即興劇あるある」「実際こういう質問ってどう答えれば良いんだろうな?」
物理法則を無視した挙動で飛び上がり、バックラーを前面に構えたイオリが斜め方向に落下。アルレッキーノに衝突してまた吹っ飛ばす。
ふっ飛ばされた彼はそのまま連続バク転して着地。その回転力を使ってコマのように横回転、手首で剣を回すことで回転速度二倍。
「……もういい! 全て切り刻んでやる! これで終わりだ!」
自身を剣竜巻に変え、二人に迫る。隠しきれない自嘲の笑みを口元に浮かべて。
「シロ……薔薇様ぁ! どうか、どうか私と一緒に! 剣を!」
「一緒に!」
「そろそろ終わりかぁ」「また来たい!」「次はミステリーモノの即興劇とか見たいべ」「即興でミステリーは無謀じゃねえかな……」
イオリが勢いよく手を差し伸べ、シロはそれを固く握る。終わりを悟った観客たちのざわめきが徐々に大きく、強くなる。
「今回も良かったわよチェシャ! もちろんゲスト二人も!」
天真爛漫な表情を浮かべ、動きをリードするイオリ。シロはリードに身を任せる。
これからイオリが何をするかシロは知らない。だが知らなくても問題ないと、それで大丈夫だとシロは思った。
>>786
二人は社交ダンスめいて優雅に、力強く回る。片手で相方を、もう片方で模擬剣を握ったまま。混ざる白と青。イオリがそれらしい曲を鼻で歌い、シロが合わせる。
どう踊れば、どう歌えば観客の心を掴めるのか二人は解っている。二人はかつて……vtuberでもあったのだから。
「おお……」「劇はやっぱ歌と踊りよ」「奇麗ね……」
観客らの応援が集まり、シロのスキル「応援を力に変える」が発動。サイリウムチックな光が回る二人を包み────光の渦に変えた。
ついでにどういう訳か舞台にキノコが生え出す。
「シロ……薔薇様! やっつけちゃおう! 私達の……愛で!」
「うん!」
「この私がッ! よりにもよって私以外に向けられた白薔薇様の愛に! 負けるなど認められなァい!
私が一番あの方を愛している! だから私が一番愛されるべきなんだ! 私が! 私がァ!」
剣の竜巻と光の渦がぶつかる。
……派手さと説得力が強弱を決めるこの場において、彼我の差は絶望的。それでもアルレッキーノは少しの間だけ拮抗してみせた。
それはきっと、彼の意地が起こした奇跡なのだろう。だが結局、勝敗は覆らなかった。
「なんで……私は愛されない……」
アルレッキーノが力なく倒れ、悲しみを乗せた声を響かせる。側には折れた剣、割れた仮面。彼の目は泣き腫らして真っ赤になっている。それを見下ろす二人。
一方的な愛を押し付け、借り物の力にすがった道化師。それを愛の力で倒した姫と騎士。劇の幕引きにはもう十分。後は道化師が二三言独白をして、それで終わり。
だが────
>>787
「道化師よ。それはアナタが……私を見上げるばかりだったからです。求愛する時ですら『私の光』という人と、どうして愛し合うことが出来ましょう?」
「……そうか。愛とは与え合うもの。対等なもの。故に、自分を人として見ない相手と愛し合うことは出来ないと……」
「そういうことです」
シロは最後の最後……勝つためではなく、劇に花を添えるため行動した。彼女なりの敬意であった。
それを察したアルレッキーノはスックと立ち上がり、猫めいたニマニマ笑いを口元に浮かべる。そして、観客に向かって深々と頭を下げた。
「最期までご覧頂き、ありがとう御座います。身の程知らずの恋に狂った道化師はしかし、心の奥底で身の程を弁え……貴婦人を崇拝していたが故に拒絶されました。
最期にそれを知れたのが、彼にとって幸福であったか否か。それは解りません。ご自由にご解釈下さい。では…………さようなら!」
「ブラァブォ!」「お疲れ様!」「今回はアクションが凄かったべ」「メタルロックがあれば100点だぜ!」「ロックと演劇は食い合わせが悪くないかしら?」「アンコール! アンコール!」「よい余興であった!」
万雷の拍手に包まれ幕が下りる。劇が終わり、固有結界が解けて現実に戻る。
幕が降りきるまでの刹那、チェシャは観客の一人、王冠風の赤帽子を被ったお嬢様──マリー・アントワネット──に慈しむような視線を投げかけていた。
※
>>788
「さっ、約束の秘宝は勝手に持って行って下さい」
現実に戻ると、そこはやはり……欝蒼と茂る、常識外に木々が大きなあの森であった。獣の気配はない。虫の音すらない。先程までと打って変わって、恐ろしく静かだ。
イオリはここにいない。固有結界から出た時、森ではなく元居た里の方に戻ったのであろう。
チェシャは幹の近くに座り込む。
「……ゴネないんだ?」
「ンッ……フフ、ゴネたいのは山々ですが…………あの固有結界は概念的な勝敗を押し付けるモノ。負けたら渡すと宣言してしまった以上、渡すしかないのですよ」
「ふぅん……シロの質問に答えたりなんかもしてくれるの? 敗北者さん」
シロがそう聞くと、チェシャはニマニマ笑いながら肩をすくめた。緩慢な動きで。
お互い怪我一つないものの、彼の顔は先程までより青白い。固有結界を使って消耗した結果であろう。
「そんな義理はありませんねぇ。でもまぁ、答えたくないこと以外は答えてあげますよ」
「じゃあ一つだけ。チェシャさんたちが仕えてるっていう『主』はどんな存在なの?」
「答えたくない、それが答えです」
「……答えたら不都合がある。それを知れただけで十分だよ」
「なら結構。では最後に一つ、私からの善意をば」
彼は目を琥珀色に輝かせ、座り込んだまま指で銀貨を弾き上げ、空中で掴む。開いた手の中にあったのは銀貨……ではなく銅貨。
沈黙。
風が吹いて枝葉を揺らし、それが止まった頃。シロはふと納得した表情を浮かべ、そしてランタンを持って去っていった。
「さようなら」
「…………ええ」
※
>>789
シロがいなくなって少し後、チェシャは周囲を念入りに見渡して誰もいないのを確認し────
「ゲホッ! ゲホッ、ゲホッ…………ウェ……」
血反吐を吐いた。酸臭い血反吐が腐葉土と混ざり合い、なんとも言えない色になる。
別にどうという話でもない。たかが幻霊が、固有結界などという魔術の秘奥を使うにはそれなりの代償が必要だった。それだけだ。
一応、これまでは”主”のほどこした細工によって「固有結界を用いたとしても、勝ち続ける限りは負荷を次に持ち越せる」というズルをしていたが……今回負けてしまったので、こうしてツケを払うハメになった。
体を構成する魔力を乱雑に徴収され、固有結界が解けた時からマトモに立つことすらできないザマだ。遠からず手も動かなくなるだろう。
────近くに幻霊専門の大病院でもあればきっと助かるのだが、如何せんそんなモノはこの世のどこにも存在していない。
「…………」
>>790
文字通り内蔵をグチャグチャにされるような苦痛を味わい、それでもチェシャはニマニマ笑っていた。最後の最後まで、道化師を演じ切れたからだ。そのお陰で最後の仕事がやれる。
震える手で自身のポケットを探り、何度も失敗しながら一枚の銀貨を引っ張り出した。一見してなんの変哲もないように見えるソレは、これまで収集した秘宝から特別に与えられたモノ。
「西へ東へ遥かな果てへ……届けておくれ。終わる者らの果ての声。不滅を積み重ね、黄金に戻りて語るッ…………銀のスカラベよ」
死に瀕した者の吐息をかけ、祝詞を唱えると銀貨はスカラベに姿を変えた。この蟲は末期の言葉を記録し、蓄積してゆく不滅の蟲。この蟲は必ず「主」が持つ金のスカラベの元へたどり着く。
情報を残す手段としてこれ以上はないだろう。
「負けちゃい……ました。白髪の少女シロと、青髪の少女イオリに。まっ、私より強いのはいくらでもいますが……ッ……一応、一応ね。能力を報告しておきますよ。そっちの方が助かるでしょう?
能力の内容は──────で、スキルは─────です。それと二人以外にも仲間が数人いますねぇ。あっ、流石に私の”眼”でもそっちの詳細までは解りませんよ。そこまで…………万能だったら幻霊になんか収まっていませんからね。ああでも、一つ大事なことが解りましたよ。というのもね……ッ!?」
チェシャの喉から、唐突に鋭い枝が突き出す。ゴツゴツした黒っぽい樹皮の枝。ここらでは生えてない種類のモノ。森の獣共には魔術を使える者も少数いるが、こんな魔術を使えるのはいない。
(ああ……”アイツ”にどっかで細工されてたか。まあ、”聖杯”を調達してきたのがアイツだし、いくらでも細工の余地はあるか。にしても随分、臆病なこと。まだ伝えるべきことが二つもあるってのに、困ったなぁ)
>>791
死の気配を間近に感じながらニンマリ笑い、スカラベの背中を見る。そこには銀貨に刻まれていた絵が色濃く残っている。手をつなぐ二人の若者と、それを仲介する老賢者。チェシャは自身の血で若者の間に線を引き、老賢者の顔にとある模様をつけた。
そこまでやると彼は大地に崩れ落ちた。もはや痛みすら感じていない。痛覚がさっき死んだ。流れる血の生暖かさに、産湯のようだと他人事めいた感想を抱いていた。
走馬灯がめぐる。
────思えば、自分の生涯は実に典型的な幻霊のソレといえよう。18世紀末のフランスで即興劇の役者としてそこそこ名を馳せて、かのマリー・アントワネットにそこそこ気に入られて、そこそこ楽しく生きていた。
気が付くと世情が悪くなっていて、気が付くとフランス革命が起こっていて、マリーアントワネットは死刑判決を受けていた。
裁判はまぁ酷いモノで、だから自分はマリーアントワネットを助けようと色々やった。劇を通じて不正を糾弾したり、助命を歎願したり。それで何人かの心は動かせたが、それだけ。なにも救えなかった。革命を謳う暴徒の群れに殴り殺されて、それで人生お終い。
自分の固有結界が「劇で戦闘の勝敗を決める」という捻くれた効果なのは、この経験故だろう。
だからこそ、今回こうして”誰かを救うために”呼ばれたのはとても嬉しかった。しかも生前はなかった力まで与えられて。
幻霊の我が身に、死は大した意味を持たない。物理肉体がなくなって幽霊に戻るだけ。だがそれでも、懸命に生きたことに意味はある。
(主様、オレィ様……どうかご武運を)
お久しぶりです
院試をどうにか討伐してきました
生誕祭の現地抽選に当たって嬉しみ
裏設定
赤帽子のお嬢様:
英霊(の分霊)。説明不要、マリー・アントワネット。生前からチェシャのちょっとしたファン。衣装の支援とかやってた(昔の絵画に出てくる旅芸人の派手な服は大体貴族のお下がりだったそうな)
百姓の人:
幻霊。かつて、村の窮状を訴えるため命がけで訴状を届けた人間の一人。
自治体に保管されてる資料にギリ名前残ってるかな? くらいの偉人 普通に凄い
貴族とかが割とガチ目に嫌いでマリーに突っかかっていたが、徐々にその人柄に絆されて気がついたら常連仲間になってた
ロック好きの人:
普通の幽霊。ロックフェスの余韻でエキサイトしすぎて死んだ。
幽霊友達がメチャクチャ多い
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=bJRk5iS8C1o&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=37
おっつおっつ、やっぱイオリンはすげぇや、ストグラとかTRPGとか何かキャラをやらせるとイオリンワールドに引きずり込むもんなぁ、こちらも忙しくて見るの遅れてもうた現地楽しんでくだされ
>>792
※
シロは霧払いのランタンを持って里に戻った。怪物避けの結界を抜ける時、空気が軽くなるのを感じた。
プアナムを始めとした住民らがシロを出迎え、ランタンに向かって黙祷めいた仕草をした。黒い殻のついた顔に複雑な情を滲ませて。
住民らはシロを称えると共にランタンを奪った怪物、アンケグについて多くを聞きたがった。シロはアンケグが倒されていたことに言及した上でその威容を概ね正確に──ウソにならない程度の強調を入れて──伝えた。
彼らはシロの言葉一つ一つに重々しい頷きを返し、話が終わると深く頭を下げた。地に付きそうなほど。
────かつてプアナムは「外を目指した同胞がランタンを持ち出し、海に出ることなく怪物に喰われた」とだけ言っていたが、それだけではないのだろう。多分あえて省略された話があって、その死んだ同胞には仲間以上の意味があったのだろう。
一族に伝わる秘宝であるランタンを渡すと言って、怪物のいる場所を教えたのはただの善意でなく、仇を討ってもらえるなら秘宝も……という真相だった、かも知れない。実際どうかは解らない。
>>796
明かさねば害になりうるでもない限り、むやみに踏み込むべきではない。シロはすっかり回復したイオリを引き連れ『ラーク』の元へと向かう……明かすべき謎を明かすために。
※
ラークに貸し出された部屋には、彼が自作したと思わしき品が飾られていた。魔術的記号に覆われたトーテム、インクの涙を絶えず流す獣頭部剥製、苔の生えた石筆。符術に使用する魔術礼装だろうか。中々に上質な魔力を感じる。
当のラークは部屋の椅子に座り、シロ達を待ち構えていた。
「見てくださいよ! 実はですね、姉御のいない間に遠征して色々手に入れたんですぜ……素材の質が濃いのなんの。しかもここの人ら……どうも式神の創造と使役に使える知識が深いようで、ちょうどウチの符術で失伝してたのがそこら辺なんですよ!」
「良かったねぇ」
目を輝かせてまくしたてるラークに対し、シロの反応はどこか冷淡であった。イオリは三歩分距離をとって、懐の鉄扇に手をおいている。
「……どうしたんですか、姉御方。座らないんですかい?」
「ねぇラーク。前に使ったセルフギアススクロール、ちょっと見せてくれる?」
「ううん、そりゃ難しいですなぁ。契約を利用されたら危ないんで、そうそうアクセス出来ない場所に隠してあるんですわ」
ラークは眉尻を下げ、凝った絵柄の紙箱からマッチを取り出し、タバコに火をつけた。室内に甘ったるい煙が充満する。イオリがそそくさと窓を開けた。
それを見たラークは黒殻に包まれた脚を所在なく揺らし、タバコの火をもみ消した。
「すんませんね。どうも、右脚がこうなってからコレがないと落ち着かなくなっちまいまして。煙かったですよね」
「ううん、イオリこそごめんね」
>>797
「良いですよ。それはそうと────」
「それはそれとして、イオリも”せるふぎあすすくろーる”が気になるよ?」
「…………」
沈黙。シロもイオリも、ラークをじっと見つめている。
カツ、カツ、と床を右脚の先で断続的に叩き、彼は何事かモゴモゴと小さく呟いたのち、深くため息をついた。心底困った表情を浮かべながら。
「まー…………疑われちゃった時点でもう無理ですわな。白髪の姉御ぉ、どうして解ったんです? 『名前を書く直前に、セルフギアススクロールをただの紙とすり替えられていた』って」
「ランタンを取りに行った時、親切な道化師さんが教えてくれたの……まぁ、それ以外にもちょいちょい引っかかる事は有ったけどね。
例えば、セルフギアススクロールの契約に含まれていた『シロ達が一度だけ願いを聞く』って部分、『シロ達の不利益になる願い、不可能な願いはしない』って誓約をつけてたけど……そこまで行ったらやましい事なんてほぼ不可能だし、どんな願いをするか明かした方が信頼関係を築くには良いよね。今にして思うと……『契約の内容に意識を注いでください!』って誘導してるみたいだなって」
シロはイオリに視線を送り、出入り口を”赤いおじさん”に塞がせる。硬い木の実が天井に落ちて音を鳴らす。その音は思いのほか大きく、ラークの体を一瞬ビクつかせた。
「あとは契約時の動作かな。何度もスクロールをひったくって……シロ、ちょっと不思議だなって」
────見られてもいい場所に相手の意識を集中させる。同じ動作を何度も繰り返し、その動作に違和感を抱かせにくくする。どちらもプロのマジシャンが使うテクニック。ラークはそれを用いて、シロに『セルフギアススクロールによる契約を結んだ』と思い込ませていたのだ。
そんなことを彼がした理由は……分かり切っている。
>>798
ラークはもみ消したタバコを右手で弄び、瞳孔を蛇めいて細めた。左手を懐に忍ばせながら。
「もう、鋭いですねホント。契約で危害を絶対に加えられないからと俺を信頼しきった姉御方を……後ろから特性の魔術礼装でぶっすりやって、操るつもりだったのに。自信無くしちゃいますよ。ちゃーんと信頼関係が構築されるまで何十日も待って、その上で心の弱ったタイミングを狙ったんですがねえ」
「イオリはすごいと思う。シロちゃんに言われるまでラークに悪意があったなんて全然気付けなかったし。ただちょっと……騙そうとしてたのはショックだよ」イオリがそう言って悲しそうにまぶたを閉じる。
「あー……姉御方にも友情はちゃんと感じてましたよ? ……野望が友情を上回っちゃったと言いますか、『マリン大船長ぶっ殺して自由になりたい欲』が抑えられなかったと言いますか…………ハイ、すみません」
申し訳なさそうな表情。懐に突っ込まれた彼の手がかすかに動く。
シロは蒼い目を細め、背後に手を回してナイフを呼び出した。この距離なら刃物で首を掻っ切るのが一番早い。知り合いを殺すのはイヤだが……イオリに手を出すのであれば容赦はナシだ。
だが、それをする必要はなくなった。ラークの出したモノが極めて有用であったからだ。二枚のお札。蒼く光っている。
「お詫びといっちゃ何ですが、これをどうぞ。姉御らと……ブイデアでしたっけ? そことの通信機器として作用する術符です。まっ、ほとんどはここの皆様方に作って貰ったモンですがね。ああ、もちろんこれにダマしはないですよ? 流石に魔術でバカ正直にどうこうしようとするほど頭茹だっちゃいないんで」
>>799
「有害かどうかは後で調べるとして……なんでこんなモノ用意してたの? シロ達を騙し続けるなら、こういうの作らずに孤立させ続けた方が好都合だと思うんだけど」シロが首を傾げる。
「そりゃあ勿論、バレた時に許して貰えるよう準備してたんですよ……俺ぁ船乗りですから、島から島へ船をたどり着かせることが出来る。姉御方の持ってない知識をいくつか持っている。だから…………許してください。絶対役に立って見せますから」
椅子から降りて膝をつき、両手を組み、体を丸めてシロとイオリを見上げるラーク。その姿は神に許しを請う懺悔者めいていた。背後の窓から差し込む日光で影がかかり、表情はほぼ見えない。
だがそれでも……彼の目が野心の光を宿しているのは分かった。
「……シロさ、ラークのことをやっと少し理解できた気がするよ」
ラークは心底嬉しそうに口角を持ち上げた。
※
シロ達からはるか遠くにある、どこか。
そこは、出入り口のない部屋だった。窓も照明もないのに薄明るく、気温も空気も快適に保たれている。
部屋の中には白い長テーブルが配置され、その上に紅茶と菓子が並べられていた。
「いねぇじゃんよ、主がさぁ! つか、アタシらもヒマじゃねーんだから、頻繫に呼び出すの辞めて欲しいんだけど! なぁディー!」
テーブルの上に寝転がり、乱雑に菓子を食い散らかす少女が一人。
主に与えられた名前はトゥイードルダム。身長は子供基準でも低い方で、鋭い目つきとギザギザの歯が特徴的だ。
「ダ、ダム姉さん……ダメだよそんなこと言っちゃ…………あとそんな頻繁でもないよ」
「キャハハ! 細かすぎるぜディーは!」
「ダム姉さんが雑過ぎるんだよ…………」
>>800
ダムの食べカスを一つ一つ空皿に集める少年が一人。名前はトゥイードルディー。身長はダムとほぼ同じ。眼鏡をかけた垂れ目の顔は中性的で、ともすれば少女と見間違えかねない。
ダムもディーも同じ黄色いシャツと赤いズボンを履いており、髪も同じ赤色だ。
「沙安久(スナーク)……誰無(ダム)に訂正要求。前回招集は3ヶ月前」
「スナーク! 3ヶ月はじゅーぶん頻繁だっての!」
「価値観の相違を検知」
伝声管越しめいた声でスナークと名乗る男が一人。身長は平均的な成人男性と同程度。異様なのはその上半身。
真鍮のカバーに覆われた顔。目に当たる部分には蒸気機関車のヘッドランプめいた黄色灯が付いている。無機質に稼働する呼気補給チューブ。
最も異様なのは腕で、ピストン駆動の黒鉄機械腕に置き換えられている。腕は大きく暴力的で、手に至っては常人の三倍サイズ。鋭い爪すら備えていた。肩に煙突、そこから絶えず吐き出される煙。歯車、ピストン、炎。蒸気機関。
また、全体として機械部以外が魚じみた鱗に覆われており、見る者にゴチャゴチャした印象を与える。
……スナークの返答を聞いて気を良くしたのか、ディーがきっかり一秒間隔で頭を左右に35度揺らした。
「そうだよ姉さん、スナークさんの言うとおり。”すぐ”は五分以内、”もうじき”は一時間以内、”頻繁”は一週間ごと……そう決まっ────」
「シューッ! 否ッ! 3ヶ月で招集は異例。頻繁の言に一理あり!」
黒い全身鎧の女性がディーの言葉を切って落とす。
>>801
身長は鎧の黒は材質由来ではなく、表面にこびりついた煤によるものだ。兜はほぼ密閉されており、のぞき穴すらない。口元に申し訳めいた蝶番式開閉口がついているだけだ。
「それにしても、この欠席率は何ごとか! 実に嘆かわしい! 嘆かわしいぞ!! ……ふぅ」
鎧女が口元の蝶番を開いて紅茶を流しこむと、蝶番から煤煙が漏れ出た。周囲は手慣れた様子で紅茶と菓子を避難させた。
ダムがギザ歯の隙間を舌で撫ぜ、鎧女を指差してからかう。
「バンダースナッチ。お前のそういうとこディーとマジ同じ」
「シューッ……否! 大いに違いあり! ディーの几帳面は数理への好感情故! 自分のは風紀荒廃を遠ざけんがための几帳面である!」
女はガシャガシャと鎧を鳴らして抗議する。彼女に与えられた名は『バンダースナッチ』。
煤まみれの鎧は胸部分が非常に大きく湾曲しており、腰回りの幅も広い。中にある肢体の豊満さは想像に難くない……だが、常人がそれに触れることは出来ない。彼女の体は高い熱を帯びている。
「……蛮打寿那地(バンダースナッチ)の非合理的な意見を検知」
「なっ……無礼だぞ! シューッ! 私は最強なのだぞッ! 礼儀をつくすべきだ!」
「蛮打寿那地(バンダースナッチ)の発言に正当性ありと認識……謝罪を表明。されど…………”最強”という言には検証の余地あり」
「言うじゃないか! 生っちょろい仕事ばかりで私も体が鈍っていたとこ────」
バンダースナッチとスナークが立ち上がろうとした瞬間。ボー……という、汽笛じみた音と共に部屋が蠢き、入口が生まれる。その場にいる皆が
一人の男が部屋に踏み入り、その場にいる者はそろって彼に頭を垂れた。中には形だけの者もいるが。
>>802
「不肖、沙安久(スナーク)……最上位権限者、応礼(オレィ)に敬意を表明」
「シューッ! 我が主! 約定果たしのバンダースナッチ、ここに」
「オレィよぉ、いつもの側仕えはどうした?」
「ご、ごめんなさいオレィさん……その言葉遣いはダメだよ、ダム姉さん」
男はどこか憂鬱な表情を浮かべて席に座り、パン、と大きく手を叩いた。彼の名は『オレィ』。
世界各地の秘宝を収集し、とある計画をなさんとする者。憑依幻霊らと契約を結び、全員に魔力を供給しているマスター。ここにいる者らは皆、憑依幻霊だった。
なお、オレィは人間の男である。そしてそれ以外のことは一切認識できない。認識阻害の魔術などがかかっている訳ではない。彼の風貌は”そういうモノ”なのだ。
「頭を上げてくれ、そしてそのまま聞いてくれ。少し前、俺の同胞が一人……死んだ」
「シュー……それは緊急事態! ……なのか? 今いない中で死んでる可能性があるのはチェシャとヴォーパル……まぁ、ヴォーパルだろうな。残念だ! 有望株だったんだがな!」
「アタシが覚えてる限りだと最後に仲間死んだのが半年前だから……まぁ、日常茶飯事だわな」
「半年毎を日常茶飯事とは言わないよ、姉さん? でも実際、海難事故にあったら普通に死ぬし、そこまでのことじゃないよね」
「魚羽流(ヴォーパル)の評価……能力上々ながらも、付与された力への不慣れあり」
「まぁヴォーパルはなー、人を簡単に信じちまうからな。案外毒でも盛られてコロッといったんじゃないかって、アタシは思うぜ」
>>803
オレィの言葉に対し、肩透かしを喰らった様子の憑依幻霊ら。実際、同胞が死ぬのはそう珍しいことではない。自然災害には神話級の英霊でもない限り敵わないし、ふとした油断がキッカケでしょうもない死に方をすることだってある。
幻霊にとって死は大した意味をなさない。世界をたゆたう漠然とした情報の塊が、仮初の実体を失った。それだけの話。かなりの手間はかかるが、どうにかしてもう一度同じ幻霊を召喚すれば……彼らは記憶の連続性をもって呼び出される。
だがその緩い空気は、オレィの言葉によって崩された。
「なお、死んだのはチェシャである。海難事故等ではなく、真正面から戦い、その結果死んだ」
「……オイオイ、マジかよ。チェシャってあの、一番の古参だったアイツだよな?」
「僕らの中で一番弱いけど、一番死ぬ姿が想像できなかった、あのチェシャだよ、ダム姉さん」
「マジかぁ……いやマジか…………」
最初に驚愕を示したのはダムとディーの二人。ダムは驚きのあまりテーブルから降りて、ディーはズレ落ちた眼鏡を直そうともしない。
そしてそれは、バンダースナッチも概ね同じであった。さっきまでの喧しい様子がなりを潜めている。
「シュー……これで私が最古参になってしまうのか。妙な気分だ。別に間違っている訳ではないのに。それはそうと、新しい幻霊は補充するのか?」
「もうじき、”計画”が最終局面に突入する。召喚に割くリソースも惜しい」
「解った、主様」
>>804
唯一なんら動揺を示していないのは、スナークだけであった。呼吸、動作共に一切の変化なし。その有り様はある意味で機械らしい。
「強い興味を表明……戦闘者の情報を最上位権限者に要求」
「チェシャの遺した音声メッセージによって敵の正体も判明している……敵は英霊が二人。細かい情報はあとでメッセージを渡すから、それで確認してくれ」
「沙安久(スナーク)…………当該者二名との死闘を要求」
「無論許可する。期待しているぞ、黒鉄の闘士よ」
スナークは戦闘に特化した憑依幻霊であり、万が一他の幻霊を倒す存在が現れた場合、それを排除する役割を任されている。その分秘宝を回収する能力は劣るが……そこは適材適所と言うモノだ。
彼は満足そうに蒸気を吐き出し、巨大なかぎ爪でティーカップをつまんで背部の補給孔に中身を注ぎ込んだ。
>>807
幹部らは皆短い出番で印象が残るよう味付けをかなり濃くしております
めめめの新衣装すこ
下に憑依幻霊らの大まかな性格と好物並べときます
スリットすこ
ダム:男勝りで極端に大雑把 好きなものは素材の味を活かした料理
ディー:気が弱く几帳面 物事を定量化したがる 好きなものはオブラートに包んだ四角いゼリー
スナーク:そこそこ感情のある戦闘マシーン 好きなものは青野菜を入れた味噌汁(クタクタの野菜くらいなら孔から摂取できる)
バンダースナッチ:神経質になった松岡修造(女ver) 好きなモノは温泉卵
>>805
※
……しばらく後。
「また一人、同胞が消えた」
オレィの声に応える者は誰もいない。部屋に残っているのは彼一人。テーブルに残された空の食器が無機質に彼を囲んでいる。
静かだ。圧力を感じそうなほどに。
オレィがおもむろに手を握り、開く。彼の右人差し指に指輪が一つ生成される。まるで最初からそうであったかのように。
指輪についた宝石──黒いマーブルが疎らに入ったアメジスト──が撫でられる。するとオレィの姿が僅かに透き通り、すぐに戻った。ともすれば目の錯覚で片付けられてしまうような、些細な変化だ。
>>810
「プロイの魔女が使う業、プロイキッシャー(童話の怪物)……その、劣化の劣化。俺が家伝の魔術を嫌い、魔女に憧れて編み出した若気の至り。昔は、二度と使うまいと心に決めていた物だが。人生は分からないものだ」
誰かに向けて、されど誰かの返答を微塵も想定せず彼は一人、語る。ティーカップに紅茶を揺らしながら。
「”計画”のため、英霊を一人呼び出すだけでは手が足らない。かといって、必要数を使役するだけのリソースはない。幻霊ならばリソースの消費を抑えられる。だが、ただの幻霊では性能に不安が残る。
故に、プロイキッシャーの出来損ないを核に童話の幻霊を作り……憑依させる。実在すれど名を残さず死んだ存在に、名だけの存在を被せる。不足の補い合い」
口をつけ、カップを傾け、一息に飲み干す。チェシャが遺した銀貨を懐に仕舞う。
「チェシャ、俺が最初に呼び出した幻霊よ。不慣れゆえ大した力も授けられなかったが、良く仕えてくれた。
……ドードーを覚えているか? 3番目に呼び出され、最初に死んだ憑依幻霊。楽しいやつだった。今でもアイツの歌を覚えている。マッドハッター、2番目に死んだ。帽子のセンスは壊滅的だが、癒しの術と語学に長けていた。レッドクイーン、カードナイト…………道を違えたのが残念だ。ハンプティ・ダンプティ。誰よりも慎重で、真の勇気をもった幻霊。ジャバウォッキー。果てしなく無邪気な────」
>>811
まぶたを細め、指折り数えながら一人一人名を挙げる。かつてここにいた、そしてもういない者達の名を。オレィは全て覚えている。名前も、声も、姿も、性格も。
幻霊とは、名を世界に刻めず死んだ存在。故にオレィは彼らを忘れない。誰かが死ぬたび、必ずこうして過去を振り返る。
「俺は”計画”を達成する。そして皆を救う。そしたらお前らは、晴れて救済の英雄だ。石像も建ててやる。だから…………」
『人間の男』としか認識できない彼の顔に感傷が浮かぶ。だが感傷はすぐさま奥底に沈み、見えなくなった。オレィが腕を振る。ビュウ、と侘しい風が吹く。風が食器やテーブルを吹き崩す。乾いた砂の城めいて。
「……」
彼が立ち去った後には、何も残っていない。
※
??視点
彼は困惑していた。己の感情がなんであるか、理解できなかったからだ。『楽しい』と『嬉しい』はよく知っている。『悲しみ』、『怒り』、『恐怖』……これも解る。だがこれは何だ? 自分の体をフツフツと満たす、この感情は。怒りにどことなく似ているが、違う。
「uyukq@b;f?」
>>812
砂辺に腰を下ろし、深く思考を巡らせる。ヒビだらけの黒い節足をくゆらせて。
────こうして、深く考えたことがあっただろうか? なかった気がする。なにせ己は”ラフム”だ。ティアマトに創造された新人類。何も考えずとも、大概の相手は蹂躙できる。母たるティアマトが消えてからもソレは変わらなかった。
仲間と共に弱者を、旧人類をいたぶる日々。その繰り返し。正直あまり楽しくはなかった。仲間は楽しそうで、それが何とも不思議だった。
仲間から離れ……海に出たのはなぜだったか。そうだ…………知るためだ。
旧人類には、楽しそうに死んでいく奴らがいた。武器を使い果たし、血まみれになり、指一本動かなくなり、それでも笑っていたのだ。不思議だった。自分は理由を知りたいと思ったが、仲間は同意してくれなかった。
だから一人で海へ出た。何となく、そこに答えがありそうだと思って。
「体t@t8e」
海へ出て……グガランナに吹き飛ばされて…………ばあちゃるとか言う変な奴と戦って、負けた。そして何故か見逃された。それ以降、この感情が取りついたまま離れない。
この感情がなんなのか『私』は知りたい。それを知るために──────
「モウイチド、タタカイタイ」
旧人類の言葉が口をついて出て来た。不思議と悪い気持ちはしなかった。
波打ち際に体を預ける。海水がヒビの内側にジーンと染みる。旧人類の文化である”フロ”の真似をしてみたが、中々悪くない。
ふと、『私』は自身の肉体に違和感を覚えた。長く発達した四本の腕が肉体を支えているが、それとは別に足が生えている。だがその足は酷く萎びている。使われていないからだ。
これではダメだ。こんなムダを放置したまま同じように戦って、同じように負けて。それでは何も得られない。
そう思った。
>>813
────私は背中側に生えた腕二本を千切る。ガクン、と体が沈み込む。萎びた足が体重を支え切れない。
「私ハ、ヘンカスル!」
それでも、それでも私は『楽しい』と思った。足裏に食い込むこそばゆい砂の感触。先程までのそれとはまた違う、新たな感情の湧出。全てが未知だ。
千切った腕が、なにか使えそうな気がした。早速加工に取り掛かる。とはいえ私の腕に指はない。昆虫のそれと同じ、黒い甲殻に包まれた節足だ。かなりの試行錯誤が必要になるだろう。かまわない。
それすら『楽しい』のだから。
「…………」
海の奥底から、ドロリとした黒い潮が立ち上る。恐らく、母たるティアマトの残滓。ケイオスタイド。ソレが私の体に纏わりつく。そして旧人類じみた五指や健全な脚を形成しようとし──────私はザブンとそれを振り払った。
深い意味はない。何となく、自分一人だけの力でやってみたかった。それだけだ。
その後しばらくラフムはそこに留まった。ひび割れた殻はいつしか治り、彼の体に白い網目模様を名残として残すのみ。萎びていた脚はいつしか太く頑強になり、以前よりもずっと俊敏になっていた。
千切った腕の先端が残った方にくくりつけられ、カニのハサミと同じように腕一本で物を掴めるようになっている。人間の手に比べれば恐ろしく不便ではあるが、ラフムにとっては大きな進歩だ。
「ヘンカハ、タノシイ! タノシイ!」
ラフムは自身の腕をゆっくりと開閉させ、ケタケタと笑う。その声はまさしく怪物。しかしどこか、赤子の笑い声にも似ていた。
>>814
※
視点は移り、ばあちゃる。
ここは海。船の上。顔を上げれば緩く弧を描いた水平線が見える。今日の風はよい具合。オールを漕がずとも船は進む。海図もなく、羅針盤もなく、目的地へ向かって。
四枚翼のカモメが異様な速度で空を飛んでいる。「クーッ、クーッ」という鳴き声がドップラー効果付きで聞こえた。
「いやー、見渡す限りの海っすね。どっちを向いても水平線……ハイ……」
「申し訳ありません、失念しておりました。人間には食料が必要だったことを……あと三日あれば次の島があるはずなのですが」
「三日、三日かぁ。そこまで持ちますかね、ハイ……しかし、何故か怖がったり怒る気持ちが湧いてこないんですよ。いやぁ、人って死が近づくと穏やかになるんすかね? ハイハイ」
古代文明のアンドロイド『2CH』と共にばあちゃるは────遭難していた。
ウルクの人々が用意してくれた船の上で、ばあちゃるはオールに糸をくくりつけて垂らす。釣り針はない。一縷の望みにかけ、ただ糸を垂らしているだけだ。太公望の逸話によく似た情景だが、再現と言うには風情が不足している。
ふと、2CHが遠くを指差した。
「見てください、ばあちゃるさん。あそこに何か浮いてます。もしかしたら食料などの物資かも知れません」
「ハイハイ、あぁホントですね。しかも二つ……ていうかあれ、人じゃないすか? は、早く助けにいかないと!」
「…………おかしいですね、人影には見えなかったのですが」
2CHはやや怪訝そうに言いつつ、手指を複雑に動かす。青く透き通る流体が彼女の背部から湧出し、浮遊し、スクリューめいた形状で固体化。船の後部で回転しだす。
宝石の生成・操作。2CHが持つ”機能”である。
>>815
見る見る内に人影が近づき、顔がハッキリ視認できるほどの距離まで行き────そこで、ばあちゃるは自身の迂闊さを呪った。
そこに居たのが溺れかけた人間ではなく、体表の濃淡を巧みに変化させ、人影に見せかけていた……怪物であったからだ。
モノトーンの鱗に包まれた体はウミヘビのようで、しかし頭部に生えた二本のツノが竜であることを主張している。ビビッドカラーのサイケなギョロ目。サイズは人を一人、ギリギリ丸吞みにできそうな程度。
名を付けるのであれば『海竜』といったところか。
「方向転換、五時の方角」
2CHが船を方向転換させ逃走を開始。だが、即座に回り込まれる。海竜の動きは速くなかったが、距離が近すぎた。
ばあちゃるはとっさに拳銃を抜いて銃弾を撃ち……鱗に弾かれる。多少の痛みはあったのか、海竜が警戒交じりの鳴き声をあげた。
「これはヤバーシーですよ……ハイ」
ばあちゃるは思わずボヤく。
────見た所、耐久力は常識的な部類。目や鼻に銃弾を当てれば撃退できそうだ。だがここは海の上。足元が波で不規則に揺れる。ゴルゴでもない限り無理だろう。
ではナイフで斬りかかるか? リーチが絶望的に足りない。
2CHに頼るのも厳しかろう。彼女の宝石生成・操作は攻撃手段に乏しい。操作する宝石の質量が増えるほど操作速度・精度が落ちるそうだ。
もはや詰みか──────
そう諦めそうになった途端、ばあちゃるの脳内に一つのアイデアが浮かぶ。
「ウォラァ!」
海竜が近づくのを見計らい、おもむろに船のオールをフルスイング。相手の胴体に叩きつけた。当然…………ダメージは入らない。所詮木製だ。海竜が嘲るように鼻を鳴らす。
────ここだ!
「2CHさん! イイ感じにお願いします!」
「了解」
>>816
ばあちゃるがそう言って船を飛び出す。何をして欲しいのか具体的には言わない。言えば、海竜になにをするのかバレるリスクがあった。
怪物が言語を解する可能性。2CHが意図を汲めない可能性。両者を天秤にかけ、前者のリスクを避けたのだ。それは2CHへの信頼でもある。
「ハイ! ハイハイハイハイッ!」
空中に足場。小さな面積の宝石板が何枚も浮かび、ばあちゃるは駆け上がる。そして海竜の顔面に──────オールをフルスイング。魔術で硬化させたオールを。
最初に素のオールを叩きつけて油断させ、その後硬化させた状態で顔面をぶっ叩く。基本的に脳ミソは鍛えられない。流石に殺せはしないだろうが、逃げる時間ができる程度には怯んでくれるだろう。
ばあちゃるはそう考えていた。
「ヨシ…………ッ!?」
「シャアアアアアア!!」
────そう考えてしまったのがダメだった。
海竜は大きく首を振り、ばあちゃるを撥ね飛ばした。多少ふらついてはいる。だが確かに動いていた。威力が足りなかったのだ。
打撃というものはとかく踏ん張りが大事だ。踏ん張りのない状態で打撃をしても衝撃が逃げてしまう。ばあちゃるがオールを振ったのは空中。踏ん張りなど望むべくもない。
撥ね飛ばされたばあちゃるの下で海竜が口を開く。2CHが即座に対応しようとするも、海竜が尻尾を海面に叩きつけ、船を揺らしつつ彼女の視界を塞いだ。
ばあちゃるは全身を硬化させて牙に備えた。一回二回咀嚼される程度なら耐えられるだろう。だが────────────
「竜頭…………断ちィ!」
>>817
海竜の首がスパンと飛ぶ。極限まで円運動のモーメントをかけた、馬鹿馬鹿しいほど大きな槍の穂先に薙がれて。一拍遅れて噴き出す血しぶき。赤い噴水。
それらを成したのは、空を駆ける半獣の女戦士。身長は2m以上。かつて戦った敵にして友、ヴォーパルであった。まあ、ばあちゃるはそのことを事故で忘却しているのだが。
「うむ、久しいな! 息災であったか? ばあちゃるよ」
ヴォーパルは空を駆けてばあちゃるをキャッチし、返り血を浴びながら豪快に笑う。
「ちなみに、此方は絶賛遭難中だ! そこに居るのはお主の友か? よい目をしてるな」
「あ……え…………その、すみません。オイラ、記憶喪失中でして、ハイ」
「なんと! …………まぁ、とは言いつつそんなに驚いてはいないのだが。何を隠そう、我のいた場所では記憶喪失が風邪と同じくらいメジャーな病気でな」
船に着地するヴォーパル。彼女の頭部に生えた長耳が、ばあちゃるを慰めるように揺れていた。
「どこそこの乙女と愛を誓い合った男が、精霊に魅入られて記憶を奪われたりとかな。話し合いで解決する場合もあるが……大概の末路は血みどろの殺し合いよ。
あと、実は男と精霊が心底から愛し合っていて、俗世を捨てるため記憶喪失のフリをしてた…………なんて事もあってな。男はそのまま精霊と駆け落ち、そして乙女は二股をしていた。アレは色々な意味で酷かった。
と、名乗りが遅れたな。改めて、我はヴォーパル。リューン・ヴォーパルだ。よろしくな、ばあちゃる。そして、そこの御方もよろしく頼む」
>>818
「当機の名称は2CHと申します」
「うむ、2CH卿か。良い名だ! あそこの者にも名乗ってやってくれ!」
ヴォーパルがおもむろに遠方を指さす。そこには…………木材の集合体があった。浮いているのが不思議なくらいの。なんと、上に女が一人乗っている。
「……何あの……え? なんすかアレ?」
「ヤッホー!」
あちこちから漏出する水を手桶でかき出しながら、木材に乗った女はブンブンと手を振った。
艶の濃い金髪を長いツインテールでまとめた髪型。脇をモロにだした改造巫女服。緑の瞳からストレートな闊達さが見て取れる。顔立ちはモデル系で、健全な自信が表情全体に満ちていた。
女はこちらの船に乗り移り、拝むように手を合わせる。
「はい、みなさんおはようございます。私立■■■■■学園■■■■■の金剛いろはです! 今はブイデアのサーヴァントやってるよ〜」
お久しぶりです…………かなり忙しい時期が続いていました
イベント盛り沢山で嬉しみ
裏設定
ミミックサーペント;
危険度A(命の危険、対策困難)
体表の濃淡を変化させることで、狙った獲物そっくりの影を作り出し、救助しにきたところを襲う海竜。相手が近づいて来さえすればいいので、擬態のクオリティ自体はそこそこ止まり。
体表に特殊な黒い微生物を飼っており、難水溶性のフェロモン物質を分泌することで群を制御し、体の濃淡を変化させている。
戦闘力は怪物基準だと中の下程度。フィールド込みで中の上程度。だが頭がキレる上、割と好戦的なため危険度は高い。
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=jDjxXR4eUgM
寝落ちしてました
クアッドシーガル 危険度C(やや危険だが対処は容易)
捕食されないよう翼を四枚に増やし、飛行速度をバチクソに増加させたカモメ。
時折地上に急降下して小動物を食っていくが、夕暮れ時などでたまに小動物と勘違いして人間を食おうとする。所詮カモメなので人を殺すほどの性能は無いが、つけられた傷から菌の入るリスクがある。
対処法としては、両腕を上げて自身の大きさをアピールするのが一番良い。
おっつおっつ、ラフムくんが楽しそうで何より、ごんごんだああああああああああああ!!!???いまだにアプランとつながりがあるから嬉しいよエアコン買えよ。
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