>>119
「糞、糞が!!実戦なら俺が勝ってたのに!!!」
「落ち着けよ鳴神。火、出てるぞ」
端正な顔を歪め壁にダンと拳を叩き付ける鳴神。負けたのが相当悔しかったのだろう、強く握りしめた拳の隙間から真っ赤な炎が漏れ出ている。
感情を露わにする鳴神を横目に、ケリンはベッドに寝転がりながら鳴神をなだめている。
ここは医務室。敗北した選手が念の為検査と治療を受ける場所。惜しくも敗北した二人は医務室に運び込まれていた。
「いやー惜しかったなオイ。これ次は勝てるんじゃねえの?」
「『次』?大勢の観客が見てる前で負けたんだぞ!?他所の兵隊に!!明日から俺は最強の悪党から笑いもんに格下げだよ!畜生」
「だから落ち着けって鳴神。今回であいつらの能力は解った。エイレーンとミライアカリの能力も次の試合で解る」
「、、、、つまり?」
「試合で勝って思い上がってる奴らに、俺たちの本当の強さを教えてやろうじゃないかってことだよ」
「、、、ああ、成程、良いね。乗ったぜケリン」
二人の悪党が顔を合わせニンマリと笑う。
「計画は有るか?」
「ねえな。お前が考えてくれ鳴神」
「しょうがないな、、、、、あいつらがこの会場に居る隙に俺たちがエイレーン一家の事務所に乗り込む、、、、どうだ?」
「なるほど、最高のプランだ、、、、、ぶっ飛ばしてやるぜぇ!」
ピョンと勢い良く飛び起きたケリン、いつも通りの嫌味な笑顔を浮かべる鳴神と共にエイレーン一家の事務所に乗り込む準備を始める。
この後二人は事務所で留守番していたエトラ、ベイレーン、ベノの三人にぼろ負けすることになるが、それはまた別の御話。
>>124
『お次はこの方達!!我らがオーナー!双葉さん&ピノさん!!もっと休日下さい!!!それに対するは俺らのスター!!!ピーマン&パプリカァ!!!』
「欲望漏れてるぞ司会!!」「やってくれスター!」「いつも通り勝ってくれ!!!」
ピノと双葉、ピーマンとパプリカ。計四人の選手が会場へと入る。
ピノは槍を、双葉はナイフを携えている。槍は刃から柄に至るまで満遍なく上品な装飾が施されており、ナイフの方と言えばファンシーなピンクの柄に無骨な刃を取り付けた、何とも言えない見た目をしている。
それに対するピーマンとパプリカ。緑黄色ピーマンの覆面男に赤色パプリカの覆面男。この二人は何の武器も持っていない。己の肉体こそが最高の武器だと言わんばかりのポージングでもって筋肉を誇示している。
「オーナーのお二方には恩があるっピ。でも、オイラ達は本気で行かせて貰うっピ」
「ここのスターとして温い試合は見せられないっパ」
二人は真顔でポージングを決め、ピノと双葉に言い放つ。
「わかってる。良いからきなよ」
「当然ですわ」
ピノと双葉も笑顔でそれらしいポーズを決め、ピーマンとパプリカに返事を返す。
『おおっと!?オーナーは本気をご要望だ!これは答えるしかない!!』
「解ってるじゃねえか!」「本気で行けスター!!」「頑張れ!!!」
『始めるぜ、、、レディー、ファイ!!』
司会の天開が開始を告げる。
「速攻っパ!」
>>125
真っ先にパプリカが動く。
筋骨隆々の巨体からは想像もつかない程機敏な動作で双葉に駆け寄り、その勢いのまま飛び上がり頭部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。
『早速来たぞパプリカッター!!シャープな蹴りは正に刃物!!!』
「へえ刃物、か!双葉のナイフとどっちがするどいかな」
空を切り裂く膝蹴りを屈んで避け双葉は不敵に笑う。そして飛び膝を外し背中を向けた敵にナイフの斬撃をお返しとばかりに叩き込む。
「ッ!!、、、、」
「今行くっピ!」
一拍遅れて駆けつけたピーマン。
相方に負けず劣らずの巨体から繰り出されるのはただのパンチ。
「ピノちゃん、頼んだ」
「了解ですわ、、、ぐっ!?」
『出た!Punchマン!!強烈な拳の嵐が敵を襲うぜ!!!』
ただのパンチがピノの繰り出した鋼の槍を押し返す。
「このまま押し切ってやるっピよ」
「、、、、!?拳の勢いが止まりませんわ、、くっ!」
数多の試合で鍛え上げられたその拳は正に完成された暴力。
数多の試合で鍛え上げられたその肉体は尽きることなき無限の体力を誇る。
故に、ピーマンは完成された暴力を絶え間なく相手に浴びせ続ける事が出来る。
『緑の覆面野郎、その名はピーマン!こいつはパンチしか出来ねえ、、、だがパンチなら誰にも負けねえ!!』
「渋いぜ!」「勝てるぞ!!」「一点特化こそ至高だな」
じりじり、じりじりとピノは押し込まれていく。オーロラの様な瞳が苦し気に歪む。
>>126
「ジリ貧ですわね、、、、」
「ピノちゃん、、、!」
ピノの援護に向かおうとする双葉、そこにパプリカが立ちふさがる。
「shall we dance?っパよ」
「のー!とっとと倒してピノちゃんをたすけるの!」
「オイラはそう簡単に倒れないっパ!」
そう言うと、パプリカはドンッと周囲が揺れるほど床を強く蹴り空高く飛び上がる。
「え?」
筋骨隆々の巨体が空を飛ぶ。そんな現象を前に思わず惚けてしまう双葉。
「行くッパ!!」
パプリカは下に見える桃色の頭、つまり双葉に向けて全体重を乗せた蹴りを叩き下ろす。
「、、、!!、、ぐぅっ!!」
我に返った双葉がすんでの所で避けるも、側頭部を僅かに掠った蹴りが脳を揺らす。
『遂に来たパプリカの空中殺法!変幻自在蹴り技のデパート!!』
『パンチのピーマン!蹴りのパプリカ!スターコンビに押され気味のオーナー二人!!まだまだ勝負は解らない!!!さあどうなる!?』
久しぶりの投稿です。五人が引退する事が結構ショックで、暫く投稿期間が開いてしまいました
後、ピーマンとパプリカのキャラ付けにかなり苦労しました、、、、
ついでに紹介し忘れていた鳴神とケリンの宝具とかの紹介もしておきます
鳴神
卑火色金 元ネタ ヒヒイロカネ(和製オリハルコン的な奴)
効果 透明化
周囲の温度を操ることで光を屈折させ透明になる宝具
ケリン
北朝将軍凱旋火 元ネタ 某北の将軍
効果 爆撃
指定した場所を爆撃する宝具
おっつおっつ、懲りない二人は解釈一致、引退はワイもきつかったがピノ様が悲しみは時間が解決してくれるって言ってたし頑張る
>>127
「流石スター!!」「オーナーも中々だったが流石にな、、、」「見ろよオーナー達の目、絶望してないぜ」
ピーマンとパプリカに押され気味の二人、観客達の大半は既にピノと双葉の負けを確信し始めている。
「、、、しょうがないですね。奥の手を使います」
ピノは苦々しい顔でそう言い放つ。
大きく後ろに飛んでピーマンから距離を取ると槍を自分の方に向け、一瞬躊躇した後ギュッと目を閉じ槍を自身の手のひらに突き立てる。
流れ出す真っ赤な血、穂先に垂れて青く染まる。青い血を浴びた槍は怪しげに輝く。
流れ出た血が槍に染み込み、染み込む程に槍は存在感を増す。
『これは何だ!?何も判らねえがこれだけは解る!!これはヤバい!!!』
「ぐっ、、、、ふぅ。おや、ピーマンさん。待っててくれたんですね」
痛みに顔をしかめながら瞼を開け、ピノがピーマンの方を見ると、そこには堂々と挑戦者を待ち構える緑の覆面男が居た。
丸太の様に太い腕を組みピノを待つピーマン。ピノが声を掛ければピーマンはゆっくりと動き出す。
>>132
「相手の大技は甘んじて受けるのがオイラの流儀っピ」
「成程。では次の攻撃、勿論受けてくれますわよね?」
「無論、、、、拳で受けてやるっピ!」
お互いがお互いに近付き距離を詰める。お互いがお互いの間合いに入る。
ピノが槍を、ピーマンが拳を繰り出す。槍vs拳、ほんの少し前にも起きた勝負。違うのは結果のみ。
つい先程までは拳に押し返されていた槍、今度こそ拳を貫き武器としての役割を果たす。
「どうです、わたくしの槍は」
「う、動けないっピ。束縛?違う。麻痺毒?、、、違う。これは、、、生命力を抜き取られているっ、、、ピ、、、」
>>133
ピーマンの体から力が抜ける。ピノが槍を引き抜けば堪らず膝をついてしまう。
『ピーマンが膝をついた!?ど、どういうことだ?』
「この槍は生きているんですよ、、、、普段は眠りこけていますが、わたくしが血を与えると目覚めますの」
「、、、、、、、、、、」
『頑張れスター!!立てスター!!お前はこんなもんじゃ無い筈だ!!』
「そうだ!」「根性見せたれ!」「立ってくれぇ!!」
ピーマンが立ち上がる気配は無い。観客の応援が虚しく響き渡る。
「効果は貴方が言った通り『生命力の吸収』。ついでに切れ味が上がったりしますね」
「、、、、、、ないっピ」
ピーマンの体がピクンとほんの少しだけ動く。
「ただ、、、これデメリットもありましてね。槍の能力を発動すると、わたくしの生命力も少なからず吸い取られるんですの」
「オイラは、、ないっピ」
足に力を籠めゆっくりと体を持ち上げていく。
「だから、、、今は立っているだけでも正直辛いんですけどね」
「オイラは負けないっピ!」
『、、、、、!!!立ったぁ!!』
遂にピーマンが立ち上がる。
>>134
足は生まれたての小鹿の様に震え、体は病人の様にフラフラとおぼつかない。しかし、それでもピーマンは立っている。戦意に満ちた瞳でピノを見つめ立っている。
「、、、、、倒したと思った敵が起き上がり、お互い疲労困憊、純粋な実力は敵が上。普通に考えれば顔をしかめて愚痴の一つでも吐きたい状況、、、、でも不思議ですわ。わたくし、今凄く楽しいんですよ」
「それが戦いって奴っピよ。オーナー」
「成程」
額に浮かんだ汗を優雅に拭いピノは槍を構える。
今にも倒れそうな体に喝を入れピーマンは拳を構える。
「うりゃあああああ!!!!」
「おらああああああ!!!!」
槍と拳のぶつけ合い。通算三度目の勝負。一度目は拳が、二度目は槍が制したこの勝負。三度目の結果は果たしてーーーーーー
「グフッ、、、」
「ガッッ、、、、、」
三度目の勝負。結果は引き分け。
『ピノ、ピーマン、ダブルノックアウトォ!!!両者一歩も引かず意地を魅せ切ったぜ!!』
ピノとピーマン、二人は同時に地面に倒れ伏す。
>>135
「ピーマン!!」
「ピノちゃん!!」
一方、双葉とパプリカ。
パプリカ優勢で運んでいた戦い、そこに一瞬の停滞が生まれる。
「、、、、よくやったピーマン。後は任せろ」
一瞬の停滞から双葉よりほんの少し早く復帰したパプリカ。グッと足に力を籠め、床を蹴り前に飛ぶ。
「これで倒すっパ!!」
『パプリカが決めに行ったぜ!!単純強力ドロップキック!!!』
全体重を乗せた超速の蹴り、受け流し不可能、一撃必殺の大技は、、、、双葉に届かなかった。
「な、何だ、、、これ何っパ?」
『こ、これは!?パプリカの体から突然ツタが生えて来たぞ!?』
「、、、、、ふぅ。見てのとおり植物だよ。これが双葉のちから『ナイフで切りつけた所から植物をはやして動かす』」
パプリカの体からヒュルヒュルとツタが生え、絡みついていく。
ツタはあっという間にパプリカを動けなくしてしまう。
「ただねぇ、これ発動するまでにかなりたいむらぐが有るんだよねー。一歩間違ってたら双葉はまけてたね」
「、、、、」
>>136
ツタがパプリカの全身をギリギリと締め上げていく。最早身じろぎ一つ出来ず、声すら出せない。
(オイラはこのままあっさりと負けるのか?ピーマンはあんなに見事な戦いを魅せたというのに?)
「、、、、、うん、卑怯な勝ち方なのはじかくしてる。でも双葉たちは負けるわけにいかないの」
パプリカの余りにも無念な表情を見て、双葉は声に罪悪感をにじませながらナイフをパプリカの首筋に当てる。
(違う、違う!!卑怯なんかじゃ無いっパ!勝ちは勝ち、ルールに従っている以上それは全て正しい勝利っパ!)
「いくよ、、、ごめんね」
双葉がナイフの刃先を首の中にそっと沈ませていく。
(違、、う。無念なのは、、、こんなあっさりと負ける、、、オイラ、、、、自身、、、、)
ダメージが一定量を超え、ピノの宝具『己が身こそ領地なれば(ザ・ドミニオン)』の定めたルールに従いパプリカは気絶する。
『、、、勝者は!ピノ双葉チームだぜ!』
「少し、あっけなかったな」「こう言う日もあるさ」「無数の名勝負を見せてきたあいつも、毎回名勝負とはいかんさ」
「次はせいせいどうどう、やろうね」
勝敗が決まった。
双葉がピノを抱え会場から出ようとした瞬間、背後からブチブチと嫌な音が聞こえて来る。
「え?」
双葉が振り返った先、そこには幾重にも巻き付いたツタを引きちぎり、立ち上がるパプリカの姿があった。
>>137
『な、何が起こっている?パプリカは既に気絶している筈だぜ?』
ザワザワと観客席からも困惑の声が上がる。
「ぜったいに双葉がたおしたはずなのに」
フラリユラリと初めて歩くの赤子の様な足取りで双葉に近づくパプリカ。
パプリカに意識は無い、倒れる直前に抱いた『このままでは終われない』と言う感情、ただそれだけが今のパプリカを動かしている。
「もう意識がないのに、何でうごけるの?」
双葉のすぐ側まで辿り着くと、パプリカは蹴りを繰り出す。
鋭く、重い蹴り、普段よりも脱力した状態から繰り出された剃刀の様な蹴りは双葉の真ん前を掠め、通り過ぎていく。
パプリカの蹴りが通り過ぎた直後、突然双葉の体に刃物で切られた様な痛みが走る。
「ぐっ!?、、、蹴りでカマイタチがおきたの!?」
「次は、、、、、勝つ、、、、、パ」
突然の痛みに狼狽える双葉、それを見たパプリカはいたずら気な笑みを浮かべ、今度こそ倒れ伏す。
『、、、、流石パプリカ!!!こいつもやはり魅せて来るぜ!!!!ピーマンにパプリカ!!あいつらはやっぱりすげえ!!そしてそいつらに見事勝った双葉とピノ選手!!!両チームに喝采を送ろうぜ!!』
「凄いですピノさん!!」「やっぱスターは負けも様になるな!」「桃髪のカワイ子ちゃんがあんなに強いとはびっくりだぜ!」
双葉はピノを丁寧に抱え直し、歓声鳴り止まぬ闘技場を後にする。
>>138
「オイラ、しばらく修行してくるッパ」
「突然何言ってるっピ?」
ここは医務室。試合で負けた人間が暫くの間留まる部屋。
そこにピーマンとパプリカは居た。
「だってオイラ、あんな情けない負け方したんだから、、、、てピーマンは知らないッパか」
「いや、直接見てはいないけど、パプリカは立派に戦っていたと聞いたっピよ」
「そりゃ、優しい噓って奴ッパ。オイラは情けない負け方をして、勝った人間に罪悪感まで抱かせてしまったパ」
パプリカはくたびれた声でそう言うと、医務室のベッドに寝転がる。真っ白なシーツが歪んで大きなシワが幾つも生まれる。
パプリカの記憶に残ってるのは、双葉が申し訳なさそうにとどめを刺す所まで。気絶してからの事は記憶に無い。
「正直、オイラの蹴り技には限界を感じてたっパ。巨体が空を飛んで、蹴りを叩き込む。派手で威力も有る。でもそれだけ、オイラの技は所詮無駄の多い見栄え重視のモノ。ピーマンの拳技よりもずっと弱いっパ」
「、、、、確かにオイラの拳技の方が完成度は高いっピ。だけど、パプリカの空中殺法は誰にも真似できないっピ。その並外れた身体能力と天性のバランス感覚があって始めて使える唯一無二の技っピ」
「でも強くは無いっパ。強く無いならスターを名乗る資格なんて無いっパ」
そうパプリカはやけくそ気味に言い放ち、自分の顔を両手で覆う。
と、酷く落ち込むパプリカを見たピーマンはおもむろに立ち上がり懐から何かを取り出す。
>>139
「これ、何か解るっピ?」
パプリカはゆっくりと顔を上げ、ピーマンの取り出した物を見る。
それは黄ばんだ紙。ザラザラの茶封筒に入った古い手紙。
「手紙、、、っパか?」
「その通り。でもただの手紙じゃないっピ。これはオイラが初めて貰ったファンレターっピ」
「ああ、ピーマンがいつも大切に持ち歩いてる奴ッパ、、、、」
「パプリカも初めて貰ったファンレターを持ち歩いてたピよね?」
「勿論」
パプリカも懐から手紙を取り出す。
濡れたり破れたりしないよう小さなケースの中に入れてある大切な手紙。
「これをもらった時、どんな気持ちになったピか?」
「本当に嬉しかった。それで、今でもファンレターや声援を貰うと嬉しくなるッパ」
内容を空で言える程何度も読んだソレを一文字一文字なぞる様に読み返す。
一行読むたび、パプリカの心は少しづつ軽くなる。
「オイラ達は、勝利の為に戦うんじゃない。ファンレターを書いてくれる、応援してくれる、見に来てくれる人達を楽しませる為に戦っているっピ、、、、だから、修行に行くなんてやめるっピ。修行に行ったら試合で観客を楽しませる事が出来無くなるっピ」
「、、、、、解った。でも情けない負け方をするのはもう嫌っパ。今度新技を開発してみるっパ」
「それは良いアイデアっピね」
この後パプリカは紆余曲折の果てに、カマイタチを起こし相手を切り裂く新技『カミソリ蹴り』を生み出す事になるが、それはまた別のお話。
大学の勉強が徐々に忙しくなり、前回程では有りませんが投稿が開いてしまいました、、、、
でも戦闘シーンは結構キャラごとにらしさを出せたので満足です。今度は溜めを身に意識してみようと思います。
細々とした設定集
『スパークリングチャット』
元ネタ スパチャ
双葉ちゃんとピノ様が経営する闘技場。ピノ様の宝具のおかげで、有望な選手が怪我で引退する事がない為選手のレベルが高い。
元々野球場だった廃墟を改築した建物だったりする。
『ピーマンとパプリカ』
資料が殆ど存在せず、キャラ付けにかなり苦労した存在。
結果、『スパークリングチャット』のスターと言うキャラに。
『観客を楽しませる自分』に誇りを持っており、試合において勝敗よりも観客が楽しませる事を常に意識している。
ピーマンの技はひたすらに敵を殴りつける拳のみ、パプリカの技は空に飛びあがって敵を蹴りつける物、レパートリーが結構多い。
おっつおっつ、ピーマンパプリカかっけぇじゃねぇか、個人的にピノ様のうりゃああが半角カタカナで脳内再生される
>>142
半角カタカナで書こうか迷いましたが、あの場面だと茶化す様になってしまうかな、と思い辞めた経緯が有ったりします
ピーマンパプリカを始めとした一部のキャラは(ストーリー上の都合で)登場回数がどうしても少ないのですが、そう言うキャラが出る時は出来る限り焦点を当てるので気に入っていただけたら幸いです!
>>140
『準々決勝第三回戦!選手の入場だぜ!!』
熱気に満ち満ちた闘技場、司会の声に従い四人の選手は会場へと歩を進める。
『ばあちゃる&馬越の馬コンビ!!それに対するはエイレーン一家の家長と若頭、エイレーン&ミライアカリだぁ!!!』
「岩本カンパニーのケンタウロス馬越、強いぜあいつは」「歓楽街の元締めエイレーン一家。弱い訳がねえ!」「行け馬マスク!」
馬越とばあちゃる、ミライアカリとエイレーンの四人はそれぞれの獲物を携え相対する。
馬越は飾り気の無い武骨なハルバードを、ばあちゃるはシロから渡された大振りのナイフを構えている。
対するエイレーン一家、エイレーンは古びたサーベルを一振り持ち、ミライアカリの携える黒い革製の鞭は艶めかしく光っている。
『では!試合開始だぜ!!』
司会の天開司が試合開始の合図を出す。始まると同時にミライアカリは後ろへと下がり、逆にエイレーンはアカリを庇うように前へと出る。
『早速出たぞ最強陣形!!エイレーンが戦いミライアカリが補助に徹する!!準々決勝第三回、今に至っても未だにこの陣形を崩せた者はいない!!』
「これは厄介そうっすね」
「馬越も全くもって同意ですよ、、、、おや?」
アカリは鞭を『エイレーン』に向けて振るう。
「ちょっ、え?何やってるんすか?」
「もっと、もっとお願いしマース!」
「もう、、、、しょうがないなぁ」
>>144
バシン、バシンと強烈な音を奏で、鞭がエイレーンの全身を叩き打つ。
金色の髪を快活になびかせるミライアカリが革の鞭を振るう様はひたすらに倒錯的だ。
恍惚の表情で鞭を受けるエイレーンは完全に変態的だ。
「なぜ、公衆の面前でこの様な事を?」
「オイラは何でSMプレイを見させられてるんですかね、、、、」
ばあちゃるにとって、エイレーン一家というのは短い付き合いながらも印象深い存在だった。
思慮深いエイレーンに快活なミライアカリ。その二人が、今自分の前でSMプレイを敢行している。意味が解らなかった。
「、、、、ふぅ。お待たせして申し訳ないデース」
「、、、、、、ああ、大丈夫っすよ」
鞭の音が止む。
エイレーンは服についた埃をはたくと、啞然とする二人に向けて事もなげに話しかける。
余りの事に脳が追い付かないのだろう、ばあちゃるは何処かズレた返事を返している。
「そうですか、それは良かったデース」
「ええ、オイラ女の子待つなら何時間でも、、、、え!?」
ばあちゃるの視界から突如エイレーンが消える。
>>145
「アガッ!?!?」
「叩っ切られてくだサーイ」
『エイレーンが消える!その正体は残像すら残さない高速移動!!数多の対戦相手を翻弄した神速だぜ!!!』
「迅いな、、、」「あのスピードタネがありそうだが、さて」「凄ぇ!」
次の瞬間ばあちゃるの真正面にエイレーンが現れる。現れたと思った頃にはもうエイレーンのサーベルが振り下ろされている。
ばあちゃるは何の反応も出来ず後ろに吹き飛ばされる。
「やってくれますね貴方!!」
突如現れたエイレーン。全くの想定外。その想定外に対し馬越は即座に反応する。
茶色い瞳をスウと細め、ハルバードの鋭利な先端を真っ直ぐに突き下ろす。
『ケンタウルスの高い身長から繰り出される突きぃ!!厚さ9.5mmの鉄板すら貫通する馬越選手の得意技だぜ!!』
「ハァッ!!」
マグナムの如き一撃をエイレーンは受け流し、返す刀で反撃する。やる事は単純、難易度は激高。それをエイレーンはいとも簡単にやってのける。
とっさの一撃を受け流され、体勢を崩した馬越の腹にサーベルの一撃が入る。
「く、、、これで勝てる程甘くは無いですか」
「勿論デース。アカリさんお願いします」
「OK!」
「ウビッ!?」
いつの間にか起き上がり、背後からエイレーンを襲おうとしていたばあちゃるをアカリの鞭が襲う。
ばあちゃるの振り上げたナイフを鞭が器用に弾き飛ばす。
>>146
「ちょっ、マジっすか」
「ナイスですアカリさん!」
「えへへー、どういたしまして!」
『ミライアカリの華麗な鞭さばきが炸裂!!まるで鞭が生きているのかの様な精度!』
「鞭ってあんな風に動くのか!」「私も鞭使ってみようかな」「金髪なのにいぶし銀な活躍だねぇ!」
弾き飛ばされたナイフはクルクルと回りながら山なりに飛んでいき、試合場の端に落っこちる。
ばあちゃるはそのナイフをチラリと名残惜しげに一瞥した後、直ぐに視線をエイレーンへと戻し懐に忍ばせておいた予備の武器を取り出「させまセーンよ」
取り出そうとした瞬間エイレーンがばあちゃるに例の高速移動で近寄り、首を引っ掴んで持ち上げる。
「ぐっ、、、ちょっと力強すぎじゃないですかねハイハイ」
「それはアカリさんのスキルデスね。『鞭で打った相手を強化する能力』特別に教えてあげマース」
「成程、、、最初のアレは、、、、そう言う事っすね、、、、所で、、、、そろそろ息が、、、苦し」
ばあちゃるの首が締まり息ができない。徐々に視界が暗く、意識が遠くなっていく。
「ばあちゃるさん!!」
馬越が助けに入る。馬の下半身から生み出される加速力、たゆまぬ鍛錬に支えられた技術、ハルバードの重量。それら全てを十二分に発揮する一撃。十分な助走をつけてからの振り下ろし。
何もかもを両断出来る一撃がエイレーンの頭上に降りかかる。
「グルルルルァ!!!」
「ちょっとヤバいデスね!」
「ガハッ、ゴホッ、、、、、ハァハァ、、、フゥ。助かったっす馬越さん!!」
>>147
どんな技量をもってしても受け流せないほどの斬撃、エイレーンはばあちゃるを手放しての回避を余儀なくされる。
『強烈な振り下ろしぃ!!ハルバードの刃が血を吸いてえと唸り立ってるぜ!!!』
「流石は岩本カンパニーの馬越、強いデースね」
「おや、馬越の事を知っているんですね。光栄ですよ」
「当たり前デース。この街に住んでいてあなたの事を知らなかったらモグリですよ、、、、、ただ、ばあちゃるさん。あなたの強さには納得が行きまセーン」
「オイラ?」
ばあちゃるが聞き返すと、エイレーンは訝し気に目を細める。
嫌な予感がする。ばあちゃるの首筋を生温い汗が流れ落ちる。
一応この戦いの最後まで書きあげたのですが、眠過ぎて推敲が出来る状態では無いので明日続きを上げます
ついでに紹介し忘れてた設定をば
蟲槍『無銘』
ピノ様の使ってた生きている槍。カルロ家に伝わる槍と言う裏設定が有る。普段は眠っているが持ち主の血を吸うと目を覚まし、能力を発揮する。由来すら失われる程古い槍。
『植物操作:C』
双葉ちゃんのスキル。切りつけた所から植物を生やして操る。
『馬越健太郎』
岩本芸能社所属のV。古参のVファンならかなりの確率で知っているV。
今作ではケンタウロス要素をかなり前面に押し出しているが、実際の馬越さんはそんなにケンタウロス要素なかったりする。(動画や配信では基本胸から上しか映らない為)
>>148
「ばあちゃるさん、あなた平和な場所で育った人ですよね?」
「まあ、、、、そうっすけど何で解るんですか?」
「それは所作や喋り方、動きの癖とかデースね。組織の長やってれば嫌でも解るようになりマース、、、、と、まあそれは良いんです。私が言いたいのは、何故平和な環境で育ちながらもそこまで戦えるのか?と言う事です」
エイレーンが滔々と語り出す。
エイレーンの放つ雰囲気に押され、闘技場全体が徐々に静かになっていく。
「私が最初にばあちゃるさんを切りつけた時、妙に硬かったんデースよ。あれは何ですか?」
「それは、、、シロちゃんやリコリコに初歩的な魔術を教えて貰ったんすよハイ」
「どんな?」
「えっと、、、、まあ『触れた物体を固くする』って言うごく初歩的な魔術でオイラの服を咄嗟に固くして防御したんですよハイハイ」
ばあちゃるは必死にいつもの通りの口調を保ち、エイレーンの質問に答える。
エイレーンは氷の様に冷ややかな声でばあちゃるを問い詰める。
「成程。ではあなたは覚えたばかりの魔術を咄嗟に使えたんデースね、あの一瞬で。しかもそのすぐ後には私の後ろを取ろうとした。戦場で育った人間でもそこまでやれるのはごく一部デースよ。凄いですね」
「、、、、」
重い圧迫感がばあちゃるを締め上げる。
エイレーンの赤い瞳が『お前は異常だ』と語りかけている。
>>151
薄々、可笑しいと気付いていた。それを考える程の暇がなかったから、ソレを誰にも言われる事が無かったが故に無視出来ていた。その矛盾を今突き付けられた。
ばあちゃるはもう、一歩たりとも動けなかった。
「、、、、、、、」
「エイレーンさん、ここは戦いの場です。討論の場では有りません」
「何が言いたいんデースか?」
馬越がばあちゃるとエイレーンの間に割って入る。
「戯言はお辞め下さいと言っているんです!」
関節の駆動に体の捻りを加えた渾身の薙ぎ払い。
しかしその一撃は意識の外から飛んできた鞭によって防がれる。
ハルバードを一番上まで振り上げた瞬間。武器の勢いが死ぬほんの一瞬、その一瞬をアカリは狙っていた。結果は成功、アカリは見事鞭で馬越の武器を巻き取る事に成功する。
「何!?」
馬越の手から武器が奪い取られる。
床に落ちたハルバードがガランと大きな音を立てる。
馬越は自らの獲物が回収できないと一瞬で判断し、馬の下半身による蹴りを繰り出そうとするが時すでに遅し。
馬越の首にサーベルが突きつけられる。
「一度見せた手に引っ掛かるのを見るに、冷静さを失っている様デースね」
「当然ですよ、肩を並べて戦う仲間を侮辱されて憤慨しない戦士がおりましょうか」
「、、、それは、すみませんね」
「それに!馬越は貴女にもキレてるんですよ」
ギリギリと音を鳴らさんばかりに歯を嚙み締め、忌々し気な顔で語気を荒げる。
>>152
「『エイレーン一家』、、、、歓楽街を縄張りにする一家。水商売の人間に対する暴力やヤクの取引を取り締まり、それの対価として店から金を貰い成り立っている一家だと聞いていました。住民曰く支払う金は然程高くなく、理由が有れば支払いを減らしてくれる。仁義の一家だと聞いてました」
「、、、、、、」
「だから馬越、今日戦うのを凄い楽しみにしていたんですよ。そんな一家の長は一体どれ程素晴らしい人間なのか、ワクワクしてたんですよ」
エイレーンに顔を近づけ、吐き捨てるように馬越は語る。
首筋に突き付けられたサーベルの刃が浅く食い込む、しかし馬越はそんなのお構いなしとばかりにズイと威嚇するように近付いていく。
「なのに蓋を開けてみたらどうです?口先で相手を揺さぶる、姑息な手段を取る浅ましい姿!勝手な失望だとは理解しています、、、、ですが!」
「馬越さん。この街で綺麗事を通す為には沢山の暴力と噓が要るんデースよ。歓楽街は今の『エイレーン一家』が守り切るには余りにも大きい。私達がこの大会で優勝すれば名声が高まり、組織を拡大する事が出来るかも知れない。ですが、もし無様な結果を出せば完全に逆効果。ここで負ける可能性を作る訳にはいかないんデースよ」
苦悩に満ちた顔でエイレーンは答える。額に刻まれた皺はより深くなり、瞳に込められた意思が悔し気に揺らぐ。
「己の品格を貶めようとも、目的は果たしマース」
>>153
エイレーンは腕に力を籠め、馬越の首にサーベルの刃を押し込「ウビィ!!」
エイレーンの顔面に何かが飛んでくる。白く、小さい、文字の書かれた長方形の紙。名刺だ。
「うわっ!だ、誰デースか!?」
「ばあちゃる君っすよ。エイレーンさん!魔術で硬化した名刺を喰らえハイハイ!!」
エイレーンが咄嗟に避けた名刺が試合場の壁に突き刺さる。
「硬化させた名刺、硬度は鋼鉄、鋭さも十分!どうですかねハイ」
「な、何で、、、、?あそこまで言われて、なぜそんなに早く立ち直れるんデースか!?」
「、、、、、こんなに小さな紙を正確に投げるなんて以前は出来なかった。エイレーンさんの言う通り、オイラは何かが可笑しいんでしょうねハイ」
ばあちゃるは背筋をシャンと伸ばし、エイレーンの顔を真っ向から見る。
「エイレーンさんに指摘されて、オイラは戦うのが怖くなった。以前のばあちゃる君と今のオイラの隔たりを認めてしまうようで、怖かったっす」
「でしょうね、誰でも怖いですよ、、、何でばあちゃるさんは克服出来たのデースか?」
「いやほら、エイレーンさん『己の品格を貶めようとも、目的は果たす』と言っていたじゃないっすか。あれを聞いた瞬間この言葉を閃いて、それで吹っ切れたんでふよハイ」
「『己が己でなかろうと、目的は果たす』、、、、だからオイラは戦う事を恐れないっす」
堂々とした声でエイレーンに向かってそう言い放つ。
「アハハハハ!!エイレーンちゃん、心理戦はばあちゃる君の勝ちみたいだね!」
「アカリサーン、そこまで笑わなくてもいいじゃないデースか」
アカリは頬を膨らませるエイレーンを指差し、端正な顔に満面の笑みを浮かべる。
>>154
「アハハ、ごめんごめん。でもエイレーンちゃん凄く良い顔してるよ」
「おや、そうデースか、、、」
アカリの指摘した通り、エイレーンの顔には笑みが浮かんでいた。まるで口うるさい大人を悪戯に引っ掛かけた子供の様な笑顔だった。
「ハイハイ馬越さん、もう大丈夫です!第二フォーメーションお願いっす!」
「了解です、行きましょう!」
ばあちゃるが馬越の背に勢い良く飛び乗る。
『これは何だ!?ばあちゃる選手が馬越選手に騎乗したぞ!!!!一体何をするつもりだ!?』
「司会が喋り出したぞ」「ちょっと嬉しそうだな」「さっきまで解説とか出来る雰囲気じゃなかったしなぁ、、、」
司会が解説を再開し、観客の方にも徐々に熱気が戻り始める。
「馬越さん!考えがあるっす!!」
「どんな考えですか?」
「アカリさんのスキル『鞭で打った相手を強化する能力』によってエイレーンさんは強化されてるっす。だからアカリさんを倒せば、エイレーンさんは弱体化すると思うんですよハイハイ」
「成程!」
馬越はばあちゃるを乗せ、アカリ目掛けて一直線に走る。
「させまセーン!」
「押し通らせて貰いますよハイハイ!!」
『空飛ぶ名刺の雨あられ!まともに受ければ血の雨が降るぜ!!』
「くっ、、、」
馬越を止めようとするエイレーンに向け、懐から取り出した名刺を雑に何枚も投げつける。
エイレーンに対し有効打にこそならないものの、何とか足を止めさせる事には成功する。
>>155
『遂に辿り着いたぞ馬コンビ!アカリ選手を倒し、勝利する事は果たして出来るのか!?』
二人は遂にアカリを間合いの中に捉える。
何かする隙は与えない。アカリが鞭を振るう前に、エイレーンが追いつく前に馬越はアカリに蹴りを「まだまだぁ!」
何を思ったのか鞭を投げ捨て馬越に殴りかかるアカリ。
速くは有るが軽い一撃。何の痛痒も与えない筈の攻撃は、どういう訳か馬越の体を制止させた。
「これで、、、、、、あ」
「ちょっ、馬越さん!?、、、うわっ!」
「アカリの能力がいつから一つだけだと、、、、あばっ!?」
急停止した馬越の体、その上に乗っていたばあちゃるは慣性の法則によってアカリの方へ一直線に投げ飛ばされた。
『な、何と!?前に投げ出されたばあちゃる選手の膝がアカリ選手の顎にクリーンヒットォ!そしてKOだぜ!!』
偶然にもばあちゃるの膝がアカリの顎を打ち抜く。
勝利を確信した瞬間に予想外の一撃。それ程丈夫な訳では無いアカリはあっけなくやられてしまう。
「きゅぅ、、、、」
「え?マジっすか、やった!これで勝ちの芽が「ないデース」
「ウビバ!?」
ばあちゃるの背後から叩きつけられる一閃。
すんでの所で服を硬化させ致命傷は避けるが、エイレーンの圧倒的な腕力に吹き飛ばされる事は避けれない。
>>156
「あれ、、、?思ったより弱体化してないっすね」
「ええ、この強化はアカリさんが倒れても暫く続くんですよ」
成すすべなく床に転がるばあちゃる。
頼みの馬越も動く気配が無い。
「つ、つまり?」
「まだバリバリ強化状態デース」
「そんなぁ、、、、じゃ、じゃあアカリさんのアレは何ですか?馬越さんを無力化した奴っす」
「秘密デース」
「えー、戦った仲じゃ、、、ふべっ」
ばあちゃるのマスクとスーツの間、唯一肌が露出している場所にサーベルが差し込まれる。
あっという間にダメージが一定量を超え、ばあちゃるは気絶することになる。
『勝者エイレーン一家!!!未だ底の知れぬこの二人!そして熱く、愉快な試合を魅せてくれた馬越とばあちゃる!この四名に喝采を送ってくれ!!!!』
「よくやった!!」「馬にしてはやるじゃん」「さっすがエイレーン一家!」「岩本カンパニーも負けてねぇ!!」
「楽しかったデース、、、、本当にいつぶりでしょうかね。こんなに楽しい戦いは」
あらん限りの歓声、その中に一人立つエイレーンは楽しげにそう呟き、会場を後にする。
>>150
でしょうねぇ、、、、ケンタウロスって普通に幻獣なのでfate的に考えると相当ヤバいんですよね
ばあちゃる伏線回&(ちょびっとだけ)成長回でした
硬化の魔術は衛宮さんが初期から上位互換の強化魔術使えてたし、才能無い素人のばあちゃるでもこれ位は使えても問題ない、、、筈
それとちょっとしたお知らせです。pixivの方にも連載してみる事にしました、ユーザーネームはasdです。ここでの連載を辞める予定はありません。
理由は幾つかありまして
初期のガバを修正したい
どれだけの人が読んでくれたのか可視化したい
pixivで推しの布教をしたい
pixivは二次創作の規約が異常に緩い
の四つです。
それと重要な知らせです。シロちゃんのキャンパスアートとマグカップが明日届くようです!いやったぁ!!
おっつおっつ、プロデューサー足るもの名刺手裏剣位使えないとね
後キャンパスアート&マグカップおめでとう
>>160
まだ届いていませんが今から楽しみです!
馬は名刺手裏剣だけでなく、様々な技を使いこなして味方をサポートするカズマさん的ポジションになる予定です!!
>>157
「フゥ、、、、」
ばあちゃるは短くため息をついて空を見上げる。
ここは医務室、では無く闘技場の外。
馬越と共に闘技場の外壁にもたれ掛かり、太陽と人口の光に照らされたグーグルシティを眺めていた。
「ちょっと疲れたっす」
「そう、ですね」
馬越は紙煙草を箱から取り出し咥え、ライターで火をつける。
箱には鮮やかな青で描かれた孔雀と『PEACOCK』の文字列が描かれていた。
「『ピーコック』ですか、初めて見る銘柄ですねハイ」
「かなり珍しい銘柄ですからね、、、、いちいち取り寄せてもらってるんですよコレ。ばあちゃるさんも吸いますか?」
「うっす、有難く吸わせて頂くっす」
いつも被っている馬のマスクを軽く持ち上げ、咥えた煙草に火をつけてもらう。
久しぶりに吸う煙がばあちゃるに少々の懐かしさと独特の風味を運んで来る。
「これ結構旨いっすね」
「ですよね。マイナーなのが不思議なくらいですよ、、、、ま、味だけじゃダメって事でしょうね。正しいだけの理想と同じですよ」
馬越は自嘲気味に笑いながらそんな事を呟く。
吐き出した煙がビル風に吹かれ散り散りになって消える。
>>162
「どうしたんすか馬越さん?」
「いや、ね。エイレーンさんの言っていた『綺麗事を通す為には沢山のウソと暴力が必要』と言うセリフ、馬越に刺さるなぁと思いましてね」
「悩みが有る感じっすか」
「ええ、少し愚痴を吐いても良いですか?」
「勿論。オイラで良ければ付き合いますよ」
馬越は根本まで吸った煙草を灰皿に捨て、ポツリポツリと話し始める。
「馬越の所属している『岩本カンパニー』の目的は、『グーグルシティの外に点在する難民コミュニティの支援』です」
「素晴らしい目的じゃ無いですか」
「目的は、我ながら素晴らしいんですけどね。現実は中々上手く行かないですよ。何にしても金が足りない、やってる事は殆ど慈善事業なので収入なんか殆ど無いですから。本当なら汚い事やってでも金をひねり出すべきなんでしょうけどね」
「目指せる時点で凄いと思いますよハイ」
ばあちゃるの慰めに馬越はゆるゆると首を横に振り否定する。
「ばあちゃるさん。結果は出てないけど頑張りました、で褒めて貰えるのは子供までですよ」
「そりゃ、そうっすけど」
ばあちゃるは歯切れ悪く答えを返す。
咥えたままの煙草が所在なげに揺れる。
「、、、すみません。今のは八つ当たりでしたね」
「そう言う時もあるっすよ」
「そう言ってもらえると有難いです。では、馬越はそろそろ」
「あ、ちょっと待って下さいっす」
帰ろうとする馬越をばあちゃるが呼び止める。
少しだけ面食らった顔の馬越に質問を投げかける。
>>163
「一つ質問なんすけど、なんで馬越さんは岩本カンパニーに入ろうと思ったんですか?」
「なんで、、、ですか。そうですね、『理不尽な事を見ると腹が立つ』からでしょうね。許せない訳じゃないんですよ、ただ腹が立つんです」
「だから岩本カンパニーに入ったんですねハイ」
「そうです、街に入れずカカラの脅威に晒される難民が居る、と言う理不尽には昔からムカムカしてたんですよ。だから岩本カンパニーの仕事は馬越の天職でしたね」
微かに熱を帯びた声で馬越は語る。
理知的な茶色い瞳の奥に情熱の光が灯る。
「ま、理由はそんな所ですよ」
馬越は二本目の煙草を取り出し火を付ける。
「おや、二本目行っちゃうんすか」
「普段は一本で終わりですけどね、今日は特別です」
両の目を閉じ吸い込んだ煙をゆっくりと味わう。
赤く静かに燃える火が、煙草の胴をジリジリと燃やし灰に変える。
「こんなに愚痴吐いといてなんですけど、馬越はやり方を変えるつもりは無いですね」
「そうなんすか?」
「理不尽が大嫌いな馬越が『正しい事をする為に汚い事をしなくちゃいけない』なんて理不尽、我慢出来る訳が無いですからね。例えエイレーンさんの言っていた事が事実でも、それが確定するまで馬越は過程にこだわり続けますよ。今日みたいに妥協したくなる日はありますけど、そこで妥協したら一生後悔すると思うので」
>>164
「何というか、大変な生き方っすね」
「全くです。でもほら、馬鹿と煙は高い所へ、、、なんて良く言うじゃ無いですか。だから馬越も馬鹿の一員として高い理想を持ち続けてやりますよ」
「アハハ、じゃあ馬鹿仲間としてお願いがあるんすけど、二本目貰えますかハイ」
「勿論良いですよ」
グーグルシティの片隅で二人分の煙が立ちのぼる。
煙は高く、空高くのぼっていた。
物理実験のレポートやらなんやらが重なり、結構忙しかったのでかなり短めです、、、、、
馬越さんとエイレーンさんは立場や考え方をかなり対照的にしてみました
目的に向かって邁進しつつも現実との兼ね合いに苦しんでいる、と言う点では同じでも、それぞれの向き合い方は違う感じですね
(この作品内においては)未だ大きな挫折を経験していない馬に対して、『今は良いけど、壁にぶち当たった時どうするの?』と言う問いかけを遠回しに投げかける役割も担って頂きました
細々とした設定
岩本カンパニー
元ネタ 岩本芸能社
グーグルシティの外に点在するコミュニティへの支援を目的として生まれた民間企業
民間企業と言いつつもやってる事はほぼボランティアであり、収入の殆どはパトロン頼り。
メタ的な話をすると味方サイドに金があると話があっという間に終わる為、味方サイドの組織は基本貧乏になる。
グーグルシティから遠くに行く事が多い岩本カンパニーと、『楔』の探索をする為遠方の情報も欲しいブイデアとで利害が一致しているため、緩やかな同盟関係を組んでいる。
>>167
無理のない速度で書いてるので大丈夫です!
受験終わってからずっとダラダラしてたせいで大分鈍っているだけなので、感覚が戻れば問題なくなると思います
>>165
『準々決勝最終試合! 『グーグルシティ防壁構築戦線』『カカラ変異種異常発生』『マフィア連合によるクーデター』『同時多発サイボーグ狂化テロ』、、、様々な街の危機を救った英雄夫婦! 『蟷螂』のセバスさん&『蜜蜂』のメアリーさんVS謎の少女シロ&ニーコタウンの大ボス神楽すず!! 互いに劣らぬビックマッチだぜ!』
「ガキの頃に何度も本で読んだ英雄の戦いが見れるとは!」「ニーコタウンのボス、お手並み拝見だな」「シロ、、、、あんなに強い娘どこから来たのかしら」
沸き立つ闘技場、戦いの始まりを待ちきれない観客達の前に四人の戦士が躍り出る。
「二つ名で呼ばれると恥ずかしいんですがね、、、」
「変な所でシャイなのは老いても変りませんわねアナタ」
「すずちゃん、作戦は覚えてるよね」
「勿論です、、、、えっと、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、でしたよね」
真っ白な髪に髭を蓄えたセバス、フォーマルな執事服の袖は捲り上げられ、露わになった二本の腕からはそれぞれ大きな刃が飛び出しており正にカマキリと言った風体だ。
古風なメイド服に身を包んだ老婆エミリー、メイドらしい上品な立ち姿の中で左腕に取り付けたパイルバンカーが凄まじい異彩を放っている。
白髪の美少女シロが携えるのはハンドアックス。愛用している銃は大会のルール上使用出来ない為お休みだ。
眼鏡がよく似合う緑髪の少女神楽すず、その手に持つは暴力の化身釘バット。愛用の火炎放射器はシロと同じくお休みとなっている。
>>169
『試合、、、、開始!』
「行くよすずちゃん! まずはセバスから倒そう!」
「ハイ! 絶対にた、、、うわぁ!?」
「急がば回れ、で御座いますよ」
シロとすずは二人掛かりでセバスに近付き、襲い掛かろうとした瞬間すずの背後に現れる影、エミリー。
『相手の意識の隙間をすり抜ける移動方! 熟練の』
「いつ背後に!?」
「御二方はセバスに意識を向けている様子でしたので。それ」
「つっ、、、!」
エミリーの左腕がゴウと唸り鉄杭を吐き出す。避けづらい胴体を狙って放たれたソレを、すずは身を屈める事で辛うじて避ける。
真っ黒な鉄杭の先端がすずの背中に触れてそこで止まり、パイルバンカー本体に帰っていく。額に玉のような汗が幾つも浮かぶ。
『蜜蜂の針がすずを襲う! 誰もが恐れた必殺の一刺し!!』
「、、、、クソ! お返しだぁ!」
振り返りざまのフルスイング。豪風を巻き起こし迫るスズ渾身の一撃はーーー間に割り込んだ二本の刃に防がれる。
「私を忘れては困ります」
「忘れてなんか居ないよぉ! おほほい!」
シロがアホ毛をぴょこんと揺らし、すずの攻撃を防ぐため足を止めたセバスに手斧を叩き込む。
素早さに重点を置いた一撃。武器を振り上げる、と言う動作を切り捨て、代わりに前方への踏み込みと体重移動でもって手斧を加速させ最小限の威力を確保した、叩き付け。
>>170
「くらえぇ!! おじいちゃん仕込みの斧術!」
「甘い! エミリー!」
「はいはい」
『おおッと!? エミリーさんのパイルバンカーがシロ選手を掠めた! セバスさん越しの正確な一撃だ!!』
「ちょっ、マジィ!?」
シロは自身の直感に従って首を捻る。さっきまで首が存在していた場所を鉄杭が掠めていく。
もし当たっていればシロはそこで終わっていただろう。
「シロさん!」
「シロは大丈夫。やっちゃって」
「ハイ! 行くぞ私は!!」
『すず選手の全身が緑色の光を帯びたぜ! 何か来る!』
「おっと、これは不味い」
全身から緑色に光る魔力を放出するスズが、右足を力いっぱいにドンと踏み込む。次の刹那すずの右足を起点に魔力の爆発が巻き起こる。
何が起こるのか知っていたシロはいち早く距離を取り、続いてエミリーを素早く抱き上げたセバスが後ろへと飛ぶ。
「ぐっ、、、少し重くなったんじゃないか、エミリー」
「アナタの足腰が老いたんですよ」
結果として、相手から距離を取ることには成功したが、相対する二人にダメージを与える事は出来ていない。これでは振り出しに戻っただけだ。
むしろすずちゃんの大技を使わされた事を考えるとマイナス。あれは何度でも使えるモノでは無い。蒼い瞳を悔し気に細め、シロはそんな事を考える。
>>171
巧い。シロは二人をそう評価する。
エイレーン一家の超人的な戦闘技術、ピーマンやパプリカの常識外れなパワー、馬越のような特別な種族の生まれ、鳴神やケリンみたいな強い能力、二人にそれらの強みは無い。いずれの要素においてもシロ達とそれほど差はない。
強いて言うならばあちゃるが近い。自分に出来る事を把握し、適切なタイミングで適切な行動をする。ばあちゃると違うのはその完成度だ。
数多の修羅場を潜り抜けた、数十年分の濃密な経験が二人の強さを強固に支えている。
では、それらを踏まえた上でシロとすずちゃんが上回っているものは何か? それはきっとーーー
「すずちゃん、作戦変更するよ」
「解りました。どんな作戦ですか?」
「賢く行って、ぶっ飛ばす」
「了解です、、、けどどうしてですか?」
ーーー若さだ。
首を傾げるスズに、シロは指を二本立てて説明する。
「まず一つ、エミリーちゃんのパイルバンカーは当たればお終い、だから隙は少ない程良い。
二つ目、あの二人はとっても強いけど、それでも老いてるからね。タフネスやスタミナは少ない筈。なにか当てさえすれば勝利は近づく」
そう言われたすずが相対する二人をよくよく観察してみれば、セバスの白く老いた髭の間からは既に乱れた息が漏れ、メアリーの立ち姿には僅かに疲れが見える。
>>172
「確かに。じゃあ、、、、下の方を、ちょっと破壊!」
すずの獲物がゴルフクラブのような軌道を描き疾走する。背後から前方へ、闘技場の床を砕きながらバットを振り抜く。砕かれた床は無数の破片となってエミリーとセバスに襲い掛かる。
「いいねすずちゃん! シロも続くよ!!」
『すず選手の遠距離攻撃! 当たれば痛手は免れぬ破片の弾幕だぜ!』
「、、、ほう、面白い」
破片の嵐、そのすぐ後ろから二人に迫るシロ。
破片を避ければシロが手斧を叩き込み、シロに意識を割けば破片を食らう。敵に不利な二択を迫り判断能力を奪う、古典的かつ効果的な戦法はーー
「面白いが、まだ甘いですな」
「うっそでしょ?」
『破片を切り落とし、返す刀でシロ選手に切りかかったぁ! 一歩間違えれば敗北必至の所業を、顔色一つこなす! それがこの男!!』
「判断の早さだけは衰えませんわよねアナタ」
「衰えないよう毎朝シャドーボクシングしてるからでしょうな。知ってるだろエミリー」
「あれ五月蠅いから辞めて欲しいんですけどねぇ」
破られた。
急所に飛んできた破片だけを切り落とし、そのままの勢いで反撃したセバス。セバスの背後に移動し難を逃れたエミリーと軽口を叩き合いながらも、その目はシロを瞬き一つせずに観察している。
しかし、まだ終わってはーーー
「おや? もう一人の御方が見当たりませんね。今見える範囲にはおらず、背後に気配も無い。上ですか」
>>173
気付かれた。
エミリーのパイルバンカーが上方向に炸裂し、空から襲い掛からんとしていたすずを捉える。
「づっ?!」
「すずちゃん!」
「今のは良い手でした。下手をすれば食らってましたわ」
「その鋭い観察眼、相変わらずだなエミリー」
「毎朝、新聞のクロスワードで鍛えてますからねぇ」
「新聞を読む前にクロスワードのページだけ引き抜くのだけは辞めて欲しいんだがな、、、、」
シロが気を引き付けている間に、すずちゃんがエミリーに奇襲を仕掛け無力化する作戦。即興とは言えここまで見事に破られるとは。
ギラリと銀色に光る二本の刃、セバスが持つその刃に切り裂かれた腕が今更痛みを訴えてくる。
「くっ、、、」
強力なパイルバンカーの衝撃を逆に利用し、遠くに弾き飛ばされる事ですずは再度距離を取る事には成功している。しかしその代償が余りにも大きい。
鉄杭に削られた足がジクジクと痛む。
ピノの宝具『己が身こそ領地なれば(ザ・ドミニオン)』の効果に守られているこの闘技場で本物の怪我を負うことは無い、、、、無いが、その痛みは本物だ。
痛みは動きから精彩を、人から戦意を奪う。
「ピノ様のご友人方、貴女達は本当に強い。同じ頃の私よりずっと強い」
「でも今の私達には僅かに届かないですわ。年とは取るものではなく重ねるモノ。昨日の私達より、今日の私達の方が強い」
「研鑽を怠らない人間の最盛期とは寿命を迎える、正にその日で御座います」
かなり久しぶりの投稿です。再レポートと新しいレポートが重なってデスマーチ状態でした、、、、
真っ赤に添削されたレポートを返された時は一周回ってちょっと笑っちゃいました
今回のセバス&エミリーVSシロちゃん&ボス戦ですが、ちょっとセバスとエミリー強くし過ぎた気がします、、、、
老人になっても前へと歩み続けられたらなぁ、と言う個人的な老いへの願望を込めたキャラなので、気がつくと贔屓しそうになるんですよね。
おっつおっつ、お疲れさまです。私は仕事で大ポカやらかしたので精神的に死んでます。進み続けることは難しい事なんじゃ……
>>174
エミリーとセバスはそう言い放つ。その声からは己の強さへの信頼と誇りがにじみ出ている。
「『Mode shift Overload』御二方への敬意を表し、最高火力で葬らせて頂きたく」
「『Mode shift Bee sound』体への負担が甚大なので、まず使用しない奥の手でございますわ」
セバスの全身から青白い火花が飛び散る、周囲が揺らめく程の膨大な熱が放出され、赤熱した刃がセバスを赤く照らす。
エミリーの持つパイルバンカー、その中に収められた鉄杭。ソレがブゥゥンと蜂の羽音の様な異音をかき鳴らし猛然と回る。
『これはぁ!? もしかしなくても、あの有名な必殺技! マジの強者にしか使わないリーサルウェポンだぜ!!』
「爆発的に身体能力を上げるOverloadに!」「全てを削り取るBee sound!」「実際の迫力はやっぱり違うぜぇ!」
二人の出した奥の手に観客が沸き立つ。
「私は、、、、シロ様を殺らせて頂きます!」
「すず様、御覚悟でございます!」
真っ赤な残光を走らせ迫るセバス、すずの方にはエミリーが行く。
>>178
蒼い瞳をキョロキョロ回して勝機を探し、疲れた脳ミソをグルグル回して勝ち筋を考える。すずちゃんは今にもやられそうだ、宝具も間に合わない、周囲に利用出来るモノも無い、手斧を投げつけたとして何の意味もない。不可能が延々とループしてゆく。
シロに迫る二人の姿がゆっくりに見える。走馬灯と言う奴だろうか、きっともう、本能が敗北を受け入れて「頑張れシロちゃん!」
聞き慣れた声がシロの鼓膜を揺らす。
「、、、、!?」
声のする方を見れば、そこにはばあちゃるが居た。いつものふざけた雰囲気など投げ捨てて、一生懸命に応援するばあちゃるが居た。
シロの中から『諦め』と言う毒が消える、体に力が戻る。
勝てるかどうかなどもう気にしない、全力を出し切ってやる。手斧を捨て、拳に魔力を集め、切り札を「後は任せましたシロさん!」
エミリーのパイルバンカーがすずを貫く直前、すずの投げた釘バットがシロとセバスの間に割り込む。すずの残存魔力を全て流し込まれたソレは、床に接触した瞬間にはじけ飛ぶ。
「ぐっ、、、」
「よっ、しゃぁ!」
『すず選手が! 己を犠牲に隙を作り出したぜ! さあシロ選手、これを生かせるか!?』
バットの破片をもろに受けたセバスの体が大きくよろめく。
完璧な不意打ち。己の死を一切恐れず利用すると言う、戦場であれば有り得ない行動。この闘技場だからこそ迷い無く実行出来た不意打ち。
数多の戦場をかいくぐって来た二人だからこそ引っ掛かった一手。
>>179
「任されたよすずちゃん! 真名開放! 『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』!!」
そして、シロはこの不意打ちが行われる数舜前から宝具を放とうとしていた。故に、宝具の発動が辛うじて間に合う。
宝具『ぱいーん砲』、魔力を注ぎこんだ量に応じて威力が跳ね上がる殴打。
「いっけええええ!!」
「ぐぅ、、、が、、、、」
黄色い光を纏った拳がセバスを打ち抜く。
如何に強かろうと体は老人、当たれば脆い。セバスの瘦せ細った体はくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられ、動かなくなる。
『すず選手の作ったチャンスを生かし切った!! これで一対一! だが、まだ一対一! エミリーさんが残っているぜ!!』
「そうですわよ」
すずの胴体から鉄杭を引き抜いたエミリーがシロの方へとやってくる。
シロを倒す為、異音と共にやってくる。
「これで、終わりで御座います!」
「終わらないよ、もういっちょ開放! 『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』」
魔力が殆ど空の体で、宝具をもう一度発動する。
宝具を十全に発動する事は叶わない。不安定な光を纏った拳と、回転するパイルバンカーが真っ向から衝突する。
「おりゃあああああ!!」
「勝ちを取らせて頂きます!」
双方の大技がぶつかり合う。互いに爆発力に長けた一撃。
シロの蒼い瞳は闘志に燃え、真っ白いアホ毛は戦意たっぷりに揺らめく。しかしーー
「くっ、、、」
ーーーシロの宝具が徐々に押され始める。
>>180
かなりの無理をして放った為宝具が不完全であること、そしてエミリーのパイルバンカーが回転し、シロを削り取ろうとしているせいだ。
もし、シロの魔力が十全ならば、エミリーが奥の手を出していなければ、シロが押し勝っていただろう。しかし現実は違う、シロが押されている。
『おおっと!? シロ選手が押され気味だぁ!』
「、、、、負ける訳にはいかないんだよぉ!」
「かなりの僅差ですが、これで終わ、、、、ゴフッ」
シロの拳が完全に押し切られるその直前、エミリーの口が血を吐き出す。
「大丈夫!?」
「お気になさらず、ちょっとツケを払っただけで御座いますわ」
口元を抑え、エミリーは後ろによろめく。
パイルバンカーは強力ではあるものの、打つたびに強烈な反動が全身を襲う諸刃の剣でもある。内部の機構で反動を軽減し負担を軽減させているが、それでも無視できるモノでは無い。
そして、『Mode shift Bee sound』パイルバンカーに内蔵された鉄杭を高速回転させる事で威力を上げる奥の手。しかし、鉄杭が回転する際に内部が過剰な熱を帯び、反動を軽減する為の機構が焼け付いき、反動をモロに受けてしまうのだ。
すずに一撃、そして今一撃、計二撃。たったそれだけでエミリーの体は深く傷ついていた。
「この程度で血ィ吐くとは、鍛え方が甘かったですわ」
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですわ。ほら早く、お構え下さいな」
心配した顔でこちらを見つめるシロに、エミリーは皺くちゃの顔に不敵な笑みを浮かべ啖呵を切る。
衰えた足腰を、脆くなった骨を、細くなった筋線維を、そして未だ衰え無き意思を総動員し三撃目を狙いすます。
「、、、、、解った、真名、開放『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』」
>>181
魔力が空っぽになったシロの体、奥底に残った魔力をこそげ落とし、己の存在を切り詰めて魔力を捻出する。
「これで、最後で御座います!」
「その通り!!」
余力全てを使い何とか放った鉄杭と、消えかけの光を纏った拳の衝突。結果はーーーー
「ああ、、、、私の負けですか」
「シロの勝ちだよ」
ーーー僅差でシロの拳が勝った。
もう一度同じ事をすれば結果は解らない。それくらいの僅差だった。
「後数年若ければ、エミリーちゃんの勝ちだったよ」
「それは、、、、あり得ませんわ。私達は今もなお成長して、、、、おりますもの。数年前の私より今の私の方が強いですわ、、、、」
「そっか、そうだったね」
エミリーは崩れる様に倒れこむ。
『、、、、!! 勝者! シロ選手&すず選手ペア!! 大方の予想を覆し勝利したペアに、盛大な喝采を頼むぜ!』
「マジかよ、、、」「新たな伝説の『誕生』だ」「おめでとうっす! シロちゃん、すずすず!!」
歓喜と驚愕の混じった喝采を背に、シロはすずを抱えて闘技場を出る。
仲間の応援がきっかけで勝利すると言う、ベタ過ぎて近年では逆に珍しい展開でした。王道は書いてて楽しいです。
細々とした設定、及び追加設定
宝具『ぱいーん砲』
ランク:C
魔力を注ぎこんだ量に応じて威力の上がる殴打。実のところ、これ単体ではそこまで強く無い。
ただし、とあるスキルと合わせて使うとかなりえげつない事になる。
セバス
ピノ様の執事であり、全身の殆どを改造したサイボーグでもある。
改造したのが50年も前である為、体内の機械部品の殆どが型落ち品。古くなりすぎて、スペアパーツが値上がりしているのが最近の悩み。
『Mode shift Orverload』
全身のパーツにエネルギーを過剰供給し、性能を爆発的に上昇させる切り札。
下手をしなくてもパーツがぶっ壊れるため、かなりのハイリスク技。
エミリー
ピノ様のメイドにして、セバスの妻。
生まれつき身体能力が人より高く、若い頃はパイルバンカーを実質ノーリスクでぶん回していた。
若い頃は基本力任せかつ無駄打ちする癖が有ったが、老いてからはその癖が無くなり、力に頼らない技術も身につけた為、本当に年取ってからの方が強かったりする。
『Mode shift Bee sound』
発動した時に発せられる異音が蜂の羽音に似ている為、こう名付けられた。
アホ見たいな威力と引き換えに反動がヤバくなる。
>>183
「、、、、私は、私達は負けたのか」
「そうですよアナタ。私達は負けたのですわ」
真っ白いベッドから二人が体を起こす。ここは医務室、敗者が運び込まれる部屋。
「流石に老いたな、昔ほどにはキレが無い」
骨ばった両手を確かめる様に何度も握り締める。握る度に手のシミが薄黒く伸び広がってゆく。
「何を言うんですかアナタ。体の殆どが機械で老化なんて殆ど無いでしょうに」
「それはそうだが、年のせいにでもしないと悔しいじゃないか。それにだ、失敗や負けを年のせいに出来るのは老人の特権だぞ、特権を使わなくてどうする」
「もう、、、、そういう所は変わらないですわね」
拗ねるように寝っ転がるセバスを見て呆れたように微笑むエミリー。
英雄『蟷螂』、グーグルシティで育った人間なら一度は憧れる男。そんなセバスだが時折子供っぽくなるのが玉に瑕であり、エミリーにとって愛おしい部分でもあった。
「きっと死ぬまで変わらないとも。この街と同じだよ、形は変わっても本質は変わらない」
「ええ、そうでしょうね」
窓の外にグーグルシティが見える。行き来する無数の人や車、絶え間なくザワザワと奏でられる喧騒、暗い路地裏。
生きる為に精一杯だった昔とは違う、富と活気と格差で出来た街。しかしそれでも、人々の眼は昔と変わらない。
生きる為、のし上がる為、友の為、各々の夢を宿した眼。物乞いですらチャンスを探し眼をギラつかせている。
「、、、、この街を見ていると、守るために命を懸けて正解だったと思わされますの」
「全くですな、この街には命を懸ける価値がある」
両腕に仕込んだ刃を取り外す、代わりに取り付けたのはやや細身の刃。
波打つ刀文を持つ、古びたソレは丁寧に手入れされている。
>>186
「懐かしいですわね。私たちの親友にして今は亡き名工『竈馬』。刀に恋したアイツが友に遺した名刀『忘時』ですか」
「そうだ、そうだとも。相応しい敵に使えと言われたこの刀、カカラの首領相手ならば不足は無いでしょう」
ぼんやり光る刀身をじっと覗き込む。
そこに映るセバスは歪んでいて、まるで誰かが隣にいるように見える。
「おやおや、気が早いのでは無くて? ピノ様と双葉様、シロ様とすず様、どちらかが優勝しなければなりませんのよ」
「エミリー、あの方たちが優勝出来ないと思うのですか?」
「、、、、確かにそうですね。私も、準備をしなければなりませんわ」
二人の老兵は静かに牙を研ぐ。
>>187
『さあさあ! お次は準決勝!! 、、、、と行きたいところだが、暫く時間を置かせてもらうぜ。消耗した選手の休息が要るからな』
「しょうがないな」「俺も少し休むか」「今の内にトイレ済ませねえと」
熱気に満ちていた闘技場、『スパークリングチャット』の空気が暫し弛緩する。
飲み物を買いに行く者、トイレを済ませに行く者、思い思いに動く観客達。では選手はどうか。
「いやぁ、、、、完敗っすよ」
「アハハ、でもお馬さん片方倒してたじゃないですか。ワタクシは見てましたよ」
「まぐれをカウントするのは、、、どうなんですかねハイ」
「カウントしてもいいんじゃないかな、て双葉はおもうよー」
項垂れるばあちゃるを軽く慰めるピノと双葉。
ネガティブな発言とは裏腹にばあちゃるの声は晴れ晴れとしている。
>>188
「ねえ馬、馬越さんを止めた技、あれなんなの?」
「ああ、アカリさんに触れた途端動かなくなった奴ですね、、、、馬越さん『霧がかかったみたいに何も思い出せない』て言ってましたねハイ」
「なるほど、『思い出せない』て事はアカリちゃんの能力は精神に干渉する系ぽいなぁ」
「能力使う時アカリさん自信有り気な表情を浮かべてましたし、使い慣れてる感じですよね。多分」
「そうだねすずちゃん。エイレーンちゃんも未知数だし、底が見えないねぇ」
「楽しみですねシロさん」
翡翠色をしたスズの眼が待ちきれないとばかりに輝く。
シロ達五人はVIPルームに案内され、そこで休息をしていた。
上品なシャンデリアにグレーのソファー、暖色系の明かりに照らされた部屋には穏やかな音楽が流れている。
ホログラムで投影された熱帯魚達が色彩豊かな体をくゆらせて部屋の中を泳ぎ、壁の一面を占拠するモニターは闘技場を様々な角度から映し出している。
紅茶を飲み談笑する五人の空気は穏やかだ。それはまるで、嵐の前の静けさ。
>>189
ファイトクラブ『スパークリングチャット』の選手用休憩室、VIPルーム程では無いが豪華な部屋。
その部屋に用意されたテーブルを挟む様にエイレーンとアカリは座っていた。
「ねえ、エイレーン」
「どうかしましたか? アカリサーン」
「あの、さ。また不本意な手段で勝ちに行くつもりなのかな、て聞きたくてさ」
「、、、、」
鮮やかな金髪をせわしなくいじり、アカリは問い掛ける。
エイレーンは何も答えず黙している。
「エイレーンがそうする理由は知ってるし、アカリはその理由を軽いモノだと思わない。でも、、、そのせいでエイレーンは苦しんでるよ」
「、、、、」
アカリの懸命な訴えにエイレーンは何の反応も返さない。
瞼を閉じ、アカリの顔を見ない様にしている。
懸命に聞こえない振りをしている。
「エイレーンはお人好しなのに、合理的であろうと無理してる」
「、、、、」
「ばあちゃるが折れなかった時、エイレーン笑ってたじゃん」
尚も無反応を貫こうとするエイレーンに対し、アカリは顔を近づける。
少しバサついた赤色の前髪を持ち上げ、エイレーンの瞼をそっと撫でるように開く。
「アカリはエイレーンに従うよ、部下だから。でもアカリはエイレーンが心配だよ、家族だから」
縋るような表情を浮かべるアカリの顔が、エイレーンの瞳に映りこむ。
「、、、、今更私のやり方は変えられません。これ以外に皆を守る方法を知りまセーンから」
「エイレーン、、、、」
「でも、そうですね。ばあちゃるさんにしたみたいな、揺さぶりは止めにしマース。効果薄そうですから」
>>190
アカリを安心させる為に下手くそな笑顔を浮かべる。
それを見たアカリは大きなため息をつく。
「ホント不器用だねエイレーンは、、、解った。今はそれで妥協しとく。ヨメミと萌実にもそう伝えとくね」
呆れた表情に僅かな安堵をにじませ立ち上がり、アカリは部屋を出る。
「、、、不器用、デースか」
エイレーンの独り言が壁にぶつかって消える。
暫しの間、カチカチと時間を刻む時計の音が部屋を支配していた。
お久しぶりです(n回目)
テストが近く、中々時間をとって書けませんでした。
もうじき夏休みに入るので投稿ペースが上がる、予定です。
それはそうと、月姫リメイクがもうじき発売です!!
.liveの娘達は勿論好きですけど、それと同じくらい型月も好きなんです。
細々とした(裏)設定
『忘時(わすれじ)』
名工『竈馬』が親友に遺した作品。
『忘れじ』いつまでもあなたへの愛は変わらない(あなたの事が好きでした)、と言う意味を込めたエミリーへの密かなラブレター。
『時』を『忘』れる位、お前と過ごした時間は楽しかったという、セバスへの密かな感謝状。
二つの意味が込められた、剣の形をした遺書。それが『忘時』の本質です。
無粋かなと思ったので、本編では敢えて触れませんでした。
>>193
なんか例年よりも暑く感じますよね、、、、
休みが謳歌出来るのはテスト終わってからですね、大学は夏の宿題無いので、そこは気が楽です
>>191
『さあ! 今度こそ準決勝の始まりだぜ!』
『準決勝第一試合の選手を紹介するぜ! 大方の予想を覆し、見事伝説に勝利したダークホース、シロ&神楽すず!!』
『敵対するギャングのボスを下したこいつら! エイレーン一家は止まらない!! 萌実&ヨメミ!!』
「待ってたぜ!」「どっちが強いんだろうな」「早く始めてくれ!!」
手斧を携えたシロと、釘バットを肩で担いだスズ。
ギラリと獰猛に光るドスを構えた銀髪の二人、ヨメミと萌美。
歓声鳴り響く闘技場に四人の選手が出揃う。
『試合開始!!』
「ヨメミちゃん! 出し惜しみは無しで行くよ!」
「解った、萌実ちゃん!」
試合が始まるや否やヨメミと萌美の二人は後ろに下がり、互いの手を組んで見つめ合う。
直感でヤバいと感じたシロは咄嗟に銃を取り出そうとするが
「あっ、銃はルールで使えないじゃん」
ルールのせいでそれは叶わない。
闘技場での経験が浅い故のミス、それはこの場において致命的であった。
「私が行きます。行くぞ私は!!」
「お願いすずちゃん!」
翡翠色の瞳に焦りを浮かべ突撃するスズ。
大声と共に背中から魔力を放出し、ジェット機じみた加速をみせるその走りは正に神速。
しかし、それでも間に合わない。
『我ら二人で一つ』
『一人にして二つ』
『『真名開放 歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』』
ヨメミと萌美、二人の宝具が発動する。
その直後、二人の元にスズが辿り着き、豪快にバットをーーー
「食らえ!!、、、、え?」
>>195
ーーー振り下ろせなかった。
二人が四人に、四人が八人に。爆発的に増殖を始める二人。
闘技場の一角が銀髪の美少女で満たされる。
その余りにもな光景にスズはフリーズしてしまう。
『な、なんだこれは!? 萌実選手とヨメミ選手が増えた!!』
「絵面がすげえ、、、」「一人くらい持ち帰れないかな」「ストレートに強いですね、この能力」
「無数に分身を生み出す宝具、前の試合じゃ宝具を使ってもケリンに爆破されて終わりだから使えなかったけど」
「今回は思う存分使えるよ」
分身は全て機械めいた無表情を浮かべており、武器も持っていない。
戦闘力そのものはオリジナルに遠く及ばないだろう、とシロは蒼い目を細め推察する。
だからといって脅威に成りえないかと言えば、それは違う。
動きを止めたスズに無数のヨメミが纏わりつく。
「うわっ、ちょっ。嬉しいけど嬉しくないです!」
スズが釘バットを振り回す度にその軌道上にいた分身は搔き消え、消える度に分身が補充される。
多勢に無勢、銀髪美少女の波にスズはズブズブと飲まれてゆく。
「すずちゃ、、、、、ヤバッ!?」
スズを助けに行こうとしたシロに萌実の分身達が襲い掛かる。
「ちょ、ほちょちょ!?」
シロを掴もうとする腕を僅かな動作で振り払い、飛び掛かってくる分身を誘導して他の分身にぶつける。
囲まれないよう動き続け、脅威になりうる分身だけを倒し、最小限の消費で萌実の分身に対処してゆく。
「動きこそ雑だけどキリがない。不味いねぇ、、、、くっ!」
>>196
とは言え、多数の敵に対処する為の最小限は決して小さいものではない。
萌実達の指がシロの真っ白なアホ毛を掠める。
現状、シロは萌実達の攻撃を凌げてはいる。しかし、防戦一方のこのままでは敗北必至。
(強引に近付いた所で勝機薄そうなんだよね。あの二人の戦闘技術、結構えぐいし)
(でも奇妙だねぇ、すずちゃんは既に殆ど無力化されてるのに、ヨメミちゃんの分身は全てすずちゃんに掛かりっきり)
(分身ってシロの想像以上に融通利かないのかも?)
(二人の本体が攻撃する気配も無いし、、、、分身出してる間は無防備になっている可能性がありそう)
(検証の為、本体にちょっかい出してみるのもアリかもねぇ)
(なんにせよ、先ずはすずちゃんを助けないと)
そんな危機的状況の中、シロは不思議な程冷静に考察を重ねる。
老練な強さを誇った『蜜蜂』と『蟷螂』から勝利をもぎ取った経験、それがシロに確かな自信と冷静さを与えていた。
>>197
「おほほい!おほほい! シロは負けないよ!!」
「え!?」
やにわにシロは手斧を振り回してスズの元へ突貫を始める。
分身の攻撃がシロを掠めて浅い傷を幾つも刻んで行く、がいずれも致命打には程遠い。
『シロ選手が動き出した! すず選手の救出に行くみたいだぜ!!』
「その通りぃ!!」
無数の分身を搔い潜り、スズの元へと辿り着く。
スズを押さえつけていたヨメミの分身全てがシロに目標を変えて起き上がり、後ろからは萌実達が追いかけてきている。
逃げ場の無い挟み撃ち、危機的状況ーーー
「ありがとうシロさん!!」
「いいって事よぉ! おほほい!」
ーーー無論、すずが居なければの話だが。
押さえつけられていた間バットに込め続けていた魔力を、そして全身のパワーをフルに使ったスイングと共に床に叩きつけ開放する。ガッゴォンという爆音と共に緑色の衝撃波が吹き荒れる。
分身達が風に吹かれた蠟燭の様に揺らぎ、搔き消える。
「ヤバッ!? どうしよう萌実ちゃん!」
「分身の制御はかなり大雑把みたいだねぇ!」
「弱点バレちゃったよヨメミちゃん、、、」
ヨメミと萌美、二人の背中を汗が流れ落ちてゆく。
シロの考察は当たっている。分身の中身は獣に近い。同じオリジナルを持つ分身同士で固まり、目に付いた獲物に見境なく襲い掛かる。
>>198
二人の宝具『歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』は互いの瞳を重ねることで合わせ鏡とし、無数に映ったお互いの鏡像を分身として具現化する物。
瞳の一つ一つに己の色があり、瞳が映し返す景色もまた己の色に染まっている。故に瞳を鏡として見た場合、その質は下の下と言えよう。
鏡とは目の前に有る光景を有るがままに映すモノ。己の色に染めて映し返す鏡など論外。その様な鏡から産まれた分身の質も低いのは当然。
『これはヨメミ&萌実選手不利か!? しかし、まだ大勢は決していない! マジで目が離せないぜ!!』
「やっちまえ!!」「巻き返せ!!」「頑張れシロお姉ちゃん!」
夏休みに入ったので大分執筆スピードが上がりました。
そんな事より、マジの大事件がありました! https://www.youtube.com/watch?v=R8Y2e8BdVrk&t=4089s配信の終盤、私の書き込んだコメントが読まれたんです!! イヤッフゥ!!
細々とした設定集
『歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』
ヨメミちゃん、萌実ちゃんの宝具。
相手の目に映った自分、相手の目に映った自分の目に映った相手、相手の目に映った自分の目に映った相手の目に映った自分、、、、、
といった要領で大量の分身を出す宝具。
強力では有るものの融通が利かず、また持ち主の戦闘スタイルと咬み合わせが悪いのが難点。
おっつおっつ、持ち帰ったらバレるやろ。コメント読まれると嬉しいよね〜、自分も何回かコメントとかお便りとか読まれたりしたことあるけどそのたびに小躍りしてる。
>>202
沢山いるのでバレない可能性もあるっちゃ有りますね。まずバレて酷い目に合うでしょうけどw
やっぱ読まれると嬉しいですよね…………
>>199
「いくよ!」
「ぶっ倒す!!」
「やってみなよ!」
じりじりと下がりながら分身を生み出すヨメミと萌美、互いの隙間を埋めるように手斧とバットを振り回し突き進むシロとスズ。
魔力が続く限り分身は無限に生み出され、一体辺りのコストもさほど高く無い。時間さえあれば万単位の数を揃える事も可能だろう。時間さえあれば、だが。
当然の事だが、一度に生み出される分身の量には限りが有る。
「これは、、、ちょっと辛いね!」
一歩、二歩、シロとスズが確実に距離を詰めてゆく。
三歩、四本、ヨメミと萌美、二人の背中が壁に当たる。これ以上は下がれない。
五歩、六歩、もう少しで武器の届く間合いに入る。
『シロ選手とすず選手がついに辿り着いた! 絶体絶命ヨメミ&萌美ペア!!』
「喰らいなぁ!!」
「いっちゃえ!!」
シロとスズが同時に武器を振り下ろす。
金属特有の光沢が描く銀色の軌跡は目の前の二人へとーーー
「「え?」」
「引っ掛かったね、、、、」
ーーー届くことは無かった。
分身の壁を抜けた先にいたのはヨメミ一人。
同時に振り下ろされた釘バットと手斧は、直撃した状態のままヨメミに押さえつけられ、動かすことが出来ない。
>>204
『萌実選手が消えたぜ!? 一体何が起こったというのか!』
ヨメミが攻撃を受けたことで『歪み映す双眸』が解除され分身が消える。消えずに残ったのはオリジナルだけ。
シロとスズの攻撃を受け止めたヨメミと、そして分身に紛れ回り込んでいた萌実の二人。
中身はともかく、萌実と分身の見た目に差異は無い。分身に紛れるのは容易な事だ。
「まさか!」
「ヤバッ」
すぐさま逃げようとするシロとすず。しかしもう遅い。
萌美による一閃が来る。勝機が来るまでジッと耐え続けた鬱憤を晴らすかのような鋭さで。
『萌実選手が背後にいる! 絶体絶命!!』
「いつの間に、、、」「マジかよ」「負けないでくれ!」
「獲った!」
勝利を確信した萌実が獰猛に笑う。
『宝具』と言う、分かり易い切り札を見せる事で本命から意識を逸らす。
ありふれた、それでいて有効な作戦がシロとスズに牙をむく。
見事に出し抜かれた二人は成すすべなく切り裂かれる、筈だった。
「えぇ、、、、?」
音すら追い抜く一撃がシロに掴まれた。
ヨメミに抑え込まれた武器から手を離し、高速で飛来するドスを掴み取る。物理的には可能だが、それが間に合うタイミングはとうに過ぎていた筈。
呆然とする頭でそんな事を考える萌実。
>>205
「シロのスキル『輝きの海』。効果は『シロへの応援を力に変える』」
「一杯食わされたね! こんな力を隠してたなんて」
「いや違うよ。このスキル、応援の量が一定に達しないと発動しないんだよ。
街の英雄を倒したダークホースVS有名な『エイレーン一家』の幹部と言う、誰もが興奮する好カード。そして決着の着く目の離せない瞬間。
ここまでの要因が揃って、やっと使える位には発動条件が厳しいんだよねぇ」
「そういう事、ですか。『使わなかった』のでは無く、『使えなかった』と」
「正解」
シロの周囲には、水色の光が幾つも浮かんでいる。
整然と並び、ユラユラ揺れる細長い光はさながらライブ会場に煌めくサイリウム。
シロは掴んでいたドスを萌実から取り上げ、そのまま突きつける。
磨き込んだ銀食器の様な色をした瞳がヨメミを見つめて、助けて欲しいとメッセージを送る。しかし、ヨメミがそれに答えることは無い。
「、、、、」
二人の一撃をまともに受けてしまった時、その時からヨメミは気絶していた。
その上、万が一ヨメミが復活しても対応出来る様にスズが備えている。
「くっ!」
ヨメミがやられた事を認識した萌実は思わず顔をしかめる。
萌実は頭が回る。回るがゆえに今の状況が詰みである事を理解出来てしまう。
(これ以上の抵抗は無駄だね。大会に出た目的が示威行為である以上、無駄にあがいて無様を晒す事は出来ない。
後の事はエイレーンとアカリちゃんに任せるべきだね)
「、、、、、降参するよ」
眩しい程に白く淡麗な顔をホンの一瞬歪めた後、萌実は大人しく両手を挙げて降参を宣言する。
「良いの?」
「良いんですか?」
「良いんだよこれで。萌実の役目はもう果たしたからね」
>>206
スズとシロの問いに対し、萌実は返答する。
萌実の言っている事に噓は無い。『エルフC4』と『サンフラワーストリート』のリーダーであるケリンと鳴神を下した時点で萌実達の役目は十二分に果たされている。
無論、最後まで戦い抜きたいという欲求はあった。
しかし、萌実は『エイレーン一家』の一員として出場している。個人の欲求を優先する訳にはいかなかった。
『萌実選手、まさかの降参だ!! 勝者、シロ&すず選手!』
「マジか」「まあ、あそこから勝ち目はなかったしなぁ」「健闘した!」
萌実はヨメミをそっと抱え会場を後にする。
>>207
「、、、、ん、うん? ここは?」
「おはよー。ここは医務室だよ」
ヨメミはやや乱暴に瞼をこすって重い体を持ち上げ、寝起きでゴロゴロする目をグルグルと動かす。
周囲には真っ白なベットが幾つか並んでいて、その中の一つにヨメミは座っていた。
はす向かいのベットには見慣れた顔、、、、、萌実の顔が見える。
「ねえ萌実ちゃん、結果はどうだった?」
「、、、、負けちゃった」
「そっかー、、、、、お疲れ様。後の事はエイレーンとアカリちゃんにお任せかな」
医務室を照らす薄く埃を被った蛍光灯の下で、ヨメミと萌美は心穏やかに話し合っていた。
二人は、アカリとエイレーンが大いに戦果を挙げ、大いに実力を示すと確信している。
負けた事への悔しさはあるが、焦りはない。
ヨメミは何度か大きな欠伸をし、ベットに倒れ込む。
「、、、ねぇ、エイレーンとアカリちゃんの事どう思う?」
「エイレーンは何でもかんでもしょい込む癖とセクハラ発言さえ無ければ完璧かな」
「エイレーンはある種の理想主義者だからね。本当は綺麗な手段を選びたい、でも大切な者を失う『可能性』が怖い。
だから自分の良心が許すギリギリの手段を用いて『可能性』を潰す。
理由は解るんだけどさ、損な生き方だよね」
「アカリちゃんはアカリちゃんで甘い所あるよね。実力の伴った楽観主義って感じ」
「決める時はビシッと決めるんだけどねぇ」
「まあ、完璧じゃないからこそ支え甲斐があると言うか、何て言うか」
「確かに。話変わるけど、、、、」
「、、、、」
「、、、、、、」
「、、、、、、、」
寝っ転がりながら萌実と話をする内に、ヨメミはいつの間にか夢の世界へといざなわれていた。
>>208
『、、、、ここはどこデースか?』
『、、、どこだろうね』
ヨメミは夢を見ていた。グーグルシティに初めて来た、あの時の夢だ。
ヨメミ、萌実、エイレーン、アカリ、べノ、エトラ、、、、、後にエイレーン一家を創設する事になる面々が、グーグルシティの路地裏で呆然と空を見上げていた。
ヨメミ達の記憶はある日を境に断絶している。頭に残っている最古の記憶は『殆ど何の記憶もない状態でグーグルシティに居た』と言うもの。
唯一覚えていたのは自分の名前だけ。
あの時縋るように辺りを見渡す私達の前を、無関心に通り過ぎる人々がとても恐ろしく感じた。
夢が揺らぎ、場面が飛ぶ。
『あ、有難うございます!』
『いいの、いいの。気にせず休んで』
今は『エイレーン一家』が管理している風俗街『ポルノハーバー』の外れにある寂れた宿屋。
風俗街の宿であるにも関わらずそう言うサービスはせず、売りは料理という少し変わった所だった。
そこの主人であるエミヤさんは気のいいお爺さんで、身寄りの無い私達を雇ってくれた。記憶を失ってから初めて感じた人の温もりがとても嬉しかったのを覚えている。
また場面が飛ぶ。
『おいジジイ! アガリが足りねえぞ!』
『、、、、、来月には耳揃えて払いますので』
『来月まで待てるかよ! 二週間後までに払え!』
『はい、、、、』
エミヤさんの胸倉をガラの悪い男が掴んでいる。
当時、ポルノハーバーは『I Want to be Radical』、通称『IWARA』と呼ばれるマフィアに支配されていた。
延々と身内で権力争いをするそいつらは、住民から金を限界まで搾り取っていた。
>>209
場面が飛ぶ。
『畜生、、、』
まだ日も出ていない早朝の厨房、その隅でエミヤさんが静かに啼いている。
赤みがかった総白髪、エミヤさんらしいその髪が、あの時は酷く寂しい物に見えた。
場面が飛ぶ。
『もう我慢出来ません。私達が立ち上がりましょう』
『立ち上がるってどうするのさ、エイレーン』
『そんなの決まってますよアカリサーン、カチコミですよ。一気呵成に攻め込むんデース』
エイレーンが気炎を吐いている。
今では考えられない事だが、当時のエイレーンは大胆不敵な性格だった。
それはある意味当然の事だった、私達には不思議な能力があったのだから。
『スキル』や『宝具』と呼んでいるソレらはどれも強力だった、私達に慢心を許す程度には。
飛ぶ。
『ありがとう!』『あいつらが居なくなる!!』『この恩は一生忘れない』
『IWARA』の元事務所、私達は感謝の喝采を浴びていた。
権力闘争に明け暮れていたあいつらは脆かった。
飛ぶ。
赤く燃えている。
『IWARA』の残党にエミヤさんが襲われて、宿は燃やされた。
赤い血が流れている。
エミヤさんの顔が蒼白になっていく、もうどうしようもない。
微かに声が聞こえる。
呼吸すらままならない喉を震わせ、エミヤさんが何かを言っている。
『■■■と■』
あの日からエイレーンは変わった。
『エミヤ』フェイトに精通しているなら、この名前でグーグルシティが元はどこだったのか大体見当がつくと思います。
グーグルシティは50年前に生まれた街です。
当然の事ですが、50年以上前までは別の何かであった訳ですね。
それと、作品にもよりますが、冬木と言う都市には基本的に『大聖杯』なるものが設置されております。
その大聖杯はいったいどこに行ったんでしょうね。
それはそうと、馬の配信ガチャ運良すぎてクッソ笑う。
細々とした設定集
『IWARA』
元ネタ iwara(エロmmd特化サイト、サーバーが糞雑魚な事で有名)
回想特有の戦闘シーンすらないかませ集団。
作者が適当に10分くらいで生んだ可哀想な人達。
エイレーン
キャラコンセプト
トライガンのウルフウッド+動画のエイレーン
元はアカリちゃんにスポットを当てる予定だったのがいつの間にかエイレーンになった。
アカリちゃんの場合、辛いことあっても自力で解決出来ちゃいそうなのが一番の理由。
>>213
過去話はカカラの正体にも関わるので楽しみにしていてください!
ちょっとだけヒントを出すと、『カカラは胸に露出しているコアさえ壊せば倒せる』というのがキモです。
>>210
『さあさあ! お次は準決勝第二試合だぜ!!
エイレーン一家の二大トップにして最高戦力、エイレーン&アカリ選手! 対するは我らがオーナー、見た目は可憐だが強さは苛烈! 双葉&ピノ選手!』
「これは予想つかねえな!」「待ってました!」「来た来たぁ!!」
名前を呼ばれた四人が闘技場へと足を踏み入れる。
ピノは上品な装飾の施された槍を担ぎ、双葉はファンシーにデコレートされたナイフを構えていた。
油断なく相手を見つめるエイレーンの手に握られているのは、古びたサーベル。アカリは黒く光る革鞭を腕に巻きつけて遊んでいる。
『試合、、、、開始!』
「ピノちゃん! じぜんの作戦通りにいくよ! まちがってもアカリちゃんには触れないように!」
「了解です、双葉お姉ちゃん!」
『おっと!? 双葉、ピノ選手がいきなり動き出した! 陣形を組ませないつもりか!』
ピノと双葉の二人は、試合が始まると同時に動き出す。
ピノはアカリに、双葉はエイレーンに襲い掛かる。
司会の言う通り、二人の狙いは『陣形を組ませない事』。
エイレーンが前衛、アカリが後衛となって動く陣形は原始的ながらも強力であり、事実ばあちゃると馬越はその陣形に終始苦しめられていた。しかし、初手で二人を分断してしまえば何の効果も発揮しない。
その上アカリを抑えてしまえば、アカリの『鞭で打った相手を強化するスキル』を実質無力化することが出来る。
>>215
「そりゃ対策されマースよね」
「大会用に編み出した付け焼き刃の戦法だからね。綻びが出来るのも多少は、、、、ねっ!」
「甘いですわ!」
縦横無尽に振るわれるアカリの鞭をピノは危なげなく避け、お返しとばかりに槍を突き返す。
熟練者の使う鞭は音速すら容易に超え、リーチも長大。しかしその威力は高いと言えず、近距離での取り回しも悪い。
詰まる所、懐に入られると弱い武器なのだ。
「激しく突いてくるねえ!」
「まだまだ序の口ですよ! ほら!」
突き、薙ぎ払い、叩き下し、回避、ピノの行うあらゆる動作の終わりが次の動作に繋がる。
豪奢な槍から繰り出される攻撃は全てが重く鋭い。
ピノの動きは流麗で無駄が無く、息を付かせる暇すら与えずアカリを責め立てる。
優雅に、そして苛烈に相手を圧倒する。これこそがピノの戦闘スタイル。
素の拳で鋼の刃を押し返す様な『規格外』でも無い限り、これを崩す事は困難と言えよう。
『止まらないぞピノ選手! 流れる水のような槍捌きだぜ!!』
「くっ! ちょっとキツイね!」
ピノの放つ銀閃が掠め、アカリの金髪を何本か持ってゆく。
>>216
「早く、倒れて、下さい!」
「いやいや、戦いはまだこれからだよ!」
掠めた槍を潜り抜けるように距離を詰めてアカリは手を伸ばし、それに対してピノは大きく後ろに下がる。
「、、、っ!」
現在の状況はピノが有利。しかし攻めきれない。何故なら、アカリのスキルが未知だからだ。
少し前の戦いで、アカリは馬越に触れることで動きを止めた。
触れることで発動する、と言うこと以外に何も解らない以上、慎重に対処せざるを得ない。
「ヘイヘイヘーイ、ピッチャービビってるぅ?」
そして、アカリは『未知』である事のメリットを十分に活かしている。
アカリは無理に触りに行こうとせず、要所要所で未知の手札をちらつかせる事でピノの動きを制限してゆく。
ピノの胸中に焦りが蓄積する。玉肌の上を嫌な汗が流れ落ちる。
>>217
視点は変わり双葉対エイレーン。
双葉も又、焦りを覚えていた。
肉体のスペックでは勝っているにも関わらず、どうにも攻めきれない。
「はやく、たおれて!」
「そりゃ無理ですよ双葉サーン。ペロペロさせてくれるなら良いですけどね」
変態親父の様な口ぶりとは裏腹に、エイレーンの戦い方は至極冷静だ。
ノラリクラリと避け続け、確実に当てられる場面でのみ攻めに転じる。
「、、、くらえ!」
「遅い!」
正面からナイフで切りかかると見せかけてから、背面に仕込んでおいた二本目を投擲。双葉渾身の不意打ち。
弾丸の如き速度で飛ぶ細身の刃はスルリと受け流され、エイレーンの頬を掠めるにとどまる。
『刃で刃を受け流した! 1mmズレれば致命的な荒技を平然とこなす!!』
「ふふん、どうデ、、、、っ!」
見る人が見ればため息を漏らすほどに研ぎ澄まされた剣技はしかし、力によって押し込まれる。
「、、、強引じゃないデースか双葉さん」
双葉が、ナイフを受け流した直後のスキを突いて体当たりをかまし、エイレーンを吹き飛ばした。
「ふふふ、、、、甘いよエイレーンちゃん」
(、、、、甘いとは言うものの、どうしたもんかなこれ)
>>218
双葉には二つの疑念が有った。
一つ目はエイレーンの身体能力が異様に低いこと。
持ち前の技量でしぶとく凌いでこそいるが、受けるダメージを完全に0に出来ている訳ではない。
宝具を使っている以上、ヨメミと萌美がサーヴァントであるのは確実。その二人のボスであるエイレーンもほぼ間違いなくサーヴァントだろう。
にも関わらず、アカリの強化が無いエイレーンの肉体スペックはサーヴァントとは思えない程に低い。
そして二つ目はエイレーンの態度が不可解なこと。
エイレーンの体には徐々にダメージが蓄積している。このままではジリ貧なのだから何かしらの手を打とうとするのが当たり前、もし打つ手が無いのならば多少の焦りを見せたりする筈。
しかし、エイレーンが何か手を打つ素振りも、焦る様子すらも無い。
何かが可笑しい、何かを見落としているのだ。
「いたっ、、、」
「お返しデスよ」
突如として走った痛みに双葉は桃色の瞳を鋭く尖らせる。
吹き飛ばされる瞬間、エイレーンはとっさにサーベルで切り付けていたのだ。
>>219
「さて、そろそろ『十分』デースかね」
「なんて?」
双葉が聞き返した瞬間、エイレーンの姿が消える。
「、、、、!」
双葉の背後に現れる気配。
振り返り様に防御を固めた瞬間、襲い掛かる衝撃。
双葉は成すすべなく床に転がる。
「ぐぅっ、、、」
「ここからは私のターンですよ。双葉サーン」
双葉の背後に回り攻撃をした人物、それはエイレーンだった。
『ど、どういう事だエイレーン選手!? 人が変わったような強さだぞ!?』
「、、、実は私、ちょっとだけウソをついてました。
アカリさんの『鞭で打った相手を強化する』スキル。あれウソデース」
「でも、、、じっさいに強化されて、、、、いたはず、、、、だよ」
「ええ、私の『痛みを感じるほど強くなる』スキルによって、ね。
鞭で打たれて痛みを感じれば強くなりますから」
ヨロヨロと立ち上がる双葉の前でタネ明かしを始めるエイレーン。
「さすがにサーヴァント、、、、一筋縄じゃいかないね」
「サーヴァント? 、、、、、ああ、『宝具持ち』の事をあなた方はそう言うんデースね」
お久しぶりです。
夏休みの宿題を片付けるので忙しく、投稿が遅れました。
さて、今回は前々から貼ってた伏線を一つ回収出来ました。
異能バトルでの能力偽装、、、、ずっっと書きたかったシチュエーションでした。
『鞭で打った相手を強化する』と言う、アカリちゃんのイメージと微妙にズレた能力だった事、一度しか能力が使用されていない事、そしてやたらと印象的な使い方をしていたのが伏線です。
つまり、準々決勝でエイレーンさんとアカリちゃんが即興SNショーをしていたのは、ウソの情報を印象付けつつ自身の欲を満たす為のパフォーマンスだった訳ですね。
>>222
一石二鳥と言う奴ですねww
因みに、エイレーンとアカリちゃんは何気に宝具やスキルを準決勝まで全部隠し通してる唯一のペアだったりします、、、
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