>>423
過去は消えませんからねぇ、良くも悪くも
初期服のグッズ何気に貴重なので、パネルは是非とも欲しい
>>421
『エミヤの日記』
■■■
──歴史に名を残した英雄の写身、英霊。
セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカー、7つのクラスに分けられた7騎の英霊、それを従える7人のマスターが殺し合う儀式。それが聖杯戦争。
敗北した英霊は聖杯の燃料となり、最期に残った英霊とマスターだけが聖杯を手にすることが出来る。
聖杯は膨大なエネルギーをため込んだ願望器。大抵の願いは叶ってしまう。叶ってしまうが為にそれを求めて殺し合う。
英霊同士が戦うところを見てしまった俺は殺されかけ、そして死ぬ間際、俺はセイバーを偶然呼び出し難を逃れた。
凛とした女騎士、凄まじい剣を振るう彼女の姿は正に英雄のソレだった。
英霊を呼び出し、マスターになった俺は聖杯聖杯に参加することになった。
邪な願いを持つ人間の手に聖杯が渡るのは避けたいし、俺にも叶えたい願いがある。
『正義の味方』、皆を守れるような人間になること。俺が親父から受け継いだ夢だ。
………この決心をしたのが昨日の話。聖杯戦争についてのアレコレはセイバーが教えてくれた。
召喚された英霊は聖杯戦争について最低限の知識をインプットされる様になっているらしい。
今が非日常であることを忘れぬよう、日記をつけることをセイバーから勧められたのでやってみる。
>>425
■■月■日
今日はいい日だ。以前から友人であった間桐慎二がマスターになっており、自然な流れで同盟を結ぶ事が出来た。
友人との殺し合いなんてゾッとしない。同盟が結べて良かった。
俺としては邪な人間に聖杯が渡らなければそれでいい、セイバーもそこにはある程度同意してくれている。
……ただ、セイバーが慎二を疑っているのが少し気になる。あいつは良いやつだが、確かに様子が可笑しい。何かに怯えているような、そんな感じだ。
聖杯戦争に参加した理由も頑として語らないし、少し不審だ。一度問い詰めてみるべきだろう。
■■月□日
学校で有名な美少女の遠坂、あいつもマスターだったらしい。
同盟を持ちかけてみたがすげなく断られてしまった。二対一と言う状況が不味かったのだろう。不要な警戒心と反骨心を抱かせてしまった。
一対一の対等な状況ならもう少しスムーズに話が進んでいたかもしれない。
■■月△日
取り敢えず慎二の奴と作戦会議をしてみた。
『金で釣れば行けるだろ』『僕の顔さえあればイチコロさ』と慎二は言うが…………正直無理そうな気がする。
………作戦会議の最中『何かに怯えているようにみえる』と問い詰めたら、あいつは顔を蒼くして考えこんでしまい、それで会議はお流れになった。
■■月〇日
慎二の奴が『少し、考える時間をくれ』と言ってきた、蒼白な顔で。
……今日から、セイバーに剣の手解きをしてもらう事にした。
当然の事だが剣が掠りすらしない。
余りにも強いんで素性が気になり、訓練の合間にクラス名じゃない本当の名前を聞いてみたがはぐらかされた。
ちょっと気になる。
>>426
■■月▽日
今日は間桐桜が家に来た。桜は弓道部の後輩で慎二の妹。一年半くらい前から時々家に来て飯を作ってくれる。
飯を作ってくれるのは非常にありがたいが…………桜も慎二と同じく顔色が悪いように見えるのは気のせいだろうか。
■■月〇■日
慎二から『いずれ話す、ただ今は無理』と書いた紙を無言で渡された。
それはそうと、今日は改めて遠坂との交渉に向かった。相談の結果、取り敢えずシンジが買って来た菓子折りを持っていく事にしたが…………果物ゼリー1箱はちょっと多く無いか? しかもこれ生の奴だから持って2日だろうし。
…………驚くことに交渉は上手く行った。まさか本当に懐柔できるとは。
どうも遠坂はこちらが実力行使に出ると思ってたらしく、出会い頭にゼリーを渡されて毒気が抜けたそうだ。
あと、このゼリーはそこそこ有名な店の奴なんだろうな。物凄い目を輝かせてそう言われた。
遠坂の側に控えてた英霊が苦笑いしていた。
>>427
■■月〇◇日
遠坂、俺、慎二の三人で取り敢えず戦力や目的の確認をした。
解ったことをざっと記録しておく。
・残りの英霊が一体になった段階で聖杯は出現する。
・慎二が呼び出したのはランサー、遠坂はアーチャー
・聖杯戦争においては英霊の素性を隠すのが定石(正体がバレると弱点もバレるからだそうだ)
・遠坂は腕利きの魔術師であり、属性? と言う物を沢山持っているそうだ
・慎二も一応"魔術を扱える"が、あまり得意ではないらしい。
・最悪マスターは倒さなくても、英霊さえ倒してしまえば大丈夫
・令呪と言うモノが有り、これを使うことで三回まで命令を聞かせることが出来る
・他のマスターが全員脱落するまで同盟は継続
・同盟破棄はその日時を宣言してから行う(他のマスターが居なくなった瞬間同盟破棄とかはしない)
・英霊には宝具と言うモノがあるが、消費がデカい上正体がバレやすくなるので可能な限り温存するように
俺が余りにも聖杯戦争の事を知らないせいか、途中から聖杯戦争セオリー講座になっていた気がする。
■■月〇▲日
昨日に続き、今度は三人で魔術の教え合いをした。
…………どうも俺のやっていた魔術鍛錬は一度やればそれで済むであり、二回以上やってもリターンがないと言われた。マジか。
魔術師である育て親に教えられた鍛錬だったんだけどなぁ。
慎二からは虫の使役、遠坂からは魔力の扱い方を教わった。
魔力の扱いは何となく解ったが、虫の使役の方はまるで出来なかった。
虫は極めて自意識が薄く使役が容易であり、魔力のある人間でこれが出来ないのは、何かしら理由があると言って良いレベルだそうだ。
>>428
■■月〇〇日
今日は一日中セイバーと稽古した。こんだけやって掠りもしないと魔術か何かの仕業を疑いたくなる。
セイバー曰く『センスはある』とのことだが…………正直自信がない。
飯の買い出しに行く途中銀髪の少女を見かけた。こちらをジッと見つめていたが、俺に何か付いていたのだろうか?
■■月〇□日
段々と日記を書くのが面倒になって来た。
今日は銀髪の少女に公園でまた会った。見た目から察するに小学生、ただその割に言動が大人びていた。最近の子は皆こうなのだろうか?
『あなたの夢はなに?』と聞かれたので『正義のミカタになること』と答え、
次いで『何故その夢を持ったの』と聞かれたから『それが親父の夢だったから』と答えた。
そしたら何とも言えない顔をした後、『受け継いだ夢だけじゃなく、自分の夢も持つと良いよ』と言ってきた。為になる。
こんな事書く位には何もない一日だった。
■■月〇×日
家に来てくれた桜と慎二が鉢合わせした。
一言二言言葉を交わして別れていたが、その時に紙切れ? の様なモノをそっと交換しているのが見えた。
紙切れについて聞こうとしたら、被せるように『ケチャップがどの会社が一番素晴らしいか』と言う話を振られた。
『値段』派の俺と、『味』派の慎二で1時間ほど討論したが決着は付かなかった。
次来た時には、安いケチャップを使って美味しいオムライスを出してやろう。
…………慎二が帰った後、椅子に手紙が置いてあるのを見つけた。
>>429
[日記のページに手紙が貼り付けられている]
『僕の御爺様、間桐臓硯は数百年もの年月を生きている。アレは間桐家を支配する化け物だ。
ただそれでも、圧倒的な力と狡猾さで長年支配を続けてきたアレとてボケからは逃れられないらしくてね。最近は明らかに言動が不安定で、時折虚空を見つめていたりする。
今回の聖杯戦争で臓硯は”永遠の命と衰えない知能”を願うつもりだ。もしそれが叶ってしまえば、僕も桜も一生をアレの道具で終えることになる。
だから頼む。残りマスターが僕らだけになった瞬間、僕のライダーを後ろから刺してくれ。そうすれば裏切りを悟られる事なく目論見を潰すことが出来る、筈。
アレにとっては今回の聖杯戦争がラストチャンス。今回が上手く行かなければ、後はたった数年待つだけで勝手に破滅する。
あとさ、実は妹の桜もマスターなんだよね。
そっちの英霊は遠坂に任せるつもりなんだけど…………ちょっと心配でさ。
遠坂ってなんか肝心な時に失敗しそうな雰囲気があるとゆーか。ま、いざと言う時はそっちも頼んだよ』
■■月■□日
今日は魔術鍛錬に少し進展があった。
俺に『投影魔術』と言う分野への適性がある事が解ったのだ。
魔力を用いて既存の物を再現する魔術なんだそうな。
やたら難しい癖に、投影で出来上がるのは大概劣化品だから極める人は少ないらしい。
遠坂の英霊が投影魔術を得意としているので、ソイツからある程度教えて貰った。
気障な奴だが教え方は結構親切だった。根は真面目なのかもしれない。
>>430
■■月■〇日
今日は始めて戦いを行った。夜中に突然、黒い巨人に襲われた。
凄まじい巨体、悍ましいまでの腕力、狂ったような唸り声。バーサーカー(狂戦士)のクラスとみてほぼ間違いないだろう。
そしてそれを従えるマスター、それは何時ぞやの幼い少女だった。
バーサーカーは英霊三人掛かりで何とか撃退出来た程に強かった。今回は誰も大した怪我をせずに済んだが…………もし同盟を組めていなかったと思うと、正直ぞっとする。
あの少女は去り際に名を名乗って来た、礼儀正しく超然的に。
「イリヤ フォン アインツベルン」彼女はそう名乗った。
■■月○×日
今日は三人でイリヤの対策会議をした。
出た案や情報をザッと書き留めておく。
・アインツベルン家は御三家の一つであり、聖杯そのものを用意した家
・遠坂凛と間桐慎二も御三家の末裔
・遠坂家が聖杯戦争に適した土地の提供、そして間桐家が聖杯戦争のシステムを構築したらしい
・イリヤの魔力量は異常なレベルであり、アインツベルン家の来歴も合わせて考えると『聖杯から魔力のバックアップを受けている可能性がかなり高い』
・イリヤの従えている英霊は凄まじい実力であり、正面戦闘は避けるべき
・兎にも角にも、イリヤを弱体化させるのが先決
最終的に、空間ごと隔離して聖杯から切り離してみよう、ということになった。
二人だけでは空間を隔離する事は出来ないので、助っ人を呼ぶと慎二が言ってきた。
数時間後、桜が慎二に連れられてやってきた。
遠坂も手紙を受け取っていたのだろう、余り驚いた風は無かった。
>>431
『桜はかなり強力な魔術師でね、御爺様の意向でマスターである事を秘匿してたんだよね。
ただまあ、相手が御三家ともなれば御爺様も切り札を出すのに賛成してくれてね。今日から桜にもマスター仲間として参戦してもらうよ』
……なるほど、計画の為に桜を引っ張り出したのか。
しかし桜は戦えるのか? 正直、戦いに向いた性格とは思えない。彼女は心優しすぎる。
■■月〇♦日
…………桜、物凄い強かった。ぶっちゃけ心根とか意味なくなる位強かった。後、桜と遠坂は実の姉妹とのこと、だから驚かなかったのか。
模擬戦闘をしてみたが、虚数魔術? とか言うので成すすべなく拘束されて無力化された。俺、まだ投影魔術で剣を出す位しか出来ないんだけどな…………
因みに、虚数魔術と言うのは拘束や封印に適した魔術なのだそう。良く解らないけど凄そうだ。
■■月〇♤日
早速作戦を決行する事にした。具体的な作戦はこうだ。
桜が中核となって隔離するための魔術を行使し、遠坂と慎二がその補助をする。俺はその間、英霊達の指揮をして時間を稼ぐ。
…………かなり苦戦したが、何とか勝利できた。
イリヤが聖杯からバックアップを受けている、と言う予想は大当たりだったようで、隔離した時点でかなり弱体化していた。
……それでも尚バーサーカーは強力な英霊であり、セイバーの宝具を使わねば勝てない程であった。
それと、セイバーが宝具『エクスカリバー』を使った事で真名が解った。『アルトリア・ペンドラゴン』アーサー王伝説の主人公だ。
なる程、これならマスターにすら名を隠すのも頷ける。アーサー王伝説は余りにも有名で、情報が多すぎる。
>>432
…………しかしアーサー王がまさか女性だったとは。正直ちょっと驚いてる。
イリヤについては三人で処遇を話し合い『まだ子供だし、士郎の家で監視するだけで良いんじゃね?』と言う事になった。
彼女にその事を伝えたら、しばらく黙りこくった後に提案を飲んでいた……子供扱いされたのが嫌だったのだろうか。
■■月〇♡日
セイバーの調子がおかしい。かなりヤバい感じの寝込み方をしている。
高熱を出した時みたいな寝込み方だ。兎にも角にも桜、遠坂と慎二を呼びに行こう。
…………遠坂曰く『衛宮君のマスター適性が低すぎて、ちゃんと魔力を供給出来ていないのではないか』との事だ。
どうすれば俺でも魔力を供給出来るのか、と聞いたら何故か遠坂は真っ赤な顔をして黙ってしまった。
何事かと思って首をかしげていると、慎二が『男女のまぐわいをすれば良いんだよ』とニヤニヤ顔で耳打ちしてきた…………
おのれ慎二、こうなる事が解ってて遠坂に答えさせたな。気持ちは解るけど。
どうしたモノか。こう言うのは互いの合意がないとダメだと思うが、このままではセイバーを見殺しにする事になってしまう。
イリヤからは『やっちゃえ士郎!』と言われたが、そんな簡単に踏ん切りつかんて。
■■月■□日
昨日、セイバーの看病中に突然意識が飛んだかと思うと、何故か布団に縛り付けられていた。
霞む視界に映ったのは半裸になったセイバーと桜…………何で?
朝になり、気がつけば布団の中にセイバーと桜が居る。昨日までと違って、セイバーは穏やかな寝姿を見せていた。
……いやまあ、100歩譲ってセイバーが来るのはまだ解るけど、何で桜?
>>433
朝ご飯を作りに厨房へ行くと、イリヤがニヤニヤ笑いでこちらに話し掛けてきた。
『やったね士郎!』って……どう反応すれば良いんだこれ。と言うか、イリヤ馴染むの早いな。一昨日家に来たばっかりのはずなんだが。
遠坂と慎二も何故か俺の家にいて、なんとも言えない笑みを投げかけてきた。物凄く気まずい。
取り敢えず今日は他の英霊をどう探し出すかの話し合いをした。
セイバー、アーチャー、ランサー、ライダーの4騎で同盟を組めている以上、残りの2騎を各個撃破すればほぼ確実に勝てる。
正直、『これもう勝てるだろ』と油断する自分がいる。参加者の過半数が味方な状況で負ける気がしない。
……後は、間桐臓碩にさえ気をつければ良い。それは覚えておかないと。
■■月■〇日
キャスターを見つけた。どうやら山寺に潜伏していた様だ。
マスターの姿が見えないのが少々気になるが、まあ良いか。
[数ページに渡って乱雑に塗りつぶされたページが続く]
失敗した。臓硯への裏切りがバレていた。
キャスターを倒したその瞬間、俺たちは突如現れたアサシンに背中を切られ、成すすべなく倒れ伏した。
アサシンを従え姿現す臓硯。
人とは思えぬほどに老いた姿…………いや、既に人ではないのだろう。そんな男が『お前たちの裏切りは知っていた』と言ってきた。
一体何故バレた? まず遠坂、慎二、桜がバラした可能性はまずない。遠坂は接点が無いし、桜と慎二はそもそも裏切りを画策した側だ。
……最初から裏切りを察知されていた。と考えるのが妥当か。
ランサーは殺され、アーチャーも戦えない程の傷を負わされた。戦える英霊はライダーとセイバーだけだ。
>>434
■□月■日
慎二が秘蔵の使い魔を出してきた。慎二自身は戦闘力がない為、遠隔から使い魔を飛ばして攻撃する予定になっている。
血呪蟲、血縁者である臓硯に呪を叩き込む事に特化した使い魔。
虚浮橋、食虫植物を桜の虚数魔術で変異させ、臓硯が好んで使う蟲の使い魔への対処に特化させた使い魔。
いざと言う時の為に体内で密かに育てていた二体、との事だ。
用意に費やせた時間の関係で二体だけだそうだが…………こんだけ対臓硯に特化していれば充分過ぎる。
イリヤ、桜、遠坂、俺は直接対決しに行く。直接会って解った、アレの手に聖杯が渡ったらヤバい。まず間違いなく碌でも無い事を願うだろう。
俺もこの暫くの間にかなりの鍛錬を積んだ。魔術は遠坂と慎二に、剣術はセイバーから散々叩き込まれた。投影魔術だって今じゃそれなりの練度。
干将莫邪と言う白黒の双剣(結構凄い武器)を投影出来るようになったし、扱いだってかなり熟れてきた。
俺だって戦力になれる……と思いたい。
■□月●日
失敗した。失敗した。失敗した。御三家を甘く見ていた。
セイバーとライダーの宝具でもって臓硯とアサシンを消し飛ばし、勝利を確信した次の瞬間。
桜の体から一匹の蟲が飛び出し、宝具の使用で消耗した英霊二人の首を掻っ切って行った。
蟲は首から吹き出す血を啜り、人の形、臓硯の姿を形成する。肉体を再生させる。
『桜に、ワシの魂を入れた蟲を隠しておいたのだ』と嘯く彼の姿には、目も当てられぬ程の狂劣が見て取れた。
焦点定まらぬ不安定な瞳、泡立った唾が漏れ出る唇、枯れ枝の如き足は持ち主を支える事すら出来ずに破断する。そして、そこまで墜ちても尚衰えぬ魔術の腕。
己が魂を虫けらに押し込める苦痛、英霊という身の丈に合わぬ存在を取り込んでの再生。それが彼を狂わせたのだろう。
>>435
臓硯の操る無数の蟲。俺らを押し潰さんと迫りくるソレらを前に俺は賭けに出た。
俺の知る最強の宝具『エクスカリバー』を投影し、放とうとした。
……エクスカリバーを投影し、それを振るおうとした所で俺の記憶は飛んでいる。
目を冷ました時には深夜だった。皆が俺の顔を心配そうに覗き込んでいて、それが頭に酷く焼き付いている。
遠坂が言うには、俺の不完全な投影で産み出されたエクスカリバーは一振りで砕け散り、それでも臓硯の使い魔の内半分を焼き尽くしたらしい。
……ただ結局、それでも臓硯から逃げるのが精一杯だったそうだ。
[潰れて解読不能な文字が数ページに渡り続く]
背中を炙る火、何処からともなく響いて消えるダレカの悲鳴、黒く染まった英霊が跋扈している。ここは地獄だ。
聖杯を手にした臓硯の『永遠に生きる』という願いを叶えるため、聖杯は『臓硯の生存を脅かすかもしれない他生命体の殲滅』を行い始めた。
…………俺が子供の頃経験した大災害にそっくりだ。みんなしんでいくんだ。
そういえば、俺が正義の味方を目指したのって、親父に憧れたからだっけ。
俺をすくってくれたときの、うれしそうな親父に。
誰かを助けないと、そうしないと生き残った意味が無い。
[暫く空白のページが続く]
夜の■を探せ。真っ赤な服着た悪魔を探せ。
手桶の水を零すな。歩む先を強く踏め。
名前を呼ぶな消えてしまう。名前を書くな消されてしまう。
ゆるりと廻した言葉に託せ。剣突き立つその日まで。
>>436
『慎二の日記』
一日目
地獄、地獄がここにある。俺たちは失敗した。
もっと警戒すべきだったのだ、備えるべきだった。
火、見渡す限りの火が僕を睨んでいる。
この地獄は何処までも続き、あの世に繋がっているのだろう。
僕らは負け、バラバラになって壊走した。誰がどこにいて、生きているかもわかりゃしない。
今回の話を書くにあたり、UBWとZEROを再度視聴してきました
やっぱ名作は何度見ても名作やなって
出てくるサーヴァントは炎上汚染都市冬木のモノを想定しております
原作からの主要な差異としては、
『クーフーリンがキャスタークラスで現界しているため、聖杯戦争を目撃した衛宮が自宅まで逃げおおせている』
『上記の関係で、遠坂と衛宮が出会う時期にズレが生じている』
『慎二がある程度魔術を使えるようになっており、その関係で慎二のコンプレックスと桜の処遇が大分マシになっている』
『慎二&遠坂と共闘したことにより戦闘回数が減り、セイバーの消耗するタイミングが大分後ろ倒しになっている』
『桜の処遇がマシになったことで、第四次聖杯戦争に雁夜おじさんが参戦しなくなる』
『バーサーカーのマスターにアイリが就く、原作よりも有利な状況に』
『有利な状況ではあったが、結局原作と同じような結末を迎える』
『マスター二人体制、と言うほぼ理想的な状況でも事を仕損じたため、アインツベルン家の聖杯戦争への意欲が低下』
『イリヤに対する肉体改造が大分軽微なモノになり、改造の代償が成長阻害程度にとどまる』
因みに、臓硯が慎二&桜の裏切りを察知していたのにはちゃんと理由が有ります。
もしあれが無ければ、ホロウアタラクシア見たいな感じになってました
>>440
形式上は掲示板に動画を張ってるだけ&権利元にも広告利益が入る(動画投稿者がちゃんと申告してれば)&営利目的でない、なので
どんなBGMでもある程度自由に使えちゃいます(勿論自重はします)
掲示板だからこそ出来ることは無いか考えた結果この発想に至った次第です
>>437
二日目
外套で顔を隠し、黒く染まった英霊に立ち向かうエミヤを見つけた。
隠れてる桜を見つけた。
イリヤと遠坂はまだ見つかっていない。
昨日と変わらず地獄の様な環境だが、流石に火は消えている。朝方に大雨が降ったお陰だろうか。
とは言え、服が濡れてしまったのは正直辛い。冬場でないしまあいいか。
二人と合流出来たお蔭か、大分心に余裕が出来た気がする。
それと、黒く染まった英霊はオリジナルより大分弱いことが解った……ま、それでもかなりの脅威ではあるが。
現状黒化した英霊は一種類しか確認していない。姿は臓硯の従えていたアサシンに似ている、輪郭だけだけど。
エミヤの家が殆ど無傷だったので、今日からここを拠点にする事にした。
三日目
遠坂と合流した。
どうやら家にある秘蔵の魔術礼装(魔術を補助、増幅する為の器具)を取りに行っていたらしいが、どうも目当てのモノは何処かに持ち去られてしまっていたようだ。
何とも奇妙な話だ。
魔術礼装はどんなものであれかなり値が張る。他人に隠し場所を教える事はないし、盗人の対策だってそれなりに厳重だっただろうに。一体誰がどうやって持ち去ったのやら。
…………イリヤはまだ見つからない。エミヤの奴はふらりと何処かへ行って、夕方に帰ってきた。
全身に刻まれた傷跡を見るに…………まあそういう事なのだろう。何かせずには居られない気持ちは解る。
>>442
四日目
エミヤが朝にまた何処かへ行って、黒化した英霊の首を持って来た。
……いくら弱体化してるとは言え、そう易々と狩れる存在ではない。生半可な攻撃は弾き、ナイフの投てきは薄い鉄板程度なら容易く貫く。戦闘技術だってかなりのモノだ。
今のエミヤは修羅だ。情念があいつに強さを与えている。
イリヤは未だ見つからない。そろそろ生存を信じるのも厳しくなって来た。
付き合い短いし僕的にはどうでもいい人間だけど…………こんな状況じゃそんなのでも生きていて欲しい。
五日目
イリヤが見つかった! 如何やら生存者の集団に匿われていたらしい。学校で僕のクラスの担任をしていた藤村、ソイツが率いてるグループに。
今日は生存者たちと情報交換を行った。解った事をざっとメモしておこう。
1.家の跡から(今のところは)幾らでも食料が見つかるので当面飢えることはない。
2.廃墟を使えば雨風もそこまで問題ない。
3.兎にも角にもあの黒化した英霊共がヤバい。
大体こんな感じだ。
黒化した英霊だが、これからは便宜上シャドウサーヴァントと(若しくは『影』と略称して)呼ぶことにする。
今日は生存記念にささやかなパーティーをした。ステーキや刺身を使ってのパーティー。
電気はもう死んでいるし、ナマ物はしばらくしたら腐って食えなくなるんだ。今の内に喰いきってしまおう。
>>443
六日目
腹が痛い、どうやら昨日喰った刺身が少々傷んでいたらしい。
僕がボーと寝転んでいると、何処かに行こうとするエミヤと、それを引き留める桜を見かけた。
『もう止めて下さい! お願いだから自分を大切にしてください』と桜は言っていたが、そりゃ酷な話だろ。今のあいつは責任感や罪悪感に押しつぶされかけてる、止まれば最後壊れちまう。
まぁ、桜ならあいつを壊さずに止められるかもしれないけど。
桜の奴、こんな状況なのに自分よりエミヤの事を心配している。そんな奴の言葉なら流石にいつか響く…………かもしれない。
七日目
遠坂が出かけて行った。何でも生存者を一ヶ所に纏めて、その周囲に結界を張って保護するんだと。
上手く行くとは思えないが…………ま、結界の構想位はしといてやるか。どうせ暇だし。
牛肉の缶詰を集りに藤村のグループへ会いに行った時、『恐ろしい影の怪物を倒しまくってる奴がいる』と言う噂を聞いた。
アイツ、こんな短期間で噂になる程殺しまくってるのか。
牛肉の缶詰はもらえなかったけど、色んな植物の種と鉢植えをくれた。ついでに栽培方法も教えてくれた。
でも僕野菜嫌いなんだよね。肉の成る種とかないかな。
八日目
今日はエミヤが捕獲して来たシャドウサーヴァントを調査し、幾つか知見を得た。
1.十字架、蹄鉄、銀製品といった魔除けの性質を持つ物体に対してやや弱い。
但し、それら魔除けに武器としての適性が無いことを考えると、アレらへの対抗策としては銃や刃物の方が望ましいだろう。
>>444
2.ぱっと見普通の人間と同じ構造をしているが、それは見かけだけ。雑に配置された内臓は何処にも繋がらず、黒い汚泥が非合理的に絡まった血管の中を流動している。
殆どの内臓は動いていないが、唯一心臓だけは拍動している。何とも歪な事だ。
3.以前作成した血呪蟲。臓硯に対してのみ強い効果を発揮するよう調整したはずの蟲が、何故かシャドウサーヴァントに対しても一定の効果を示した。
最近イリヤがなんか作ってる。まあ一々踏み込む必要は無いか。
九日目
エミヤが不思議な子供たちを連れて来た。
先を潰して尖らせた鉄パイプを持つ、目に恨みの刻まれた女の子。それと二本の包丁を持つ男子、こっちは比較的普通の目つき…………今の状況を考えれば不自然な位だ。どちらも10歳かそこらと言った感じだね。
それと、不健康そうな男も一人いた。こちらは中学生後半くらいだと思う。
エミヤが言うには『シャドウサーヴァントに殺されかけていたところを助けた』のだそうだ。
武器を持ってるのを見るに、『やけくそで影共に立ち向かおうとしたら、返り討ちにあった』て感じだろうな。
子供がアレに勝とうなんて無謀に過ぎる…………いや、そうか。死に場所が欲しかったのか。殺される位ならいっそ立ち向かって死にたいと、そんな感じだろうな。
大体どの生存者からも『大切な人を全員失った』と言う話を聞く。目の前の三人も例外ではないのだろう。
僕たちはそれなりに余裕あるし、暫くここに住まわせることにした。
十日目
昨日の子供たちに何で戦って居たのか聞くと、『あの化け物共に立ち向かう人がいると噂を聞き、居ても立っても居られなかった』のだそうだ。
ただ、よくよく話を聞いてみると子供たち同士でも微妙に温度差があるようで、
>>445
男の子は『怪物をやっつけるヒーローに憧れた』
女の子は『他の人が殺せるなら、自分等でも殺せるかもしれないと思った』
中学生位の子は『無茶する二人を放っておけなかった』
といった感じだ。
絶望に塗れたこの世界でも、前向きな願いを抱けるモンなんだな。
今日はエミヤがそこそこの手傷を負って帰ってきた。
桜が無茶を止めようと説得しているが、あいつは聞く耳を持たない。
何処か遠くを見ているような感じ、多分過去を見つめているのだろう。それしか見えないのだ、きっと。
十一日目
桜が『例の子供たちに自衛の為にも戦う術を教えてみてはどうか』とエミヤに提案していた。
…………我が妹ながら健気な事だ。エミヤの戦いに回す時間を減らそうと言う試みなのだろう。
あいつエミヤにぞっこんだからな。死んでほしく無いんだろう。
だがそれじゃあどうしようもない。
あいつはもう今を見ていない、背後にある過去を悔いながら死に場所を探し彷徨ってる。
夜中にシャドウサーヴァントが襲撃してきた。シャドウサーヴァントが強く歯が立たない、遠坂達は食料集めに行ってて助けたが来る見込みもない。
痛い殺され方は嫌だな。そんな事を考えていたら、シャドウサーヴァントがいきなり頭ぶち抜かれた。エミヤが弓でぶち抜いたらしい。
アイツ元弓道部だから弓結構上手いんだよね。
十二日目
結局エミヤは子供たちに戦う術を教える事にしたようだ。
僕もチョットだけ訓練風景を見学したけど…………素人の僕でも解る、エミヤの剣技は修羅の業だ。
殺される前に殺す、骨を断たせて首を断つ。そんな感じ。
そんな業を編み出してしまったエミヤは勿論、それを嬉々として学ぶ子供たちも正直異常、いや、今の世界じゃこれがスタンダードなのかもな。
影の化け物が徘徊するこの世界じゃ。
>>446
十三日目
遠坂の交渉が実を結んで、幾つかの生存グループ同士が集まって共同居住地を作ることになった。勿論年スパンでの計画だが。
ここ数日シャドウサーヴァントの目撃数が減っていて、相手方もこのタイミングで動くしか無い! と言う感じだったらしい。
もしかしなくてもこれ、エミヤがここら一帯の影共を狩りまくってるお蔭じゃね?
………あいつ一日に何体狩ってるんだ?
二十日目
ここ一週間位忙しくて日記が書けなかった。
間の抜けた日付を見ると嫌な気持ちになるね、収まりが悪くて落ち着かない。
学校からシャドウサーヴァント共を排除し、望む人に拠点として提供することにした。
花壇はそのまま畑に転用出来るし、グラウンドも頑張れば畑に出来なくもない。
最近エミヤがちょっとヤバい。子供達に戦い方を教え始めてから上達速度がメチャ上がってる。
人に教えると自分も成長するってよく聞くけどマジだったんだな、あれ。
そんなエミヤを見て桜が複雑そうな顔をしている。そりゃそうか。
二十一日目
最近人が増え始めてる。なんでもここら辺に『顔を隠した化け物狩りの英雄がいる』との噂があり、それを聞きつけた難民が流れてきてるらしい。
今日は遠坂と一緒に結界の作成をした。取り敢えず今日は設計作業と魔術理論の確認だけする。
見た感じ理論は大丈夫そうだけど、作成するための素材が足りなそう。
ま、素材の調達は手の開いてるイリヤと桜に任せれば良いか。
二十ニ日目
今日も結界の作成をした。遠坂から『最近の慎二は目の死に具合がマシになった』と言われた。失礼な奴め。
でも、最近気分がマシになり始めてるのは確かだ。やることが多いと気が紛れてくれる。
>>447
たまたまエミヤの『狩り』を見かけた。
複数体いた影共の腹を矢が貫き、相手が異常事態を認識する前にエミヤと子供たちが飛び出して命を刈り取る。
アレは戦いではなく狩りだ。それもかなり原始的な奴…………というか、子供たちの実戦投入早くない? ま、今の状況じゃ経験を積まず無力でいる方が危険か。
血呪蟲が結界の素材として使えそうな感じがする。ぶっちゃけアレ『僕の血液と魔力、臓硯への怨念、適当な蟲』を揃えれば簡単に作れるんだよね。
しかしなんで、血呪蟲がシャドウサーヴァントへ効果を発揮するんだろうか? 臓硯を呪殺する為だけに開発した蟲なんだけどね。
シャドウサーヴァントと臓硯が一体化している……………………? いや、それだとシャドウサーヴァントが複数いる事に説明が付かないか。
兎にも角にも生態を理解しないとね。その為にも研究で得た知見を纏めとく、めんどくさいけど
・シャドウサーヴァントから臓硯のモノ以外に奇妙な魔力を検知した
・一つは恐らく悪魔由来のナニカ
・も■一つは■■■■
[何重もの消し跡が刻み込まれたページが一枚、殆どは解読不可]
聖杯 は二 重に 汚 染さ れ てい た 僕 ら の 敗 北は 仕 組 ま れて い たの だ 忘 れる
二十三日目
例の子供たち、その一人から相談を受けた。病弱そうな中学生の奴からだ。
『過去と決別するために新しい名前が欲しい。強くなれるような名前が』とせがまれたそうな。
中学生の感性で考えた名前とか酷い事になりそうだし、僕も名前決めを手伝う事にした。
それと、今日は実験に大きな発展が見られた。
シャドウサーヴァントが臓硯のモノと酷似した魔力を発していることが分かった。臓硯に近い存在だったから血呪蟲が効果を発揮できたのか。なる程ね。
>>448
シャドウサーヴァントは聖杯によって生まれた怪物。臓硯の『不老不死』と言う聖杯への願いをかなえる為に、聖杯が『生存を脅かしうる他生命体の抹殺』を行うために造られた怪物…………こう書くと意味不明だな。なんで不老不死の為に他生命体の抹殺をしようとするんだ? 非効率的過ぎるだろ。
と、まあそれはさておき……………………聖杯から生み出された怪物と臓硯に共通点があるってことは、臓硯と聖杯にかなり密接な関係があるのは間違いない。
下手したら同化してる可能性もある。聖杯と同化するのは不老の手段として無くもない、人格が消えるか変異する事に目を瞑ればだけど。
エミヤに付き添って貰ってフィールドワークをした甲斐があった。
しかしエミヤの奴、やっとマシな顔になって来たね。教え子を持ったお陰だろうか。
遠坂は他グループとの交渉やスケジュール調整に奔走してる。結界の作成はほぼ僕任せ…………何気にアイツ、一度も絶望してないんだよな。
イリヤは資源集めに精を出している、いずれ店を開きたいのだそうだ。年齢相応の願いでなんとも微笑ましい。
桜は…………なんかしてる。何してんのかは良く解らない。
二十四日目
相も変わらずシャドウサーヴァントの出没が絶えない。今日も一体出くわした。今日も何とか逃げ切れた。
ただ、最近は一般人でもちょいちょい武器を持っているのを見かける。そのおかげかは解らないが犠牲者が減ってるように思える。多分。
武器の出どころを聞いたら『中学生位の子供から貰った』のだそうだ。
>>449
昨日頼まれた名づけの発表会もした。
例の子供が持ってきた名前は案の定中二じみていた。
男の子には『蟷螂』。女の子には『蜜蜂』。自分には『竈馬』…………格好いいとは思うけどさ、人名に蟲の名前はちょっと冒険しすぎよそれ。二つ名とかならまだいいと思うけど。
僕の考えてきた名前は『セバス』『エミリー』『ジャック』。どれも海外じゃありきたりな名前で、そしてそれこそが大事なのだ。
今までの生活は崩れ去り、今じゃ非日常が日常に成り代わっている。だがそれでも、非日常はいつか終わる、また日常が来る。僕はそう信じたい。
だからこそ敢えて普通な名前にした。『普通』をまた謳歌できますようにと願いを込めて。
…………ま、結局名前の理由は言えなかったんだけどね。やっぱ気恥ずかしかった。
二十五日目
僕の提案した名前はまあまあ受けが良かったらしい。ジャックの奴がそう話してた…………自分でつけた名前を呼ぶのって違和感凄いな。まあ直に慣れるか。
それと、武器を配ってたのはジャックだったらしい。
『自分には戦う才能が無い、僕が戦っても犬死するだけだ。だから僕は戦える人を増やして現状を打破する』と言っていた。素晴らしい考えじゃないか。
因みに、武器はエミヤに出して貰った剣で鉄パイプやなんやらを切削加工して作ったらしい。俺もそれやろうかな、簡単な実験器具だったら作れそうだし。
割とどうでもいい事だけど、シャドウサーヴァントから抽出した魔力で除草剤が作れることを発見した。ま、存在そのものが有害だしそりゃ草も枯れるか。
二十六日目
狩りに出かけようとしたエミヤを、桜が突如虚数魔術で拘束した、、、、、と思った瞬間、粉塵が巻き起こる。エミヤが足元の砂を強烈に蹴り上げたのだ。
砂をかけられた桜が顔を覆った瞬間、猛然と駆け出すエミヤ。
>>450
『落ち着いて!』
と、そのタイミングでイリヤが魔術による糸を数本展開し桜のカバーに入る。
しかしエミヤは、数十本の魔術糸をごく当然のように搔い潜って見せた。機械的な殺気を放ちながら。
桜の背後を取ったエミヤは瞳を無感情に保ったまま剣を投影し──────そこまで行ってやっと我に返る。
アイツは呆然とした顔で剣を下し、立ち竦む。自分が何をしようとしたのか認識してしまって。そして、そんなになっても剣を手放せないでいる。
無表情のまま涙を流すエミヤを桜が抱きしめる、優しく大切に抱きしめる。これ以上壊れないように。
教え子を持って少しはマシになったと思ったが、それでも駄目か。心はずっと戦場に居たままか。
俺はアイツを可哀想に思う。そしてアイツをこんなにした運命を恨む。恨むだけ。
これは後で聞いた話だけど、桜とイリヤは『エミヤを強引にふんじばって休ませるつもりだった』のだそうだ。
今日は皆何もせず休んでた。他グループとの折衝のため朝早くから出かけていた遠坂は例外だけど。
二十七日目
流石のエミヤも昨日のアレが答えたようで、今日は狩りに行かず子供達に剣を教えていた。
結界の作成がそろそろ完了しそうだ。
いずれはシャドウサーヴァントそのものを根絶する必要があるが、それでも大きな前進と言える。
■■■■■■
[判読不可のページが続く、元々あった記述にひどく滲んだ文字が上書きされている]
アレの誘いには乗るな、信じるな、話を聞くな。
今回のbgm
FNFより、GARCELLO
バットエンドの後日談みたいな話なので、敢えてfate以外からのbgmを持ってきました
https://www.youtube.com/watch?v=7UMGSVrKMkQ&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=4&t=438s
シロちゃんのソロイベ申し込み来た!!
マジで楽しみ
日記回はもうちょっとだけ続きます
ただの過去回想じゃ面白くないと思ったので、ちょっとした暗号を仕込んであります
fate勢の描写、日常の積み重ね、ポストアポカリプスの中での温かみ、伏線、章ボスのバックグラウンド解説、等々書きたい事全てぶち込んだら過去回想が1万字を突破しました
本当ならもう少し削るべきなのですが、壊れたロボットになってしまったエミヤをどうしても書きたかったので、1万字越えの過去回想を敢行しました
>>454
多分配信もあるので一緒に楽しみましょう!
……因みに暗号を解くと黒幕の名前が出てきますが、多分解けないと思います
暗号自体は割と簡単なのですが、暗号の種類と場所の特定がかなり難しいです
>>451
四十日目
久しぶりに日記を手に取り読み返していたら、二十ニ日目の所が一部消えている事に気づいた。
そのままにしておくのも気持ち悪いんで内容を修復しようと思ったが、何を書いたか思い出せなかった。
文脈的に割と重要そうな部分なんだけどね。ま、思い出せないなら仕方ないさ。
それはそうと、結界が完成した。
結界の作成中に何回かシャドウサーヴァントに襲われたが、エミヤ、セバス、エミリーの三人が撃退してくれた。
鉄工所や農場を縄張りにするグループとも話がついてるし、生活基盤が整いつつあると言っていいね。
エミヤの奴はあの事件を未だ引きずっているが、その影響で大分人間味が出てきたように思う。
一日の殆どを怪物狩りに費すような事はしなくなったし、大分口数も増えた。人間性を失わないよう意識しているのかな。
それと、ジャックの奴が最近変なモノを作っているんだよね。
火薬仕込の槍に、駆動する機械の指だ。
火薬仕込みの槍は『一般人でもシャドウサーヴァントを打倒しうる武器』というコンセプトであるそう……一回使わせてもらったが、見事肩が外れた。コンセプトミスってるだろあれ。
機械の指は『セバスが指を一本戦闘で無くしたから代わりを作りたい』のだそうだ。
五十日目
久しぶりに日記を開いた。読み返してみると、暫く前の僕が割とヤバい精神状態だったのが解る。
それはそうと、最近のエミヤは大分人らしい生活をするようになった。
あの事件の影響は勿論、教え子達が育ってエミヤの負担が減ったのも大きい。
武器を持って立ち上がる一般人も増えてきて、いい兆候だ。
……とは言え、セバスの奴はコンスタントに大怪我してくるので割と肝が冷える。本人はケロッとしてるのが余計怖い。
>>456
エミリーはエミリーで戦ってる時の目がかなり怖いし、ジャックは技術力の進化が凄まじい。
日記の紙が縒れてきちゃって、正直書きづらくなってきてる。
思い出の品として蔵に保管しておいて、気が向いた時読むだけに■■■■■■イや、大きナ事があッたラ書キに蔵へ行こウ。
[写真が数枚貼り付けられている]
多分二年目(日記の日付に多分は可笑しいかな? まあ良いや、僕しか読まないし)
この2年で色んなものが変わった。
幾つかのグループが住んでいただけの此処は、街と呼んで良いほどの大規模なコロニーになった。
遠坂は『今度は遠くの人とこの場所を繋いでみせるわ』と言って、遠くのコロニーとの貿易ルートを開拓している。
既に東京コロニー、横須賀コロニーへのルートを確立してると言うのだから驚きだ。
桜の奴はエミヤとベッタリ。順当に行けば結婚するな、多分。
……友人と妹が恋愛関係にあるのは何だか複雑な気持ちだ。
イリヤは魔術師向けの魔道具&雑貨の店を開いた。
生き残りの魔術師がちょくちょく買いに来るので何だかんだ潤っているらしい。
エミヤは貫禄のある戦士に成長した。
圧倒的な強さで、街の精神的支柱としての役割を果たしている。
偶に笑うようになったし、うん、やっと人間に戻ってくれた。気を抜いたらまた元に戻る可能性はあるが。
僕は街のリーダーをやっている。お飾りだけど。
個人的には元政治家の人間とかをリーダーに据えるのが良いと思うのだが、
集団への帰属意識?だの、アイデンティティ?だのが不足しているから、それを補える様な存在が要るらしい。
>>457
………しかし、生活の基盤が整ってきたのは良いけど、そろそろシャドウサーヴァントそのものを根絶したい所だ。
エミヤの奴は影共をゴミのようにブチ殺せるが、一般人じゃそうはいかない。
十倍以上の数で襲ってやっと影に勝てる、それが現状だ。無論それでも犠牲は出る。
怪物避けの結界を強化しては居るが、アレはあくまで寄り付きづらくするだけで完全に打ち払うことは出来ない。
セバスとエミリーもよくやってるが………正直ジリ貧だ。警備隊の増える数を減少数が上回っている。
ジャックと医療団体が共同で開発している『機械化手術』が実用化されれば……いや、期待しすぎるのは辞めておこう。
二年と半年目
機械強化手術が実用化されたが、期待したほどの効果は無かった。
まだ生まれたばかりの技術なので強化幅がまだ小さいのだ。
警備隊の強さが劇的に上がれば被害も減ると思ったのだが、やはりそう上手くは行かないか。やはり元を断つしか無い。
この数年で大元───シャドウサーヴァントを生産し続けている聖杯の場所は特定済み。巨大な怪物に姿を変え、霊脈(魔力が循環する河の様なモノ)から魔力を吸いながら地下に潜伏しているようだ。
それと、臓硯は予想通り聖杯と同化してるっぽい…………と言うかあの聖杯、本当に願い叶えられるんだね。
どうせ叶えるならもっとマトモに叶えてくりゃ良かったのに。もしそうだったなら──────いや、過ぎた事をグチグチ書き連ねるのは辞めよう。
何にせよ動くなら早いほうが良い、体力の残っている内に行動を起こさねば詰みかねないし。
それはそうと、エミヤの日記を蔵で見つけた。折角だから同じ場所に保管しておいて、暇な時に内容を朗読してやろう。きっと楽しいぞ。
>>458
前回から一週間後、多分
エミヤ、イリヤ、遠坂(戻って来て貰うのに一週間待った)、桜、僕の五人で討伐を行うことにした。
エミリー、セバス、ジャックは連れて行けなかった…………討伐に行けばきっと多くの真実を知ってしまう。そしてそれはきっと深い傷となる。
「お前の家族は一人の下らない欲望に殺されました」なんて残酷な真実、教えられるわけがない。
非合理的な判断だと解ってはいる、だがそれでも情を優先してしまう。二年と少し前の僕なら、きっと合理的な判断が出来たろうに。
臓硯と言い、僕と言い…………温かな料理が冷めて不味くなる様に、時は人を劣化させるのだと、そう思い知らされる。
明日が決行日。忘れないように計画をメモしておこう。
・霊脈に僕の血呪蟲をぶち込み、臓硯入り聖杯を攻撃して誘き出す
・出てきたところを桜とイリヤの二人掛かりで拘束する
・僕は使い魔を用いて桜、イリヤの護衛&他の補助
・エミヤは聖杯を物理的にぶっ叩く
・遠坂はシャドウサーヴァントの足止め
計画と呼びたくない位に穴が多いけど、敵の情報が無さ過ぎるからしょうがないね。
次の日
無数の触手を生やした悍ましい怪物の体をエミヤの双剣が豆腐のように切り裂く。ここは固有結界の中、エミヤの切り札たる固有結界の内部。
ひたすらに深い踏み込み、全身を限界以上に捻り、剣の一振り一振りを必殺へと昇華。怪物の放つ絶死の一撃を切り伏せ、雷火の如き速度で切り込む。
元は捨て身の剣技であったソレ、しかし無数の死地を乗り越えることで「捨て身」は「必殺」へと昇華された。これがエミヤの剣、死神の鎌すら及ばぬ必殺剣。
>>459
頭上より降る攻撃を神速で持って回避し、正面から襲来する触手の悉くを両断する。捌ききれなかった幾撃かがエミヤを掠め血を流させるが、それを鑑みる事はない。進撃、進撃、進撃、ただそれのみ。
「疾イイイィィィ!!」
「ヒッ……」
口の端より漏れ出るエミヤの声。恨み、辛み、そして自責の念。積もり積もった感情が修羅の唸りとなる。
双剣の跳ね返した陽光がエミヤの顔を照らす。「これがお前の最期に見る顔だ」とでも言わんばかりに。
「ワシは、ワシはエイエンに生きるのダ! ココでオワレルカ!」
「いんや、終わりですよ御爺様」
ヤケクソ気味に吠える怪物を魔術で縛る桜とイリヤ。白い帯の様な形を取った魔術が幾重にも被さって行く。
「ダマレダマレダマレ! 若造達にナニがわかる!!」
「おっと」
エミヤを止めるのは不可能と判断したのか二人の方へ攻撃が来るが、僕の使い魔がそれを防ぐ。
遠坂もちゃんと仕事をこなしているようで、シャドウサーヴァントが妨害に入って来る様子もない。
「オ…………オゴ。エイ、エン…………」
十重二十重に帯を巻きつけられ、布の塊の様になった臓硯は沈黙する。勝利だ。
これで万事解決! …………と言いたい処だけど、少々問題が発生した。
聖杯の誘き出しと拘束までは何とか成功したけど、破壊する事が出来なかった。
いや、もっと正確に表現するなら『破壊するメリットをデメリットが上回ってしまった』とでも言うべきだろうか。
臓硯の願いによる影響か、聖杯が常軌を逸した耐久力と再生力を得てしまっている。そもそも内蔵された魔力量が多すぎて、下手に壊すと大惨事を引き起こしかねない。
民衆の生活が安定し始めて来た大事な時期、今このタイミングで災害が起きれば今度こそ終わりだ。
>>460
しかし、いつまでも拘束してはおけない。
三日以内に封印の目途が立たないのであれば、『破壊』せねばならないだろう。
リミットまで後三日
一日中封印方法を試行錯誤してみたが、駄目だ。聖杯の出力が高すぎて封印出来る気がしない。
ダメもとで聖杯の性質を解析しているが、汚染され過ぎててマトモに精査できん。クソ。
…………いや、汚染されていると言う事が解っただけでも収穫か。
後二日
封印方法は相も変わらず見つからない。焦りだけがひたすらに積もって行く。
汚染の正体に凡そ辺りが付いた。
・汚染の大半は恐らく悪魔由来
・怪物化した聖杯の内部に魔法陣が刻まれていた
・ゾロアスター教の悪魔アンリマユ(若しくはそれに属するモノ)を『聖杯内部に直接召喚してぶち込んだ』と思われる
・上記の事実より、聖杯は意図的に汚染されたモノと考えられる
・魔法陣を幾つかの資料と照合した所、汚染を行 た術者 間桐家の術式を に
誰にも気づかれず工作を施せるクセに、魔術そのものの腕は
・また、聖杯には■■■■■■■■■■■■
・僅かな魔力残滓からの推測であるが、術者は恐らく■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。そこまで詳しくは特定できないが、まあしょうがない。時間に余裕のある時にじっくり詰めていくことにしよう。
しかし、まさか黒幕がいたとは。ずっっと気になってはいたんだ、臓硯への裏切りが一体どこでバレていたのかとね。いやはや、まさか答えを知れるとは!
何のつもりでこんな事をしたのかは解らないが、必ずぶち殺してやるよ。
取れたての野菜をくれた藤村、毎朝挨拶してくる近所の人達、僕を慕う民衆たち、なんやかんや付き合いの長い仲間達…………そんな皆の友人や家族を奪った奴を。
>>461
明日、仲間にこの事を話そう。
後一日
…………今日は奇妙な事が起きた。
昼食用の卵を茹でていたら、突然女が現れたのだ。■色の髪、■い目、紅い服、ゾッとする程綺麗な女だった。
女はある契約を持ちかけて来た。
・臓硯を封印する為の術式を女が提供する
・女の方から封印に『直接』干渉するような事はしない
・『黒幕』についての情報は、如何なる相手にも伝えてはならない
なる程。この契約内容からして、つまりこの女が例の黒幕か(わざわざ勿体ぶって書くほどの事でもないが)。
何故こんな取引を持ち掛けるのか、何故こんな事をしやがったのかは解らない。だが乗ってやろうじゃないか、民衆の為に。僕は指導者、民衆の生活を保障する義務がある。
──────だからそう、臓腑を捻るようなこの苦痛は、きっと我慢しなければならないモノだ。
リミット当日
朝起きたら奥歯が割れていた、どうでも良いか。
女から提供された術式を基に臓硯を封印した。
因みに封印の場所は山寺の中だ。管理しやすく、人の出入りも少ない。
寺には一般人の立ち入れない場所が幾つもあり、自然にモノを隠すには絶好の場所と言えよう。
[暫く白紙のページが続く]
[奥の方に栞が挟まれている]
>>462
この日記を僕以外の誰かが読んでいて、まだカカラの存在が消えていないのなら、この日記を『お前の知る限りで一番強く、勇気ある人間に届けて欲しい。』
まず黒幕について書いておこう。彼女は自身についての記述を消去し、契約で相手を縛る事ができる。恐らくこれらすら彼女の持つ能力の一部でしかないのだろう。
まるで神か悪魔─────しかし全知万能かと言えばNO。付け込む隙はある。
僕はずっと疑問に思っていた、どうやってあの女は僕らの動向を把握していたのかと。把握していなければあんな契約を提案出来はしない。そして気づいた、「この日記こそが答え」なのだと。
何もかもがぶっ壊れたあの大災害の日、何故僕は日記なぞ持っていた? 命を守るのにすら精一杯だったのに? その違和感に気づいて日記を書くのを辞めた。そしたらどうだ! 黒幕は僕の動向を把握できなくなった。
恐らく、日記から僕に精神干渉して記述を促し、日記に書かれた情報からこちらを観測していたのだろう。
……これは飽くまでも推論でしかないが、■■■は■世界の■民である可能性が高い。■■■が現れた場所を詳細に調べたところ、この世界では既に説滅した植物の花粉が検出された。
自身が世界を渡る事は出来ても、使い魔などを連れて行くのは難しいのだろう。それ故に、日記などを通して情報を収集していたと考えられる。
この事実が判明した時点で、僕の中での■■■は『得体の知れないフィクサー』から『ただの■■■■■■■』へと転げ落ちた。
そこからの僕はもう電光石火さ…………そりゃあもう八面六臂の暗躍三昧!
>>463
・蔵の中に強力な結界を張り、そこに日記を安置する事であちら側からの監視を阻害
・序にダミーの日記を創り上げ、そちらに■■■の干渉と観測が行く様にした
・一定期間が経つと勝手に解け、しかも内部の怪物が力を蓄えられる様になっていた封印、それを僕が後から弄って『人類が対抗出来るレベルの怪物を延々と生産させることで枯渇を促す封印』に変えた
・封印の周辺を壁で隔離し、万が一封印が解けても暫く閉じ込めて置ける様にした
・『警備隊』と言う名目でシャドウサーヴァントへの恨みが特に強い人間を集め、魔術と科学で寿命と戦闘力を延ばした兵隊を創り上げた
・壁で隔離した区域を「莫大な金を納めた人間だけが住める居住区『楽園』」と言う宣伝によってカモフラージュ(文字通り楽園の様な住宅街はちゃんと用意した上で)
・莫大な金を納め、楽園への入居を決めた人間を『こちら側』にスカウトする事で『莫大な金を用意出来る優秀な人材』を吸い上げられる様にした
・スカウトを断った人間は記憶を一部消した上で追い返した。『楽園』と言う餌を用意しておきながら、それをこちらの都合で取り上げてしまうのは我ながら傲慢だと思う。だが、こればっかりはしょうがない。
我ながら良くやったモノだ。流石に封印をいじくった辺りで気づかれるかと思ったが…………黒幕が思った以上に■■で助かったよ。
そしてなにより、これらの細工によってあの女に契約を破棄させることが出来た。そう、封印を解くためには契約を破棄しなくちゃいけないからね。ハハ!
…………そして封印を解くために契約を破棄された今なら、黒幕についての情報を残す事ができる。
>>464
蔵の中の書物には黒幕への手掛かりを思いつく限りの方法で手当たり次第書きなぐっておいた、こんだけ書けば少し位は残るだろ。
それにこのページには、ありったけの魔力をぶち込んだ保護術式を掛けてある。他の本よりはずっと多く情報が残るはずだ。
僕はこれから臓硯とケリを付けに行く。封印で大分弱らせた筈だが、僕も老いた。勝てればいいが、そう上手くはいかないだろう。
さて現状はと言えば、兵の損耗率4割越え、通信施設と出入口は影共に制圧され、援軍は望むべくもない。
…………見渡す限りの炎と破壊。兵達のあげる断末魔と怒号が僕の鼓膜を揺らす。
まるであの大災害の焼き直し。しかし僕はこの光景に怒りこそすれど、絶望する事はない。
"僕"はこの時に備えて『力』を蓄え、そしてその『力』は蹴散らされつつある。しかしだ、"僕たち"の創り上げたこの街、グーグルシティの『総力』はこんなモノではない。
ヤクザ紛いの企業共。身体を機械で強化したギャング共。やたらたくましい一般市民達。
3人に1人はロクデナシがいるこの街だが、いざという時の強さは尋常じゃない。だからそう、僕らの敗北と死は決して終わりを意味しない。セバスとエミリーも何だかんだ健在だしな。
>>465
……ふと手を見れば、痩せて皺の寄った掌がそこに在る───飽きる程長く生きて、それでも僕はまだ死が怖い。
不死を願った臓硯の気持ちが、今ならほんの少しだけ解る。蛙の子は蛙、僕も少なからずアレの気質を受け継いでると言う事か。
自嘲的な感傷と共に、人差し指をクルリと回せば僕の蟲達が姿を表す。こいつらとの付き合いも随分と長くなった。
指先を噛んで垂らした血で魔法陣を描く。涸れた喉で祝詞を紡ぐ。
今より執り行うは『蠱毒』の儀式。蟲同士で喰らい合い、最期に残った蟲が僕を喰らうことで儀式は完遂される。生涯最強の使い魔を作り出す儀式、完成形を見届けられないのが残念だ…………そう、残念だ。
…………たった今、蟲達の争う音が止んだ。早く執筆を辞めて、蔵から出て生贄に成りに行かねば。
足が震える、恐怖で喉が詰まる………今更になって皆の顔が脳裏に浮かぶ。エミヤの奴、元気にしてんのかな、死んでたら寂しいな。一線を引いてからかなり衰えてるからなぁ、少し心配だなぁ。
段々、段々と守りを重視した剣技になって行って、そして最後は剣を捨てちゃってさ。いや、違うか。『捨てることが出来た』だな。
桜の奴、相当頑張ったんだろうなぁ。エミヤを人に戻す為に。
願わくばどうか、先立った奴らと同じ場所に行けます様に。
やっと過去編終了です!
次の展開を大分書き溜めてあるので、多分一週間くらいで次の話を出せると思います。
久しぶりに白爪草みたけどやっぱ面白い、次があれば村を舞台にしたカルトモノとかやって欲しい
過去編かなり長いので、特に大事な内容だけ纏めておきますと
・カカラの正体は『人類が対抗可能なレベルにまで弱体化させたシャドウサーヴァント』
・カカラの存在意義は『生産者である臓硯から魔力を搾り取って弱体化させる事』
・『楽園』は臓硯の封印が解けた時用の安全システム兼、後継者補充システム
みたいな感じです
細かい裏設定
日記からの干渉
実は、慎二がシャドウサーヴァント用の結界を強化する度に、日記からの干渉が弱まってたりします。
『黒幕』が聖杯に細工する→聖杯から生まれたシャドウサーヴァントに僅かながら『黒幕』の要素が混じる→結果的に、シャドウサーヴァント用結界が『黒幕』の干渉を妨害するようになる
と言った感じですね。
『黒幕』が記述を消す基準
自身についての記述を消す能力は基本オートですが、実は少しだけ特殊な基準があります。
『黒幕』を褒める様な記述は文脈が残る程度にしか消されず、
逆に『黒幕』を貶す様な記述は前後の文脈ごと消されると言う基準です
『楽園の声』
かなり前に登場したキーアイテム。『楽園』の良さをアピールする為のPR映像。
楽園には臓硯の封印など映っちゃいけないモノが沢山あるので、それらを映さない為に映像加工をしまくってる。
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=Uq7kyf1T_lk&t=5010s
>>470
この過去編は次以降の章でもそこそこ関わってくる予定なので、楽しんでいただけたのなら幸いです
お金はまあ、無理しちゃヤバいですしね、、、、、
かなりどうでも良い裏話ですが、この世界線は本来アポクリファと同一の未来を辿るはずだったりします
聖杯の奪取を防ぐために臓硯が黒幕と契約し、黒幕側は聖杯の所有権を一部得ました
そこから第五次聖杯戦争まで縁が続いた感じですね
それとついでに、こんな裏設定もどうぞ
グーグルシティ以外の主要な街
瀬戸内島嶼連合
本拠地:呉
瀬戸内海の島々と橋を巧みに用い、シャドウサーヴァント達から生き残った四国&中国地方の人間たちが作り上げた街。
おもな産業は海運と造船。
空中に土地を固定する技術を確立しており、瀬戸内海の上を大小様々な島が浮かぶ様は絶景として有名。
横須賀コロニー
本拠地:横須賀
横須賀基地の自衛隊が滅茶苦茶頑張ってシャドウサーヴァント達を倒し、コロニーとして成立させた場所。
昔の日本文化を色濃く残すコロニーであり、住民のアイデンティティを確立する為か仏教と神道が盛ん。
主な産業は兵器と傭兵。
UNIVERSE薩摩
本拠地:なし(九州全域を常に放浪している)
ジェットエンジン付きのコロニーで放浪する謎集団。
家畜のフンで核融合する超技術を有している、と言う噂があるが真偽不明。非常に規模が小さく、また原理不明のステルス技術でもって移動する為遭遇は稀。
──────実際は、科学者と魔術師による、
『魔術と科学の両面から根源到達を目指す新時代の魔術協会』
だったりする。
>>466
「…………」
日記を最後まで読み切ったセバスとエミリーは、二冊の日記を箱にしまい持ち上げた。厚く堆積した埃を踏みしめて歩き、蔵から出る。
エミリーは箱に乗っていた紅い宝石を両の手で握り込む。皺だらけの額に苦悩の跡を刻みながら。
「…………慎二さん、貴方が死んでいたなんて私知りませんでしたわよ。
偶に会うといつもヘラヘラしてて、私達より長生きしそうな貴方が死んでたなんて」
擦れた声でそう呟く。掌中にある宝石を強く握り直す、ただ強く、縋るように。
エミリーの頬を涙が伝う。只一滴の涙が。
「───」
柔らかいハンケチで宝石を包んで懐に入れ──────蔵の上から襲ってきたシャドウサーヴァントを鉄杭でぶち抜く。
エミリーの瞳に感傷の色は既にない、流した涙はもう乾いた。
「…………クッ、ゲホッ」
蓄積した傷やクスリの副作用が体を蝕む。顔を顰めて息をつけば、肺の奥から血の塊が転げ出る。
正直もう休みたい。だがこの日記をピノ様と双葉様のご友人に届けねばならぬ。
恩人の遺した願い、『一番強い人間に日記を届けて欲しい』という願い。これを叶えずして立ち止まれようか。
>>472
辛そうなエミリーを心配してか、セバスが話しかけてくる。
「大丈夫か? 動くのが辛いなら私だけで行くぞ?」
「……うっさいですわジジイ。アナタに心配される程耄碌してはおりませんの。それにアナタも大概消耗しているでしょうに」
「待てよエミリー、私とお前は同年齢だろう? 私がジジイと言うなら──────」
「ハイハイ、ほら行きますよ」
セバスと軽口を叩き合っている内に、エミリーにも普段の調子が戻り始める────さて、そろそろ急がねば。
重い足を擦って二人はエミヤの家を後にする。振り返らず、ただ進む。
──────────────────
時は少し遡り、シロ&ばあちゃる視点。
「…………駄目だねぇ。通信が繋がらないよ」
「ありゃま、結界的なモノでも在るんスかね?」
山寺の中へ投げ込まれた二人。山寺の中は、いっそ不気味なほど順当に荒れ果てていた。
腐りかけの柱、苔むした瓦屋根、石畳や石灯籠はあちこち風化して砕けている。
ここが閉鎖的な場所だからだろうか、身に吹き付ける風が妙に生臭い。ジットリとした空気が腕に絡みつく。
>>473
邪魔な枝を切り払い、鬱蒼と生い茂る下草を踏みつぶしながら二人は奥へと進む。
つい先ほどまでアルトリアと相対していたものの、二人に消耗は殆ど無い。取り残して来た三人への心配もない。
──────いかに騎士王と言えども、首を搔っ切られてマトモに戦える筈はなし。英霊とて元は人間、覆せる道理にも限界がある…………筈だ。多分。
「いやしかし、不気味な場所っすね…………いかにもと言うか何というか」
「馬、気を抜いちゃ駄目だよ。多分敵はすぐ側に居る、隠れてるだけ。牛巻とあずきちゃんが『カカラの大元がここに居る』て言ってたでしょ」
「確かに、その通りっすねハイ」
シロの忠告に従い、ばあちゃるは拳銃を構え「ッ!?」
己の感じた直感のままに腕を回し、引き金を引く。放たれた弾丸は音速を超えて加速し────
「ナんじゃ、大した事ナイノう。あのアルトリアを超えて来たモノ共ヲ見に来てみれバ、マサかこんな若造達とハ。
因みにワシの名は『間桐臓硯』。ワシに殺されるまでの短い間ジャガ、宜しく頼ム」
停められた。背丈の低い老人、死にかけた老人の指に摘ままれて。
伽藍洞の様な瞳、鼓膜を擦る不安定な声、左半身は茶色く枯死している。腹に刻まれた傷から血が垂れ続けており、それが酷く生々しく痛々しい。
一見すればただの死に掛け老人、しかし身にまとう雰囲気は間違いなく魔性のソレ。
臓硯が一呼吸する事に周囲が暗く澱んで行く。相対するばあちゃるはただ身を固め、恐れを押し殺す。
そんな彼の無力を当て擦るかのように、臓硯は摘まんだ銃弾を軽く放り投げ「ほい」
「ナんっ───」
>>474
ようとした瞬間、背後から手榴弾が放り込まれる。放り込まれた手榴弾は強烈な光を発して臓硯の視界を白く塗りつぶす。
「お、ほ、ほいっと」
頸部に一本、膝に二本。『シロ』が背後から投げつけたナイフが臓硯に刺さる。
掛け声こそ何処か気の抜けたモノ、しかしその手口に容赦はない。フラッシュグレネードによりまず視界を潰し、投げナイフを用いて無音のままに殺す。ナイフ自体も念入りに消臭してある。
物理的に感知不能な一撃。未来の英霊であるシロだからこそ成し得た、現代兵器を十全に用いての奇襲。
「…………」
クタリと、臓硯は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。
実のところ、この寺に入った時点でシロは敵の存在を察知していた。それ故に臓硯が姿を現す直前に既に姿を隠し、攻撃の手筈を整えることが出来たのだ。
「や、やった────」
「いや」
────ほっとした様相を見せるばあちゃるに対し、シロの表情は硬い。アホ毛をピンと立て警戒をしたまま。
「多分やれてないね」
シロは蒼い瞳で敵をしかと見据え、愛用の銃剣を構える。
──────確かに先程のは渾身の一撃であった。殺すつもり、殺したつもりであった。しかしシロの直感が囁くのだ『敵はまだ生きている』と。
そんなシロに追随してばあちゃるも『バチュン』
───不格好な水風船のように臓硯が膨らんだかと思うと、その直後に破裂した。破裂した肉体は方々へ飛び散り、黒泥へ変化し、周囲の物質を取り込む。
泥は集合し、足となる。胴体となる。腕となる。頭となる。人型を成す。
>>475
「うげ…………」
「長い封印でワシも衰えたな。知性はある程度取り戻したが、魔力量が酷く落ちておる。世界からワシ以外の生命を消せる魔力が貯まるまで、一体どれだけかかるやら」
先ほどまでより明らかに明瞭な声。伽藍洞の瞳に宿る邪知の光。身にまとっていた邪悪な気配は鳴りを潜め、しかしそれは脅威度の低下を意味しない。
蛇が舌を鳴らすのは無駄な戦闘を避けるため。怪物が魔性の気配を纏うは威圧の為…………では、気配を消すのは何のため? それは勿論殺す為。
そしてなにより──────
「ワシは50年前に敗北を喫した。封印された。
緩やかに衰え行く封印の中でワシは考えた。なぜ負けたのかと。そして思い至った。数が足りなかったのだと。中途半端に個の強さで競ったから負けたのだと。
しかしシャドウサーヴァントでは駒としてやや力不足、カカラは論外。アルトリアやエミヤの小童は運用に手間が掛かる。だから──────ワシは己を分割し増やした」
数が増えた。まるで同じ姿をした臓硯が、多分3体はいる。
人の膂力は怪物に劣り、それ故に人は数と知恵でもって怪物に立ち向かう。で、あるならば。数と知恵を兼ねそろえた怪物はどうなる?
答えは簡単、『最悪』だ。
「ホレ、戦いを始めるとしようか」
「…………ええ、上等っすよ。やってやりますよハイ」
「来い、返り討ちにしてやる」
臓硯達の体から幾本もの触手が生えた───光を飲み込む真黒色、枯れ枝の様に細く節くれ立ち、触手の先端にはパースの狂った手がついている─────触手と腕をグチャグチャに混ぜたかのような、そんな触手だ。
ばあちゃるに五本、シロに十本、臓硯の触手が襲い掛かる。微妙にタイミングをずらして様々な方向から。
>>476
対するシロとばあちゃる。二人も既に戦闘体勢。触手を全て迎え撃ち、返す刀で臓硯を討ち取る腹積もりだ。
「────!」
──────来た。ばあちゃるは一本目と二本目を飛んで避け、三本目をナイフでどうにか逸らし、四本目と五本目を硬化で受け「ッ!?」
四本目の触手がばあちゃるの襟を掴んで投げる─────落とされた先は石灯籠の上。風化した石灯籠はしかし砕けず、ばあちゃるの背中に重く鋭い衝撃を叩き込む。
想定外の攻撃を受けて硬化が緩んだ瞬間、五本目の先端がばあちゃるの腹を打つ。
「ガフッ…………!」
「シロをなめないでよねっ!」
シロは一本目と二本目を後ろに下がりながら切断し、シロを追って伸びきった三本目の触手に銃剣の先端を突き刺し引っ張る。
臓硯達の内一体をよろめかせて四本目と五本目の勢いを削ぎ──────『ガツン!』
「グッ!?」
触手による投石。石は額に命中し、流れ出た血はシロの目に入り視界をふさぐ。
──────殆ど勘だけで六本目と七本目を捌くがしかし、八本目に足を掴まれ転んでしまう。
「ヤバッ」
「先ずは一人」
九本目と十本目がシロを仕留めんと迫り──────
「ハイハイ! オイラを忘れないで下さいよォ、臓硯さん!」
ばあちゃるがシロと臓硯の間に滑り込み、硬化した肉体で攻撃を受け止める。
──────ああ、血が熱い。
「なっ!?」
「………」
臓硯は驚愕の表情を浮かべる。当然の事だ。
背中に石灯篭を叩きこまれ、腹に触手の直撃を喰らった上で直ぐに復帰してきたのだ。しかも格好以外は普通の男が。驚くに決まっている。
「ありがとう馬!」
>>477
臓硯の反応に反してシロは驚かない。幼げな顔に微笑を浮かべ礼をする余裕すらある。
馬ならきっと私を守ってくれる、それ位の信頼はあるのだ。
「…………へへ、お安いもんですよハイ」
シロの声にばあちゃるは明るい声で応える。シロを助けられた嬉しさ、常人である自分が役に立てた達成感、二つの好感情を混ぜた声で。
────シロに危機が迫った瞬間、ばあちゃるは動けずにいた筈だ。常人の受容限界を超えた痛み、肺から酸素が出切り、到底動ける状況ではなかった。少なくともばあちゃるの主観では。
しかし現実は違う。ばあちゃるの体は望み通りに動きシロの窮地を救った。
車内で狙撃された時もそうだ。あの時ばあちゃるの体は常人の反応速度を超越して動き、シロを庇う事に成功した。
自分が変わる事に恐怖は無い、エイレーンとの戦いでそう覚悟してから時々体が軽くなる。シロを守ろうとする時は、特に。
「─────」
シロは目に付いた血をふき取り、ばあちゃるは息を整え、臓硯は触手を引き戻し修復する。
戦闘の最中に生まれた小休止。一瞬の平穏が訪れる。
(あの触手かなり厄介だねぇ、指が付いてるせいで応用の幅が異常に広い。伸びる距離に限界があるっぽいのが一応の救いかな? 色んな攻撃を仕掛けてもっと弱点を探りたいな)
(他の侵入者も殺さねばならぬし、あまり消耗すべきではないか。早々に心をへし折るのが一番消耗せずに済みそうかのぅ)
怪物と英雄、両者が思考を終え動き出した。先手を取ったのはシロ。
>>478
「行くよ馬! シロが撃つから、装弾の時カバーしてね!」
(どうせこれじゃあ倒せないだろうけど、まずは攻撃を繰り返して相手を見極めないとね)
「ウッス!」
シロは自動小銃を構え、臓硯に向けて引き金を引く。
金属製の銃身は砲音をがなり立て、その身を赤熱させる。薬莢から解き放たれた暴力が臓硯へ殺到する。その身を引き裂かんが為に。
さて、対する臓硯はと言えば──────
「ほう、ワシを測る気か。ならば存分に力を見せてやろう」
すっかり元通りになった触手を展開して銃弾を全て防ぎ──────いや、先ほどまでより明らかに一体辺りの触手が増えている。
さっきまででも充分対処に苦慮していたのに、コレはヤバい。二人にとっては正に悪夢──────しかもそれだけではない。
「ホレ、力を見せたぞ。感想はどうじゃ? 絶望はしてくれたかのう? ハハハハハハハハッ!!」
臓硯が三人から四人に増えた。怪物は四つの顔に悪辣な笑みを浮かべ、四つの口でせせら笑う。
見せつける様に振るわれた触手が山寺を破壊してゆく。シロとばあちゃるに逃げ隠れする場所を与えない様にするためだろう。
普通なら絶望しか有り得ない場面、しかし
「……これはキツイですねハイ。まあ絶望はしてやりませんけど」
ばあちゃるは震えた声でそう言い放つ。銃を己が手で構え弾を打ち放つ。臓硯へ向けて。
正直言うとめっちゃ怖い。でも大会で見た強者達の方が、門を守っていたアルトリアの方が、ずっと怖かった。だから絶望しない。
(力を見せたって事は、ここら辺が分裂数の底って事かな。希望的観測しすぎるのもアレだけど。触手の射程外から嫌がらせしつつ、集中力が切れたところに有効打を入れるのが良さげかなぁ。それにうん、"丁度いい")
>>479
シロは黙して小銃に弾を込め、ただその動作でもって抗戦の意志を示す。
英雄が怪物退治するのは当然の事。そこに理由は要らぬ。
「そうか─────」
希望を失わない二人を前に、臓硯はスンと笑みを納めて真顔になる。能面の如き真顔に青筋が浮かぶ。
────臓硯は酷く苛立っていた。何故かは解らない──────いやそうか、奴らを思い出して苛立ちが湧くのか。ワシの前に何度も何度も何度も立ちはだかって来た奴ら。
何度叩き潰そうとも立ち上がって来た、アイツラと似ておる! 恐怖してるくせに歯向かってくるあの馬男、慎二と同じだッ! ひたすら折れないあの白髪女、遠坂と同じだッ!
……消耗云々などもう考えはせぬ。全霊をもって目の前の敵を、潰す。
「──────希望ヲ抱いテ死ネ!」
「死なねえっすよ! 多分!」
臓硯は叫ぶ。老人を模していた肉体は醜く膨らんで真性の怪物へ、触手は太く鋭く変じた。
計40本、無数といっても差し支えない数が二人へ殺到する。殺意は至高、邪知も相変わらず、ある触手は尖った石で首を狙い、ある触手は砂を掴んで目つぶしを狙う。
40本の腕が単一の意志の元攻撃を仕掛けてくる。純然たる数の暴力、死をもたらす暴力の波が二人に迫る。正に必殺──────そう、さっきまでならば。
>>480
https://www.youtube.com/watch?v=7D38LcVhrzk&t=9s
「ナっ!?」
暴力の波がただ一撃で打ち払われる、シロの一撃によって。
シロの周囲に青い光が浮かぶ。彼女の『自身への応援を力に変える』スキルが発動したのだ。
「一体ナンダ!? ナ二が起こっタと言うノダ!」
「エイレーンちゃんの贈り物、なんだろうかと思ってたら、こう言う事かぁ。こりゃびっくりだぁ」
何時ぞやに貰った黒い箱。あの箱から飛び出たステルスドローンがシロにカメラを向けていた。
あのカメラがどこに繋がっているかは解らない。だが応援の力が集まっていると言う事は、きっと人の多い場所につなげてくれているのだろう。
「────」
瞳を細めてシロは笑みを浮かべ、心地良い空気を肺に取り込む。
シロは人の善意を心の底から信じている。だからこう言った事が起こるのも当然予想していた。しかしそれでも、泣きそうな程嬉しい。
──────勿論、泣いている暇はない。さあ反撃開始だ。
>>481
────────────────────────────────────────────────
──────視点は少し変わり、時間は少し巻き戻る。
ここはエイレーン一家の事務所。殆どの構成員は外に出かけていて、今ここに居るのはたった三人。アカリ、エイレーン、そして天開だ。
「急な依頼を受けてくださり、本当にありがとう御座います」
「俺は司会者ですから。金さえ貰えりゃどんな戦いもエンタメに変えてやるのがポリシーです。急な依頼だってこなしますとも。
それに、本来なら会員の招待がないと入店すら出来ない高級風俗のvip会員証まで貰っちゃあ、そりゃ受けない訳がないですって」
「喜んでもらえて何よりデス。実はそれ、店の方にはダメもとで頼んでみたのですが………有名司会者の天開さんなら会員に相応しいってことで特例が通りまして」
「いや、ハハハ。褒めてもなにもでませんよ。それはそうと、内容は事前の通達通りで良いんですよね? 何か変更があれば対応しますけど」
「そのままで大丈夫デース。『スパークリングチャット:50周年記念杯、優勝者シロとベスト8入り選手のばあちゃる。二人が相対するはカカラの大元。刮目せよ新時代の幕開けを』と言う内容のままで」
「承りました。んじゃ、そろそろスタジオ入りしなきゃなんで、失礼させて貰います」
天開が事務所のドアを開けて外に去った。
客がいなくなったのを見計らい、エイレーンとアカリはソファにグデンと身を預ける。
「あー疲れた。テレビ局、広告代理店、その他企業や団体諸々…………映像流すだけなのに、交渉しなきゃいけない場所が多すぎるってマジで」
アカリは額を揉む。蓄積した眼精疲労が頭痛にまで発展している。
>>482
「お疲れ様ですアカリサーン。視界が回復してからは殆ど働きづめでしたからね。マッサージでもしましょうか?」
「手つきが怪しいよエイレーン…………」
ここ数日、エイレーン一家は全力で働いていた。シロ達の戦う姿を司会付きで放映し、視聴者にシロを応援させ、『応援を力に変える』スキルを発動させる為に。
あのスキルの強力さは身に染みて解っている。あれさえ発動すればシロ達の勝率はグッと上がるだろう。
「さて、後は時間が問題デース」
「だね」
シロ達が既に『楽園』へ入ったのは独自の情報網で確認済み。この作戦を思いついてから全速力で行動したが、それでもかなりギリギリになってしまった。
この作戦はシロ達に迷惑をかけた償いでもあるし、カカラの消滅を街中に表明する為のモノでもある。失敗するわけにはいかない。
カカラが消滅するだけじゃ世界は良くならない。一般民衆は暫く外を恐れ、一部の聡い企業だけがその恩恵に預かるだろう。それではきっと駄目なのだ。
一部の人間が富を独占してしまうのはしょうがない。資本主義とはそう言うものだ。だが、富を独占し"過ぎる"のは良くない。才能ある下の人間がどうあがいても這い上がれぬ程に貧富の差が開くのは。
貧富の差を覆せぬ社会はきっと、息苦しく生きづらく、行き詰ったモノになるだろう。それが嫌なのだ。
どうせ生きるなら良い時代に生きたい。エイレーンもアカリもそう考えている。
「上手く行くと良いな」
「上手く行きますよ、そう願いましょう」
人事は尽くした。後はもう待つしかない。
>>483
エイレーンがそっと瞳を閉じれば、恩人の姿が瞼の裏に浮かぶ。老人となったエミヤ、身寄りのなかったエイレーン達を拾ってくれた、今は亡き恩人が。
ふと、彼の話してくれた昔話を思い出す。今は昔の過去話、セピア色すら抜けきった昔々の御話を。
お調子者の友人とのしょうもない喧嘩、もう食えないと思っていた物をまた食えたこと、妻と花を育てた事──────そして、エイレーンが何より好きだった作り話。
彼が毎度『作り話だ』と前置きして話してくれる壮大な英雄譚。普通の少年が勇敢な騎士と一緒に戦い、友と共闘し、襲い掛かってくる敵を苦戦しながら打ち倒し、最後は願いを叶える御話。直接見て来たかの様にイキイキとしたキャラ、誰も死なない綺麗なハッピーエンド、今でも好きな話だ。
これを語る度彼は静かに泣いていた。何故泣くのかは解らなかった。いつか涙に寄り添えたら良いなと、そう思っていたものだ。
────────────────────────────────────────────────
一週間で更新できると言っていましたが、大分更新遅れました…………
切り良いところまで書こうとしたら予想以上に尺が伸びしてしまいました
裏設定
臓硯について
作中でもちょいちょい示唆されてる通り、過去編で無茶蘇生したのが原因で大分知能が落ちている。
具体的には、原作時点でも散見されていた『機を待ちすぎて機を逃す悪癖』が滅茶苦茶悪化している上、変に舐めプする癖まで発症してます。
そもそも、臓硯が山寺に居た理由が
封印が解けたは良いけど、慎二の仕掛けたカカラ生産機能(強制)があるせいで弱体化の一方。動く準備を始める→
若干トラウマ気味だったエミヤが殺害される、天に登ろうとする魂を捕え手駒に→
これで味を占めた臓硯は潜伏に方針転換。霊脈から魔力を吸い取りまくって、カカラ生産による魔力消費<霊脈から獲得する魔力、にまで持ってゆく→
得た魔力でアルトリアを召喚し、エミヤの直弟子であるセバス・エミリーが死ぬのをホクホク顔で待つ→
ただ待っていたら、いつの間にか英霊が街の中に溶け込んで生活し出す→
ここで焦ってシャドウサーヴァントの生産を開始、当然ながら魔力収支はマイナスなので弱体化する→
霊脈から魔力を得ている関係上、潜伏場所もそうそう変えられない。打って出るには余力が微妙、と言う半ば詰み状態にまで追い詰められる
とまぁ、原作臓硯なら絶対有り得ないレベルのガバっぷりです
それでも戦闘時の機転を始め、調子いい時は往年並みの知性を発揮しますが
唐突ですが、しばらく後にハーメルンにも投稿するかもです
エピソードの追加などは基本ありませんが、回収しきれなかったor面白味の無い伏線を削除したり、解りづらい心情に軽く補足を入れたりはするかもです
>>487
ブラッシュアップするのでちょっと時間かかりますが、いい作品を投稿する予定なので楽しみにして頂けると幸いです!
>>484
シロ視点
獰猛に笑うシロ、動揺している臓硯、若干状況を吞み込めていないばあちゃる。三人が山寺の境内にいた。
グデンと垂れた触手共がミミズの死骸じみた様相を晒している。
「……まあよいわ、シネ」
臓硯は我に返って触手を引き戻そうとし──────しかし毛程も動かない。
「……?」
訝しげに肉体を震わし、臓硯は触手を見る。一見した限り傷はない。奇妙だ。
煮えたぎる激情が冷め、未知に対する恐怖がおもむろに顔を出す。内蔵がスッと冷えて行く。
────長い時を生きた臓硯は、この未知に対して仮説を立てていた。己の考え得る限り最悪の仮説を。
「オ、お主のその力はナンダ!?」
「んふふ、これはシロの『応援を力に変える』スキルだよぉ」
「───」
────最悪だ。臓硯の喉が閉塞する。
臓硯は汚染された聖杯と同化しているため『聖なる力』とか『正の感情由来の力』とかには滅法弱い。それ故、『応援の力』を纏うシロは臓硯の天敵と言えよう。
>>491
────事ここに至って臓硯は死を意識した。
「ソウカ、ソウカ、ソウカソウカッ! お主が死かッ!」
血を吐くような狂叫。死の恐怖が臓硯の胸を抉り、その痛みを狂気で塗りつぶ『お は ク ズ、天開司だ! 画面に映るはグーグルシティ50周年杯優勝者、シィィロォォォ! 彗星の如く現れたチャンピオン!』
死闘の場には到底合わぬ声が山寺に響き渡る。不思議と耳に馴染む声、グーグルシティの誇る名物司会、天開司の声だ。
「ハ?」
『シロと組むのは同大会ベスト8選手、ばあちゃる! そんなドリームチームに挑む大ッ怪物! 50年以上にわたってカカラを産み続けたビックマザー、名前は、えっと……とにかくヤバい怪物だ!』
『怪物の名前知らんのかい』『締らないネ』『こいつ倒したらカカラ消えるんだろ? すげえな!』『ホントかな?』『ホントであって欲しいな』
『──────』
エイレーン達の託したドローンから声が響く、あちらからの映像が空一杯に投影される。機械越しの応援が勇気と力を与えてくれる。
──────機械腕を付けた強面、利発そうな子供、派手な服を着た若者、ピーマンとパプリカの覆面レスラー、車椅子の老婦人、チャイナ服に身を包んでいる女性、脳天にギターピックを付けた男、買い物籠を抱えたご婦人、ゴシックロリータを着た偉丈夫、赤子を抱いた男──────バラエティ豊かなグーグルシティの住民たち。彼らは皆シロ達に釘付けだ。
>>492
「……目の前にいるのは臓硯! 今からシロが倒す男の名だよ!」
「オイラ達は勝ちますよハイ!」
シロは臓硯を指差してそう答えた。彼女の目に恐れはなく、喜びと戦意、ただそれだけが満ちている。
ばあちゃるももう臆していない。高らかに勝利を叫び、臓硯を見据えている。
『二人からの勝利宣ッ言! 果たしてこの宣言は果たされるのか!?』
『勝ってくれ!』『やっちまえ!!』『怪物に怯える生活を、終りにしてくれぇ!』
一秒経つ毎に上がる観客のボルテージ。シロを取り囲む青光が指数関数的に増大してゆく。
歓声がうねりとなって二人の胎を揺らす。二人は目を細め、全身で歓声を堪能する。
『あの二人が勝てば……僕たちはもっとシアワセに成れるんだッ!』『街の外で死に別れた妻の体、やっと探しに行けるのぅ』『子供が穏やかに過ごせる未来が欲しい!』
「───」
臓硯の視界が紅く染まる。怒りに任せて噛みしめた歯が砕ける。
グーグルシティ、大っ嫌いな慎二やエミヤが人生をかけて築き上げた街。そんな街に住んでいる奴らが希望を抱いているのに腹が立ってしょうがない。
────臓硯は感情のままに触手を生やす。
「死ね死ね死ねしねシねしネシネシネ! いい加減にシネ!」
「そりゃ、聞けない、願い、だよ!」
『臓硯のラッシュ! ラッシュ! ラッアアァァシュ!! シロ選手はそれを捌く、打ち破る!』
新たに生やした触手を叩きつけ、シロに破壊され、また生やし、破壊される。不毛な繰り返しをひたすらに繰り返して四つの体で繰り返す。
「もう一度言います、オイラを忘れないで下さい臓硯さん」
「グッ!?」
>>493
ばあちゃるの銃弾が四つ飛ぶ。臓硯が万全の状態ならば傷一つ付けられなかったであろうソレは、弱り切った臓硯達の肉を深く抉った。
『ばあちゃるの不意打ち! 怪物臓硯が膝を着いたぞ! このまま押し切っちまえ!』
『いけーっ! 銀髪の少女!』『大会に続きまた不意打ち……上手いっスね』『位置取りとかでも成功率変わるし意外と奥深なんだな』
「────」
臓硯はたまらず膝を付き──────そして冷静さを取り戻した。肉を抉られた痛みで頭が冷えたのだ。
(目の前のこいつらを殺せば活路は開ける……そのためには手数では駄目じゃ、こちらが先にリソースを吐き切ってしまう。勝てる可能性があるのは──────強力な一撃、とびきり致命的な一撃)
「もうよい。次だ、次の一撃で決着を付けようではないか。白髪の少女よ」
『おお! 臓硯からの決着宣言だ! シロ選手はこれを受けるか!?』
(早速弱点を読まれたかぁ。観客を萎えさせると強化量が減っちゃうから、割と行動を縛られるんだよねコレ)
「OK、受けるよ」
「ちょ、良いんすか?」
「良いの良いの、まあ見てなって馬」
シロは武器を捨て、拳を引く。宝具を撃つために。
>>494
対する臓硯は四つに分割した肉体を統合し”再構成”した。醜く膨らんだ体躯は元の老人へ戻る。本体へのリソースは最低限、次の一撃に全て注ぎ込む。
触手を一本生やす。先端を極限まで鋭利かつ強靭にし、筋繊維にまでこだわった特別製。グウと触手をたわませ、合わせる様に拳を引く。
『シロが乗った! 両者が構えた! さあお前ら、瞬き禁止だ、この先数秒を目に焼き付けろ!』
『勝って……』『もっと笑える世界へ!』『決めちまえ!』
『────』
「……解りましたよハイ」
風が吹く。生い茂った草が揺れる。
「宝具、真名開放『唸れよ砕け私の拳(ぱいーん砲)』」
「貫撃(ペネトレイト・ワン)」
「…………」
二人が動いた。
シロの一撃が彗星めいて奔る。蒼く綺麗に輝いて。
臓硯の触手は音速を突破しシロへ突貫する。ただ速いだけではない、有機的な軌道を描き、周囲に溶け込む色合いへと変化しシロを確実に狙う。
「……っ、避けた!」
深く、体が沈む程深く踏み込み、シロは触手を紙一重で避けた。獣の様に体をしならせ、臓硯の心臓を──────
>>495
「ハハッ!」
心臓を抉られた臓硯は嗤う。
「まさか!?」
二体目の臓硯が拳を振り切ったシロの背後に現れる。”再構成”の際、二つ目の肉体を新たに作成し、それを草陰に忍ばせておいたのだ。
『マジか』『殺し合いはこれだから怖え』『仇、取りに行くか』『いや待て』
────これで終わりだ、死ね──────
「なんてね、やっちゃって」
「ウッス」
ケリンから貰った手榴弾をばあちゃるが投げつけた。投げつけられた手榴弾はパッとケミカルに光り、臓硯の下半身を消滅させた。
「ナッ!?」
臓硯は上半身だけになった体を引きずり、驚愕に瞳を揺らす。
伏兵の存在を予め察知していなければ不可能な対応────いや、まさか。察知されていたのか。
『命中。やったね! いやー、牛巻が間に合ってホントに良かった!』
「マジで肝が冷えましたよ……」
────臓硯の弱体化が極まった結果、ブイデアからの通信が通じる様になり、オペレーターの牛巻によって臓硯の隠れ場所は筒抜けとなっていたのだ。
最も通信が回復したのはついさっきの事であり、紙一重の勝利であった。
「ヌ、ウ…………オノレ…………」
>>496
魔力を使い果たした臓硯は下半身の再生すら出来ない。完全敗北だ。
『勝負アリ! 勝者、シロ&ばあちゃるペア!! 喜べお前等! 今日より明るい明日が来るぞ!』
『今日より明るい日……それが明日だ!』『やりぃ!』『俺たちは特に何もしてないけどな』『棚ボタ最高!』『花、思い出の花を摘みに行こう』『ブラボー馬男!』『へっ、あのシロがいるなら勝利なんて最初から決まってたさ』
万雷の喝采がススキを揺らす。
勝利の歓喜にシロとばあちゃるの頬は緩む。誇らしく胸を張り、大きく息を吸う。そして歓喜の叫びを放つ。
「勝った! 勝ちましたよハイ!!」
「だね! だね! やったね!!」
二人で肩を抱き合い、喜びを分かち合う。優勝を飾ったスポーツチームの様に。
──────だが、ずっとそうしてもいられない。
「これで、終わりじゃないんだよね」
「?」
シロは緩んだ頬を締め直す。気が少々重いが、すべきことをせねばならない。
「馬、ドローンのカメラを止めて。これからする事は、きっと人前に晒しちゃいけない事だから」
「……ああ、解りました」
──────ばあちゃるはシロの言わんとする事を理解し、ドローンのカメラを手で塞ぐ。
『ちょっと、そりゃどう言う…………ああ、いや、そうか。…………終わったら教えてくれよな』
臓硯は殺さねばならない。だがその死まで晒してしまうのは、いくらなんでも酷だ。戦いの最中に殺すのと処刑は違う。少なくともシロにとってはそうだ。
>>497
こんなのは所詮自己満足でしかないのだろう。だがそれでも、情けでもかけなきゃ殺しなぞやってられない。
「シニタクナイ、シニタクナイ」
シロは臓硯の前に立ち、もがく彼の心臓を狙う。魔力の節約はしない、一撃で、痛みなく、確実に葬り去る。目は閉じない。
臓硯が弱々しくうめいている、ただの老人の様に。シロは臓硯から目を背けない。
「さようなら─────」
「マ、マテ」
臓硯が言葉を紡ぐ。シロは手を止める。遺言があるなら聞くと言わんばかりに。
「空……映像を、ミヨ」
臓硯は震える指で、空の映像を指さす。
そこには──────街で暴れるシャドウサーヴァントが映っていた。
「ワシが…………街に忍び込マせテおいた手駒達…………ワシを殺ソウともトマリはせぬ。ワシを見逃セばトメてやるガ、どうする?」
悪魔は嗤う。
最近面白い配信が多くて楽しい
今回はシロちゃん&馬&民衆、VS臓硯回でした
それはそうと、ノクターン掲載に向けた改稿作業に若干苦戦気味です、、、、手直ししなきゃいけない場所が多すぎてヤバい
おまけ
現地民(英霊は除外)の臓硯討伐貢献度ランキング
一位:一般民衆達
カカラを継続的に狩って臓硯を大幅に弱体化させ、シロちゃんにパワーを与えた。
ボスの力ありきとはいえコンクリの荒野に町(ニーコタウン)を作り上げたりと、総じてバイタリティに溢れた存在。
同率一位:慎二
この世界を臓硯を狩る為のシステムに仕立て上げた本人。数十年スパンで計画を建てたりする根気と執念の強さは臓硯譲り。
二位:遠坂、エミヤ
街同士の貿易ルートを確立した遠坂、武力で出来る事は大体やったエミヤ。
時代が中世とかなら英霊化いけるレベルの偉業
三位:セバス・エミリー
街の発展を支えた英雄ではあるものの、臓硯討伐には割と無関係なので惜しくもこの順位。
良くも悪くも『守護者』。歴史に名こそ刻めど、歴史を変えることはない。
エミヤの後継者ではあるが、本人達の後継者はいないという、『圧倒的強者の不要化』『時代の変化』を暗に象徴する存在でもある。
四位:桜、イリヤ
終始日常の象徴であった。他のfate勢を日常に引き留めるアンカーのような存在であり、必要不可欠ではあった。
ただ討伐そのものへの貢献度はまあまあ止まり。
五位:ピーマン・パプリカ
最下位。闘技場のスター選手以上の何物でもないので順当。
唯一無二ではないが、ファンからは必要とされる存在。
第二特異点の設定先出し
満月島
獣人の住む島。生まれた時の月の満ち欠けでケモ度が変わる。
出生に大きく関わる月を信仰している。
>>498
『スパークリングチャット』前。
「シネ、シネ、主のタメニ」「シネ」「シネ」「イケニエトナレ」
────普段から街を巡回している警備員たち。彼らが突然影の怪物───シャドウサーヴァント───へ変化したのはついさっきのことだった。
「逃げろ!」「逃げるっつっても何処にだよ!」「肩をえぐられた!」「俺、戦おうかな」「勝てるわけねえだろ!」「でも、悔しいじゃねえかよぉ」「…………うるせぇ!」
半ばパニック状態に陥った民衆達が無秩序に潰走する。影共はソレを追いかける。それは、さながら狩りの光景だった。
最後尾の人間から一人、また一人と怪我を負って脱落する。誰も友や家族を慮る余裕すらない、それは正しく地獄絵図───
「こっから先は通行止めッピ、怪物」
「皆さん落ち着いてください!
闘技場内部を避難所として開放してます。オイラが敵を引き止めるので、安心して下さいッパ」
────その地獄絵図を良しとしない者がいた。
ピーマンとパプリカ。二人のスターがシャドウサーヴァント共の前に立ちふさがる。
「ナン、ダ?」「テキ」「ツヨイ」「死ね」「シネ」
影共は足を止めた。目の前にいるのが強敵であると本能で理解したのだ。
「闘技場のスターだッ!」「来てくれた!」「ありがとう!」「希望、希望が見えてきた」
「ツヨイ」「メンドう」「でもコロセる」「勝てる」「カテル」「カテル」
「……ハハッ」
観客達の声援。影共の放つ鋭い殺気。二人は身を震わせる。
────正直怖い、死ぬのが怖い、期待に答えられないのが怖い、正直逃げたい。でも戦わねば。ここで逃げたら俺らはスターじゃない。
「……」
覆面を被り直す。
恐れも泣き言も全て覆面の下に押し込め、勇猛に拳を掲げる。
>>503
「さぁ、無観客試合と洒落込もうか!」
「キャラ付けの語尾忘れてるッパよ」
「……おっと、うっかりしてたッピ」
雲間から差し込んだ陽光が二人を照らす。ネオンや街灯広告が声援を送るかのように瞬く。
対戦相手『無数の怪物』、ルール『乱闘』、時間『無制限』、バトル・スタート。
§
グーグルシティ暗黒街、『ガイチュウ街』内部
「お薬は要らんかねー」「新しい密輸ルートが開拓されたってよ」「美男子専門ヒューマンショップ『薔薇バラ肉』新装開店!」「ハァーッ不景気! ケツが痒い!」「……やべ」「大物のお出ましだ」「何だよいきなり……」「シッ、目ぇつけられるぞ」
光届かぬ暗黒街に相応しいクズとロクデナシの集う場、ここは『ガイチュウ街』。
──────大通りに集っていた人たちが二つに割れる。モーセの渡る大海が如く。
「レイヘット、好機だぞ!」
「いずこら辺が好機でおりますか、鳴神殿? 吾輩には解りませぬ」
暗黒街の大通りを闊歩する二人。ギャング『サンフラワーストリート』のヘッド、鳴神裁。同じく『サンフラワーストリート』がNo.2、レイヘット。
整った顔に下衆な笑みを浮かべる『鳴神』、長身瘦躯の似非紳士『レイヘット』。この街でも選りすぐりのクズ二人、彼らの後ろを無数の部下が練り歩いている。
「それが判らねえからお前はナンバー2止まりなんだよ」
「おまっ──────」
「まぁそんな事はどうでも良いんだ。あれ見ろ」
ムッとするレイヘットを脇目に、鳴神は遠くを指さす。
──────鳴神が指差した先に影の怪物達がいた。不思議な事に誰かを襲おうとする気配はない。
>>504
彼らには知り得ないことではあるが
『ロクデナシしかいないここで人を襲ってもシロへの交渉材料にならない』
と臓硯に判断され、ここの住民は無視されていたのだ。
「いい感じに強そうな雑魚共。俺の力を示すにゃ丁度いい」
だがそんなこと鳴神は知らないし、仮に知っていたとしても、きっと彼なら『どうでも良い』と答えるだろう。
鳴神は下衆な笑みを顔に深く刻み、パンと手を叩き鳴らす。
「俺専用の武器持ってこい、部下共」
「へい」
鳴神は後ろに控える部下から巨大な銃を受け取った。
「BGMをかけろ、飛び切り派手な奴をな」
「へい」
https://www.youtube.com/watch?v=REuLlW2ktMg
ド派手なハードロックが鳴り響く。それもラジカセやCDなどの録音ではなく、生の演奏。
『Yellow lined』アーティストの多い『サンフラワーストリート』の中でも選りすぐり、一夜のライブでウン千万を動かす著名バンドによる演奏だ。
「ガイチュウ街の皆々様。これより殺戮ショーを始めます。心の弱い方は目をふさいで下さい。そうでない輩共は……オレの強さを目に焼き付けろ」
「言うねえ」「傲慢だけど実力はあるっス、忌憚のない意見てやつっス」「ショーだ!」
鳴神は演技過剰気味に声を張り上げ、周囲の注目を引く。
────そういや、ケリンの奴はあの影共を殺して、少し気に病んでいたな。殺して利益が出るならそれで良いだろうに。まぁ、ケリンがこれ以上気に病む事がないよう皆殺しといてやるか────
鳴神は見せつけるように引き金を引き、
「……あれ?」
弾がでない。
何度引き金を引いても弾がでない。安全装置とかは予め外しておいてあるハズなのだが。と言うか銃が妙に軽い。
>>505
「……あれ?」
弾がでない。
何度引き金を引いても弾がでない。安全装置とかは予め外しておいてあるハズなのだが。と言うか銃が妙に軽い。
「あ、これ中の部品殆ど抜き取られてるわ」
「整備を依頼したお場所、今ネットで検索したらこれ『夜逃げ』しておりますね。詐欺られ申した」
「……どうしよ」
鳴神の想定していた段取りが崩れてしまった。嫌な沈黙が流れる。
────ここで引いたら馬鹿にされる。それは嫌だ。
「ふ、ふん。武器とか要らねえんだよなぁ! 行くぞ怪物!」
「ナン、ダ?」「サァ」「トリアエズ殺すカ」「マーイーカ」
メンツをかけた戦いが、今始まる!
§
風俗街『ポルノハーバー』
「ハァ……不殺も楽じゃないデース」
「ウウ……」「コロ、ス」「殺さネば」
エイレーンは歎息し、額の汗を拭う。
彼女の周りに転がる影共の体。皆四肢を動かす健や骨だけをキレイに破壊され、命を取ることなく無力化されている。
『実力の高い穏健派』というイメージを前面に押し出す関係上、不殺を貫かねばならない。
「…… アカリさん達も、うまくやれてると良いんですが」
自身の武器であるサーベルに付着した血を拭き取り、緊張で凝り固まった首を回す。
無人の通り。いつもなら昼夜問わず輝くネオンは身を潜め、騒々しい筈の店達はシャッターを閉じて沈黙している。
「避難、迎撃訓練をしておいて良かったデース。まぁこんなタイミングで役に立つのは想定外ですが」
────お忍びでお偉方が来ることも多いこの風俗街。当然道は入り組んでいるし、隠し通路なんてものもある。
今は、それらを用いてシャドウサーヴァント達を分断し、エイレーン一家の幹部陣で各個撃破を行っている最中だ。
>>506
「対応策は既に打ちましたが、一体どれだけ役に立つやら……ま、気に病んでもしょうがないですね」
エイレーンは自身の長髪をかき揚げ、武器を構える。
────次の敵が来た。戦闘再開だ。
§
??????前
「誰か門閉めろ!」「コントロールルー厶が占拠されてやがる!」「駄目だ銃が通らねえ」「扉を破られた」「何なんだアレ。人なのか? 怪物なのか?」「知らねえよ」
グーグルシティ、南門前。ここの住民たちは幸運であり、不幸でもあった。
幸運なのは『前日から抗争が起きていて、殆どの住民が厳戒態勢に入っていたこと』、『住民達の気性が比較的荒く、サイボーグ化した住民も多いこと』。不幸なのは『圧倒的強者の不在』。
────シャドウサーヴァントは強い。英霊には数段及ばないが、それでも強い。
だが、ここの住民もそれなりに強い。柱となる強者がいれば、皆をまとめる指導者がいれば、話は変わっていただろう。だが……現実は残酷だ。
>>507
「よし一人やっ────」
油圧式アームで頭蓋を握りつぶした男が、影に腕を切り落とされた。
「見つか──」
光学迷彩で潜伏していた女傭兵が、強かに腹を蹴られた。
「蟷螂と蜜蜂、あの二人さえ来れば────」
ジェットブースター仕込みの脚で助けを呼びに行こうとした誰かが、膝から下を切断された。
────立ち向かう気概のある者。潜伏して機会を伺う者。助けを呼びに行く者。強い者賢い者を優先的に狙い、なぶる。
すぐに殺してしまうと人質にならない。だから嬲る、徹底的に嬲って殺す。
「やめ──」
殴る。
「痛い痛い痛い!」
斬る。
「お願い子供だけは───」
蹴る。叩く叩く叩く。悲鳴が出尽くすまで叩く。人という楽器が静かになるまで叩いて調律する。
悪意の元統率された群体による合理的拷問────「ヒャッッハー!」
豪快にエンジンを吹かし、トラック乗りの元アウトロー共が乱入する。ニーコタウンの戦闘員達だ。
「……あぁ」
誰かが小さく息を吐く。
棘付き肩パッド、傷だらけの風貌。平時であれば恐ろしく感じるその見た目が、今の住民たちには救世主のソレに思えた。
「ボスのことが心配になって街の近くまで来てみりゃ、門は開いてるし、見覚えのない怪物もいるしよぉ。何なんだ一体!?」
「……まあなんでも良いか───」
「コロス」
シャドウサーヴァントが一体、トラックの窓をぶち破り突入し─────
「難しい事は、敵をブチのめしてから考えりゃ良い。ボスもそう言ってたしな」
>>508
────火薬仕込のガントレットに殴り飛ばされた。
ニーコタウン戦闘部隊『運送族』。元アウトローである彼らの牙は、いささかも鈍ってはいない。むしろ昔より研ぎ澄まされてすらいる。
圧倒的強者はここに居ない。だが対抗するに十分な頭数は揃った。
§
ピーマン&パプリカ視点
「フッ!」
「ガッ……」
飛んできた短刀を蹴り返す。
「ハッ!」
「グッ……」
鋼よりも固く握った拳で影共を殴り飛ばす。
「……ッ」
肩を浅く抉られる。
「ハァ……ハァ……!」
一体倒すたび僅かに反撃を受け、一体倒す間に二体の後続が来る。
────戦い始めてから、まだ10分と少ししか経っていない。だが戦いにおいて10分は余りにも長い。10分全力で走れば人は疲れるし、ボクシングならとっくに2ラウンド終わっている。
並外れた身体能力を持つ二人でも、疲労は免れない。英霊と同じ様にはいかない。
シャドウサーヴァントにつけられた傷は既に数多。流血で全身が赤に染まっている。
>>509
「合体技行くぞ……ピッ!」
「おう!」
ピーマンは全身に力を込め、パプリカを持ち上げ────
「あ」
ピーマンの膝がストンと落ちる。疲労と失血が限界に達したのだ。
脱力は一瞬、鍛え上げられたピーマンの肉体は数秒で再稼働を始める。だが、戦闘における数秒のロスは致命的。
「シネ」
二人の頭上から影の怪物が一体、命を取りに来た。
ピーマンは勿論、パプリカも不意の脱力に巻き込まれて動けない。せめて無様だけは晒すまいと目を開き────
「───グッ!?」
『影』が撃たれるのを見た。音速を超えて飛来したライフル弾は、僅かな傷を影に刻みつける。
────影を蹴り飛ばし、ピーマンとパプリカが弾の飛んできた方向を見れば、そこには銃を構えた男が一人いた。
「ば、馬鹿だよなオレ。理不尽に襲って来た馬鹿共をぶん殴りたい。死んでも良いから殴りたい。その欲求に逆らえねえなんてさ」
「そうか…………」
ピーマンは苦悩のこもった呟きを吐く。
────正直言って、たかが一人加勢に来たところでほぼ無意味だ。無意味に犠牲が増えるだけだ。目の前の影共はまだ数え切れない程いるのだから。
「……済まんねスター。あんたらの献身を無下にしちまって」
男もソレを理解しているのだろう。どこか寂しげな笑みを浮かべている。
「いんや、アンタの反骨心から得た勇気のお陰で……オレはまだ戦えるッピ!」
「あぁ、その通りッパ」
漢二人、吠える。血染めの背中が闘志に奮い立つ。
さぁ────「?」
>>510
戦闘を再開しようと気合を入れた瞬間、二人は異常事態に気がついた。
先程まで間断なく襲ってきていた影共が、沈黙している。こちらを強く警戒している。
─────銃声がなる。一発や二発ではない。無数だ、無数の銃声だ。
─────家の窓、ビルの窓、壁に開けたのぞき穴。あらゆる場所から無数の銃口が突き出ている。
「臆病風に吹かれて……どうかしてたネ」「アイツの言うとおりだ、ぶっ殺してえ」「俺らも加勢する」「私も戦う」「今からそっち行く!」「もう逃げたくねぇ」「思い出した、シャドウサーヴァント……何もかも思い出しちまった」
憤怒に満ちた民衆の声。奮起した誰かの声。臆病を悔いる誰かの声。スタジアムやビルの扉が開く。様々に武装した様々な人たちが厳かに歩み出る。
────民衆が立ち上がる下地はあった。シロたちの戦いに勇気を貰い、突然の理不尽に怒りをためていた。後はほんの些細なキッカケさえあれば皆立ち上がる。そんな状態だった。
キッカケとなったのは、ただの一般人が放った怒りの慟哭。『理不尽な奴をぶん殴りたい』、どうしようもなく俗で、それ故に皆が共感した。
皆が立ち上がるという奇跡。ピーマンもパプリカも感涙で覆面を──────
「皆──────みんな、本当に戦ってくれるのかッピ」
「ああ!」「任せてくれ!」「後ろに下がって休んでくれやスター!」「俺らが100人いりゃ100人力! つまり最強!」
「そうか、そうか。ありがとう」
濡らす事はなかった。
──────あの影共は強い。この程度の数では勝てない。もっと沢山の人が立ち上がれば、いや、自分がもっと強ければ、誰一人死なせず場を納められただろうに。
なまじ半端に強いせいで余計に無力を痛感してしまう。
>>511
パプリカは覆面の下で唇を歪め、舌先で言葉を転がす。やり切れない感情を胸に秘めて。
「恨むぞ影共。お前らのせいで明日の墓場は満杯だ──────ん?」
声が、聞こえた。男の声。良く聞き慣れたダレカの声。
『逃げている者は足を止めずに、戦っている者は手を止めずに聞いてほしい』
『駄目です天開さん!』『すぐそこまでアイツらが!』
──────天開の声が街の中を響き渡る。背後から聞こえる悲鳴と怒号、あちらもかなり切迫しているのだろう。しかし天開の声はしごく落ち着いていた。
『なぁ……お前ら。影野郎に蹂躙されて悔しくねえか? 腹立たしくねえか? 立ち上がろうや、立ち上がってる奴らはもういる! 戦おう、戦おうぜ!』
最初は静かに、そして徐々に蹴立てる様に。小さな火が少しずつ燃え広がるように、声に込められた感情がヒートアップしてゆく。
────ピーマンとパプリカ、二人のいる場所が映し出される。たった今、人々の蜂起が始まったこの場所を。
『別に、ずっと戦えって訳じゃねえ。たった今、企業共の私設軍と傭兵が動き出した。だから、増援が来るまで戦って持ちこたえてくれ。背中みせて逃げるより、真正面から向き合った方が危険はすくねえ。頼む』
『最終防衛ラインに到達!』『早く撤退しましょう!』
盛り上がっていた声は、乞う様なトーンになって、それきり彼の声は聞こえなくなった。
>>512
「ハハハッ」
「天開。やっぱアンタ、生粋の司会者ッピよ」
演説を聞き、ピーマンとパプリカは心底から苦笑し、呆れたように腕を開く。
────司会と選手。長い付き合いのある二人には解る。さっきの演説は天開が人を焚き付ける時のテンプレパターンそのままだ。語りかけ、盛り上げ、そして頼み込む。
どうも、死の恐怖ですら彼の舌を鈍らせはしなかったようだ。
「増援の市民が来たぞ!」
他の場所に避難していた住民達も蜂起を始めた。
────この数なら勝てる。
「コロス!」
こちらを警戒して動きを止めていた影共が動き出した。
反攻戦開始。
§
鳴神視点
「ちょ、痛っ! 数が多……数が……誰か加勢しろよ! さっきの演説聞いたろ!? この鳴神様に加勢しろよ!」
「メンドイ」「お前嫌い」「オレは嫌な思いしてないから」
「……レイヘット、そして部下共。お前らは助けてくれるよな?」
「吾輩、所詮No.2止まりの人間でございますので……」「これから用事が……」「体調が……」
「あああアアァ! ゴミカスウゥゥゥ!」
単独戦継続中。
§
>>513
エイレーン&アカリ視点
「こっちは終わったよエイレーン。ヨメミ、萌美ちゃんの方ももうじき片付きそう。そっちはどう?」
「こちらも同様デース」
無力化され無数に転がるシャドウサーヴァント。彼らを踏まないよう気をつけながら壁にもたれ掛かり、エイレーンとアカリは言葉を交わす。
「いやしかし、やるじゃんエイレーン。企業の私設軍を動かす作戦は知ってたけど、まさか民衆の焚き付けまでやるなんて」
「……企業に使者を送り、軍を出させたのは私です。しかし、民衆を焚き付けたのは天開さん一人のアドリブデース。多少手助けはしましたが、本当にそれだけです」
緊急事態に備えて街の全域に配置しておいた隠しカメラ。それらの映像が壁に投影される。
─────カメラに映るのは全身を赤で統一した部隊。真ん丸な仮面をつけた巨漢。蜘蛛のような節足を生やした戦車。下半身が馬の伊達男。白い毛皮に身をつつんだ猟兵団。法の女神像型ロボ。バケツを被ったサイボーグ巨女────
半ば都市伝説として語られる伝説の部隊、企業専属の傭兵、次世代兵器のプロトタイプ。
団結すれば英霊すら打倒しうる強者達が、企業の名の下に影共を駆除してゆく。住民達の強固な抵抗によって分断された影共が、見る見る間に各個撃破されてゆく。
────この戦い、勝った。
エイレーンは満足げにまぶたを閉じ、腕を伸ばす。
「エイレーン、少し変わったね。数日前の大会が終わってから、気負いが無くなって自然体寄りになったと言うか」
「………………私は、絆されたのでしょうね、あの大会で戦った人達に。それはそうと、疲れたのでアカリさんの胸を揉みたいデース」
「うーん、手付きがいやらしいからダメ」
「そんなぁ」
明日のシロ生楽しみ
ハーメルン投稿に向けた改稿作業と平行だったので少し遅くなりました!
現在2.5割ほど改稿作業が完了し、後半にいくほど修正量は減るので多分そう遠くない内に投稿出来ると思います
自分で言うのもなんですが、冗長すぎる表現、無駄な相槌、不自然な言動、説明不足などを徹底的に修正し、無駄を削ぎ落したかなり切れ味のある作品に仕上げておるので楽しみにして頂ければ幸いです。
裏設定
『YELLOW LINED』
元ネタ:youtubeのシークバーにある広告出て来る黄色い線
サンフラワーストリート所属のバンド、50年前のシャドウサーヴァント騒ぎで散逸した譜面を廃墟からサルベージし、自分達で演奏して世に広める武闘派バンド
『全身を赤で統一した部隊』
名称:REDCARD
かなり前にチョットだけ言及されたエブリカラーファクトリーの軍隊。
やり過ぎた相手へ差し向ける、人生からの退場カード。
『丸顔の巨漢』
名前:サークルフェイス(丸田 秀夫)
企業所属の傭兵。全身に仕込んだ丸鋸で相手をズタズタにする。
オフでは普通に良い人。
『毛皮に身を包んだ猟兵』
元ネタ:.liveのマネちゃん、その擬人化
前に言及した上島職安の専属傭兵団。被ってる毛皮は化学繊維製であり、防弾、防刃に優れる。
>>514
シロ・ばあちゃる視点
────空に投影された街の映像。そこにはシャドウサーヴァントの群れを打ち倒す人間達が映っている。
己の手駒であるシャドウサーヴァントを街で暴れさせ、シロを脅迫するという臓硯の企みはこれで崩れた。
「──────」
臓硯は真ん丸に目を見開き、しばし息を止める。一度は世界を滅ぼした自分の手駒たちが、人の群れに負けるなんて信じられなかったのだ。
臓硯は必死に頭を回し───
「マテ、そうだ───」
「もう待たないよ」
シロに顔面をぶち抜かれた。『自身への応援を力に変える』スキルで受け取った力を、全て込めた拳によって。
圧倒的な正のエネルギーを込められたソレは、灰すら残さず、痛みを感じる暇すらなく、一瞬で彼を消し飛ばした。
「────さようなら」
力を使い切り、シロの纏っていた光が消える。戦いの喧騒は遠く、勝利の熱狂すらもとうに過ぎ去った。
今ここにあるのは静寂と疲労、それだけ。風がススキを時折鳴らし、風が止む度より重い静寂がやってくる。
>>518
「……」
「……ロ……ん」
シロは鼻で息をつき、夕暮れ間際の曖昧な空を見上げた。
────寂れた山寺、ゆっくりと巡る空、絶え間なく映り変わる空の映像。シロはそれらをただジッと見上げる。
「シロ……ん」
────時代に取り残され寂れるモノ、変わらないモノ、目まぐるしく動くモノ。
人でなくなった、英霊である己はきっと変われない、寂れてゆくモノなのだろう────
「シロちゃん!」
シロがセンチメンタルにふけっていると、ばあちゃるが声をかけてきた。彼の手にはスポーツの優勝杯のようなモノが握られている。
その杯は酷く劣化しており、亀裂や錆や欠けが随所に見受けられた。随分と古い物のようだ。
「見てくださいよシロちゃん。ついさっき地面からこれが生えてきたんです……もしかしたら、これが『楔』かも知れませんよハイ」
「おお、どれどれ…………どうかなあずきちゃん」
『かなり劣化してますけど、それでもかなり格の高い品ですぅ。あずき的には、それが『楔』と見て大丈夫だと思います』
「──────そうですか」
>>519
ばあちゃるは杯を抱きしめ、嚙みしめるように呟く。火を抱いた古薪のような、熱く静かな情感を込めて。
「ついに一つ成し遂げたんですね。これで日常が一歩、戻ってきたんすね」
「そうだよ、頑張ったね」
──────喜ぶ彼を見て、シロは羨望の混ざった微笑を浮かべた。
『日常を取り戻す』、彼の持つその願いはシロには絶対抱けないモノだ。シロは未来から来た英霊であり、今の時代に彼女の日常は無い。
無論、彼女にも世界を救う為の動機はある。それは『人類への愛』、愛しているから人を助けたい、だから世界も救う。…………だが、それが本当に自分のモノであるのか、それがシロには判らないのだ。だから悩ましい。
シロは世界を救う為■リ■ビ■■に呼び出された。だから、シロの愛も召喚の際に植え付けられたモノなのではないのかと、自分の心は本当に自分のモノなのかと、時折悩んでしまうのだ。
>>520
「──────馬、いくよ。それ落とさないようにね」
「了解っす」
シロはゆるゆると頭を振って、大きな瞬きを一つし、ばあちゃるの手を──────
「シロ、お姉ちゃん! 助けに…………あれ? もう倒しちゃってました?」
「みたいだね」
「ありゃりゃ」
引こうとした瞬間、ピノ、双葉、スズの三人が山寺の門を開けてやってきた。
かなりの疲労が見受けられるが、幸い致命傷を受けた様子は無い。三人とも晴れ晴れとした表情だ。互いの勝利を労うため、シロは握手を──────
「ねえアナタ…………歩きながらの応急処置は、流石に無理がありましたわ」
「思いついた時は、名案だと思ったんだがな…………あ、皆様方、これをお受け取り下さい」
と、ここでセバスとエミリーも来た。軽い口調とは裏腹に、どこか灰色がかった表情を浮かべている。よほど疲れる戦いだったのだろう。
────セバスが古びた日記を二冊、恭しく差し出してきた。
「これは、我が恩人の日記。臓硯を倒すに足る勇者へ渡せと、そう託されたもので御座います」
「そっか、届けてくれてありがとうね……どれどれ……おお!
こいつぁスゲェや! シャドウサーヴァントの実験記録に、隠蔽されて書かれた魔術の知見……それに黒幕の存在、か…………ん?」
>>521
ふと、シロは眉をひそめる。日記の背表紙にナニカを消した跡があった為に。
消し跡と言ってもただの消し跡ではない。専用の薬品でインクを落としたかのように、薄く色抜けした消し跡だ。それもかなり新しい。
「……ねぇ牛巻、この消し跡どう思う?」
『ほんの僅かに魔術の痕跡は感じるけど……うーん。
既に発動した魔術の痕跡とかじゃないかな。そんな大したもんじゃないと思うよ』
「そっか、ありがとね牛巻」
シロは日記を閉じ、懐にそっとしまう。
────空は夕暮れ。空も、雲も、人も、何もかも。みんな等しく蜜柑色に染まる。涼しい風が心地よい。
戦いはひとまず終わりだ。
§
??視点
────節足を蠢かせる。大地をはう。草をかき分ける。複眼を動かして脅威を探る。バレないように、殺されないように。
「オのれ……オのれ! 死んでシまえ、あの、不届きドモメ!」
呪詛を吐く。なんの意味もないが、見つかるリスクが高まるだけだが、それでも堪らず呪詛を吐く。
「……オのれ、オのれ……」
────シロに消される寸前、臓硯は己の魂を近くにいた虫へ移し、どうにかこうにか生き延びていた。
蓄えた力はほぼ吐ききり、聖杯も放棄せざるを得なかった。今の臓硯は人の魂が混ざっただけの虫でしかない。
だがそれでも、臓硯の魂は健在である。聖杯によって為された不死の本質は、肉体の不死ではなく魂の不死。
聖杯が汚染されていた故に不死にまでは至らなかったが……それでもかなり無茶は効く。虫と魂が混ざろうと、臓硯という存在は常に固持され続ける。
>>522
「次は……次こそは……」
触覚を揺らし、臓硯は嗜虐的に鳴く。
今回は負けてしまったが、こうして命さえあれば何度でもやり直せる。何十年、何百年かかっても力さえ取り戻せれば「次なんて無いよ、お爺さま」
────声が、聞こえた。上から聞こえた。すぐ近くで聞こえた。慎二の声が聞こえた。聞こえた。聞こえた。
「……!」
外骨格を軋ませながら上を見ると、そこには虫のキメラがいた。
────蟷螂のカマを取り付けられた蜜蜂。それもかなり大きな蜜蜂。
体表は概ね白く、カマは陰陽玉の様な白黒のカラーリング。
赤い宝石を腹に抱え、桜の様な柄も言えぬ芳香を放っている。
様々な人間の意匠を雑に混ぜ合わせた様なソレは、酷く認識が難しい。隠形の魔術がかかっているのだろう。
「おはようお爺さま。不老不死の夢は覚めたかい?」
春の日差しを思わせるその明朗な声は、しかしどこか冷酷さをも孕んでいる。
「な、ナゼ、ナゼここにいる! 慎二!」
「ナゼってそりゃ、頑張ったんですよ。
蠱毒の法でメチャツヨな使い魔作って、そいつに僕の人格を複製して……そんで自分自身を日記の背表紙に封じといたんです。
お爺さまを倒せそうな奴が来た時、ソイツを手助けするためにね」
肉食昆虫特有の顎を軋ませ、慎二はキシキシと笑う……そう、笑っている。表情筋などない筈の虫の顔で、確かに笑っている。
「オリジナルの僕はとっくに死んでるから、厳密には違うんだけど……僕らの恨み、晴らさせてもらうよ」
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