>>483
エイレーンがそっと瞳を閉じれば、恩人の姿が瞼の裏に浮かぶ。老人となったエミヤ、身寄りのなかったエイレーン達を拾ってくれた、今は亡き恩人が。
ふと、彼の話してくれた昔話を思い出す。今は昔の過去話、セピア色すら抜けきった昔々の御話を。
お調子者の友人とのしょうもない喧嘩、もう食えないと思っていた物をまた食えたこと、妻と花を育てた事──────そして、エイレーンが何より好きだった作り話。
彼が毎度『作り話だ』と前置きして話してくれる壮大な英雄譚。普通の少年が勇敢な騎士と一緒に戦い、友と共闘し、襲い掛かってくる敵を苦戦しながら打ち倒し、最後は願いを叶える御話。直接見て来たかの様にイキイキとしたキャラ、誰も死なない綺麗なハッピーエンド、今でも好きな話だ。
これを語る度彼は静かに泣いていた。何故泣くのかは解らなかった。いつか涙に寄り添えたら良いなと、そう思っていたものだ。
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一週間で更新できると言っていましたが、大分更新遅れました…………
切り良いところまで書こうとしたら予想以上に尺が伸びしてしまいました
裏設定
臓硯について
作中でもちょいちょい示唆されてる通り、過去編で無茶蘇生したのが原因で大分知能が落ちている。
具体的には、原作時点でも散見されていた『機を待ちすぎて機を逃す悪癖』が滅茶苦茶悪化している上、変に舐めプする癖まで発症してます。
そもそも、臓硯が山寺に居た理由が
封印が解けたは良いけど、慎二の仕掛けたカカラ生産機能(強制)があるせいで弱体化の一方。動く準備を始める→
若干トラウマ気味だったエミヤが殺害される、天に登ろうとする魂を捕え手駒に→
これで味を占めた臓硯は潜伏に方針転換。霊脈から魔力を吸い取りまくって、カカラ生産による魔力消費<霊脈から獲得する魔力、にまで持ってゆく→
得た魔力でアルトリアを召喚し、エミヤの直弟子であるセバス・エミリーが死ぬのをホクホク顔で待つ→
ただ待っていたら、いつの間にか英霊が街の中に溶け込んで生活し出す→
ここで焦ってシャドウサーヴァントの生産を開始、当然ながら魔力収支はマイナスなので弱体化する→
霊脈から魔力を得ている関係上、潜伏場所もそうそう変えられない。打って出るには余力が微妙、と言う半ば詰み状態にまで追い詰められる
とまぁ、原作臓硯なら絶対有り得ないレベルのガバっぷりです
それでも戦闘時の機転を始め、調子いい時は往年並みの知性を発揮しますが
唐突ですが、しばらく後にハーメルンにも投稿するかもです
エピソードの追加などは基本ありませんが、回収しきれなかったor面白味の無い伏線を削除したり、解りづらい心情に軽く補足を入れたりはするかもです
>>487
ブラッシュアップするのでちょっと時間かかりますが、いい作品を投稿する予定なので楽しみにして頂けると幸いです!
>>484
シロ視点
獰猛に笑うシロ、動揺している臓硯、若干状況を吞み込めていないばあちゃる。三人が山寺の境内にいた。
グデンと垂れた触手共がミミズの死骸じみた様相を晒している。
「……まあよいわ、シネ」
臓硯は我に返って触手を引き戻そうとし──────しかし毛程も動かない。
「……?」
訝しげに肉体を震わし、臓硯は触手を見る。一見した限り傷はない。奇妙だ。
煮えたぎる激情が冷め、未知に対する恐怖がおもむろに顔を出す。内蔵がスッと冷えて行く。
────長い時を生きた臓硯は、この未知に対して仮説を立てていた。己の考え得る限り最悪の仮説を。
「オ、お主のその力はナンダ!?」
「んふふ、これはシロの『応援を力に変える』スキルだよぉ」
「───」
────最悪だ。臓硯の喉が閉塞する。
臓硯は汚染された聖杯と同化しているため『聖なる力』とか『正の感情由来の力』とかには滅法弱い。それ故、『応援の力』を纏うシロは臓硯の天敵と言えよう。
>>491
────事ここに至って臓硯は死を意識した。
「ソウカ、ソウカ、ソウカソウカッ! お主が死かッ!」
血を吐くような狂叫。死の恐怖が臓硯の胸を抉り、その痛みを狂気で塗りつぶ『お は ク ズ、天開司だ! 画面に映るはグーグルシティ50周年杯優勝者、シィィロォォォ! 彗星の如く現れたチャンピオン!』
死闘の場には到底合わぬ声が山寺に響き渡る。不思議と耳に馴染む声、グーグルシティの誇る名物司会、天開司の声だ。
「ハ?」
『シロと組むのは同大会ベスト8選手、ばあちゃる! そんなドリームチームに挑む大ッ怪物! 50年以上にわたってカカラを産み続けたビックマザー、名前は、えっと……とにかくヤバい怪物だ!』
『怪物の名前知らんのかい』『締らないネ』『こいつ倒したらカカラ消えるんだろ? すげえな!』『ホントかな?』『ホントであって欲しいな』
『──────』
エイレーン達の託したドローンから声が響く、あちらからの映像が空一杯に投影される。機械越しの応援が勇気と力を与えてくれる。
──────機械腕を付けた強面、利発そうな子供、派手な服を着た若者、ピーマンとパプリカの覆面レスラー、車椅子の老婦人、チャイナ服に身を包んでいる女性、脳天にギターピックを付けた男、買い物籠を抱えたご婦人、ゴシックロリータを着た偉丈夫、赤子を抱いた男──────バラエティ豊かなグーグルシティの住民たち。彼らは皆シロ達に釘付けだ。
>>492
「……目の前にいるのは臓硯! 今からシロが倒す男の名だよ!」
「オイラ達は勝ちますよハイ!」
シロは臓硯を指差してそう答えた。彼女の目に恐れはなく、喜びと戦意、ただそれだけが満ちている。
ばあちゃるももう臆していない。高らかに勝利を叫び、臓硯を見据えている。
『二人からの勝利宣ッ言! 果たしてこの宣言は果たされるのか!?』
『勝ってくれ!』『やっちまえ!!』『怪物に怯える生活を、終りにしてくれぇ!』
一秒経つ毎に上がる観客のボルテージ。シロを取り囲む青光が指数関数的に増大してゆく。
歓声がうねりとなって二人の胎を揺らす。二人は目を細め、全身で歓声を堪能する。
『あの二人が勝てば……僕たちはもっとシアワセに成れるんだッ!』『街の外で死に別れた妻の体、やっと探しに行けるのぅ』『子供が穏やかに過ごせる未来が欲しい!』
「───」
臓硯の視界が紅く染まる。怒りに任せて噛みしめた歯が砕ける。
グーグルシティ、大っ嫌いな慎二やエミヤが人生をかけて築き上げた街。そんな街に住んでいる奴らが希望を抱いているのに腹が立ってしょうがない。
────臓硯は感情のままに触手を生やす。
「死ね死ね死ねしねシねしネシネシネ! いい加減にシネ!」
「そりゃ、聞けない、願い、だよ!」
『臓硯のラッシュ! ラッシュ! ラッアアァァシュ!! シロ選手はそれを捌く、打ち破る!』
新たに生やした触手を叩きつけ、シロに破壊され、また生やし、破壊される。不毛な繰り返しをひたすらに繰り返して四つの体で繰り返す。
「もう一度言います、オイラを忘れないで下さい臓硯さん」
「グッ!?」
>>493
ばあちゃるの銃弾が四つ飛ぶ。臓硯が万全の状態ならば傷一つ付けられなかったであろうソレは、弱り切った臓硯達の肉を深く抉った。
『ばあちゃるの不意打ち! 怪物臓硯が膝を着いたぞ! このまま押し切っちまえ!』
『いけーっ! 銀髪の少女!』『大会に続きまた不意打ち……上手いっスね』『位置取りとかでも成功率変わるし意外と奥深なんだな』
「────」
臓硯はたまらず膝を付き──────そして冷静さを取り戻した。肉を抉られた痛みで頭が冷えたのだ。
(目の前のこいつらを殺せば活路は開ける……そのためには手数では駄目じゃ、こちらが先にリソースを吐き切ってしまう。勝てる可能性があるのは──────強力な一撃、とびきり致命的な一撃)
「もうよい。次だ、次の一撃で決着を付けようではないか。白髪の少女よ」
『おお! 臓硯からの決着宣言だ! シロ選手はこれを受けるか!?』
(早速弱点を読まれたかぁ。観客を萎えさせると強化量が減っちゃうから、割と行動を縛られるんだよねコレ)
「OK、受けるよ」
「ちょ、良いんすか?」
「良いの良いの、まあ見てなって馬」
シロは武器を捨て、拳を引く。宝具を撃つために。
>>494
対する臓硯は四つに分割した肉体を統合し”再構成”した。醜く膨らんだ体躯は元の老人へ戻る。本体へのリソースは最低限、次の一撃に全て注ぎ込む。
触手を一本生やす。先端を極限まで鋭利かつ強靭にし、筋繊維にまでこだわった特別製。グウと触手をたわませ、合わせる様に拳を引く。
『シロが乗った! 両者が構えた! さあお前ら、瞬き禁止だ、この先数秒を目に焼き付けろ!』
『勝って……』『もっと笑える世界へ!』『決めちまえ!』
『────』
「……解りましたよハイ」
風が吹く。生い茂った草が揺れる。
「宝具、真名開放『唸れよ砕け私の拳(ぱいーん砲)』」
「貫撃(ペネトレイト・ワン)」
「…………」
二人が動いた。
シロの一撃が彗星めいて奔る。蒼く綺麗に輝いて。
臓硯の触手は音速を突破しシロへ突貫する。ただ速いだけではない、有機的な軌道を描き、周囲に溶け込む色合いへと変化しシロを確実に狙う。
「……っ、避けた!」
深く、体が沈む程深く踏み込み、シロは触手を紙一重で避けた。獣の様に体をしならせ、臓硯の心臓を──────
>>495
「ハハッ!」
心臓を抉られた臓硯は嗤う。
「まさか!?」
二体目の臓硯が拳を振り切ったシロの背後に現れる。”再構成”の際、二つ目の肉体を新たに作成し、それを草陰に忍ばせておいたのだ。
『マジか』『殺し合いはこれだから怖え』『仇、取りに行くか』『いや待て』
────これで終わりだ、死ね──────
「なんてね、やっちゃって」
「ウッス」
ケリンから貰った手榴弾をばあちゃるが投げつけた。投げつけられた手榴弾はパッとケミカルに光り、臓硯の下半身を消滅させた。
「ナッ!?」
臓硯は上半身だけになった体を引きずり、驚愕に瞳を揺らす。
伏兵の存在を予め察知していなければ不可能な対応────いや、まさか。察知されていたのか。
『命中。やったね! いやー、牛巻が間に合ってホントに良かった!』
「マジで肝が冷えましたよ……」
────臓硯の弱体化が極まった結果、ブイデアからの通信が通じる様になり、オペレーターの牛巻によって臓硯の隠れ場所は筒抜けとなっていたのだ。
最も通信が回復したのはついさっきの事であり、紙一重の勝利であった。
「ヌ、ウ…………オノレ…………」
>>496
魔力を使い果たした臓硯は下半身の再生すら出来ない。完全敗北だ。
『勝負アリ! 勝者、シロ&ばあちゃるペア!! 喜べお前等! 今日より明るい明日が来るぞ!』
『今日より明るい日……それが明日だ!』『やりぃ!』『俺たちは特に何もしてないけどな』『棚ボタ最高!』『花、思い出の花を摘みに行こう』『ブラボー馬男!』『へっ、あのシロがいるなら勝利なんて最初から決まってたさ』
万雷の喝采がススキを揺らす。
勝利の歓喜にシロとばあちゃるの頬は緩む。誇らしく胸を張り、大きく息を吸う。そして歓喜の叫びを放つ。
「勝った! 勝ちましたよハイ!!」
「だね! だね! やったね!!」
二人で肩を抱き合い、喜びを分かち合う。優勝を飾ったスポーツチームの様に。
──────だが、ずっとそうしてもいられない。
「これで、終わりじゃないんだよね」
「?」
シロは緩んだ頬を締め直す。気が少々重いが、すべきことをせねばならない。
「馬、ドローンのカメラを止めて。これからする事は、きっと人前に晒しちゃいけない事だから」
「……ああ、解りました」
──────ばあちゃるはシロの言わんとする事を理解し、ドローンのカメラを手で塞ぐ。
『ちょっと、そりゃどう言う…………ああ、いや、そうか。…………終わったら教えてくれよな』
臓硯は殺さねばならない。だがその死まで晒してしまうのは、いくらなんでも酷だ。戦いの最中に殺すのと処刑は違う。少なくともシロにとってはそうだ。
>>497
こんなのは所詮自己満足でしかないのだろう。だがそれでも、情けでもかけなきゃ殺しなぞやってられない。
「シニタクナイ、シニタクナイ」
シロは臓硯の前に立ち、もがく彼の心臓を狙う。魔力の節約はしない、一撃で、痛みなく、確実に葬り去る。目は閉じない。
臓硯が弱々しくうめいている、ただの老人の様に。シロは臓硯から目を背けない。
「さようなら─────」
「マ、マテ」
臓硯が言葉を紡ぐ。シロは手を止める。遺言があるなら聞くと言わんばかりに。
「空……映像を、ミヨ」
臓硯は震える指で、空の映像を指さす。
そこには──────街で暴れるシャドウサーヴァントが映っていた。
「ワシが…………街に忍び込マせテおいた手駒達…………ワシを殺ソウともトマリはせぬ。ワシを見逃セばトメてやるガ、どうする?」
悪魔は嗤う。
最近面白い配信が多くて楽しい
今回はシロちゃん&馬&民衆、VS臓硯回でした
それはそうと、ノクターン掲載に向けた改稿作業に若干苦戦気味です、、、、手直ししなきゃいけない場所が多すぎてヤバい
おまけ
現地民(英霊は除外)の臓硯討伐貢献度ランキング
一位:一般民衆達
カカラを継続的に狩って臓硯を大幅に弱体化させ、シロちゃんにパワーを与えた。
ボスの力ありきとはいえコンクリの荒野に町(ニーコタウン)を作り上げたりと、総じてバイタリティに溢れた存在。
同率一位:慎二
この世界を臓硯を狩る為のシステムに仕立て上げた本人。数十年スパンで計画を建てたりする根気と執念の強さは臓硯譲り。
二位:遠坂、エミヤ
街同士の貿易ルートを確立した遠坂、武力で出来る事は大体やったエミヤ。
時代が中世とかなら英霊化いけるレベルの偉業
三位:セバス・エミリー
街の発展を支えた英雄ではあるものの、臓硯討伐には割と無関係なので惜しくもこの順位。
良くも悪くも『守護者』。歴史に名こそ刻めど、歴史を変えることはない。
エミヤの後継者ではあるが、本人達の後継者はいないという、『圧倒的強者の不要化』『時代の変化』を暗に象徴する存在でもある。
四位:桜、イリヤ
終始日常の象徴であった。他のfate勢を日常に引き留めるアンカーのような存在であり、必要不可欠ではあった。
ただ討伐そのものへの貢献度はまあまあ止まり。
五位:ピーマン・パプリカ
最下位。闘技場のスター選手以上の何物でもないので順当。
唯一無二ではないが、ファンからは必要とされる存在。
第二特異点の設定先出し
満月島
獣人の住む島。生まれた時の月の満ち欠けでケモ度が変わる。
出生に大きく関わる月を信仰している。
>>498
『スパークリングチャット』前。
「シネ、シネ、主のタメニ」「シネ」「シネ」「イケニエトナレ」
────普段から街を巡回している警備員たち。彼らが突然影の怪物───シャドウサーヴァント───へ変化したのはついさっきのことだった。
「逃げろ!」「逃げるっつっても何処にだよ!」「肩をえぐられた!」「俺、戦おうかな」「勝てるわけねえだろ!」「でも、悔しいじゃねえかよぉ」「…………うるせぇ!」
半ばパニック状態に陥った民衆達が無秩序に潰走する。影共はソレを追いかける。それは、さながら狩りの光景だった。
最後尾の人間から一人、また一人と怪我を負って脱落する。誰も友や家族を慮る余裕すらない、それは正しく地獄絵図───
「こっから先は通行止めッピ、怪物」
「皆さん落ち着いてください!
闘技場内部を避難所として開放してます。オイラが敵を引き止めるので、安心して下さいッパ」
────その地獄絵図を良しとしない者がいた。
ピーマンとパプリカ。二人のスターがシャドウサーヴァント共の前に立ちふさがる。
「ナン、ダ?」「テキ」「ツヨイ」「死ね」「シネ」
影共は足を止めた。目の前にいるのが強敵であると本能で理解したのだ。
「闘技場のスターだッ!」「来てくれた!」「ありがとう!」「希望、希望が見えてきた」
「ツヨイ」「メンドう」「でもコロセる」「勝てる」「カテル」「カテル」
「……ハハッ」
観客達の声援。影共の放つ鋭い殺気。二人は身を震わせる。
────正直怖い、死ぬのが怖い、期待に答えられないのが怖い、正直逃げたい。でも戦わねば。ここで逃げたら俺らはスターじゃない。
「……」
覆面を被り直す。
恐れも泣き言も全て覆面の下に押し込め、勇猛に拳を掲げる。
>>503
「さぁ、無観客試合と洒落込もうか!」
「キャラ付けの語尾忘れてるッパよ」
「……おっと、うっかりしてたッピ」
雲間から差し込んだ陽光が二人を照らす。ネオンや街灯広告が声援を送るかのように瞬く。
対戦相手『無数の怪物』、ルール『乱闘』、時間『無制限』、バトル・スタート。
§
グーグルシティ暗黒街、『ガイチュウ街』内部
「お薬は要らんかねー」「新しい密輸ルートが開拓されたってよ」「美男子専門ヒューマンショップ『薔薇バラ肉』新装開店!」「ハァーッ不景気! ケツが痒い!」「……やべ」「大物のお出ましだ」「何だよいきなり……」「シッ、目ぇつけられるぞ」
光届かぬ暗黒街に相応しいクズとロクデナシの集う場、ここは『ガイチュウ街』。
──────大通りに集っていた人たちが二つに割れる。モーセの渡る大海が如く。
「レイヘット、好機だぞ!」
「いずこら辺が好機でおりますか、鳴神殿? 吾輩には解りませぬ」
暗黒街の大通りを闊歩する二人。ギャング『サンフラワーストリート』のヘッド、鳴神裁。同じく『サンフラワーストリート』がNo.2、レイヘット。
整った顔に下衆な笑みを浮かべる『鳴神』、長身瘦躯の似非紳士『レイヘット』。この街でも選りすぐりのクズ二人、彼らの後ろを無数の部下が練り歩いている。
「それが判らねえからお前はナンバー2止まりなんだよ」
「おまっ──────」
「まぁそんな事はどうでも良いんだ。あれ見ろ」
ムッとするレイヘットを脇目に、鳴神は遠くを指さす。
──────鳴神が指差した先に影の怪物達がいた。不思議な事に誰かを襲おうとする気配はない。
>>504
彼らには知り得ないことではあるが
『ロクデナシしかいないここで人を襲ってもシロへの交渉材料にならない』
と臓硯に判断され、ここの住民は無視されていたのだ。
「いい感じに強そうな雑魚共。俺の力を示すにゃ丁度いい」
だがそんなこと鳴神は知らないし、仮に知っていたとしても、きっと彼なら『どうでも良い』と答えるだろう。
鳴神は下衆な笑みを顔に深く刻み、パンと手を叩き鳴らす。
「俺専用の武器持ってこい、部下共」
「へい」
鳴神は後ろに控える部下から巨大な銃を受け取った。
「BGMをかけろ、飛び切り派手な奴をな」
「へい」
https://www.youtube.com/watch?v=REuLlW2ktMg
ド派手なハードロックが鳴り響く。それもラジカセやCDなどの録音ではなく、生の演奏。
『Yellow lined』アーティストの多い『サンフラワーストリート』の中でも選りすぐり、一夜のライブでウン千万を動かす著名バンドによる演奏だ。
「ガイチュウ街の皆々様。これより殺戮ショーを始めます。心の弱い方は目をふさいで下さい。そうでない輩共は……オレの強さを目に焼き付けろ」
「言うねえ」「傲慢だけど実力はあるっス、忌憚のない意見てやつっス」「ショーだ!」
鳴神は演技過剰気味に声を張り上げ、周囲の注目を引く。
────そういや、ケリンの奴はあの影共を殺して、少し気に病んでいたな。殺して利益が出るならそれで良いだろうに。まぁ、ケリンがこれ以上気に病む事がないよう皆殺しといてやるか────
鳴神は見せつけるように引き金を引き、
「……あれ?」
弾がでない。
何度引き金を引いても弾がでない。安全装置とかは予め外しておいてあるハズなのだが。と言うか銃が妙に軽い。
>>505
「……あれ?」
弾がでない。
何度引き金を引いても弾がでない。安全装置とかは予め外しておいてあるハズなのだが。と言うか銃が妙に軽い。
「あ、これ中の部品殆ど抜き取られてるわ」
「整備を依頼したお場所、今ネットで検索したらこれ『夜逃げ』しておりますね。詐欺られ申した」
「……どうしよ」
鳴神の想定していた段取りが崩れてしまった。嫌な沈黙が流れる。
────ここで引いたら馬鹿にされる。それは嫌だ。
「ふ、ふん。武器とか要らねえんだよなぁ! 行くぞ怪物!」
「ナン、ダ?」「サァ」「トリアエズ殺すカ」「マーイーカ」
メンツをかけた戦いが、今始まる!
§
風俗街『ポルノハーバー』
「ハァ……不殺も楽じゃないデース」
「ウウ……」「コロ、ス」「殺さネば」
エイレーンは歎息し、額の汗を拭う。
彼女の周りに転がる影共の体。皆四肢を動かす健や骨だけをキレイに破壊され、命を取ることなく無力化されている。
『実力の高い穏健派』というイメージを前面に押し出す関係上、不殺を貫かねばならない。
「…… アカリさん達も、うまくやれてると良いんですが」
自身の武器であるサーベルに付着した血を拭き取り、緊張で凝り固まった首を回す。
無人の通り。いつもなら昼夜問わず輝くネオンは身を潜め、騒々しい筈の店達はシャッターを閉じて沈黙している。
「避難、迎撃訓練をしておいて良かったデース。まぁこんなタイミングで役に立つのは想定外ですが」
────お忍びでお偉方が来ることも多いこの風俗街。当然道は入り組んでいるし、隠し通路なんてものもある。
今は、それらを用いてシャドウサーヴァント達を分断し、エイレーン一家の幹部陣で各個撃破を行っている最中だ。
>>506
「対応策は既に打ちましたが、一体どれだけ役に立つやら……ま、気に病んでもしょうがないですね」
エイレーンは自身の長髪をかき揚げ、武器を構える。
────次の敵が来た。戦闘再開だ。
§
??????前
「誰か門閉めろ!」「コントロールルー厶が占拠されてやがる!」「駄目だ銃が通らねえ」「扉を破られた」「何なんだアレ。人なのか? 怪物なのか?」「知らねえよ」
グーグルシティ、南門前。ここの住民たちは幸運であり、不幸でもあった。
幸運なのは『前日から抗争が起きていて、殆どの住民が厳戒態勢に入っていたこと』、『住民達の気性が比較的荒く、サイボーグ化した住民も多いこと』。不幸なのは『圧倒的強者の不在』。
────シャドウサーヴァントは強い。英霊には数段及ばないが、それでも強い。
だが、ここの住民もそれなりに強い。柱となる強者がいれば、皆をまとめる指導者がいれば、話は変わっていただろう。だが……現実は残酷だ。
>>507
「よし一人やっ────」
油圧式アームで頭蓋を握りつぶした男が、影に腕を切り落とされた。
「見つか──」
光学迷彩で潜伏していた女傭兵が、強かに腹を蹴られた。
「蟷螂と蜜蜂、あの二人さえ来れば────」
ジェットブースター仕込みの脚で助けを呼びに行こうとした誰かが、膝から下を切断された。
────立ち向かう気概のある者。潜伏して機会を伺う者。助けを呼びに行く者。強い者賢い者を優先的に狙い、なぶる。
すぐに殺してしまうと人質にならない。だから嬲る、徹底的に嬲って殺す。
「やめ──」
殴る。
「痛い痛い痛い!」
斬る。
「お願い子供だけは───」
蹴る。叩く叩く叩く。悲鳴が出尽くすまで叩く。人という楽器が静かになるまで叩いて調律する。
悪意の元統率された群体による合理的拷問────「ヒャッッハー!」
豪快にエンジンを吹かし、トラック乗りの元アウトロー共が乱入する。ニーコタウンの戦闘員達だ。
「……あぁ」
誰かが小さく息を吐く。
棘付き肩パッド、傷だらけの風貌。平時であれば恐ろしく感じるその見た目が、今の住民たちには救世主のソレに思えた。
「ボスのことが心配になって街の近くまで来てみりゃ、門は開いてるし、見覚えのない怪物もいるしよぉ。何なんだ一体!?」
「……まあなんでも良いか───」
「コロス」
シャドウサーヴァントが一体、トラックの窓をぶち破り突入し─────
「難しい事は、敵をブチのめしてから考えりゃ良い。ボスもそう言ってたしな」
>>508
────火薬仕込のガントレットに殴り飛ばされた。
ニーコタウン戦闘部隊『運送族』。元アウトローである彼らの牙は、いささかも鈍ってはいない。むしろ昔より研ぎ澄まされてすらいる。
圧倒的強者はここに居ない。だが対抗するに十分な頭数は揃った。
§
ピーマン&パプリカ視点
「フッ!」
「ガッ……」
飛んできた短刀を蹴り返す。
「ハッ!」
「グッ……」
鋼よりも固く握った拳で影共を殴り飛ばす。
「……ッ」
肩を浅く抉られる。
「ハァ……ハァ……!」
一体倒すたび僅かに反撃を受け、一体倒す間に二体の後続が来る。
────戦い始めてから、まだ10分と少ししか経っていない。だが戦いにおいて10分は余りにも長い。10分全力で走れば人は疲れるし、ボクシングならとっくに2ラウンド終わっている。
並外れた身体能力を持つ二人でも、疲労は免れない。英霊と同じ様にはいかない。
シャドウサーヴァントにつけられた傷は既に数多。流血で全身が赤に染まっている。
>>509
「合体技行くぞ……ピッ!」
「おう!」
ピーマンは全身に力を込め、パプリカを持ち上げ────
「あ」
ピーマンの膝がストンと落ちる。疲労と失血が限界に達したのだ。
脱力は一瞬、鍛え上げられたピーマンの肉体は数秒で再稼働を始める。だが、戦闘における数秒のロスは致命的。
「シネ」
二人の頭上から影の怪物が一体、命を取りに来た。
ピーマンは勿論、パプリカも不意の脱力に巻き込まれて動けない。せめて無様だけは晒すまいと目を開き────
「───グッ!?」
『影』が撃たれるのを見た。音速を超えて飛来したライフル弾は、僅かな傷を影に刻みつける。
────影を蹴り飛ばし、ピーマンとパプリカが弾の飛んできた方向を見れば、そこには銃を構えた男が一人いた。
「ば、馬鹿だよなオレ。理不尽に襲って来た馬鹿共をぶん殴りたい。死んでも良いから殴りたい。その欲求に逆らえねえなんてさ」
「そうか…………」
ピーマンは苦悩のこもった呟きを吐く。
────正直言って、たかが一人加勢に来たところでほぼ無意味だ。無意味に犠牲が増えるだけだ。目の前の影共はまだ数え切れない程いるのだから。
「……済まんねスター。あんたらの献身を無下にしちまって」
男もソレを理解しているのだろう。どこか寂しげな笑みを浮かべている。
「いんや、アンタの反骨心から得た勇気のお陰で……オレはまだ戦えるッピ!」
「あぁ、その通りッパ」
漢二人、吠える。血染めの背中が闘志に奮い立つ。
さぁ────「?」
>>510
戦闘を再開しようと気合を入れた瞬間、二人は異常事態に気がついた。
先程まで間断なく襲ってきていた影共が、沈黙している。こちらを強く警戒している。
─────銃声がなる。一発や二発ではない。無数だ、無数の銃声だ。
─────家の窓、ビルの窓、壁に開けたのぞき穴。あらゆる場所から無数の銃口が突き出ている。
「臆病風に吹かれて……どうかしてたネ」「アイツの言うとおりだ、ぶっ殺してえ」「俺らも加勢する」「私も戦う」「今からそっち行く!」「もう逃げたくねぇ」「思い出した、シャドウサーヴァント……何もかも思い出しちまった」
憤怒に満ちた民衆の声。奮起した誰かの声。臆病を悔いる誰かの声。スタジアムやビルの扉が開く。様々に武装した様々な人たちが厳かに歩み出る。
────民衆が立ち上がる下地はあった。シロたちの戦いに勇気を貰い、突然の理不尽に怒りをためていた。後はほんの些細なキッカケさえあれば皆立ち上がる。そんな状態だった。
キッカケとなったのは、ただの一般人が放った怒りの慟哭。『理不尽な奴をぶん殴りたい』、どうしようもなく俗で、それ故に皆が共感した。
皆が立ち上がるという奇跡。ピーマンもパプリカも感涙で覆面を──────
「皆──────みんな、本当に戦ってくれるのかッピ」
「ああ!」「任せてくれ!」「後ろに下がって休んでくれやスター!」「俺らが100人いりゃ100人力! つまり最強!」
「そうか、そうか。ありがとう」
濡らす事はなかった。
──────あの影共は強い。この程度の数では勝てない。もっと沢山の人が立ち上がれば、いや、自分がもっと強ければ、誰一人死なせず場を納められただろうに。
なまじ半端に強いせいで余計に無力を痛感してしまう。
>>511
パプリカは覆面の下で唇を歪め、舌先で言葉を転がす。やり切れない感情を胸に秘めて。
「恨むぞ影共。お前らのせいで明日の墓場は満杯だ──────ん?」
声が、聞こえた。男の声。良く聞き慣れたダレカの声。
『逃げている者は足を止めずに、戦っている者は手を止めずに聞いてほしい』
『駄目です天開さん!』『すぐそこまでアイツらが!』
──────天開の声が街の中を響き渡る。背後から聞こえる悲鳴と怒号、あちらもかなり切迫しているのだろう。しかし天開の声はしごく落ち着いていた。
『なぁ……お前ら。影野郎に蹂躙されて悔しくねえか? 腹立たしくねえか? 立ち上がろうや、立ち上がってる奴らはもういる! 戦おう、戦おうぜ!』
最初は静かに、そして徐々に蹴立てる様に。小さな火が少しずつ燃え広がるように、声に込められた感情がヒートアップしてゆく。
────ピーマンとパプリカ、二人のいる場所が映し出される。たった今、人々の蜂起が始まったこの場所を。
『別に、ずっと戦えって訳じゃねえ。たった今、企業共の私設軍と傭兵が動き出した。だから、増援が来るまで戦って持ちこたえてくれ。背中みせて逃げるより、真正面から向き合った方が危険はすくねえ。頼む』
『最終防衛ラインに到達!』『早く撤退しましょう!』
盛り上がっていた声は、乞う様なトーンになって、それきり彼の声は聞こえなくなった。
>>512
「ハハハッ」
「天開。やっぱアンタ、生粋の司会者ッピよ」
演説を聞き、ピーマンとパプリカは心底から苦笑し、呆れたように腕を開く。
────司会と選手。長い付き合いのある二人には解る。さっきの演説は天開が人を焚き付ける時のテンプレパターンそのままだ。語りかけ、盛り上げ、そして頼み込む。
どうも、死の恐怖ですら彼の舌を鈍らせはしなかったようだ。
「増援の市民が来たぞ!」
他の場所に避難していた住民達も蜂起を始めた。
────この数なら勝てる。
「コロス!」
こちらを警戒して動きを止めていた影共が動き出した。
反攻戦開始。
§
鳴神視点
「ちょ、痛っ! 数が多……数が……誰か加勢しろよ! さっきの演説聞いたろ!? この鳴神様に加勢しろよ!」
「メンドイ」「お前嫌い」「オレは嫌な思いしてないから」
「……レイヘット、そして部下共。お前らは助けてくれるよな?」
「吾輩、所詮No.2止まりの人間でございますので……」「これから用事が……」「体調が……」
「あああアアァ! ゴミカスウゥゥゥ!」
単独戦継続中。
§
>>513
エイレーン&アカリ視点
「こっちは終わったよエイレーン。ヨメミ、萌美ちゃんの方ももうじき片付きそう。そっちはどう?」
「こちらも同様デース」
無力化され無数に転がるシャドウサーヴァント。彼らを踏まないよう気をつけながら壁にもたれ掛かり、エイレーンとアカリは言葉を交わす。
「いやしかし、やるじゃんエイレーン。企業の私設軍を動かす作戦は知ってたけど、まさか民衆の焚き付けまでやるなんて」
「……企業に使者を送り、軍を出させたのは私です。しかし、民衆を焚き付けたのは天開さん一人のアドリブデース。多少手助けはしましたが、本当にそれだけです」
緊急事態に備えて街の全域に配置しておいた隠しカメラ。それらの映像が壁に投影される。
─────カメラに映るのは全身を赤で統一した部隊。真ん丸な仮面をつけた巨漢。蜘蛛のような節足を生やした戦車。下半身が馬の伊達男。白い毛皮に身をつつんだ猟兵団。法の女神像型ロボ。バケツを被ったサイボーグ巨女────
半ば都市伝説として語られる伝説の部隊、企業専属の傭兵、次世代兵器のプロトタイプ。
団結すれば英霊すら打倒しうる強者達が、企業の名の下に影共を駆除してゆく。住民達の強固な抵抗によって分断された影共が、見る見る間に各個撃破されてゆく。
────この戦い、勝った。
エイレーンは満足げにまぶたを閉じ、腕を伸ばす。
「エイレーン、少し変わったね。数日前の大会が終わってから、気負いが無くなって自然体寄りになったと言うか」
「………………私は、絆されたのでしょうね、あの大会で戦った人達に。それはそうと、疲れたのでアカリさんの胸を揉みたいデース」
「うーん、手付きがいやらしいからダメ」
「そんなぁ」
明日のシロ生楽しみ
ハーメルン投稿に向けた改稿作業と平行だったので少し遅くなりました!
現在2.5割ほど改稿作業が完了し、後半にいくほど修正量は減るので多分そう遠くない内に投稿出来ると思います
自分で言うのもなんですが、冗長すぎる表現、無駄な相槌、不自然な言動、説明不足などを徹底的に修正し、無駄を削ぎ落したかなり切れ味のある作品に仕上げておるので楽しみにして頂ければ幸いです。
裏設定
『YELLOW LINED』
元ネタ:youtubeのシークバーにある広告出て来る黄色い線
サンフラワーストリート所属のバンド、50年前のシャドウサーヴァント騒ぎで散逸した譜面を廃墟からサルベージし、自分達で演奏して世に広める武闘派バンド
『全身を赤で統一した部隊』
名称:REDCARD
かなり前にチョットだけ言及されたエブリカラーファクトリーの軍隊。
やり過ぎた相手へ差し向ける、人生からの退場カード。
『丸顔の巨漢』
名前:サークルフェイス(丸田 秀夫)
企業所属の傭兵。全身に仕込んだ丸鋸で相手をズタズタにする。
オフでは普通に良い人。
『毛皮に身を包んだ猟兵』
元ネタ:.liveのマネちゃん、その擬人化
前に言及した上島職安の専属傭兵団。被ってる毛皮は化学繊維製であり、防弾、防刃に優れる。
>>514
シロ・ばあちゃる視点
────空に投影された街の映像。そこにはシャドウサーヴァントの群れを打ち倒す人間達が映っている。
己の手駒であるシャドウサーヴァントを街で暴れさせ、シロを脅迫するという臓硯の企みはこれで崩れた。
「──────」
臓硯は真ん丸に目を見開き、しばし息を止める。一度は世界を滅ぼした自分の手駒たちが、人の群れに負けるなんて信じられなかったのだ。
臓硯は必死に頭を回し───
「マテ、そうだ───」
「もう待たないよ」
シロに顔面をぶち抜かれた。『自身への応援を力に変える』スキルで受け取った力を、全て込めた拳によって。
圧倒的な正のエネルギーを込められたソレは、灰すら残さず、痛みを感じる暇すらなく、一瞬で彼を消し飛ばした。
「────さようなら」
力を使い切り、シロの纏っていた光が消える。戦いの喧騒は遠く、勝利の熱狂すらもとうに過ぎ去った。
今ここにあるのは静寂と疲労、それだけ。風がススキを時折鳴らし、風が止む度より重い静寂がやってくる。
>>518
「……」
「……ロ……ん」
シロは鼻で息をつき、夕暮れ間際の曖昧な空を見上げた。
────寂れた山寺、ゆっくりと巡る空、絶え間なく映り変わる空の映像。シロはそれらをただジッと見上げる。
「シロ……ん」
────時代に取り残され寂れるモノ、変わらないモノ、目まぐるしく動くモノ。
人でなくなった、英霊である己はきっと変われない、寂れてゆくモノなのだろう────
「シロちゃん!」
シロがセンチメンタルにふけっていると、ばあちゃるが声をかけてきた。彼の手にはスポーツの優勝杯のようなモノが握られている。
その杯は酷く劣化しており、亀裂や錆や欠けが随所に見受けられた。随分と古い物のようだ。
「見てくださいよシロちゃん。ついさっき地面からこれが生えてきたんです……もしかしたら、これが『楔』かも知れませんよハイ」
「おお、どれどれ…………どうかなあずきちゃん」
『かなり劣化してますけど、それでもかなり格の高い品ですぅ。あずき的には、それが『楔』と見て大丈夫だと思います』
「──────そうですか」
>>519
ばあちゃるは杯を抱きしめ、嚙みしめるように呟く。火を抱いた古薪のような、熱く静かな情感を込めて。
「ついに一つ成し遂げたんですね。これで日常が一歩、戻ってきたんすね」
「そうだよ、頑張ったね」
──────喜ぶ彼を見て、シロは羨望の混ざった微笑を浮かべた。
『日常を取り戻す』、彼の持つその願いはシロには絶対抱けないモノだ。シロは未来から来た英霊であり、今の時代に彼女の日常は無い。
無論、彼女にも世界を救う為の動機はある。それは『人類への愛』、愛しているから人を助けたい、だから世界も救う。…………だが、それが本当に自分のモノであるのか、それがシロには判らないのだ。だから悩ましい。
シロは世界を救う為■リ■ビ■■に呼び出された。だから、シロの愛も召喚の際に植え付けられたモノなのではないのかと、自分の心は本当に自分のモノなのかと、時折悩んでしまうのだ。
>>520
「──────馬、いくよ。それ落とさないようにね」
「了解っす」
シロはゆるゆると頭を振って、大きな瞬きを一つし、ばあちゃるの手を──────
「シロ、お姉ちゃん! 助けに…………あれ? もう倒しちゃってました?」
「みたいだね」
「ありゃりゃ」
引こうとした瞬間、ピノ、双葉、スズの三人が山寺の門を開けてやってきた。
かなりの疲労が見受けられるが、幸い致命傷を受けた様子は無い。三人とも晴れ晴れとした表情だ。互いの勝利を労うため、シロは握手を──────
「ねえアナタ…………歩きながらの応急処置は、流石に無理がありましたわ」
「思いついた時は、名案だと思ったんだがな…………あ、皆様方、これをお受け取り下さい」
と、ここでセバスとエミリーも来た。軽い口調とは裏腹に、どこか灰色がかった表情を浮かべている。よほど疲れる戦いだったのだろう。
────セバスが古びた日記を二冊、恭しく差し出してきた。
「これは、我が恩人の日記。臓硯を倒すに足る勇者へ渡せと、そう託されたもので御座います」
「そっか、届けてくれてありがとうね……どれどれ……おお!
こいつぁスゲェや! シャドウサーヴァントの実験記録に、隠蔽されて書かれた魔術の知見……それに黒幕の存在、か…………ん?」
>>521
ふと、シロは眉をひそめる。日記の背表紙にナニカを消した跡があった為に。
消し跡と言ってもただの消し跡ではない。専用の薬品でインクを落としたかのように、薄く色抜けした消し跡だ。それもかなり新しい。
「……ねぇ牛巻、この消し跡どう思う?」
『ほんの僅かに魔術の痕跡は感じるけど……うーん。
既に発動した魔術の痕跡とかじゃないかな。そんな大したもんじゃないと思うよ』
「そっか、ありがとね牛巻」
シロは日記を閉じ、懐にそっとしまう。
────空は夕暮れ。空も、雲も、人も、何もかも。みんな等しく蜜柑色に染まる。涼しい風が心地よい。
戦いはひとまず終わりだ。
§
??視点
────節足を蠢かせる。大地をはう。草をかき分ける。複眼を動かして脅威を探る。バレないように、殺されないように。
「オのれ……オのれ! 死んでシまえ、あの、不届きドモメ!」
呪詛を吐く。なんの意味もないが、見つかるリスクが高まるだけだが、それでも堪らず呪詛を吐く。
「……オのれ、オのれ……」
────シロに消される寸前、臓硯は己の魂を近くにいた虫へ移し、どうにかこうにか生き延びていた。
蓄えた力はほぼ吐ききり、聖杯も放棄せざるを得なかった。今の臓硯は人の魂が混ざっただけの虫でしかない。
だがそれでも、臓硯の魂は健在である。聖杯によって為された不死の本質は、肉体の不死ではなく魂の不死。
聖杯が汚染されていた故に不死にまでは至らなかったが……それでもかなり無茶は効く。虫と魂が混ざろうと、臓硯という存在は常に固持され続ける。
>>522
「次は……次こそは……」
触覚を揺らし、臓硯は嗜虐的に鳴く。
今回は負けてしまったが、こうして命さえあれば何度でもやり直せる。何十年、何百年かかっても力さえ取り戻せれば「次なんて無いよ、お爺さま」
────声が、聞こえた。上から聞こえた。すぐ近くで聞こえた。慎二の声が聞こえた。聞こえた。聞こえた。
「……!」
外骨格を軋ませながら上を見ると、そこには虫のキメラがいた。
────蟷螂のカマを取り付けられた蜜蜂。それもかなり大きな蜜蜂。
体表は概ね白く、カマは陰陽玉の様な白黒のカラーリング。
赤い宝石を腹に抱え、桜の様な柄も言えぬ芳香を放っている。
様々な人間の意匠を雑に混ぜ合わせた様なソレは、酷く認識が難しい。隠形の魔術がかかっているのだろう。
「おはようお爺さま。不老不死の夢は覚めたかい?」
春の日差しを思わせるその明朗な声は、しかしどこか冷酷さをも孕んでいる。
「な、ナゼ、ナゼここにいる! 慎二!」
「ナゼってそりゃ、頑張ったんですよ。
蠱毒の法でメチャツヨな使い魔作って、そいつに僕の人格を複製して……そんで自分自身を日記の背表紙に封じといたんです。
お爺さまを倒せそうな奴が来た時、ソイツを手助けするためにね」
肉食昆虫特有の顎を軋ませ、慎二はキシキシと笑う……そう、笑っている。表情筋などない筈の虫の顔で、確かに笑っている。
「オリジナルの僕はとっくに死んでるから、厳密には違うんだけど……僕らの恨み、晴らさせてもらうよ」
>>523
「ニ、ニげ……グッ……」
逃げ出そうとした臓硯を、水の輪が捉える。魂すら逃さぬ、慎二特製の拘束魔術で。
────翅を唸らせ慎二は降りる。特別なご馳走にナイフを刺す時のように、厳かに、楽しげに、はやる気持ちを抑え、ゆっくりと。
「ヤメロ、ヤメ────」
カマで臓硯を押さえつけ、尻の針を深々と突き刺す。魂すらも蝕む悍しき毒針を。
────針を刺された臓硯はバタバタと暴れ、そしてすぐに動かなくなった。
「……これにて終了! くぅー、疲れました! 一矢報いられればそれで良かったけど、中途半端に出遅れたお陰でトドメ頂けちゃうとはね!
……さて、これからどうしよう……どうせ1週間位で寿命が来るだろうし、後はテキトーに生きちゃおうかな」
慎二は空へ飛び立つ。
「──────おぉ」
空の綺麗さに、息を吞む。
人の目では認識できぬ色彩、全身で感じる雄大な世界、彼の心は震える。
──────さて、残された短い時間で何をしよう。虫の味覚でしか感じられない美味を追求するのはどうか、いや、ここは思い切って絵画に挑戦してみようか。世界旅行も捨てがたい。
色んなことが出来るぞ。楽しいなぁ、楽しいなぁ! 死んだらあの世でオリジナルに自慢してやろう!──────
復讐を果たした彼に今や何の束縛もない。自由だった。
その後、なんやかんやあってセバス・エミリーと共に暮らし、キモカワ系マスコットとして一躍人気者になったり、生物学者に追われたりと、20年程波乱万丈な虫生を送ることになるが、それはまた別のお話。
シロちゃんの新衣装メチャカワだった! なにげにモノクロベースの衣装は初めてな気がする
それはそうと、学業が忙しいのでちょっと短めの更新です
ハーメルンに向けた改稿作業は、そろそろ完了の目処が立ちそうです
ちょっとした裏話
『その後…………、それはまた別のお話。』の下りを入れるかどうかでかなり迷った。
正直あの下りない方がオチとして綺麗なのですが、多少強引にでも幸せな結末にしたくなってしまう……
『対エミヤ戦』
実は決着をつけるのにかなり苦労した戦いだった。
ボツネタ例
『毒入り含み針で決着』
ボツ理由:余りにもあんまりだし、地味だったのでボツ
『鶴翼三連vs比翼二連』
ボツ理由:鶴翼三連の動きがメディア毎に違いすぎて良く解んない
原作での説明的にタイマン用っぽい鶴翼三連を、2対1の状況で使う意味がない
『足に仕込んだブースターによる奇襲で決着』
ボツ理由:頭の中でイメージしてみたら、思いの外動きがダサかった
あと、今まで使わなかった意味がわかんないのでボツ
https://www.youtube.com/watch?v=R0iJBxsYuRY&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=25
BGM張り忘れてました
ホントは型月orV関連の曲もっと使いたいけど、、、、、、なんかもったいなくて出し渋っちゃうんですよね、、、、
>>527
構想段階ではめちゃくちゃ面白いと思ってた展開が、実際に書いてみると普通につまんないとか結構あるあるです
>>524
──────────────────
エピローグ
──────────────────
シロ・ばあちゃる視点
戦いが終わって数十分後。
各々のてん末、ばあちゃるが『楔』を手に入れたこと、日記の内容などの重要な情報をすり合わせ終わり、皆どこか手持ち無沙汰気味な雰囲気を漂わせていた。
「そういえば、『楔』を回収すると具体的にどうなるんすか?」
『切り取られた世界の一部、この特異点に結びつけられたモノが元に戻っていく……ハズなんだけどね。
ただ、世界が切り取られるなんて前例のない事だからさ。ある程度予想は付いてるけど確信はもてない、ってのが牛巻の答えかな』
「あー、確かに。そりゃそうっすね」
乾き気味のノドを震わせ、ばあちゃるが誰にともなく質問を投げかければ、牛巻が玉虫色の答えを返す。
立つのに疲れたばあちゃるが山寺の柱に寄りかかると、腐りかけの柱がミシリと嫌な音を立てた。
「ヤベ………大丈夫か。
そういえば、このあとどうするんですか? 個人的には、大会でお世話になった人たちに別れの挨拶をしたいですねハイ」
『んー、ごめん。牛巻が思うに、それは難しいかな。
こうして世界をまたいで通信ができたり、ばあちゃる君を送り出せたりするのは、切り取られた世界が結び付けられていた────つまりある種地続きの、繋がっている状態だったからなんだよね。
だからそう、『楔』を回収した後にすぐ帰らないでいると、こっちとそっちの繋がりが薄れて帰れなくなっちゃう可能性があるのさ」
>>529
「なるほど」
「……それに、ばあちゃる君がいること自体が、二世界間の繫がりを逆説的に証明しちゃう可能性だってある。
存在そのものが一種の魔術であやふやな英霊は、そこら辺ほぼノーリスクだけどね。
この繫がりってやつが結構ヤバくてさ……世界をまたいだ通信だって可能な限り減らさないとなんだ。実のところ、そのせいで情報共有にかなり支障が出ててたりする』
「な、なるほど……?」
ばあちゃるの投げかけた雑な質問。ソレに牛巻が物凄い長文を返してきた。
─────詳しい部分は良く解らないが要するに、『今すぐ帰らないとマズイ』ということなのだろう。多分────
ばあちゃるはそうやって自分を納得させ、尻に付いた木くずを取り払う。
「───」
(何度も死にかけたけど、仲間が死んだりはしなかったし、祭も楽しかったし………振り返ってみると、そんなに悪い旅じゃなかったすね)
何となしに深く息を吸う。
木々の穏やかな香り────そしてアスファルトの薄カビた臭いが肺を満たす。
子供の頃からかぎ慣れた都市の匂い。ばあちゃるの世界に取り戻すべきモノ。
「…………馬、そろそろ帰ろう」
「ええ、そうしましょう。セバスさん、エミリーさん、色々とお世話になりました。ピノピノ、ふたふた、すずすず……次の特異点でもよろしくお願いします」
「馬……シロ以外の英霊は特異点に居残りだよ。『楔』を回収した後の経過観察のために」
「え………………それマジすか? てっきり特異点解決するたびに仲間が増えるもんだと─────」
シロとばあちゃる、光が二人を包み────世界を渡る。
§
>>530
──────────
帰還
──────────
「世界を渡るとなんかこう、二日酔いみたいになるんですね。初めて知りましたよハイ…………」
「まあ、大分無茶な転送してるからそりゃね……魂の疑似霊子化とか、本来必要なプロセスを何個かすっ飛ばしてるし……」
「はえー……色々大変なんすね」
帰還したシロとばあちゃるは硬質な床を、確かめるように何度も踏みしめていた。
近未来的な内装、KANGON、用途不明の機械類。ここはブイデア。シロたちの本拠地。
一週間ぶりくらいの、しかし久しぶりに感じるブイデア。
ブイデアの床は所々ヒビ割れており、割れた窓から冷たい風が吹き込んでくる。火災の傷跡がまだ残っているのだ。
─────ばあちゃるが辺りを見渡していると、後ろから牛巻に声をかけられる。
「お疲れ様。今日はゆっくり休んでね……あ、そうそう。明日は『楔』回収を記念して打ち上げパーティするからさ、楽しみにしててよね」
「おお! 楽しみにするっす」
ばあちゃるは牛巻に『楔』を渡し、自分の部屋へと歩を進めた。
§
ばあちゃる視点・数時間後
「…………」
ばあちゃるは部屋のベッドに腰を下ろし、窓から外を見ていた。
部屋に入ってすぐシャワーを浴び、ラフな格好に着替え、ケトルにお湯をセットし、そしたらもう─────やることがなくなった。
備え付けのテレビは動かず、本棚に並べられた本も今は読む気がしない。
「……」
なんの娯楽も興味を引かず、なにもするべきことがない。
「…………」
>>531
「…………」
締め切った窓。外は雪山。
しんしんと降り積もる雪。渦巻く吹雪の気ままな唸り声。体の端から染み入る寒さ。
来たばかりの頃は不安を煽るばかりだったこの光景も、今となっては穏やかな非日常の景色。
「……」
ばあちゃるは何度かパチパチと、カメラのシャッターを切るように瞬きする。
────しばらくすればこの景色は、退屈な雪ばかりのモノにしか見えなくなるだろう。
だからそう、この白く鮮やかな情景は─────きっと今しか味わえない。
日常への愛と非日常を楽しむ心は両立する。この冒険を少しは楽しんでも良いかもしれない(死ぬ覚悟は前提として)。
「……お」
電気ケトルが蒸気を放つ。コポコポと含みのある声をあげる。
ばあちゃるはベッドから腰を上げ、ケトルを手に取り、マグカップに向けて傾けた。
「……」
マグカップの三分の一程までお湯を注ぎ、ココアパウダーを入れる。揺らす。またお湯を注ぐ。
─────もう一杯作ってしまおうか。どうせ二杯以上飲むし────
とばあちゃるは考えて二杯目を作った。
「…………」
湯気立つココアを両手に1杯ずつ持って運び、ベッド脇の小さなテーブルにそっとおく。
「あ」
ばあちゃるは自身の額に手を当てる。
二杯のココア────二杯もあれば飲み切る前に冷めてしまうと、今更気づいたのだ。
「どうしよ……まいっか。冷めても飲めますしねハイハイ」
ばあちゃるは誰に言うともなく呟き───『コン コンコン』
部屋の扉がノックされた。うるさくない程度には控えめで、しかしハッキリ聞こえる程度には力強く。
>>532
「シロだよ、入れて貰っていーい?」
「もちろんですよハイ」
部屋のカギを開け、扉を開いた先にいるのは当然シロ。右手に何やら袋を吊り下げている。
「どうしたんすか? シロちゃん」
「自分用にクッキー焼いてたんだけどさ……ちょっと作りすぎちゃって。せっかくだから一緒に食べない?」
はにかんだ声でそう言うと、シロは袋を差し出す。
─────キレイに焼かれたクッキー。星、四角、丸に三角、色んな形のクッキー。ハート型こそないが、それ以外の型は殆ど網羅されている。
「お、良いですねハイ。実はオイラもココアを余計に作っちゃいまして。仲間ですねオイラ達」
「…………うーん、まあそうだね。早く食べちゃおう」
シロは部屋に入ると ばあちゃる の隣に座り、ココアとクッキーを堪能する。
「……」
しばし沈黙。雪の吹く音とクッキーを食む音だけが部屋に反響する。
─────ふと、シロが口を開く。
「……ねぇ馬。もしさ、生前のシロ達と馬が面識あるって言ったら信じる?」
「あ、やっぱりそうなんですねハイ」
「察してたかぁ。ま、流石に解っちゃうか」
シロはココアを飲み干し、古びた春風のように笑う。
「まあハイ。因みに……シロちゃんがソレを隠した理由もなんとなく解りますよ」
「お、じゃあ答えてみてよ」
「ブイデアにきたばかりのオイラに、余計な負担をかけないようにしていた……どうすか?」
「………………ん、当たり」
「うしっ」
>>533
拳を持ち上げガッツポーズを取るばあちゃる─────そんな彼に、シロはそっと頭を預ける。
「ちょっ、カワイイ娘がそんな事しちゃ─────むぐっ」
「馬、うるさい」
─────馬の覆面に手を差し入れ口を塞ぐ。シロはまぶたを閉じ、昂ぶる彼の鼓動を聞いてほくそ笑む。
シロが満足するまでの間、二人はしばらくそのままでいた。
https://syosetu.org/user/373685/
bgm
https://www.youtube.com/watch?v=a4_kzuVfNQU
ついに! やっっとハーメルンでの投稿に向けた改稿作業がひと段落しました!
通しで読み直して問題が無かったら、金曜日の夜辺りに>>534に乗せたユーザーページへ投稿する予定です!
シロちゃんのメン限でやったハンドトラッキング配信良かった
おまけ
グーグルシティ兵器カタログ
・マンティスブレード
元ネタ:サイバーパンク2077
主な使用者:セバス
解説:肉体改造で腕に取り付ける仕込刀。構造がシンプルで壊れにくい。サブウェポンとして運用されることが多い。
構造のシンプルさ故にカスタムの幅も広く、ばね仕掛けのモノまで存在する。
・パイルバンカー
元ネタ:色んなサブカル
主な使用者:エミリー
解説:対人向け……と言うよりは対怪物、対物性能に重きを置いた武装。角度と出力次第では戦車装甲すらぶち抜くイカレタ威力を誇る。
・パワーアーム
元ネタ:特になし
主な使用者:シャドウサーヴァントの頭握り潰してた人
解説:強いパワーを持つ機械の腕。腕力に重きをおいたモノ、握力に重きをおいたモノなど様々なモデルが存在する。
毎年、この腕を用いて重い物を持ち上げようとし──────腰をいわしてしまう人が結構いる
・光学迷彩『ブルーバック』
元ネタ:BB(背景切り抜きの方式の一つ)
解説;人やモノに被せると、周囲の光を捻じ曲げて透明になる布。
裏面が青いため、ブルーバックとも呼ばれる。激しく動くと透明化が解けてしまうので、使いこなすのにはそれなりの訓練が必要。
高温多湿の環境下では使えない(結露してしまうため)のだが、それでも風呂覗きに使おうとする馬鹿が後を絶たない。
せっかくなので、改訂版の一話を先行掲載しちゃいます!
「システム適合者の『消失』を新たに観測。残存適合者は一人。その名は────」
「────あの人だけには、どうか平穏に暮らして欲しかったのですが、無理でしたかぁ」
§
───────────────────────────
第一特異点 復興汚染都市 グーグルシティ
───────────────────────────
──────ここは雪山。中腹を過ぎて暫くは経っただろうか。
雪上に刻んだ足跡はすぐに埋もれ、平坦な白に染まる。
フワリと堕ちる雪共は風に吹かれてフラフラ踊り、どこに落ちるかなんて解かりゃしない。
「……どうしたもんですかね」
馬の覆面を被った奇人──────もとい、『ばあちゃる』は冬の青空を見上げ一人ごちる。
「…………ねえ馬、歩くの大変ならシロが担ごうか?」
今ばあちゃるに話しかけたのは、白髪青目の幼びた少女、シロだ。真っ白なアホ毛が目に眩しい。
──────顔は幼げだが、その肢体は豊満で蠱惑的。危うい魅力をもった少女だ。
「いや、大丈夫っす。オイラこう見えても結構体力あるんでねハイ…………」
「ホントに大丈夫?」
「──────ええ」
心配そうにするシロに、彼は浮かない声で応えた。
──────ばあちゃるは困惑していた。
会社に出勤しようと家を出た瞬間に拉致され、シロと名乗る美少女に雪山を連行された。
いつも馬の覆面をつけ、奇妙な喋り方をする彼だが、それを誰かに指摘された事はない。
普通に産まれ、普通?な人生を送ってきた。そのはずだ。
こんな非日常経験したことなどないし、どう反応すれば良いかもワカラナイ。脳がまだ現実を認識できていない。
>>537
一体どうしたものかと思い悩みながら、ばあちゃるは雪山を登りつづける。流されるがままに。
「シロさんに幾つか質問していいっすか」
「”シロちゃん”って呼んでくれたら嬉しいな…………それで、どんな質問?」
ばあちゃるは遠くに見える建物を指さす。
「遠くに見えるあの建物。オイラが連れてかれるであろうアレが何なのか、教えて欲しいっす」
「ああ、あそこはねぇ…………未来観測所『ブイデア』。ま、施設の詳しい話は後でしたげる」
─────しんしんと降る雪の中、二人は穏やかに会話を交わす。少なくとも表面上は。
「未来の観測所? 何か凄そうっすね……それともう一つ質問なんすけど、オイラとシロさ……シロちゃんって実は知り合いだったりします?」
「……………………それは、気のせいじゃないかな」
「でもほら──────」
「おっと! もう少しで目的地に着いちゃうね、会話は終りだぁ!」
ばあちゃるの会話をぶった切り、シロは彼の手を引いて走り出した。
§
ポツリとだけ見えていた建物は近づく程に大きくなり、十分もしない内にそこへ到着した。
シロが扉を開けば──────そこには奇怪な大広間が広がっていた。
近未来チックな内装、不可思議な文様に埋め尽くされた床。スタッフと思わしき人たちがせわしなく行き来している。
──────入ってまず目につくのが子供の書いた顔に立体感を足したようなオブジェ。大広間の中央に鎮座しているオブジェだ。
「…………なんすかあのオブジェ?」
ばあちゃるが怪訝そうにソレを指差せば、シロは待ってましたとばかりに説明しだす。
>>538
「よく聞いてくれたね。アレはここブイデアの要、未来・過去観測及び世界線跳躍装置『KANGON』だよ」
「KANGON? ちょっと変わった名前っすね、と言うかサラッとヤバ気な単語が」
「んー………今の事情含めて色々説明出来る子がいるんだけど──────」
「お呼びですか?」
──────背後から突然声が聞こえた。ばあちゃるが驚きのままに振り向けば、そこにいたのは紫髪の少女。
「……!?」
「お、いたいた。紹介するね………この子は”木曽あずき”ちゃん。ここの主席研究員なんじゃぁ」
「…………おぉ、それは凄いっすね」
「ハァイ、あずきですぅ。呼び名なんですけど、あずき、あずきち、どんな風に呼んでもらっても構いません。でも…………出来れば強そうな名前でお願いしますぅ」
紫髪隠れ目の大人しそうな見た目、しかし内面は掴みどころが無い。それがばあちゃるの受けた木曽あずきの印象だった。
あずきはKANGONの前まで歩くと手招きする。
手招きされたばあちゃるはKANGONへ近寄り、顔を近づけて良く観察した。
──────KANGONの表面は陶器のようにツルリとしていて、ざっと見た限りではただの巨大な焼き物の様にしか思えない。
「…………これがKANGONでいいんすよね?」
「ハァイ、これこそ未来観測器KANGONですぅ。元はとある神社の秘宝だとか、色々来歴があるんですけど……長くなるのでそこは省きます。
未来観測、過去観測、はたまた別世界線に飛んだりと中々に万能なんですけど…………とりあえず触れてみてください」
>>539
そう言われ、ばあちゃるは恐る恐るKANGONに手を触れた──────その瞬間、脳に流れ込む強烈なイメージ。
──────燃え盛る室内、崩落する天井、瓦礫が四肢を踏み潰す音、そして苦痛。余りの内容とリアリティに打ちのめされる。
「……ッ」
座り込むばあちゃる、駆け寄るシロ。
「馬、大丈夫? 息が荒いよ……」
「嫌な未来が見えたんだと思いますぅ。でも安心してください、しばらく前からKANGONの未来観測は当たっていません」
「……え? そ、そうなんですか。それは良かった……いや、それヤバくないっすか?」
「かなりヤバいです。従来ですら未来観測の精度は3割程度だったのに、今じゃ0割。もう一つの能力しか機能していないですぅ」
──────あずきの声を聞きながら、ばあちゃるは息を整える。
あずきの言葉を信じるのなら、あの流れ込んできたイメージが現実になる事は無いと言うことだ。会って数分の人にそんな嘘をつくメリットはない。
だから、あの光景が現実になる事は無い、無いのだ。
──────自分にそう言い聞かせ、ばあちゃるはゆらりと立ち上がった。
>>540
「……もう一つの能力って言うと、世界線跳躍のことですよねハイ」
「そうです。世界線跳躍ですぅ…………ちなみに、私やシロさんはKANGONの機能を応用して未来から呼び出された『英霊』です」
「シロ達は英霊なんだ!
後、あずきちゃんは恥ずかしがって言わないけど……任意の世界線に行く方法を確立したのはあずきちゃんなんじゃぁ」
「恐縮ですぅ」
ポウと頬を染めるあずき。余程照れくさいのか、足をせわしなく動かしている。
──────英霊、英霊なら知っている。世界に名を刻んだ英雄を使い魔として呼び出したモノ、それが英霊。
魔力を糧として動き、人智を超えた力を振るうモノ達。
自身の逸話にちなんだスキル(スーパーパワーとか超能力的なモノ)、そして宝具と呼ばれる切り札を持つ存在…………しかし俺はなぜそんな事を知っているのだろう──────
そこまで考えた所でばあちゃるは奇妙な頭痛に襲われ、思考を止めた。
「────」
「まだまだ話すべき事は沢山あるんですけど、今日は疲れてるでしょうし。詳しい話は明日にしますぅ」
「……そっすね。そうしてもらえると嬉しいっす」
§
あずきとシロに別れを告げ、ばあちゃるは寝泊まりする部屋へと案内された。
案内された部屋は温もりを感じる木張りの内装が施されており──────それと先客がいる。先客は死にそうな雰囲気を出しながら書類と格闘していた。
机にかじり付くその先客は──────中性的な金髪の少女。陽の光を擬人化したかのような明るい雰囲気の少女だ。
「あのー」
「あっ、ごめん。片付けるからちょっと待ってね」
「仕事、終わるまでやっちゃって大丈夫っすよ」
>>541
慌てて鞄に書類をしまおうとする少女を、ばあちゃるは引き留める。しかし少女は首を横に振って快活に笑う。
「うん、ありがとう。でも大丈夫、丁度一段落したところだから。僕の名前は牛巻りこ、君の名前は?」
「オイラの名前は ばあちゃる です。大分疲れてる様に見えるっすけど、大丈夫すか?」
「全然大丈夫だよ! 平気平気! もう慣れっこだしね」
「それは大丈夫なんすかね……」
──────牛巻と駄弁っていると、ふとシロ達との会話を思い出した。
「そう言えば、りこさんも英霊、なんすか?」
「りこりこって呼んでくれたら嬉しいな…………まあ、君の言う通り牛巻達は英霊でね。
このブイデアには、シロ、木曽あずき、もこ田めめめ、神楽すず、金剛いろは、北上ふたば、ヤマトイオリ、八重沢なとり、カルロ ピノ、花京院ちえり、牛巻りこ、猫乃木もち、夜桜ちゃん、計13人の英霊が所属してるんだ…………因みにリーダーはシロちゃん、覚えといてね」
「確かに多いっすね。ちなみに顔写真とかはありますか? 今の内に顔と名前を一致させときたいっす」
「もちろんあるよ…………はいどうぞ」
牛巻から写真を手渡された。
─────渡された写真に写っている13人の英霊。どの子も百人いれば百万人が振り返るような美少女。
これからこの子達と仕事をするのか、少し楽しみだな、と思った時──────ふと、自分自身の日常を思い出してしまった。
>>542
部下を笑わせようとしてよく滑る上司、生意気だが根はまっすぐな部下。先月結婚したばかりの同僚に散々惚気話を聞かされたりもした。両親とは年に数度しか会えないが、それでも大切な家族だと胸を張って言える。
色んな思い出が、堰を切ったように溢れ出てくる。
──────突然の非日常を前に半ばマヒしていた感情。少しの余裕が出来てしまった事で感情が動き出した。動き出してしまったのだ。
「──────」
怒り、困惑、悲しみ、自身の内からこんこんと溢れ出る感情に耐えられず、思わず床に座り込む。
「……大丈夫?」
「大丈夫っす、いや、大丈夫じゃないですね…………なんで俺は攫われたんですか? いや、もう何でも良いから早く俺を────」
ばあちゃるは感情のままに『家に帰してくれ』と言おうとして、結局言葉に詰まってしまった。
罪悪感と決意がない交ぜになった牛巻の表情を、見てしまって。少女が浮かべるには余りにも重い、その表情を。
「そうだね…………知る権利が君にある。説明の義務が僕にある。教えるよ、何もかも。
…………KANGONで過去を観測している時、僕らはある事に気が付いた。世界のあちこちが切り取られている事に」
「世界が切り取られる?」
「そう、切り取られた場所は世界から切り離される──────そして元からなかった事になる。そこに有ったハズの人やモノも一緒にね」
「…………なんすかそれ。そんなの気付いたところで、どうしようもないじゃないですか」
ばあちゃるは姿勢を低くして座る。大切な人や思い出を失ったことにすら気づけない恐怖に気づき、心が沈む。
>>543
「いや…………どうにかする方法はある。切り取られた世界は寄せ集められて、3個の特別な世界線、『特異点』と呼ばれる場所に縛りつけられてるの。
──────『特異点』には切り取られた世界を繋ぎ止める『楔』がある。だから牛巻達が『楔』を回収すれば世界はもとに戻る、ハズなんだよ」
「なるほど、突飛な話ですが信じますよ。
…………でも、なんでオイラは攫われたんすか? ちょっと変わった見た目してるだけの、オイラが」
「それはね、”もう”君しか『特異点に行けて、なおかつマスターとしての素質がある』人がいないからなんだ。KANGONによる世界線跳躍には、飛ばされる側の適正が必要でさ」
「…………」
「英霊を無理やり飛ばす技術は何とか実用化できたけど、英霊は魔力を供給する人間───マスター───が近くに居ないと十全に力を発揮できない。
『先遣隊として送り込んだ』英霊達からの情報を十全に生かす為にも、”特別な英霊”であるシロちゃんだけでも100%の力を発揮できるようにしたいんだ──────少しでも世界が救われる確率を上げたいんだ」
「……………………」
──────なるほど、つまり自分が行動せねば日常は守れないのか。しかしそれは、自分が頑張れば日常を守れるという事だ。
ばあちゃるは背筋を伸ばし、明るい声を作る。怒り、悲しみ、恐怖、色んなモノを覆面の下に隠して。
「なるほど…………オイラには、頑張る理由があるみたいですね」
「理不尽な事を言ってゴメンなさい。でも今は、今だけはお願いします」
「大丈夫っすよ。オイラは大人なんで」
「……ありがとう」
牛巻は書類を持ち部屋を出ていった。
ばあちゃるはそれを見届けると、着替える事も忘れ、ベットに倒れ込み、眠りにおちた。
>>544
§
深夜、ばあちゃる はサイレンに叩き起こされた。
慌てて部屋の外に出れば──────紅く燃え盛る廊下、罅割れてコンクリートを剥き出しにした青白い床、歯抜けの天井から覗く満天の星空──────そんな光景が見えた。
「……夢でも見てるんすかね」
なにか非常事態が起こっているのは解るが、そのなにかがワカラナイ。眠い。どうせ夢かナニカだろうし部屋に戻って寝てしまおうかしら。
そんな事を考えていると、
「夢じゃないよ。現実だよ」
背後からシロに声をかけられた。
──────夢じゃない、緊急事態、燃え盛る廊下──────ボゥとする頭の中で言葉がグルグル廻り、回り、巡り、そしてようやっと現状を把握した。
脳が急速に覚醒してゆく。
「え、こ、これ火災ですか!? ほ、他の人達は、他の人達は無事なんすか!?」
「そこに関しては安心して。今、牛巻とあずきちゃんが管理室でスタッフの保護をしてるから。あの二人がいればスタッフは大丈夫。だから…………今は馬が一番危ないの、早く行こ?」
ばあちゃるのもとに駆けつけたシロ。一見すると落ち着きを保っている様に見えるが、やはりどこか焦燥が見て取れる。
「解りました、ついて行くっす」
──────ばあちゃるは、今の状況について走りながら聞こうとも考えたが、今にも崩れそうな床や天井を見て考え直した。無駄口叩いて死ぬなんて余りにも馬鹿らしい。
二人は走る。
§
数分後、二人は立ち往生していた。
>>545
「…………ここに来るときは通れたんだけどなぁ」
シロに連れられてばあちゃるは管理室へと向かっていた。しかし、不幸な事に瓦礫が道を塞いでしまっていたのだ。
──────立ち止まっている間にも火の手が回る。室温が上がる。息が苦しい。
「ゴホッ…………こりゃ不味いっすね」
「取り敢えず別のルートを─────」
不幸は続く。
「シロちゃん危ない!」
ばあちゃるがシロを突き飛ばす。そうやって彼は──────シロの上に落ちてきた瓦礫を受け止めた。
「なっ──────」
──────次の瞬間四肢はグチャリと潰れ、ばあちゃるはこの光景にデジャヴを感じるなと、不思議と冷めた頭でそう考える。
掠れた視界でも辛うじて見える巨大なオブジェ、それを認識したばあちゃるはデジャヴの正体に思い至った。
(あぁそうだ、これはKANGONに触れた時見た、あの光景だ)
当たらない筈の予言が当たった。その事実に奇妙な可笑しさを覚え、思わず笑ってしまう。今日見た予言と寸分も違わない、この光景の中で。
「馬、ねえ馬! しっかりしてよ!」
「アハハ、すんませんシロちゃん」
「………ねぇ、シロは英霊なんだよ、強いの! シロが瓦礫に当たっても無事な可能性のほうが高いんだよ! ねえ!」
死に瀕したばあちゃるへシロが駆け寄り、慟哭する。彼を硬く抱きしめる。
──────ばあちゃるは掠れゆく意識の中、干からびた喉で言葉を紡ぐ。
「実はオイラ……目の前で誰かが傷つくのが……ちょっとだけ…………苦手なんすよ……だから……つい」
「…………そうだった、馬は”いつも”そうだもんね。バカだよ、ほんとバカ」
「アハハ、返す言葉も無いっす」
>>546
彼の体から命が抜けてゆく、眠る直前のように瞼が落ちてゆく。冷えてゆく。
「────死なせなんか、しないよ」
シロは彼のマスクを外し、耳元に口をつける。吐息すら聞こえる距離でシロはナニカ唱える。荘厳に、穏やかに、謡うように。
大広間は加速度的に崩壊を速め──────シロはそれを気にも掛けずKANGONのそばへ行く。ばあちゃるを宝物のように抱えて。
シロがKANGONに手を触れ、少しすると二人は白い光に包まれ、消えた。
──────崩れ行く大広間にはもう誰もいない。
>>547
───────────
ダレカの日記
───────────
■月■■日
私は毎晩不思議な夢を見る。人間、小人、鳥、はたまた怪物。様々な者が様々に登場し退場し、その中に私はいる。そして目が覚めると、時折物を夢から持ち帰っているのだ。
この頃は以前にも増して変な夢ばかり見る。何か意味がある様に思えるので、内容を書き記しておこうと思う。
廃墟と化したコンクリートジャングルを闊歩する人の様な怪物とそれに怯えて暮す人々。
倒せど倒せど尽きぬ怪物に人々は涙を流して目を伏せる。生きるため悪に走る。私の無力さが恨めしい。
だが繁栄した場所もある、その名はグーグルシティ。大きな壁に囲まれた街。
強かな民衆、肉体を機械化したアウトロー、激しい競争を繰り返す企業と権力者。
怪物をなぎ倒す英雄、興奮に満ちた闘技場、ハイレベルなストリートパフォーマー、天を突くビル。街の通りを眺めているだけでも十分楽しい。
願わくばどうか、皆が幸せになれますように。
おっつおっつ、第一特異点完走お疲れ様ー、ここに投稿されるたびにたまに見てはおっつおっつ言うだけの存在ですが楽しませてもらっております、寒くなってまいりましたしお体ご自愛下さい
>>550
最近寒いですよね………倉庫バイトとかする時なんかもう、厚めの靴下必須です
今特異点は1つ目ということもあって、色々と抑えめな感じにしました
結構お気に入りの特異点なので、定期的にピノ様、ボス、双葉ちゃん視点で番外編を書くかもです
次の特異点は「涙の海」
剪定された世界の消え残りが流れ着く墓場────大きな海、動く島々、美しくも奇妙な動物達、緩やかに滅びゆく人々────明るく広大で冒険に満ちながらも、どこか閉塞感のある特異点となる予定です
>>534
─────────────────
一時の宴
─────────────────
「楔回収記念パーティー、始めるよ!」
「おお!」「待ってました!」「ヒュゥ!」
端の焦げたサンタ帽を被り、牛巻が声を張り上げる。
──────シロ達がブイデアに帰還してから一日経ち、牛巻が予告した通りパーティーを始めようとしている。
世界が消えかけている非常時に開くパーティー。些か不謹慎ではあるが、戦いにおいてこういった労いはほぼ必須。息抜きをせねばパンクする、人とはそういうモノだ。
「特異点から『楔』を回収したお二方……せっかくなのでコメントをお願いしますぅ」
「…………そうっすね、この成功はオイラ達だけの功績じゃなくて、ええ、皆さん全員の功績だと思いますハイ。ええ、特に臓硯なんて通信によるアシストがなければまず負けていたっすね。これからどうなるか解りませんが、今後も助けてくれたら有り難いっす」
「皆支えてくれてありがとう! これからも負担かけるけどお願いします! シロでした!」
「はぁい、ありがとうございました」
不慣れな様子でスピーチを行うばあちゃる。周囲の『早く飲み食いしてぇ』という空気を察して手短に済ませるシロ。
二人が話し終わったのを見計らい、焦げたヒゲを付けたあずきがクルリと指を回す。
──────ブイデアに大きな門が出現し、色んな料理の載ったテーブルがこちら側へ押し出される。門の向こうにテーブルを押す青いナニカがいるが、それが何なのかは誰にも解らない。
>>553
テーブルに乗った豪華な料理。
手作りと思わしきケーキ、タコのマリネ、謎肉ステーキ、タコの飯詰め、湯気立つミートパイ、伸び縮みするチョコレートファウンテン、キンキンに冷えたビール、ワイン、コーヒー、エナドリのチャンポン、蒼く光るコーラ、広告付きフランクフルト、きんぴらごぼう、翡翠色のコンニャク──────とにかく沢山ある。
「メチャクチャ量あるっすね」
「シロと牛巻が作った料理、あずきちゃんが呼び出した料理。それに加えて、特異点から持ってきた料理まであるからねぇ……そりゃ豪華さぁ」
歓声を上げるスタッフ達。彼らを他所に、シロとばあちゃるは二人で会話を交わす。あずきの呼び出した門を無視しながら。
──────スタッフ達の楽しみに水を挿したら悪いし、アレがなんなのか知りたくない。言及するのは止めておこう。
妙に達観した目で門を見つめるスタッフを見て、二人は誰にいうともなくそう決心し、料理を手に取った。
「……そういえば、この緑コンニャクなんなんすかね」
「ソレ? カカラを粉末状にして水に晒して、石灰と一緒に茹でて整形した奴らしいよ。
そのままでも食えなくはないけど、生の状態だと石油みたいな匂いがして不味いんだってさ」
「はえー……じゃあ、あの謎ステーキはなんなんすか? 魚と豚の合いの子みたいな色合いしてますけど」
「アレは……あずきちゃん曰く”スナーク”っていう魚?らしいよ。人魂みたいに軽くて、きつく締めたベルトみたいにサクサクしてるんだってさ。
それはさておき………馬、ミートパイ食べてみてよ」
>>554
「ハイ──────うん、うん、美味しいっす。隠し味のニンニクがいい味出してますね」
「えへへ……実はソレ、シロの手作りなんだぁ」
「なるほど、道理で美味しい訳ですねぇハイ……お、スタッフさんが弾き語りやってますよ」
「ホントだ、結構上手い…………でもなんで弾き語り?」
「さあ……」
§
牛巻・あずき視点
「──────やっぱりさ、ばあちゃる君って先祖に魔術師いたりするのかな」
「彼の魔術回路の質を見る限り、ほぼ確定だと思いますぅ」
打ち上げパーティーの最中、牛巻とあずきは会場の隅でひっそりと会話していた。
二人が話していたのは、ばあちゃるの魔術回路についての事。
魔術回路というのは、魔術を行使する上でほぼ必須の器官であり、優秀な回路を持つ者はそれだけで才能アリとされる。
ほとんどの者はコレを緻密な交配によって子々孫々に遺伝させ培う。優秀な回路を持つ者はほぼ確実に魔術師の子孫である、とも言える。
翻ってばあちゃる。彼の回路はかなり優秀であった──────多少の問題はあるが。
「……しっかし不思議だね、ばあちゃる君の魔術回路。誰かに呪いをかけられてああなった、としか思えない有様だよ」
「まあ……生まれつきそういう体質なんだと思いますぅ。意図的にここまでメチャクチャにするのはほぼ不可能ですし。あずき的には信じがたい事ですが」
──────ばあちゃるは歪だ。
ほぼ独学で『硬化』の魔術を発現するほどの才能がありながら、それ以外の魔術を使えるようになる気配が一切ない。
>>555
不審に思った牛巻が密かに検査を行ってみたところ──────彼の魔術回路に異常がある事が判明した。
全身を神経の様に網羅している筈の魔術回路。彼のはその殆どが眼球付近に偏っている。その上、魔術回路の所々が断裂し癒着している。
魔術を行使できるだけでも奇跡だ。
「眼球付近に魔術回路が集まってるし、目に関連した魔術を使う人が先祖にいて、その血が中途半端に発現した……みたいな感じなのかな。
なんにせよ、下手に高度な魔術を習得させるのは危険やね。硬化魔術に絞って修練させた方が良いかな」
「魔術礼装を使いこなす訓練もさせた方が良いと思いますぅ。ドゥンスタンの蹄鉄、アレの持つ”幸運”と”呪い除け”の効果は有用です」
あずきと牛巻はタコのマリネをつつきながら、仕事について話し合う。
──────今日はパーティー。仕事など忘れて楽しむべきなのだろうが、それでもつい仕事の話をしてしまう。
あずきと牛巻、ブイデアの英霊兼スタッフを取りまとめる責任者。二人はいわゆるワーカホリックであった。
「……お、スタッフ達が弾き語りやってるね。牛巻達もなんかやろうかな」
「いいですね。じゃあ私は……上着消失マジックでもやろうかな、と」
「いやいや、ダメでしょ。コンプラ的に」
「冗談ですぅ。本当に消失させるのは下着です」
「それなら良かった……って、それもアカンやろ」
一時の日常、世界が消えゆく中でもその暖かさは変わらない。
>>556
ほの暗い夜、人工の光に濁った夜。間抜けた薄群青の曇り夜空。
俺らは走る。獲物に向かって、狼のように貪欲に。走る。ハシル。
────倉庫の前にたどり着く。服や食料や日焼け止めやらを一旦集め、それぞれの所へ送る為の倉庫に。
ベルトコンベアが動いてて、働く人がいて、ダンボールが沢山あって……まぁ、それ以上に語れることもない。普通の場所だ。
俺───鎌瀬仁 サレオ───はこの倉庫に強力な武器が搬入されると言う情報をつかみ、それを強奪しに来たのだ。
裏社会の大物が自分用に作らせたという武器。それを奪い、俺は成り上がる。
スラムの仲間を集めて組織を立ち上げ、少しづつ名を上げ、やっとここまで来た。
この仕事さえ上手く行けば、俺はビッグになれる。
「……」
小さく手を挙げて部下達を下がらせ、倉庫の入口にロケランを放つ。
「……よし」
円錐形の重厚な弾頭が炸裂、指を押し込まれた障子のようにあっさりと穴が開く。警報がなる──────ここからはスピード勝負だ。
頭の中でトリガーを押し込む。機械化された俺の脚が唸りを上げる。
『Force Leg Model Harpy』────電力駆動、補助動力に圧縮空気を採用。ブーストを行うことで、最高速度は時速70kmにも達する。
体を打ち付ける大気、横へ後ろへ流れる景色。あっという間に穴を通り抜け、いくつかのベルトコンベアを飛び越し、大きな棚の横を通過し、目的の場所へとたどり着く。
「……あった、これだ。これが例の武器か」
俺はいくつかの真っ赤な箱を発見する。事前に得た情報で”例の武器”があると聞いていた箱と同じ見た目だ。
──────てっきり武器は一つしかないモノと思っていたが、そうか、複数あるのか。これは嬉しい誤算だ。
>>557
「リーダー、せっかくだから他のも分捕っていいですか?」
「あぁ? んな事……していいに決まってんだろ」
「ヒュウ、太っ腹ァ」
俺は微かに口元を緩ませ、部下たちに運び出しを──────ふと違和感を感じ、辺りを見渡す。
「……?」
おかしい。いる筈の労働者が一人もいない。警報が鳴り響いてるというのに、警備員が来る気配すらない。
倉庫は24時間稼働が基本、ここも例外では無かったハズ。
白い照明。ゴウン、ゴウンと絶え間なく動くベルトコンベヤ。多くの段ボールがそのまま放置されている。ひどく寒々しい光景だ。
「お前等、早くここから──────」
ブツン
部下たちに指示を下そうとした瞬間────照明が一斉に消えた。
ごくわずかな窓から差し込む月明かり、それ以外の光はない。暗い、ほとんど何も見えない。
>>558
「なんだ!?」「し、指示をお願いします!」「ブレーカーを落とされま」
「ビ、ビビってんじゃねえ! 近くの奴と背中合わせになって銃を構えろ! 襲い掛かって来る奴がきたら迷わずぶっ放せ!」
恐怖する部下共を𠮟咤する──────そう、そうだ。この仕事さえ上手く行けば俺は成りあがれる。ビビってる場合じゃねえ。
額の汗を拭い、銃の冷やかさに身を寄せる。確かな鉄の感触が心を鎮「ギャッ」
──────悲鳴が聞こえた。どこからかは解らない。ベルトコンベアの音がうるさくて解らない。
「止めっ」
「ガッ……」
「誰かたすっ─────」
「──────」
「────」
足音、銃声、倒れる音、ゴウン、悲鳴、ゴウン、足音、銃声、ゴウン、ゴウン、倒れる音、ゴウン、ゴウン、銃声、ゴウン、ゴウン、ゴウン。
何もかもがベルトコンベアの唸りに飲まれてゆく。消えてゆく。
「あそこにっ──────」
俺の隣にいた部下が倒れた。
ベルトコンベアの唸りが止む。獲物を喰らい満足した怪物の様に。
静寂。静寂の中で心音が上る。
静寂。目が慣れて少しだけ見えるようになった視界の中で、影が動いている。
静寂。影がこちらへ向かってくる。
>>559
「あぁ…………ああああああああ!」
気がつくと俺は走り出していた。
「なんなんだよ、なんなんだよ! 何なんだよオイ!!」
胎の奥から悪態を叫ぶ。そうしなければ恐怖に耐えられない。恐怖に押しつぶされてグチャグチャになって、きっと一歩たりとも動けなくなってしまう。
光、光、光はどこだ。出口はどこだ。誰か教えてくれ、誰か助けてくれ。
「意味が解んねえよ! 俺はホラー映画のキャラじゃねえぞオイ!」
走る。ハシル。子ウサギの様に命がけ。
「──────」
後ろから足音が追いすがって来るのに気づく、気付いてしまう。俺は亡者の様に手を伸ばして救いを求め、無様に転ぶ。
転んだ俺は必死に這いずり──────そして足音に追いつかれた。
「──────あぁ」
至近距離となった事で、追跡者の顔が見える。
俺を追いかけていたのは英雄。グーグルシティの英雄、”蟷螂”のセバス。
右手にゴム製の警棒を持った彼の姿が、暗闇の中にぼんやりと浮かんでいる。
目の前の男を認識し──────俺は思わず安堵の笑みを浮かべた。
追いかけて来ていたのが鬼や悪魔ではなく、人間であった事に安心してしまったのだ。
「こんばんは、セバスと申します。あなた方を捕えに来た者です。
さて…………実のところ、あなた以外はもう倒してしまいまして。今貴方に自首して頂ければ少し罪が軽くなるのですが……どうですかな?」
「あ、ああ。そうさせて貰うよ」
「そうですか。それは──────む、失礼」
突如セバスが俺を抱えて棚の上に跳ぶ──────次の瞬間、真っ赤な炎が床を舐めた。
原始的なエネルギー。光と熱。俺はしばし目を奪われる。
「!?」
>>560
──────この倉庫に搬入されていた武器は『裏社会の大物』が作らせたモノ。 そしてこの火。
まさかその『大物』とは、
「発注してた武器を受け取りに行ったらよぉ……いきなり電気が消え、引き渡し人も居ない──────やっぱお前のせいだったか、セバスのジジイ」
「ええそうですよ。いかがでしたか?」
「いかがでしたかって? そりゃ最悪の気分だよ」
炎を搔き分け、鳴神がぬうっと姿を表す。額に青筋を浮かべながら。
──────鳴神裁。多くの構成員を抱えるギャング、サンフラワーストリートのトップ。炎使いの武闘派としても知られている。
鳴神は髪についたススを振り払い、威嚇する様に口元を歪めた。
久しぶりの投稿です
細かいプロット詰めないとなので、少し投稿が遅くなるかもです
単発で倉庫バイトをやった時『いきなり電気消えたら怖いやろなぁ』とふと思い、何となく書いた番外編です
シロちゃんの衣装、新アレンジ披露嬉しいけど…………今の服、歴代で一番好きだからちょっと名残惜しい(小声)
おっつおっつ、夜勤時の暗闇と機械音は怖いよねぇ、あと夜廻シリーズ大好きだからあってていいわ
>>564
自分の呼吸音や心拍が搔き消されるせいで、怪物の腹に居る様な感じと言うか………吞まれるような感じです
夜廻良いですよね!
>>561
「マジで最悪な気分だ。俺の新武器でお前を黒焦げにしなきゃ…………気が収まらねえなぁ、オイ」
「新武器…………そりゃどんなガラクタで御座いますか?」
「ハ、一々気に障るジジイだ…………OK、真っ黒な燃えカスにしてやるよ」
丁寧な言葉遣いで相手を煽るセバス。腕の仕込み刃は既に展開され、戦う気満々だ。
表情に怒りと殺意を滲ませてゆく鳴神。握りしめた両拳から炎が漏れ出ている。
強者二人の相対、冷や汗が止まらない。猛獣の檻にぶち込まれたウサギの様な気持ちだ。
「手足の一二本は覚悟なさって下さいね」
「ぶっ殺す」
鳴神が両腕に付けた謎の装置──恐らく例の新武器──から炎を放射する。
炎は俺とセバスのいる棚の上へと迫り──────
「!?」
俺は山なりに投げられた。結果として俺は炎から逃れ──────鳴神の視線は俺へと誘引される。
「やはり上に逃げ──────違う、アレはマネキンか!」
違ぇよ。さっきまで視界にいたやろ。せめて人としてカウントしてくれよ。
……なんて俺がいう暇すらない程、状況は目まぐるしく動く。
>>566
俺が投げられてから0.5秒後──────ゴム警棒が炎を突き破って飛来。熱々に熱せられた樹脂が鳴神の頬を掠める。
0.7秒後、俺の体が床に着弾。骨が何本か折れたが、焼けて死ぬよりはマシだ。
「くっ!?」
1秒後。多くの荷物を載せた棚が倒れた。梱包材やホコリが飛び散って視界が悪化。
棚の脚に切断痕。恐らくはセバスの仕込み刃によるもの。
俺は盛大に目を擦りながら一連の光景を眺める。(ゴミ屋敷育ちの俺はハウスダストアレルギーなのだ)
「クソ、何も見えねえ………何処から来やがッ!?」
鳴り響く銃声。どこか聞き覚えが──────そうか、俺の愛用してる銃の音か。俺を投げた際に掠め取ったのか。
薄れゆく粉塵。別の棚に身を隠したセバスの姿が見えた。俺の銃を構えている。
そして銃弾をぶち込まれた鳴神は─────アレ?
「……そんだけ撃って当たんないのは逆にすげえよ」
傷一つなく、呆れた表情を浮かべている。マジかよ……。
「ちゃんと力一杯、真心込めて撃っているのですが、中々どうして当たらないモノで」
セバスは恥ずかし気に肩をすくめる。
力一杯撃ったら銃口がブレる。正確に狙った銃口が必ずブレる。だから当たらない。馬鹿馬鹿しいが納得はできる。
にしたって一発も当てられないのは可笑しいけどな──────まあ、チートジジイに常識を適用しても不毛か。
>>567
「──────まあいい。今度は俺のターンだ」
気を取り直した様に鳴神が呟く。
再度彼の両腕から炎が放出され──────
「!?」
セバスの近くにあった段ボールが破裂した。炎が着弾する前に。
不意を突かれたセバスは炎をマトモに喰らってしまう。
「お前の隠れてた棚は、除菌用アルコールを積んだ棚。
熱せられれば気化するし、炎が迫れば破裂だってするのさ。
武器の受け取りで迷わない様、倉庫の間取りを調べといて助かったぜ……な、ジジイ」
「──────」
鳴神は勝ち誇る、それも当然だろう。
敵は炎に包まれていて、とうてい生存なんて望めない状態なのだから。
勝者となった男は悠然と傲慢に歩を進め、敗者の顔を──────
「シッ!」
仕込み刃が閃く。鳴神の腕に刃が食い込む。
勝者だったはずの男は面食らって距離を取り、腕を抑えた。
「ッ…………!? なんで生きているんだお前!?」
「いやはや、中々熱うございました。それに武器も中々、ガラクタだなんて言って申し訳ない。
あなたの能力で発生させた炎、ソレを遠くまで飛ばす武器──────シンプルかつ強力、素晴らしい」
セバスに巻きついていた炎が止む。肉体が露わになる。
──────彼の肉体は焦げ、人工皮膚の下に隠された金属を露にしていた。
「質問に答えろ!!」
「私の体が火に強かった、それだけの事。全身機械なので可燃性は低いですし、耐熱加工だってキチンとしております」
未だ赤熱する肉体…………いや、鋼体を軋ませ立ち上がる。遠くにいる俺が震える程の気迫をなびかせて。
これが英雄か。子供の頃に読んだ本とまるきり同じだ。
対する鳴神はと言えば──────
「ふん…………止めだ止め」
>>568
酷く冷めていた。興ざめしたように鼻を鳴らしていた。
感情的なせいで勘違いされやすいが、鳴神の頭はそれなりに回る。
『戦闘継続のリスクが許容できない程に大きくなった』と、彼はそう判断したのだろう。
「俺ぁ、楽に勝てない勝負は好きじゃねえ。帰らせて貰う」
「私がソレを許すとお思いで?」
「ハ、お前の許しなんか要らねえよ」
幽鬼のような形相で迫りくるセバスに、鳴神は嘲笑的な笑みを返した。トン、トントンと踵を踏み鳴らした。
──────音が鳴る。鳴神の足首に仕込まれていたブースターが火を噴く。空を飛ぶ。
「俺の新兵器は『二つあった』ッ! 俺の火を利用した飛行ブースターがな!」
鳴神は嗤う。空から相手を見下す、心底愉快そうに。
なるほど、空からひたすら炎を打ち下ろすのが本来のコンセプトか。ちょっと引くくらい合理的だ。
…………アレ? ここって室内じゃ。倉庫だから天井はかなり高いけど、それでも結構危ない気がするぞ。
「ではさらばッ!?」
「あ」
案の定、天井に突っ込んだ。そしてそのまま突き抜けていった。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙。俺は耐え切れなくて口を開いた。
「……あの、俺と部下の罪ってどうなる感じですか?」
「強盗とは言え、未遂かつ自首扱いなのでまあ……そんなに刑期は長くないと思いますよ」
「そうですか…………」
俺はそっと胸をなでおろす。
もし終身刑などになってしまえば、俺のやりたいことが出来なくなってしまう。
>>569
「…………犯罪を犯した人間って、更生できるモンなんですかね?」
「出来ます。出来ると知っているから、私は悪党を殺さず……捕らえるんです」
鋼や回路がむき出しになったセバスの顔には…………不思議なほど優しい笑みがハッキリと見て取れた。
溶けて焦げた唇は盆のように緩く弧を描き、ショートした人口眼球はパチパチとコミカルに火花を散らしている。
「そう、ですか」
裏社会でビッグになれると思っていた。だがさっきの戦いを見て、俺には到底無理だと思い知らされた。
部下と一緒に起業でもしたほうが余程希望がある。
犯罪やっといて何を今更、と我ながら思う。そんな事はどうでもいい。
一度しかない人生。図太く生きた方が良いに決まってる。清算しきれなかった罪は地獄で償えばいい。
俺は膝にこびりついたホコリを払い、外へ歩きだ─────
「あの、更生できるとは言いましたが、それは服役した後の話です。
それっぽい雰囲気出して逃げようとするのはお辞め下さい」
うん、流石に無理か。
俺は大人しく足を止め、近くにあった縄で自分の両手を縛る。(コツを知っていれば案外簡単にできる)
「というか、セバスさんって不殺主義だったんすね。知らなかった」
「不殺とは言え、状況次第で半殺しにはしますからねぇ。知らないのも無理は無いですよ」
>>570
この後、牢にぶち込まれた俺は
『頭打って記憶喪失になった鳴神』
『超絶美人の政治犯』
『頭に電極ぶっ刺されたカカラ』
『自称歴戦の傭兵』
『汚職・無断欠勤・親の七光り看守』
と共に、服役囚が作らされていた兵器を破壊したり──────釈放と引き換えに大怪獣を討伐する羽目になったり──────なぜか秘境の薬草を取りに行ったり──────まあ色々な大冒険をしたが、それはまた別の時に話すとしよう。
今回は番外編ということで
・地の文が一人称視点
・かなり崩した文体
・海外小説みたいな謎注釈
等々冒険してみました
シロちゃんの食レポめっちゃ美味しそう
新章の構想が大分組み上がってきたのでそろそろ投稿できそうです
本編で出さなかった裏設定
カカラの味について
死ぬほどマズイ。そのままでは家畜が拒否する程マズイ
細かく切って半日程流水にさらすと「中途半端に茹でたキャベツ」みたいな味になり、一応食える様になる
肉体改造について
メガネ買うくらいのノリでメカ眼球を取り付けられる
それ位に広く普及している
流石に「時速65kmで走れる機械脚」とか「刃仕込んだ義手」とかまでいくと所持にライセンスとか申請が必要になる
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=w-sQRS-Lc9k&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=10
おっつおっつ、新章楽しみにしてます、あと何そのスーサイドスクワッドみたいな別のお話気になる
>>574
別のお話、はいつかオリジナルで書こうと思ってた話を流用したものですねぇ
詳しくキャラ解説すると
『主人公』
高出力の機械脚を持つ小規模ギャングのリーダー
シングルマザーの家庭で半ばネグレクトされて育った
靴磨きで生計を立てていた子どもの頃、ある一人の常連から戦闘術や教養を教え込まれた
なにかと構ってくれた常連に恩義を感じている
野心家、言動はやや粗暴だが教養は高い
『超絶美人の政治犯』
超絶人気アイドルになるため、洗脳兵器を開発
アイドルのついでに統一国家の独裁者も目指すつもりだった
兵器自体の設計はほぼ完了していたが、製造段階で逮捕されて設計図は監獄に接収された
監獄で製造されてた兵器がコレ
独自の政治思想を持っているが難解すぎて誰も理解できない
『頭に電極ぶっ刺されたカカラ』
実験で知性を得たカカラ。知性は高いが、価値観が怪物寄り
作曲が好きで、最近は「人の悲鳴をサンプリングして作ったEDM」に挑戦している
化学に詳しい他、なぜか声真似にも造詣が深い
『自称歴戦の傭兵』
事有る度に自分の事を「歴戦の傭兵」とうそぶくものの
「どんな傭兵だったんだ」と聞かれると決まって口を閉じてしまう
なお、実はマジで歴戦の傭兵。二つ名などはないが、それなりに名の知れた傭兵だった
主人公の実の父親であり、主人公に戦闘術を教えた『常連』その人
当時かなりヤバ目の相手に恨みを買ってた彼は、戦友との子を愛人に託した
『親の七光り看守』
署長の一人息子
人間性や甘さを残したタイプのクズ
父親の"世界征服"という野望を止める為
牢獄内での優遇を条件に、主人公ら最凶の囚人達へ野望阻止を依頼する
>>571
ブイデア KANGON前
──────第一特異点より帰還してしばらく後。
「シロちゃん、次の特異点はどんな場所なんすか?」
「えっとね……広大な海と島がある場所らしいよ。牛巻ちゃんいわく、海の面積は最低でも、この世界の5倍はあるってさ。しかもね、独自進化した猛獣があちこちに生息してるんだって」
「…………今回の『楔』探しも大変そうですねハイ」
「ま、頑張ってこ」
怯えた様なジェスチャーをする ばあちゃる。肩をすくめて微笑むシロ。
二人はKANGONのそばで第二特異点への転移を待っていた。
「第二特異点、転移準備開始」「了解。転移準備」「現実性希釈、規定通りに進行」
「シロ、ばあちゃる、バイタルサインに異常なし」「メインシステム、以前の火災で損傷中、サブシステムを使用します」「サブシステムの使用、了解」「座標固定ルーチン、正常に完了」
「充填魔力量、機材損傷により規定値に到達せず。スタッフによる魔力補充を提案」「レイシフト、プロセス安定化完了」「転移先の安全を確認」
「魔力補充、承認」「充填魔力の属性配合比、誤差を±5%まで許容に一時変更」「誤差許容の補てんとして、プロセス安定化の補強を提案」「プロセス安定化の補強、承認」
牛巻とあずき、そしてスタッフ達。彼らは殺気すら感じる程の真剣さでレイシフトの準備を行っていた。
複雑な機械を操作し、計器類と水晶玉を交互に確認し、床の魔法陣に文様を書き加える。科学と魔術とが融合した奇妙な光景の中、スタッフ達は作業を済ませてゆく。
「──────各班長へ、最終点検をせよ」
「A班、異常なし」「B班異常なし」「C班異常なし」
「了解。準備完了」
沈黙。
「レイシフト開始」
>>577
牛巻の宣言。
シロとばあちゃるが光に包み込まれる。第一特異点に転移した時と同じ、レイシフトの光だ。
「頑張ってね!」
「気負いすぎない程度に頑張って下さぁい」
──────牛巻とあずきの激励に押し出されるように、二人は転移していった。
§
ダレカの日記
最近睡眠時間が異様に増えた。ほとんど起きていられない。
夢で別の世界にいく度、自分という存在が不確かになって行くのを感じる。
今日起きたら指先が透けていた。手袋で手を隠した。未だに心臓の動悸が止まらない。
…………気を紛らわす為、楽しい事を書こうと思う。
最近、夢の先で友人ができた。大きなクジラの腹の中に住む、子供の魔術師だ。
年は私と同じくらい。名前はオレィ。
元は裕福な家に住んでいたのだが、色々あって今はカエルみたいな人たちに拾われ、養って貰っているらしい。
……ちなみに、オレィの魔術は本物だった。
流れ星をふらせたり、お月さまの模様を変えることだって出来る。とても綺麗だった。
ふと、オレィが浮かない表情をしているので話を聞いてみると、
「恩返しをしたいと思っているが、子供の自分には出来ることがない」
との事。
「魔術でみんなを助けてあげればいいじゃないか」
と私が返すとオレィは、
「僕の家は、魔術のせいで滅んだ。人は魔術に頼るべきじゃないんだ…………流れ星をみたりして、楽しむのに使うくらいが良いんだよ」
……そう言われて、私は思わず言い返してしまった
「恩はいつでも返せるわけじゃない。いつか、突然返せなくなる時がくる。そうなる前に、魔術でも何でも使って恩返しをしてやりなよ」
と。
>>578
私は、ほとんど寝たきりだ。恩返しなんてもう出来ない。
終わりはいきなり来るんだ。いつかやる、じゃダメなんだ。
私は手遅れになってしまった。
彼にはそうなって欲しくない。
オレィは少しだまりこくって、それから小さく頷いた。
§
──────そこら中に見える砂浜、海、波、苔むした大岩。海面スレスレを飛ぶ極彩色の鳥。矢のような日差しが肌を刺す。
「マジで暑いっすね」
「暑さで溶けそう…………」
ばあちゃるは汗を袖で拭い、拭いきる前に新たな汗が吹き出す。
「……熱中症対策、しとかないとヤバーしですねハイ」
あまりの暑さにばあちゃるは閉口し、蒼い海へ投げやり気味な視線を向けた。
──────遠くまで広がる浅瀬、奥に見えるのはサンゴ礁だろうか。あそこに飛び込んでしまえば気持ち良いだろうな、とばあちゃるは栓もない事を考える。
「シロちゃ──────『ボンッ!』
巨大なウミヘビが水面から飛び上がった。飛び上がって、鳥を丸のみにした。鳥を丸のみにして、海へ戻っていった。
ばあちゃるは一連の出来事を呆然と眺めたのち、ゆっくりと海面を指さした。
「え、ナニアレ」
『あれはサーペント・リーパーだね』
『先行調査を行っているイオリさんの報告によると、「すごく背筋が強くて、バーンって飛ぶの! とっても口が大きいから、大体のモノは丸のみに出来るよ!」との事ですぅ』
「こわ…………やっぱ特異点は怖い場所ですね──────ッ!?」
「馬、シャキッとしな!」
シロはビビる彼の背中をバンと叩き、愉快そうに鼻を鳴らした。ばあちゃるへの信頼と情を表情で表しながら。
>>579
「シロと馬がいれば、大体どうにかなるって」
「それはまあ、確かにそっすね…………そうだリコさん、これからどうすれば良いですかね? やっぱ現地の英霊と合流ですかねハイ」
『その通りだね。あと5分くらいで、英霊「ヤマトイオリ」ちゃんが到着するハズだよ』
『蒼い長髪で、和服を着た少女ですぅ。とても優しい人ですよ』
「それは、会うのが楽しみですねハイ」
プロット書きによるブランクと定期試験によって過去一で間が空いてしまいました…………
裏設定
サーペント・リーパー
生息域:陸地近くの海 温暖な場所を好む
危険度:D(こちらから近寄らなければ安全)
異常な程に背筋が発達しており、海面から10mくらい飛び上がれる
好物は鳥
結構なグルメであり、特定の種族しか食おうとしない(ヤバい時は流石にえり好みしない)
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=bJRk5iS8C1o&t=1528s
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