>>323
正直な所、ばあちゃるはこの魔道具を気に入り始めていた。傷つけるためで無く、守るための力を持っている所に。
非暴力を通せる程ばあちゃるは強くないし、自覚もしている。だが、それでも、暴力は出来るだけ振るいたくない。各々の矛盾から目を逸らして今日を過ごす凡人の一人、それがばあちゃるだ。
そんな矛盾を僅かに解消してくれる魔道具、それがこの蹄鉄。少なくともばあちゃるにとってはそうだった。
とは言え、ばあちゃるはもう一つ困った『矛盾』を抱えていた。こちらは些細な物ではあるが。
「……ピノピノ、『楽園』に行くために金が入り用なんですよね? 本当に買って貰って良いんですかねハイ」
ばあちゃるはオドオドとした声でそんな事をピノに囁く。
……詰まる所、『自分より年下の人間に金出させるのは、人としてどうなの?』と言う矛盾である。散々お世話になっておいて今更ではあるが、目の前で金を出して買って貰うとなると流石に『矛盾』から目を逸らせなくなる。
要は『大人の小さな意地』と言う奴だ。真に下らないが、本人からすれば大事である。
それを察したピノが苦笑いして
「お金は足りてます。大人しく奢られて下さい」と言った。
「でもほら、オイラの保険金解約すれば200万くらい「ここ特異点ですよ、どうやって解約するんですか……もう」
「あ、言われてみればそうですねハイ」
ピノの苦笑いに仕方ない物を見る様な、それでいて少し嬉しそうな目が加わる。
「過去でも相変わらずの……じゃなくて、シロお姉ちゃんとそっくりの天然具合ですわね」
「……? シロちゃんって天然ですかね? しっかりした子だと思うんすけど」
「似た者同士だから解らないだけですわ……それは良いとして、とにかくこれの代金はわたくしが出します」
>>324
会話に一区切りを付けたピノが指を鳴らして、エミリーに札束を差し出させれば、店員はにこやかにそれを受け取り
「税込198万です……それと、他の商品もお買いになりませんか?」
と答える。
その後は『蹄鉄を取り付ける金具付きベルト』やら『英雄の動きを一瞬だけ再現できる魔道具』やらのセールストークを躱しつつ支払いを済ませ、三人は店を───
「お客様」
───出る直前に声を掛けられた。
「その被り物、魔道具で御座いますよね。被り物に違和感を抱かせない意識改変、魔道具であることを隠す隠蔽、夢見を制御する力、マスク越しに視界や聴覚を確保する力、記憶や精神への干渉を弾く力……戦闘向けの効果こそありませんが、かなり強固な概念が込められている、当たってますよね?
もし宜しければ、製作者を教えては頂けないでしょうか。それ程の物を作れる人間とならば、有意義な語らいが出来そうです」
紅い眼をルビーの様に煌かせて店員はそう言うが、ばあちゃるには製作者の心当たりなど無い。思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。
そもそも、これはいつの間にか癖で被るようになった物で……いつの間にか? いつの間にか、こんな印象的なモノを被り始めるだろうか。考える程違和感が止まらない、大会でエイレーンに異常を指摘された時と同じだ。だが狼狽える事は無い。
「スミマセン、言えないです、ハイ。色々と事情がありまして」
「……ああ、ごめんなさいね、変なこと聞いてしまって。お詫びと言っては何ですが、次回は一割引きしますね」
「おお、太っ腹かつ商売上手ですね」
>>325
怪訝な表情をしまい込み、ばあちゃるは平然と答える。
大会の時と違う反応、それも当然。あの時既に『自分が何になろうと目標に向かい歩く』と決めた。だから、ばあちゃるの半端な覚悟でもこの程度の異常なら受け入れられる。
この被り物の来歴は解らない、それがどうした、害が無いなら使えばいいだけだ。思考停止かもしれないが、ただ恐れて避けるよりかはずっと良い。
「ピノ様、ばあちゃる様、そろそろ帰りましょう。折角の祭りを楽しむ時間が減ってしまいます」
「それもそうですわね。では御機嫌よう、お互いの健康を祈っておりますわ」
「またのご来店お待ちしております。祭り、楽しんできてくださいね」
三人は屋敷へ歩を進める。
>>326
車の中でのこと。
「いやー、景色が綺麗っすね。あっちなんか花火の音が絶え間なく響いて……あ、違うわ、デカい発砲音だコレ」
「……ばあちゃるさん」
「ん? どうしたんすかピノピノ」
「ばあちゃるさんは、突然この特異点に来た関係上、知らないことも多いですよね。
唐突ですけど、知ったら得するライトな事実と、知らなくても良いヘビーな事実。どっち聞きたいですか?」
「ホントに唐突ですねハイ……」
「今のばあちゃるさんなら、多少重荷を背負っても大丈夫かと思いましてね」
「そう言う事なら、ライトな方でお願いします。ヘビーな事実を受け止める自信はまだないっす」
「成程、それならライトな重荷を背負わせるとしますわ。
……なぜ、特異点への移動が出来る人間を必要としたか。と言う話なのですが……おっと」
車内がゴトンと揺れる。タイヤが小石でも踏んだのだろう。
「……早い話、最強戦力であるシロお姉ちゃんを最大限活かす為ですわ。
条件さえ整えばシロお姉ちゃんはブイデア最強。
しかしそれは『条件が整えば』の話。今はまだ最強と言い難い」
「なるほど、まだ最強じゃないんすね」
「そこで取った作戦が『各特異点に英霊を送り込み内情を探らせる。そしてシロお姉ちゃんは予め送り込んだ英霊のサポートを受けつつ、簡単と判断された特異点から順に解決し、最強の条件を満たす』と言うモノですわ。
本来は、特異点に英霊だけ送り込むのは無理ですけど、今回は特別。
この特異点の『一部』は、わたくし達の世界を切り取って改変したモノで構成されている。特異点と元の世界はある意味地続きで、強力な使い魔である英霊なら多少の無茶もきく。だから送り込める」
>>327
「……うん、なるほど?」
「ただ、英霊単体だと魔力供給が出来ないんですよね。英霊からしてみたら、魔力供給が無いのは食事無しみたいなもんです、正直ヤバい。
ブイデアから魔力を供給してくれてますけど、正直十分とは言えません。そんな環境じゃシロお姉ちゃんを活かせません。
そこで必要なのがマスター。令呪とか色々持ってますが、英霊に魔力を供給する存在て事だけ……ああ、いつものですか」
外から爆音が聞こえる。ボンネットに何かの破片がぶつかる。何処かの馬鹿どもがドンパチでも始めたのだろう。こんな目出度い日にやらかすとは無粋な輩も居た物だ。
「いつもって、これが日常なんですか……何か怖いっすね」
「ええ、大体週二で遭遇しますわ。
話の続きですが、ただのマスターじゃだめなんですよね。特異点に飛ぶ適性が要るので。
それらの条件を満たしていたのがばあちゃるさん、と言う訳です。他にも理由はありますが、そっちはヘビーなのでまたの機会に」
「思ったより色んな事情があったんですねハイ。
……所で、シロちゃんが最強になる『条件』って何ですか? 教えられないならそれで良いですけど」
「うーん、秘密にする程のものでもないですけど───多分知らない方が良いと思いますよ。
条件自体は大したことないと言うか、満たした人数に応じてシロお姉ちゃんが強くなる感じですわ」
話がひと段落した所で車の速度がゆっくりと落ち始める。窓を覗けば『スパークリングチャット』が遠くに見えた。
「そろそろ到着で御座います。忘れ物にはお気をつけ下さいませ」
「運転お疲れ様です、いつもありがとうございますね」
「ありがとうございますエミリーさん」
「勿体無きお言葉」
>>328
車が止まる。降りようとする直前のばあちゃるにピノが声を掛ける。小さな声で。
「……ばあちゃるさん、今日暗黒街に行った事は秘密でお願いしますね」
「ピノピノが秘密にしてほしいなら、オイラは良いですよ。でもなんで秘密にするんすか?」
「何と無く、お姉ちゃん方にダーティな面をあんまり見せたくないんですよ。
正直今更だと自覚してますし、知られたところで何か有る訳でも無いんですが……それでも嫌なんです」
「あぁ、思春期ですねぇ。そう言う事ならオイラ大歓迎ですよハイ」
「そう言う事じゃないですよ……多分」
車を降り、スパークリングチャットに近づくとシロ達が居た。ピノとばあちゃるを待っていたようだ。
「待ってたよピノちゃん!」
「近くの屋台をまわりながらだけどね」
「『1680万色ゲーミング焼きそば』、目がチカチカして疲れるけど美味しいですよコレ。一緒に食べましょうピノさん!」
「……ええ! もちろん食べますよすずお姉ちゃん!」
みりくるんの衣装どれも良かった、、、、三人の身長が予想以上にイメージ通りでビックリした
それはそうと、幕間の方はぶっちゃけ読み飛ばしても大丈夫です。ただの設定補完なので
長ったらしいので限界の向こう側まで地の文を削りましたが、それでも冗長です……でも書いとかないと矛盾しちゃう……設定だけ脳に直接流し込めれば良いんですけどね
裏設定
馬の被り物
超絶重要なキーアイテムだが、これを掘り下げるのは第二特異点以降(の予定)。
被り物と言う名の通り、頭にすっぽり被って覆うモノ。外から隔離された内部に強固な概念を構築している。
あらゆる物を赤く染める夕暮れの概念を『意識改変』の力でもって定義し
何もかもを暗い帳で覆い隠す夜の概念を『隠蔽』の力でもって定義し
あまねく夢と眠りを打ち破る朝の概念を『夢見の制御』の力でもって定義し
万物を照らし夜の帳を退ける昼の概念を『五感の確保』の力でもって定義する。
これら四つの概念が内部で巡り「一日」の概念を編み上げ、『精神干渉耐性』とする。
いついかなる時も、地球が生まれた時から変わらぬ概念。
昼夜の長さは可変、だが「一日」の長さは常に24時間。そこが地球である限りソレは変わらない。
それ故にこの概念は非常に強固だ。殆ど不滅ですらある。
ガイチュウ街
治安激ヤバ暗黒街、由来は作中での説明通り。
当初は「モノ地区」と言う名前にする予定だった。mono(一つの)から最初に街として成立した場所、一番最初に壁で囲まれた場所と言う意味。さらにYouTubeでよく不快な動画を上げている「モノ」申す系に引っかけてもいる。
しかし、「ガイチュウ街」という名称が語呂良すぎて頭から離れず、こちらが採用となった。
高い壁に囲まれているせいで大部分が昼でも暗い&アクセスが絶望的&都市計画も糞もない状態で作ったので普通に住みずらい→仮にここに巣食う悪党を全員追い払ったところで住もうとする人間が居ない→廃墟に悪党がまた住み着くだけ→無意味
と言った感じで見逃されてたりする。
無尽の英雄
グーグルシティが成立する数年前、初期の怪物が出現し始めた時期から戦い続けてる英雄、特異点の現地民で二番目に活躍した人物でもある。一番活躍した人物達は別にいる(未登場)。
カンの良い人は正体に気づいてると思う。
「無尽」の名の通り、何度壊されようと魔術で新しい剣を取り出して戦い続ける。双剣と弓矢がメインウエポン。街の人間は魔術を知らないので「カカラと人間のハーフじゃないのか」と心無い言葉を掛ける人も多かったが、ひたむきに人を守る姿勢に心を打たれ、そんな事を言う人間達も徐々に「よく解らないけど良い人」と認識を改めた。
セバス&エミリーを始めとして、無尽の英雄に憧れて剣を取った人間が数多くいる。
因みに、英霊が街の一員としてすんなり受け入れられてるのも、この英雄の存在がデカかったりする。
強い人間が一番必要とされる時期に出てきて、期待される以上の働きを(ただ戦うだけでなく、後続を生み出したりなど)したお陰で、超常の力を使う人間に対しての好感度がクッソ上昇してる。
おっつおっつ、みりくるん……良かったよね……。ハンカチか蹄鉄かで悩んでハンカチ選んだけど蹄鉄はそれはそれで見たかったからよし。個人的には蹄鉄のいざというときの幸運が凄いことになりそう(ウマ娘見ながら)
>>332
蹄鉄は「蹄鉄の耐性が発動する、、、詰まり悪魔由来の力持ってるな」的な感じに、相手の素性を見破る試薬としての効果も有ったりしますねぇ
因みにですが、破邪の蹄鉄の神秘の源となって頂いた聖ドゥンスタンには面白い話が結構ありまして、
・教会の床が抜けてドゥンスタンの政敵を叩き落とした(その場にいたドゥンスタンだけは無事)
・蹄鉄を用いて、悪魔の手足を扉に打ち付け「蹄鉄を扉に掲げた家には入らない」と約束させた
・政治も結構有能だった
等々、少ないながらも濃い逸話を持ってるお方です
>>329
夜が更け、幼子はとうに寝る時間。しかし今日は、この日ぐらいは幼子も起きることを許されるだろう。祭りの日ぐらいは。
「ねえ馬、寝る時もそのマスク着けてるの?」
「着けてるっすよ。風呂入る時以外は基本脱ぎませんねハイ」
「すずちゃんって、いがいと小食だよね」
「食べたいって気持ちはあるんですけど、胃がそれについて行かないんですよね。拒否するんですよ私の胃が」
『良いなぁ……牛巻達も美味しい物食べたいよぉ』
「日持ちする食べ物で良ければ持ち帰りますよ、牛巻お姉ちゃん」
『ありがとうピノちん! 最近はあずきちの魔術で呼び出した謎食材で食いつないでたから……ホントにありがたい。
不味い訳じゃ無いんやけど、食べると変な夢を見るんだよね。食えるだけありがたいけどさ』
ばあちゃる達五人は食べ歩きを楽しんでいた。
他愛ない会話にチープな屋台飯。お祭りだから特別感があるだけでやってる事は大して特別でもない。だがそれで良い、それで十分楽しいのだから。
そんな食べ歩きの最中、焼き鳥(タレ)を食べきったばあちゃるがゴミ箱でも無いかと辺りを見渡していると───
「ガハハハ!! ハレの日だってのに退屈な奴らめ!
俺らが退屈をブチ飛ばしてやる!!」
「その通り! 『炎上駆動機構』始動! 空飛べ『ヴリトラ』!!」
>>334
強烈な見た目をした山車が大通りを突き進むのが見えた。いや、山車と言うのは不適切かもしれない。空を飛ぶ機械仕掛けの龍に対しては。
中華的な風貌をしたその龍は優雅に空を泳ぎ、その姿はため息が出るほど雄大。
唐紅の鱗は鮮やかに煌き、精悍な顔は見る者を惹きつける。枝分かれした鋭い角には歴戦の傷、大きく開いた口から断続的に火が吹き出す。太い胴から生えた二本の腕、右の腕に握られた宝玉は目も眩まんばかりの虹光を放っている。とにかく凄まじい。
龍の背に乗って高笑いする鳴神とケリンが居なければ本物と見間違えていたかもしれない。
「「「うわ、何あれ凄い」」」
「すっっご」「何円かかってんだろうな」「中華風なのが好印象ネ」「ボラれたショバ代がこう言うのに使われてるのは、何か複雑だな」
「『サンフラワーストリート』と『エルフC4』の共同制作、ですかね。
やること成すこと全部無茶苦茶ですけど、エンターテイナーとしては一流なんですね、悔しいけど」
「だね……細めにつくった体にホログラムを被せてるっぽい。やってる事はたんじゅんだけど発想がすごい。
ホログラムは『サー・レイへット』に作らせたものかな? 流石のクオリティ」
呆気にとられる三人と民衆、訳知り顔で話し合うピノと双葉。
一足先に気を取り戻したシロがそんな二人に質問をする為口を開く。
>>335
「え!? あれってホログラムなの?
正直、にわかには信じ難いなぁ」
「マジもマジ、大マジですわ。通称『光の魔法使い』レイへット。
『サンフラワーストリート』所属、一流のホログラムアーティスト。彼ならどんな光景でも作り出せます、それこそ魔法の様に」
「普通ギャングにこんな事できないけど、無理をとおす力があるから。
というより、こういうデカい事を定期的にするから力を持ち続けられるというか何というか……」
ふと、呆れと淡い羨望が同居した表情を浮かべ龍を見上げる双葉とピノ。
鳴神とケリン、その性格は自分勝手で刹那的。だが誰よりも自由だ。どんなしがらみも気にせずやりたい事をやり、力でもって勝手を通す。多くの人が心の底で望みつつも実行しない、実行できない生き方。
ピノも双葉もそんな生き方をするつもりは一切無い。だが『不都合を後先考えずパワーで解決したい』と言う願いが無いと言えば、それはウソになる。『楽園』のクソ分厚い壁を叩き割り、中に潜むカカラの元凶をプチリと潰す。そんな力が欲しいと思った事は何度かある。
「鳴神によるデザイン!」
「ケリンの野郎がした設計!」
「「渾身の共同制作、とくと見ていきやがれ!!」」
「高度もっと上げてくれ鳴神!」
「言われずともやるつもりだ! 『炎上駆動機構』出力上昇……あ、やべ。やりすぎた」
「あーあ、物凄い飛び方してるよ」「落ちて……は来ないな」「安全装置があるんでしょ」
>>336
あらぬ方向に飛び上がり始めた龍、どうやら何かトチった様で二人は慌てている。最も周囲は失敗含めて楽しんでいるが。
龍の宝玉から放たれる光があちこちを出鱈目に照らす。ミラーボールの様に、カラフルに、賑やかに。妙な話だが、優雅に空を泳いでいた時よりも今の方が『グーグルシティ』らしくて様になっている。
「……フン、運用テストしないからそうなるんですわ」
「……らしいと言えば、らしいけどね」
無意識に伸ばしていた手を戻し、二人はわざとらしく鼻で笑う。ガラにもない事をしている自覚はあるが、そうせずにはいられなかった。
焼き鳥(塩)に被りついて一気に食べきり、串を捨てる場所を───
「「……なにアレ」」
探していると、不穏なモノが目に入る。
「あの人影なんだ?」「出し物にしては不気味すぎるよな」「アレを見てると、何故か頭が痛くなるのう……」
ピノと双葉の言葉に呼応するように静かな騒めきが広がる。賑やかだった空間にさざ波の如く沈黙が広がる。それも当然だ、明らかに異様な影がビルの間を飛び跳ねているのだから。
人の形をした影、異常に長い右腕、全身黒の装い、顔には骸の仮面が縫い付けられている。全身が暗い靄に包まれていて只管に不気味だ。
肉体を機械化した人間も多いこの街だが、それでもこの見た目は異様に過ぎる。
「……ん? なんだアレ凄いパルクールだな。鳴神、お前んとこのパフォーマーか?
『サンフラワーストリート』がアーティストやらパフォーマーやら沢山抱えてんのは知ってたが、あんな奴もいたとは知らなかったぞ」
「今制御で忙しいんだが……あん? あの黒い奴か? 俺は知らんぞあんな奴。
しかし何というか、パントマイムやマジックならともかく、パルクールに髑髏の仮面ってのはセンスねえな」
>>337
周囲が静かになる中、二人だけは相も変わらずのんきな会話を繰り広げる、龍の体勢を立て直しながら。
何故そこまで余裕なのか? 己の強さを自覚しているからだ。例え襲われようとも普通の人間相手に遅れは取らない……そう、普通の人間相手なら。
「ガハハハハ! 確かにそうだ……ッ!?」
余裕の笑いをしていたケリンの背後に例の人影が突如現れる。確かに油断していたが背後を取られる程では無かった筈。相当な手練れだ。
そもそも空を飛ぶ龍の背に飛び乗れること自体可笑しい。英霊の二人ですら、足を縄で固定して振り落とされない様にしてると言うのに。
背後に立った影はナイフでケリンの首を搔っ切ろうとしている───最も、それを許す程ケリンは弱くないが。
「嘗めんなよオイ」
咄嗟に取り出した拳銃を───撃たず背後に投げつける。スキルで爆弾に変えて。
銃を撃つ、と言う行為には『狙いを付け引き金を引く』プロセスが必要だが、投げつけるだけなら速い。
首を落とそうとしていた影にすんでの所で拳銃が接触し爆発する。手練れの影もこれには堪らずよろめく。
「これで……クソッ! あんま効いてねえな」
顔に付いた煤を払い口の中に入った分は唾に溶かして吐き出す。今ので顔と手を一部火傷した、大して痛くは無いがムカつく。
>>338
至近距離で爆発した故ケリン自身もただでは済まなかったが、やらなければ殺されていた。それは仕方ない。
それより問題なのは敵が予想以上に固い事だ。爆発をモロに喰らったのにも関わらずそれ程ダメージを受けた様子が無い。コアを叩けば死ぬカカラより化け物じみている。
鳴神とケリンの二人、昨日行われた大会の後エイレーン一家の事務所にカチコミし撃退されたばかり。装備も体力もかなり消耗している。そんな状態で固い敵は正直キツイ。
「どけケリン、俺がやる」
「お前は龍の制御をしないとだろうが。墜落して地面とキスするのは御免だぜ」
ケリンは軽口を叩きながら思考を回す、目の前の敵が体制を立て直す前に。
鳴神は龍の制御で手を離せない。あいつのスキルで出した炎を動力源にするのは良いアイデアだっただが、まさかここで裏目に出るとはな。
手榴弾が一つ手持ちに有るが無意味、威力が高すぎてこの距離じゃ使えん。
俺のスキル『触れた物体を爆弾に変える能力』で爆破したい処だがアレは幾つか弱点がある。『爆弾に出来る物体の質量に上限がある』事と『爆発の威力は質量に依存し、調整出来ない』事の二つだ。普段は石や鉄くずをポッケに詰めて小回り効く様にしているが、昨日使い切ってからまだ補充してねえ。
宝具を発動すれば……無理だな、発動する際に隙が出来ちまう。発動した瞬間に首を搔っ切られるのがオチだ。
フィールドも宜しくない。転落防止のため足を縄で結んでいるから自由に動けないし、爆弾に変えられるモノが見当たらん。
兎にも角にも決定打が無い、どうしたもんか、戦いが長引いて龍が墜落しようもんならペシャンコに……それだ!!
閃きを得たケリンは指を鳴らす、顔が歪むほど強烈な笑みを浮かべて。
>>339
「おい鳴神ィ! 炎上駆動の出力MAXにしろ!!」
「あぁ!? な事して何の意味が「説明してる時間はねえ! 影野郎をぶっ飛ばす為だとっととやれ!」
「……チッ、しくったら許さんからな!」
鳴神は舌打ちしながらも言われた通りに出力を上げる。機械仕掛けの龍のエンジンに過剰量の炎が行き渡り烈しく駆動させる。赤熱させる。煌々と。
例え友人からの物であっても頭ごなしの命令に従うのは癪だが、盾突いてきた影野郎を潰す為なら仕方ない。ありったけの炎を供給してやろう。
「……!?」
上下左右360度、龍は縦横無尽に飛び回り始める、ジェットコースターの様な速度で。そうなれば影はマトモに立っていられない、強烈なGに振り落とされてゆく。だがケリンと鳴神は縄で足を固定しているから振り落とされる事は無い。
高い所から落ちればどんなに硬くても無事じゃすまない。あのしぶとさじゃ死にはしないだろうが。
「グゥぅあアア!!」
───だが敵もさる者。異様に長い右腕で龍の体にしがみ付き、左の手でナイフを投げつけようとしている。揺られる様は風に吹かれる枯れ葉の如く、遠心力によって肩は抜け、龍が方向転換する度に体が打ち付けられ、それでも手を離さない。
「チィッ! ……無傷で勝つのは無理か」
ここに至って初めてケリンは完全な勝利を諦めた。強烈な笑顔はそのままに目だけが笑うのを辞めた。確実に『殺す』ために。
自身の足を縛る縄に触れて爆弾に変え、即座に起爆させて縄を消し飛ばす。少なからぬ火傷を負う。
直後、猛烈なGをモロに受け吹き飛ばされそうになる、吹き飛ばされる前に影の方へ飛ぶ。
両足の靴を爆弾に変え、小爆発を伴った右足の蹴りで影を叩き落とす。右足から複雑骨折の痛み。
「コロス、コろス!」
>>340
影と共に下へ落ちる。落ちながらも手を伸ばして来る影に何処からか銃弾が飛来して邪魔をする。
大地がすぐ下に見える、幸いにも人はいない、大半は既に退避している様だ。左靴の爆発でもって落下の衝撃を殺す。殺しきれなかった落下の衝撃、両足の複雑骨折。痛すぎてもう訳が解らない。
痛む体、グシャグシャの足に力を入れて立ち、一緒に落ちた影の様子を確認する。動く様子は無い、死んだか。爆発の衝撃でかなりの落下スピードが出ていたのだ、これで生きている訳がない。
「流石に殺すつもりは無かったんだがな……まあいいか、最初に手ェ出してきたのはお前だし」
ケリンの顔にホンの一瞬後悔が浮かぶ。仕事柄何人か殺してきたが、この後味の悪さだけはどうにも消えない。多分一生消えないのだろう。
ケリンの顔から後悔が消える。どうせこれからの人生も血生臭いのだ、いちいち引き摺っていられない。
「オイオイ大丈夫かよケリン! ”俺のお陰で”勝ったとは言え、それじゃマトモに歩けねえだろ。迎え呼んで来るからそこで待ってろ!」
「おう……頼んだ!」
上から聞こえてくる鳴神の大声に、こちらも大きな声を絞り出して答える。
「……流石に疲れたぜ」
ポツリ呟く。火傷と骨折まみれの体を引き摺り壁に寄りかかる。遠巻きにこちらを見詰める民衆共を一瞥し、焦げ目の付いたマルボロを吹かす。
空を仰ぎ見れば曇り夜空が見え、耳をすませば徐々に戻り始めた喧騒が聞こえる。口に滲む血の味と匂い。爛れた肌に夜風が染みる。
「そこの銀髪少女。さっき俺が落ちてる時、影野郎へ銃を撃ったのはお前だろ? ……受け取れ、礼だ。企業の研究所からパクった最新鋭のブツだぜ」
>>341
ポケットをまさぐり、ケリンはシロに向かって手榴弾を放る。勿論ピンは刺したままで。
「ちょ、あぶな!? ピンを刺したままとは言え危ないよ! ……ま、ありがと」
「おお! カッコイイ! 底に付いてる点滅する奴とか特に!」
「点滅……? ……、……、これ盗聴器ですわね」
「ガハハッ! 俺がタダでモノ渡すわきゃねえだろ! 因みにもう一個付いてるから探しとけよ!」
シロ達のジットリとした目線の先で豪快に笑う。因みに盗聴器が二個付いていると言うのはウソだ、二つ目が見つからず慌てふためく姿が目に浮かぶ。
しかし何というか、人を簡単に信じるあの有り様を少し眩しく感じる。成りたいとは思わないが。
きっとこれからも心の底で人を信じて生きるのだろう。見知らぬ誰かを助け、見知らぬ誰かの無償の善意に助けられて生きるのだろう。だが悪の道を突き進むケリンは、金や権力を手に入れることは容易くても『無償の善意』だけは中々手に入らない。
シロの善意にお礼の品を返したのは細やかな意趣返しだ。敵対関係である己にすら向けられた『無償の善意』に対しての。
「おお、早速迎えが来たか。あばよ! ありがとな!」
早速来た迎えの車に颯爽と───とはいかないまでも、それなりにスムーズな動作で乗り込む。仮にも英霊、気合である程度はどうにかなる。
乗り込んだ数秒の後に車が発進する。窓から見える景色がゆっくりと流れていく。
>>342
「…………」
街の景色を見ていると昔を思い出す。記憶喪失の状態で街に放り出されたあの頃を。
あの頃は食う物も無く、仲間も頼れる人も誰一人おらず惨めだった。それが嫌で、奪う側に回りたくて悪の道を突っ走った。そこに後悔は無い───だが、自分が記憶喪失する前は何をしていたのだろうかと、そんな事を度々考えてしまう。
ケリンを乗せた車はただ走る、目的地に向かって。
>>343
深夜11時。あの後も遊びに遊んだシロ達五人は屋敷の大広間にいた。ビロードのカーテン、その隙間から夜空が見える。
本来ならもう寝る時間なのだが、セバスとエミリーたっての願いで大広間に集められていた。
「……お時間を取って頂き、ありがとう御座います」
「この度は今すぐ話すべき事があり、この様な場を設けさせて頂きました。今日出現した影についての話です」
セバスもエミリーも普段と違う顔を見せている。普段の柔和な顔では無い、戦う時の誇りに溢れた顔でも無い、只管にくたびれた顔だ。
「あの影は怪物、記憶と記録から抹消された旧い怪物です。『シャドウサーヴァント』とも呼ばれておりました」
「五十数年前、この街が出来る前の頃。まだカカラも怪物もおらず平和だった世界に突如現れ、既存の文明の大半を滅ぼした怪物で御座います。
誰もが家族を失い影に怯えて暮らしておりました。影に立ち向かった、かの無尽の英雄がいなければもっと死んでいた」
「そして五十年前、無尽の英雄が影を根絶しました、方法は解りませんが。そして影と入れ替わるように出現し始めたのがカカラです……カカラも十分に怪物ですが影に比べればマシでした。少なくとも、人類がある程度再興出来る位には」
そこまで語るとフゥと長く大きく息を吐く、一息つく。老いてなお強者であり続けた二人も今ばかりは年相応に衰えて見える。
>>344
「影の齎した被害を忘れる様に『冬木市』は『グーグルシティ』へ名を変え、あらゆる記録から影は抹消されました。そして……数十年前の事でしたかね。記憶を消す技術が生まれて、人々の記憶からも影は抹消されました」
「しかし、わたくし達を始めごく一部の人間は記憶を持ったままで御座います。万が一あの影共が復活した時、すぐさま対応できる様に」
「私もエミリーも無尽の英雄に憧れて剣を取った、肩を並べて戦った事もあります。その過程で戦う勇気や覚悟を学ばせて頂いた。ですが、ですが……それでもまだ恐ろしかった、皆様の目的を思えば万全を期す為にも語るべきだと解っていても、それでも躊躇してしまった。申し訳ございません」
皺枯れた重い声でそう言うと、二人の老人は深く頭を下げ───「あやまらなくて良いよ」
謝ろうとする二人を制す者がいた、双葉だ。
「いなくなった筈の存在がまた出てくるなんて想定できる訳ないんだから」
「ですが双葉お嬢様───」
「言わなかったことでおこった被害はなかった。だからこの話はおわり」
穏やかな声、柔らかな笑顔。旧来の友人に接するかの様な雰囲気、それでいてある種の威厳も感じる。周囲の人間は誰一人として双葉に口を出さない、口を出さずに見守っている。
確かに影の存在について語らなかったのは二人の失態だ。影の存在を知らないまま『楽園』に侵入し、そこで初めて出会おうものなら人間だと思って殺す事を躊躇していただろう。
アレは人の形をしていた、怪物だと知らなければ人間に見えるだろう、明らかな異形であるカカラと違って。それに何より、あの影は片言ながらも「殺す」と人の言葉を発していた。
>>345
では何故双葉は二人を咎めないのか。それは双葉のエゴだ。
『楽園』に行くための段取りをここまでスムーズに整えられたのは二人の力が大きい(勿論スズ、ピノ、シロ、ばあちゃるの助力もあってこそだが)。エイレーン一家との交渉の決め手になった映像『楽園の声』を取って来たのはエミリーだし、セバスの名声が無ければ『スパークリングチャット』に出されるちょっかいはもっと多かっただろう。どれ程強かろうと自分等は余所者、大多数の人間は実績しか見ない。
だからこそ双葉は、この程度の事で二人の頭を下げさせたくなかった。
それは紛れもないエゴ、我儘だ。だが双葉は二人の主だ。だから我儘で良い。
エゴも無くただ正しい判断を積み上げる君主がいたならば、それはそれは完璧な人間だろう。だが完璧な人間は孤独だ、他人の入る隙間が無いのだから。そして孤独な人間に君主は務まらない、他人に動いて貰うのが君主の役目だからだ。
「───承知致しました、双葉様。それでは影の弱点だけ申して今日はお開きにさせて頂きたく」
「影の弱点はズバリ心臓で御座います。貫けば即死、皮膚の上から衝撃を与えるだけでもそれなりに怯みます。やられる前にやる、それがコツです」
いつもの柔和な表情を浮かべてそう言うと、二人は静かに引き下がる。
「いやはや敵いませんな、どうにも」
「ですねぇ……ところでアナタ、頼んでおいたベットメイキングは済ませた?」
「……ああ、最近は忘れっぽいですな、どうにも」
遠くでセバスが頭を下げているのが見える。まあ、アレは止めなくても良いか。夫婦の話に口を挟むのは無粋だろうし。
ガリベンガーのイベント良かった、空色デイズが特に。グレンラガンとキルラキル好き、プロメア一番好き。
それはそうと、シロちゃんと馬がちょっとだけ言及してた『影の時代』の名前はシャドウサーヴァントが跋扈していた時代の名残です。
・武器もった素人の馬でもカカラが倒せた(シロちゃんのサポートとは言え)、カカラはゾンビの様に感染して増えたりする訳でも無い
・グーグルシティに比べてニーコタウンの外壁が貧弱なのにも関わらず、十分カカラを防ぐ壁として成り立っている。
・カカラがいるのに街の外に進出する人間が一定数いる
・影の時代と言う名前
辺りが一応伏線のつもりでした。
因みにこの特異点は、FGOの炎上汚染都市冬木の別世界線をイメージしてます。どうにもならなかったのがFGO世界線、現地のfate勢が色々頑張ってどうにかしたのがこの世界線って感じです。
色々の部分はまだ隠しておきますが、「影と入れ替わるように出現し始めたのがカカラ」の発言を見れば何となく察せるかもです。
細々とした裏設定
影の時代
量産型シャドウサーヴァントが人類ジェノサイドしてたヤバい時期。たった数年で文明が大体消えた。
歴史から消されるレベルでヤバい。
セバスとエミリーの名前
辛い過去と決別する為、仲間(結構前に言及した『竈馬』の事)につけて貰った名前。だから厳密に言うと本名じゃなかったりする。
魔道具屋
店名を日本訳すると「生命の巨釜」。
アインツベルン家が時代に適応した結果、店員の正体はあえて秘密。魔術で若さを保ったイリヤかもしれないし、その末裔かもしれない。
サー・レイへット
サンフラワーストリート所属のアーティスト。ホログラムの扱いを得意とし、マジックや簡単な大道芸もこなせる。
長身瘦躯を派手な服で包んだ、如何にもな見た目をしている。
浪費癖が酷く、借金をこさえまくった末にサンフラワーストリートへと転がり込んだ。
>>349
第一特異点と言えばシャドウサーヴァントみたいなとこありますから、やっぱ外せないです
>>346
次の日、屋敷の中での事。
『祭りもはや三日目! 今日は一人楽団(ワンマンオーケストラ)ことビープ・B・ビート氏による演奏が……
「ね、ねえシロちゃん。このナイフ数おおいから手入れてつだってくれない?」
「え? ……あ、ナイフの手入れね。勿論良いよ! おけまる!」
窓の外から賑やかな声が聞こえる。屋敷の中では小さな話し声が遠慮気味に反響している。日光を受けてチラチラ光る埃共が、朝の屋敷をフラフラゆらゆら気だるげに舞い落ちている。
今日の屋敷はまるで別世界だ、隔絶されている。それは何故か? 明日の戦い、『楽園』の戦いへの準備をしているからだ。外ではお祭り、中では戦闘準備。隔絶されてしまうのも当然。
双葉もシロも何処か緊張した雰囲気を漂わせている。表情が硬く、瞬きの数がいつもより多い。
「銃火器の手入れ苦手なんですよね私。分解すると毎回パーツが行方不明になるんですよ」
「あー、ちょっと解るかも。あとあれ、ちゃんと組み立てた筈なのにパーツが余る事も良くありますわ」
シロ達と違い平然と雑談を交わすスズとピノ。会話の内容が色々残念な事を除けば、如何にも熟練の戦士と言った感じだ。とは言え、流石に普段よりかは多少口数が少ないが。
「……うう。オイラ役に立てますかね? そもそも生き残れるかどうかの問題が」
「大丈夫ですよ。足さえ止めなければ大抵生き残れます」
「な、なるほど……説得力が凄いっす」
明日の事を考えて胃を痛くするばあちゃる。まあ、これが常識的な反応だろう。しかし『生き残れるか?』よりも『役に立てるか?』の疑問が先に出る辺り、非常識側へ傾き始めてるのは間違いない。
対してエミリーは自然体そのもの。彼女にとって戦いは日常の一部、今更狼狽える訳もなし。
>>351
「マイクテス、マイクテス、あずきちゃん、牛巻ちゃん、聞こえてる?」
『聞こえてるよ〜』『大丈夫ですぅ』
「明日はオペレーター頼むね」
『まっかせてよ! シロピーが惚れるぐらい頑張っちゃうぞ!』
『あずきもそれなり以上には、頑張るとしましょうか』
何事も無く一日が過ぎていく。明日に向けて。
次の日。
「ピーマン、パプリカ。留守をたのんだよ」
「任されたッパ! ……ご武運を、オーナー」
「オイラ達の生業は戦いを魅せるモノ。華の無い二流が何万人攻めてこようと追い返してやるっピ」
屋敷から出るシロ達七人を見送る二人の巨漢。スパークリングチャットの覆面スター、ピーマンとパプリカだ。
覆面に隠れて表情は見えない。だがその声色からは誇りと、押し殺した悔しさを感じる事ができる。留守を守る大役を任された誇りと、『楽園』への戦いに連れて貰えない悔しさだ。
ピーマンとパプリカは強い。だがその強さはリング上でのみ最大限発揮されるモノ、実戦においての強さは他の実力者に数歩及ばない。二人はそれを自覚している。
故に二人はその悔しさを表に出すような”ダサい”真似はしない。各々の思う”カッコイイ”振る舞いで手を振って見送る、闘技場のスターに相応しい振る舞いで。
二人の見送りを背に外へ出れば、そこにあるのは昨日までと打って変わって静かな街並み。三日間も盛大に騒げばそりゃ誰だって精魂尽き果てよう。
>>352
「…………」
屋敷の前に止まっている二台の車、『楽園』からの御迎えだ。
塗装は鏡面仕上げのパールホワイト。角張ったフォルムに角張った正面灯、フロントグリルとホイールカバーにウサギのエンブレム。マフラーなどの突起物は車体下に隠し、品の良いシンプルさを強調。
黒の革張り内装、要所要所に飴色の木材をあしらいアクセントを加えている。シートカバーには虹を模った刺繡。優雅かつ懐古的、誰が見ても高級だと解る。
同乗している二人の運転手は何も話さない、顔すら見せない。早く乗れと言わんばかりの沈黙をたてている。そこらのタクシー運転手の方が100倍愛想良いだろう。高級な車に対して何とも不釣り合いな事だ。
「右の車にピノちゃん、双葉ちゃん、セバスさんとエミリーちゃん。左の車にシロ、すずちゃん、馬で良いかなぁ?」
「わたくしは良いと思います」「それでいいよ」「御意」「お心の召すままに」「ハイ!」「了解っす」
「OK! じゃ、そう言う事で。運転手さん、短い間ですがよろしくお願いお願いします」
「…………」
シロの挨拶にも運転手達は沈黙で返す。余りの愛想の悪さに思わず苦笑が浮かぶ、白いアホ毛が気まずく揺れる。
緊迫した空気感の中、シロ達は車へと乗り込む。
>>353
(エブリカラーファクトリー製ハイエンドモデル『クレセントバニー』。押しも押されぬ最高級品ですわね。
莫大な金を納めた者だけが入る事を許される『楽園』。VIP待遇の相手を運ぶ車としては最適な選択………ですが、色々と雑ですね)
真っ先に車へと乗りこんだピノが内装を見れば、そこに在るのは座席に薄く積もった埃、そして乾いた泥のこびりついたフロアマット。後部座席に飲み物が幾つか置かれているが、その一部に開封された跡がある。隠そうとはしているが、隠蔽の度合いが素人の域を出ていない。
『楽園』にはカカラの大元があるのだから妨害工作は当然。とは言え余りにも露骨かつ稚拙すぎる。
(あちら側も相当焦っているんでしょうね。工作を仕掛ける知恵があるのは警戒に値しますが…………ま、伝える必要はありませんか。お姉ちゃん方も気づいてるっぽいですし)
それと無く周りを見れば、シロを始め幾人かが開封された跡の有る飲み物を見つめているのが解る。下手に言及して事を荒立てるメリットは無い、余計な動きは極力抑えるべきだろう。
ピノがオーロラ色の瞳をスゥと細め、そんな事を考えている内に皆は乗車を済ませる。二台の車は静かに発進する、戦場へ向けて。
凡そ一時間後。『楽園』の入り口に辿り着いた車が停車する。
「あれが……楽園の入り口っすか。想像以上に物々しいですね」
ばあちゃる達の前に聳え立つ二重の壁、見上げても見切れぬ程に高い。過剰な程に重厚な門、厚さ5mの鉄筋コンクリートを鋼鉄で覆ったモノだ。一定間隔で存在する監視塔、小銃を携帯した警備員が常に二人以上在中している。世界中の何処を探してもこれ以上厳重な場所は存在しないだろう。
>>354
グーグルシティ中央区。幾つもの高速道路や公共交通機関が合流する交通の要所であり、大企業のビルが身を寄せ合うように乱立している場所だ。しかし、中央区に存在する『楽園』の入り口周辺だけは何の建物も存在しない。法律によって、許可された者以外は『楽園』の出入り口半径500m以内に侵入してはならないことになっているからだ。
「…………」
二人の運転手が無言のまま車から降り、門の両脇に取り付けられた二つの認証装置にカードを通す。重厚な門が騒々しい音を立てて鈍重に開き始める。
鼓膜がイカレそうな程の地響き、膨大な粉塵が舞い上がる。暫しの間フロントガラスが粉塵で塞がれる。それが終われば『楽園』の中が見え始める。『楽園』の中は、閑静な住宅地だった。
似たような形の住宅が建ち並び、小さな庭には芝生や低木が植わっている。ばあちゃるが特異点に来る前の日常風景とまるで同じだ。
この風景はきっと、怪物によって壊された日常の名残なのだろう。豪華な料理に舌鼓を打ち、高級品に囲まれて生活し、万人を傅かせようと忘れられぬ、強い郷愁の現れなのだろう。ジッと瞼を閉じれば、誰かの笑い声話し声が幻聴となって聞こえて来そうだ。
莫大な金を払い手に入る生活がコレと言うのは、人によっては滑稽だと感じるかもしれない。だが、ばあちゃるはこの生活を求めた人達にむしろ共感せざるを得なかった。無かった事にされた過去を取り戻し、日常を取り戻す為に特異点へ挑むばあちゃるは、その郷愁に痛いほど共感出来てしまう。
「───」
>>355
昨日から収まらなかった緊張がウソの様に消える、いつの間にか戻ってきた運転手達が車を再度進め始める。
車のガラス越しに見える風景に人は居ない、住宅もよく見れば人の気配が無いと解る。カカラの親玉が『楽園』に居るのを考えるに、恐らく殺されてしまったのだろう。
無論100%そうと決まった訳ではない───だが、住民の生存に希望を持つのは難しい。外と隔絶された環境、人や情報の出入りが極めて少ないこの場所でわざわざ大人しくするメリットはほぼ無いのだから。
静かな怒りを込め、拳銃の撃鉄をそっと起こす。吐き出した熱い息がマスクの中に滞留する。戦いの時はすぐそこに。
.liveの全体ライブクッソ楽しみ
細々とした裏設定
『クレセントバニー』
名前の元ネタ:月ノ美兎
見た目の元ネタ:センチュリー(白)
VIP用のクッソ高級な車。後部座席にマッサージ機能とか付いてる。
怪物の被害から運よく生き残ったト〇タ幹部が頑張ってセンチュリーを再現したモノ。
ビープ・B・ビート
元ネタ:ビープ音+ビートボックス
日本人とアメリカ系黒人のハーフ。『一人楽団』の異名を持つ一流のミュージシャン。
体の一部を機械化しており、一人で様々な楽器を同時演奏可能。
音楽の腕もさることながらパフォーマンスも一流。
>>358
ずっと書きたかった所に突入出来るので、書いててかなり楽しいです
ライブマジで楽しみ、統一衣装とかワンチャン無いか期待してしまう
>>356
数十分後。
『…………』
「……おっと」
突如車が二台とも停止する、それも道のど真ん中で。生気のない住宅街の、痛いほどの静寂が辺りに満ちる。本当に静かだ、呼吸音すら響く程に。
風が吹く。辺りの庭に植えられた茂みやら低木やらがザワザワ揺れる。窓やシャッターがガタガタ震える。植物と人工物の合唱、そこに動物の音は無い。
「───アァ」
運転手が静寂を破る、後ろを振り向く。後部座席から初めて見えるその顔は確かにヒトの顔だ───しかし生気が無い。
何と言えば良いのだろうか───強いて言うならまるで良く出来た人形の様な、作り物の様な──そう作り物、紛い物の顔だ。
「─────コロス」
運転手だった怪物共の被っていた人間のガワが剝がれ落ちる。ガワの下より現われしは骸の仮面、ノッペリ黒い影の体。シャドウサーヴァント、例の影だ。
流れるような動作でナイフを取り出し、今まさに襲い掛からんと───
「やっぱそうっすよね」
「そりゃあそうでしょ。それと馬、狙うなら心臓狙わないと。一昨日教えられたでしょ?」
した影を押しとどめる二人の銃弾。ばあちゃるの拳銃弾は影の頭部に、シロの小銃弾は座席を貫通し影の心臓部に、二筋の連射がそれぞれ叩き込まれている。立ち込める硝煙と鉄の匂い、二挺の銃がけたたましく吠える。躊躇も困惑も無し、『運転手に変装した怪物』なんてありがちな策謀はとうに想定済みだ。
「グ……グゥッ!?」
「謀るな! 怪物風情が!!」
一拍遅れて獲物を呼び出したスズの追撃。魔力放出にて加速したバットによる強烈な一撃。圧倒的な一撃は影の肉体を車のフロントガラスごと豪快に吹っ飛ばす。
>>360
「グ、ウゥ…………」
影が倒れ伏す。死んではいないが、動けもしないだろう。怪物にかける情けなぞないが、無理に殺す必要もあるまい。
シロが横の車を見れば…………あちらも似たような感じだ。ピノの槍で心臓を一突きにされている、ああも鮮やかに貫かれては痛みを感じる間も無かったろう。エミリーとセバスは外の警戒、双葉はピノの背後を守っている。
ひと先ず襲撃を凌ぎ、一息『後方から高速の飛来物! 高魔力反応!! 牛巻の探査をかいくぐる高度な隠蔽! 相当な手練れによる物と思われる!』───つこうとした瞬間に牛巻からの報告。
シロの背後に迫りくる飛来物、ソレは捻じれた剣、蒼き光を纏い彗星の如く飛来する剣。なぜ剣なのか、どの様な性質の剣なのか、不明な事だらけ。だが一つ確かな事がある、アレはヤバイ。宝具に準する魔力をアレから感じる。
運転手に化けた怪物、工作された跡の有る飲み物。どちらもブラフだったのだろう、車内に意識を向けさせる為の。そうまでして差し込んだ一撃、しかもその上でシロ一人を狙い撃ちにしてきたのだ。致命的な一撃に決まっている。
「不味ッ!」
『緊急防護術式起動……強度不足ですぅ! 分散型ダメージ転移呪術………推測生存率10%………!』
油断した一瞬を完璧に狙い撃ちする一刺し。牛巻の警告が有った上でなお体が反応しない。そもそも車内だから逃げ場がない。オペレーターのあずきが手を尽くしているが焼け石に水と言った感じだ。
「お守りします!」
だが味方もさる者。いち早く飛来物に気付いたセバスとエミリーが『ボンッ!』
「グッ!? ……クソッ!」
>>361
突如起こる爆発。車内にあった飲み物が爆発したのだ。爆弾を仕掛けられていたのだろう、それ自体は想定の範囲内。威力も大したことは無く、精々ガラスの破片が幾らか刺さる程度。だがタイミングが悪すぎた。爆発によるホンの僅かな動揺が致命的な遅れを招く。
嫌になる程完璧なプラン。エミリーなどは柄にもない悪態を付いてしまう。
「───」
爆風で軌道がズレるのを嫌ってか、シロ達の車にある爆弾は起爆されていない。だがなんのプラス要素にもならない。
研ぎ澄まされた致命的な一刺しが「やらせねえっすよ!」
ソレを防ぐ者がまだいた、ばあちゃるだ。シロの体を咄嗟に押し退け、全身に硬化魔術を発動させて剣を受け止める。
「馬…………ねえ馬!」
「大丈夫」
シロは切実な声でばあちゃるに呼びかける。それに対してばあちゃるは、きっぱりと、清々しい声で『大丈夫』とただ答えた。
案の定、受け止めた腕に剣が突き刺さり、貫通を始める。ばあちゃるの全身に激痛が走る。だが声は上げない、逆に笑顔なんかを浮かべて見せる。隣にいる女の子(シロ)を安心させる為に。
ばあちゃるは多少魔術の才能に恵まれただけの一般人、ただ硬化魔術を発動させただけで受けきれる筈もない。相手が悪すぎるのだ。
理性的に考えればこんな事すべきでない。だが体が勝手に動いてしまったのだからしょうがない。
───それに、己の強みと言えばこの中途半端な硬さくらいしかない。今シロを庇うのが一番効率的に己を活かせるだろう。そんな、後付けの自嘲的な考えでばあちゃるは激痛を誤魔化す。
>>362
「お、うおおおオオオ!!」
だがしかし、剣の威力が予想以上に高い、己の腕を犠牲にすれば流石に止まるだろうと高を括っていたのだが、一切止まる気配が無い。
腕を貫通してそのまま臓器に突入しそうな感じだ。掘削機の如く回転してばあちゃるの肉体を削り進まんとしている。文字通り傷口をかき回されるような痛みだ。集中を乱され、ただでさえ未熟な硬化魔術がどうしようもなくほつれて行く。
「グゥ…………ゥアアア!!」
遂に腕が貫通される。剣が細いため腕の傷自体は大した事無い。だが胴体まで貫通されては、流石にそうも言っていられなくなる。死ぬ覚悟もしておくべきか、いずれにせよ重傷は不可避。
覚悟は決めているが、それでも痛い物は痛いし、死が怖いのは変わらない。どうしようもなく苦痛を浮かべる。
「………へ?」
───だがここで想定外の幸運が起きた。剣の軌道が不自然に逸れて、ばあちゃるの懐に入れておいた蹄鉄に弾かれた。誰のものともつかぬ間の抜けた声が小さく響く。
魔道具屋で購入した蹄鉄の効能『持ち主に幸運を与える』が発動したのだ。
「何故か無事っすよオイラ…………ハハッ」
膝から力が抜ける、変な笑いと脂汗が出る。腕がジクジクと痛む。
「馬…………ありがと」
「どういたしまして」
青い瞳に浮かべた涙を隠し、シロは端的に礼を言う。馬に肩を貸して車内を出る。言いたいことは沢山あるが、それは後で言えば良い。今はするべきことをするだけだ。
愛用の小銃を握りしめて心を切り替え、目の前の問題に対処を始める。
>>363
「すずちゃん宝具お願い、アレで移動する。ピノちゃん、双葉ちゃんの二人は周囲の警戒。
セバスさんとエミリーちゃんは、宝具発動まですずちゃんの護衛をお願い。あずきちゃんは馬の治療。治るまでシロが護衛しとく。牛巻は周囲状況の探査継続ね」
取り敢えず周囲に指示を出す、いつもより低めの声で。周囲を満遍なく見渡す。今の己はリーダー、戦意も勇気も不要、必要なのは冷静さのみ。
不意を突かれた時は醜態を晒した、ここからは名誉挽回といかせて貰おう。
「壮大なる鉄、堅牢なる巨人、雲上より降りて、牛飼いの蔦を伝い、来たれわが友、『人機の絆(タイタンフォール)』」
『召喚要請を受理、出撃します』
スズによる宝具発動。巨大な二足歩行ロボットが空より堕ちる。轟音を立て道路のアスファルトを叩き割り、盛大に舞い上がる粉塵。壮大堅牢なる鉄巨人のお出まし。
青く光るモノアイ、腕部に取り付けられたガトリング砲、近未来的なカッコ良さと機能美が同居した姿。これこそ宝具、ブイデア随一の汎用性を誇るスズの宝具だ。
「…………この剣は、やはりそう言う事なんでしょうかね」
「あの鋭さ、ニセモノって線も無いでしょう」
スズを狙って剣が飛んで来るがセバスの手によって逸らされる。不意さえ突かれなければこんな物だろう。
エミリーと共に意味深なセリフを吐いてるのが少々気になる。
『外なる者よ、祖となる物よ、骨肉へ変じさせ給う、かの者の欠落を埋めさせ賜う』
「…………」
>>364
あずきの魔術治癒。詠唱と共に半固形物質が湧き出し、瞼をプカプカと優しい方に開閉させ、規則的な胎児と共に反老人的骨肉が穴住まい、腰回りのキツイコートが結んだ肉屋とビーバーの友情を以ってクラゲの大鍋が…………ダメだ、マトモに認識出来ない。
気にはなるが怖くて聞けた試しがない。そんな感想をシロ抱く。
そんな事より、と気を取り直して次の指示を考える。
今まで来た道にカカラらしき存在は無かった、ならば進むべきは前方。しかし後方に居るであろう狙撃手も無視できない。
『周囲にカカラの「根」らしき反応が地下より多数出現! 「根」より通常カカラ生産開始!! シャドウサーヴァントの反応多数接近! 30秒後に会敵するよ!!』
動き出す戦況、考えてる時間は無い。今大事なのはスピード、正確性じゃ無い。決断の早さは時間的猶予を産み、時間的猶予は選択肢の幅を広げるのだから。
「すずちゃん、大雑把でいいから剣の飛んできた方向にミサイルお願い。発数は任せる。
皆はすずちゃんの宝具にしがみついて、移動するよ。噴気孔付近は避けるように」
一先ずの指示はこれで────「お待ち下さい」
セバスが割り込む様に発言をしてきた。
「どうか───どうか、私とエミリーめに殿を命じて頂きたく」
突拍子も無い発言。そもそもこんなタイミングでする話では無い。それはセバスも自覚しているのだろう、相当に申し訳なさそうな顔をしている。
…………だが理にかなった提案ではある、宝具に乗る人数が減ればその分機動力は上がるし、例の狙撃手の抑えになるやもしれぬ。
無論、殿を務めさせれば二人に大きな負担をかけることにもなる、最悪死ぬ。リターンは高いがリスクも高い。
>>365
提案を受けるか受けないか、難しい決断───
「解った、お願い。シロ達の為に命賭けて来て」
だが迷いはしない。何がベストかなぞ解らない、しかし迷う時間は無い。きっぱりと即座に決断を下す。
シロの返答を聞いた二人はうやうやしく首を垂れ、楽しげに息を吐く。
セバスは腕より展開した仕込み刃をツウと撫で、噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「ワガママを聞いて下さりありがとうございます。まさか『エミヤさん』に再会出来る日が来ようとは…………本当に信じられない」
「敵としてですけどね。わたくしも血が滾りますわ、頭の血管ブチ切れそうな位に」
エミリーも似たような感じだ。両の手を強く握りしめ、その内に激しい喜びと戦意を凝集している。
待ちきれないモノを待つ興奮。あのもどかしくも愉快な感覚。誰もが一度は経験する喜び。ソレを今、あの二人は滾らせている。
きっと何か喜ぶ理由があるのだろう。わざわざ殿を務めてまでしたいことがあるのだろう。それが何なのかは解らない、解らなくて良い。
人には人の物語が有り、そこに必要もなく踏み込むは無粋。それが長く生きた人の物語ならなおさらだ。
「お願いすずちゃん」
「ええ! 機関始動、全速前進!!」
『エネルギー上昇開始、5秒後に最高速度へ到達予定』
二人を尻目にシロ達は前へと進む、スズの宝具に乗って。猛然とただ一直線に。
>>366
「───さて、仕事をこなすといたしましょうか」
遠くに消えゆくシロ達を見送ったセバス。機械の指をキシキシ鳴らす。
周囲から近付く無数の影にノスタルジーな感傷すら覚える。
「おっと」
影の手から放たれる、弾丸の如き速度のナイフを紙一重で避け続ける。
「懐かしいですわ影共め。今なお薄れぬ怒りと恐怖、恨み辛みってのはどうにも消えぬものですわね」
数十年前は飽きるほど殺した化け物共。もう戦う事は無いと思っていたが、人生解らない物だ。
セバスの前以外では決して見せぬ般若の面を浮かべ、エミリーは真っ先に近づいて来た影の心臓をブチ抜く。愛用のパイルバンカー、ついさっき装着したパイルバンカーで心臓をブチ抜いたのだ。
ああ爽快だ。地獄に叩き込んでやるぞ影共。お前らが生きていたら、殺された家族が穏やかに眠れないじゃないか。
「…………そうだな、消えぬよな」
一足先に敵へ突貫するエミリーを悲しげに見つめるセバス。
影を目前にしてセバスも怒りを感じる。エミヤさんにこれから会える喜びもあるが、それと同時に怒りも感じる。そしてその事実に悲しみすらをも感じる、恨みを忘れられぬ己に対して。
心の傷が治れども、傷を付けられた事実は変えられないのだ。結局のところ。
「殺してやる、セバス」
「私の名前を呼ぶな怪物」
「───カッ!?」
こちらに襲い掛かって来た影。長い腕、髑髏の仮面。昔と何も変わらない。すれ違いざまに首を斬り落とす。
>>367
…………さて、進撃を始めよう。眼前の敵を滅ぼし、十重二十重の陣を切り潰し、この先にいるエミヤさんに会いに行こう。かつて『無尽の英雄』として影に立ち向かったエミヤさんに会いに行こう。
死んだはずのエミヤさんが何故生き返ったのか、なぜ敵対してくるのか、何も解らない。解る事は『この先にエミヤさんが居る』ただそれだけ。
あの時、シロを狙った剣は間違いなくあの人の手によるモノだった。それは間違いない、共に戦ってきたから本物だと解る。
歓喜と怒り、二つの感情と共に戦い始める。
今回ちょっと短めです
ルルンちゃんの犬っぽい口が結構好き
それはそうと、第二特異点の方で出そうと思ってたネクロマンサーのVtuberの方が色々あって出しづらくなっちゃったので
代案のアンケートを取ろうと思います。
1.他の有名なVを代わりに使う(ネクロマンサー設定の人で)
2.作者がオリキャラを生やす
3.キャラ募集
今回は募集キャラがあった場合に限り、基本そちらを採用させて頂きます
おっつおっつ、馬ぁ!格好いいじゃねぇか!アンケだけど個人的にはバーチャルな訳だし1か3かな、バーチャルもキャラも詳しくないから他人任せだけどな!
>>370
カッコイイムーブを自然と出させられるので、馬は書いててかなり楽しいですねぇ
取り敢えず、ネクロマンサー設定のVを色々調べておきます!
>>368
時は少し巻き戻り、シロ達視点。
ゴウと吹く排気口、理知的に光るモノアイ、高速で移動するスズの宝具だ。ソレに皆が掴まっている。
体の側を通り抜ける風が酷く冷たい。人気の無い街並みが余計にそう感じさせる。
影やカカラの姿は何処にも見えない、セバスとエミリーが後ろで押しとどめているのだろう。
『前方500m先に魔力反応、高密度の神秘を観測。魔力の反応より英霊と断定、敵主力と推察されるよ』
「……」
無言の内に皆が身構える。ソゥと目を細める、瞬きをせぬように。聴覚を研ぎ澄ませる、どんな兆候も聞き逃さぬように。
『敵英霊行動を開始! 魔力の急激な上昇を確認! 何か来る!!』
牛巻からの警告。警告が来て間もなく、前方遠くに立ち昇る黒色の光柱。遠近感覚が狂う程大きな光柱。
それは禍々しく、神々しく、そして何より『死』を感じる。アレに触れたら死ぬ、問答無用で死ぬ、灰も残さず死ぬ。そんな事を確信させて来るのだ。
「………なんなんすかアレ」
「横に方向転換してすずちゃん! 今すぐ!」
余りのスケールに思わず惚けるばあちゃる。叫ぶように指示を下すシロ。
そうしている間に光柱が動き始めた、こちらに向かって倒れ始めた。遠目にはゆっくりと、近くから見れば凄まじい速度で。悍ましい程のスケールが産みだす錯覚、現実味に欠ける光景。
>>372
「ハ、ハイ!」
突如現れた巨大な力に一瞬我を失ったスズ。だがシロの声で我に返り、宝具の進路を横に動かす。脇にある路地裏に機体をねじ込む。苔むしたブロック塀や民家の壁を削り爆走する。
飛び散った破片がシロ達の身を打つが、そんな事気にしてはいられない。既に頭上近くへ死の光柱が迫っているのだから。
「全速全速、前進前進!! ヤバいヤバいよ本当にヤバい!!」
『了解、最高速度へ上昇を開始します。急激なGの増加にご注意ください』
乗る人の安全を無視した全速力。無茶な加速で機体が不穏に揺れる。死から全力で逃げる、生きるために。
『ブースター出力低下。原因、放熱機構の不調』
「ちょ、BT君! 今それなるの!?」
『故障遠因、メンテナンス不足』
「そっか! ごめんねBT君…………って、うわああ!!」
ついに光柱が大地へと触れる。
鼓膜を焦がす重低音、破壊の音。黒い極光は触れたモノ全てを焼き潰し───だがシロ達には当たらなかった。
「───当たってたらマジでヤバかったすね」
凄まじい熱量の余波が吹き付け、ばあちゃるの全身が汗ばむ。その汗はきっと熱さによるものだけではない。
後ろを振り返り身を竦ませるばあちゃる。そんな彼にシロはハンカチを渡し、話しかける。
>>373
「とっさにシロを庇う度胸があるのに、こう言う時は普通の反応するんだねぇ」
「いやまあ、アレは度胸じゃどうにもならないっす。殺虫剤を前にした羽虫のような気分でしたよハイ」
「アハハ、例えの生活感凄いねぇ」
顔の汗をぬぐいながら話す内、彼の緊張がほぐれて行く。シロはそれを確認して薄く笑みを浮かべる。
過度な緊張はパフォーマンスの低下を招く。油断は禁物だが、張り詰めてばかりでは身が持たない。
「──────」
蒼い瞳で周囲を見渡し、顎に手を当て、シロは状況の整理を始める。
まずあの光柱について。
威力は凄まじいが発動に時間がかかるようだ。牛巻曰く相手は英霊、宝具による攻撃とみて間違いない。
次にカカラの大元が存在する場所について。
あの凄まじい一撃を放てる英霊、恐らく伝説由来。
カカラの大元が『楔』を所持しており、ソレの力を用いて怪物の生産を行っている、と言うのがピノの考察。
そこから考えるに敵方の英霊への魔力供給も『楔』で行っているのだろう。
魔力供給はマスターと英霊の距離が離れるほど難しくなる。あれ程の宝具だ、必要な魔力も尋常ではあるまい。カカラの大元は英霊の近くにいる可能性が高いだろう。
…………ただ、どうやって英霊を従えたのか不明だし、牛巻の探査に未だ引っかからないのも気になる。油断はできない。
>>374
思考を続けるシロの耳に、ふと会話が入ってくる。
「すずお姉ちゃん、宝具は大丈夫ですか?」
「ん〜、ちょっとヤバいかも。次同じの来たら…………気合で避けるしかないですね。ハハハ」
「もう、笑ってる場合ですかそれ」
「のんきだなぁすずちゃんは」
呆気からんと笑うスズ。呆れ顔のピノに双葉。緊張も油断も見受けられない。
───宝具は不調だが、三人はさほど動揺していない。心さえ折れなければ大抵の窮地はどうになる、良い兆候だ。
「牛巻ちゃん、カカラの大元、若しくは『楔』らしき反応はある?」
『…………ないね。ここまで来て反応が無いとなると、自身に高度な隠蔽を施しているか、もしくは地中深くに潜んでるかのどっちかだと思うよ。
ただ牛巻の見解を述べさせてもらうとね、後者の可能性は低いと思うんだ。地中と言う物理的に手出しされにくい安全圏にいて、こうまで躍起になって妨害する理由はないから』
「なるほどねぇ。近づかれたら困るから妨害を繰り返していると。ありがとう、参考になったよ牛巻ちゃん」
こっちから手出しできる場所にカカラの大元が存在する可能性が高い。スズの宝具は不調、次避けるのは厳しい。士気はいまだ軒昂───打つべき手は決まった。
「──────」
>>375
拳を胸に当て、シロは祈る。瞼を閉じ、思いつく限りの神を脳裏に浮かべる。そして短く、敬虔に、何度も祈る。上手く行きますようにと。
過去を回想する。生活と復興の温かみに満ちたニーコタウン、発展しつつも何処か人間味に満ちたグーグルシティ───そして故郷。どこも命を賭して守るべき場所だ。
祈りと回想を終え瞼を開く。カラカラになった唇を濡らし、小さく息を吸う。
「───すずちゃん。今出せる限りの速度でさっき光が出た場所、敵英霊へ向かって」
幼げな顔を薄く薄く歪めて指示を出す。
敵英霊への突貫、これは賭けだ。敵英霊が対処出来ない程強ければ終わり。正直分が悪い。
だがそれ以外に打てる手がない。カカラの大元が敵英霊近くにいる可能性が高い以上、接近しなければ始まらない。今は高いリスクを背負ってでもリターンを取りに行くべき場面だ。
「……」
僅かな沈黙、シロは上目遣い気味にスズの反応を伺う。
きっと、知恵の回る者ならもっと素晴らしい作戦を立てられるのだろう。だがシロにはこれが精いっぱいだ。
仲間の命を背負う覚悟はある。だがソレに相応しい能力まであるかと言うと…………正直自信がない。確かにシロは英霊だ、能力は高く条件さえ満たせば宝具も最強クラス。だがそれは条件を満たせばの話、安定感はない。
英霊という強者達の内での凡人、それがシロの自己評価。
リーダーを任されているけど、ぶっちゃけ他に適した人がいると思ってる。自分が命を賭ける分には良いが、仲間を巻き込んだ決断をする時は胃が痛む。
シロはそう言う意味でばあちゃるに似ている。心の中に恐れを飼っている所が似ている。
「…………」
>>376
スズの大きな背中はいつもと変わらない。彼女の背中は何も語らない。シロはだんだんと不安に──────『ガコン』、音が鳴る。何事かと思ったシロが周囲を見れば、スズの宝具が方向転換を始めているのが判る。
「もちろんですよ。とっとと近づいてぶっっ飛ばしてやりますよ、私の手で」
不敵に答えるスズ、眼鏡越しに見える若緑色の瞳に宿るは──信頼。
シロさんの命令なら大丈夫、この人になら命を預けられる。そういった信頼だ。
───シロは決して恐れを知らぬ勇者ではない。恐れを知ったうえで決断出来る、賢い勇者だ。だからこそスズも全幅の信頼を置いている。
「行きましょう」
スズは眼鏡をクイと持ち上げ、光の襲ってきた方を見据える。
先程まで静かな街並みだった場所に、破壊の溝が深く横たわっている。
凄まじい熱量によって一部ガラス化したその溝は相当に通り易そうだ…………ここを通るのが良いだろう。
「よっっと…………あ、BT君のパーツ落ちた。まあいいや」
「ちょと、だいじょうぶなの?」
「大丈夫ですよ双葉さん。見た目は機械でも中身は宝具なので、余程ヤバい壊れ方しない限り走りはします」
『推奨、丁寧な走行』
>>377
風をきりシロ達は進む。黒焦げた溝を進む。溝は緩く上へと傾斜を描く、どうやらこの先は丘になっている様だ。家屋は徐々に数を減らし、代わりに木々が増える。
シロ達は進む。遠くに見え始める寺。寺には立派な門があり、その前にポツリと誰かが陣取っている。あれが敵英霊だろう。
進む。点の様に小さかったそれは徐々に大きくなり、人の形を取り始める。
進む。顔が見える、凛とした女性の顔だ。無機質に完成された美しい顔。鎧に包まれた肉体。騎士、あれは女騎士だ。
近付く。騎士が手に持つ剣が見える。どす黒い剣、血管のような赤いラインが走った禍々しい剣。
寺の門前で止まる。目の前の騎士が口を開く。
「私の名前はアルトリア・ペンドラゴン。先程の奇襲は申し訳なかった」
アルトリアはそう言うと、剣を正眼に構える。
「そして重ねてお詫びしよう。私はあなた達を殺さなければならない、悪しき事の為に。申し訳ない」
疲れた覇気のない声、諦めと苦痛に錆びついた声だ。剣を振り上げるそのぎこちない動きは、何かに抗っているかのよう。
だが覇気が無かろうと、ぎこちなかろうと、それでもその華奢な肉体から悍ましい程の威圧感を感じる。
「…………行くぞ」
春休みが終わって大分バタバタしてました、、、、星物語良かった、馬のガチ歌って初めてな気がする
第一特異点はアルトリア&エミヤの原作勢が事実上のラスボスです
遠坂凛さんには第二特異点の方でちょっとだけ重要な立ち位置になる予定です
流石に万全の状態だと勝ち目ないので、操られ&やる気なし&微妙に反抗状態&風王結界なし、のナーフをしました
アルトリアの宝具、エクスカリバーは原作だと『剣を振る→レーザー出る』なのですが、色々な都合で『レーザー出る→剣を振る』に改変しちゃいました、、、、、何の予兆もなくブッパされたらどうあがいても無理ゲーなので
それと、ネクロマンサーの件ですが、fate作品の中でもかなり性格上位に入る獅子GOさんを代役にしようと思います
>>380
見れるのは今日までなので、何度も見て思い出に刻んでおく予定です
fate勢もV勢も互いに格を落とさない決着を考えてあるのでお楽しみください!
>>378
人の手を離れた山寺。古びた寺門は閉じており中は見えない。朽ち果てた石段、参拝道であった頃の名残だろうか。寒々しくも美しい静謐、そんな光景を台無しにする破壊痕、痛々しい巨大な溝。
ソレを作り上げたアルトリアが、剣を振るわんとしている。破壊の為に。
『…………』
「名は聞かぬ。聞く資格が私にないのでな」
アルトリアの魔力が場を満たす。それは赤黒く、それは火のように荒れ狂って、それは──────「長々話して、随分余裕がありますわね」
首を狙った槍がアルトリアに迫る。ピノによるものだ。己の小さい体躯と地形の傾斜を生かし、限界まで身を屈めて接近する事で実現せしめた、真正面からの不意打ち。
「ほぅ」
『………、………』
だが敵もさるもの、鎧の肩で決死の一撃を逸ら「あなたは強い。だけど勝つ!」
スズの豪快なスイングが胴体をぶっ叩く。だが、
「ッ!?」
「事を急いたな。踏み込みが甘い」
アルトリアの鎧が攻撃を弾く。反動でスズの手が痺れる、その凄まじい硬さに。
スズの瞳が驚愕に揺れる。無傷で受け止める硬さ、そして目の前の攻撃を即座に『効かない』と判断するその胆力に。
だが、アルトリアがどれ程強かろうと数の利はシロ達にある。それに突破手段もないわけではない。
>>382
『………』
「カバーお願いします!」
「了解!」
後ろに飛びのいたスズ。間髪入れず差し込まれるピノの連撃。止まることなく舞の如く振るわれる槍、その全てが敵の死に繋がる。優雅苛烈な槍技でもって相手を攻めに転じさせない。
「良い業だ…………!」
対して、堅牢たるアルトリアの剣技、さながら要塞。緩急をつけて縦横無尽に繰り出される槍に最適解を返し続ける。そこに疲労や焦りは一切ない。
ピノの僅かな隙を埋めて来る石礫、スズの投げた礫。当然それも敵を傷つけるに至らない。
(アルトリア・ペンドラゴン。アーサー王伝説の主人公、騎士王でしたっけ。そりゃ強い筈ですよ)
─────スズは思考を回す。
英霊とは過去に名をはせた英雄の写し身、それを使い魔にして使役したものがサーヴァントだ。未来からの英霊である私達など例外はいるものの、それら例外は極小数と言える。
ここで大事なのは、英霊の能力が元になった人物の逸話によって決まる、と言う事だ。そしてそれは弱点にもなり得る。英霊は、己の死因となったモノに対して極めて弱いのだ。
今回敵として立ちはだかって来たアルトリア、彼女はカムランの戦いで生を終えた。その戦いの結末は『裏切者モードレッドと相打ち』と言うもの。
早い話、アルトリアは裏切りに対して弱い。まあ、今は役に立ちそうもない弱点だ。
だが死因だけが弱点になる訳ではない。伝説を紐解けば相手の思考回路、そして有効な騙し方も見えてくるのだから。
アルトリアの性格は騎士そのもの。わざわざ名乗りを上げる程の筋金入りだ。この性格なら、シロさんの作戦もまず決るだろう。
>>383
『………作戦開始』
「了解」
シロから合図が届く。作戦内容は既に伝達されている、密かに。
ブイデア本部と現地を繋ぐ通信機能。アレを応用することでお互いの意志をテレパシーとして伝達出来るのだ。
これはローカル通信の様なもので、少し距離が離れると出来なくなる上、やたらとノイズが入りやすい。
だが相手から会話内容を隠せるのは大きなメリットだ。
「そうらっ!」
「……何だ、その動きは?」
ピノの動きが変わる。今までの槍舞に、足技や柄による殴打が混ざり始めたのだ。アルトリアは眉をひそめて怪訝な困惑を示す。
そこに術理はなく、一分と絶たず討ち取られるだろう─────だがそれで充分。相手を困惑されられれば。
第一段階終了。
「よしっ! 今のうちに門をこじ開ける!!」
アルトリアが困惑したのを見届け、スズは寺門へ走り出す。
「……そうか、気づいていたか」
「ここまで近づけば解りますよそりゃ! 門の先に居るんでしょ? カカラの大元」
───そもそも『カカラの根絶&カカラの大元が所持すると見られる楔の奪取』が目標なのだ、アルトリアの撃破は勝利に必要ない。
シロの考察通り大元はアルトリアの傍に居た。
高度な隠蔽を自身に施し、目の前の山寺に引きこもっている。それを牛巻が先ほど察知した。
大元を潰せばそれで終わり───しかし、それを許す程アルトリアは弱くない。
>>384
「なるほど、良い………グッ!? 怪物め、無駄口すら咎めるか。つくづく余裕がありませんね」
アルトリアは地面を蹴る。大地を割り轟音を立て彼女の体は前方へ飛ぶ。
凄まじい速度、残像すら残さない。これでは、スズが寺門をこじ開ける前に追いついてしまうだろう。
───第二段階終了。
「気持ちいいですねぇ。ここまで決ると。BT君、三人をお願い」
一秒と掛らずスズに肉迫したアルトリア、その背後より鳴り響くは重機械音。
アルトリアが後ろを振り向けば、スズの宝具が誰かを山寺の中に投げ飛ばそうとしてるのが見えた。
(素晴らしい。私に仕掛けてきた二人はオトリ、残りの三人が本命か! ……これなら、これならきっと…………)
振り返りざまの裏拳でスズを弾き飛ばし、全霊の魔力でもって身体能力をブーストし、駆ける。力強く、軽やかに駆ける。薄紅の頬に笑みを浮かべて。
寸毫の後にアルトリアは、投げ飛ばされる直前のシロとばあちゃるに──────「なっ!? 二人しかいない? 残りの1人は─────!」
「事を急きましたね。踏み込みが甘いですよ」
先ほど殴り飛ばしたスズの武器がこちらに飛んできた。
破れかぶれの雑な投擲、とは言え鎧のない所に当たればタダじゃ済まない。飛んで来たソレを剣で弾く。
第三段階完了。
「────ガハッ」
アルトリアの背後より閃く白刃。今の今まで潜伏していた双葉による、首を狙ったナイフの一振り。
飛来物を剣で弾いた一瞬の隙。無数の駆け引きを叩きつけて判断力を飽和させ、作り上げた一瞬の隙。シロ達の作戦は全てこの一瞬の為にあった。
───確かにアルトリアを倒す必要はない、だが放置も出来ない。放置するには余りにも強すぎる。
>>385
「作戦かんりょう」
アルトリアの首より夥しい血が吹き出す。切断にまでは至らなかったが、これ程の出血なら5分と掛らず死に至る。
だが──
「オオオオオァァァ!!!」
アルトリアは止まらない。彼女は英雄、その名高きアーサー王伝説の主人公。首を切られた程度では止まれぬ。
「行くぞ!」
「ちょ、うわあああぁぁぁ!?」
スズの宝具を両断し、シロとばあちゃるを山寺に投げ飛ばし送り込む。
動揺の声を上げ飛んでゆく二人を見送る。
「…………やってくれましたわね」
ピノが忌々しげに呟く。
山寺に突入しようとする動きは全て欺瞞。ハナから、アルトリアの撃破に5人全員を宛てるつもりでいた。
それに気付いたアルトリアは逆にブラフを利用。スズの宝具を壊した上で、シロ達を分断せしめた。
致命傷を受けた彼女はもうじき死ぬ、それは確定事項。そして、そうなれば5人全員がカカラの大元と対峙することになる。ソレを避けるための行動だ。
「………ああ、そうだ。やってやった」
───と、言う風にアルトリアは己を騙した。普通に二人を叩き斬ればソレで済むところを、屁理屈付けて『投げ飛ばす』などと言う非合理的行動をやってのけたのだ。
操られの身たるアルトリアは、常に自身の思う最適解しか取れない。だから自分を騙す必要があった、そしてソレをやってのけた。
>>386
ほんの一時、瞼を閉じて過去を思い返す。
─────あの老醜、『蔵硯』の成れの果てに召喚され、長いこと経つ。
契約で縛られ、門番として長いこと苦役に従事した。
精神はそのままに体を操られる屈辱を受け続けた。
いくら心が拒もうと、体に染み付いた絶人の剣技が侵入者を斬り裂いた。
そうしてまた門番を続けた。
繰り返し繰り返し、終わらぬ苦痛。ソレにやっと反抗をなした。些細な裏切り、きっと誰にも解らぬだろう。だがそれでよい、結果としてアレが死ねばそれでよい。
─────怪物よ、老醜なる怪物よ。お前の元に終りが来たぞ、震えて目せ。
重い体に力を入れ、己を出し抜いた強者達に名乗りを上げる。
「改めて名乗ろう。我が名はアルトリア・ペンドラゴン」
体から血と熱が抜けてゆく。死の気配を感じながら言葉を紡ぐ。
「そしてどうか、卿らの名を教えてはくれまいか」
それは一度アルトリアが拒否した事だ。奇妙な申し出に三人は顔を見合わせ、僅かな逡巡の後に口を開く。
「…………カルロ・ピノ」「北上双葉」「神楽すず」
三人の声は穏やかで、そして厳か──────これは、そうか。死する者への、手向けの声だ。
なんと優しい者達だろう。今すぐにでも仲間を助けに行きたいだろうに、それでも敗者への情けを優先するとは。
だが、それは酷い勘違いだ。決して、冥途の土産に名を聞いたわけでは無い。
「そうか、良い名だ…………我が魂に刻んでおこう」
>>387
手を抜いたまま死ぬ事など出来ぬ。己が理性は『このまま死んで道を開けてやれ』と叫ぶが、そんな事は出来ぬ。我が身に沁みついた騎士の誇りがソレを許さないのだから。
巨人殺し、龍殺し、聖剣の担い手、騎士王、ブリテンの救世主、円卓の主──────数々の勇名、その所以をしばし御覧あれ。
アルトリアは短く息を吐き、己の意志で剣を構えた。肉体と意志が噛みあう感触、久方ぶりのソレに薄く笑みを浮かべる。
「──────ッ!」
ピノ、双葉、スズ、三人の本能が同時に警鐘を鳴らす。
命の刻限は刻一刻と減り行き、膨大であった魔力は今や矮小と化している。だがどうしてだろうか、三人の本能は目の前の半死人を、今までとは比べ物にならぬ強敵として認識している。
「オオアアア!!」
最早言葉は要らない。裂帛の気合いを込めた踏み込みと共に剣を振るう。
「ぬっ、グッ!?」
双葉は両手のナイフで持って応戦するが、完全に押されている。剣速は決して速くない、が何故か対応出来ないのだ。全ての攻撃に対して認識が一拍遅れる。
技の起こり、人はこの瞬間攻撃に意識が集中し、無防備になる。視線、呼吸、重心のブレ、僅かな兆候からその瞬間を読み、狙う。アルトリアはこれを行っていた。
──────北上双葉。チャンスが来るまで一瞬たりとも殺気を漏らさぬその忍耐力、誠に素晴らしい。だが正面戦闘はやや不得手な様だ。
大上段からの唐竹割りを受け止めて体勢が崩れた所に、蹴りを入れる。剣の対処で既に精いっぱいだった双葉はソレをあっさり喰らってしまう。
「シッ!」
割り込む様に突き出されるピノの槍。彼女の動きは鋭く、そして堅実だ。何が有ってもこちらの間合いに入ろうとはせず、槍が得意とする中距離に徹している。
>>388
槍の弱点である遠心力の過大さを動きを止めない事で克服。小柄な体躯と言う弱点に対し、間合いの長い槍を使うことで『的が小さい』と言う長所を強調してのけた。感嘆に値する。
だが──────
「ハァ!」
────筋力が少々足りないのは頂けない。突き出された穂先を叩き落とす。
剣を振るう腕を脱力させ、相手の獲物と接触する瞬間に力を込める。筋肉の収縮によって生まれる、ごく一瞬の加速。その加速を用いて武器を叩き落とす業だ。
力の強い相手には通じないが、そうでなければ良く通る。
「やらせるかぁ!!」
武器を落としたピノを掴んで引き下げ、スズが前に出てくる。
岩すら砕くスズのフルスイング。一撃でも当たれば、今度こそアルトリアを倒せるだろう。
──────彼女も素晴らしい戦士だ。己の強さへの確固たる信頼、それ故全ての攻撃に躊躇いが無い。
「ハガッ!?」
スズの懐に潜り込み、彼女自身の力を用いて投げ飛ばす。放り投げられたスズの体は、石段へと強かに打ち付けられる。
─────躊躇いが無いのは良いが、重心の移動が少々ぎこちない。闘争心が体を追い越してしまっている。これでは簡単に投げ飛ばせてしまう、こうやって。
そのままスズに追撃を入れ「ゴフッ…………」
ようとした瞬間、アルトリアの身体から突如力が抜ける。どす黒い血が口元から溢れだす。
「──────」
4、5歩後ろに下がり、口を抑える。
もう終わりなのか。嗚呼、これではダメだ──────こんな剣ではダメだ。黒く、禍々しい剣。門番を務めた長い年月、その間に多くの罪なき者の血を吸い、堕ちたこの剣では、あの強者達に相応しくない。
嗚呼無念──────「!!」
>>389
突如アルトリアに魔力が供給される。どうやら少しでも長く足止めさせる為、怪物の主様が魔力をくれた様だ──────これは何とも好都合。
戦いへの衝動、騎士の衝動がやおら煌々と燃え上がる。
「ハアアアアア!!!!!」
湧き上がる衝動のままに、己が剣をへし折る。折った剣を全霊の魔力で燃やし、溶かし、整形し、打ち直す。
ソレは己が伝説の再現。折れたカリバーンを打ち直し、聖剣エクスカリバーを作り上げた、伝説の一幕。その再現を今ここで行ったのだ。
「…………これで最後だ」
美しき蒼の柄、研ぎ澄まされた刃、全体にあしらわれた金細工は王権の現れ。これぞ聖剣エクスカリバー。
──────自身の霊基が崩壊を始めた。聖剣をその場で作り出す無茶、それが決め手になったようだ。
己が消えゆく虚脱感の中アルトリアは聖剣を振るい、凛とした声で叫ぶ。
「───束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!─────『エクスカリバー』!!」
聖剣より放たれるはエネルギーの大奔流、星のエーテルそのもの。黄金の光を放つソレは、通過した遍くを破壊しながら三人に迫る。
「受けてやるもんか!」
双葉はスキル『植物操作』でもって宝具の迎撃を試みる。四方八方から生え伸びたツタが奔流を阻み──────すぐさま消し飛んだ。
「うわっ、まじか」
「黒々煌々、千万億万の我が兵よ、我が元に集え、空裂く羽にて軍歌を鳴らせ、節持つ足にて軍靴を刻め『億万蟲軍 大黒津波』」
>>390
続けてピノが宝具を発動する。
何処からともなくハエがアリがシロアリが蟷螂がクモが蜂が蝶が虫が虫が虫が虫が虫が幾万の羽音を刻み重ね、幾億の節足を踏み鳴らして馳せ参ずる。膨大な数の群れ、大地を黒くガサガサと塗りつぶす黒津波。これぞピノが宝具『億万蟲軍 大黒津波』。
──────膨大な数の虫を操る強力な宝具。ピノはこれの使用を好まない。蟲の制御が非常に困難である上、宝具の使用にかなりの代償を必要とするからだ。
だが、この状況で贅沢は言えない。
「行け、わたくしの虫さん達」
膨大な数の虫が黒き濁流となって奔り、黄金の奔流へと身を投じる。奔流を止める為に、ピノの為に。
甲殻が灰へ変じ、六本八本の脚が何本欠けようとその動きは止まらぬ。先頭の虫が死ねば、後続が先頭を踏み越えて先へと進む。
────しかし、徐々にだが、蟲の軍勢が、黄金の奔流に押され始める。相手の出力が高すぎるのだ。
「─────あぁ」
これをどうにか打開できないか、ピノは思考を回し────直後『不可能』と言う結論に至る。手持ちの切り札は吐ききった。避ける余力もない。
嗚呼、ここまで来て相打ちか。口惜しい、悔しいな──────だが、あんなに綺麗な光、黄金色の奔流に飲まれて死ぬなら中々悪くない。
走馬灯が巡る脳内、遅延する体感時間。死を確信したピノは諸手を広げて光を迎え入れ「お願いBT君! 皆を守って!」『了解』
スズの宝具──────大型二足歩行兵器、BTが前に出る。鉄の巨体から火花を散らしながら。
────────────有り得ない。スズの宝具は、アルトリアに両断された筈なのに。動くはずが無いのに。
>>391
「なんで…………」
「魔力供給による修理、宝具が持つ逸話の再現──────色々理屈は付けられますけど、要は気合と友情の賜物ですよ」
スズの言葉を聞いてか、BTのモノアイが頷くように明滅し、その直後光に飲まれる。
『──────』
鉄の巨体は紅く融解し、一部は蒸発した。もう原型は殆ど無い──────だが、守り切った。己が身を崩壊させても守り切った。
『損耗率95%、長期休暇を要請します』
そしてちゃっかり生き残ってもいる。流石機械、コアさえ無事なら他がどうなっても問題は無い様だ。
「…………流石、だ。聖剣の一撃を、凌ぐか」
そして、聖剣を打ち放ったアルトリア。全力を出し切った彼女は消える寸前、いや消える最中だ。
足は既に消滅し、腰から上へと消滅が進行している。後十秒もすれば完全に消えるだろう。
アルトリアは薄れゆく顔に称賛の笑みを浮かべ、擦れた声を張り上げる。
「強き者らよ…………これを、受け取れ。我が聖剣を託そう」
聖剣に付いた血を拭きとり、鞘に納める。崩壊し、拡散し、消えゆく己が魔力を聖剣の中へ注ぎ込む。
>>392
「急造ゆえ、一度振るえば壊れる。賢く使うが良い」
心地の良い風が頬を撫でる。山の木々が豊かに騒めいて、落ち葉が一枚こちらに─────────────────ああ士郎、貴方もそこに居るのですか。私もお供しましょう。
アルトリアが最期に感じたモノ。それはひんやりと優しい若落ち葉の感触、愉快な満足感、そして古い思い人の姿だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まったく……勝った気がしませんわ」
「とちゅうから、物凄くつよかったもんね」
「まあ、聖剣なんか託してくれたぐらいだし、こちらの勝ちって事で良いと思いますよ」
その場でへたり込む三人。シロ達を助けに行きたい気持ちはあるが、流石にもう戦えない。体力も魔力も全部出し切った。
それにピノがまだ、宝具の代償を支払っていない。
「ほら、飲みなさい」
ピノは己に槍を突き刺し、流れ出た血を虫達に与えた。虫は血に群がって我先にと啜り出す。
>>393
───武士が領地を求めるように、騎士が叙勲を求めるように、ピノの虫も献身に見返りを求める。
主従関係とは、主から与えるモノがあって初めて成り立つ関係だ。故にピノは代償の存在に納得している。しかしそれはそれとして、代償が重いのは確かなのでピノは宝具の使用を好まない。
「…………さて、どうしましょうか」
「さすがにもう余力がないかなぁ」
「加勢するにしても、体力と魔力を回復させてから、ですかね」
アルトリアが遺した聖剣を手に持ち、遠い空を眺める。今日の空は薄曇り、あの雲を抜ければきっと、さぞや綺麗な雲海が見える事だろう。
死した人の魂は天へと帰るそうだが、英霊の魂に帰る場所はあるのだろうか──────そんな事を考えている内に瞼は閉じ、深い眠りへと誘われていった。
シロちゃんのメン限良かった、、、、
英雄が死の間際に自分を取り戻す系展開が好き
首切られてからの動きは、宝具周り以外は現実でもある程度再現可能だけど、ある程度の技巧が無いと出来ない動きだったりします
ちなみに、アルトリアが意識そのままなのはカカラ側にあんま余力が無いせいだったり
おっつおっつ、熱い戦いでしたな!(ピノ様の宝具とオベロンの宝具同時にしたらヤバいだろうなとか考えてたのは内緒)最近までやってたイベの水怪クライシスのダゴンの間違った信仰により姿が変えられたって話でVにも通ずるものを感じてた。ようは偏見よね。
>>396
そうですねぇ、、、、、『無辜の怪物』を始め、偏見由来のスキルは碌なもんじゃありませんし
この先、ちょこっと変わり種のストーリーテリングを予定しているので、お楽しみ頂けたら幸いです。
>>394
[急募]蟷螂と蜜蜂の排除方法を考えるスレ
1:スレ主
助けて、目を付けられた
2:名無しさん
>>1
諦めろ
4:名無しさん
無慈悲で草
5:名無しさん
でも実際そう
あいつら割と脳筋だからハメるのは簡単だけど、何やっても生き延びてお礼参りに来るんだもの
燃料満載したトラックで激突されても死なないって最早ギャグだろ
6:スレ主
そんなこと言わずに助けて下され、、、、、
既に幹部が何人も音信不通になってて士気ガタガタなんじゃ
7:名無しさん
草
8:名無しさん
もう終わりだよその組織
9:名無しさん
>>1
そもそもスレ主はどういう役職なん?
それ次第で出来ること大分変わると思うが
10:スレ主
>>8
麻薬事業の部門長
11:名無しさん
普通に上級幹部で麻生える
12:名無しさん
あほくさ
13:名無しさん
最近壊滅気味の組織、、、、『blue-faced』辺りか?
裏ビデオと個人情報売買が主なシノギで、元はハッカー集団だったとこ。
15:スレ主
そうそこ! まあ最近は落ち目なんですけどねww
頭キレる幹部は早々にどっか行っちゃったよ
ちなワイが部門長なのも、上級幹部が消えて繰り上がったからやで
元は麻薬事業の警備責任者や
16:名無しさん
クォレは麻薬部門にまるまる夜逃げされましたね、、、、
スレ主は体の良いスケープゴートかな
>>398
17:名無しさん
もう終わりだよ(二度目)
それはそうと(唐突)スレ主のスペック開示よろ
18:スレ主
>>16
イグザクトリー、正直泣きそう
>>17
ええで、ほい
性別:男
年齢:24
改造済み部位:眼球(弾道補正モジュール)、脚部(強化義足、電磁式)、腕部(仕込みレールガン)
脳(体感時間加速装置)、皮膚(アラミド繊維による防刃強化)
愛用武器:レッドレンズ(装弾数12発、セミオート式ショットガン)
19:名無しさん
元警備担当なだけあってほぼフル改造、殺意が凄E
なお例のジジババ二人には通じん模様
20:名無しさん
残酷な現実を押し付けるのは辞めろ
21:名無しさん
蟷螂(セバス)
性別:男
年齢:60代
改造済み部位:脳を除いた全身、武装は仕込み刃のみだと推察される
愛用武器:上記の仕込み刃
蜜蜂(エミリー)
性別:女
年齢:60代
改造済み部位:(恐らく)無し
愛用武器:パイルバンカー
特記事項:老化による身体能力の低下が見られる
うん(カタログスペックだけ見れば)普通だな!
22:名無しさん
なおry
23:スレ主
取り敢えず、策略or政治的圧力でどうにかする手段が欲しい
24:名無しさん
策略なあ、、、、結局一時しのぎにしかならんのよなぁ
そもそも何で目ぇ付けられたんや? ここ数年は異常に大人しくなっていた筈だが
>>399
25:スレ主
ウチのハッカーチームが先走って『スパークリングチャット』んとこに手出ししたせいや
マジでふざけんな、何が『あそこは大きな計画を企てている、資金の流れがおかしい』だ
26:名無しさん
全力で虎の尾踏みに行ってて笑えない
蟷螂と蜜蜂の飼い主に手だしたらそりゃそうなるよ
27:名無しさん
あそこのオーナーがそもそもヤバい
先代オーナーの急死をきっかけに起こった実権争い
最終的にエルフc4とサンフラワーストリートの一騎打ちになるも結果が付かず
両者の共同所有で話が纏まりかけた所を、横から全部かっさらって行った戦巧者ぞ
28:スレ主
それはそうと(軌道修正)
例のジジババをどうにかする方法は無いんですか?
29:名無しさん
全力で逃げろ
30:名無しさん
前は政治圧力かければどうにかなる事も多かったけど
今は半端に圧力掛けても、スパチャのオーナーが跳ね返しちゃうんよ
31:名無しさん
ぶっちゃけエルフc4みたく腕力と影響力の両輪でゴリ押しするのが最適解まである
出来ない場合? 逃げろ
32:スレ主
OK、夜逃げするわ、、、、ん?
33:名無しさん
どうした?
34:スレ主
なんか外がうるさくせあふじこjp
35:名無しさん
これは手遅れでしたね
殺されはしないだろうし別に良いか
36:名無しさん
大抵は獄中で謎の記憶喪失をする運命なんですけどね(記憶消去技術)
幹部は大事な情報持ってるから特に
37:名無しさん
死ぬよりはマシ
>>400
38:名無しさん
そうか? (社会復帰困難、前科持ち、積み重ねた技能も記憶ごと消し飛ぶ)
44:名無しさん
組織壊滅状態だから案外無事に出所出来そう
47:名無しさん
刑務所によっては賄賂の分割払い受け付けてる所もあるし解らんぞ
月々の分は個人でも払える額だし
48:名無しさん
賄賂の分割払いとかいうパワーワード
刑務所民営化はさすがに駄目だろ(悪人感)
49:名無しさん
つか政府がやってたこと殆ど民営化されてんのよな
裁判所、刑務所、社会保障、、、、もろもろ
政府運営なのって公共警備隊くらいか?
53:名無しさん
あの警備隊も胡散臭いけどな。
賄賂が通らなくなったのはまぁ良いとして、
ここ数年の警備隊員の身辺状況が不明過ぎるのが怪しい。
54:名無しさん
で、でたー 陰謀論唱える奴ー
55:名無しさん
>>53
なにそれ初耳
少し前にデカい不祥事があって、上役が軒並み首切られたのは知ってるけど
56:名無しさん
デマやろどうせ、、、
57:名無しさん
いやさ、その不祥事以降に入隊した奴らの身元がマジで軒並み『不明』なのよ。
元々『楽園』絡みの警備隊員は身元不明だったけど、あそこは特殊な場所だから別に不自然ではない、んだけど
普通の隊員まで身元不明なのはガチで謎。
不祥事の内容も入ってこんし。
58:名無しさん
そもそもなんで警備隊の身元何か調べてんのさ
59:名無しさん
>>58
警備隊にウチの部下が捕えられる→賄賂送っても反応なし→脅しかける為に個人情報掘っても何も見つからない→不審に思って警備隊全員を本格的に調べる
こんな感じ
>>401
60:スレ主
>>57何それ気になる
61:名無しさん
>>60 生きてたんかワレ!
62:名無しさん
やったんか!?
63:名無しさん
!?
68:スレ主
例のジジババじゃなくてただの刺客だった
『お前を組織のボスに仕立てあげてスケープゴートにする』だってさ
ま、余裕で撃退出来たんですけどね。こちとら腕っぷしと運だけで成りあがった身ぞ
心配してくれた人たちはサンクス
71:名無しさん
無事で何より
つうか、その計画は無理あるだろ、、、、馬鹿すぎん?
72:スレ主
有能はとっくに夜逃げしたからしょうがないね
今残ってるのは状況も解らない下っ端と、ワイみたいな踏ん切りの付かない馬鹿だけや
因みにボスもいつの間にか腹心と一緒に蒸発してたらしい。今刺客から聞き出した
マジでいつ消えたか誰も解らんらしいね、やっぱ組織の長務める人は凄いなって(小並感)
73:スレ主
とりま、刺客にそれっぽい記憶植え付けてワイに仕立てあげるわ
記憶操作する器具は刺客が持ってたのでええやろ
後は顔潰しときゃどうにかなる
そんな事より、警備隊の件についてもっと詳しく頼んます
これから夜逃げするんで通信器具は捨てなきゃだし、今のうちに少しでも情勢を知っときたいんや
78:名無しさん
計画パクってて草
>>402
80:名無しさん
サラッと顔潰した上で記憶書き換えてて笑う
幹部になりたきゃそう言う思い切りが必要なんやなって(下っ端並感)
88:>>57
>>1
情報屋だからホントはこう言う事しちゃダメだけど、スレ主の生還記念にぶちまけたる。
調べてみたところ、不祥事以降の警備隊員の大多数は身長とかの身体的特徴が皆同じなんや。
ブーツの厚みとかを変えて誤魔化してるから分かりにくいけど。
それぞれの身長がミリ単位で一致しとるから偶然はあり得ん。
装備越しに見える顔の特徴もほぼ一致しとるから100%クロ。
90:スレ主
うわ、完全にやってるやん
人員をアンドロイド的なナニカに置き換えてんのか
91:名無しさん
やけに情報持ってんなと思ったら本職の人だったのか、、、、納得
95:>>57
>>90
身内でもその説が有力
でもそれらしい工場の稼働記録も無いのよね。人に擬態できるアンドロイドとか、相当大きな工場動かさんと作れん筈なのに。
結局確かな事は解らず終い。
はっきりしてるのは『公共警備隊』に近付くなって事だけ。
それはそうと、スレ主。ワイの元で働かんか?
顔を変える為の裏医者も紹介するで。
100:スレ主
マジで!?
ありがたいわ、、、、でもええんか?
105:>>57
有名所の元警備責任者なら用心棒として大歓迎や。
スペックと近況を聞く感じ本人なのは間違いないし。
メールで住所送っといたからそこで待ち合せな。
107:名無しさん
『スペックと近況を聞く限り』、、、、サラッと個人情報把握してるよ、、、、
1
>>403
109:名無しさん
スレ主の個人情報バレバレで草も生えない
そういや主のいるところ『blue-faced』って個人情報の売買もやってるんだっけか
主の情報も売られてたりして(笑)
111:>>42
組織の別派閥から安価でもらい受けたで。
勿論渡される人数は限定されてたけど。
120:名無しさん
えっ
124:名無しさん
草
126:スレ主
えっ
129:名無しさん
もう終わりだよその組織(n回目)
131:スレ主
ホントにメール来てる、、、、
まあいいや、ありがとうなスレ民達
おまいらのお陰で転職先ゲット出来たは
このスレは三日後に消去されます
レポート課題で忙しいので、今日は閑話休題だけ投稿して、本編は後日投稿します
世界観の補強&伏線の再確認回です、少し変わった形で本編にも絡んでくると思います
裏設定
『Blue-faced』
元ネタ:ミルダムのアイコン(顔のついた蒼いカメラ→顔を付けた蒼い物体→Blue-faced)
個人情報の売買から組織を大きくしたは良いものの、調子に乗って多角経営やって赤字出しまくった残念な組織
一度組織をスリム化してやり直す為に、わざとヤバい所に喧嘩売って組織内部が混乱している内に腹心つれて蒸発した
>>406
一回シャドウサーヴァント達に人間社会ぶっ壊されて、そこから無理くり再建してるので歪みも多いんですよねぇ
メタ的な事言うと、グーグルシティのモデルがサイバーパンク2077のナイトシティだったってのもあります
>>404
時を少々遡り、エミリー&セバス視点。
「ハァ、少し疲れましたな」
セバスは気怠げにため息をつく。周囲にはシャドウサーヴァント、例の影共の死体が転がっている。
8分、それが影の殲滅に掛かった時間だ。一体辺り10秒で片付けたので…………エミリーの分も合わせると凡そ100体は居た計算になる。
──────剣は飛んでこない。無駄打ちはしてくれないか。
必要最低限の労力で敵を刈り取って来たので、肉体的な疲労は少ない。だが精神的な疲労は溜まっている。
命のやり取りはどうしてもストレスが溜まるし、影共を見てると嫌な事を沢山思い出してしまう。
「──────ま、疲れてもいられませんか」
影共の死骸を蹴り飛ばし、遠くに見える人影に瞳を向ける。
遠くを見つめるセバスの瞳、そこには火が宿っている。静かに、穏やかに、確かに燃ゆる熾火が。
「脳ミソ以外機械なんだから疲労もクソもないでしょうに」
「エミリー、機械だって疲労するさ。ほら、金属疲労とかあるだろう?」
「…………それは何度も曲げられた金属に折り目が付いてしまう現象であって、生き物の疲労とは意味が違いますわ」
「そうだったのか……」
返り血を拭い、二人で他愛無い話をしながら古びた道を歩く。その足取りに恐怖は無い。
────────────────────────────────────────────────
何分も歩かない内に大きな武家屋敷へと辿り着く。先ほどの人影がいた場所だ。
瓦の屋根、ふすまで仕切られた縁側、漆喰壁の土蔵。適度に整えられた庭が生活感を醸し出している。
「……」
>>408
──────土蔵の前に人がいる。髪は赤、肌は健康的な日焼け色、両手に持つ黒と白の双剣。薄琥珀の瞳。
アレは、あの姿は、若かりし頃のエミヤさんだ。真っ先に影共の脅威へ立ち上がった人。私たちが剣を取るキッカケとなった人。
エミヤはこちらへ振り返り、ゆっくりと歩を進め出す。
「…………久しぶりだな。20、いや15年ぶりか。まだ一線を引いていないのは少し驚いたぞ」
「ええ、そうです。"竈馬"の葬式以来ですな」
「最近の若者はどうにも軟弱でして。この調子なら寿命が来るまで現役で行けそうですわ」
セバスの胸が感動に打ち震える。色んな言葉がせり上がり、喉元で渋滞を起こす──────間合いに入るまで後五歩。
「最近はどうだ?」
「最近はメイドをしておりますわ」
「メイドか…………メイド?」
「デカい屋敷のメイドになるのが昔からの夢でして」
「……昔世話になった闘技場の後継者騒ぎに巻き込まれて、そこから色々となし崩し的にって感じです」
積もり積もった思い出話、湧き出て止まらぬ近況話。影共と戦って沈殿した泥の様な怒りが捌けてゆく。
自然と口角が上がる。喉元で固まっていた言葉が解れだす─────間合いまで後四歩。
「エミヤさん、貴方はどうなんです?」
「……死んだと思ったら、何故か生き返らせられて、気が付けば怪物の操り人形になったのが現状だな」
「…………」
「そうか、死んだんですねエミヤさん」
「………驚かないんだな」
「えぇ、最近『宝具』とか『スキル』とか魔法みたいな技を使うのが出てきましてね。死者蘇生位じゃ驚けませんよ。というか、貴方も大概だったじゃないですか」
>>409
────後三歩。
鉄の肉体は何の熱も宿さず、しかし心は回春の熱に揺蕩う。この時間がずっと続けば良いのにと思ってしまう。
「20年前に引退してからは殆ど音信不通でしたけど、どうしてたんですの?」
「妻の"桜"と共に宿を営んでいた。妻が体調を崩してそんなに長くは一緒にいれなかったが、それでも『幸せでした』と妻は今際の際に言ってくれたよ」
そう話すエミヤの視線は、背後にある家へと向けられている。辛さ、やるせなさ、嬉しさ、罪悪感、懐かしさ、色んな感情をぐちゃぐちゃに混ぜた視線が。
──後二歩。
「妻が死んでからは暫く寂しかったが、いつの日かに賑やかな居候を拾ってな。仕事も料理も滅茶苦茶だったが、とにかく楽しい奴等だったよ」
「………」
後一歩踏み込めば間合いに入る。丁度そんな距離でエミヤは足を止め、優しく目を細める。
「ミライアカリ、ヨメミ、萌美、エイレーン………そういう名前の女性に出会ったら『ありがとう』と伝えてくれ」
「えぇ、解りました」
「…………必ず、伝えておきますわ」
「………」
沈黙。エミリーとセバス、二人の視線がエミヤと交差する。
暫し続いた交差の後セバスは視線を落とす。ジッと己の腕を見る。
──────家族や友人、大切な人を怪物に奪われて絶望して、そんな中でも戦うエミヤさんにただ憧れた。
そんで死ぬ気で戦い始めて、弱かった俺は何度も死にかけて、戦う度に体は機械になっていって、それでも戦い続けて、気が付いたら英雄なんて呼ばれてた。
正直自分には過ぎた称号だが、それでも周りが”かくあれし”と望むのならそう振る舞おう。その為なら目の前のエミヤすら屠って見せる。
>>410
顔を上げ、セバスは口を開く。
「……エミリー」
「えぇ」
名を呼ばれたエミリー、彼女は短い返事と視線でもって答えを返す。
────エミリーの根源は果てしない"怒り"だ。家族や友人を根こそぎ奪った怪物を絶対に許さない。これ以上怪物に人間を殺させない。
だからエミヤさんであろうと、怪物の味方になったのなら殺す。
過去に体験した事は同じであれど、二人がそこに感じたモノは違う。違うからこそ足りないモノを補い合える。
「──────」
セバスとエミリーは共に武器──腕に仕込んだ刀とパイルバンカー──を構える。
「…………お手合わせ、お願いします」
「ああ、掛かってこい」
間合いに入る。戦いが始まる。流れるように。
「シッ!」
真っ先に攻撃を繰り出したのはセバス。最速最短の軌道で仕込刃を振るう。
だがエミヤとて強者の一人。幅広の双剣を盾の様に用いて刃を──────「ッ!?」
受け止めた瞬間にエミヤの頭部を襲う鉄杭。エミリーのパイルバンカーだ。
「わたくしを忘れないで下さいませ」
エミヤは身を屈めて鉄杭を避け、お返しに足払いを────
「ガハッ……」
しようとした瞬間、セバスの回し蹴りに胴を打たれる。
蹴られた衝撃を後ろに飛んで軽減し、ついでに距離を取「セイッ!」
三歩、大きく踏み込んで距離を詰め、セバスは渾身の一撃を振り下ろす。
>>411
「……!」
身を護るため掲げた双剣は、セバスの鋭く重い斬撃に二本とも両断され、絶死の二撃目が───
「……流石に、そう簡単にはいきませんか」
『新たに投影された双剣』によって往なされた。
────エミヤは魔術師、不思議な力を用いて超常の現象を起こす存在だ。
使用魔術は投影、自身の想像した物を具現化させる魔術。これを用いて様々な剣を『投影』して闘うのがエミヤのバトルスタイル。
エミヤは『剣』の投影を非常に得意としており、剣に限ればほぼ何でも投影出来る(剣以外も投影できなくは無い)。それこそ伝説の中に出てくる武器ですら投影可能。
シロを狙った時、弓矢ではなくわざわざ剣を飛ばしてきたのはこれが理由。弓矢を作るよりも、弓矢の様に飛ばせる剣を作った方が強いのだ。
二撃目を往なされたセバスはすぐさま距離を取り、戦況を仕切り直す。
お互い暫し手を止め、にらみ合い、隙をうかがう。
「まさか、一撃で剣を叩き切られるとはな」
「友の忘れ形見、銘刀『忘時』。岩だって両断出来ますとも」
口を動かしながらも、敵から絶対に目を逸らさない。既に攻防は始まっているが故に。
視線から次の動きを予測し、視線でフェイントを掛ける。ゆっくりと、滑るように動き有利なポジションを奪い合う。
達人同士だからこそ成立する静かな攻防。
靴が大地を擦る音、微かな息遣いの音、刃が空にふれる音。あらゆる音が無に収束し、痛いほどの静寂が耳を鳴らす。
「……!」
光の柱が遠くの空に立ち昇る。アルトリアの宝具によるものだが、二人はそんなこと知る由もない。
エミリーは驚きに目を開『ガキィン!』
>>412
僅かな隙に攻撃を差し込んだエミヤ。エミリーはパイルバンカー本体で斬撃を受け止めるが体勢を崩してしまう。
「──────!」
「───ハァッ」
エミヤはよろめいた彼女に追撃を掛け───避けられた。
わざと体勢を崩された勢いのまま倒れ込み、倒れきる直前で地面に対して斜めに鉄杭を放ち、そして反動で後ろに吹っ飛び、エミリーは攻撃を避け──────
「ウオオォォ!!」
エミヤがすぐさまエミリーを追撃しに行き──────
「やらせん!」
後ろから襲い掛かろうとしたセバスに、投影した剣が投げつけられ────
「ガァッ!!」
獣じみた怒声を上げ、セバスが剣を機械の体で受け止めながら奔り───
「────ッ!?」
体勢を立て直したエミリーが渾身の鉄杭を放ち──
「甘い!」
エミヤが盾を投影して攻撃を受け止め、
「…………むぐッ!?」
受け止められて動きが一瞬止まったエミリーを投げ、背後から迫るセバスにぶつけた。
エミリーとセバスは互いに衝突し、その隙にエミヤは距離を取る。
「ハァッ、ハァッ…………」
──────息が上がる。汗が流れる。今の攻防でかなり気力と体力を消耗した。
ごく当たり前の話ではあるが、戦闘において数の差は大きな要素になる。
今の攻防でどちらか一人落としておきたかったが……想定通りにいかなかった。
こうなってはもう、これ以上消耗する前に短期決戦を仕掛けるべきだろう。
そうエミヤは思考を回す。
>>413
息を整えて額の汗を拭き、エミヤは双剣を構える。
魔力を、己の体内を巡り流れる魔力を隆起し、放出し、整形し────心の中の風景、心象風景を描く。現実と言うキャンパスの上に。
「二人とも、強くなったな」
エミヤは複雑な笑みを浮かべる。
怪物に操られし我が身。怪物の意志に抗おうにも、抗うだけの格を持ち合わせていない。それはそれは情けない事だ。嘆くべき事だ。
──────しかし、後輩達と戦える事に喜びをも感じてしまっている。
自分が現役だった頃より明らかに強い二人。鍛え上げられた業が二人の成長を雄弁に語ってくれる。それがどうしようもなく嬉しいのだ。
「……!! アレはやらせな、ゲフッ……」
「『mode shift OVERLOAD』……内燃機関不調、作動開始まで後10秒だと? クソッ、剣を受けた時に壊れたか」
エミヤが醸し出す異様な気配。魔術に縁亡き者でも解る、濃密な魔力の気配。
──異常を察知したエミリーが動くも、パイルバンカーの反動が体を蝕みその動きを止めた。
大きな力にはそれ相応の代償が伴う、それは当然のことだとエミリーも自覚している。だが余りにも間が悪い。
セバスは歯噛みする。己の武器は仕込み刃唯一つ。唯一つしか武器を持たぬ故に機動力は高いが、奥の手である『mode shift OVERLOAD』無しだと決定力にかける。
かくして、エミヤの切り札は誰にも邪魔されること無く発動を始める。
「──体は剣で出来ている
血潮は鉄で 心は硝子
幾度の戦場を越えて不敗
唯の一度の敗走もなく
唯の一度の勝利もなし
咎人はここに一人。
剣を集いて丘と為し、友と宴て夢を語る
故に、生涯は果てども意味は継がれ
この体は、無限の剣で出来ていた」
>>414
朗々と響き渡る詠唱、一小節謡われるごとに世界は軋みを上げる。それはエミヤ自身の生涯を詠ったモノであり、心象風景を呼び出す呼び水でもある。
唯の武家屋敷であったこの場所が、夕陽に煙る荒野へと変化してゆく。現実など胡蝶の夢だと言わんばかりに、我こそがその胡蝶だと謳わんばかりに。ただ刻々と。
(発動の妨害は無理ですわね。迎え撃つ準備に移行するといたしましょうか)
「ヤクを打ちますか。副作用の事は後で考えましょう」
「……7,6,5,4……」
世界が変わりゆく中、セバスとエミリーは先程までとは打って変わって冷静に準備を整えだす。
エミヤが何をやろうとしているのかは知っている。共に戦い、アレを使うところを何度も見てきたが故に。
アレのヤバさは知っているし、だからこそ急いで止めようとした。だがこうなってはもう止め様がない、備えるしかない。
「アガッ、グウウウゥッ!」
エミリーは自身に薬剤を打ち込む。一切の躊躇なく。
『TAME-Jet』、シャドウサーヴァントに対抗するために開発された薬液。血管に投与することで鎮痛に興奮、思考速度の加速など様々な効能を齎してくれる。
ただし副作用として睡眠障害、五感の一時喪失、体感時間の乱れなどの症状を伴う。また、これらの副作用は下手すれば命にかかわるので使用者は少ない。
普通なら使用など考えもしないが、エミリーは違う。己の力が足りず怪物やその仲間を殺せないのは死ぬより辛い。それ故に必要があれば躊躇なく使う。
───心臓が調子外れな8ビートを刻む。悪酔いに似た不快感が臓腑を捩じる。トビそうになる理性を舌噛む痛みで引き留め、閉塞する気管に喘息めいた呼吸で酸素を送り込む。
「3,2,1……Engine ignition」
>>415
セバスは己の体に内蔵されたエンジンに火を入れる。高圧電流が体内を駆け巡り機械関節に力を満たす。迅速に、強引に、強烈に。
『血は雷へ、肉は鉄へ、変わらぬモノは心のみ』羞恥と闘志を込めセバスは呟く。
若い頃、エミヤの切り札に憧れて考えた詠唱。エミリーからのウケは良かったし、若い頃は良く口にしていた。だがこの年になると流石に少し恥ずかしい。
何の意味もない詠唱、若気の至りの産物。しかしそれでも、いざという時にはつい呟いてしまう。
密かな照れと胴体から伝わる熱に頬を薄く赤める。
この熱がたまり続けばセバスの脳は蒸し焼きとなる、タイムリミットは3分と言った所か。まあ、得られる力に比べれば安い対価だ。
「──────」
二人が準備を整え終わるのとほぼ同時に、世界の変革も終わる。
──────剣の群れが突き立つ赤の荒野。剣の一つ一つに使い込まれた跡、微かな傷や研ぎ直した跡が無数に刻み込まれている。
不毛たる荒野に反して、空は清々しく何処までも蒼い。軽く高らかに鳴り響く槌の音、槌の音が鳴る度に剣は増える。
此処はエミヤの世界。無限の剣を内包する世界。
エミヤの切り札『固有結界 無限の剣製』。心中に眠る風景で現実を書き換える魔術。
「行くぞ英雄達──武技の冴えは十分か」
闘志を込めてエミヤはそう言うと、剣の切っ先をエミリーとセバスに向ける。
「…………ッ! アレが来るぞ!」
「了解」
数10メートル先の二人に向かって、無数の剣が襲い掛かかる。無数の剣の一つ一つが鋼鉄すら両断せしめる業物、一振りでもマトモに喰らえば死ぬ。
この剣の嵐を叩きつけられて死ななかった者は今までいない──────最も、これからもそうだとは限らないが。
「シィィィィ!!」
>>416
上下左右、四方八方、縦横無尽かつ無数に襲い来る剣を、叩き落とし、避け、打ち砕く。
セバスとエミリー、互いが互いの死角を補い、隙を補う。剣で出来た死の嵐は二人の前に撃ち散らされる。
決して一人ではたどり着けぬ、才能だけではたどり着けぬ、無数の共闘を経てのみ辿り着ける連携の極致。
「やるな…………だが甘い!」
「ッ!?」
──────しかし、エミヤの切り札はそれだけで打ち破れるほど甘くはない。
一本の剣が仕込み刀を透過し、慌てて首を捻ったセバスの頬を掠める。
この世界が内包する剣はただの業物ではない、一つ一つが伝説や神話の武器である。当然、それらの剣がただ鋭いだけな筈もない。
他の武器を透過する剣、癒えない傷を刻みつける剣、伸びる剣。一本一本が固有の能力を持っている。
液状の刃がエミリーの腕を撫で、不可視の剣がセバスの脚に傷を刻み──────
「まだまだぁ!」
「死に立ち向かう感覚…………久しいですわねぇ!」
だがそれでも、二人は巧みに致命傷を避けながら進撃を続けている。熱い血を流し、闘志の籠った笑みを浮かべながら。
二人は人生が変わる程エミヤに憧れ、何度も彼と共闘し、その度に戦いへの姿勢や戦い方を学び取って来た。故にエミヤの戦い方は熟知している、ともすれば彼自身よりも。
故にどう攻めて来るかが解る、故に対処できる。
「おおおオオオオッ!!」
彼我の距離、既に8メートルまで縮まれり。
荒野に巻き上がる赤い砂ぼこり、その向こうから二人が迫ってくる。全霊を込めて迫って来る。師を超える為、正しく死なせる為に。
>>417
「…………! やるものだな」
エミヤは無数の剣の一つを用いて壁を作り出し、4,5歩後ろに下がる。
『投影・開始(トレース・オン) 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』
今より投影するはカリバーン。格が高過ぎるが故に『無限の剣製』の中に内包されぬ、最高峰の聖剣が一つ。
──────あの時、あの『聖杯戦争』での力不足、それが齎した大災害。シャドウサーヴァントの発生、カカラの発生、今まで爪痕を残す災害達。
もしもあの時、これを投影出来ていれば。もしアルトリアを失っていなければ。きっとこんな事にはならなかった。
だからこそ、この剣は己が罪の象徴なのだ。『無力』と言う罪の。
「──────」
身の丈に合わぬ奇跡を呼び起こす代償に、おぞましい程の激痛が体を揺らす。
エミヤはそれに耐えるでもなく、抗うでもなく、ただ粛々と受け入れる。
『mode sift BEE SOUND』
怪音鳴らし壁をぶち抜くエミリー。
『mode sift BEE SOUND』、猛烈な勢いで鉄杭を回転させ威力を引き上げる業。
只々只々破壊する事のみに特化した一撃は英霊の宝具にすら匹敵する。
「超えさせて頂きます!」
エミリーの背後より飛び出すセバス。
赤熱した体躯が凄まじい速度で駆ける様はまるで地上の流星。
圧倒的な速さを持ちながらも決して突出することは無く、エミリーとの連携を保ち続けている。
「──────」
「──────」
エミリーとセバスはたがいに目で通じ合い、闘志を滾らせ進撃する。エミヤはただ迎え撃つ。
>>418
──────二人は全方位から襲い掛かる13本の剣を避け──────エミヤの手元に聖剣の柄が生まれ──────
──────炎纏う魔剣をエミリーが粉砕し──────聖剣の柄に刃が生え──────
─────セバスが無数に分裂する針剣を全て弾き──────刃は聖性を帯び始め────
───二人は見上げる程大きな剣に行く手を阻まれ────────────カリバーンの投影は完了し、今まさに振る『────士郎』
「!?」
声が聞こえた。エミヤ、衛宮士郎の名を呼ぶ声が。酷く記憶を揺さぶる声、色褪せた記憶を呼び起こす声。
ああ、あの声は間違いない。俺の力不足で犠牲にしてしまった、アルトリアの声だ。
…………しかし何故彼女の声が聞こえる? 彼女は俺を庇い死に、そして今の俺と同じくあの老醜の手駒へと成り下がった筈では──────いや、そうか。やっと解放されたんだな。
エミヤの手から力が抜け、琥珀の瞳に一粒の涙を浮か『ズン』
「…………カハッ」
隙を見せたエミヤの右腕が斬り飛ばされ、間髪入れず鉄杭が胸を貫通する。
肩に短く残った腕から鮮血が噴き出す。空洞化した胸から心臓が転び出る。エミヤの体から熱と仮初の命が抜け落ちて行く。
エミヤは膝を突き、口を開く。
「俺の、負けか…………いやはや、本当に強くなったな」
「…………」
赤黒く酸化した血が、赤土の荒野へと垂れ堕ちる。心からの賛辞が崩れ行く荒野に響き渡る。訥々と。
セバスとエミリーは武器を納め、祈るように黙している。
「此処は俺の育った家でな、色々と思い出が眠っている。良い思い出も、過去の罪も。
土蔵の中…………そこを調べると良い。役に立つかは解らないが、何かしらは…………得られるだろうな」
>>419
血まみれの体を引き摺り、家の縁側に腰を下ろし空を見る。
───薄曇りの空に星は見えず、雲越しの太陽だけが空を曖昧に照らしている。
「………俺は正義の味方には成れなかった。全てを守る事が出来なかった」
エミヤは独白する。掠れた声で搾り出すように。
きっと彼以外の誰にも解らぬ独白。きっと誰にも消せない後悔。死の間際だからこそ零れ出た弱音。
「……エミヤさん、アンタの過去は知りやせん。何を救えなかったのか、なんの罪が有ったのかなんて解りません。
でも、それでも俺達はアンタに救われたんです。それは確かなんです。だから、そんな寂しい事言わんで下さいよ」
「正義の味方でなくとも、貴方は『英雄』でした。『無尽の英雄』エミヤ、貴方が居なければこの街は無かった。其れだけは覚えて逝って欲しいです」
───しかし解らずとも、消せずとも、寄り添う事は出来る。憧れていた人が穏やかに逝けるよう寄り添う位は。
「………シャドウサーヴァントの発生が、俺の力不足のせいで起きた事だとしてもか?」
「「勿論」」
「……………………………………………そうか」
迷いも躊躇いも無い二人の返答。ソレを聞いたエミヤはホウと溜息を付き、目を閉じる。
─────貴方もそこに居るのですか。私もお供しましょう──────何だ、声が聞こえたと思ったら側に居たのか。そうだな、三途の岸辺まで供を頼む。
>>420
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眠るように死んだエミヤ。その体が薄れ、大気に拡散して行く様を二人はただ見つめている。
──────もっと話していたかった。出来る事ならまた共闘したかった。そんな願いが今になって去来する。
何かを選ぶという事は、それ以外の選択肢を捨てると言う事でもある。『最善の選択』など、捨てた選択肢への未練から目を背ける為の言い訳でしかない。
人生は選択の連続であり、生きるほど未練は積み重なる。しかし生きねば何も得られぬ。
「…………行くとしますか。蔵の中を調べに」
セバスはそう言うと、蔵の方へ歩を進め「頬、水が垂れてますわよ」
後ろのエミリーがハンケチを突き出し、頬を乱暴に拭く。
「……ありがとう」
重くなった足を動かし蔵の前まで辿り着く。
─────錆び切った鉄扉を開ければ、綺麗に整えられた蔵の中が二人の視界に入る。
蔵の物々は分厚い埃の層を身にまとい積み重ねた年月の長さを静かに示す。重く積もった埃に刻まれた足跡。足跡の先を辿って視線を動かせば、自然とあるモノへと視線が集約する。
赤い宝石と一つの箱。赤い宝石が載せられたその箱は、蔵にある物の中で唯一埃を被っていない。
「…………」
箱を開ければ中に入った数冊の日記が見える。手垢の付いた分厚い日記が。
二人は何も言わず外へ出て、日記を開いて読み始める。
シロちゃんの等身大パネル応募した、当たるか楽しみ
それはそうと、今回はサブキャラである二人の掘り下げ回&世界観掘り下げの前振り回でした
一応この特異点にはフワッとしたテーマっぽいのがありまして、それが「過去」です
民衆は辛い過去をなかったことにし
二人は辛い過去に答えを出し
エミヤは過去に今でも後悔しています
それ以外にも過去絡みの話は結構盛り込んで来ました
因みに何故このテーマなのかと言いますと、黒幕が奪ったモノの一つが「過去」だからです
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