>>250
ーーーする必要はなくなった。
良く通る声、真っすぐで力強い声がシロの鼓膜を震わせる。声のする方を見れば、そこにはやはり透き通るような緑目の美少女がいた。眼鏡の似合う、清楚で豪快な女。そう、神楽すずが復活したのだ。
痛みは既になく、戦意も揚々。笑顔と怒り顔を足した様な表情は『やられた分はやり返してやる』とでも言わんばかり。
「いやいや、想定よりも大分早いよ」
「そう言ってもらえると、助かります!」
スズは復活するや否やバットを拾い上げ、強烈豪快なフルスイングを放つ。エイレーン一家の二人も、まさかこれほどに早くスズが復帰してくるとは思わなかったのだろう。シロにばかり注意を払っていたせいで、モロに風圧を受けて吹き飛ばされてしまう。
「くっ!」
『神楽すず復活っ!! 反撃の狼煙に成り得るか!?』
二人が吹き飛ばされた隙にシロはナイフを回収する。
スズは復活し、互いの距離も開いた。これで仕切り直し、ここからが本番だ。
お久しぶりです。展開に悩んで若干スランプってました。
仕方ないのでスランプがてら後々登場させるモブキャラの設定を組んでました。
細々とした設定集
カカラ
特異点Yに蔓延る怪物、左胸のコアが弱点。一般人でも武装すればギリ倒せる位の強さ。
一つの母体から産まれるため遺伝子的には全て同じ。共食いして強力な個体に成る事がある。
■■の有り様を人為的に歪めて生み出された産物。祝福と共に産まれた怪物。人類の罪であり希望。
>>254
ありがとうございます。
確かに死にますね、、、、、人間とサーヴァントの壁は厚いですから。
セバスやピーマン(ピーマンとパプリカは一応人間設定、正直Vと言うよりかはマスコットの亜種なので)等々、その壁をぶち抜いてる人たちがいますが、、、、アレは、超人の域に片足突っ込んでるお方達なので例外です
>>251
「本気で叩き込んだんデースけどね。ここまでアッサリ復帰されると凹みマースよ」
「攻撃が当たる瞬間、魔力の放射で攻撃を相殺したんです。それでも大分喰らっちゃいましたけど」
スズの全身より立ち昇るは魔力、ゴウゴウと噴き出て渦巻くそれらはさながら豪風。
ブイデア所属の英霊、神楽すず。実のところ彼女はなんら特別なスキルを持っていないのだ。『魔力放出』『カリスマ』と言ったありきたりなスキルに、火傷や呪いへの耐性をもたらすスキル『普通』。いずれのスキルも他の英霊と比べればどうしても見劣りする。
しかし弱いかと言われれればソレは否、何故ならばスズにはとびっきり特別な宝具があるからだ。
「BT君、魔力のバックアップをお願いします」
『要請を受諾。動力炉のエネルギーを魔力に変換、魔力のコネクションを補強、バックアップ開始』
スズが小声で呟けば機械的な音声が答えを返し、数秒の後にはスズの体に魔力が流れ込み始める。
そう、これこそがスズの宝具『人機の絆』。『BT』と呼ばれる、自立AIを搭載した巨大兵器を使役する事ができるのだ。魔力のバックアップを受ける、スズが直接乗り込んで戦う、遠方から支援砲撃を行って貰う等々、様々な使用方法を持つ宝具。
今は大会のルール『銃火器の使用禁止』によって魔力のバックアップを受けるぐらいしか出来ない、がそれでも十二分に強力と言えよう。
「今度こそぶっ潰す!」
裂帛の気合いと共に突撃するスズ。
「同じ事をやっても、同じ結果にしか、、、ぐっ!?」
迎え撃とうとしたエイレーンの数歩手前、スズは突然右足を床に叩き込む。次の瞬間、闘技場の床が破裂する。
>>256
『床が破裂したぞ!?』
「、、、っ!」
破裂した床は礫となってエイレーンに襲い掛かる、完全に想定外の攻撃にさしものエイレーンも対処に精一杯。
「決勝が始まって最初に突撃した時、床に魔力を叩き込んで脆くしといたんですよ。
ホントは最初の一回目でやるつもりだったんですけど、想定以上に造りがしっかりしてて無理だったんですよね、ハハ」
「ナイスだよすずちゃん!」
不意をつかれたエイレーン、その隙を逃さぬのはシロ。
「これで決める!」
うろたえるエイレーンを飛び越し狙うはアカリの首。
決勝戦での逆転劇。沸き立つ声援がシロのスキル『応援を力に変える能力』を発動させる。
心身上々、闘志揚々。しかし相手はアカリ、魅了の力を使いこなす手練。万全のアカリならばこれしきの窮地は軽々凌ぐだろう、そう『万全』ならば。
「、、、くっ!」
「やっぱり! 今のアカリちゃんは『近接戦闘がほぼ出来ない』、そうだよねぇ!」
『攻める! 攻め立てているぜシロ選手!』
シロの振るったナイフに対し、アカリは大げさな回避を余儀なくされる。それは何故か、宝具の代償で片目が見えず、遠近感覚が消失しているからだ。
「『触れただけで魅了出来る』のに『わざわざ鞭を使う』、ギリギリまで使い渋ってた宝具を使ったのになんの変化もない『様に見える』、ここの違和感がシロ的には凄いんだよねぇ。
ピノちゃんの猛攻を凌いでたのを見るに、接近戦が不得手だとも思えない」
積み上げた推論を披露しながらも、シロの追撃に淀みは無い。徐々に切り刻まれてゆくアカリ、端正な顔に大粒の汗が浮かぶ。
>>257
「アカリさん! 今助けに「行かせませんよ」
礫を凌ぎ、アカリを助けにいかんとするエイレーンを阻むはスズ。
「おらぁ!」
「クッ!」
スズの一撃、その余波がエイレーンの赤毛をブチリと数本持っていく。
今すぐにでもアカリを助けに行きたい、しかし目の前のスズを無視できない。正に板挟み、紅がかったエイレーンの瞳が苦し気に窄まる。
そんなエイレーンを他所に、シロとアカリの戦いは進む。
「、、、だからシロは『宝具の代償が接近戦を大きく阻害する物であり、それを誤魔化す為に鞭を使用している』と仮説を立ててみた。どう、合ってる?」
「、、、、」
大きく後ろに飛び、なんとか窮地を脱するアカリ。しかしもう後ろは壁、後がない。
必死に頭を回し勝機を探す。
「(シロちゃんの発言が多い、ブラフを警戒して私の反応を見てるのかな? チャンスかも)正解、だよシロちゃん。私の宝具『愛天使』は『美』と言う概念そのものを瞳から射出するモノ。
放たれた『美』は、視線上に捉えた存在を書き換え、魅了する。解りやすく言うと『アカリを頂点にした美の価値観を相手に押し付けて、絶対に魅了する魔眼』。
まあハッキリ言ってーーー人間が使うには過ぎた宝具でさ、そんなの使ったらどうなると思う?」
僅かながらも勝機は見えた、後は実践するだけだ。下手に感情を見せてはいけない、バレてはいけない。迫りくるシロを見据え、心を決める。
>>258
「反動が来る、のかな?」
「その通り、反動で目が一つ潰れるんだ。数日で戻るとはいえ、そう簡単には使えない、、、と言うとでも!? 矢刺せ『愛天使(キューピット)』!!」
会話で時間を稼ぎ、宝具の重いデメリットを提示し、まさか使わないだろうと思わせてからの即時使用。これが決まらなければ終わりーーーー
「来ると思った」
ーーー決まらなかった。
シロがアカリの眼前に突き出したのはナイフ、顔が写る程に磨かれたソレが魔眼を跳ね返したのだ。
石化の魔眼を持つメデューサは鏡の如く磨かれた盾を用いて討伐された。魔眼に対しての鏡は、定番の対象法と言える。
「なん、で?」
宝具を跳ね返されたアカリはもう動けない。自分の宝具で有るが故に多少の耐性があり、喋ることは出来るがそれだけ。仮に動けたとして宝具の反動で何も見えないのだから、どうしようも無くはあるが。
「そりゃ解るよ、アカリちゃんの目に諦めの色がなかったもの。キラキラでギラギラな、綺麗な目をしてた」
「なる、ほど。後は、頼んだよ、エイレーン。私は、ここでギブアップ」
何も見えなくなった蒼い瞳を閉じ、顔には快活な笑みを浮かべる。そして眠るように、ゆっくりと床へ倒れ込む。
>>259
『アカリ選手、ここでリタイア! エイレーン一家大ピンチ!!』
「、、、アカリさんがやられましたか。困りましたね」
「降参しますかエイレーンさん? 2対1じゃ勝ち目は薄いですよ」
スズの問いかけに対し、エイレーンはかぶりを振って否定する。
アカリが窮地に立たされていた時は焦燥感を露わにしていたエイレーン、しかし今は落ち着いている。勿論、先ほどまでの態度が演技だった訳ではない、切り替えただけだ。
最も信頼していた部下であるアカリは倒された。シロもスズも相応に消耗してはいるものの、戦えない程では無い。予測しうる限りで最悪の事態ーーーしかし想定内ではある。情報収集、組織の統制、交渉、当たり前の事を当たり前にこなしてこそのリーダー。そして、『当たり前』の中には『最悪の事態を想定し備える事』も含まれている。
「イエイエ、お気になさらず。見せる予定の無かった奥の手を見なきゃいけなくなって困ったなと、そう思っただけデース」
そう言うと、エイレーンは大きく息を吸い込んで全身に力を入れる。
「不味い!」
「え?」
ほぼ無限の魔力に圧倒的なパワー、スズは強者だ。故に危機察知能力が低い、そんなもの無くても大抵どうにかなるからだ。
対して、シロは強者とは言い難い。発動条件の厳しいスキルに少々地味な宝具、しかしそれ故に危機察知能力は高水準。
「、、、、くっ!」
>>260
しかし間に合わない。シロとエイレーン、二人の間を阻むようにアカリが倒れ込んでいたからだ。
敗者の事など気にせずとっとと飛び越えてしまえば、エイレーンが何かする前にナイフで突き刺してしまえたかもしれない。しかしそんな事をすればアカリに砂埃が掛かる、そもそも人の上を跨ぐなど無礼千万。
殺し合いの場ならともかくここは試合場、やや甘い所の有るシロが躊躇してしまうのはいささか仕方のない事であった。
「『真名解放』同胞を守るためならば
畜生となりて汚泥を這いずり
餓鬼となりて汚泥を喰らい
亡者となりて万象の責め苦を受け
修羅となりて万物を切り伏せよう
『六道輪廻荒行道(りくどうりんねこうぎょうどう)』」
エイレーンの宝具が発動する。肌はひび割れ、背は曲がり、肉は焦げて炭になり、全身から血が噴き出す。
「これが私の宝具、デース。でもまだ、終わりじゃないですよ」
「いいえ、終わりです!」
ワンテンポ遅れて危険性を察知したスズがバットを振り下ろしーーーー
「ガハッ、、、、!」
「だから、まだ終わりじゃないですよって」
吹き飛ばされた。
エイレーンの手から衝撃波の様な物が放射されたのだ。
「一体、何を、、、」
「私の宝具は『スキル効果の増幅』、代償は見ての通り『継続的な自傷』デース。
正直代償に見合わない効果ですよ。だから活かせるようにしたんです、肉体を改造して」
>>261
エイレーンの左手から伸びる無機質な管。右手に持つ古風なサーベルやボロボロの肉体も相まって異様な雰囲気を放っている。
「改造?」
「エエ、改造です。セバスさんとかと同じような。でも、サーヴァントは体の構造が常人と違うので苦労したんですよ。
宝具やスキルの動力源である魔力を使用する事でどうにかしたんデース。
ま、効率が悪すぎて宝具で強化している時しか使えないんですけどね」
『これが、この姿こそが本当の本気だと言うのか!? あらゆる手を使い、ひたすらに強さを求めたその姿! もはやこれは剣、ただ一振りの剣がそこに在ります!!』
「すげえ、、、」「あの改造、ちょっと気になるネ」「シロちゃん大丈夫っすかね?」
「なんで、そうまでして強くなろうと、、、、」
「昔、色々あって恩人を失いましてね。繰り返したくないんですよ、二度と」
ひび割れた顔に僅かな哀愁を浮かべてエイレーンは答える。
今のエイレーンはお世辞にも美しいとは言えない。元がどんなに見目麗しかろうと血にまみれ、肉を焦がし、管まで生やしていては台無しだ。しかし醜いかと言われれば否、『強さ』と言う単一の分野に特化したが故の機能美が、威厳が、そして凄みがある。
(多分)次の投稿でトーナメント編は終了です
因みにエイレーンさんの『肉体改造』はぶっちゃけ腕に魔術的な加工をした筒ぶっ刺しただけです
筒の中に魔力流し込んで衝撃に変換するだけの簡単な仕組みですが、こんなんでも結構試行錯誤してます。記憶喪失で魔術の知識0状態からなので十分凄いですけどね
中世の時代に発電機作るようなもんですから
細々とした設定集
エイレーンさんの宝具
『六道輪廻荒行道(りくどうりんねこうぎょうどう)』
自傷ダメージを負う代わりに、『痛みを感じるほど強くなる』スキルの効果を増強する宝具。
やたらと代償が重い割に効果が微妙なのは仕様。
メタ的な話をすると、エイレーンさんには作者が描けるほぼ限界スペックの頭脳(身内に弱い、やや頑固過ぎるきらいがある、等々のデバフを一応与えてる)とスーパーバイタリティを与えてるので、下手に強い宝具与えると無双しちゃうんです
細々とした設定集 その2
アカリちゃんの宝具
『愛天使(キューピット)』
片眼が数日潰れる代わりに『強制的な魅了』を行う宝具。
代償が重すぎるけどこれでも十分強い。
魅了ってぶっちゃけ美の価値観が違えば通じないよな→価値観を書き換えれば良いじゃん、と言う割とえげつない宝具。
>>262
「まさか奥の手を見せることになろうとは、、、まあ、薄々こうなる気はしてましたが、ねっ!」
「くっ!」
エイレーンの背後から接近していたシロが吹き飛ばされた。
宝具の発動を阻止できなかった時点で目標を不意打ちに切り替えていた、が察知されていたようだ。
「シロさん!! 、、、、っ!?」
「ほら目を逸らさない! 敵が目の前にいるんですよ!!」
吹き飛ばされたシロを思わず目で追ってしまうスズ。明らかな油断、その代償はエイレーンからの猛攻。たった一歩でスズとの間合いを詰め、繰り出すは鋭い斬撃。
宝具で得た身体能力と確かな技量に裏打ちされたサーベル捌きはひたすらに苛烈。さらに左手の管から繰り出される衝撃波が僅かな隙を潰している。打ち合う事なぞ以ての外、ただ避ける事しかできない。
「これは、キツイ、、、、けど負けない!」
「その通りだよすずちゃん! シロ達は負けない!!」
「、、、っ! やりますね!」
エイレーンの背後を襲う投げナイフ、シロによるものだ。当然エイレーンは対処せざるを得ない。そして注意がナイフに割かれればスズの剛腕が猛威を振るう。
アカリを倒したことにより生まれた人数差が優位を作っていた。
「オラァ!」
魔力放出によって圧倒的な馬力を持つバットが、スズの一撃が────
「でも足りない───まだ足りない」
「押し、切れない!?」
『な、なんと! 今まで圧倒的な剛力を誇ってきたすず選手が押し返された!?』
正面から押し返され、そして押し込まれる。サーベルの鋭い刃がスズの首元にジワジワと押し込まれてゆく。
スキル『魔力放出』により圧倒的なパワーを持つスズ。しかしエイレーンの宝具はそれ以上の強化をもたらしている。
>>268
「不味い!」
このままではスズがやられる。そう判断したシロが助けに行くが間に合う距離ではない。もう一度ナイフを投げたところで無視されるのがオチだろう。
衝撃波を警戒し接近を避け、それ故にナイフでの支援に留めてしまった。『すずちゃんなら大丈夫だろうと考えた』『もう少し様子を見たかった』等いくらでも理由は挙げられるが判断ミスには違いない。そしてそのミスが致命的な事態を招いてしまったのも間違いない。
「くっ!」
細い腕に全霊の力を籠めスズも押し返そうとしているがさして意味のある抵抗には成っていない。
「、、、、」
冷え冷えとした刃が首に触れる、生暖かい汗が止まらない、息が上がって過呼吸に成りそうなのを必死にこらえる。
「これで一人、、、、、なっ!?」
スズの首に刃が突き刺さるその直前、なんとエイレーンの足からツタが生えて来たのだ。生えたツタは絡みつき、エイレーンの足元をもつれさせる。
「全く訳が、いや、これは双葉サンのスキル? そんな筈は、何故!」
『すず選手を倒す直前に妨害が入った! エイレーン選手、絶好のチャンスを逃しました!!』
「何だあれ?」「、、、成程、やりますね双葉お姉ちゃん」「完全に不意を突かれてるネ」
混乱するエイレーン。バラバラの単語が浮かんでは消え、浮かんでは消えを刹那の間に何度も繰り返される。
「────まさか!」
莫大な試行の後、エイレーンの頭脳は一つの回答を導き出す。
>>269
(準決勝の序盤、、、、! あの時、双葉さんは私の膝をナイフで切りつけていた!! 双葉さんのスキルは『ナイフで切りつけた所から植物を生やし操る』モノ。
そして発動のタイミングは任意、ひと試合越しにスキルを発動されたという事か!
宝具のインパクトで完全に失念していた、、、いや、元からソレが狙いで宝具を発動したのか。完全に出し抜かれた!!)
エイレーンの考察通りこれは双葉によるものだ。『自分では勝てない』と判断した双葉が仕掛けた遅効性の攻撃。
捉えようによっては卑怯ともとれる攻撃。実のところ仕掛けた双葉自身もこの攻撃に結構罪悪感を感じている。とは言え、やられたエイレーンは出し抜かれた事に怒りを感じていないのだが。
「オラァ! やっちゃって下さいシロさん!!」
「OK! 真名解放『唸れや砕け私の拳(ぱいーん砲)』」
足のもつれと混乱の隙を付かれ、エイレーンはスズに突き飛ばされる。そして背後からは宝具を発動させたシロが迫って来ている。絵に描いたような窮地。
相手への称賛、悔しさ、高揚感、刹那の間に様々な感情がエイレーンの中で沸き上がり、混ざり合い、噴出する────笑いとなって。
「ハハハッ! ハハハハハハ!!!」
肺腑に残る息を全て吐き出さんばかりの大爆笑。焼け焦げた、ひび割れた顔に浮かぶ満面の笑み。強烈で鮮烈な感情の爆発。思考が加速し体感時間は引き延ばされ、視界に映るすべての物がスローモーションを描き出す。
足に絡みついたツタを即座に振りほどくのは不可能。衝撃波も宝具相手には分が悪い。ならばどうすべきか?答えはもう出した。
「なっ、、、!」
「勝負!」
>>270
左手を自身の背後に向け全力の衝撃波を放ち続け、その反動でエイレーンはシロへと突撃。衝撃波でスズを遠ざけつつシロを刈り取りに行く心積もり。
己が身を省みぬ加速、一秒と経たぬうちに音速を超え、大気との摩擦で体が灼熱する。剣の切っ先をシロに向け、紅く燃えながら疾走する様はさながら流星。
「乗った!!」
対するシロ。凝縮された魔力によって蒼く輝く拳を振りかぶり、己が宝具で迎え撃つ構え。
「「────!」」
紅と蒼、数瞬の後に二人の一撃がぶつかり合う。観客が一言も発さずに見入ってしまう程に鮮烈なせめぎ合い。必殺VS必殺の争い。優勢なのは────
「どうやら私が勝ちそうデースね!」
エイレーンだった。
エイレーンとシロ、宝具の代償が差を分けているのだろう。失うことで得た力は、やはり重い。
「いやいや、まだ解らないよぉ」
だが、シロは諦めない。不敵な笑みを浮かべ、蒼い目でエイレーンを真っ向から見据える。特に勝算が有る訳ではない、だがそれでも諦める訳にはいかないのだ。
敗退していった仲間達の残した情報が、そして攻撃がエイレーンをここまで追い詰めたのだから。故に諦めない、仲間達の努力を無駄にしない為にも。
徐々に押される腕に全霊の力を籠め、『シロ』と言う英霊が持ちうる魔力全てをこの一撃に注ぎ込む。
「ああ、そう来なくっちゃ、、、、詰まらないですよね!」
だがそれでも趨勢は覆らない。気合だけで勝てるほど戦いは優しくない。
────最も、気合以外の何かが一つ有れば勝てる、程度には拮抗しているが。
「シロさん!」
エイレーンの背後から声が聞こえた、スズの物だ。
背後から物も飛んできた、スズのバットだ。
>>271
(アレは確か、、、、準々決勝で使った手。自分の武器を投げつけ破裂させるんでしたか)
通常ならば困惑するはずの場面。だがエイレーンの判断能力は群を抜いている、困惑する事もなく正確に分析を行う。
────最も、優れているからこそ間違えることもあるのだが。
(近づくのは困難だと判断して援護に周りましたか、成程いい考えデースね。でも、何が起こるか解っていれば別に無視しても、、、、なにっ!?)
「最っ高だよすずちゃん!!」
放り投げられたバットはエイレーンでは無くシロの方へと飛んで行く。そしてバットに籠められた魔力、緑色に輝くスズの魔力がシロに流れ込む。流れ込んだ魔力はそのままシロの宝具に加わり威力を強める。
自身の有り余る魔力を強引に譲渡する力業、最後の最後まで隠し通していたスズの牙。ソレが、今まさにエイレーンの首元に突き立った。
「いっけええええ!!」
「────」
宝具の蒼い輝きに緑光が加わり、混ざり、螺旋を描く。先ほどまでとは比べ物にならない程に宝具の力が増す。シロとエイレーン、その力関係が逆転する。
「────お見事」
シロの宝具がエイレーンを打ち抜くその瞬間、エイレーンは心からの称賛を、ポツリと悔し気に呟いた。
『ついに決ッ着! S級の猛者が集いし今大会を制したのは、、、、シロ&神楽すずペア!!』
「おめでとうっすシロちゃん!」「やったぜ!」「皆強かったネ」
「やりましたよ、、、、シロさ、、、ん、、、、」
>>272
轟き渡る歓声、勝どきを挙げようとしたスズがパッタリと倒れる。
闘技場内の人間はピノの宝具『己が身こそ領地なれば』によって怪我を負うこと事は基本無い、無いのだがどうしても限度はある。宝具相当の攻撃に対してはある程度の怪我を負ってしまうのだ。
激戦に激戦を重ねたスズ。緊張が切れた拍子に倒れてしまうのも無理は無いと言える。
「全く、すずちゃんは、、、、締らない、、、、なぁ、、、、、」
スズを抱きかかえようとしたシロもまた、倒れてしまう。こちらの方も疲労が限界に達していた様だ。
『おっと、、、、? 如何やら両選手とも疲労が限界に達していた様です』
後に残されたのは、緑髪の少女と白髪の少女が晴れ晴れとした表情で倒れている、牧歌的で、少々締らない光景だった。
時間は掛かりましたが何とか書き上げられました!!
今の自分で作れる一番良い物を書けたような気がします
それはそうと、シロちゃんのサンリオライブ出演決定嬉しい!!
サンリオコラボのアクリルキーホルダー再販してくれないかなぁ(願望)
裏設定
『チャイナ被れお姉さん』
ファイトクラブ『スパークリングチャット』の常連さん。語尾は『ネ』。
中国人のステレオタイプまんまの喋り方するけど普通に純日本人。好きな食べ物は春雨、あんまカロリー気にせず食えるのが良いのだとか。
『スパークリングチャット』
元の持ち主が寿命で死亡した際、ピノ様と双葉ちゃんがゴタゴタに乗じてオーナーの座に就いていたりする。
ものっそい大雑把な過去年表
2070年 エイレーン一家&アカリちゃんが特異点に召喚される。ほぼ同時期にケリンと鳴神も召喚された。
2071年 鳴神が『サンフラワーストリート』に入団。英霊なので当然腕っぷしは強く、あっという間に組織の地位を駆け上がる。
同時期にケリンが『エルフC4』を結成。こちらも同様に名をはせて行く。
2072年 エイレーン一家がギャング『Iwara』を打倒、影響下にあった『ポルノハーバー』はエイレーン一家がそのまま引き継ぐも暫くの間混乱状態に。
『Iwara』残党の殆どは猛スピードで勢力を拡大しつつあった『エルフC4』に合流。
この際、合流した構成員は違法薬物の流通ルートに繋がりを持つ人間が多く(水商売の人間にそう言った薬物を使わせたり、売らせたりして稼ぐのが主収入だった為)これを機に『エルフC4』は違法物品の取引に重点を置くようになった。
2073年 混乱に乗じて『Iwara』の残党がエミヤを殺害。この後にエイレーン一家による残党狩りが行われ、『エルフC4』に逃げ込んだ構成員以外はほぼ排除される事に。
2074年 すずちゃん、ピノ様、双葉ちゃんが特異点にレイシフト。
ピノ様と双葉ちゃんは『スパークリングチャット』に就職、すずちゃんはニーコタウン設立に奔走。
2075年
『スパークリングチャット』のオーナーが急病で死去。
ファイトクラブの所有権を巡ってエルフC4とサンフラワーストリートで争いが勃発。
エルフC4が優位に争いを進め、サンフラワーストリートのボスは求心力が低下。
その隙を付き鳴神がクーデターを実行。この時点で組織内の発言力はかなり大きく、割とあっさりクーデターは成功を納める。
その後何やかんやあってケリンと鳴神は意気投合し、『スパークリングチャットはエルフC4優位で共同所有とする』辺りで落ち着きそうだったのだが・・・ゴタゴタやっている間にピノ様と双葉ちゃんがちゃっかり実権を掌握してしまっていた。
2077年 シロちゃん、ばあちゃるがレイシフト、現在に至る
>>277
楽しんでくれたなら嬉しいです!
この後は、幾つか日常回を挟んだ後に特異点解決へ向けて動き出す感じですね
章ボスはかなりfate色が濃くなる予定、、、、と言うより、そもそもこの特異点はfate/stay night から分岐した世界なので当然と言えば当然なんですけどね(匂わせ)
>>279
あ、やべ。完全にミスですねコレ
最初は寿命だったんですが『寿命なら事前に引継ぎ出来ちゃうよな』と思い変更したんですが、どうも書き換えるのを忘れてたみたいです(汗)
>>274
修正
『スパークリングチャット』
元の持ち主が急病で死亡した際、ピノ様と双葉ちゃんがゴタゴタに乗じてオーナーの座に就いていたりする。
>>273
「いやはや、負けちゃいましたよ・・・・痛っ」
「全力を出したうえでの敗北、こりゃ言い訳の隙はないね」
ベットの上に座り足をプラプラと揺らすアカリ、全身の筋肉痛に苛まれながら寝っ転がるエイレーン。
ここは医務室、ではなく選手待機室の脇に設けられた仮眠室。薄暗い照明、やたらと冷える石造りの床、埃を被った薬棚、ブルーシートを被った荷物たち。『仮眠室』とは言うものの、現在では事実上の物置部屋として扱われている。
エイレーンとアカリは医務室で目覚めてすぐ、この仮眠室に移る事を希望したのだ。
「しかしまあ、手札全部晒しちゃうとはね」
目が見えないからだろうか、アカリは微妙にずれた方向へ悪戯めいた笑みを向けている。
「実力は十二分に示せたので結果オーライデース。ここまでやって歯向かって来れるのは・・・サンフラワーストリートの鳴神と、エルフC4のケリン位ですよ」
「あー、あの二人は色々と特殊だもんね、うん。もしかしたら、もうポルノハーバーを襲撃しに行ってるかもよ?」
「ハハハ、流石に有り得ないですよ、きっと、多分、いや、一応事務所に連絡を入れておきマース」
「そーだね一応連絡入れとこっか。多分大丈夫だろうけど────あ、いつもの発作が来るかも」
会話がふと止まる。突如訪れた沈黙の中アカリが手探りで取り出したのは手鏡。ただの手鏡では無い、アカリ自身の写真を貼り付けた手鏡だ。
>>282
「─────」
じっと、ただじっと見えない目で鏡を見つめる。写真の顔の、それこそ毛穴まで確かめるように。
見つめ始めて数秒後、アカリに変化が現れ始める。透き通る青目は深い紫に、金を溶かした様な髪も紫へと変わり、スラリとした豊満な体躯は未成熟の少女を目指し縮む。
「アカリはアカリ、ほかの誰でもない」
囁くように小さな声で、念じるように何度も唱える。エイレーンは何も言わず瞼を閉じて、一切の音を立てないようにしている。
これは儀式。アカリの宝具、その真なる代償を抑える儀式。アカリの宝具『愛天使』は神の領域に片足を突っ込んだモノ、万物を魅了するという所業はただそれだけで凄まじい。
自身を美しいと感じる相手に対する魅了はそれ程難しくない、相手の中にある感情を増幅させればよいのだから。だが『愛天使』は違う、知性さえあれば無生物や異種族ですら魅了する規格外。神霊でも無ければとても扱えたものではない。
故に、宝具を使う度に器は変異を試みる、宝具を扱うに足る神霊へと。
目が見えなくなるのはあくまで初期症状、変異の初期症状だ。
50回以上は唱えた頃、アカリは鏡から視線を外し、僅かに上ずった声でエイレーンに問い掛ける。
「ねえ、エイレーン。私は大丈夫かな、ちゃんと戻ってる?」
「ええ、いつもの、そうですね、エロいアカリさんデース」
「ちょ、ちょっとエイレーン! アカリはエロくないよ、そう、ただの超エロだもん!」
エイレーンがぎこちない冗談で返せば、アカリも歯切れ悪くソレに乗る。
>>283
「・・・無理はしないで下さいね」
別な話題を振ろうとしたエイレーンの口から思わず弱音が漏れてしまう。
アカリはリスクを認識した上で宝具を使っている、その覚悟に口を挟むべきでないのは重々承知済みだと言うのに。
「ア、アノー、今のは言い間違いと言うか、「大丈夫」
急いで訂正しようとしたエイレーンをアカリが手で制す。
「アカリは大丈夫」
アカリは曖昧な笑みを浮かべ、優しい声で優しいウソを吐く。
宝具の性質や変異中途の風貌を考えるに、変異した先の姿はきっと悪いモノではないのだろう。きっと万物を魅了するに相応しい姿に成れるのであろう。だがそれがどうした。己が己の意図しない方向に変化していくなぞ、ただひたすらに苦痛でしかない。
故にアカリは宝具の使用を怖れる。代償を払う度に心は後悔と不安で満たされる。今回だってそうだ。『宝具を使用する必要はあったのか』『使わずに勝つ方法は無かったのか』『いつか元に戻れなくなるのではないか』そんな思いで一杯だが、それでもアカリは使う。
>>284
(今大会における目標は示威行為、ひいてはエイレーン一家を『精鋭揃いの穏健派』と言う立ち位置に収めること。強者の元には人が集まるし、眠れる獅子を起こそうとする馬鹿はそういない。穏健派としての体裁を保ちつつ武名を轟かせるのに、この大会は適していた・・・そう、適しては居るんだけどね)
(確かに他の団体からエイレーン一家は軽く見られてる。金も碌に持ってないんだから当然っちゃ当然。だけどアカリ達の治めるシマは風俗街、外道な手段を使えば幾らでも金は湧いてくる。大会で実力を見せつけるなんて不確実な手段に頼る必要はなかった。
結局、エイレーンはシビアであろうとしてるけどさ、やっぱ無理なんだよそれは、人だもん)
(だからこそ、エイレーンはアカリ達が支えないとダメ。割と感情的で、不完全で、優しいリーダー様のためなら多少の無理も致し方無しってね)
己の友一人に無理を強いるクソに成り下がるなぞ御免だ。宝具で変異してしまった方が万倍マシだ。
故にアカリは宝具を使う、後悔はすれども躊躇はしない。ベストを尽くす為なら躊躇しない。
「大丈夫だよエイレーン。ほら、ばあちゃるも『自分が何になろうと目的は果たす』見たいな事言ってたし」
「・・・・・ええ、言ってましたね。私も覚えてマース、色んな意味で大人なんでしょうね、強い人で『10分後に選手表彰を始めるぜ! 三位以内の選手は移動をお願いしま、ちょっ、誰だお前等!?』
>>285
突然流れた館内放送、内容がどうも穏やかではない。部屋の外が騒がしくなり始める。
いったい何だろうかと思い、エイレーンが外を覗きに行くと
「ヒヤハハァッ! 『three day priest』のリーダー、利休・ザ・グレイト様が今日からここの支配者! 俺たちを止められる奴なんざいやしねえッ!」
「「「そこのけ そこのけ 俺らが通る! 平服 恭順 早くせい!」」」
僧服を盛大に着崩した大柄な男を先頭に、意味不明な歌を歌いながら会場になだれ込む坊主集団がいた。
最早ちんどん屋にしか見えない珍集団。法事の場にいれば多少様にもなるだろうがここは闘技場。絶望的に浮いている。
「・・・何だろう、目は見えないけど変な人たちがいるのがハッキリ解る」
「えー、新興の面白集団、もといギャングですね。企業の運送車から装備を奪って巨大化した・・・・・幸運な人達デース」
「企業から盗むとか命知らず過ぎない?」
「あの僧服は、カジュアルさを売りにしたボディアーマー『T-ラック』の派生商品。見た目と用途がミスマッチ過ぎてアホみたいに売れ残った商品デース。
奪われたと言うより、わざと奪わせたんでしょうね。そうすれば在庫処分ついでに保険も下りますし」
「あー、でもなんでこんな所に────あ、戦いが始まった」
部屋の外から響く怒号、絶え間なく響く銃声。しかし不思議な事に、銃弾が人の肉を貫く音が全く聞こえ無い。
アカリもエイレーンも戦闘経験は十二分に積んでいる。メジャーな戦場の音を聞き分けるくらいは簡単に出来る筈なのだが。
不思議に思ったエイレーンが再び会場を覗けば、セバスとエミリーが無双しているのが見える。
>>286
「あ、当たらねえ!? 数十挺のアサルトライフルによる一斉掃射だぞ! 象が秒でミンチになる火力だぞ!?」
「目を閉じてから撃ってみてはいかがでしょうか? そっちの方がまだ当たるかと」
「整理運動にもなりませんわね。セバスはさておき私の体は生身。戦いの後には整理運動をしなければ明日に響いてしまいますわ」
銃弾の雨を散歩でもするかの様に悠々と掻い潜り、萎びた腕を振るって敵を蹴散らす。ただ只管に突貫&蹂躙、シロやスズ相手に見せた巧みな立ち回りは一切使わない。と言うより、使う必要がないのだろう。
「な、南無三・・・・・」
坊主集団を率いていた男が崩れ落ちる。銃声と怒号に満ちていた会場は一瞬静かになり、その直後に歓声と声援が沸き上がり騒がしさを戻す。
『瞬殺! 圧倒! 大勝利! 流石俺らの英雄!!
そんな二人の英雄ですらベスト8止まりとなった今大会! 改めて表彰を始めるぜ!!』
「・・・・・そろそろ行かないとですね。私が二人分の表彰を受けて来るので、アカリさんは留守番頼みます」
「りょーかい。あ、そーだ、写真は撮っといてね」
「もちろんデース」
節々痛む体に喝を入れ、疲れた背筋を直ぐ伸ばし、へたれた口角をキュッと持ち上げる。負けた己を卑下などしない、それが敗者の礼儀。『こんな奴に勝っても嬉しくない』などと思われては申し訳が立たない。
赤髪なびかせ目指すは表彰台。足取り堂々、威風堂々。さあ、二位の栄誉を受け取りに行こう。
>>287
「『消失』の被害状況はどうなんですか?」
「うーん、酷いね。ほんっと酷い」
膨大な情報を移すモニター群、整然と並ぶエナドリの缶、座りすぎてぼろくなった椅子。ここは未来保証機関ブイデア。未来予測を始め、時空間への干渉を可能とする不可思議物体『KANGON』を用いて人類破滅の未来を事前に回避する為に設立された機関。
そんなブイデアの管制室に牛巻りこと木曽あずきは居た。
ギイギイ軋む背もたれにのしかかると、牛巻は不満げに頬を膨らませる。
「特に酷いのが『消失した事に基本気づけない』って所だね。
鉄道の路線や道路はぐちゃぐちゃ、地形が変わりすぎて地図は役立たず。なのに、誰もソレに危機感を覚えられない。『昔からそうだった』としか認識できないから」
数年前から起き出した(と推定される)現象『消失』。人間、施設、土地、消える対象は無差別。消えたモノは最初から無かったと記憶を改変されてしまう。
今のブイデアはこの現象を食い止める為に奔走している。特異点の攻略もその一環。
「ま、悪い話は置いといてさ、シロピーとばあちゃる君の方はどうなん、あずきち?」
ぴょこんと跳ねた金髪をいじり気の抜けた声で牛巻は問う。
『消失』による被害止まぬ今は緊急事態、とはいえ常に気を張るのは不可能。適度に気を抜くのも仕事の内なのだ。
>>288
「『楔』の奪取に向け、順調に進んでますぅ。
ばあちゃるさんとシロさんの間にマスター契約が結ばれていない位が唯一の懸念事項。でもまあ、ブイデアからの供給だけで事足りてるので、無問題だと思います。
それと、つい先ほど時計塔から協力声明が届きました」
「魔術師の学び舎にして探究の場『時計塔』。頼もしいね、信頼はできないけど。
あずきち、相手方の交渉担当は誰?」
「現代魔術科の君主『ロードエルメロイ2世』が直々に来るそうですぅ」
「ロードエルメロイ2世、優秀だけどまだ若いんだっけ。軽視はされてないけど対等にも見られてない感じか・・・・・良し! スケ調整するか! 仕事だ仕事、イエイ!!」
エナドリの缶を開け一気に飲み干す。やたら長い名称の健康物質とカフェインが細胞のすみずみに染みわたり、脳を強引に叩き起こし、仕事の始まりを体に告げる。
ボキゴキ肩を鳴らし、さあ「待って下さい」
「───ん? どしたん?」
仕事に取りかかろうとしたその時、あずきから待ったがかかる。
「外部と連絡が取れるようになった事、本当に言わなんですか?」
「・・・・うん。外部と連絡が取れると教える事は、外部の状況を把握出来ると教えるのと同義。
正直、今の世界は見てて気持ちの良いもんじゃ無い。今の世界を見せると言う事は、不要なプレッシャーを掛けるのと同じだよ」
「それは解ります。ですが、仲間にウソをつくのは可能な限り避けたいです。ウソが露見した時に不要な軋轢を招いてしまう、と思いますぅ」
あずきの瞳、掴みどころの無い紫の瞳が牛巻を見つめる。
その瞳に詰問の色は無い、責め立てる意図も無い。ただの意思確認。だが、答えに詰まるようなら指針変更も止む無し、それくらいの意図は籠められていた。
>>289
「シロちゃん達の戦いが『特異点を解決し、消失させられた世界のパーツを取り返す』モノなら、牛巻達の戦いは『被害を最小限に抑え、一秒でも早く対策を講じて、世界の消失や社会の崩壊を遅らせる』モノ。
モニターは塹壕でキーボードが銃。この戦線だけは誰にも譲れない。僕たちの戦い、もう一つの戦いさ・・・・・って話でウソがバレた時に茶を濁そうと思うんだけど、どうかな?」
「・・・・まあ、バレた時の用意があるなら良いです」
牛巻が調子のいい笑みを浮かべれば、あずきは僅かに呆れたような声で返答する。
「・・・・それが本音でしょうに。変な所で照れが入るのは相変わらず、ですぅ」
「ん? なんか言った?」
「・・・秘密です」
「ええー、ちょっと笑ってるじゃん。良い事があったなら牛巻と共有してよぉ。牛巻とあずきちの仲じゃないか」
「秘密です」
「むー!」
ぬるま湯にインスタントコーヒーを溶かし、目分量で砂糖を入れる、豆は深煎り、量は少なめ。お気に入りのマグカップに注いだコーヒーをあずきはゆっくりと飲む。
牛巻の事は好ましく思っているが、飲料の好みだけはどうにも相容れない。仕事前の一杯はコーヒーに限る。
そんな他愛も無い事を考えながら一時の平穏を楽しむ あずき であった。
ブイチューババトルロワイアルのアーカイブ、何度見てもマジで面白い
結構久しぶりの投稿です! もっとコンパクトにする予定でしたが、想像の五倍位の文量になりました。
後、ちょっとだけ書き方を見易くしました。
細々とした(裏)設定集
『three day priest』
元ネタ:三日坊主
キリスト系のカルト信者の子供達、所謂二世信者が独立して立ち上げた新興のギャング。
キリスト教の逆、、、仏教か! と言ういい加減な発想で仏教に帰依した結果、似非坊主の集団が爆誕した。
役割的にはただの咬ませ&ギャグ要因だが、『力も頭脳も無い奴は運があろうが利用されて終わり』と言う社会のシビア(当たり前)な側面の被害者でもある。
アカリちゃんの変異先
fateのエウリュアレ。
ガチ神霊&視線で魅了する宝具持ちのお方。
ガウェインことカチカチ太陽ゴリラ攻略でお世話になった人は一定数いるはず。
おっつおっつ、シリアス含めいろいろ接種できたわ、牛巻あずきちかわいい。バトロワはいろんな意味で感動した。
>>292
刃牙の最大トーナメント編に、ジョジョのスタンド異能バトルとワンピースの人間ドラマぶち込んだら面白いだろうな、と言う発想の元産まれたモノなので感動してくれたなら嬉しいです!
牛巻あずきちのやり取りは昔から書きたかった部分なので、達成感半端ないです。
>>290
「色々あったけど取り敢えず目的を達成出来て良かったすよ」
「だね、そう言えばピノちゃん。『楽園』にはいつ乗り込むの?」
暖かに光るランプ、趣味の良い調度品、革張りの椅子。ここは屋敷、ピノの屋敷、その応接間。
調度品の数は最低限、見た目も落ち着いた物を使用。そんな居心地の良い応接間の中で、上品なマホガニー製の机を取り囲み座っているシロ、ピノ、双葉、スズ、ばあちゃるの五人。
多少のトラブルは起きたものの、その後はつつがなく表彰式は終了した。今はひと段落ついて休憩中といった感じだ。
「四日後ですね。『楽園』への入居権を得るために金を集めていた訳ですが、その一環として屋敷の家財や宝飾品を相当数売り払ったんですよ。
ただまあ、色々あって相当遅延しましてね」
「あー、もしかしてケリンと鳴神の妨害?」
「その通りですわ・・・鑑定士を脅して二束三文の査定を出させたようでして。撤回させるのが大変でしたよ。
それはそうと、今晩から始まる祭りは知ってますか?」
幼げな美貌に大人びた笑みを浮かべ、ピノはそんな事を言う。オーロラ色の瞳を細めて、心底楽しげに。
シロが聞き返そうとするよりも早く双葉が身を乗り出して反応する。桃色の瞳を輝かせて、待ちきれないとばかりに。
「三日間に渡って開かれる、せいだいな祭り! ごちそう見せ物なんでもあり、街の50周年を祝う大宴!」
「へぇー! 何時ごろから始まるの?」
「後・・・・一時間後くらいかな。身支度とか移動とかかんがえると、そろそろ準備し始めたほうがいいかも」
「OK! 善は急げ、早速準備しよう!!」
>>294
いつの間にか眠っていたスズを起こし、身支度を整え、外に出れば、そこには祭りを待つ人々が居た。
「わぁ・・・・・」
空は夕焼け、楽し気な蜜柑色。ネオンやら広告やらの無粋な光は身を隠し、提灯やら屋台やらの光が取って代わる。
浮足立った人々。小銭を握り締めて辺りを見回す子供、顔を綻ばせる大人に、楽しげに話し合う若者達。
立ち並ぶ屋台。りんご飴、チョコバナナ、焼きそばと言ったお馴染みの屋台に混じる、『夢見保証 ドリームサンド』『天然肉配合 ハート焼き』『出張占い ルルンプイ』などの変わり種。とても気になる。
(縁日で光るヨーヨーとか親にねだってたけなぁ。んでその後、三日と持たずに電池と紐が切れて・・・懐かしいっすね)
「どこからまわろうかな」
「無駄遣いは禁物ですよ」
バンッと景気のいい音を立てて、空に花火が上がる。赤白黄色、飛んで咲いてすぐ消える。毎夏ごとにみかける花火、幾度見てもやはり綺麗だ。
空を見上げていると、どこか聞き慣れたアナウンスが聞こえて来る。
>>295
『よお! お は ク ズ、天開だ。スパークリングチャットの名物司会にして、今日の司会に抜擢された俺!!
只今より始まるは祭り! グーグルシティ50周年祭! 開催会場は──街全域!! 無数の出し物! 無数の屋台! ド派手な神輿!! 存分に楽しめ!!』
『爪楊枝からミサイルまで、エブリカラーファクトリー! 法の天秤を格安でお届け、営利法廷 グロリアース ワンスモア! 只より安い物はない、実験病棟 ブラッドスクウェア!!
お掃除、怪物退治にピザ配達、なんでもどうぞ、職業斡旋所 上島職安! 夢と希望の原産地、複合メディア カヴァ―カンパニー! 何でも預かり〼、パイプホール トレーダーズ!! その他多くのスポンサー様!!!
こんなに大規模な祭りを開けたのもスポンサー様のお陰! ちゃんと褒め称えるんだぞ!!』
「ぶち込んできたな」「スポンサーいないと興行は成り立たないからネ」「ギャラ掛かってるんだろうな」
『都合の悪い事は聞こえないぞ! ヨシ! 50周年祭開始だ!!』
そこら中から上がる喝采、持ち上げられる神輿の群れ、準備万端の屋台達は営業を始めだす。夕暮れは夜へと移り、にも拘らず街は刻々と明るさを増して行く。
「シロ達も回ろっか」
「そうしましょうねハイハ・・・あれ、何か見覚えある人が神輿の上に」
シロがばあちゃるの手を引き、祭りを回ろうとしたその時、ふと神輿の上に見えた人影。見間違いようもない。セバスとエミリーだ。
右側にセバス、左側にエミリー、真ん中には黒い外套を被った人形が載っている。人間大の大きさを持つ木の人形だ。顔の付いたマネキン、と言った方が正確かも知れない。
「あの二人が担がれてるっす、やっぱ人気あるんすね。しかし、あの人形はなんですかねハイハイ」
>>296
「あの人形は『無尽の英雄』を模ったモノだねぇ。この街が設立される前に活躍していた英雄、エミリーちゃん達の一世代前にあたる人だね。
無尽の英雄、尽きぬ刃を振るい、影を祓う者。誰もが憧れる正義の味方・・・って昨日読んだ歴史漫画に書いてあったよ」
知識を披露できるのが嬉しいのだろう、シロの声は自慢げだ。知識の仕入先が漫画と言うのが何とも微笑ましいが。
「はえー、やっぱシロちゃんは物知りですねハイハイ・・・でもなんで『影を祓う者』なんすかね? カカラの事を影と表現するのはちょっと違和感があるような」
「それだけ恐ろしい、得体の知れない存在だったって事だよ。街設立前後の時期はねぇ、『影の時代』なんて言われてたぐらいで・・・ん?」
シロの声がハタと止まり、辺りを見渡し始める。スズが居なくなっているのだ。
前後左右、どちらを見てもスズの特徴的な緑長髪すら見えやしない。ついでにピノもいない、なんなら双葉もいない。
そう、シロとばあちゃる、二人は話している間に置いてかれてしまったのだ。
いつもの数倍は人通りの多い今、いつもの数倍は浮かれてる今。うっかり置いて行かれてしまうのも無理はない。
「ま、まさかシロちゃん・・・これ」
「みなまで言うな、わかってる・・・」
二人は呆然として天を仰ぐ。ああ、花火が綺麗だ。
「どうしよっか」
「どうって、そりゃ、探すしかないっすよ」
二人が選択した行動は捜索。周囲の人に迷惑を掛けない程度に走り、他の皆を探すと言う物。ド定番の行動ではあるのだが、これがとことん裏目に出た。
>>297
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「あれ? シロさんがいませんよ」
「ほんとうだ、探さないと」
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「いました!」
「え! どこ?」
「右のほう・・・いや、左かも。すみません、ちょっと確かめてくれませんか?」
「どこ!?」
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「人波になんか負けない・・・ウワー!」
「ピノさんが人波に呑まれたッ!?」
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「はふっ、はふっ、うま!」
「双葉お姉ちゃん、食べるのもいいけどまずは探さないと・・・もぐもぐ」
「ピノさんの言う通りです・・・熱ッ!?」
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「待て、そこの馬男! 俳優になる気は無いか!」
「え? オイラですか?」
「『馬と白衣──Love in cage──』と言う成人向け映画を構想していてな。頭部を馬にされた男と狂った科学者が愛を育むラブロマンスなんだよこれが!!
まさにお前さんみたいな人が相応しいだろう!?」
「謹んでお断りさせて頂きます」
>>298
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「やっっと合流出来ました・・・て、アレ? すずお姉ちゃんがいない」
「まさか、はぐれた?」
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すれ違い、二次遭難、その他大小トラブル、何やかんやあって数時間後。
「今度こそ全員揃った、よね?」
「ええ・・・今度こそ」
大通りから少し離れた所、人通りの少ない路地裏に五人は集まっていた。
室外機の唸り声と祭囃子が微かに聞こえる。
「迷惑かけてホント申し訳ないっす」
「気にしないで下さい、こういう日もありますよ。
・・・・・とは言え、ちょっと疲れましたね。目ぼしい所に寄りつつ、今日はもう帰りましょうか」
紆余曲折の末に集まった五人、大会の疲労も未だ癒えていない。正直かなり疲れている、帰るべきだろう。
「まつりは明日も明後日もあるし、もんだいない」
「そうですね」
凡その合意に至った所で、大通りに向けて足を「ん?」
────踏み出そうとした足の前に置かれていた、四角い包み。手のひらサイズのソレは茶色い紙に素っ気なく包装されていて、脇には手紙が添えられている。内容はこうだ。
『拝啓 残暑の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
以前の無礼をお詫びしたく、ささやかな贈り物をさせて頂きました。
怪物退治に持ってゆけば多少の助けになるやもしれません。
次回お目にかかる時の思い出話を楽しみにしております』
>>299
書いた人の名前も宛先も書かれていない怪しい手紙。そして包みの中もこれまた奇怪。
「ナニコレ?」
青い蝶の髪飾りと一枚の名刺。そして黒い箱。小さな立方体が組み合わさって出来た黒い箱だ。
髪飾りと名刺はともかく、黒い箱はどう考えても怪しい。普通に考えれば捨てるべきだ。だが───
「貰っとこうかな」
「シロちゃん!? どう考えてもヤバいっすよ」
「大丈夫」
よく考えれば捨てるべきでない事が解る。
青い髪飾り、よく見ればアカリが付けていたものと同じだ。そして名刺、ここにはばあちゃるの名前が刻まれている。
ばあちゃるとその身内以外で名刺を持つ人物、真っ先に候補として挙がるのはエイレーン。準々決勝の際ばあちゃるが武器としてエイレーン達に投げつけていたからだ。
これらを総合して考えると、この手紙の送り主はエイレーンとアカリでほぼ間違いないと解る。凡そ『手助けをしたい、でも恩を売ったと思われたくない』と言った感じだろうか。名前を隠し、その上で『お詫び』なんて体裁を取ってるのもそう考えれば辻褄が合う。
「で、でもほら・・・・知らない人からのプレゼントは受け取っちゃ駄目っすよ」
「大丈夫ったら大丈夫」
「シロさんの言う通り大丈夫ですよ、多分」
「はやくいこー」
「誰が持ちましょうかソレ」
「ちょっ、え!? ばあちゃる君少数派ですか!?」
ばあちゃる以外の皆もシロと似たような反応だ。同じ結論にたどり着いているに違いない。
そんな思考をしつつ、シロは贈り物をポッケにしまって悪戯っぽい笑みを浮かべる。
>>300
大丈夫な理由を教えても良いが、教え無いのもきっと楽しかろう。小さな秘密は女の秘訣、ともいうし。
「早く行こうよ! 置いてっちゃうよ!」
>>301
ばあちゃるの脇を通り抜け、賑やかな大通りへと駆け出す。白いアホ毛を挑発的に揺らしながら。
溜まりに溜まった疲労も今だけは感じない。ただ楽しい。
>>302
「追いついたらこの箱あげちゃおっかなー!」
「待って下さいよシロちゃん! なんで、そんな、速いんっすか・・・!!」
「はしゃいでますねー。シロお姉ちゃん」
「だねー」
「白馬良き・・・・・」
既に息が上がり気味のばあちゃるが後ろを追いかける。その後ろをのんびり歩く三人。
それはまるで、祭りではしゃぐ家族の様な光景だった。
実家に行ったり、大学の課題を片づけたりで投稿がだいぶ空いてしまいました。
.liveの福袋、どれを買うかが最近の悩みです。
ちょっとした裏設定 企業編
『エブリカラーファクトリー』
元ネタ:えにから(にじさんじの運営)
グーグルシティにおける大手工業。怪物の出現によって色々とヤバくなった町工場達が結束して生み出した組織。虹の色をモチーフにした7部門に別れている。
レッドファクトリー:軍事用品 オレンジアーミー:試験運用部隊の管理 イエローファクトリー:大衆向けの日用品 グリーンファクトリー:医薬品の生産 ブルーファクトリー:富裕層向けのハイグレード品 インディゴ・ブレイン:経営陣 パープルゲイズ:監査部門
7部門に別れているのは『そうした方が印象的で、お客さんに覚えてもらい易いから』と言う広告戦略によるもの。
『グロリアース ワンスモア』
元ネタ:フラッシュ世代(グロリアス→光輝く→フラッシュ)
輝かしい地球をもう一度、と言う意味の社名。
怪物の出現によって社会が崩壊した際、なんとかグーグルシティに逃げ延びた政府官僚達が創り上げた会社。『早く裁判所作らないと私刑が横行して治安終わる。どんな形でもいいから裁判所作らないと』と言う信念の元造られた。
従来の裁判よりもお金がかかること以外は割とまとも。判決を守らない相手に私設軍隊送り付けるアグレッシブさも持ち合わせている。
『上島職安』
元ネタ:アップランド
グーグルシティ創設期、街の外壁を作る計画を行った。上島土木(後の上島職安)はその計画のまとめ役だった。
危険な計画を成し遂げた信用と、まとめ役をしていく中で得た人脈を利用して職業斡旋の副業を始めたのが上島職安の始まり。
職業斡旋の方が儲かるようになってからは上島職安と名を変えた。
斡旋の形態としては、なろうの冒険者ギルドin近未来といった感じ。
『カヴァーカンパニー』
元ネタ:カバー株式会社(ホロライブの運営会社)
ネット、テレビ、新聞、色んなメディアが合体して出来てきた会社。現実のテレビ局と大体同じ。
『パイプホールトレーダーズ』
元ネタ:排水溝(アレな性癖の人達が集まる投稿サイト、調べる時はグロ注意)
地下水道に会社を構える変った所。貸金庫と融資、資産運用が主な収入源。末端の社員に至るまで全員血のつながりがあったりする。一族経営(文字通り)。
グーグルシティ以前の地下水道、グーグルシティになってから造られた地下水道、由来不明の地下通路・・・・・等々幾つもの通路が複雑に重なり合っており、そんな地下水道に金庫を分散して配置することで殆ど無敵のセキュリティを誇っている。
>>307
感想書いてくれるだけでかなり有難いです・・・・・誰にも見られないのは批判されるより怖いですから
今回は『駅前とかでやってる祭り』をイメージして見ました!
私服の人と浴衣の人が混ざって歩いて、仕事帰りのサラリーマンが焼きそばや焼き鳥を一つ二つ買って帰る。家の窓を開ければ花火の音が微かに聞こえる。
ちょくちょく変った名前の食べ物が売ってるけど、いざ食ってみると普通の味。でも美味しい。
そんな祭りが個人的に好きです
>>303
屋敷に戻り、眠りに付き、目を覚ませば外は楽しい祭り。一日目程では無いが、それでも充分賑やかな光景だ。
「今日こそ皆で英気を養いに、と言いたいところですが、わたくしは金の受け取りに行かないとなので」
「家財の売却費だよね。シロ達も付き合うよ?」
「ああ、いえ……大丈夫です」
「ホントにぃ?」
「……わたくしは英霊ですよ、大丈夫ですって。ただ、ばあちゃるさんとエミリーさんはついてきて下さると嬉しいです、帰り際に用事があるので」
ピノは何処か歯切れの悪い返答をし屋敷を出る。メイドのエミリーとばあちゃる、二人を連れて。
エミリーの運転する車に乗って暫く揺られ、辿り着いたのは酷く寂れた広場。『街全域が会場』と謳われた祭りの喧騒もここまでは届かない。
街の外壁際に位置する寂れた広場。錆びたトタン屋根のあばら家が疎らに並んでいる。そこらで座ったままジッと動かない浮浪者達、動く気力も無いのだろう。灰色の空気が満ちている。
その広場にただ一つ、店が建っていた。黄ばんだプラスチックの看板に擦れた字で『質屋』と書かれている店だ。中は薄暗く商品は殆ど無い。店員も青白く瘦せた男一人だけ。
そんな店の中に三人は居た。
「……何をお求めで?」
「赤のスーツ、シミ抜き済み」
「あいよ」
ピノがそう言えば、瘦せた男は億劫そうに腰を上げ、札束の詰まったスーツケースをエミリーに渡し、裏口のドアを開ける。
今のやり取りは所謂『合言葉』。子供の秘密基地から悪人のアジトまで、秘密の場所を隠す常套手段だ。
「売却金全額だ。確認したらとっとと通りな」
「………問題ありません。行きましょうピノ様、ばあちゃる様」
裏口のドアから伸びる道、長く暗い道を歩く。
>>309
「それにしてもアクセス悪すぎですわ」
「アクセスの良い所は粗方潰し済で御座いますから」
「恨みとか買わないんですか?」
「物凄く買いますよ。報復で死に掛けた事も何回かあります。
可燃物満載したトラックで突撃された時なんかは、本当に死ぬかと思いました」
「うわ、良く火傷跡とか残りませんでしたねハイ……と言うか何処を潰したんすか? 後、今どこに向かってるんでふかね」
「暗黒街ですよ、過去に潰したのも、これから向かうのも」
「暗黒街!?」
そんな話をしながら歩き、辿り着いた暗黒街。人呼んで『ガイチュウ街』。グーグルシティ外壁の『中』に存在する場所。
かつては外壁を作る為の拠点として作られた場所。カカラの脅威に晒されながらも壁を作る労働者たち、命を張る彼らに夜の安息を。そんな思いにより、労働者の住む場所でもあった拠点は真っ先に壁で囲われることになった。
この拠点から徐々に壁を伸ばすことで街全体を囲み、最後は出入口を全て閉ざすことで外壁の一部となり、拠点は役目を終える事になる。だが、中の建物を壊さずに放置したのが問題だった。閉ざされた出入口は何時しか開かれ、放置された廃墟は悪の温床となったのだ。
街の中にある街、そして人の善意を踏みにじる害虫の巣。二つの意味を込め人はこの街を『ガイチュウ街』と呼ぶ。
壁に囲まれたここは日中でも薄暗い。襤褸切れを着た娼婦に男娼、趣味の悪い服に身を包んだ男、何処か遠くを見てニヤニヤ笑う狂人、その他ロクデナシ&チンピラ多数、何処を見ても殆ど碌な人間が居ない。どす黒い空気が満ちている。
少し耳をそばだてれば、これまた碌でも無い会話ばかり聞こえる。
>>310
「あの嬢ちゃん良いなァ、焼いて喰いてえよォ」「止めとけって、お前が狙おうとしてるの有名人だぞ。手練れの槍使いって噂だ」「そうか、じゃあ煮て食うかァ。隣りの婆と馬で出汁とりゃ旨そうだ」「そうじゃねえよ」
「今年もやるぜ、無法者が嫌いな奴ランキングゥ!! 主催者はこの俺! 新進気鋭の男───鳴神様だぁ!!」
「第一位『スパークリングチャット』、蜜蜂と蟷螂のクソッタレを抱え込んだウゼエ奴ら。どうやったのかは不明! ま、弱みでも握ったんだろうな! な! ・・・・・おいスパチャの奴ら、聞こえてんだろ無視するなよ、ちょっと傷つくだろ」
「まあいいか、第二位『サンフラワーストリート』! 俺の組織だな。何々、『新参者の癖に出しゃばるな』、既存の奴らが弱すぎるせいだろ。『強引過ぎるやり方が受け付けない』、無法者が何言ってんだ。『リーダーが強いだけで他は雑魚』、俺が強すぎるだけだ・・・・・あと、ここに投票した奴らは明日ボコしにいく」
「今日は街設立50周年! 奴隷50%オフだよ!!」「ウマ人間スレイブリィダービー50周年杯!! 飛び込み参加もOK!」「一つ食べれば天国! 二つ食べたら大天国!! 三つ食べれば本物の天国に行けるかも!? 『ヘブンハーブ スナックタイプ』各種フレーバー好評発売中!!」
「賭博で有り金全部スッちゃった。マジ矢場」「うける。人生オワオワリじゃん」「それがそうでもないんよ。カッコイイお兄さんから美味しい仕事貰えてさ」「なにそれ、うらやま」
「マジで物騒な場所っすねここ」
>>311
ばあちゃるは固唾を飲む。スーツの裏に隠してある武器、シロから貰った拳銃に手を伸ばし、コッソリと弾を充填して安全装置を外す。撃ちたくは無いが、何時でも撃てるようにする。
周囲を警戒し始めたせいだろうか、胡散臭いケミカルやら血やらの匂いが今になって鼻をつく。靴越しに伝わる吐しゃ物や生ゴミの感触も不快だ。
「ピノ様、早く用事を終わらせて帰りましょう」
「用事?」
「着いたら教えますよ」
ばあちゃるの質問を往なし、足早に向かう先はとある道具屋。
腐敗臭漂う大通りを進み、何本か路地裏を抜け、そうしてやっと辿り着く店だ。
「ここが目的地っすか?」
「そうです」
『Kessel des Leben』と看板には書かれている。ぱっと見ただの寂れた雑貨屋。閉じたシャッターに書かれた動物の落書きが何とも言えない味を出している。
怖い場所にある割には何てことない見た目で気が抜けたな、なんて思いながら汗蒸れした首を袖で拭いていると───
『リズライヒの奇跡、第三の魔法をもう一度、終わりの終わりをもう一度』
「へ?」
───ピノが何かの文言を唱え、その直後にシャッターが揺らめき搔き消える。
「早くしないと閉じちゃいますよ」
「何も怖い事は御座いません。早くおいで下さいませ」
「あ、はい」
ピノとエミリーは既に店に入っている。ばあちゃるは平坦な声で返事をし、二人に続く。人間、理解を超える事象が起きすぎると逆に落ち着くものだ。
>>312
「いらっしゃいませ〜。ご予約のピノ様ですね、お待ちしておりました」
「お世話になります。すみませんね、急に予約入れてしまって」
「この時期は大して客も来ませんから、気にしないで下さい」
>>313
店内に入り、まず気付くのは内装。考え抜かれた配置のショーウィンドウ、程よい明るさの照明、丁寧に磨き上げられた黒檀の床。並べられた商品に自然と目が留まる。高級店にだって見劣りしないだろう。
>>314
店員の見た目も中々凄い。上品な大人の女性で、髪は白く眼は赤い。紫紺の貴族服と白のロングスカートが貴族的な優雅さを醸し出している。
それらを認識したばあちゃるは、馬のマスク越しに頭を掻きながら
「で、ここは何処なんすかねピノピノ……気になる事が多すぎてそろそろパンクしそうっすよ」
と言った。
外観と内装の差と言い、明らかに魔術由来の隠し方がされてる事と言い、どう考えても尋常の場所では無い。怪しさのバーゲンセール状態だ。感情は一周回って落ち着いているが、論理的に考えれば焦るべき状況なのは間違いない。
冷静に困惑するばあちゃるに対し、ピノは悪戯っぽい笑みを浮かべて質問を返す。
「どこだと思います?」
「うーん……魔術師用の店、なんてどうですかねハイ」
「大正解、ここは魔道具屋です。ばあちゃるさん用の装備を見繕ろおうと思いましてね」
「なーるほど、そういう事でしたんすね。正直どこに連れてかれるか不安でしたよハイ。
いやまあ、ピノピノを信頼していなかった訳じゃ無いんすけどね」
ほっと胸をなでおろし銃の安全装置をかけ直しながら、ばあちゃるはそう言った。銃を使わずに済んでよかったと思いながら。
ピノの事は仲間としてある程度信頼している。だが、それでも不安を感じずには居られなかった。
ばあちゃるは弱い。ピノにとっては散歩に行くぐらいの気軽な場所でも、ばあちゃるにとってはそれなりの覚悟をすべき場所だったりする。今回の『ガイチュウ街』の様に。強者と弱者で見える風景は違う、それは動かしようの無い事実だ。
>>315
それにばあちゃるはピノと違い、自分の意思で特異点の戦いに参加した訳では無い。巻き込まれただけ。無論、ばあちゃるも戦う覚悟はある、だがそれとて。
傷つくのは怖くないが、死ぬのは怖い。怪物相手なら殺しすら躊躇しないが、人を傷つけるのは嫌だ。一般人(ばあちゃる)の覚悟なんてこれでも上等な部類だろう。
そんなばあちゃるを見てか、さっきまでの笑みに少し寂し気な色を足し、ピノは口を開く。
「別に良いですよ、知り合ってからまだ短いんですから。無条件に信頼されても困っちゃいますわ。
……ま、それは良いとして。エミリーさん、使える予算はどれ位になりますか?」
「今回の売却金から、楽園に行くための金額を引くと……ざっと200万ほどで御座いますね」
「200万、ですか。その金額だと質高いのを一つ買うのが良いですわね。
店員さん、200万で買える物ってありますか?」
「そうですね……これなんかどうです?」
期末テストがあり、だいぶ遅くなりました。
それはそうと、シロちゃんの占いで「シロちゃんが異世界転生する話が出るかも!?」と言われてて、ちょっとだけ驚きました
ちょっとした企画
ばあちゃるが手に入れる魔道具の投票を募集します。三個候補を提示するので気に入ったのを選んで下さい。
投票が無かった場合は自分で決めます。
魔術回路付き手袋:魔術師の肉体を色々()して作り上げた手袋。魔力を自己生産し貯蔵する性質があり、所有者の魔術を拳部分に限り強化する(ばあちゃるなら硬化)ことが出来る。
紅いハンカチ:無尽の英雄が身に着けていた聖骸布の切れ端、ソレをハンカチに仕立て直したモノ。魔力を流し込むことで、英雄の動きや身体能力を刹那の間再現することが出来る。強力だが燃費は悪い。
破邪の蹄鉄:
メジャーな魔除けである蹄鉄に魔術的な補強を施した魔道具。聖ドゥンスタンが悪魔を打ち付けるのに使った蹄鉄……のレプリカを使用している。
悪魔や異界の存在由来の力に対して耐性を得る。また、いざという時に幸運を授けてくれる。さらに交通安全の効果もある。
メジャー過ぎるが故に神秘性が少なく、一つ一つの効能はそこまで強くない。だが、ばあちゃるの被ってる馬マスクとの相性がかなり良い為、それなりに効果が増強されている。
(裏)設定集
ブラッドスクウェア
元ネタ:YouTubeの再生ボタン(赤い四角→血の四角)
グーグルシティ最大の病院。治療費がタダになる代わり、治療後に人体実験を受けさせるサービスで有名。
人体の機械化技術を確立させた病院でもあり、研究機関としての側面も持っている。
実験を受けてる間は衣食住が保障される為、疑似的な生活保護としても利用される。
ただし、一度の実験での死亡率が1割を超えることがザラにあり、倫 理観が緩いグーグルシティにおいてもヤバい場所扱いされている。
グーグルシティの親が子供を躾ける常套句の一つとして、「悪い子はあの病院に入れるよ」と言うものがある。
おっつおっつ、シロちゃんなら異世界でも大丈夫だろうなぁとか考えてた。個人的にはうい先生の占い結果は草。装備は紅いハンカチ気になるけどバグばあちゃるになったりしないかなと不安。
>>317
破邪の蹄鉄が良いっすね
他の二つと比べて完全に危機回避に特化してるけどそれがなんか馬っぽい
>>319
一瞬とは言え他人の記憶、しかも英雄になるくらい我の強い人間のを頭にぶち込むので実際ヤバいです。
下手すると桜ルートのエミヤさん見たくなります。
なので、魔力を流し込んでも刹那の間しか発動しないよう、製作者がセーフティを掛けています。
一瞬発動する位なら、多少夢見が悪くなったり頭痛がする程度で済んだり済まなかったり。
>>320
蹄鉄に関してはカッコ良さよりも馬らしさを重視したアイテムなので、そう言ってもらえると嬉しいです
因みに、
蹄鉄:本人らしさ重視 ハンカチ:ストーリー重視 手袋:カッコ良さ重視
となっております
後、投票で同数の物が有ったら、webサイトのサイコロでどっちにするか決めるつもりです
>>316
そう言って白髪の店員が差し出して来たのは、古びた蹄鉄だった。
赤錆の浮いた蹄鉄。ジッと目を凝らせば、槌に叩かれた無数の跡が見える。ルーンや聖句と言った魔道具感のある特徴は見受けられない。普通、そう表現する他に無い。だが普通な見た目が逆にリアリティを感じさせた。
「魔道具って意外と普通の見た目なんすね。まあ、使い易くて嬉しいですけど」
「普通な見た目の方が良いんですよ。下手に目立つ見た目にして、魔術の存在が露見したら事ですし」
「あー、バレたら騒がれそうですもんね……でもカカラとかの怪物が居るのに、わざわざ魔術だけ隠してもそんなに意味ない気が」
「魔術は知られ過ぎると効果がちょっと弱くなるんです。魔術ってのは神秘、解らないけど凄いって感じが大事ですから。
そうでなきゃ───こんな場所に店なんて建てませんって。人通りが増える度に店の場所変えて、気が付いたら暗黒街の僻地ですよ、ビックリです」
店員は紅い眼を嫋やかに細め、手を口に当てカラカラ笑う。やや砕けた口調が妙に似合う。個人経営店特有の距離感、とでも言えば良いのだろうか? とにかく居心地よい。
「ま、それはそうとして。魔道具の解説をさせて頂きますね。これは、聖ドゥンスタンが悪魔を扉に打ち付けた蹄鉄……のレプリカを魔術で本物に近づけた逸品です。
悪魔由来の力への耐性、窮地での幸運、交通安全など様々な効果があります。お客様は馬の被り物を付けているようですし、蹄鉄との相性はかなり良いと思いますよ」
そう言われてみると、この古びた蹄鉄も神秘的に見えてくる。店員に了承を得て蹄鉄を手に取れば、金属の確かな重みが手に伝わる。持った所で特に何も起こりはしない、だが妙にしっくりくる。これが『相性が良い』と言う事なのだろうか。
>>323
正直な所、ばあちゃるはこの魔道具を気に入り始めていた。傷つけるためで無く、守るための力を持っている所に。
非暴力を通せる程ばあちゃるは強くないし、自覚もしている。だが、それでも、暴力は出来るだけ振るいたくない。各々の矛盾から目を逸らして今日を過ごす凡人の一人、それがばあちゃるだ。
そんな矛盾を僅かに解消してくれる魔道具、それがこの蹄鉄。少なくともばあちゃるにとってはそうだった。
とは言え、ばあちゃるはもう一つ困った『矛盾』を抱えていた。こちらは些細な物ではあるが。
「……ピノピノ、『楽園』に行くために金が入り用なんですよね? 本当に買って貰って良いんですかねハイ」
ばあちゃるはオドオドとした声でそんな事をピノに囁く。
……詰まる所、『自分より年下の人間に金出させるのは、人としてどうなの?』と言う矛盾である。散々お世話になっておいて今更ではあるが、目の前で金を出して買って貰うとなると流石に『矛盾』から目を逸らせなくなる。
要は『大人の小さな意地』と言う奴だ。真に下らないが、本人からすれば大事である。
それを察したピノが苦笑いして
「お金は足りてます。大人しく奢られて下さい」と言った。
「でもほら、オイラの保険金解約すれば200万くらい「ここ特異点ですよ、どうやって解約するんですか……もう」
「あ、言われてみればそうですねハイ」
ピノの苦笑いに仕方ない物を見る様な、それでいて少し嬉しそうな目が加わる。
「過去でも相変わらずの……じゃなくて、シロお姉ちゃんとそっくりの天然具合ですわね」
「……? シロちゃんって天然ですかね? しっかりした子だと思うんすけど」
「似た者同士だから解らないだけですわ……それは良いとして、とにかくこれの代金はわたくしが出します」
>>324
会話に一区切りを付けたピノが指を鳴らして、エミリーに札束を差し出させれば、店員はにこやかにそれを受け取り
「税込198万です……それと、他の商品もお買いになりませんか?」
と答える。
その後は『蹄鉄を取り付ける金具付きベルト』やら『英雄の動きを一瞬だけ再現できる魔道具』やらのセールストークを躱しつつ支払いを済ませ、三人は店を───
「お客様」
───出る直前に声を掛けられた。
「その被り物、魔道具で御座いますよね。被り物に違和感を抱かせない意識改変、魔道具であることを隠す隠蔽、夢見を制御する力、マスク越しに視界や聴覚を確保する力、記憶や精神への干渉を弾く力……戦闘向けの効果こそありませんが、かなり強固な概念が込められている、当たってますよね?
もし宜しければ、製作者を教えては頂けないでしょうか。それ程の物を作れる人間とならば、有意義な語らいが出来そうです」
紅い眼をルビーの様に煌かせて店員はそう言うが、ばあちゃるには製作者の心当たりなど無い。思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。
そもそも、これはいつの間にか癖で被るようになった物で……いつの間にか? いつの間にか、こんな印象的なモノを被り始めるだろうか。考える程違和感が止まらない、大会でエイレーンに異常を指摘された時と同じだ。だが狼狽える事は無い。
「スミマセン、言えないです、ハイ。色々と事情がありまして」
「……ああ、ごめんなさいね、変なこと聞いてしまって。お詫びと言っては何ですが、次回は一割引きしますね」
「おお、太っ腹かつ商売上手ですね」
>>325
怪訝な表情をしまい込み、ばあちゃるは平然と答える。
大会の時と違う反応、それも当然。あの時既に『自分が何になろうと目標に向かい歩く』と決めた。だから、ばあちゃるの半端な覚悟でもこの程度の異常なら受け入れられる。
この被り物の来歴は解らない、それがどうした、害が無いなら使えばいいだけだ。思考停止かもしれないが、ただ恐れて避けるよりかはずっと良い。
「ピノ様、ばあちゃる様、そろそろ帰りましょう。折角の祭りを楽しむ時間が減ってしまいます」
「それもそうですわね。では御機嫌よう、お互いの健康を祈っておりますわ」
「またのご来店お待ちしております。祭り、楽しんできてくださいね」
三人は屋敷へ歩を進める。
>>326
車の中でのこと。
「いやー、景色が綺麗っすね。あっちなんか花火の音が絶え間なく響いて……あ、違うわ、デカい発砲音だコレ」
「……ばあちゃるさん」
「ん? どうしたんすかピノピノ」
「ばあちゃるさんは、突然この特異点に来た関係上、知らないことも多いですよね。
唐突ですけど、知ったら得するライトな事実と、知らなくても良いヘビーな事実。どっち聞きたいですか?」
「ホントに唐突ですねハイ……」
「今のばあちゃるさんなら、多少重荷を背負っても大丈夫かと思いましてね」
「そう言う事なら、ライトな方でお願いします。ヘビーな事実を受け止める自信はまだないっす」
「成程、それならライトな重荷を背負わせるとしますわ。
……なぜ、特異点への移動が出来る人間を必要としたか。と言う話なのですが……おっと」
車内がゴトンと揺れる。タイヤが小石でも踏んだのだろう。
「……早い話、最強戦力であるシロお姉ちゃんを最大限活かす為ですわ。
条件さえ整えばシロお姉ちゃんはブイデア最強。
しかしそれは『条件が整えば』の話。今はまだ最強と言い難い」
「なるほど、まだ最強じゃないんすね」
「そこで取った作戦が『各特異点に英霊を送り込み内情を探らせる。そしてシロお姉ちゃんは予め送り込んだ英霊のサポートを受けつつ、簡単と判断された特異点から順に解決し、最強の条件を満たす』と言うモノですわ。
本来は、特異点に英霊だけ送り込むのは無理ですけど、今回は特別。
この特異点の『一部』は、わたくし達の世界を切り取って改変したモノで構成されている。特異点と元の世界はある意味地続きで、強力な使い魔である英霊なら多少の無茶もきく。だから送り込める」
>>327
「……うん、なるほど?」
「ただ、英霊単体だと魔力供給が出来ないんですよね。英霊からしてみたら、魔力供給が無いのは食事無しみたいなもんです、正直ヤバい。
ブイデアから魔力を供給してくれてますけど、正直十分とは言えません。そんな環境じゃシロお姉ちゃんを活かせません。
そこで必要なのがマスター。令呪とか色々持ってますが、英霊に魔力を供給する存在て事だけ……ああ、いつものですか」
外から爆音が聞こえる。ボンネットに何かの破片がぶつかる。何処かの馬鹿どもがドンパチでも始めたのだろう。こんな目出度い日にやらかすとは無粋な輩も居た物だ。
「いつもって、これが日常なんですか……何か怖いっすね」
「ええ、大体週二で遭遇しますわ。
話の続きですが、ただのマスターじゃだめなんですよね。特異点に飛ぶ適性が要るので。
それらの条件を満たしていたのがばあちゃるさん、と言う訳です。他にも理由はありますが、そっちはヘビーなのでまたの機会に」
「思ったより色んな事情があったんですねハイ。
……所で、シロちゃんが最強になる『条件』って何ですか? 教えられないならそれで良いですけど」
「うーん、秘密にする程のものでもないですけど───多分知らない方が良いと思いますよ。
条件自体は大したことないと言うか、満たした人数に応じてシロお姉ちゃんが強くなる感じですわ」
話がひと段落した所で車の速度がゆっくりと落ち始める。窓を覗けば『スパークリングチャット』が遠くに見えた。
「そろそろ到着で御座います。忘れ物にはお気をつけ下さいませ」
「運転お疲れ様です、いつもありがとうございますね」
「ありがとうございますエミリーさん」
「勿体無きお言葉」
>>328
車が止まる。降りようとする直前のばあちゃるにピノが声を掛ける。小さな声で。
「……ばあちゃるさん、今日暗黒街に行った事は秘密でお願いしますね」
「ピノピノが秘密にしてほしいなら、オイラは良いですよ。でもなんで秘密にするんすか?」
「何と無く、お姉ちゃん方にダーティな面をあんまり見せたくないんですよ。
正直今更だと自覚してますし、知られたところで何か有る訳でも無いんですが……それでも嫌なんです」
「あぁ、思春期ですねぇ。そう言う事ならオイラ大歓迎ですよハイ」
「そう言う事じゃないですよ……多分」
車を降り、スパークリングチャットに近づくとシロ達が居た。ピノとばあちゃるを待っていたようだ。
「待ってたよピノちゃん!」
「近くの屋台をまわりながらだけどね」
「『1680万色ゲーミング焼きそば』、目がチカチカして疲れるけど美味しいですよコレ。一緒に食べましょうピノさん!」
「……ええ! もちろん食べますよすずお姉ちゃん!」
みりくるんの衣装どれも良かった、、、、三人の身長が予想以上にイメージ通りでビックリした
それはそうと、幕間の方はぶっちゃけ読み飛ばしても大丈夫です。ただの設定補完なので
長ったらしいので限界の向こう側まで地の文を削りましたが、それでも冗長です……でも書いとかないと矛盾しちゃう……設定だけ脳に直接流し込めれば良いんですけどね
裏設定
馬の被り物
超絶重要なキーアイテムだが、これを掘り下げるのは第二特異点以降(の予定)。
被り物と言う名の通り、頭にすっぽり被って覆うモノ。外から隔離された内部に強固な概念を構築している。
あらゆる物を赤く染める夕暮れの概念を『意識改変』の力でもって定義し
何もかもを暗い帳で覆い隠す夜の概念を『隠蔽』の力でもって定義し
あまねく夢と眠りを打ち破る朝の概念を『夢見の制御』の力でもって定義し
万物を照らし夜の帳を退ける昼の概念を『五感の確保』の力でもって定義する。
これら四つの概念が内部で巡り「一日」の概念を編み上げ、『精神干渉耐性』とする。
いついかなる時も、地球が生まれた時から変わらぬ概念。
昼夜の長さは可変、だが「一日」の長さは常に24時間。そこが地球である限りソレは変わらない。
それ故にこの概念は非常に強固だ。殆ど不滅ですらある。
ガイチュウ街
治安激ヤバ暗黒街、由来は作中での説明通り。
当初は「モノ地区」と言う名前にする予定だった。mono(一つの)から最初に街として成立した場所、一番最初に壁で囲まれた場所と言う意味。さらにYouTubeでよく不快な動画を上げている「モノ」申す系に引っかけてもいる。
しかし、「ガイチュウ街」という名称が語呂良すぎて頭から離れず、こちらが採用となった。
高い壁に囲まれているせいで大部分が昼でも暗い&アクセスが絶望的&都市計画も糞もない状態で作ったので普通に住みずらい→仮にここに巣食う悪党を全員追い払ったところで住もうとする人間が居ない→廃墟に悪党がまた住み着くだけ→無意味
と言った感じで見逃されてたりする。
無尽の英雄
グーグルシティが成立する数年前、初期の怪物が出現し始めた時期から戦い続けてる英雄、特異点の現地民で二番目に活躍した人物でもある。一番活躍した人物達は別にいる(未登場)。
カンの良い人は正体に気づいてると思う。
「無尽」の名の通り、何度壊されようと魔術で新しい剣を取り出して戦い続ける。双剣と弓矢がメインウエポン。街の人間は魔術を知らないので「カカラと人間のハーフじゃないのか」と心無い言葉を掛ける人も多かったが、ひたむきに人を守る姿勢に心を打たれ、そんな事を言う人間達も徐々に「よく解らないけど良い人」と認識を改めた。
セバス&エミリーを始めとして、無尽の英雄に憧れて剣を取った人間が数多くいる。
因みに、英霊が街の一員としてすんなり受け入れられてるのも、この英雄の存在がデカかったりする。
強い人間が一番必要とされる時期に出てきて、期待される以上の働きを(ただ戦うだけでなく、後続を生み出したりなど)したお陰で、超常の力を使う人間に対しての好感度がクッソ上昇してる。
おっつおっつ、みりくるん……良かったよね……。ハンカチか蹄鉄かで悩んでハンカチ選んだけど蹄鉄はそれはそれで見たかったからよし。個人的には蹄鉄のいざというときの幸運が凄いことになりそう(ウマ娘見ながら)
>>332
蹄鉄は「蹄鉄の耐性が発動する、、、詰まり悪魔由来の力持ってるな」的な感じに、相手の素性を見破る試薬としての効果も有ったりしますねぇ
因みにですが、破邪の蹄鉄の神秘の源となって頂いた聖ドゥンスタンには面白い話が結構ありまして、
・教会の床が抜けてドゥンスタンの政敵を叩き落とした(その場にいたドゥンスタンだけは無事)
・蹄鉄を用いて、悪魔の手足を扉に打ち付け「蹄鉄を扉に掲げた家には入らない」と約束させた
・政治も結構有能だった
等々、少ないながらも濃い逸話を持ってるお方です
>>329
夜が更け、幼子はとうに寝る時間。しかし今日は、この日ぐらいは幼子も起きることを許されるだろう。祭りの日ぐらいは。
「ねえ馬、寝る時もそのマスク着けてるの?」
「着けてるっすよ。風呂入る時以外は基本脱ぎませんねハイ」
「すずちゃんって、いがいと小食だよね」
「食べたいって気持ちはあるんですけど、胃がそれについて行かないんですよね。拒否するんですよ私の胃が」
『良いなぁ……牛巻達も美味しい物食べたいよぉ』
「日持ちする食べ物で良ければ持ち帰りますよ、牛巻お姉ちゃん」
『ありがとうピノちん! 最近はあずきちの魔術で呼び出した謎食材で食いつないでたから……ホントにありがたい。
不味い訳じゃ無いんやけど、食べると変な夢を見るんだよね。食えるだけありがたいけどさ』
ばあちゃる達五人は食べ歩きを楽しんでいた。
他愛ない会話にチープな屋台飯。お祭りだから特別感があるだけでやってる事は大して特別でもない。だがそれで良い、それで十分楽しいのだから。
そんな食べ歩きの最中、焼き鳥(タレ)を食べきったばあちゃるがゴミ箱でも無いかと辺りを見渡していると───
「ガハハハ!! ハレの日だってのに退屈な奴らめ!
俺らが退屈をブチ飛ばしてやる!!」
「その通り! 『炎上駆動機構』始動! 空飛べ『ヴリトラ』!!」
>>334
強烈な見た目をした山車が大通りを突き進むのが見えた。いや、山車と言うのは不適切かもしれない。空を飛ぶ機械仕掛けの龍に対しては。
中華的な風貌をしたその龍は優雅に空を泳ぎ、その姿はため息が出るほど雄大。
唐紅の鱗は鮮やかに煌き、精悍な顔は見る者を惹きつける。枝分かれした鋭い角には歴戦の傷、大きく開いた口から断続的に火が吹き出す。太い胴から生えた二本の腕、右の腕に握られた宝玉は目も眩まんばかりの虹光を放っている。とにかく凄まじい。
龍の背に乗って高笑いする鳴神とケリンが居なければ本物と見間違えていたかもしれない。
「「「うわ、何あれ凄い」」」
「すっっご」「何円かかってんだろうな」「中華風なのが好印象ネ」「ボラれたショバ代がこう言うのに使われてるのは、何か複雑だな」
「『サンフラワーストリート』と『エルフC4』の共同制作、ですかね。
やること成すこと全部無茶苦茶ですけど、エンターテイナーとしては一流なんですね、悔しいけど」
「だね……細めにつくった体にホログラムを被せてるっぽい。やってる事はたんじゅんだけど発想がすごい。
ホログラムは『サー・レイへット』に作らせたものかな? 流石のクオリティ」
呆気にとられる三人と民衆、訳知り顔で話し合うピノと双葉。
一足先に気を取り戻したシロがそんな二人に質問をする為口を開く。
>>335
「え!? あれってホログラムなの?
正直、にわかには信じ難いなぁ」
「マジもマジ、大マジですわ。通称『光の魔法使い』レイへット。
『サンフラワーストリート』所属、一流のホログラムアーティスト。彼ならどんな光景でも作り出せます、それこそ魔法の様に」
「普通ギャングにこんな事できないけど、無理をとおす力があるから。
というより、こういうデカい事を定期的にするから力を持ち続けられるというか何というか……」
ふと、呆れと淡い羨望が同居した表情を浮かべ龍を見上げる双葉とピノ。
鳴神とケリン、その性格は自分勝手で刹那的。だが誰よりも自由だ。どんなしがらみも気にせずやりたい事をやり、力でもって勝手を通す。多くの人が心の底で望みつつも実行しない、実行できない生き方。
ピノも双葉もそんな生き方をするつもりは一切無い。だが『不都合を後先考えずパワーで解決したい』と言う願いが無いと言えば、それはウソになる。『楽園』のクソ分厚い壁を叩き割り、中に潜むカカラの元凶をプチリと潰す。そんな力が欲しいと思った事は何度かある。
「鳴神によるデザイン!」
「ケリンの野郎がした設計!」
「「渾身の共同制作、とくと見ていきやがれ!!」」
「高度もっと上げてくれ鳴神!」
「言われずともやるつもりだ! 『炎上駆動機構』出力上昇……あ、やべ。やりすぎた」
「あーあ、物凄い飛び方してるよ」「落ちて……は来ないな」「安全装置があるんでしょ」
>>336
あらぬ方向に飛び上がり始めた龍、どうやら何かトチった様で二人は慌てている。最も周囲は失敗含めて楽しんでいるが。
龍の宝玉から放たれる光があちこちを出鱈目に照らす。ミラーボールの様に、カラフルに、賑やかに。妙な話だが、優雅に空を泳いでいた時よりも今の方が『グーグルシティ』らしくて様になっている。
「……フン、運用テストしないからそうなるんですわ」
「……らしいと言えば、らしいけどね」
無意識に伸ばしていた手を戻し、二人はわざとらしく鼻で笑う。ガラにもない事をしている自覚はあるが、そうせずにはいられなかった。
焼き鳥(塩)に被りついて一気に食べきり、串を捨てる場所を───
「「……なにアレ」」
探していると、不穏なモノが目に入る。
「あの人影なんだ?」「出し物にしては不気味すぎるよな」「アレを見てると、何故か頭が痛くなるのう……」
ピノと双葉の言葉に呼応するように静かな騒めきが広がる。賑やかだった空間にさざ波の如く沈黙が広がる。それも当然だ、明らかに異様な影がビルの間を飛び跳ねているのだから。
人の形をした影、異常に長い右腕、全身黒の装い、顔には骸の仮面が縫い付けられている。全身が暗い靄に包まれていて只管に不気味だ。
肉体を機械化した人間も多いこの街だが、それでもこの見た目は異様に過ぎる。
「……ん? なんだアレ凄いパルクールだな。鳴神、お前んとこのパフォーマーか?
『サンフラワーストリート』がアーティストやらパフォーマーやら沢山抱えてんのは知ってたが、あんな奴もいたとは知らなかったぞ」
「今制御で忙しいんだが……あん? あの黒い奴か? 俺は知らんぞあんな奴。
しかし何というか、パントマイムやマジックならともかく、パルクールに髑髏の仮面ってのはセンスねえな」
>>337
周囲が静かになる中、二人だけは相も変わらずのんきな会話を繰り広げる、龍の体勢を立て直しながら。
何故そこまで余裕なのか? 己の強さを自覚しているからだ。例え襲われようとも普通の人間相手に遅れは取らない……そう、普通の人間相手なら。
「ガハハハハ! 確かにそうだ……ッ!?」
余裕の笑いをしていたケリンの背後に例の人影が突如現れる。確かに油断していたが背後を取られる程では無かった筈。相当な手練れだ。
そもそも空を飛ぶ龍の背に飛び乗れること自体可笑しい。英霊の二人ですら、足を縄で固定して振り落とされない様にしてると言うのに。
背後に立った影はナイフでケリンの首を搔っ切ろうとしている───最も、それを許す程ケリンは弱くないが。
「嘗めんなよオイ」
咄嗟に取り出した拳銃を───撃たず背後に投げつける。スキルで爆弾に変えて。
銃を撃つ、と言う行為には『狙いを付け引き金を引く』プロセスが必要だが、投げつけるだけなら速い。
首を落とそうとしていた影にすんでの所で拳銃が接触し爆発する。手練れの影もこれには堪らずよろめく。
「これで……クソッ! あんま効いてねえな」
顔に付いた煤を払い口の中に入った分は唾に溶かして吐き出す。今ので顔と手を一部火傷した、大して痛くは無いがムカつく。
>>338
至近距離で爆発した故ケリン自身もただでは済まなかったが、やらなければ殺されていた。それは仕方ない。
それより問題なのは敵が予想以上に固い事だ。爆発をモロに喰らったのにも関わらずそれ程ダメージを受けた様子が無い。コアを叩けば死ぬカカラより化け物じみている。
鳴神とケリンの二人、昨日行われた大会の後エイレーン一家の事務所にカチコミし撃退されたばかり。装備も体力もかなり消耗している。そんな状態で固い敵は正直キツイ。
「どけケリン、俺がやる」
「お前は龍の制御をしないとだろうが。墜落して地面とキスするのは御免だぜ」
ケリンは軽口を叩きながら思考を回す、目の前の敵が体制を立て直す前に。
鳴神は龍の制御で手を離せない。あいつのスキルで出した炎を動力源にするのは良いアイデアだっただが、まさかここで裏目に出るとはな。
手榴弾が一つ手持ちに有るが無意味、威力が高すぎてこの距離じゃ使えん。
俺のスキル『触れた物体を爆弾に変える能力』で爆破したい処だがアレは幾つか弱点がある。『爆弾に出来る物体の質量に上限がある』事と『爆発の威力は質量に依存し、調整出来ない』事の二つだ。普段は石や鉄くずをポッケに詰めて小回り効く様にしているが、昨日使い切ってからまだ補充してねえ。
宝具を発動すれば……無理だな、発動する際に隙が出来ちまう。発動した瞬間に首を搔っ切られるのがオチだ。
フィールドも宜しくない。転落防止のため足を縄で結んでいるから自由に動けないし、爆弾に変えられるモノが見当たらん。
兎にも角にも決定打が無い、どうしたもんか、戦いが長引いて龍が墜落しようもんならペシャンコに……それだ!!
閃きを得たケリンは指を鳴らす、顔が歪むほど強烈な笑みを浮かべて。
>>339
「おい鳴神ィ! 炎上駆動の出力MAXにしろ!!」
「あぁ!? な事して何の意味が「説明してる時間はねえ! 影野郎をぶっ飛ばす為だとっととやれ!」
「……チッ、しくったら許さんからな!」
鳴神は舌打ちしながらも言われた通りに出力を上げる。機械仕掛けの龍のエンジンに過剰量の炎が行き渡り烈しく駆動させる。赤熱させる。煌々と。
例え友人からの物であっても頭ごなしの命令に従うのは癪だが、盾突いてきた影野郎を潰す為なら仕方ない。ありったけの炎を供給してやろう。
「……!?」
上下左右360度、龍は縦横無尽に飛び回り始める、ジェットコースターの様な速度で。そうなれば影はマトモに立っていられない、強烈なGに振り落とされてゆく。だがケリンと鳴神は縄で足を固定しているから振り落とされる事は無い。
高い所から落ちればどんなに硬くても無事じゃすまない。あのしぶとさじゃ死にはしないだろうが。
「グゥぅあアア!!」
───だが敵もさる者。異様に長い右腕で龍の体にしがみ付き、左の手でナイフを投げつけようとしている。揺られる様は風に吹かれる枯れ葉の如く、遠心力によって肩は抜け、龍が方向転換する度に体が打ち付けられ、それでも手を離さない。
「チィッ! ……無傷で勝つのは無理か」
ここに至って初めてケリンは完全な勝利を諦めた。強烈な笑顔はそのままに目だけが笑うのを辞めた。確実に『殺す』ために。
自身の足を縛る縄に触れて爆弾に変え、即座に起爆させて縄を消し飛ばす。少なからぬ火傷を負う。
直後、猛烈なGをモロに受け吹き飛ばされそうになる、吹き飛ばされる前に影の方へ飛ぶ。
両足の靴を爆弾に変え、小爆発を伴った右足の蹴りで影を叩き落とす。右足から複雑骨折の痛み。
「コロス、コろス!」
>>340
影と共に下へ落ちる。落ちながらも手を伸ばして来る影に何処からか銃弾が飛来して邪魔をする。
大地がすぐ下に見える、幸いにも人はいない、大半は既に退避している様だ。左靴の爆発でもって落下の衝撃を殺す。殺しきれなかった落下の衝撃、両足の複雑骨折。痛すぎてもう訳が解らない。
痛む体、グシャグシャの足に力を入れて立ち、一緒に落ちた影の様子を確認する。動く様子は無い、死んだか。爆発の衝撃でかなりの落下スピードが出ていたのだ、これで生きている訳がない。
「流石に殺すつもりは無かったんだがな……まあいいか、最初に手ェ出してきたのはお前だし」
ケリンの顔にホンの一瞬後悔が浮かぶ。仕事柄何人か殺してきたが、この後味の悪さだけはどうにも消えない。多分一生消えないのだろう。
ケリンの顔から後悔が消える。どうせこれからの人生も血生臭いのだ、いちいち引き摺っていられない。
「オイオイ大丈夫かよケリン! ”俺のお陰で”勝ったとは言え、それじゃマトモに歩けねえだろ。迎え呼んで来るからそこで待ってろ!」
「おう……頼んだ!」
上から聞こえてくる鳴神の大声に、こちらも大きな声を絞り出して答える。
「……流石に疲れたぜ」
ポツリ呟く。火傷と骨折まみれの体を引き摺り壁に寄りかかる。遠巻きにこちらを見詰める民衆共を一瞥し、焦げ目の付いたマルボロを吹かす。
空を仰ぎ見れば曇り夜空が見え、耳をすませば徐々に戻り始めた喧騒が聞こえる。口に滲む血の味と匂い。爛れた肌に夜風が染みる。
「そこの銀髪少女。さっき俺が落ちてる時、影野郎へ銃を撃ったのはお前だろ? ……受け取れ、礼だ。企業の研究所からパクった最新鋭のブツだぜ」
>>341
ポケットをまさぐり、ケリンはシロに向かって手榴弾を放る。勿論ピンは刺したままで。
「ちょ、あぶな!? ピンを刺したままとは言え危ないよ! ……ま、ありがと」
「おお! カッコイイ! 底に付いてる点滅する奴とか特に!」
「点滅……? ……、……、これ盗聴器ですわね」
「ガハハッ! 俺がタダでモノ渡すわきゃねえだろ! 因みにもう一個付いてるから探しとけよ!」
シロ達のジットリとした目線の先で豪快に笑う。因みに盗聴器が二個付いていると言うのはウソだ、二つ目が見つからず慌てふためく姿が目に浮かぶ。
しかし何というか、人を簡単に信じるあの有り様を少し眩しく感じる。成りたいとは思わないが。
きっとこれからも心の底で人を信じて生きるのだろう。見知らぬ誰かを助け、見知らぬ誰かの無償の善意に助けられて生きるのだろう。だが悪の道を突き進むケリンは、金や権力を手に入れることは容易くても『無償の善意』だけは中々手に入らない。
シロの善意にお礼の品を返したのは細やかな意趣返しだ。敵対関係である己にすら向けられた『無償の善意』に対しての。
「おお、早速迎えが来たか。あばよ! ありがとな!」
早速来た迎えの車に颯爽と───とはいかないまでも、それなりにスムーズな動作で乗り込む。仮にも英霊、気合である程度はどうにかなる。
乗り込んだ数秒の後に車が発進する。窓から見える景色がゆっくりと流れていく。
>>342
「…………」
街の景色を見ていると昔を思い出す。記憶喪失の状態で街に放り出されたあの頃を。
あの頃は食う物も無く、仲間も頼れる人も誰一人おらず惨めだった。それが嫌で、奪う側に回りたくて悪の道を突っ走った。そこに後悔は無い───だが、自分が記憶喪失する前は何をしていたのだろうかと、そんな事を度々考えてしまう。
ケリンを乗せた車はただ走る、目的地に向かって。
>>343
深夜11時。あの後も遊びに遊んだシロ達五人は屋敷の大広間にいた。ビロードのカーテン、その隙間から夜空が見える。
本来ならもう寝る時間なのだが、セバスとエミリーたっての願いで大広間に集められていた。
「……お時間を取って頂き、ありがとう御座います」
「この度は今すぐ話すべき事があり、この様な場を設けさせて頂きました。今日出現した影についての話です」
セバスもエミリーも普段と違う顔を見せている。普段の柔和な顔では無い、戦う時の誇りに溢れた顔でも無い、只管にくたびれた顔だ。
「あの影は怪物、記憶と記録から抹消された旧い怪物です。『シャドウサーヴァント』とも呼ばれておりました」
「五十数年前、この街が出来る前の頃。まだカカラも怪物もおらず平和だった世界に突如現れ、既存の文明の大半を滅ぼした怪物で御座います。
誰もが家族を失い影に怯えて暮らしておりました。影に立ち向かった、かの無尽の英雄がいなければもっと死んでいた」
「そして五十年前、無尽の英雄が影を根絶しました、方法は解りませんが。そして影と入れ替わるように出現し始めたのがカカラです……カカラも十分に怪物ですが影に比べればマシでした。少なくとも、人類がある程度再興出来る位には」
そこまで語るとフゥと長く大きく息を吐く、一息つく。老いてなお強者であり続けた二人も今ばかりは年相応に衰えて見える。
>>344
「影の齎した被害を忘れる様に『冬木市』は『グーグルシティ』へ名を変え、あらゆる記録から影は抹消されました。そして……数十年前の事でしたかね。記憶を消す技術が生まれて、人々の記憶からも影は抹消されました」
「しかし、わたくし達を始めごく一部の人間は記憶を持ったままで御座います。万が一あの影共が復活した時、すぐさま対応できる様に」
「私もエミリーも無尽の英雄に憧れて剣を取った、肩を並べて戦った事もあります。その過程で戦う勇気や覚悟を学ばせて頂いた。ですが、ですが……それでもまだ恐ろしかった、皆様の目的を思えば万全を期す為にも語るべきだと解っていても、それでも躊躇してしまった。申し訳ございません」
皺枯れた重い声でそう言うと、二人の老人は深く頭を下げ───「あやまらなくて良いよ」
謝ろうとする二人を制す者がいた、双葉だ。
「いなくなった筈の存在がまた出てくるなんて想定できる訳ないんだから」
「ですが双葉お嬢様───」
「言わなかったことでおこった被害はなかった。だからこの話はおわり」
穏やかな声、柔らかな笑顔。旧来の友人に接するかの様な雰囲気、それでいてある種の威厳も感じる。周囲の人間は誰一人として双葉に口を出さない、口を出さずに見守っている。
確かに影の存在について語らなかったのは二人の失態だ。影の存在を知らないまま『楽園』に侵入し、そこで初めて出会おうものなら人間だと思って殺す事を躊躇していただろう。
アレは人の形をしていた、怪物だと知らなければ人間に見えるだろう、明らかな異形であるカカラと違って。それに何より、あの影は片言ながらも「殺す」と人の言葉を発していた。
>>345
では何故双葉は二人を咎めないのか。それは双葉のエゴだ。
『楽園』に行くための段取りをここまでスムーズに整えられたのは二人の力が大きい(勿論スズ、ピノ、シロ、ばあちゃるの助力もあってこそだが)。エイレーン一家との交渉の決め手になった映像『楽園の声』を取って来たのはエミリーだし、セバスの名声が無ければ『スパークリングチャット』に出されるちょっかいはもっと多かっただろう。どれ程強かろうと自分等は余所者、大多数の人間は実績しか見ない。
だからこそ双葉は、この程度の事で二人の頭を下げさせたくなかった。
それは紛れもないエゴ、我儘だ。だが双葉は二人の主だ。だから我儘で良い。
エゴも無くただ正しい判断を積み上げる君主がいたならば、それはそれは完璧な人間だろう。だが完璧な人間は孤独だ、他人の入る隙間が無いのだから。そして孤独な人間に君主は務まらない、他人に動いて貰うのが君主の役目だからだ。
「───承知致しました、双葉様。それでは影の弱点だけ申して今日はお開きにさせて頂きたく」
「影の弱点はズバリ心臓で御座います。貫けば即死、皮膚の上から衝撃を与えるだけでもそれなりに怯みます。やられる前にやる、それがコツです」
いつもの柔和な表情を浮かべてそう言うと、二人は静かに引き下がる。
「いやはや敵いませんな、どうにも」
「ですねぇ……ところでアナタ、頼んでおいたベットメイキングは済ませた?」
「……ああ、最近は忘れっぽいですな、どうにも」
遠くでセバスが頭を下げているのが見える。まあ、アレは止めなくても良いか。夫婦の話に口を挟むのは無粋だろうし。
ガリベンガーのイベント良かった、空色デイズが特に。グレンラガンとキルラキル好き、プロメア一番好き。
それはそうと、シロちゃんと馬がちょっとだけ言及してた『影の時代』の名前はシャドウサーヴァントが跋扈していた時代の名残です。
・武器もった素人の馬でもカカラが倒せた(シロちゃんのサポートとは言え)、カカラはゾンビの様に感染して増えたりする訳でも無い
・グーグルシティに比べてニーコタウンの外壁が貧弱なのにも関わらず、十分カカラを防ぐ壁として成り立っている。
・カカラがいるのに街の外に進出する人間が一定数いる
・影の時代と言う名前
辺りが一応伏線のつもりでした。
因みにこの特異点は、FGOの炎上汚染都市冬木の別世界線をイメージしてます。どうにもならなかったのがFGO世界線、現地のfate勢が色々頑張ってどうにかしたのがこの世界線って感じです。
色々の部分はまだ隠しておきますが、「影と入れ替わるように出現し始めたのがカカラ」の発言を見れば何となく察せるかもです。
細々とした裏設定
影の時代
量産型シャドウサーヴァントが人類ジェノサイドしてたヤバい時期。たった数年で文明が大体消えた。
歴史から消されるレベルでヤバい。
セバスとエミリーの名前
辛い過去と決別する為、仲間(結構前に言及した『竈馬』の事)につけて貰った名前。だから厳密に言うと本名じゃなかったりする。
魔道具屋
店名を日本訳すると「生命の巨釜」。
アインツベルン家が時代に適応した結果、店員の正体はあえて秘密。魔術で若さを保ったイリヤかもしれないし、その末裔かもしれない。
サー・レイへット
サンフラワーストリート所属のアーティスト。ホログラムの扱いを得意とし、マジックや簡単な大道芸もこなせる。
長身瘦躯を派手な服で包んだ、如何にもな見た目をしている。
浪費癖が酷く、借金をこさえまくった末にサンフラワーストリートへと転がり込んだ。
>>349
第一特異点と言えばシャドウサーヴァントみたいなとこありますから、やっぱ外せないです
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