バーチャルグランドオーダー
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1 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/11/10 06:35:39 ID:e2ryl5IgSn
鯖化Vtuberを皆で妄想するスレ様から着想を頂いて書くSSの長い奴です

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163 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/30 20:30:27 ID:79Zlua7r9W
>>162
「どうしたんすか馬越さん?」

「いや、ね。エイレーンさんの言っていた『綺麗事を通す為には沢山のウソと暴力が必要』と言うセリフ、馬越に刺さるなぁと思いましてね」

「悩みが有る感じっすか」

「ええ、少し愚痴を吐いても良いですか?」

「勿論。オイラで良ければ付き合いますよ」

 馬越は根本まで吸った煙草を灰皿に捨て、ポツリポツリと話し始める。

「馬越の所属している『岩本カンパニー』の目的は、『グーグルシティの外に点在する難民コミュニティの支援』です」

「素晴らしい目的じゃ無いですか」

「目的は、我ながら素晴らしいんですけどね。現実は中々上手く行かないですよ。何にしても金が足りない、やってる事は殆ど慈善事業なので収入なんか殆ど無いですから。本当なら汚い事やってでも金をひねり出すべきなんでしょうけどね」

「目指せる時点で凄いと思いますよハイ」

 ばあちゃるの慰めに馬越はゆるゆると首を横に振り否定する。

「ばあちゃるさん。結果は出てないけど頑張りました、で褒めて貰えるのは子供までですよ」

「そりゃ、そうっすけど」

 ばあちゃるは歯切れ悪く答えを返す。
 咥えたままの煙草が所在なげに揺れる。

「、、、すみません。今のは八つ当たりでしたね」

「そう言う時もあるっすよ」

「そう言ってもらえると有難いです。では、馬越はそろそろ」

「あ、ちょっと待って下さいっす」

 帰ろうとする馬越をばあちゃるが呼び止める。
 少しだけ面食らった顔の馬越に質問を投げかける。

164 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/30 20:32:52 ID:79Zlua7r9W
>>163

「一つ質問なんすけど、なんで馬越さんは岩本カンパニーに入ろうと思ったんですか?」

「なんで、、、ですか。そうですね、『理不尽な事を見ると腹が立つ』からでしょうね。許せない訳じゃないんですよ、ただ腹が立つんです」

「だから岩本カンパニーに入ったんですねハイ」

「そうです、街に入れずカカラの脅威に晒される難民が居る、と言う理不尽には昔からムカムカしてたんですよ。だから岩本カンパニーの仕事は馬越の天職でしたね」

 微かに熱を帯びた声で馬越は語る。
 理知的な茶色い瞳の奥に情熱の光が灯る。


「ま、理由はそんな所ですよ」

 馬越は二本目の煙草を取り出し火を付ける。

「おや、二本目行っちゃうんすか」

「普段は一本で終わりですけどね、今日は特別です」

 両の目を閉じ吸い込んだ煙をゆっくりと味わう。
 赤く静かに燃える火が、煙草の胴をジリジリと燃やし灰に変える。

「こんなに愚痴吐いといてなんですけど、馬越はやり方を変えるつもりは無いですね」

「そうなんすか?」

「理不尽が大嫌いな馬越が『正しい事をする為に汚い事をしなくちゃいけない』なんて理不尽、我慢出来る訳が無いですからね。例えエイレーンさんの言っていた事が事実でも、それが確定するまで馬越は過程にこだわり続けますよ。今日みたいに妥協したくなる日はありますけど、そこで妥協したら一生後悔すると思うので」

165 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/30 20:33:18 ID:79Zlua7r9W
>>164

「何というか、大変な生き方っすね」

「全くです。でもほら、馬鹿と煙は高い所へ、、、なんて良く言うじゃ無いですか。だから馬越も馬鹿の一員として高い理想を持ち続けてやりますよ」

「アハハ、じゃあ馬鹿仲間としてお願いがあるんすけど、二本目貰えますかハイ」

「勿論良いですよ」

 グーグルシティの片隅で二人分の煙が立ちのぼる。
 煙は高く、空高くのぼっていた。

166 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/30 21:01:00 ID:79Zlua7r9W
物理実験のレポートやらなんやらが重なり、結構忙しかったのでかなり短めです、、、、、


馬越さんとエイレーンさんは立場や考え方をかなり対照的にしてみました

目的に向かって邁進しつつも現実との兼ね合いに苦しんでいる、と言う点では同じでも、それぞれの向き合い方は違う感じですね

(この作品内においては)未だ大きな挫折を経験していない馬に対して、『今は良いけど、壁にぶち当たった時どうするの?』と言う問いかけを遠回しに投げかける役割も担って頂きました


細々とした設定
岩本カンパニー
元ネタ 岩本芸能社
グーグルシティの外に点在するコミュニティへの支援を目的として生まれた民間企業
民間企業と言いつつもやってる事はほぼボランティアであり、収入の殆どはパトロン頼り。
メタ的な話をすると味方サイドに金があると話があっという間に終わる為、味方サイドの組織は基本貧乏になる。

グーグルシティから遠くに行く事が多い岩本カンパニーと、『楔』の探索をする為遠方の情報も欲しいブイデアとで利害が一致しているため、緩やかな同盟関係を組んでいる。

167 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/31 10:07:15 ID:LoahYLeD14
おっつおっつ、ご無理はなさらぬよう……

168 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/05/31 18:29:06 ID:gbhVIh5Ybo
>>167
無理のない速度で書いてるので大丈夫です!
受験終わってからずっとダラダラしてたせいで大分鈍っているだけなので、感覚が戻れば問題なくなると思います

169 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:42:08 ID:kt/WmDD8N0
>>165
『準々決勝最終試合! 『グーグルシティ防壁構築戦線』『カカラ変異種異常発生』『マフィア連合によるクーデター』『同時多発サイボーグ狂化テロ』、、、様々な街の危機を救った英雄夫婦! 『蟷螂』のセバスさん&『蜜蜂』のメアリーさんVS謎の少女シロ&ニーコタウンの大ボス神楽すず!! 互いに劣らぬビックマッチだぜ!』

「ガキの頃に何度も本で読んだ英雄の戦いが見れるとは!」「ニーコタウンのボス、お手並み拝見だな」「シロ、、、、あんなに強い娘どこから来たのかしら」

 沸き立つ闘技場、戦いの始まりを待ちきれない観客達の前に四人の戦士が躍り出る。

「二つ名で呼ばれると恥ずかしいんですがね、、、」

「変な所でシャイなのは老いても変りませんわねアナタ」

「すずちゃん、作戦は覚えてるよね」

「勿論です、、、、えっと、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、でしたよね」

 真っ白な髪に髭を蓄えたセバス、フォーマルな執事服の袖は捲り上げられ、露わになった二本の腕からはそれぞれ大きな刃が飛び出しており正にカマキリと言った風体だ。
 古風なメイド服に身を包んだ老婆エミリー、メイドらしい上品な立ち姿の中で左腕に取り付けたパイルバンカーが凄まじい異彩を放っている。
 白髪の美少女シロが携えるのはハンドアックス。愛用している銃は大会のルール上使用出来ない為お休みだ。
 眼鏡がよく似合う緑髪の少女神楽すず、その手に持つは暴力の化身釘バット。愛用の火炎放射器はシロと同じくお休みとなっている。

170 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:43:28 ID:kt/WmDD8N0
>>169
『試合、、、、開始!』

「行くよすずちゃん! まずはセバスから倒そう!」

「ハイ! 絶対にた、、、うわぁ!?」

「急がば回れ、で御座いますよ」

 シロとすずは二人掛かりでセバスに近付き、襲い掛かろうとした瞬間すずの背後に現れる影、エミリー。

『相手の意識の隙間をすり抜ける移動方! 熟練の』

「いつ背後に!?」

「御二方はセバスに意識を向けている様子でしたので。それ」

「つっ、、、!」

 エミリーの左腕がゴウと唸り鉄杭を吐き出す。避けづらい胴体を狙って放たれたソレを、すずは身を屈める事で辛うじて避ける。
 真っ黒な鉄杭の先端がすずの背中に触れてそこで止まり、パイルバンカー本体に帰っていく。額に玉のような汗が幾つも浮かぶ。

『蜜蜂の針がすずを襲う! 誰もが恐れた必殺の一刺し!!』

「、、、、クソ! お返しだぁ!」

 振り返りざまのフルスイング。豪風を巻き起こし迫るスズ渾身の一撃はーーー間に割り込んだ二本の刃に防がれる。

「私を忘れては困ります」

「忘れてなんか居ないよぉ! おほほい!」

 シロがアホ毛をぴょこんと揺らし、すずの攻撃を防ぐため足を止めたセバスに手斧を叩き込む。

 素早さに重点を置いた一撃。武器を振り上げる、と言う動作を切り捨て、代わりに前方への踏み込みと体重移動でもって手斧を加速させ最小限の威力を確保した、叩き付け。

171 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:45:19 ID:kt/WmDD8N0
>>170
「くらえぇ!! おじいちゃん仕込みの斧術!」

「甘い! エミリー!」

「はいはい」

『おおッと!? エミリーさんのパイルバンカーがシロ選手を掠めた! セバスさん越しの正確な一撃だ!!』

「ちょっ、マジィ!?」

 シロは自身の直感に従って首を捻る。さっきまで首が存在していた場所を鉄杭が掠めていく。
 もし当たっていればシロはそこで終わっていただろう。

「シロさん!」

「シロは大丈夫。やっちゃって」

「ハイ! 行くぞ私は!!」

『すず選手の全身が緑色の光を帯びたぜ! 何か来る!』

「おっと、これは不味い」

 全身から緑色に光る魔力を放出するスズが、右足を力いっぱいにドンと踏み込む。次の刹那すずの右足を起点に魔力の爆発が巻き起こる。
 何が起こるのか知っていたシロはいち早く距離を取り、続いてエミリーを素早く抱き上げたセバスが後ろへと飛ぶ。

「ぐっ、、、少し重くなったんじゃないか、エミリー」

「アナタの足腰が老いたんですよ」

 結果として、相手から距離を取ることには成功したが、相対する二人にダメージを与える事は出来ていない。これでは振り出しに戻っただけだ。
 むしろすずちゃんの大技を使わされた事を考えるとマイナス。あれは何度でも使えるモノでは無い。蒼い瞳を悔し気に細め、シロはそんな事を考える。

172 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:46:48 ID:kt/WmDD8N0
>>171
 巧い。シロは二人をそう評価する。

 エイレーン一家の超人的な戦闘技術、ピーマンやパプリカの常識外れなパワー、馬越のような特別な種族の生まれ、鳴神やケリンみたいな強い能力、二人にそれらの強みは無い。いずれの要素においてもシロ達とそれほど差はない。
 強いて言うならばあちゃるが近い。自分に出来る事を把握し、適切なタイミングで適切な行動をする。ばあちゃると違うのはその完成度だ。
 数多の修羅場を潜り抜けた、数十年分の濃密な経験が二人の強さを強固に支えている。

 では、それらを踏まえた上でシロとすずちゃんが上回っているものは何か? それはきっとーーー

「すずちゃん、作戦変更するよ」

「解りました。どんな作戦ですか?」

「賢く行って、ぶっ飛ばす」

「了解です、、、けどどうしてですか?」

 ーーー若さだ。
 首を傾げるスズに、シロは指を二本立てて説明する。

「まず一つ、エミリーちゃんのパイルバンカーは当たればお終い、だから隙は少ない程良い。
二つ目、あの二人はとっても強いけど、それでも老いてるからね。タフネスやスタミナは少ない筈。なにか当てさえすれば勝利は近づく」

 そう言われたすずが相対する二人をよくよく観察してみれば、セバスの白く老いた髭の間からは既に乱れた息が漏れ、メアリーの立ち姿には僅かに疲れが見える。

173 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:48:28 ID:kt/WmDD8N0
>>172
「確かに。じゃあ、、、、下の方を、ちょっと破壊!」

 すずの獲物がゴルフクラブのような軌道を描き疾走する。背後から前方へ、闘技場の床を砕きながらバットを振り抜く。砕かれた床は無数の破片となってエミリーとセバスに襲い掛かる。

「いいねすずちゃん! シロも続くよ!!」

『すず選手の遠距離攻撃! 当たれば痛手は免れぬ破片の弾幕だぜ!』

「、、、ほう、面白い」

 破片の嵐、そのすぐ後ろから二人に迫るシロ。
 破片を避ければシロが手斧を叩き込み、シロに意識を割けば破片を食らう。敵に不利な二択を迫り判断能力を奪う、古典的かつ効果的な戦法はーー

「面白いが、まだ甘いですな」

「うっそでしょ?」

『破片を切り落とし、返す刀でシロ選手に切りかかったぁ! 一歩間違えれば敗北必至の所業を、顔色一つこなす! それがこの男!!』

「判断の早さだけは衰えませんわよねアナタ」

「衰えないよう毎朝シャドーボクシングしてるからでしょうな。知ってるだろエミリー」

「あれ五月蠅いから辞めて欲しいんですけどねぇ」

 破られた。
 急所に飛んできた破片だけを切り落とし、そのままの勢いで反撃したセバス。セバスの背後に移動し難を逃れたエミリーと軽口を叩き合いながらも、その目はシロを瞬き一つせずに観察している。

 しかし、まだ終わってはーーー

「おや? もう一人の御方が見当たりませんね。今見える範囲にはおらず、背後に気配も無い。上ですか」

174 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:49:58 ID:kt/WmDD8N0
>>173
 気付かれた。
 エミリーのパイルバンカーが上方向に炸裂し、空から襲い掛からんとしていたすずを捉える。

「づっ?!」

「すずちゃん!」

「今のは良い手でした。下手をすれば食らってましたわ」

「その鋭い観察眼、相変わらずだなエミリー」

「毎朝、新聞のクロスワードで鍛えてますからねぇ」

「新聞を読む前にクロスワードのページだけ引き抜くのだけは辞めて欲しいんだがな、、、、」

 シロが気を引き付けている間に、すずちゃんがエミリーに奇襲を仕掛け無力化する作戦。即興とは言えここまで見事に破られるとは。

 ギラリと銀色に光る二本の刃、セバスが持つその刃に切り裂かれた腕が今更痛みを訴えてくる。

「くっ、、、」

 強力なパイルバンカーの衝撃を逆に利用し、遠くに弾き飛ばされる事ですずは再度距離を取る事には成功している。しかしその代償が余りにも大きい。
 鉄杭に削られた足がジクジクと痛む。

 ピノの宝具『己が身こそ領地なれば(ザ・ドミニオン)』の効果に守られているこの闘技場で本物の怪我を負うことは無い、、、、無いが、その痛みは本物だ。
 痛みは動きから精彩を、人から戦意を奪う。

「ピノ様のご友人方、貴女達は本当に強い。同じ頃の私よりずっと強い」

「でも今の私達には僅かに届かないですわ。年とは取るものではなく重ねるモノ。昨日の私達より、今日の私達の方が強い」

「研鑽を怠らない人間の最盛期とは寿命を迎える、正にその日で御座います」

175 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/17 23:56:15 ID:kt/WmDD8N0
 かなり久しぶりの投稿です。再レポートと新しいレポートが重なってデスマーチ状態でした、、、、

 真っ赤に添削されたレポートを返された時は一周回ってちょっと笑っちゃいました

 今回のセバス&エミリーVSシロちゃん&ボス戦ですが、ちょっとセバスとエミリー強くし過ぎた気がします、、、、
 老人になっても前へと歩み続けられたらなぁ、と言う個人的な老いへの願望を込めたキャラなので、気がつくと贔屓しそうになるんですよね。

176 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/18 14:55:08 ID:houbH7A5EN
おっつおっつ、お疲れさまです。私は仕事で大ポカやらかしたので精神的に死んでます。進み続けることは難しい事なんじゃ……

177 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/06/18 18:56:00 ID:jb1FsSEiBw
>>176
ですよねホント、、、、

178 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/01 23:23:39 ID:8p42rBfdXh
>>174
 エミリーとセバスはそう言い放つ。その声からは己の強さへの信頼と誇りがにじみ出ている。

「『Mode shift Overload』御二方への敬意を表し、最高火力で葬らせて頂きたく」

「『Mode shift Bee sound』体への負担が甚大なので、まず使用しない奥の手でございますわ」

 セバスの全身から青白い火花が飛び散る、周囲が揺らめく程の膨大な熱が放出され、赤熱した刃がセバスを赤く照らす。

 エミリーの持つパイルバンカー、その中に収められた鉄杭。ソレがブゥゥンと蜂の羽音の様な異音をかき鳴らし猛然と回る。

『これはぁ!? もしかしなくても、あの有名な必殺技! マジの強者にしか使わないリーサルウェポンだぜ!!』

「爆発的に身体能力を上げるOverloadに!」「全てを削り取るBee sound!」「実際の迫力はやっぱり違うぜぇ!」

 二人の出した奥の手に観客が沸き立つ。

「私は、、、、シロ様を殺らせて頂きます!」

「すず様、御覚悟でございます!」

 真っ赤な残光を走らせ迫るセバス、すずの方にはエミリーが行く。

179 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/01 23:25:09 ID:8p42rBfdXh
>>178
 蒼い瞳をキョロキョロ回して勝機を探し、疲れた脳ミソをグルグル回して勝ち筋を考える。すずちゃんは今にもやられそうだ、宝具も間に合わない、周囲に利用出来るモノも無い、手斧を投げつけたとして何の意味もない。不可能が延々とループしてゆく。
 シロに迫る二人の姿がゆっくりに見える。走馬灯と言う奴だろうか、きっともう、本能が敗北を受け入れて「頑張れシロちゃん!」

 聞き慣れた声がシロの鼓膜を揺らす。

「、、、、!?」

 声のする方を見れば、そこにはばあちゃるが居た。いつものふざけた雰囲気など投げ捨てて、一生懸命に応援するばあちゃるが居た。
 シロの中から『諦め』と言う毒が消える、体に力が戻る。

 勝てるかどうかなどもう気にしない、全力を出し切ってやる。手斧を捨て、拳に魔力を集め、切り札を「後は任せましたシロさん!」

 エミリーのパイルバンカーがすずを貫く直前、すずの投げた釘バットがシロとセバスの間に割り込む。すずの残存魔力を全て流し込まれたソレは、床に接触した瞬間にはじけ飛ぶ。

「ぐっ、、、」

「よっ、しゃぁ!」

『すず選手が! 己を犠牲に隙を作り出したぜ! さあシロ選手、これを生かせるか!?』

 バットの破片をもろに受けたセバスの体が大きくよろめく。

 完璧な不意打ち。己の死を一切恐れず利用すると言う、戦場であれば有り得ない行動。この闘技場だからこそ迷い無く実行出来た不意打ち。
 数多の戦場をかいくぐって来た二人だからこそ引っ掛かった一手。

180 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/01 23:26:55 ID:8p42rBfdXh
>>179
「任されたよすずちゃん! 真名開放! 『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』!!」

 そして、シロはこの不意打ちが行われる数舜前から宝具を放とうとしていた。故に、宝具の発動が辛うじて間に合う。

 宝具『ぱいーん砲』、魔力を注ぎこんだ量に応じて威力が跳ね上がる殴打。

「いっけええええ!!」

「ぐぅ、、、が、、、、」

 黄色い光を纏った拳がセバスを打ち抜く。

 如何に強かろうと体は老人、当たれば脆い。セバスの&#30246;せ細った体はくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられ、動かなくなる。

『すず選手の作ったチャンスを生かし切った!! これで一対一! だが、まだ一対一! エミリーさんが残っているぜ!!』

「そうですわよ」

 すずの胴体から鉄杭を引き抜いたエミリーがシロの方へとやってくる。
 シロを倒す為、異音と共にやってくる。

「これで、終わりで御座います!」

「終わらないよ、もういっちょ開放! 『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』」

 魔力が殆ど空の体で、宝具をもう一度発動する。

 宝具を十全に発動する事は叶わない。不安定な光を纏った拳と、回転するパイルバンカーが真っ向から衝突する。

「おりゃあああああ!!」

「勝ちを取らせて頂きます!」

 双方の大技がぶつかり合う。互いに爆発力に長けた一撃。

 シロの蒼い瞳は闘志に燃え、真っ白いアホ毛は戦意たっぷりに揺らめく。しかしーー

「くっ、、、」

 ーーーシロの宝具が徐々に押され始める。

181 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/01 23:30:27 ID:8p42rBfdXh
>>180
 かなりの無理をして放った為宝具が不完全であること、そしてエミリーのパイルバンカーが回転し、シロを削り取ろうとしているせいだ。

 もし、シロの魔力が十全ならば、エミリーが奥の手を出していなければ、シロが押し勝っていただろう。しかし現実は違う、シロが押されている。

『おおっと!? シロ選手が押され気味だぁ!』

「、、、、負ける訳にはいかないんだよぉ!」

「かなりの僅差ですが、これで終わ、、、、ゴフッ」

 シロの拳が完全に押し切られるその直前、エミリーの口が血を吐き出す。

「大丈夫!?」

「お気になさらず、ちょっとツケを払っただけで御座いますわ」

 口元を抑え、エミリーは後ろによろめく。

 パイルバンカーは強力ではあるものの、打つたびに強烈な反動が全身を襲う諸刃の剣でもある。内部の機構で反動を軽減し負担を軽減させているが、それでも無視できるモノでは無い。

 そして、『Mode shift Bee sound』パイルバンカーに内蔵された鉄杭を高速回転させる事で威力を上げる奥の手。しかし、鉄杭が回転する際に内部が過剰な熱を帯び、反動を軽減する為の機構が焼け付いき、反動をモロに受けてしまうのだ。

 すずに一撃、そして今一撃、計二撃。たったそれだけでエミリーの体は深く傷ついていた。

「この程度で血ィ吐くとは、鍛え方が甘かったですわ」

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ですわ。ほら早く、お構え下さいな」

 心配した顔でこちらを見つめるシロに、エミリーは皺くちゃの顔に不敵な笑みを浮かべ啖呵を切る。

 衰えた足腰を、脆くなった骨を、細くなった筋線維を、そして未だ衰え無き意思を総動員し三撃目を狙いすます。

「、、、、、解った、真名、開放『唸れや砕け私の拳 ぱいーん砲』」

182 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/01 23:33:14 ID:8p42rBfdXh
>>181
 魔力が空っぽになったシロの体、奥底に残った魔力をこそげ落とし、己の存在を切り詰めて魔力を捻出する。

「これで、最後で御座います!」

「その通り!!」

 余力全てを使い何とか放った鉄杭と、消えかけの光を纏った拳の衝突。結果はーーーー

「ああ、、、、私の負けですか」

「シロの勝ちだよ」

 ーーー僅差でシロの拳が勝った。
 もう一度同じ事をすれば結果は解らない。それくらいの僅差だった。

「後数年若ければ、エミリーちゃんの勝ちだったよ」

「それは、、、、あり得ませんわ。私達は今もなお成長して、、、、おりますもの。数年前の私より今の私の方が強いですわ、、、、」

「そっか、そうだったね」

 エミリーは崩れる様に倒れこむ。

『、、、、!! 勝者! シロ選手&すず選手ペア!! 大方の予想を覆し勝利したペアに、盛大な喝采を頼むぜ!』

「マジかよ、、、」「新たな伝説の『誕生』だ」「おめでとうっす! シロちゃん、すずすず!!」

 歓喜と驚愕の混じった喝采を背に、シロはすずを抱えて闘技場を出る。

183 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/02 00:03:20 ID:8p42rBfdXh
仲間の応援がきっかけで勝利すると言う、ベタ過ぎて近年では逆に珍しい展開でした。王道は書いてて楽しいです。

細々とした設定、及び追加設定
宝具『ぱいーん砲』
ランク:C
魔力を注ぎこんだ量に応じて威力の上がる殴打。実のところ、これ単体ではそこまで強く無い。
ただし、とあるスキルと合わせて使うとかなりえげつない事になる。

セバス
 ピノ様の執事であり、全身の殆どを改造したサイボーグでもある。
 改造したのが50年も前である為、体内の機械部品の殆どが型落ち品。古くなりすぎて、スペアパーツが値上がりしているのが最近の悩み。
『Mode shift Orverload』
 全身のパーツにエネルギーを過剰供給し、性能を爆発的に上昇させる切り札。
 下手をしなくてもパーツがぶっ壊れるため、かなりのハイリスク技。

エミリー
 ピノ様のメイドにして、セバスの妻。
 生まれつき身体能力が人より高く、若い頃はパイルバンカーを実質ノーリスクでぶん回していた。
 若い頃は基本力任せかつ無駄打ちする癖が有ったが、老いてからはその癖が無くなり、力に頼らない技術も身につけた為、本当に年取ってからの方が強かったりする。

『Mode shift Bee sound』
 発動した時に発せられる異音が蜂の羽音に似ている為、こう名付けられた。
 アホ見たいな威力と引き換えに反動がヤバくなる。

184 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/02 05:58:28 ID:udAoC4OiOJ
おっつおっつ、熱い戦いでした。最近暑いし体調お気をつけて。

185 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/02 16:16:42 ID:EPjb7JXLCy
>>184
確かに暑いですよね、、、、気を付けていこうと思います。

186 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:49:23 ID:gQ6fWAkuhk
>>183
「、、、、私は、私達は負けたのか」

「そうですよアナタ。私達は負けたのですわ」

 真っ白いベッドから二人が体を起こす。ここは医務室、敗者が運び込まれる部屋。

「流石に老いたな、昔ほどにはキレが無い」

 骨ばった両手を確かめる様に何度も握り締める。握る度に手のシミが薄黒く伸び広がってゆく。

「何を言うんですかアナタ。体の殆どが機械で老化なんて殆ど無いでしょうに」

「それはそうだが、年のせいにでもしないと悔しいじゃないか。それにだ、失敗や負けを年のせいに出来るのは老人の特権だぞ、特権を使わなくてどうする」

「もう、、、、そういう所は変わらないですわね」

 拗ねるように寝っ転がるセバスを見て呆れたように微笑むエミリー。
 英雄『蟷螂』、グーグルシティで育った人間なら一度は憧れる男。そんなセバスだが時折子供っぽくなるのが玉に瑕であり、エミリーにとって愛おしい部分でもあった。

「きっと死ぬまで変わらないとも。この街と同じだよ、形は変わっても本質は変わらない」

「ええ、そうでしょうね」

 窓の外にグーグルシティが見える。行き来する無数の人や車、絶え間なくザワザワと奏でられる喧騒、暗い路地裏。
 生きる為に精一杯だった昔とは違う、富と活気と格差で出来た街。しかしそれでも、人々の眼は昔と変わらない。
 生きる為、のし上がる為、友の為、各々の夢を宿した眼。物乞いですらチャンスを探し眼をギラつかせている。

「、、、、この街を見ていると、守るために命を懸けて正解だったと思わされますの」

「全くですな、この街には命を懸ける価値がある」

 両腕に仕込んだ刃を取り外す、代わりに取り付けたのはやや細身の刃。
 波打つ刀文を持つ、古びたソレは丁寧に手入れされている。

187 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:49:53 ID:gQ6fWAkuhk
>>186
「懐かしいですわね。私たちの親友にして今は亡き名工『竈馬』。刀に恋したアイツが友に遺した名刀『忘時』ですか」

「そうだ、そうだとも。相応しい敵に使えと言われたこの刀、カカラの首領相手ならば不足は無いでしょう」

 ぼんやり光る刀身をじっと覗き込む。
 そこに映るセバスは歪んでいて、まるで誰かが隣にいるように見える。

「おやおや、気が早いのでは無くて? ピノ様と双葉様、シロ様とすず様、どちらかが優勝しなければなりませんのよ」

「エミリー、あの方たちが優勝出来ないと思うのですか?」

「、、、、確かにそうですね。私も、準備をしなければなりませんわ」

 二人の老兵は静かに牙を研ぐ。

188 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:50:36 ID:gQ6fWAkuhk
>>187

『さあさあ! お次は準決勝!! 、、、、と行きたいところだが、暫く時間を置かせてもらうぜ。消耗した選手の休息が要るからな』
「しょうがないな」「俺も少し休むか」「今の内にトイレ済ませねえと」

 熱気に満ちていた闘技場、『スパークリングチャット』の空気が暫し弛緩する。
 飲み物を買いに行く者、トイレを済ませに行く者、思い思いに動く観客達。では選手はどうか。

「いやぁ、、、、完敗っすよ」

「アハハ、でもお馬さん片方倒してたじゃないですか。ワタクシは見てましたよ」

「まぐれをカウントするのは、、、どうなんですかねハイ」

「カウントしてもいいんじゃないかな、て双葉はおもうよー」

 項垂れるばあちゃるを軽く慰めるピノと双葉。
 ネガティブな発言とは裏腹にばあちゃるの声は晴れ晴れとしている。

189 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:50:44 ID:gQ6fWAkuhk
>>188
「ねえ馬、馬越さんを止めた技、あれなんなの?」

「ああ、アカリさんに触れた途端動かなくなった奴ですね、、、、馬越さん『霧がかかったみたいに何も思い出せない』て言ってましたねハイ」

「なるほど、『思い出せない』て事はアカリちゃんの能力は精神に干渉する系ぽいなぁ」

「能力使う時アカリさん自信有り気な表情を浮かべてましたし、使い慣れてる感じですよね。多分」

「そうだねすずちゃん。エイレーンちゃんも未知数だし、底が見えないねぇ」

「楽しみですねシロさん」

 翡翠色をしたスズの眼が待ちきれないとばかりに輝く。

 シロ達五人はVIPルームに案内され、そこで休息をしていた。
 上品なシャンデリアにグレーのソファー、暖色系の明かりに照らされた部屋には穏やかな音楽が流れている。
 ホログラムで投影された熱帯魚達が色彩豊かな体をくゆらせて部屋の中を泳ぎ、壁の一面を占拠するモニターは闘技場を様々な角度から映し出している。

 紅茶を飲み談笑する五人の空気は穏やかだ。それはまるで、嵐の前の静けさ。

190 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:51:53 ID:gQ6fWAkuhk
>>189

 ファイトクラブ『スパークリングチャット』の選手用休憩室、VIPルーム程では無いが豪華な部屋。
 その部屋に用意されたテーブルを挟む様にエイレーンとアカリは座っていた。

「ねえ、エイレーン」

「どうかしましたか? アカリサーン」

「あの、さ。また不本意な手段で勝ちに行くつもりなのかな、て聞きたくてさ」

「、、、、」

 鮮やかな金髪をせわしなくいじり、アカリは問い掛ける。
 エイレーンは何も答えず黙している。

「エイレーンがそうする理由は知ってるし、アカリはその理由を軽いモノだと思わない。でも、、、そのせいでエイレーンは苦しんでるよ」

「、、、、」

 アカリの懸命な訴えにエイレーンは何の反応も返さない。
 瞼を閉じ、アカリの顔を見ない様にしている。
 懸命に聞こえない振りをしている。

「エイレーンはお人好しなのに、合理的であろうと無理してる」

「、、、、」

「ばあちゃるが折れなかった時、エイレーン笑ってたじゃん」

 尚も無反応を貫こうとするエイレーンに対し、アカリは顔を近づける。
 少しバサついた赤色の前髪を持ち上げ、エイレーンの瞼をそっと撫でるように開く。

「アカリはエイレーンに従うよ、部下だから。でもアカリはエイレーンが心配だよ、家族だから」

 縋るような表情を浮かべるアカリの顔が、エイレーンの瞳に映りこむ。

「、、、、今更私のやり方は変えられません。これ以外に皆を守る方法を知りまセーンから」

「エイレーン、、、、」

「でも、そうですね。ばあちゃるさんにしたみたいな、揺さぶりは止めにしマース。効果薄そうですから」

191 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 19:52:01 ID:gQ6fWAkuhk
>>190

 アカリを安心させる為に下手くそな笑顔を浮かべる。
 それを見たアカリは大きなため息をつく。

「ホント不器用だねエイレーンは、、、解った。今はそれで妥協しとく。ヨメミと萌実にもそう伝えとくね」

 呆れた表情に僅かな安堵をにじませ立ち上がり、アカリは部屋を出る。

「、、、不器用、デースか」

 エイレーンの独り言が壁にぶつかって消える。
 暫しの間、カチカチと時間を刻む時計の音が部屋を支配していた。

192 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 20:05:00 ID:gQ6fWAkuhk
お久しぶりです(n回目)
テストが近く、中々時間をとって書けませんでした。
もうじき夏休みに入るので投稿ペースが上がる、予定です。

それはそうと、月姫リメイクがもうじき発売です!!
.liveの娘達は勿論好きですけど、それと同じくらい型月も好きなんです。

細々とした(裏)設定

『忘時(わすれじ)』

名工『竈馬』が親友に遺した作品。

『忘れじ』いつまでもあなたへの愛は変わらない(あなたの事が好きでした)、と言う意味を込めたエミリーへの密かなラブレター。

『時』を『忘』れる位、お前と過ごした時間は楽しかったという、セバスへの密かな感謝状。

二つの意味が込められた、剣の形をした遺書。それが『忘時』の本質です。
無粋かなと思ったので、本編では敢えて触れませんでした。

193 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 21:02:28 ID:1QdC4NF7yM
おっつおっつ、休みを謳歌してくだせぇ、あと酷暑やばいのでお気を付けを

194 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/18 21:52:34 ID:gQ6fWAkuhk
>>193
なんか例年よりも暑く感じますよね、、、、
休みが謳歌出来るのはテスト終わってからですね、大学は夏の宿題無いので、そこは気が楽です

195 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:03:41 ID:1VEBPvBFol
>>191
『さあ! 今度こそ準決勝の始まりだぜ!』

『準決勝第一試合の選手を紹介するぜ! 大方の予想を覆し、見事伝説に勝利したダークホース、シロ&神楽すず!!』

『敵対するギャングのボスを下したこいつら! エイレーン一家は止まらない!! 萌実&ヨメミ!!』
「待ってたぜ!」「どっちが強いんだろうな」「早く始めてくれ!!」

 手斧を携えたシロと、釘バットを肩で担いだスズ。
 ギラリと獰猛に光るドスを構えた銀髪の二人、ヨメミと萌美。

 歓声鳴り響く闘技場に四人の選手が出揃う。

『試合開始!!』

「ヨメミちゃん! 出し惜しみは無しで行くよ!」

「解った、萌実ちゃん!」

 試合が始まるや否やヨメミと萌美の二人は後ろに下がり、互いの手を組んで見つめ合う。

 直感でヤバいと感じたシロは咄嗟に銃を取り出そうとするが

「あっ、銃はルールで使えないじゃん」

 ルールのせいでそれは叶わない。
 闘技場での経験が浅い故のミス、それはこの場において致命的であった。

「私が行きます。行くぞ私は!!」

「お願いすずちゃん!」

 翡翠色の瞳に焦りを浮かべ突撃するスズ。
 大声と共に背中から魔力を放出し、ジェット機じみた加速をみせるその走りは正に神速。
 しかし、それでも間に合わない。

『我ら二人で一つ』

『一人にして二つ』

『『真名開放 歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』』

 ヨメミと萌美、二人の宝具が発動する。
 その直後、二人の元にスズが辿り着き、豪快にバットをーーー

「食らえ!!、、、、え?」

196 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:05:52 ID:1VEBPvBFol
>>195

 ーーー振り下ろせなかった。
 二人が四人に、四人が八人に。爆発的に増殖を始める二人。
 闘技場の一角が銀髪の美少女で満たされる。

 その余りにもな光景にスズはフリーズしてしまう。

『な、なんだこれは!? 萌実選手とヨメミ選手が増えた!!』
「絵面がすげえ、、、」「一人くらい持ち帰れないかな」「ストレートに強いですね、この能力」

「無数に分身を生み出す宝具、前の試合じゃ宝具を使ってもケリンに爆破されて終わりだから使えなかったけど」

「今回は思う存分使えるよ」

 分身は全て機械めいた無表情を浮かべており、武器も持っていない。
 戦闘力そのものはオリジナルに遠く及ばないだろう、とシロは蒼い目を細め推察する。
 だからといって脅威に成りえないかと言えば、それは違う。

 動きを止めたスズに無数のヨメミが纏わりつく。

「うわっ、ちょっ。嬉しいけど嬉しくないです!」

 スズが釘バットを振り回す度にその軌道上にいた分身は&#25620;き消え、消える度に分身が補充される。
 多勢に無勢、銀髪美少女の波にスズはズブズブと飲まれてゆく。

「すずちゃ、、、、、ヤバッ!?」

 スズを助けに行こうとしたシロに萌実の分身達が襲い掛かる。

「ちょ、ほちょちょ!?」

 シロを掴もうとする腕を僅かな動作で振り払い、飛び掛かってくる分身を誘導して他の分身にぶつける。
 囲まれないよう動き続け、脅威になりうる分身だけを倒し、最小限の消費で萌実の分身に対処してゆく。

「動きこそ雑だけどキリがない。不味いねぇ、、、、くっ!」

197 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:06:15 ID:1VEBPvBFol
>>196

 とは言え、多数の敵に対処する為の最小限は決して小さいものではない。
 萌実達の指がシロの真っ白なアホ毛を掠める。

 現状、シロは萌実達の攻撃を凌げてはいる。しかし、防戦一方のこのままでは敗北必至。


(強引に近付いた所で勝機薄そうなんだよね。あの二人の戦闘技術、結構えぐいし)

(でも奇妙だねぇ、すずちゃんは既に殆ど無力化されてるのに、ヨメミちゃんの分身は全てすずちゃんに掛かりっきり)

(分身ってシロの想像以上に融通利かないのかも?)

(二人の本体が攻撃する気配も無いし、、、、分身出してる間は無防備になっている可能性がありそう)

(検証の為、本体にちょっかい出してみるのもアリかもねぇ)

(なんにせよ、先ずはすずちゃんを助けないと)

 そんな危機的状況の中、シロは不思議な程冷静に考察を重ねる。
 老練な強さを誇った『蜜蜂』と『蟷螂』から勝利をもぎ取った経験、それがシロに確かな自信と冷静さを与えていた。

198 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:07:23 ID:1VEBPvBFol
>>197
「おほほい!おほほい! シロは負けないよ!!」

「え!?」

 やにわにシロは手斧を振り回してスズの元へ突貫を始める。
 分身の攻撃がシロを掠めて浅い傷を幾つも刻んで行く、がいずれも致命打には程遠い。

『シロ選手が動き出した! すず選手の救出に行くみたいだぜ!!』

「その通りぃ!!」

 無数の分身を&#25620;い潜り、スズの元へと辿り着く。

 スズを押さえつけていたヨメミの分身全てがシロに目標を変えて起き上がり、後ろからは萌実達が追いかけてきている。
 逃げ場の無い挟み撃ち、危機的状況ーーー

「ありがとうシロさん!!」

「いいって事よぉ! おほほい!」

 ーーー無論、すずが居なければの話だが。

 押さえつけられていた間バットに込め続けていた魔力を、そして全身のパワーをフルに使ったスイングと共に床に叩きつけ開放する。ガッゴォンという爆音と共に緑色の衝撃波が吹き荒れる。
 分身達が風に吹かれた&#34847;燭の様に揺らぎ、&#25620;き消える。

「ヤバッ!? どうしよう萌実ちゃん!」

「分身の制御はかなり大雑把みたいだねぇ!」

「弱点バレちゃったよヨメミちゃん、、、」

 ヨメミと萌美、二人の背中を汗が流れ落ちてゆく。
 シロの考察は当たっている。分身の中身は獣に近い。同じオリジナルを持つ分身同士で固まり、目に付いた獲物に見境なく襲い掛かる。

199 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:07:36 ID:1VEBPvBFol
>>198
 二人の宝具『歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』は互いの瞳を重ねることで合わせ鏡とし、無数に映ったお互いの鏡像を分身として具現化する物。
 瞳の一つ一つに己の色があり、瞳が映し返す景色もまた己の色に染まっている。故に瞳を鏡として見た場合、その質は下の下と言えよう。
 鏡とは目の前に有る光景を有るがままに映すモノ。己の色に染めて映し返す鏡など論外。その様な鏡から産まれた分身の質も低いのは当然。

『これはヨメミ&萌実選手不利か!? しかし、まだ大勢は決していない! マジで目が離せないぜ!!』
「やっちまえ!!」「巻き返せ!!」「頑張れシロお姉ちゃん!」

200 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:12:46 ID:1VEBPvBFol
夏休みに入ったので大分執筆スピードが上がりました。

そんな事より、マジの大事件がありました! https://www.youtube.com/watch?v=R8Y2e8BdVrk&t=4089s配信の終盤、私の書き込んだコメントが読まれたんです!! イヤッフゥ!!

201 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:19:20 ID:1VEBPvBFol
細々とした設定集
『歪み映す双眸(ステアリーツインズ)』
ヨメミちゃん、萌実ちゃんの宝具。

相手の目に映った自分、相手の目に映った自分の目に映った相手、相手の目に映った自分の目に映った相手の目に映った自分、、、、、
といった要領で大量の分身を出す宝具。

強力では有るものの融通が利かず、また持ち主の戦闘スタイルと咬み合わせが悪いのが難点。

202 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 12:46:43 ID:WkA.8LuDTv
おっつおっつ、持ち帰ったらバレるやろ。コメント読まれると嬉しいよね〜、自分も何回かコメントとかお便りとか読まれたりしたことあるけどそのたびに小躍りしてる。

203 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/07/28 15:20:32 ID:1VEBPvBFol
>>202
沢山いるのでバレない可能性もあるっちゃ有りますね。まずバレて酷い目に合うでしょうけどw

やっぱ読まれると嬉しいですよね…………

204 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:43:37 ID:bKznsqmMqg
>>199

「いくよ!」

「ぶっ倒す!!」

「やってみなよ!」

 じりじりと下がりながら分身を生み出すヨメミと萌美、互いの隙間を埋めるように手斧とバットを振り回し突き進むシロとスズ。 

 魔力が続く限り分身は無限に生み出され、一体辺りのコストもさほど高く無い。時間さえあれば万単位の数を揃える事も可能だろう。時間さえあれば、だが。
 当然の事だが、一度に生み出される分身の量には限りが有る。

「これは、、、ちょっと辛いね!」

 一歩、二歩、シロとスズが確実に距離を詰めてゆく。
 三歩、四本、ヨメミと萌美、二人の背中が壁に当たる。これ以上は下がれない。
 五歩、六歩、もう少しで武器の届く間合いに入る。

『シロ選手とすず選手がついに辿り着いた! 絶体絶命ヨメミ&萌美ペア!!』

「喰らいなぁ!!」

「いっちゃえ!!」

 シロとスズが同時に武器を振り下ろす。
 金属特有の光沢が描く銀色の軌跡は目の前の二人へとーーー

「「え?」」

「引っ掛かったね、、、、」

 ーーー届くことは無かった。
 分身の壁を抜けた先にいたのはヨメミ一人。
 同時に振り下ろされた釘バットと手斧は、直撃した状態のままヨメミに押さえつけられ、動かすことが出来ない。

205 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:45:34 ID:bKznsqmMqg
>>204
『萌実選手が消えたぜ!? 一体何が起こったというのか!』

 ヨメミが攻撃を受けたことで『歪み映す双眸』が解除され分身が消える。消えずに残ったのはオリジナルだけ。
 シロとスズの攻撃を受け止めたヨメミと、そして分身に紛れ回り込んでいた萌実の二人。

 
 中身はともかく、萌実と分身の見た目に差異は無い。分身に紛れるのは容易な事だ。

「まさか!」

「ヤバッ」

 すぐさま逃げようとするシロとすず。しかしもう遅い。
 萌美による一閃が来る。勝機が来るまでジッと耐え続けた鬱憤を晴らすかのような鋭さで。

『萌実選手が背後にいる! 絶体絶命!!』
「いつの間に、、、」「マジかよ」「負けないでくれ!」

「獲った!」

 勝利を確信した萌実が獰猛に笑う。
 『宝具』と言う、分かり易い切り札を見せる事で本命から意識を逸らす。
 ありふれた、それでいて有効な作戦がシロとスズに牙をむく。

 見事に出し抜かれた二人は成すすべなく切り裂かれる、筈だった。

「えぇ、、、、?」

 音すら追い抜く一撃がシロに掴まれた。

 ヨメミに抑え込まれた武器から手を離し、高速で飛来するドスを掴み取る。物理的には可能だが、それが間に合うタイミングはとうに過ぎていた筈。
 呆然とする頭でそんな事を考える萌実。

206 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:46:32 ID:bKznsqmMqg
>>205
「シロのスキル『輝きの海』。効果は『シロへの応援を力に変える』」

「一杯食わされたね! こんな力を隠してたなんて」

「いや違うよ。このスキル、応援の量が一定に達しないと発動しないんだよ。
街の英雄を倒したダークホースVS有名な『エイレーン一家』の幹部と言う、誰もが興奮する好カード。そして決着の着く目の離せない瞬間。
ここまでの要因が揃って、やっと使える位には発動条件が厳しいんだよねぇ」

「そういう事、ですか。『使わなかった』のでは無く、『使えなかった』と」

「正解」

 シロの周囲には、水色の光が幾つも浮かんでいる。
 整然と並び、ユラユラ揺れる細長い光はさながらライブ会場に煌めくサイリウム。

 シロは掴んでいたドスを萌実から取り上げ、そのまま突きつける。
 磨き込んだ銀食器の様な色をした瞳がヨメミを見つめて、助けて欲しいとメッセージを送る。しかし、ヨメミがそれに答えることは無い。

「、、、、」

 二人の一撃をまともに受けてしまった時、その時からヨメミは気絶していた。
 その上、万が一ヨメミが復活しても対応出来る様にスズが備えている。

「くっ!」

 ヨメミがやられた事を認識した萌実は思わず顔をしかめる。
 萌実は頭が回る。回るがゆえに今の状況が詰みである事を理解出来てしまう。

(これ以上の抵抗は無駄だね。大会に出た目的が示威行為である以上、無駄にあがいて無様を晒す事は出来ない。
後の事はエイレーンとアカリちゃんに任せるべきだね)

「、、、、、降参するよ」

 眩しい程に白く淡麗な顔をホンの一瞬歪めた後、萌実は大人しく両手を挙げて降参を宣言する。

「良いの?」

「良いんですか?」

「良いんだよこれで。萌実の役目はもう果たしたからね」

207 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:46:48 ID:bKznsqmMqg
>>206

 スズとシロの問いに対し、萌実は返答する。
 萌実の言っている事に&#22099;は無い。『エルフC4』と『サンフラワーストリート』のリーダーであるケリンと鳴神を下した時点で萌実達の役目は十二分に果たされている。

 無論、最後まで戦い抜きたいという欲求はあった。
 しかし、萌実は『エイレーン一家』の一員として出場している。個人の欲求を優先する訳にはいかなかった。

『萌実選手、まさかの降参だ!! 勝者、シロ&すず選手!』
「マジか」「まあ、あそこから勝ち目はなかったしなぁ」「健闘した!」

 萌実はヨメミをそっと抱え会場を後にする。

208 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:47:22 ID:bKznsqmMqg
>>207
「、、、、ん、うん? ここは?」

「おはよー。ここは医務室だよ」

 ヨメミはやや乱暴に瞼をこすって重い体を持ち上げ、寝起きでゴロゴロする目をグルグルと動かす。
 周囲には真っ白なベットが幾つか並んでいて、その中の一つにヨメミは座っていた。
 はす向かいのベットには見慣れた顔、、、、、萌実の顔が見える。

「ねえ萌実ちゃん、結果はどうだった?」

「、、、、負けちゃった」

「そっかー、、、、、お疲れ様。後の事はエイレーンとアカリちゃんにお任せかな」

 医務室を照らす薄く埃を被った蛍光灯の下で、ヨメミと萌美は心穏やかに話し合っていた。

 二人は、アカリとエイレーンが大いに戦果を挙げ、大いに実力を示すと確信している。
 負けた事への悔しさはあるが、焦りはない。

 ヨメミは何度か大きな欠伸をし、ベットに倒れ込む。

「、、、ねぇ、エイレーンとアカリちゃんの事どう思う?」

「エイレーンは何でもかんでもしょい込む癖とセクハラ発言さえ無ければ完璧かな」

「エイレーンはある種の理想主義者だからね。本当は綺麗な手段を選びたい、でも大切な者を失う『可能性』が怖い。
だから自分の良心が許すギリギリの手段を用いて『可能性』を潰す。
理由は解るんだけどさ、損な生き方だよね」

「アカリちゃんはアカリちゃんで甘い所あるよね。実力の伴った楽観主義って感じ」

「決める時はビシッと決めるんだけどねぇ」

「まあ、完璧じゃないからこそ支え甲斐があると言うか、何て言うか」

「確かに。話変わるけど、、、、」

「、、、、」

「、、、、、、」

「、、、、、、、」

 寝っ転がりながら萌実と話をする内に、ヨメミはいつの間にか夢の世界へといざなわれていた。

209 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:49:21 ID:bKznsqmMqg
>>208
『、、、、ここはどこデースか?』

『、、、どこだろうね』

 ヨメミは夢を見ていた。グーグルシティに初めて来た、あの時の夢だ。
 ヨメミ、萌実、エイレーン、アカリ、べノ、エトラ、、、、、後にエイレーン一家を創設する事になる面々が、グーグルシティの路地裏で呆然と空を見上げていた。

 ヨメミ達の記憶はある日を境に断絶している。頭に残っている最古の記憶は『殆ど何の記憶もない状態でグーグルシティに居た』と言うもの。
 唯一覚えていたのは自分の名前だけ。

 あの時縋るように辺りを見渡す私達の前を、無関心に通り過ぎる人々がとても恐ろしく感じた。



 夢が揺らぎ、場面が飛ぶ。

『あ、有難うございます!』

『いいの、いいの。気にせず休んで』

 今は『エイレーン一家』が管理している風俗街『ポルノハーバー』の外れにある寂れた宿屋。
 風俗街の宿であるにも関わらずそう言うサービスはせず、売りは料理という少し変わった所だった。

 そこの主人であるエミヤさんは気のいいお爺さんで、身寄りの無い私達を雇ってくれた。記憶を失ってから初めて感じた人の温もりがとても嬉しかったのを覚えている。



 また場面が飛ぶ。

『おいジジイ! アガリが足りねえぞ!』

『、、、、、来月には耳揃えて払いますので』

『来月まで待てるかよ! 二週間後までに払え!』

『はい、、、、』

 エミヤさんの胸倉をガラの悪い男が掴んでいる。

 当時、ポルノハーバーは『I Want to be Radical』、通称『IWARA』と呼ばれるマフィアに支配されていた。
 延々と身内で権力争いをするそいつらは、住民から金を限界まで搾り取っていた。

210 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:51:46 ID:bKznsqmMqg
>>209
 場面が飛ぶ。

『畜生、、、』

 まだ日も出ていない早朝の厨房、その隅でエミヤさんが静かに啼いている。

 赤みがかった総白髪、エミヤさんらしいその髪が、あの時は酷く寂しい物に見えた。



 場面が飛ぶ。

『もう我慢出来ません。私達が立ち上がりましょう』

『立ち上がるってどうするのさ、エイレーン』

『そんなの決まってますよアカリサーン、カチコミですよ。一気呵成に攻め込むんデース』

 エイレーンが気炎を吐いている。

 今では考えられない事だが、当時のエイレーンは大胆不敵な性格だった。
 それはある意味当然の事だった、私達には不思議な能力があったのだから。

 『スキル』や『宝具』と呼んでいるソレらはどれも強力だった、私達に慢心を許す程度には。

 飛ぶ。

『ありがとう!』『あいつらが居なくなる!!』『この恩は一生忘れない』

 『IWARA』の元事務所、私達は感謝の喝采を浴びていた。
 権力闘争に明け暮れていたあいつらは脆かった。



 飛ぶ。

 赤く燃えている。
 『IWARA』の残党にエミヤさんが襲われて、宿は燃やされた。

 赤い血が流れている。
 エミヤさんの顔が蒼白になっていく、もうどうしようもない。

 微かに声が聞こえる。
 呼吸すらままならない喉を震わせ、エミヤさんが何かを言っている。

『■■■と■』



 あの日からエイレーンは変わった。

211 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 21:59:34 ID:bKznsqmMqg
『エミヤ』フェイトに精通しているなら、この名前でグーグルシティが元はどこだったのか大体見当がつくと思います。

グーグルシティは50年前に生まれた街です。
当然の事ですが、50年以上前までは別の何かであった訳ですね。

それと、作品にもよりますが、冬木と言う都市には基本的に『大聖杯』なるものが設置されております。
その大聖杯はいったいどこに行ったんでしょうね。


それはそうと、馬の配信ガチャ運良すぎてクッソ笑う。

212 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/09 22:11:10 ID:bKznsqmMqg
細々とした設定集
『IWARA』
元ネタ iwara(エロmmd特化サイト、サーバーが糞雑魚な事で有名)
回想特有の戦闘シーンすらないかませ集団。
作者が適当に10分くらいで生んだ可哀想な人達。

エイレーン

キャラコンセプト
トライガンのウルフウッド+動画のエイレーン

元はアカリちゃんにスポットを当てる予定だったのがいつの間にかエイレーンになった。
アカリちゃんの場合、辛いことあっても自力で解決出来ちゃいそうなのが一番の理由。

213 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/10 12:45:58 ID:jwScoId0DB
おっつおっつ、気になる過去だぁね、毎度楽しませて貰っております

214 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/10 16:27:35 ID:9RtFoWX0pG
>>213
過去話はカカラの正体にも関わるので楽しみにしていてください!

ちょっとだけヒントを出すと、『カカラは胸に露出しているコアさえ壊せば倒せる』というのがキモです。

215 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:27:10 ID:Tapcdl79X4
>>210
『さあさあ! お次は準決勝第二試合だぜ!!
エイレーン一家の二大トップにして最高戦力、エイレーン&アカリ選手! 対するは我らがオーナー、見た目は可憐だが強さは苛烈! 双葉&ピノ選手!』
「これは予想つかねえな!」「待ってました!」「来た来たぁ!!」

 名前を呼ばれた四人が闘技場へと足を踏み入れる。

 ピノは上品な装飾の施された槍を担ぎ、双葉はファンシーにデコレートされたナイフを構えていた。
 油断なく相手を見つめるエイレーンの手に握られているのは、古びたサーベル。アカリは黒く光る革鞭を腕に巻きつけて遊んでいる。

『試合、、、、開始!』

「ピノちゃん! じぜんの作戦通りにいくよ! まちがってもアカリちゃんには触れないように!」

「了解です、双葉お姉ちゃん!」

『おっと!? 双葉、ピノ選手がいきなり動き出した! 陣形を組ませないつもりか!』

 ピノと双葉の二人は、試合が始まると同時に動き出す。
 ピノはアカリに、双葉はエイレーンに襲い掛かる。

 司会の言う通り、二人の狙いは『陣形を組ませない事』。
 エイレーンが前衛、アカリが後衛となって動く陣形は原始的ながらも強力であり、事実ばあちゃると馬越はその陣形に終始苦しめられていた。しかし、初手で二人を分断してしまえば何の効果も発揮しない。
 その上アカリを抑えてしまえば、アカリの『鞭で打った相手を強化するスキル』を実質無力化することが出来る。

216 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:27:48 ID:Tapcdl79X4
>>215
「そりゃ対策されマースよね」

「大会用に編み出した付け焼き刃の戦法だからね。綻びが出来るのも多少は、、、、ねっ!」

「甘いですわ!」

 縦横無尽に振るわれるアカリの鞭をピノは危なげなく避け、お返しとばかりに槍を突き返す。
 熟練者の使う鞭は音速すら容易に超え、リーチも長大。しかしその威力は高いと言えず、近距離での取り回しも悪い。
 詰まる所、懐に入られると弱い武器なのだ。

「激しく突いてくるねえ!」

「まだまだ序の口ですよ! ほら!」

 突き、薙ぎ払い、叩き下し、回避、ピノの行うあらゆる動作の終わりが次の動作に繋がる。
 豪奢な槍から繰り出される攻撃は全てが重く鋭い。
 ピノの動きは流麗で無駄が無く、息を付かせる暇すら与えずアカリを責め立てる。

 優雅に、そして苛烈に相手を圧倒する。これこそがピノの戦闘スタイル。
 素の拳で鋼の刃を押し返す様な『規格外』でも無い限り、これを崩す事は困難と言えよう。

『止まらないぞピノ選手! 流れる水のような槍捌きだぜ!!』

「くっ! ちょっとキツイね!」

 ピノの放つ銀閃が掠め、アカリの金髪を何本か持ってゆく。

217 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:28:06 ID:Tapcdl79X4
>>216
「早く、倒れて、下さい!」

「いやいや、戦いはまだこれからだよ!」

 掠めた槍を潜り抜けるように距離を詰めてアカリは手を伸ばし、それに対してピノは大きく後ろに下がる。

「、、、っ!」

 現在の状況はピノが有利。しかし攻めきれない。何故なら、アカリのスキルが未知だからだ。
 少し前の戦いで、アカリは馬越に触れることで動きを止めた。
 触れることで発動する、と言うこと以外に何も解らない以上、慎重に対処せざるを得ない。

「ヘイヘイヘーイ、ピッチャービビってるぅ?」

 そして、アカリは『未知』である事のメリットを十分に活かしている。
 アカリは無理に触りに行こうとせず、要所要所で未知の手札をちらつかせる事でピノの動きを制限してゆく。
 ピノの胸中に焦りが蓄積する。玉肌の上を嫌な汗が流れ落ちる。

218 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:28:32 ID:Tapcdl79X4
>>217
 視点は変わり双葉対エイレーン。
 双葉も又、焦りを覚えていた。
 肉体のスペックでは勝っているにも関わらず、どうにも攻めきれない。

「はやく、たおれて!」

「そりゃ無理ですよ双葉サーン。ペロペロさせてくれるなら良いですけどね」

 変態親父の様な口ぶりとは裏腹に、エイレーンの戦い方は至極冷静だ。
 ノラリクラリと避け続け、確実に当てられる場面でのみ攻めに転じる。

「、、、くらえ!」

「遅い!」

 正面からナイフで切りかかると見せかけてから、背面に仕込んでおいた二本目を投擲。双葉渾身の不意打ち。
 弾丸の如き速度で飛ぶ細身の刃はスルリと受け流され、エイレーンの頬を掠めるにとどまる。

『刃で刃を受け流した! 1mmズレれば致命的な荒技を平然とこなす!!』

「ふふん、どうデ、、、、っ!」

 見る人が見ればため息を漏らすほどに研ぎ澄まされた剣技はしかし、力によって押し込まれる。

「、、、強引じゃないデースか双葉さん」

 双葉が、ナイフを受け流した直後のスキを突いて体当たりをかまし、エイレーンを吹き飛ばした。

「ふふふ、、、、甘いよエイレーンちゃん」

(、、、、甘いとは言うものの、どうしたもんかなこれ)

219 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:29:31 ID:Tapcdl79X4
>>218
 双葉には二つの疑念が有った。

 一つ目はエイレーンの身体能力が異様に低いこと。
 持ち前の技量でしぶとく凌いでこそいるが、受けるダメージを完全に0に出来ている訳ではない。
 宝具を使っている以上、ヨメミと萌美がサーヴァントであるのは確実。その二人のボスであるエイレーンもほぼ間違いなくサーヴァントだろう。
 にも関わらず、アカリの強化が無いエイレーンの肉体スペックはサーヴァントとは思えない程に低い。

 そして二つ目はエイレーンの態度が不可解なこと。
 エイレーンの体には徐々にダメージが蓄積している。このままではジリ貧なのだから何かしらの手を打とうとするのが当たり前、もし打つ手が無いのならば多少の焦りを見せたりする筈。
 しかし、エイレーンが何か手を打つ素振りも、焦る様子すらも無い。

 何かが可笑しい、何かを見落としているのだ。

「いたっ、、、」

「お返しデスよ」

 突如として走った痛みに双葉は桃色の瞳を鋭く尖らせる。

 吹き飛ばされる瞬間、エイレーンはとっさにサーベルで切り付けていたのだ。

220 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:30:21 ID:Tapcdl79X4
>>219
「さて、そろそろ『十分』デースかね」

「なんて?」

 双葉が聞き返した瞬間、エイレーンの姿が消える。

「、、、、!」

 双葉の背後に現れる気配。
 振り返り様に防御を固めた瞬間、襲い掛かる衝撃。
 双葉は成すすべなく床に転がる。

「ぐぅっ、、、」

「ここからは私のターンですよ。双葉サーン」

 双葉の背後に回り攻撃をした人物、それはエイレーンだった。

『ど、どういう事だエイレーン選手!? 人が変わったような強さだぞ!?』

「、、、実は私、ちょっとだけウソをついてました。
アカリさんの『鞭で打った相手を強化する』スキル。あれウソデース」

「でも、、、じっさいに強化されて、、、、いたはず、、、、だよ」

「ええ、私の『痛みを感じるほど強くなる』スキルによって、ね。
鞭で打たれて痛みを感じれば強くなりますから」

 ヨロヨロと立ち上がる双葉の前でタネ明かしを始めるエイレーン。

「さすがにサーヴァント、、、、一筋縄じゃいかないね」

「サーヴァント? 、、、、、ああ、『宝具持ち』の事をあなた方はそう言うんデースね」

221 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/24 22:41:08 ID:Tapcdl79X4
お久しぶりです。
夏休みの宿題を片付けるので忙しく、投稿が遅れました。

さて、今回は前々から貼ってた伏線を一つ回収出来ました。
異能バトルでの能力偽装、、、、ずっっと書きたかったシチュエーションでした。

『鞭で打った相手を強化する』と言う、アカリちゃんのイメージと微妙にズレた能力だった事、一度しか能力が使用されていない事、そしてやたらと印象的な使い方をしていたのが伏線です。

つまり、準々決勝でエイレーンさんとアカリちゃんが即興SNショーをしていたのは、ウソの情報を印象付けつつ自身の欲を満たす為のパフォーマンスだった訳ですね。

222 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/25 07:53:58 ID:IT7hJz8Tjo
おっつおっつ、ブラフかけつつ欲満たしてて草

223 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/08/25 13:36:22 ID:MwGRTvl55T
>>222
一石二鳥と言う奴ですねww
因みに、エイレーンとアカリちゃんは何気に宝具やスキルを準決勝まで全部隠し通してる唯一のペアだったりします、、、

224 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:31:30 ID:9c5VDgsMnz
>>220
「、、、?」

「ある時期を境に現れ始めた、過去の記憶を持たない異能力者達の総称、『宝具持ち』。
殆どの『宝具持ち』は幾つかの異能力を持ち、その中でも最も強力なモノを皆『宝具』と自称する。
故に付いた名前が『宝具持ち』、、、、、双葉さんの言う通り、私もその一人デース」

「、、、、なるほど、ね」

(時間かせぎのために質問したら、結構きょうみ深い事実がでてきた)

 完全に出し抜かれた、その事実を認識した双葉が取った行動は時間稼ぎ。
 質問を投げかけ、エイレーンが答えている間に勝ち筋を探ろうと言う算段だった。

(ここは特異点、なんでもアリだっていう先入観があった)

(でもよくよく考えてみれば、なんでサーヴァントが現界してるんだろう)

(双葉達と同じく、特異点を元に戻すために『抑止力』が呼び出した? それだと記憶がないことに説明がつかない。記憶をけすメリットがないもん)

 勝ち筋を探るために稼いだ筈の時間は、突如与えられた情報の処理に浪費された。

 その浪費は、致命的な浪費。
 しかし浪費を代償に双葉は核心へと迫っていた。特異点の絡繰りと黒幕、その核心へと。

「では双葉サーン。そろそろ続きと行きましょうか」

「、、、、」

(なんで今まできづけなかったの?)

(ーーーーそもそもなんで今、『楔』をみつける見通しがたったの?
シロちゃんが来るのにあわせた様なタイミングで、、、、そういえば、シロちゃん達がこのタイミングにきたのはブイデアの事故があったからだ)

「双葉サーン?」

「、、、、、、、、」

(もし、これらに誰かの意図があるとするなら、つまり黒幕がいるとすれば、ソレは『双葉選手動かない! エイレーン選手の能力によるものか!?』

225 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:32:45 ID:9c5VDgsMnz
>>224
 司会の声が鼓膜を打ち、双葉を現実へと引き戻す。
 桃色の瞳をぐるりと回せば、周囲には心配そうにする観客とエイレーンがいた。

「ごめん、、、、ボーとしてた」

「全く、心配したんですからね」

「うん、、、、にしても、双葉がボーとしてる間に攻撃しちゃえばよかったのに」

「ハハ、そう言う事はしないって、さっきアカリさんと約束しちゃったんですよ」

「そっか、じゃあいくよ!」

 頭の中を戦闘に切り替え双葉は駆ける。
 目の前に居るのは強者、今度こそ一分の隙も許されない。

「負けませんよ!」

「こっちこそ!」

 ナイフとサーベル、二本の刃物がギィンッ!と音を立てて衝突し競り合う。

「いけっ!」

 互いの動きが止まった瞬間、双葉の足元からツタが伸びてエイレーンの顔面に襲い掛かる。
 双葉の『ナイフで切りつけた場所から植物を生やし操作する能力』による奇襲はエイレーンの表情を驚きに変えた。

「くっ! 面倒デー「シッ!」

「!?」

 エイレーンが咄嗟にツタを切り払った直後、双葉の蹴りがエイレーンの足を掠める。

「痛っ、、、、」

 掠めた蹴りがエイレーンの足に鋭い痛みを残す。双葉の靴先にナイフが仕込まれていたのだ。

「、、、成程、クツに仕込んだナイフで床を切りつけておき、そこから植物を生やしたんデースね」

「大正解、流石にりかいが早いね」

 切りつけてから発動可能になるまでタイムラグがあるものの、ソレを差し引いても双葉の能力は強力無比。
 生やす場所にタイミングも自由自在、植物をどうにかする手段を持たぬ相手ならば封殺出来る。それが双葉の強さ。

226 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:33:52 ID:9c5VDgsMnz
>>225
「、、、しこみは終わった、時もみちた。ここからは双葉の時間だよ」

『双葉選手の挑発だ! 私の辞書に『敗北』の二文字は無い!! そう言わんばかりだぜ!!』

 片手両足、双葉の持つ計三本の刃がギラリと光る。
 笑みを浮かべる瞳は勝利を見据えている、様に見えた。

「、、、、、」

 しかし双葉の内心では焦りと弱音が渦巻いている。それはエイレーンの闘技場という場に対する相性の良さによるものだ。

(刃物で切られれば血がへる、殴打されれば呼吸がじゃまされる、それがふつう。
それらの障害を補って余りあるほどの強化、それがエイレーンちゃんのスキルだね。たぶん。

でも、この闘技場はピノちゃんの宝具の力で本物の傷をおうことはない、痛みさえ我慢できるならどんなこうげきを受けても動きはにぶらない。
エイレーンちゃんにとって最高のフィールド、それがここ)

「エイレーンちゃんがこれ以上強化されるまえに植物で拘束する。それが双葉のかちすじ、、、、よし」

 そう双葉は小声で呟き、拳と共に己の弱音をそっと握り込む。

(エイレーン一家との交渉、、、、あの時みたいな無様はにどと御免だね)

 もう二度と無様を晒すものか。それが双葉の密かな覚悟だった。
 痛む体に喝を入れ双葉は吠える。

「ここ『スパークリングチャット』は双葉とピノちゃんの二人できずきあげた城であり誇りっ!! だから双葉はかつ!」

 双葉がバンッと両手を叩き合わせば闘技場の方々からツタが吹き出し、闘技場の一角を緑一色に染める。

「いいデースね! 戦いはこうじゃないと!!」

 双葉の猛りに獰猛な笑みで返答するのはエイレーン。
 今、エイレーンの心は燃え上っていた。己の計画にズレが生じているのにも関わらず。

227 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:35:03 ID:9c5VDgsMnz
>>226
(この闘技場こそ私の能力を最大限以上に生かせる場所。実態以上の力を見せびらかすことが出来る。故に、能力を晒すだけの価値があると判断した)

「ほら! ほら! ほらほら!」

 スコールの如く降り注ぐツタを&#25620;い潜り、切り裂き、エイレーンは双葉の元へと近づく。

 双葉は追い詰められる。

(無論、ここで勝たなければ意味はない)

「つかまえたっ!」

「甘い!」

 背後から生え、足に巻き付いた強靭なツタを強引に引きちぎり前に進む。

 双葉は更に追い詰められる。しかし折れない。 

(押しきれない。『切り札』の切り方を間違えましたか)

 ブラフに引っ掛かったと言う事実に動揺している間に押し切る。それがエイレーンの計画。
 単純を通り越して杜撰とも言える計画、しかしエイレーンはソレが最適であると判断していた。
 それは何故か、以前見た双葉が未熟だったからだ。

 エイレーン一家と双葉の交渉。あの時の双葉は失敗しそうになれば動揺を見せ、ばあちゃるが犠牲に成ろうとした時は躊躇していた。
 良く言えば裏表のない心優しい性格。友人としては最高、リーダーにだって適している。しかし、戦いには向いていない。

 故にエイレーンは複雑な計画で失敗のリスクを背負うよりも、効果は小さくとも単純な計画を確実に遂行する事を選んだ。これがピノや他の者が相手なら別の方法を選んでいただろう。
 双葉専用にあつらえた計画は、しかし上手く行かなかった。
 それは何故か、今の双葉が成長しているからだ。

228 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:39:04 ID:9c5VDgsMnz
>>227
(驚くべきは双葉さんの成長。以前会った時の双葉さんは未熟でした、、、、しかし今は違う。
双葉さんの絶対に相手を倒すという覚悟を感じる!)

「らああああああ!!」

 エイレーンが後3歩進めばサーベルの間合いに入る、そんな距離。互いの姿が良く見える程度には近い距離。双葉は覚悟を決め、裂帛の気合と共にナイフを床に突き刺す。
 突き刺した所から桃色の光が漏れ出し、漏れ出す程にナイフは色褪せる。漏れ出した光は双葉の喉へと吸い込まれてゆく。
 青々と茂っていたツタ共は悉く枯れ落ち、淡い緑の光と成り果て、地を這いずり、双葉の下に集う。
 双葉の足元より立ちあがりしは緑光。桃色の光は喉元から四方に別れて延び広がる。
 そうして出来上がるのは光で出来た花。茎は緑、花弁は桃色。高さ2.8mの幻想的な花が双葉を飲み込む。

(ここまで近づかれたら、拘束による勝ちは無理。もう全力をぶつけるしかない!)

「行けるところまで、行ってやるよおら! 『宝具真名解放』言の葉唄えば現は揺れる。幻言回れ『言想切断(フタバーニーヤ)』」

『双葉選手は奥の手を使うつもりだ! オーナーの奥の手お披露目か!?』

「ハハ、、、良い、良いデースねぇ」

229 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:39:13 ID:9c5VDgsMnz
>>228
 双葉の奥の手、内容次第ではエイレーンは負ける。その事実を認識した途端エイレーンの手は震え出す。ソレは恐れと猛りから来る震え。
 敗北のリスクが有る勝負、可能な限り避けるべき局面。しかしエイレーンは現状をどこか楽しんでしまっていた。
 己よりも頭の良い者、狡猾な者は腐るほどいる。しかし、己と張り合える程に強い者は殆どいない。しかし双葉は、今の双葉はエイレーンが本気を出すべき相手だった。

 己の軽挙によって恩人を失ったエイレーン。その失態を二度と繰り返すまいと誓った女。
 エイレーンにとってリスクとは恐怖の対象であり、事実彼女の理性は現状を恐れている。しかし笑みが止まらない。理性の泣き言を歓喜と戦意が真っ赤に塗りつぶしてゆくのだ。

230 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:50:03 ID:9c5VDgsMnz
今度はテストで投稿が遅れました
夏休み直後にテストあるとか流石にサディスティックが過ぎませんかね、、、、、、

逆境をきっかけに成長する双葉ちゃんと、徐々に素が漏れ出るエイレーンさんの回でした。
何気に二人共過去の失敗から学び、各々の成長を遂げています。


それはそうと、ヒゲドライバーさんとのコラボ配信凄い楽しみ

231 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 18:52:16 ID:9c5VDgsMnz
>>229 228の微訂正
 双葉の奥の手、その内容次第でエイレーンは負ける。その事実を認識した途端エイレーンの手は震え出す。ソレは恐れと猛りから来る震え。
 敗北のリスクが有る勝負、可能な限り避けるべき局面。しかしエイレーンは現状をどこか楽しんでしまっていた。
 己よりも頭の良い者、狡猾な者は腐るほどいる。だが、己と張り合える程に強い者は殆どいない。そして双葉は、今の双葉はエイレーンが本気を出すべき相手だった。

 己の軽挙によって恩人を失ったエイレーン。その失態を二度と繰り返すまいと誓った女。
 エイレーンにとってリスクとは恐怖の対象であり、事実彼女の理性は現状を恐れている。しかし笑みが止まらない。理性の泣き言を歓喜と戦意が真っ赤に塗りつぶしてゆくのだ。

232 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 20:47:44 ID:WicsM/DPBL
おっつおっつ、お疲れ様です

233 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/11 21:01:20 ID:9c5VDgsMnz
>>232
有難うございます、、、

5日に一度位のペースでの更新を目指して頑張ろうと思います

234 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:28:39 ID:.hSPSfAscd
>>231
 視点は移りアカリ対ピノ、暫し硬直していた戦いに変化が訪れ始めていた。

「ハァッ、、、、ハァッ、、、、」

「流石のピノちゃんもそろそろガス欠だねーうん。あんだけ動いてれば当然だけどさ」

 ピノの振るう槍をアカリは軽々避ける。息は切れ気味、技の冴えも落ちた。

 試合が始まってからピノはずっと攻め続けていた。言い換えれば、戦いが始まってから休むことなく槍を振るい続けてきた、ということにもなる。
 槍という武器は非常に重く長く、扱いが難しい。そしてピノの体格は女子基準でもかなり華奢。もし一瞬でも手を止めれば槍の慣性に体を持っていかれ、大きな隙を晒すことになるだろう。だからこそ止まれない、動き続けるしかない。長期戦には向いていないのだ。
 流水の如くとめどない優雅な槍技。しかしソレは、苦々しい妥協の上に成り立っているのだ。

 疲労の汗が止まらない。

「やはりこうなりますか、、、、なっ!?」

 額を垂れ落ちた汗がピノの目に入り、ほんの少し長めの瞬きをした次の瞬間。アカリは目の前にいた。

「油断したねピノちゃん」

「まずっ」

 ピノにアカリの魔手が近付きーーー

「なんてね」

『遂にアカリ選手の手が届い、、、、てないぞ!? ピノ選手の槍に阻まれたぜ!』

 ーーー阻まれた。
 アカリの手とピノの狭間、そこに穂先が割り込んだのだ。
 無防備に突き出されたアカリの右手を槍が傷つける。

「ぐっ!」

 この戦い初めてのダメージにアカリは動揺を隠せない。ブルーの瞳がせわしなく揺れる。

「さっきの瞬きはブラフだったんだね、、、、一本取られたよ」

「その通りですわ。相手が勝利を確信した時こそ最大のチャンス、きっちり狙わせて頂きました」

235 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:29:35 ID:.hSPSfAscd
>>234
 そう言い放ち、悪戯めいた笑みを浮かべるピノ。

 ピノは長期戦向きではない。だからアカリを倒せない事に最初は焦っていた。しかしそこで終わらないのがピノと言うサーヴァント。
 直ぐに勝敗を付ける事は不可能と見切りをつけ、今度は機を待った。偶然の隙が己に生まれ、そこにアカリが飛びつくまで待ったのだ。

 明るい見た目とは裏腹にアカリの頭はよく切れる。扱いの難しい鞭を使いこなし、触れるだけで発動する(と思われる)強力なスキルを持ちつつも驕る事は無い。わざと作った隙なぞ秒で見抜くだろう。
 故にピノは賭けた、アカリが本物の隙を前に油断してくれるかに。ピノは勝利した、一瞬のチャンスを物にした。そして、命懸けの賭けには大きなリターンがあるのがお約束だ。

「でもピノちゃん、この程度じゃまだアカリの方が有利、、、だ、、、、」

 お返しに鞭を振るおうとしたアカリの体から力が抜けてゆく。

『こ、これはどういうことだ!? アカリ選手が突然ふらつきだしたぞ!』

「なん、、、で?」

「わたくしの槍は一定量血を浴びると、浴びた血の持ち主から精気を奪うのですわ。そして精気を糧にする事で短時間の間威力を増すんですの。
まあ、処女と童貞の精気しか吸わない偏食家の槍なんで使い勝手は良くないですけどね」

 ピノの持つ槍『無銘』。カルロ家の先祖が吸血鬼の長である『死徒27祖』の一人を打倒した際、その記念にと27祖の死体を加工して作らせた槍である。
 吸血鬼とは言え、人型の生き物を素材に使った武器と言うのは少々外聞が悪い。故にこの由来は隠され、『無銘』と言う質素な銘と共に代々当主の証として伝えられる事になった。

「そう、なのか」

 アカリが槍に目線をやれば、穂先についた返り血は蒼く染まっている。準々決勝で見せた光景と確かに同じだ。

236 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:30:39 ID:.hSPSfAscd
>>235
「勘違い、、、、してたよ。てっきり、自傷をトリガーに発動するもんかと」

「あれはあくまで裏技。デメリットを背負ってでも威力が欲しい時の切り札ですわ」

 全身から力と言う力が抜き去られる。立つことすらままならない。

『アカリ選手膝をついた! これはつまり、オーナー・ピノの勝利という事!!』

 歓声轟く闘技場の下、ピノは次撃を繰り出そうとしている。このまま行けばあと数秒でアカリに届くだろう。

「、、、、そっか、残念」

 動揺が過ぎ去ったアカリの胸中には、幾つもの感情が渦巻いていた。
 己が出し抜かれた事への悔しさ。相手への称賛。そして『己が勝利してしまう』事に対する、ある種のやるせなさ。その他諸々。

「では御機嫌よ「矢刺せ『愛天使(キューピッド)』」

 刺さる直前で槍が止まる。アカリが盾や魔術で防御したわけでは無い、ピノが静止したのだ。
 アカリの宝具、その効果によって止まった。

『、、、、え?』

「この宝具、ちょっと代償がヤバ目だから、、、、使いたく無かったんだけどね。
 アカリをここまで追い詰めた礼に、スキルと宝具を教えてあげる。

 アカリのスキルは『蠱惑の手(チャームハンド)』。手で触れた相手を魅了して動きを止めるんだ。同性の人や、種族が違う相手には若干通りが悪いのが欠点かな。
 そして宝具名は『愛天使』。目線の先に居る敵を強制的に魅了するんだよ。種族問わず誰にでも効くのが特徴。欠点はね、、、、秘密」

 アカリがゆっくりと立ち上がり、槍を奪い取り、止めを刺す。

「止めは刺させて貰うよ。ほっといたら、思わぬ方法で逆転されそうだし」

 ピノが自らの槍に貫かれてから地に伏すまでの刹那、薄紫色のセミロングだけがフワリ虚ろに揺れていた。

237 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:31:50 ID:.hSPSfAscd
>>236
 アカリ対ピノの決着が着くのと同じ頃、双葉とエイレーンの戦いも終わりが近づいていた。

「やー、まけちゃたかな。やっぱ力不足だったか」

「いえいえ双葉サーン。『言想切断』、放った言葉を現実にする宝具。実現できる内容に制限はあるものの、ソレを差し引いてもかなり強力でしたよ。
 『はじけろ』と言えば空間が破裂し、『もえろ』と言えば周囲が燃える。あらゆる攻撃を可能にする万能宝具、、、、でも、威力に少々難があったのが致命的でしたネ。

 それと、発動中は一歩も動けなくなる上、スキルも使えなくなるのも痛かったデスね。宝具の強さを考えれば妥当な代償デースけど」

 倒れ伏す双葉に、エイレーンがサーベルを突き付けていた。
 周囲のあちこちは焦げ、抉れ、断裂し、凍り付き、ここで激闘が有ったことを証明している。

「痛みを感じるほどに強くなる私と、相性が悪すぎましたね」

「ほんとそれ。でもまあ、収穫もあったしべつに良いかな」

「収穫?」

「そ、収穫。エイレーンちゃんの強化さ、上限あるでしょ。
 双葉と戦ってる時、途中から動きに変化がなくなってたもん。
 それまではダメージをうけるほど、はやくなってたのに」

「ありゃま、これは鋭い」

 最早立ち上がることすら出来ない双葉。字面にすれば無様なその姿は、どういう訳か尊厳に満ちていた。
 桃色の目に宿る闘志は衰えの欠片も見せず、遠くの勝利を見据えている。

 きっとそれは、双葉がシロとスズの勝利を確信しているからだろう。

238 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:32:50 ID:.hSPSfAscd
>>237
「エイレーンちゃん最大の武器はスキルでも宝具でもなく、情報。
 、、、、双葉がアカリちゃんに、ピノちゃんがエイレーンちゃんに対応していればまだ勝ち目はあった。
 でも、そうはならなかった。それは何故か、エイレーン達が情報をかくし通していたから。双葉たちは間違えたんじゃない、間違えさせられたの。

 だから双葉は全力をぶつけることで未知のベールをはいだ。エイレーンちゃんを守り、双葉達の視界をおおうベールを。
 双葉がはいだのは二枚、スキルの正体と欠点。のこりはあと何枚かな?」

 そこまで言い切ると、双葉はニコリと素敵な笑みを浮かべる。
 はて何をする気か、とエイレーンが身構えた次の瞬間。

「こうさん」

 双葉は降参を宣言した。

「、、、、え?」

『なんと!? 双葉選手まさかの降参!! この時点でアカリ・エイレーンペアの勝利となります!』
「マジか」「まあ、潔くはある」「ナイスファイト!」

 驚くエイレーンを他所に双葉は悠々と立ち上がり、ピノを優しく抱き上げて闘技場を後にする。

「さようなら。次の決勝戦はオーナー席からみさせて貰うよ」

「、、、、、、え、ええ。さようなら」

 我に返ったエイレーンが返事をした時双葉の姿は既に無く、ピノを落とさないよう慎重に歩を進める背中が遠くに見えているだけだった。

『さあ観客の皆様! 良き試合を見せた選手たちに喝采を!!』

「、、、ちょいとばかし、成長しすぎじゃないデースかね」

 余りにも堂々とした振る舞いを魅せる双葉にある種の敗北感を感じながらも、エイレーンは勝者としてアカリと共に闘技場を去る。

239 名前:幕間『舞台裏の小劇場』[age] 投稿日:2021/09/23 18:36:49 ID:.hSPSfAscd
>>238
「ん、、、うん? ここは?」

「医務室だよピノちゃん」

 真っ白なベットが立ち並ぶここは医務室。敗北した選手が送られる場所。
 ピノと双葉の二人は医務室にいた。

「ああ、やっぱり負けていましたか、、、、、おや? 誰か来ますよ」

 医務室のドアがコンコンコンと三回ノックされる。

「入っても良いですよ」

 ピノが返事をすれば、少し間を置いてからドアが横にスライドして客人の姿を露わにする。エイレーンだ。

「エイレーンちゃんじゃないか、どうしたの?」

「ええ、実は、一つ提案したい事があるんデースよ」

 そう、歯切れ悪く言うとエイレーンは一瞬言葉を切り、半口分の息を肺に補給して続きを話す。

「もしあなた方が良ければ、私達は棄権しようと思います」

「、、、、、理由はなんですか?」

「私達は示威行為を目的としてここに来ました。そしてその目的はもう達成されたんですよ。
 実力派揃いで知られる岩本カンパニーの精鋭、馬越健太郎。新進気鋭のギャングスタ、ケリンと鳴神裁。スパークリングチャットの名物、戦うオーナー、ピノ・双葉。これら全てをエイレーン一家は下した。
 『スクリーンガンナー』『You-Know-that』『バレットバンド』、、、街の外で名を轟かしたアウトロー、計25団体を傘下に収めるニーコタウンのボス、神楽すずは正直惜しいですが、まあ今の戦果で十分です。

 それにほら、あなた方は優勝しないと金が足りないんデースよね? 互いに損の無い話しだと思いますが」

240 名前:幕間『舞台裏の小劇場』[age] 投稿日:2021/09/23 18:38:27 ID:.hSPSfAscd
>>239
「優勝云々の話、一応は機密なんですけどね。ギャング共に融資の邪魔をされた時といい、今回といい、情報を漏らすおバカさんが多くて嫌になりますね。」

「酒と女と金、後は多少の知名度があれば大抵の情報は手に入りますからね。良ければ今度、ねっとりレクチャーしてあげましょうか?」

 エイレーンの提案を聞いたピノは、薄紫色の髪をクルクルといじりながら考え込む。

 確かに、エイレーンの言う通り優勝賞金1000万を回収しなければ『楽園』に行くことは出来ない。その条件を確実にクリアできる、まさに願ってもない申し出。だがーーー

「すみません。その申し出を断らさせて頂きますわ」

 ピノは断った。

「どうしてデースか?」

「実の所、今大会の目的は一つじゃないんですの。強者の戦いを観戦し、そして全力でぶつかる。そうすることで皆様の成長を促し、来るべきカカラとの闘いで負けるリスクを減らす。それが二つ目の目的。
 だからエイレーンさん、棄権されちゃうとそれはそれで困るんですよね」

「それにね、ここは戦いをみせて楽しませるばしょ。取引なんてしたら、観客や他の選手、それにパプリカとピーマンにだって申しわけが立たないよ」

「、、、、ま、そういう事ならしょうがないですね」

 そう言いながらエイレーンは赤い髪をポリポリと掻き、思わず苦笑いを浮かべてしまう。 

241 名前:幕間『舞台裏の小劇場』[age] 投稿日:2021/09/23 18:39:16 ID:.hSPSfAscd
>>240
 シロとスズが優勝し、もしカカラの根絶に成功したならばそのメリットは莫大。防壁外の開拓、交易の容易化、、、、、時間をかければ、50年以上の歳月で荒廃してしまった世界を元に戻すことだって可能だろう。

 それにピノ達の動向さえ見ておけば、根絶の始まる時期を予想できるものありがたい。カカラ共が居なくなれば、良くも悪くもこの世界は大きな変革期を迎えるだろう。そして、迎えるタイミングさえ解れば変革はチャンスへと姿を変えるのだ。優勝を捨てるメリットは十二分にある。

 故にエイレーンは、更なる譲歩をしてでも提案を通す気でいた。だがしかし、リスクを嫌い、義理人情を割と気にするエイレーンは『リスクを減らす』や『申しわけ』といった言葉に結構弱く、ソレを言われてしまった以上引き下がらざるを得なかったのだ。


 それに、エイレーンに戦う理由は無いものの、『戦いたい』理由はいくつもあった。

「そう、そうですか。それは、楽しみですね」

「ええ、楽しみにしてくださいね」

 軽く会釈をし、エイレーンは医務室を出る。

 扉を閉じればそこは廊下、静かな廊下。カツコツコツカツ、薄灰色の床が靴音鳴らす。

「、、、本当に楽しみですよ」

 静かな廊下、誰も居ないその場所で、そっと噛みしめる様に一人呟く。
 萌美とヨメミ、信頼する部下を負かした強敵。勝っても負けても問題の無い戦い。あらゆる要素がエイレーンを奮わせて行くのだ。

「、、、、フゥ」

 赤い瞳をピタリ閉じ、沸き立つ心を落ち着かせる。大きく深呼吸し、火照った体を冷ます。笑みは浮かべない、闘志も今は要らない。
 今はただ体を休ませ、心を休ませ、感覚を研ぎ澄ます。それだけでいい。

242 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 18:45:16 ID:.hSPSfAscd
やっと準決勝が終わりです、多分今までで最長の戦いだったと思います。

ただの大会かと思いきや、意外と色んな思惑が動いていました。
まあ、ぶっちゃけ金稼ぎの為だけに大会開く意義は薄いですしおすし。

各キャラのステータスは決勝戦が終わってから纏めて紹介するつもりです。

243 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 19:08:54 ID:.hSPSfAscd
細々とした裏設定

『スクリーンガンナー』
元ネタ:ニコニコのコメント機能(『画面』にコメントを『撃ち込む』ことから)

 比較的最近になって生まれたグループ。
 技術の発展で職を失った人たちが街の外に活路を求めたのが始まり。
 主な収入源は『書類偽造の代行』『身分証明書の偽造』等々


『You-Know-that』
元ネタ:例のアレ

 カカラを崇拝するカルト集団。歴史は結構古い。
 収入源は無し。基本自給自足。
 ニーコタウンのカカラを用いた堆肥や燃料の知識は、殆どここ由来だったりする。


『バレットバンド』
元ネタ:東方(弾幕+音楽=バレットミュージック→バレットバンド)

 ドストレートなアウトロー集団。同業者の中ではまあまあ長続きしている方だった。
 主な収入源は略奪、パイプガンの製造(取り敢えず弾は撃てる粗製銃の事)

244 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/23 21:26:24 ID:XyZMD4A.9T
おっつおっつ、決勝が楽しみじゃ。バレットバンドがアウトローなのは解釈一致(原作を見ながら)

245 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/09/24 12:36:03 ID:bXqHp0RNBA
>>244
ほぼ毎シーズンヤバい異変をしでかしてますからね、幻想郷の住人達

決勝戦は気合い入れて書くつもりです! 決勝が終わったら、幾つか日常回を挟んだ後、一章の終盤に突入する予定ですね

246 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:00:25 ID:9s2I0eJRR7
>>241
『さあさあ始まる決勝戦! 泣いても笑ってもこれが最後!!』

『決勝戦に出場する選手のご紹介! 白髪蒼目、彗星の如く現れた謎の美少女、シロ選手! ニーコタウンの大ボス、噂に恥じぬ武勇、神楽すず選手!
 エイレーン一家の長、知略も武力も一級品、エイレーン選手! エイレーン一家のナンバー2、綺麗な花には猛毒あり、アカリ選手! 以上四名だぜ!!』
「応援してるぜ白髪の嬢ちゃん!」「やっちまえボス!!」「頑張りなよエイレーン!」「負けんなよぉ! 金髪の姉ちゃん!」

「決勝戦か、緊張するねぇ」

「ですねシロさん」

 司会の煽り文句が闘技場の中に朗々と響き渡る。観客席を見ればそこに空席は一つもない。決勝を待ち望む観客達が一片の隙間もなくズラリと並んでいるのだ。
 シロとスズの二人が堂々とした足取りで会場に入った瞬間、観客のボルテージは一際上がる。

「勝ちますよアカリさん」

「勿論」

 対するはエイレーン一家の二人。
 二人の目はただ澄みきり、迷いを一欠片も感じさせない。


『試合、、、、開始!』

 司会の声と共に選手は動き出す。

247 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:00:49 ID:9s2I0eJRR7
>>246
「、、、、、」

「、、、、、、」

 先程の準決勝とは打って変わり、開始した瞬間動き出す様な事は無い。
 じりじり、じりじりと互いの間合いを図りながら近づいてゆく。


 まず間合いに入ったのはアカリ、弓や銃を除けば鞭のリーチは頭一つ抜けているのだから当然と言える。しかしアカリは動かない。エイレーンの補助に徹するつもりなのだろう。

「、、、、行きます!」

『すず選手が仕掛けた! 短期決戦狙いか!?』

 最初に動いたのはスズ。釘バットを振りかぶると、緑色の魔力を伴いながら凄まじいスピードでエイレーンに肉薄する。
 肉体の各部から魔力を噴射し、動きを補助する事で身体能力を底上げするスキル、それが魔力放出。

「ぶっ潰す!」

 真上から真下へ、小細工無しの振り下ろし。まともに当たれば必殺。そんな一撃がエイレーンに襲い掛かりーー

「潰されるのは御免デース」

「忘れて貰っちゃ困るね、と」

「やばっ!?」

 邪魔された。
 振り上げたバット、その柄頭をアカリの鞭が正確に打ち据えたのだ。そのせいでバットは滑り、軌道はブレる。
 一応当たりはしたが痛打にならず、エイレーンの能力を発動するのに丁度良い程度まで威力が減衰させられた。

248 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:01:22 ID:9s2I0eJRR7
>>247
「んー。刺激的で気持ち良い、素晴らしい痛みですよ」

「不味っ」

 額でバットを受け止めたエイレーンは笑顔でそう言った。浮かべた笑顔はやや恍惚気味で、顔を滴り落ちる血の赤も相まってエイレーンの不審者感を強く演出している。
 しかし、胡乱気な様相に反してその行動は的確。エイレーンはサーベルを逆手に持つと、スズの鳩尾に柄を叩きこんだのだ。スキルの条件を満たし身体能力が上がった状態で。

「カハッ、、、、!」

『急所に一撃! これはえげつないぜ!』
「ヒェッ、、、、」「痛みが想像しやすいのが生々しいな」「羨ましいぞ!」

 鳩尾を打たれたスズの呼吸は一時止まる。肺の中全てを絞り出されたような苦痛。酸欠から来る混乱。体はくの字に曲がり、まともに立つことなど不可能。握り締めていたバットがカランと音を立てて零れ落ちる。
 ぐらつく緑の瞳で何とかエイレーンを捉え、必死に拳を振るうも防がれてしまう。

「急所に打撃を受けても動けるとは流石デース。でも「やらせないよ」

 すぐさま止めを刺そうとしたエイレーンを妨害したのはシロ。
 スズの背後から飛び出したかと思えば、突然顔面にナイフを投げつけて視線を誘導し、シロ本人は微妙にタイミングをずらして突貫する。アカリが鞭を振るう隙など与えない。
 投擲物と疑似的な連携を取る厄介な戦法。しかしーーー

「なるほど、投てき武器を用いた視線誘導。タイミングも的確ですし、それを可能にするシロさんのスピードと技量も驚嘆に値しマース」

 通じない。
 蹴り上げたスズのバットでナイフを受け止め、シロに対してはサーベルによる切り払いで対処される。

249 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:02:19 ID:9s2I0eJRR7
>>248
「ですが、似たような手を準々決勝で見せたのが不味かったですね。もしこれが初見なら、正直痛手は免れませんでしたよ」

「それで良いんだよ、それで。シロの狙いはすずちゃんを助けることだけだからねぇ!」

 スズとエイレーンの間に体をねじ込む。振り下ろされたサーベルがシロを浅く切り裂く、がその程度気にも留めない。
 シロは右の手に持ったナイフでエイレーンを牽制しつつ、左の手でスズを押し退けて後ろに下がらせた。

「大丈夫すずちゃん?」

「有難う、、、ございます、、、シロさん。もう大丈夫です、、、、私、、、もう戦えます」

「強がりなのが見え見えだよ、ちゃんと息が整うまでは駄目」

 シロは演技臭い笑みを口元に浮かべてそう言い放ちつつ、思考を始める。

 イマイチ決定打に欠ける為シロはエイレーンと相性が悪い。スキルは発動しておらず、シロの宝具『唸れよ砕け私の拳(ぱいーん砲)』は予備動作が大きい。もう一つの宝具も今は効果薄。しかし、それでも持ちこたえることぐらいは出来る。
 無論、持ちこたえたところで勝機が無ければ、ソレはただの悪あがき。では、果たして勝機はあるのか?ある。神楽すずだ。すずちゃんの攻撃がまともに当たればエイレーンもアカリも一撃で倒せる。どんな手を用意してようと、使われる前に倒せば良いのだ。準々決勝、準決勝を見る限りではダメージを反射する様なスキルを持っているとも考え辛い。
 シロはそこまで考えたところで一旦思考に区切りをつけ、目の前の戦いへ意識を集中させる。

(宝具とかの不確定要素はあるけど、今それを考えたところで無意味。
 兎にも角にも時間を稼がないとね、、、、後40秒、いや30秒も稼げば、すずちゃんなら十分回復するかな?)

250 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:02:54 ID:9s2I0eJRR7
>>249
 エイレーンに対して半身になり、右手でナイフを構える。構える手はヘソの高さ、刃先は相手の首元へ。重心の位置を体の芯に合わせ、スムーズに動けるようにする。小指、薬指でナイフをしっかり握り、他の指は軽く添えるだけ。ごくありふれた基本の構え。様々な人間に使われてきた、即応性に優れる構え。

(30秒、、、、そこまでは持たせて見せる!)

 エイレーンを見据え、シロは時間稼ぎ(戦い)を始めた。

「シッ!」

 1秒目、鋭く息を吐いてナイフを突き出す。

「軽い!」

 3秒目、シロの一撃は叩き落される。
 5秒目、鞭の援護射撃。
 6秒目、肩に痛打。
 8秒目、エイレーンからの斬撃。

「、、、、っ!」

 10秒目、強引に受け流す。
 11秒目、蹴りで反撃を試み、アカリの鞭に邪魔される。

「二対一で此処まで捌けるのは流石デース」

「でもそろそろ限界じゃないかな。アカリはそう思うよ」

 15秒目、鞭とサーベルの同時攻撃が襲来。
 16秒目、ナイフが弾き飛ばされる。

「はぁっ、、、、はぁっ、、、、、!」

 17秒目、もうこれしか打つ手が無い。

「、、、、、『真名解放』
 芸術をもてあの灰色の労働を燃やせ
 ここには我ら不断の潔く愉しい創造がある
 皆人よ 来って我らに交じれ 世界よ 他意なき我らを受け入れよーーーー」

『シロ選手は二つ目の宝具を使うようだぜ! 逆転狙いか!?』
「正直厳しいな」「内容にもよるが、さて」「、、、、、ん? 待てよ」

 20秒目、最後の足掻きにと宝具を発動ーーーー

「なっ、、、」

「スミマセン、シロさん。遅くなっちゃいました」

251 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:03:24 ID:9s2I0eJRR7
>>250
 ーーーする必要はなくなった。
 良く通る声、真っすぐで力強い声がシロの鼓膜を震わせる。声のする方を見れば、そこにはやはり透き通るような緑目の美少女がいた。眼鏡の似合う、清楚で豪快な女。そう、神楽すずが復活したのだ。
 痛みは既になく、戦意も揚々。笑顔と怒り顔を足した様な表情は『やられた分はやり返してやる』とでも言わんばかり。

「いやいや、想定よりも大分早いよ」

「そう言ってもらえると、助かります!」

 スズは復活するや否やバットを拾い上げ、強烈豪快なフルスイングを放つ。エイレーン一家の二人も、まさかこれほどに早くスズが復帰してくるとは思わなかったのだろう。シロにばかり注意を払っていたせいで、モロに風圧を受けて吹き飛ばされてしまう。

「くっ!」

『神楽すず復活っ!! 反撃の狼煙に成り得るか!?』

 二人が吹き飛ばされた隙にシロはナイフを回収する。
 スズは復活し、互いの距離も開いた。これで仕切り直し、ここからが本番だ。

252 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:08:07 ID:9s2I0eJRR7
お久しぶりです。展開に悩んで若干スランプってました。
仕方ないのでスランプがてら後々登場させるモブキャラの設定を組んでました。

253 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/13 23:19:49 ID:9s2I0eJRR7
細々とした設定集

カカラ
特異点Yに蔓延る怪物、左胸のコアが弱点。一般人でも武装すればギリ倒せる位の強さ。
一つの母体から産まれるため遺伝子的には全て同じ。共食いして強力な個体に成る事がある。
 
■■の有り様を人為的に歪めて生み出された産物。祝福と共に産まれた怪物。人類の罪であり希望。

254 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/14 07:50:42 ID:KmN94TxnFw
おっつおっつ、自分のペースで大丈夫よ。後羨ましがってるモブ、死ぬぞ。

255 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/14 16:31:20 ID:lRshBsBn60
>>254
ありがとうございます。

確かに死にますね、、、、、人間とサーヴァントの壁は厚いですから。
セバスやピーマン(ピーマンとパプリカは一応人間設定、正直Vと言うよりかはマスコットの亜種なので)等々、その壁をぶち抜いてる人たちがいますが、、、、アレは、超人の域に片足突っ込んでるお方達なので例外です

256 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:22:42 ID:0RGjI3UHBL
>>251
「本気で叩き込んだんデースけどね。ここまでアッサリ復帰されると凹みマースよ」

「攻撃が当たる瞬間、魔力の放射で攻撃を相殺したんです。それでも大分喰らっちゃいましたけど」

 スズの全身より立ち昇るは魔力、ゴウゴウと噴き出て渦巻くそれらはさながら豪風。

 ブイデア所属の英霊、神楽すず。実のところ彼女はなんら特別なスキルを持っていないのだ。『魔力放出』『カリスマ』と言ったありきたりなスキルに、火傷や呪いへの耐性をもたらすスキル『普通』。いずれのスキルも他の英霊と比べればどうしても見劣りする。
 しかし弱いかと言われれればソレは否、何故ならばスズにはとびっきり特別な宝具があるからだ。

「BT君、魔力のバックアップをお願いします」

『要請を受諾。動力炉のエネルギーを魔力に変換、魔力のコネクションを補強、バックアップ開始』

 スズが小声で呟けば機械的な音声が答えを返し、数秒の後にはスズの体に魔力が流れ込み始める。

 そう、これこそがスズの宝具『人機の絆』。『BT』と呼ばれる、自立AIを搭載した巨大兵器を使役する事ができるのだ。魔力のバックアップを受ける、スズが直接乗り込んで戦う、遠方から支援砲撃を行って貰う等々、様々な使用方法を持つ宝具。
 今は大会のルール『銃火器の使用禁止』によって魔力のバックアップを受けるぐらいしか出来ない、がそれでも十二分に強力と言えよう。

「今度こそぶっ潰す!」

 裂帛の気合いと共に突撃するスズ。

「同じ事をやっても、同じ結果にしか、、、ぐっ!?」

 迎え撃とうとしたエイレーンの数歩手前、スズは突然右足を床に叩き込む。次の瞬間、闘技場の床が破裂する。

257 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:24:04 ID:0RGjI3UHBL
>>256
『床が破裂したぞ!?』

「、、、っ!」

 破裂した床は礫となってエイレーンに襲い掛かる、完全に想定外の攻撃にさしものエイレーンも対処に精一杯。

「決勝が始まって最初に突撃した時、床に魔力を叩き込んで脆くしといたんですよ。
 ホントは最初の一回目でやるつもりだったんですけど、想定以上に造りがしっかりしてて無理だったんですよね、ハハ」

「ナイスだよすずちゃん!」

 不意をつかれたエイレーン、その隙を逃さぬのはシロ。

「これで決める!」

 うろたえるエイレーンを飛び越し狙うはアカリの首。
 決勝戦での逆転劇。沸き立つ声援がシロのスキル『応援を力に変える能力』を発動させる。
 心身上々、闘志揚々。しかし相手はアカリ、魅了の力を使いこなす手練。万全のアカリならばこれしきの窮地は軽々凌ぐだろう、そう『万全』ならば。

「、、、くっ!」

「やっぱり! 今のアカリちゃんは『近接戦闘がほぼ出来ない』、そうだよねぇ!」

『攻める! 攻め立てているぜシロ選手!』

 シロの振るったナイフに対し、アカリは大げさな回避を余儀なくされる。それは何故か、宝具の代償で片目が見えず、遠近感覚が消失しているからだ。

「『触れただけで魅了出来る』のに『わざわざ鞭を使う』、ギリギリまで使い渋ってた宝具を使ったのになんの変化もない『様に見える』、ここの違和感がシロ的には凄いんだよねぇ。
 ピノちゃんの猛攻を凌いでたのを見るに、接近戦が不得手だとも思えない」

 積み上げた推論を披露しながらも、シロの追撃に淀みは無い。徐々に切り刻まれてゆくアカリ、端正な顔に大粒の汗が浮かぶ。

258 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:24:39 ID:0RGjI3UHBL
>>257
「アカリさん! 今助けに「行かせませんよ」

 礫を凌ぎ、アカリを助けにいかんとするエイレーンを阻むはスズ。

「おらぁ!」

「クッ!」

 スズの一撃、その余波がエイレーンの赤毛をブチリと数本持っていく。
 今すぐにでもアカリを助けに行きたい、しかし目の前のスズを無視できない。正に板挟み、紅がかったエイレーンの瞳が苦し気に窄まる。


 そんなエイレーンを他所に、シロとアカリの戦いは進む。

「、、、だからシロは『宝具の代償が接近戦を大きく阻害する物であり、それを誤魔化す為に鞭を使用している』と仮説を立ててみた。どう、合ってる?」

「、、、、」

 大きく後ろに飛び、なんとか窮地を脱するアカリ。しかしもう後ろは壁、後がない。
 必死に頭を回し勝機を探す。

「(シロちゃんの発言が多い、ブラフを警戒して私の反応を見てるのかな? チャンスかも)正解、だよシロちゃん。私の宝具『愛天使』は『美』と言う概念そのものを瞳から射出するモノ。
 放たれた『美』は、視線上に捉えた存在を書き換え、魅了する。解りやすく言うと『アカリを頂点にした美の価値観を相手に押し付けて、絶対に魅了する魔眼』。
 まあハッキリ言ってーーー人間が使うには過ぎた宝具でさ、そんなの使ったらどうなると思う?」

 僅かながらも勝機は見えた、後は実践するだけだ。下手に感情を見せてはいけない、バレてはいけない。迫りくるシロを見据え、心を決める。

259 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:25:28 ID:0RGjI3UHBL
>>258
「反動が来る、のかな?」

「その通り、反動で目が一つ潰れるんだ。数日で戻るとはいえ、そう簡単には使えない、、、と言うとでも!? 矢刺せ『愛天使(キューピット)』!!」

 会話で時間を稼ぎ、宝具の重いデメリットを提示し、まさか使わないだろうと思わせてからの即時使用。これが決まらなければ終わりーーーー

「来ると思った」

 ーーー決まらなかった。
 シロがアカリの眼前に突き出したのはナイフ、顔が写る程に磨かれたソレが魔眼を跳ね返したのだ。
 石化の魔眼を持つメデューサは鏡の如く磨かれた盾を用いて討伐された。魔眼に対しての鏡は、定番の対象法と言える。

「なん、で?」

 宝具を跳ね返されたアカリはもう動けない。自分の宝具で有るが故に多少の耐性があり、喋ることは出来るがそれだけ。仮に動けたとして宝具の反動で何も見えないのだから、どうしようも無くはあるが。

「そりゃ解るよ、アカリちゃんの目に諦めの色がなかったもの。キラキラでギラギラな、綺麗な目をしてた」

「なる、ほど。後は、頼んだよ、エイレーン。私は、ここでギブアップ」

 何も見えなくなった蒼い瞳を閉じ、顔には快活な笑みを浮かべる。そして眠るように、ゆっくりと床へ倒れ込む。

260 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:26:11 ID:0RGjI3UHBL
>>259
『アカリ選手、ここでリタイア! エイレーン一家大ピンチ!!』

「、、、アカリさんがやられましたか。困りましたね」

「降参しますかエイレーンさん? 2対1じゃ勝ち目は薄いですよ」

 スズの問いかけに対し、エイレーンはかぶりを振って否定する。

 アカリが窮地に立たされていた時は焦燥感を露わにしていたエイレーン、しかし今は落ち着いている。勿論、先ほどまでの態度が演技だった訳ではない、切り替えただけだ。
 最も信頼していた部下であるアカリは倒された。シロもスズも相応に消耗してはいるものの、戦えない程では無い。予測しうる限りで最悪の事態ーーーしかし想定内ではある。情報収集、組織の統制、交渉、当たり前の事を当たり前にこなしてこそのリーダー。そして、『当たり前』の中には『最悪の事態を想定し備える事』も含まれている。

「イエイエ、お気になさらず。見せる予定の無かった奥の手を見なきゃいけなくなって困ったなと、そう思っただけデース」

 そう言うと、エイレーンは大きく息を吸い込んで全身に力を入れる。

「不味い!」

「え?」

 ほぼ無限の魔力に圧倒的なパワー、スズは強者だ。故に危機察知能力が低い、そんなもの無くても大抵どうにかなるからだ。
 対して、シロは強者とは言い難い。発動条件の厳しいスキルに少々地味な宝具、しかしそれ故に危機察知能力は高水準。

「、、、、くっ!」

261 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:26:58 ID:0RGjI3UHBL
>>260
 しかし間に合わない。シロとエイレーン、二人の間を阻むようにアカリが倒れ込んでいたからだ。
 敗者の事など気にせずとっとと飛び越えてしまえば、エイレーンが何かする前にナイフで突き刺してしまえたかもしれない。しかしそんな事をすればアカリに砂埃が掛かる、そもそも人の上を跨ぐなど無礼千万。
 殺し合いの場ならともかくここは試合場、やや甘い所の有るシロが躊躇してしまうのはいささか仕方のない事であった。

「『真名解放』同胞を守るためならば
 畜生となりて汚泥を這いずり
 餓鬼となりて汚泥を喰らい
 亡者となりて万象の責め苦を受け
 修羅となりて万物を切り伏せよう
 『六道輪廻荒行道(りくどうりんねこうぎょうどう)』」

 エイレーンの宝具が発動する。肌はひび割れ、背は曲がり、肉は焦げて炭になり、全身から血が噴き出す。

「これが私の宝具、デース。でもまだ、終わりじゃないですよ」

「いいえ、終わりです!」

 ワンテンポ遅れて危険性を察知したスズがバットを振り下ろしーーーー

「ガハッ、、、、!」

「だから、まだ終わりじゃないですよって」

 吹き飛ばされた。
 エイレーンの手から衝撃波の様な物が放射されたのだ。

「一体、何を、、、」

「私の宝具は『スキル効果の増幅』、代償は見ての通り『継続的な自傷』デース。
 正直代償に見合わない効果ですよ。だから活かせるようにしたんです、肉体を改造して」

262 名前:名無しさん[age] 投稿日:2021/10/29 22:27:09 ID:0RGjI3UHBL
>>261

 エイレーンの左手から伸びる無機質な管。右手に持つ古風なサーベルやボロボロの肉体も相まって異様な雰囲気を放っている。

「改造?」

「エエ、改造です。セバスさんとかと同じような。でも、サーヴァントは体の構造が常人と違うので苦労したんですよ。
 宝具やスキルの動力源である魔力を使用する事でどうにかしたんデース。
 ま、効率が悪すぎて宝具で強化している時しか使えないんですけどね」

『これが、この姿こそが本当の本気だと言うのか!? あらゆる手を使い、ひたすらに強さを求めたその姿! もはやこれは剣、ただ一振りの剣がそこに在ります!!』
「すげえ、、、」「あの改造、ちょっと気になるネ」「シロちゃん大丈夫っすかね?」

「なんで、そうまでして強くなろうと、、、、」

「昔、色々あって恩人を失いましてね。繰り返したくないんですよ、二度と」

 ひび割れた顔に僅かな哀愁を浮かべてエイレーンは答える。
 今のエイレーンはお世辞にも美しいとは言えない。元がどんなに見目麗しかろうと血にまみれ、肉を焦がし、管まで生やしていては台無しだ。しかし醜いかと言われれば否、『強さ』と言う単一の分野に特化したが故の機能美が、威厳が、そして凄みがある。

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