>>650
十五日目
揺れる感触に目が覚める。気がつくと、私は誰かに背負われていた。
私を背負ってくれていたのは女性。青い瞳と蒼色のショートヘア、スレンダーな肢体、冷ややかな美貌。私が言うのもなんだが、とても不思議な人だった。
彼女曰く、私は三日も寝込んでいたらしい。倒れた私を看病しながら運ぶ……相当な重労働だったろうに。感謝してもしきれない。いつか恩を返したいものだ。
十六日目
今日も砂漠を歩いた。
背中を焼く使命感も、誰かと会話してる間は収まってくれる。
私が記憶喪失なこと、謎の使命感に駆られていること……色々な事を話した。
十七日目
今日は驚くべき話を聞いた。
私を助けてくれた彼女は、鉱石から錬成されたロボットであり……名前は2CHと言うことを。
2CHというのは2(完成品)Coal(石炭のように過去を留めた)Hauyne(藍方石のように美しく)という意味。
完成品を示す『2』を与えられたのは自分だけであると、彼女は少し誇らしげに語っていた。
ちなみに、この命名法則は彼女を作った種族に対しても適用され、その場合は最初の数字が0(未加工品)となるらしい。
この命名法則だと名前が被りまくりそうなモノだが……本来は数字の後に5文字以上アルファベットを連ねるのが普通なので、別に問題ないのだそう。
十八日目
2CHの持ってきた食料と水がアホ程あるので、食うには困らない。彼女の食う物と私の食う物が一致していたのも幸いだった。
…………だというのに、私の胸中には焦燥感が未だしつこく渦巻いている。使命とやらを早く思い出させて欲しいモノだ。
>>651
十九日目
今日も旅をした。どこまで行っても砂漠だ。靴がジャリジャリして少し気持ち悪い。
2CHさんに自分を見つけられた理由を聞いてみたら、『非再現的エネルギーをアナタから感知した』との事。
非再現的エネルギーというのは、『同じ条件を揃えても観測者や実験者などによって性質が変わる』、そう言ったエネルギーの総称らしい。魔術とか呪術とか、そういう特殊な物事に作用するそうだ。
……本当に魔術が実在するのか聞こうとも思ったが、馬鹿馬鹿しくなって止めた。
ロボットが居る時点で今更だし、そもそも私だって大概だ。砂漠を旅する記憶喪失の人間とか、我ながらフィクションじみているなと思う。
二十日目
2CHにここまで来た経緯を聞いてみた。
その時の会話がとても印象的だったので、小説形式で記録しておこうと思う。
砂漠を放浪する最中。私は襟を開いて汗による湿気を逃しながら、なんとなしに口を開いた。
「そういえば2CHさん、貴方はどうしてここに来たんですか?」
「………」
2CHは静かに目を細め、空を仰ぐ。逆巻く砂塵が頬をなでた。
「大した理由じゃありません。ワタシはただ知りたいのです、創造主たちの結末を」
「結末?」
「ワタシが目覚めた時、創造主はすでに滅んでいました。与えられた役割は『墓守』。”滅びゆく創造主”たちの最後の作品、残存リソース全てを注ぎ込んだ完成品。創造主なき後の都市、それを守護するロボット。それがワタシでした」
「……? それだと、2CHさんが居るのはおかしい様な。ここに都市なんてないですし」
>>652
私の質問に、彼女はこくりと頷く。クールな美貌に反した子供っぽい動作。無くなった記憶が妙に騒いだ。
「その通り。ですがこれには訳があるのです…………ワタシに与えられた使命は『1000年の間、都市を守れ』。そして、ワタシは1000年かけて使命を果たしました」
「使命……」
「使命を果たし自由となったワタシは、途方にくれました。これからどうすれば良いのか、どうしたいのか。己を問い直す必要がありました。その果てに見出した新たな使命、それが『創造主の結末を知る』……です」
彼女は夢見るように微笑む。果てしない砂漠に、確かな足跡を残しながら。
「創造主たちはせめてもの抗いとして、多くの同族を外の世界に送り込みました。
殆どは無為に死んでいるでしょう。しかし、この世界は呆れるほどに広大です。きっとどこかで創造主の子孫が生き残っていると…………そう思えて仕方ない。
だからワタシは探します、1000年後の創造主を。島から島へと旅をして」
「…………」
私は絶句した。絶句するしかなかった。1000年という時をひたすらに待つ。その凄まじさや、それを平然と言える彼女の精神性。
彼女は人のように喋り、きっと心を持つ。しかしその構造はどこか人と違っているのだ。それが良いことか悪いことなのか、私には判断がつかなかった。
乾いた熱気が私の頭を炙る。旅はまだ長そうだ。
二十一日目
体の変な部分に力を込める事で、肉体や触れたモノを硬化できることに気が付いた。
前に2CHが言っていた『非再現性エネルギー』とやらの影響だろうか。
[しばらく空白が続く]
三十日目
ついに人の集団と合流できた!
少し皮膚が岩っぽい…………というか岩そのものだが、人であることに違いは無い。意思疎通ができる。それだけで十分だ。
新学期のゴタゴタと軽いスランプ(それとライキン)で投稿が遅れました…………
シロちゃんのサブクランに所属しているので、もうじき起こる戦争が楽しみです
裏設定
2CH
元ネタ:2ch
ロボット。厳密に言うと、無機物製のホムンクルス。
人間とは違い『使命ありき』で生まれるので、その精神構造も使命に適したモノとなる。
砂漠島(正式名所は別にアリ)
殆ど砂漠だけの島。ほぼ何もない島。怪物とかもいない。植物もほぼない。
環境の危険性は極めて低い。食料と水さえあれば子供でも生きていける。
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=RtLLZrd8T-A
今回短めなので
出し損ねた裏設定出しときます
グーグルシティと臓硯について
聖杯の力でほぼ不老不死と化した臓硯を封印するための封印はニ重に施されていた。
聖杯の霊脈を転用した一つ目の封印(霊脈の乱れにより破壊済)、楽園(グーグルシティ中心の隔離地域)を囲う壁を用いた封印
本来は程々に強い怪物(カカラの事)を生産させ続け、市民が武装するように誘導しつつ、聖杯のエネルギーを何十年もかけて枯渇させる計画だった
それだけだと破綻のリスクが有るので『楽園の内部に精鋭を配置しておき、万が一封印を破ったら一斉に叩いて再封印』という第二案も完備
本編で臓硯が最初から逃げなかったのは楽園の封印によるもの
聖杯パワーブッパすれば逃げられなくもなかったのだが
それやると大幅に弱体化=討伐のリスク
になるので実質不可能だった
本編ではほぼ言及されなかったが
間桐家、アインツベルン、遠坂の魔術を総動員して『不死殺し』
も並行して研究していた
臓硯にトドメ刺したシンジコ.ピーがそれ
大まかな作成方法・原理としては
@蟲毒を通じて複数の魂を一匹の蟲に押し込む
A魂は予め埋め込んておいた複数の宝石にそれぞれ保管
B蟲の体を揺りかごとし、宝石内部の魂を少しづつ無垢に近づける
準備完了
C相手の内部に無垢の魂を送り込み(針や牙を通じて)、相手の魂を希釈
D送り込んだモノを相手の魂ごと再度吸収
E内部の宝石で分割保管
F分割した魂を 無垢化&別個の存在として成立させる
G不死性に抵触する事なく事実上の殺害が完成
…………と、かなり複雑かつ殺意に満ちた原理となっている
おっつおっつ、お疲れ様です、凄かったっすね戦争(対岸の火事)馬ならなんか分からんがなんとなく生きてけるイメージ
>>656
馬はマイクラのバトルロワイヤルでも何か終盤まで生き乗ってた男ですからねぇ…………
>>653
三十一日目
岩肌の集団。白い装束を身にまとった彼らは、自分等をウルクと呼称していた。
この呼称には特別な意味があったそうだが…………その中身は殆ど失われてしまったらしい。
この地で外来人はかなり珍しいそうで、2CHさんと共に手厚い歓待を受けた。干しサボテンを乗せた果実は、とても美味しかった。
少し不思議なのは、彼らが皆小食な事だった。水すら殆ど飲まない。
三十二日目
集団の長に会った。顔をほとんど隠した、大柄な男。雨垂れに長年打たれた岩が人の形を成した様な、如何にも智慧深そうな見た目だった。
彼から色々な話を聞けた。この砂漠には元々大きな都市があった事、神の怒りで壊滅した事…………分厚い岩に覆われた長の口が、遥か昔の過去を紡いでくれた。
『昔々の大昔。とある神が怒り荒んだ。生命の大母、万物の祖先。母たる神を忘れ繁栄する人間を憎悪した。よって今の人間を排し、新人類を創らんとしたそうな。
湧き上がる怪物。黒く染まる海。気がつけば、ほとんど何も無くなっていた。千々に千切れた大地、僅かに生き残った人類、無数の新人類。
母の作った新人類────ラフム────は完璧だった。食事を取る必要がなく、生存競争をする必要がなく、生まれた時から知性を持つ。それ故に歪だったそうな。
戯れに他を弄び、生存競争に関係なく他者と殺し合い、与えられた知性はどこか空虚。人類とかけ離れた新人類。愛するからこそ憎い。矛盾した母の感情を、新人類は体現していた』
>>658
『新人類が生まれてからしばらく後に、彼らは母に反旗を翻した。そこに深い理由はなく、ただの享楽だったそうな。
母は彼らに逆らうことなく、されるがままだった。されるがまま泣いていた。
母たる神は死に、涙は広大な海に、死骸は島へ。矛盾した心は二頭の龍に姿を変えた。
新人類はほとんどが退屈故に命を断ち、今に至るそうな』
余りにも神話じみた、しかし否定もし難い。眼の前には岩肌の人間がいて、仲間はロボット、周囲はファンタジーめいた不毛の砂漠。わざわざ嘘をつく理由もない。
遥か昔から変わらぬであろう砂混じりの風。絶えることなく私の背中に吹きつけていた。
三十二日目
今日は岩肌の集団……もとい、ウルクの人達の仕事を手伝った。今日の仕事は家の作成だ。
彼らは白い被膜と動物の骨を組み合わせて大きなテントを作る。被膜は『サンドワーム(私が前に見かけた巨大なイモムシの事だ。脱皮の為に時折地上へ上がってくるそうな)』、動物の骨は時々漂着する大型動物を解体して手に入れるとのこと。
彼らの手際は恐ろしく速く、子供ですら熟練の職人めいて手を動かす。私と2CHに出来る事はあんまりなかった。
長に至っては他の3倍は手際が良い。あの巨体の何処にあんな瞬発力が有るのだろうか?
彼らは笑って『手伝ってくれるだけでも嬉しい』と言ってくれたが、その好意に甘え続ける訳にも行かないだろう。精進せねば。
>>659
三十三日目
最近気付いた事がある。ウルクの赤子には岩肌が発現していない事だ。不思議に思って聞いてみると『岩肌の力は儀式によって後天的に発現するもの』と教えて貰えた。
ちなみに岩肌が発現すると食事がほぼ不要になるらしい。正直うらやましいと思った。岩肌自体もかなりカッコイイし。
……それを何となくウルクの人達に伝えたら、微妙な顔をされた。無神経な発言だったか。
三十四日目
人(ロボット)と合流し、今度は人の集団と合流し、飢え死ぬ心配はもうない…………それ故、私は新たな道を見つけなければならない。未だ詳細不明の使命感が私の足を進めさせるのだ。
一度は『1000年の勤めを果たし切った2CHに比べれば、私の使命なんて気にするほどの事でもない』と思おうともしたが、やめた。かすり傷だろうと痛いモンは痛いのと同じように、気になるモンは気になるのだ。
知らなきゃいけない…………という義務感があるし、知りたいという欲望も少しある。
失った記憶と向き合うべき時が来たのかも知れない。
三十五日目
意気込んだのは良いが、記憶喪失ってどう治せば良いのだろう? そもそも治せるモノなのかコレ?
……いや、きっと何かある。歩き続ければ、考え続ければ、きっと解決策が見つかる。焦りに吞まれてはいけない。この砂漠と同じだ。どれだけ茫洋としていようが、果ては必ずどこかにある。
私はただ、進めば良いだけだ。その筈だ。
>>660
三十六日目
ウルクの子供たちに頼まれて一緒に遊んだ。丈夫な岩肌を用いた人間砂丘スキー。こんな環境でも子供は元気だ。
私は硬化が使えるのでどうにかなるが、2CHには流石にキツイだろう…………と伝えたら彼女は怜悧な顔に笑みを浮かべて、足裏に蒼い宝石板を生成すると、それはもう見事な滑りを見せてくれた。(2CHは一時的に宝石を生成し、操作出来るそうだ)
……その後に長もスキーへ誘われ、これまた見事な滑りを披露した。昔は村一番の砂スキーヤーだったらしく、その腕前は今も健在だとか。
三十七日目
ウルクの人達はテントを張り直しながら何日かごとに移動している。
理由を長に聞いてみたら、彼は泰然と空を見上げて『私の葬式をする為だ』と言った。
死ぬにしては余りにも軽く、冗談にしては真剣過ぎる口調。私はどうにも解らなくなってしまい、それ以上のことは質問出来なかった。
三十八日目
記憶喪失を治す方法がどうしても思いつかないので、思い切って2CHに相談してみた。これ以上お世話になるのも……とは思ったが仕方ない。聞くは一時の恥、という奴だ。
それはさておき、2CH曰く
「私の故郷には高度な医療施設があるので、多分どうにかなります。ただここへ来る時に船が沈没してしまっている」
とのこと。
こんな砂漠しかない土地に、船なんてあるのだろうか。あったとしてもくれる訳がない。船というのは替えの効かない財産だ。そして私に船に対価を払えるほどの持ち合わせなど無い。
ウンザリする…………だが進まねば。進まねば。
※
>>661
いつもの様にテントを組み立てる。ばあちゃるも2CHも、この作業にすっかり慣れていた。
2CHがスフェーンの頭を撫でると、彼は懐いたネコの様に目を細める。スフェーンはばあちゃる達に仕事を教えてくれた男の子だ。今でも手が空くと手伝ってくれる。
「今日の仕事もつつがなく終わりましたね。食事を取ったら早めに寝ましょう」
「そっすね。昨日は砂塵が酷くてちゃんと寝れませんでしたし」
互いの背中についた砂埃を叩き、こった首肩を回してほぐす。
ばあちゃるの着てる服は、この”島”へ漂着した時と同じ。汗がしみ込んでも明日にはキレイになるし、糸がほつれたりもしないから問題ない。多分魔術的なナニカが掛かっているのだろう。
テントの中に入ると、ばあちゃるはナイフに砂をかけて擦った。そうして刃に浮いた錆を取る。ナイフはテントの設営位にしか使わない。だからマメに研ぐ必要なんてない。
それでも、ばあちゃるは研ぐ。深い理由はない。使命のもたらす焦燥感、それに向き合わねばという義務感が、手を止める事への恐怖を齎しているから。理由はそれだけだ。
「……」
ポン、ポン、とテントの入り口を弾く音。来客を知らせる音だ。
ばあちゃるはポン、ポン、ポン、と内側から三度弾き返す。入っても良いよと知らせる為の動作だ。
少し間を置いて、人が一人入ってくる。入って来たのは恰幅の良い男。真っ黒な岩に覆われた男。ウルクの長だ。名前は『ビルガメス』。かつての偉大な王を悼んだ名だそうな。
「ビルガメスさん。いつもお世話になってます」
「ああ……ばあちゃる君。時間はあるか?」
「ハイ、大丈夫っす」
「ついて来てくれ」
>>662
長はそう言うと、ばあちゃるをテントの外へ連れ出した。
ウルクの皆がいる場所を通り抜け、小さな砂丘を幾つか超え、小高い大岩の上にたどり着く。辺りはすっかり夜、肌寒い。
長は自身の纏っていた上着を取り、ばあちゃるに被せる。
「少し寒かったな」
「全然大丈夫で──────」
「すまん。私はもう温度を感じ取れなくてな」
しばし沈黙。長の唐突な発言を、ばあちゃるは処理出来なかった。
「……え?」
「儀式によって発現する能力『自己石化』…………この能力の本質は、自己を岩へ近づける事にある。岩に近づくから食事がほぼ不要になる。不毛の砂漠でも生きていける。
しかしリスクも存在する。それは感情や五感が少しずつ死んでいく、という事だ」
「ど、どういう事っすか?」
「岩に感情はないし、増してや五感なんてモノはない。だから自己を岩へ近づけて行くと、そういった人間らしいモノが失われてゆく……そして終いにはタダの岩に成り果てる。
だからと言って、岩であることを止めれば飢えて死ぬ。
岩となって生き、岩となって死ぬ。それが私たちの運命だ」
──────長は大岩に身を横たえ、瞼を閉じる。彼の輪郭は自然と岩に溶け込んでいた。彼は腕を伸ばす。空に浮かぶ青白い月へと。
長の表情に恐怖はない。長の表情に悲しみはない。長の表情に怒りはない。恐怖も悲しみも怒りも、もうほとんど枯れている。
「…………それは、辛くないんですか?」
ばあちゃるが言葉を絞り出す。長は横になったまま、ゆるゆると首を横に振った。
砂塵混じりの荒涼とした風が吹く。
「辛くはない。もう慣れたし、辛いという感情そのものがもう薄れている……ただ、子供や、ずっと先の世代にも同じ生活をさせると思うと…………呆然とする」
>>663
「──────」
「とうの昔に廃れた信仰がある。『楽園信仰』、100年後に楽園───豊かの地───への箱舟が来るという…………100年以上前の信仰だ。
ここには何もない、何も無いから誰も来ない。誰かしら流れ着いたとして、大抵は広大な砂漠の中で飢えて死ぬ。だからこそ外へ憧れる。外に楽園を夢見た。
ばあちゃる君。君らが来たのは奇跡だ。きっと数百年に一度の奇跡だ。夢見ることすら諦めた私たちに、外の風を吹き込んでくれた」
風が吹く。静かに、ただ静かに長が笑った。感情が枯れていても、彼は笑う事が出来る。
長の見た目は悲しいほど岩に近く、それでもまだ人間だった。
「私はもう長くない。もうじき岩に成り果て、長たる私の葬式がとり行われる…………そしてその時、小舟を海に流す。流れ着いた骨とサンドワームの皮で作った小舟だ。
船が欲しいんだろう? 良ければ受け取ってくれ。どうせ海に流してそれっきりだ。誰かの役に立つのなら、それが一番良い」
「……ありがとうございます」
「それともう一つ。君はいつも悩んでいたね? 多分、私の葬儀で悩みに決着をつけられると思う。だから見届けてくれ。私の最後を……そして私達の生き方を」
.liveの新しい子を見るのが楽しみ!
ずっと前から構想してた部分に入れて楽しい
裏設定
ビルガメス
ギルガメッシュの古い呼び方。設定上はギルガメッシュでも良かったが、紛らわしいので辞めておいた。
>>667
この世界線にカルデアは居ません
なのでまぁ、そう云うことです
新人の中で、傘付いてる子が気になります……!
>>664
「…………ッ」
「歩くのがキツければ手伝いましょうか? ワタシは完成品の2CH、歩行補助の最適解もインプットされておりますが」
長と話した夜からしばらく、ばあちゃるは2CH、ウルクの皆と未だ旅を続けていた。ばあちゃるの中で焦燥は燻り続けているが、これまで程では無い。
とはいえ傾斜のキツイ坂、砂だけで構成された坂を延々と登るのは肉体的に辛い。見上げる程に巨大な砂丘を三時間は登っているが、未だ天辺は見えてこないのだ。おまけにこの砂丘は山脈の様に横へ延々と延びている。
背後以外は砂、砂、砂。見渡す限りの灰黄色。ここに三日もいれば気が狂うに違いない。
尚、そんな状況でもウルクの子供達はキャイキャイと元気にあちらこちらを駆け回っている。子供の体力はともすれば魔術より摩訶不思議だと言えよう。
「大丈夫っす……多分。というか2CHさんって多機能っすよね」
「ハイ。滅亡を前にした創造主達は、ワタシに全リソースを注ぎ込み、それは情報も例外では有りませんでした。因みに『開発者達の自作ポエム』なんてのもインプットされてます。結構な良作ですよ。気晴らしに聞きますか?」
「お願いしま──────ん?」
ふと、ウルクを先導していた長が足を止めた。長は文字の刻まれた粘土板を取り出し、地面を擦る岩のように重く非人間的な声を発する。
>>669
「天命の粘土板をここに掲げる。これぞ我らウルクの王権なり。我が名はビルガメス。偉大なる王ギルガメッシュの代理なり。
かつて荒ぶりし神よ。神の死体より生まれし二匹の龍、分かたれた愛憎の片割れよ。其方は愛なり。黙して動かぬ静かの龍よ。貴方の愛は不動。滅びし者達を、切り捨てられし物達を、涙の海で受け止めし。
しかし愛は償いにならず。貴方の罪と貸与されし王権によって命ず。その巨体を持ち上げ、道を開け」
長は粘土板を仕舞って立ち尽くした。杭のように。
しばらく待つと大地が揺れた。
「…………!」
砂丘の山脈が唸る、持ち上がる。堆積した砂を持ち上げ龍が身を起こす。搔き分けられた砂が波の様にうねり流れる。
現れた龍の姿はひたすらに壮大。黒鉄色の鱗には傷一つなく、その威容は天を突く。『そこに有る』それだけで偉大なモノもあるのだと、ばあちゃるの本能に叩きつけられた。まるで真鍮色の──────
「……ッ」
マスクの下でばあちゃるの顔が歪む。失った記憶が微かに揺れ動いた、その痛みで。
ばあちゃるがそうこうしている内に龍は身を起こし切った。先にある光景が見える。
──────果てしなく広がる石の平野。木々の代わりに巨大な石筍(尖った石突起)が生えている。石筍は鍾乳洞にしか生えない筈だが。不思議だ。
「…………」
長が歩を進める。皆が彼に付き従う。先ほどまで無邪気に遊んでいた子供たちすら厳粛な空気に飲み込まれ、口をつぐんだ。
前進。前進。ただ前進。押し出されるように、放浪めいて龍の下を通過する。
ウルクの最後尾が通過しきっても龍は元に戻ろうとしない。長の葬儀が終わってウルクの皆が帰った時、その時にまた体を横たえるのだろう。じっと、身じろぎ一つせず。ばあちゃるは何となしにそう思った。
※
>>670
数十分後、ばあちゃる達は岬にいた。一面が岩で満たされた岬だ。岬の先には黒く滑らかな立方体が鎮座している。
先ほどよりも石筍の形が多く、先ほどよりも形が荒い。それほど綺麗に尖っておらず、人の様な形を成している。
──────実際、これは元々人だったモノなのだろう。寿命を迎えたウルクの人達が石像と化した後、長い長い年月の中で削れて石筍となったのだろう。気の遠くなるような話だ。
ばあちゃるはそんな事を考えながら、黙々と手を動かしていた。今は長をあの世へと送り出す準備の最中だ。
「……あと少しですね」
あちらこちらに建てられた骨の柱。骨の柱を縫うように糸が張り巡らされ、そこに様々な飾りが吊り下げられていた。飾りにはサンドワームの蒼血で染めた小石、複雑な文様を刻まれた獣骨等、様々な品が吊られている。
長は座禅を組んで黙す。これから行われる葬儀も、きっとこの砂漠の様に重々しいのだろう。
「……」
───────葬儀の準備が終わった。ウルクの皆が集まり、人の輪を組む。(勿論赤子は別として)
ばあちゃると2CHはその輪から少し外れた所に立っている。余所者である自分たちが大事な葬儀に参加して良いのか、測りきれずにいた。
「────」
ガツン、と音がなる。岩と化したウルクの足が大地を踏み鳴らす。
続いて三度音がなる。一つ一つ間をおいて重々しく。
そして──────
「畜生!!」「死ぬなよ長!」「長に美味いモンご馳走したかった!」「悲しみすら薄れて行く!」
「…………えっ」
>>671
──────烈火のごとく音がなる。強い感情に満ちたウルク達の怒号が響く。一定のリズムをもって岩の大地が踏み鳴らされる。踊る。
彼らは踊る。岩の如き無機質な長を囲んで。彼らは踊る。泣きながら。彼らは踊る。全霊の怒りをもって。
彼らは泣いている。悲しむ事すらできない長の代わりに。
彼らは怒っている。擦れ行く己の心に怒りを刻んでいる。
「おいで」
ばあちゃると2CHはウルクの女性───見るからに若く感情もまだ豊かそうだ───に手を引かれ、輪の中へ招かれた。彼女は踊りながら囁く。
「……私たちの葬式、どう思いますか?」
「いや、その……」
「ふふ、意地悪でしたね。ぶっちゃけ私たちの葬式は異常です。でもね、こうでもしなきゃやってられないんですよ」
「やってられない?」
彼女は小さく頷いた。
「そう、やってられない! この砂漠は理不尽で一杯! …………何の実りもない大地、岩と同化して擦れ行く心……極まれに流れ着く書物は実り多き大地の存在を教え、それが私たちを惨めに感じさせる。
私たちが生きるのに必要な物はあっても、豊かに生きる事はできない。だのに不毛さを感じる時間だけは腐る程ある!」
「…………」
ばあちゃるは何も言えなかった。改めて突き付けられる悲惨さに。それをどこか明るく言い放つアンバランスさに……そう、彼女は確かに笑っていた。泣きながら。
>>672
「そうさ! 稀に気概のある者が海へ出るが、そいつらは一度だって戻らない…………俺の友達も小舟で海に出てそれっきりさ。
優しい奴らは口を揃えて『外が楽しすぎて故郷の事を忘れちゃってる』なんて慰めてくれるが、それが有り得ない事ぐらい子供でも解る!」横からウルクの男が口を挟む。
「何が一番辛いかと言えば、誰も恨めない事だね。伝承によれば神が一度世界を滅ぼしてこうなったそうだけど……その神は人間を作ったんだってさ。
私たちは親を恨めるほど柔軟じゃない。子供の悲哀って奴だよ」女性が言葉を継ぐ。
「だから、せめて理不尽そのものに対してだけは怒るんだ! 何の意味もない訳じゃない。感情を発散すれば心に整理をつけられる。そうしなきゃやってらんない! そうしてやってくのが俺たちの生き方さ」
「もう長は泣くことも笑う事も出来ないし、私も遠からずそうなる…………だからこそ送り出す私達だけでも感情的にならないと」
破壊的なステップを踏み鳴らし、ウルクの男と女は踊りへと戻る。
怒りの叫びが混ざり合ってうねりと化した。踊りにリズムは最早なく皆感情のままに岩の大地を踏み鳴らす。気がつくと、ばあちゃる達も輪に混ざっていた。
「────────────」
踊る。踊る。叫ぶ。ばあちゃるは果たせぬ使命、内容すら不明な使命への恨みを叫んだ。ウルクと共になって。彼は記憶を無くしてから初めて弱音を吐いた。
2CHも共に踊る。何も言わず、ただ慈しみの籠った微笑を浮かべて。
熱狂は最高潮に──────
「zeq! zeq! 生g残zq!」
その瞬間、黒色の怪物が葬儀に割り込んできた。縦向きに口の付いた真っ黒な怪物。足は退化し、昆虫のような細長い四本の腕で体を支えている。怪物の声は酷く不明瞭で、頭蓋の中を引っかかれるような不快感を与えて来る。
>>673
一見すると恐ろしい怪物……しかしその姿を詳細にみれば、むしろ痛々しさが勝った。半分以上抜けた歯にあちこち捻じれた体。黒々とした体表には数え切れない量のヒビが走っていた。
「…………」
止まる踊り、静寂、急速に冷える熱狂。この場にいる誰もが怪物への対応を決めかねていた。無視するには余りにも異様すぎ、かといって即座に排除を決めさせる程でもない。
「あ、あのー。どちら様ですか? 意思疎通は出来ますか?」
膠着を破り前へと進み出るばあちゃる。声こそオドオドしているが、彼の歩みに迷いはなし。
「旧人類t@話dt:.u! 死<」
「…………!」
近づいたばあちゃるが問答無用でぶっ飛ばされた。四本ある腕の一本を使い、薙ぎ払われた。やにわに殺気だつウルクの民と2CH。ウルク達は岩と化した拳を構え、2CHは宝石製の薄刃を形成する。
──────そんな彼らを、起き上がったばあちゃるが静止した。咄嗟に硬化して怪物の攻撃を防いでいたのだ。
「皆さんは葬儀を続けて下さい。長を送り出す為の大事な行事、こんなのに邪魔されちゃいけないっす」ばあちゃるはナイフを抜き放つ。
「……そりゃ葬儀は大事さ。でもお前の命程じゃない」ウルクの男が止めようとする。先程ばあちゃるに話しかけた男だ。
「オイラはここに流れ着いてから、色んな物を与えられました。ウルクの皆さんと2CHさんに。オイラはもうじき海へでます…………ここらで恩返ししとかないと、一生借りっぱなしになっちゃいますよハイ」
ばあちゃるはそう言って「無視r.u!」
>>674
「それにオイラ、こんな感じの怪物と沢山戦ってきたような…………そんな気がするんすよハイ。まぁ記憶はないだけど」
飛び掛かって来た怪物を冷静に受け止め、投げ飛ばす。怪物は岩の大地へしたたかに打ち付けられる。
ふらつく怪物。ばあちゃるは三歩距離を取ってナイフを構えた。
「オイラはばあちゃる。ウルクの食客、記憶喪失にして2CHと共に旅する放浪者。もし貴方に言葉があるなら……どうか名を教えて頂きたい」
「…………ラフム」
そう返した怪物の──────ラフムの声は明瞭だった。
家庭の事情があって投稿が遅れました
ウルクの葬儀コンセプトは『ハカ(ニュージーランドのアレ)+ファンタジー』です
せつーなすこ
裏設定
『サンドワーム』
危険物 D(無暗に近づかなければ無害)
アホ程デカいワーム。普段は深い地中にいるが、時折脱皮の為に地上へ出てくる。
脱皮した皮は他生物のタンパク源やテントの建材として使用される。
極まれに水脈を掘り当ててオアシスを作り出す事もあるなど、非常に有益な生物。
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=8P7Hn9MI24g&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=65
今回少しボリューム少なめなので
追加で設定置いときます
『葬儀について』
元は5年に一度行われる楽園信仰の儀式であった。100年後に来るという、楽園行きの箱舟へ声を届ける為の儀式であった。
年に関係なく、長が死ぬと儀式が執り行われた。楽園を見ぬまま死んだ長を悼む為に。
楽園信仰が廃れるにつれ儀式の頻度は減り、長が死ぬ時にのみ行われるようになり、その意義からも楽園信仰は失われていった。
>>678
葬儀は死人の為だけではなく、残される人の為にもある
それを最近教えてもらいました
新人たちみんなフレッシュですこ
夏の侵略も楽しみです!
>>675
「オイラの名前は…………ばあちゃる」
名を名乗り合う。ごく僅かに頭を垂れる。人としてなら当然の礼儀。
人間の礼儀など知るハズもないラフムは、ばあちゃるの行った作法に追従した。
それが何故かは解らない。ラフム自身にもハッキリとは解らない。ただ間違いないのは、互いに礼を交わした瞬間、そこに人と怪物の確かな交流があったという事。それだけだ。
そして、その交流は刹那に終わる。
「!」
ラフム、ばあちゃる。両者同時に岩の大地を蹴り前に飛び出す。三歩分の間合いが瞬時に詰まる。
何か攻撃をすれば確実に当たるが、同時に避ける事も出来ない。思いがけず踏み入った危険な距離。退くか押すか、降ってわいた偶然が両者に最初の判断を迫った。
「シッ!」
「!?」
結果ばあちゃるは押して、ラフムは退いた。ばあちゃるの振るったナイフが下がり際のラフムを捉え──────刃が通らない。ひび割れてもなお固い甲殻が彼の手を痺れさせる。
しかしそこで止まらないのが今のばあちゃる。今の彼は悩みを解消したばかり。度胸も判断力も絶好調。
彼はラフムの体に飛びつき、硬化させたナイフを殻のヒビ割れに差し込んでメチャクチャに回した。このままヒビ割れを広げて殻を壊す心づもりだ。
だが、ラフムとてそれで終わる程ヤワではない。
──────戦う二人の後ろで葬儀が再開する。どこか遠慮気味に大地が打ち鳴らされ始めた。
>>681
「離;\!」
黒鉄の怪物が叫んだ。重量200kg以上の巨体をメチャクチャに振り回し、岩の大地へばあちゃるを叩きつける。
ばあちゃるはソレに全身硬化で応じ、そして苦痛を絶える為に歯を食いしばった。いくら身を硬くしようと内部に伝わる衝撃まで無効にはならない。無論ばあちゃるとてその程度の対応は想定済み。左手でラフムの体をしっかりと掴み、右手でナイフを掻き回した。全霊の力をこめて。
──────ウルクの葬儀が徐々に激しさを取り戻す。うねりを成す悼みの叫び、硬質化した肉を叩く音、祈りと怒りを踏み刻む音、軋むラフムの甲殻と攪拌される肉。生臭い命のやり取りと、失われる命を悼む葬儀。相反する二つの音がごく自然に混ざり合う。
「こわ、れろっす」
技術もクソもない我慢比べ。退いたら負けの耐久勝負。先に退いたのはラフムだった。
「…………付g合eg;無e!」
頑強な節足を自身に叩きつけ、ラフムは自分の甲殻を破壊する。そうしてばあちゃるをどうにかこうにか引き剝した。ラフムからヘドロじみた高粘度の血が零れ出る。
「…………」
──────葬儀の踊り。ずっと上がり調子だったリズムが徐々に落ち着きを得て行く。
ナイフで傷口を抉られたラフム。岩の大地に何度も叩きつけられた ばあちゃる。傷を負った両者はつかの間息を整える。
戦いの中に生じた僅かな休戦時間。これ幸いにとばあちゃるは思考を回す。
>>682
(前に戦ったカ■■や、シャ■ウ■■ヴァ■■は個体としての死を一切恐れていなかった。だから殺し切るまで安心できない”怖さ”があった。
だがラフムは違う。自分の命や痛みを行動原理に含めていて、怪物というよりむしろ以前に闘■場で戦った…………そうか、少し思い出して来たぞ。
記憶を失う前、自分は怪物どもと戦っていた。何故かまでは思い出せないけど、それは間違いない。だから、こんなにも”体が思い通りに動く”のだろう)
「異常q@。僅t───q@t@確ti───人k領域=超越dwe.」
「…………」
休戦の終わり。先に動いたのは ばあちゃる。懐から拳銃を抜き撃った。
動作開始から撃ち終わり───銃を掴み、取り出し、狙いをつけ、トリガーを引く───までにジャスト1秒。充分な訓練を受けた軍人並のスピード。ラフムは反応しきれず、甲殻の剥げた部分に弾丸が入り込む。
「──────!?」
声にならない苦悶と共に複数の節足を振り回すラフム。その時、節足の一本が偶然にも岩に当たり、葬儀に参加しているウルクの子供に向かって飛び──────2CHがその岩を受け止めた。蒼い宝石の盾を生成して。
「流れ弾が来ても私が処理します。安心して戦いに集中して下さい」
「あざっす!」
後顧の憂いが消えたばあちゃるはラフムに襲い掛かる。ラフムは精彩を欠いた動きでそれをどうにか凌ぐ。
何度も、何度もそれが繰り返された。繰り返す度にばあちゃるの動きは鋭くなり、ラフムの動きには怯えの色が強くなる。
──────葬儀のリズムは単調に。感情の発露であるウルク各々らのステップが足並みを揃えた。長を失う理不尽への怒りが枯れ、皆の感情が悲しみに向かっていた。終わりが近い。
「ハイ! ハイハイハイ!」
>>683
ばあちゃるのナイフが振り抜かれる。短期間に何度も衝撃を受けた甲殻がついに崩壊を始めた。一振り毎に舞い散る破片と血。
苦し紛れに振り回される節足は掠りすらしない。
「7/\……止/wh;」
ついにラフムの動きが止まり、弱々しい呟きを漏らすだけになった。別に死にかけている訳ではない。傷は決して浅くないがまだ戦える。
ただ……心がポッキリと折れてしまったのだ。
生まれつき強靭な体を持ち、天敵も寿命も病もないラフムにとって『死』の迫る感覚は余りにも恐ろしかった。それは幼子が闇を恐れたり、大人が未来を恐れたりするのと同じ、『未知』への恐怖であった。
「……大技の準備っすかね?」
しかし、ばあちゃるは止まらない。ひたすら攻撃し続けている。
当然の帰結だ。言葉が通じない以上、ラフムの心が折れている事なんて解るハズがない。これは人と怪物の殺し合いで、人同士の戦いとは違う。
そもそもこれはラフムの方から仕掛けた殺し合いだ。
葬儀もほぼ終わりとなり、場に静寂が満ち始める。ばあちゃるがラフムを砕き、裂く音だけが無機質に響く。岩の大地に祈りと血がしみ込む。
「……溺;.94u眠気、氷k94i冷qeuitk指先。b;fuyq@? 0qdk知oue感覚q@」
最早抗う気力すらない。死ぬのは恐ろしく、それ故に向き合う事も抗う事も困難であった。真の恐怖とはそういうモノだ。
ラフムは観念して瞼(にあたる器官)を閉じる。
「…………?」
しかし、何時まで経ってもラフムに死の気配が迫ってこない。怯え切った怪物はナメクジのようにゆっくりと目を開き、そしてばあちゃるがナイフを納めるのを見た。
>>684
──────別に、ばあちゃるが突然怪物愛護に目覚めたとかそういう事はない。ウルクの長の死を察知しそちらを優先しただけだ。
ウルクの長、ビルガメスは死んだ。その死は実に静かなモノだった。岩の如き存在から本物の岩へ。それは本当に些細な”変化”だった。それでも尚、生死の境に横たわる差は歴然としている。
『長であったあの岩は、もう生きていない』。理屈ではなく心でそれが解ってしまう。眠りと死の違いが解るのと同じように。
「……」
長の死を察知した瞬間、ばあちゃるは戦士から人間に戻った。戦士には祈る為の手がないから。
もしラフムが健在ならこんな事は絶対にしなかっただろう。だが、もうラフムは動いていなかった。勿論それでも多少のリスクはあったが、色々と世話になった長の死を軽いモノにしたくない気持ちが勝ったのだ。
「…………」
長への黙禱を終えた ばあちゃる はラフムの方へ向き直る。ナイフはまだ抜かない。『今退くなら見逃す』と態度で示している。
彼のメッセージを受け取ったラフムは少し迷った様子を見せたものの、結局は大人しく去って行った。
「m4b@/yq@」
「……フゥ」
──────ラフムが完全に去ったのを確認し、ばあちゃるは覆面の中で安堵の溜息をつく。もちろん相手を殺す覚悟はあったし殺す気でもいた。だが、殺さないで済むならそれが一番だ。
ばあちゃるはその場に座り込み、覆面のすそを持ち上げる。そして戦闘中に流れた汗と血を拭いた。
「よくよく考えてみたら……後で改めてウルクの人達に襲い掛かってくるかも知れないっすねハイ…………」
>>685
「その時は俺たちで倒すさ。ありがとう、俺らの為に戦ってくれて。お陰で葬儀をつつがなく行えた」ウルクの男性が近づいてくる。葬儀の時にばあちゃると話した人だ。
「オイラの勝手な恩返しですよ」
小さくアゴを上げ、ばあちゃるは頬の下側をポリポリと掻く。
「その恩返しに恩返しがしたいんだ。これを…………受け取ってくれ」
「……これは?」
男がばあちゃるの手にナニカを押し付けた。ごく小さな黒色の石と──────半分に割れた大きな水晶玉を。
「石の方は、俺らの岩石化を使えるようになるブツだ。飲めば使えるようになる。あそこの岬にでっかい立方体があるだろ? アレがこいつを生産してくれるんだ。まぁ原理も由来も解らねえんだけどな。
それと、渡した俺がいうのもなんだが、可能な限り飲まない事をオススメする。岩石化の代償は人間性だ。だがそれを差し引いても、役に立つ。そんで水晶玉の方は──────」
ウルクの男は岩製の顔面に悪戯っぽい笑みを浮かべ、ばあちゃるの耳元に口を当てた。
「ウルクの秘宝、導きの灯だ。万民を楽園に導く灯さ」
「えっ!? そ、そんな大切なモノ貰えないっすよ!」
ばあちゃるは水晶玉から手を離す。
「良いんだ。というか……貰ってくれ、頼む。
ぶっちゃけこれさ、楽園信仰で生まれたなんちゃって秘宝なんだよ。灯とかいう癖に今まで一度も光った事ないし…………だからさ、こいつの幻想を終わらせて欲しいんだ。
いつも悩んでた使命を終えたら、またこの島に戻って来てくれ。数年はここらの近くで待ってるから。そんでどんな島に行って、どんな冒険してきたか教えてくれよ。それで……………………『灯はなんの役にも立たなかったので、路銀の足しにしました』なんて風に言ってくれ」
「それは…………流石に」
>>686
「頼む。お願いだ。とっくのとうに廃れた楽園信仰の秘宝なんて持ち続けているから……俺たちは楽園への幻想を捨てられないんだ。
とっくに廃れた信仰を忘れられないんだ。今代の長が死んで、お前等がきた。今が切り替えの時なんだ、今を逃せばまたズルズルと縋ってしまう」
少し寂しそうな、男の優しい声。男は口元の笑みを保ったままに瞼を伏せる。
「でも……アナタが良くても他の人達はどうなんですか?」
「これはウルクの皆で決めた事なんだ。次代の長に選ばれた、俺を中心にしてな」
「……」
ばあちゃるが周囲を見渡すと、偶然目の合ったウルクが彼に向かって頷いた。男の言葉はウソではないらしい。
いつの間にか近くにいた2CHが口を開く。
「彼の願いを聞いてあげてはどうですか…………と、提案します。一般的な道徳に反している訳でもないですし」
「…………解りましたよハイ。幻想の終了、しかと成し遂げて見せるっす」
ばあちゃるは割れた水晶玉を改めて受け取った。それはズシリと重かった。
馬の実質強化回&秘宝ゲット回でした
ボスの歌配信よかった…………
因みに、ラフムのセリフは
https://yt8492.com/RafmanTranslator/
から翻訳できます
原作だとラフムの言葉に(確か)漢字は入りませんが
大まかなラフムの意図を解るようにしたい&この世界でのラフムが怪物から一生物へと変化し始めている(情緒が育って来ている)事を表現するために敢えてこうしました
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=zuZsWKEWkCI&list=PLlc4VauHL1hCdN6g7tv1jNlX4DX0kfvcS
>>687
※
「いやー、皆優しい人でしたねハイ」
「……ですね」
ばあちゃると2CHは海の上にいた。ウルクの皆が作ってくれた船に揺られて。
動物の骨を組み合わせて、隙間を砂とサンドワームの分泌物で固めた特性の船。本来は死者の霊魂を運ぶ為の船、長距離の航行など想定されていないそうだが……今回は特別丈夫に作ってくれたので問題ないらしい。
少なくとも今は問題ないので、多分この先も大丈夫だろう。
心地の良い潮風が二人のほおを撫でる。2CHが愉快そうに頭を揺らした。
「ずいぶんと上機嫌っすね。良い事でもあったんすか?」
「ハイ……実はですね、ウルクの人達が岩石化の力を手に入れるのに使っていたモノリス。
アレは私の創造主が作ったモノなんですよ。つまりあの場所に、私の創造主達はたどり着いたという事……そして、その痕跡がウルクの人達を助けたという事。
つまり、生き残りをかけて海へでた創造主の行動は無駄ではありませんでした」
ばあちゃるは心底から驚いて身を乗り出す。骨船がこれまた愉快そうにノタリと揺れた。
「えっ、おめでとうございますハイ! ……でもなんでソレをウルクの人達に言わなかったんすか?」
>>691
「私が思うに、彼らの『楽園信仰』は私の創造主が齎したモノだと思っております。異界の技術を携えてやってきた流れ者の話す、懐かしき故郷の話。それに尾ひれがついて楽園信仰に繋がったと推測できます。
つまり、ある意味で楽園は実在します。しかし……あの人数を連れて行くのはまず不可能です。かなり遠く険しい場所にありますから。
仮に十分な量の船があったとしてもたどり着く前に絶対半分以上は沈みます。二割辿りつければ万々歳といった所…………しかし、それでも人の憧れはきっと止められません。楽園の実在を知ればなんとしてでも辿りつこうとしてしまうでしょう」
「知らない方がいい過去もある……という事ですかハイ」
「そういう事です。あの人達は遠い楽園から目を離し、自分たちに目を向けようとしていました。部外者である私たちが、その意思を踏みにじってはいけません」
そう言い切る2CHの表情は寂しげで、しかしそれ以上に嬉しそうだった。
ばあちゃるが骨とサンドワームの皮で出来たオールを回す。
「2CHさんがそれでいいならオイラは何も言いません。でも……この先は何を目的にするんすか? 創造主の結末を見届けるって目的は果たしちゃいましたよね?」
「もしかしたら……あの砂漠以外にも創造主が辿り着いているかもしれません。なので世界中を周り、創造主の痕跡をコンプリートしてみようかと」
「なんかゲームのやりこみプレイみたいっすね」
「まあ1000年以上生きていますからね。実際そんな感じですよ」
2CHは自身の蒼い長髪を細い指先でくしとかし、肩をシニカルに竦めた。
>>692
「──────ところで、オイラ達って2CHの故郷に向かう予定なんですよね? そこでオイラの記憶を取り戻す為に」
「ハイ」
「その場所には、二割辿りつければ万々歳なんすよね?」
「…………ハイ、そうです」
「……中々ハードな旅になりそうっすねハイ」
波濤の向こうに小さく見える砂漠の島。更に遠くに見える緑色の島。潜航して船を狙う巨大肉食魚。
一人と一機の旅はまだまだ始まったばかりだった。
※
閑話休題
マリン視点・嵐から半日後
「皆! 何人生きてる!?」
どこかの海岸で、マリンの元気な声が響く。
海岸には真っ二つに折れた船……もとい船であった木材の塊が漂着している。その木材にぐったりともたれ掛かった船員達。
嵐を伴った真鍮色の巨獣、グガランナによりマリンの船は壊滅してしまった。あの巨獣は滅多に出会う存在ではないので、今回の航海ではかなり運が悪かったと言える。
元気そうなのは、フリントロック(式の銃)をクルクルと回しながら海岸を歩くマリンだけ。
船員の一人────副船長格の男────が精一杯の声を張り上げてマリンの質問に答える。
「今回死んだのは少しです! なので生き残ってる数は……たくさんいます!」
「それじゃ報告にならないって。ラークはどうしたの!? アイツなら100まで数えられるでしょ! それかあの、航海士やってる男の子!」
>>693
「航海士なら、ペンが脳天にぶっ刺さって死にました! 嵐で船が揺れた拍子に! ラーク船長は……なんか、船から飛ばされた客人を追って海に飛び込みました」
副船長の答えを聞き、マリンは困ったように頭を掻く。
「ありゃまぁ。航海士の子は死んじゃったのか。まだ若かったのにね。ラークはどうせ生きてるとして……どうしよっかなぁ。
別に私が航海士やっても良いんだけどさ、そうすると不測の事態に対応できなくなるかもなんだよね。人員も結構減っちゃったし、ここらでそろそろ人材を補充するべきかもね。近くの街を探して訪ねようか!」
フリントロックでジャグリングモドキをしながらマリンは呟く。その呟きを耳ざとい平船員が聞きつけた。
「おっ、補充ですか。補充って事は略奪ですか大船長!」
「そんな訳ないでしょ! マリンは海賊団で堅気に手を出すのはルール違反だよ!」
「……じゃあ、堅気相手じゃなけりゃOKってことですか大船長!」
「もちろん。悪人相手ならじゃんじゃん略奪しちゃって良いよ! …………といってもまあ、まずは街を見つけないと略奪もクソもないけどね!」
そう言って肩を竦めるマリンの表情に、船員を失った悲しみは微塵もない。船員達にも悲壮感は一切ない。
船旅というのは人が死んで当たり前。怪物、悪霊、疫病、食糧不足、水不足、仲間の諍い、呪い、アーティファクト、意味不明な災害…………とにかく色んな理由で人が死ぬ。死ぬだけならまだマシで、死ぬより酷い目に会う事だってザラにある。
今回の災害ですら”酷い部類”と言うだけであって、最悪には程遠い。
>>694
──────しかしこの特異点における海賊というのは、そういったリスクを理解した上で海に漕ぎだしてしまった、本当にどうしようもない生物なのだ。死への恐怖など微塵もない。仲間の死に悲しみなどしない。死に方次第ではむしろ羨望の対象になる。
「大船長、遠くに飯炊きの煙が見えます!」
「良いね! でかした!」
この特異点の島は常にその座標が流動し、それ故に確かな航路と言うモノが存在しない。どれほどの短距離であっても常にリスクが付きまとう。
マトモな悪党であれば大人しく山賊や盗賊をする。そちらの方が安全だから。
故に、この特異点における海賊というのは、すべからくロマンと冒険の中毒者と言えよう。
そしてそれはマリンとて例外ではない。
「指針が決まったよ! シャキッとしな野郎共! 冒険のお時間だよ!」
「「いよっしゃあ!」」
”冒険”という言葉を聞いて途端に元気を取り戻した船員達。マリンは彼らを引き連れて冒険に出る。マリンも彼らも皆一様に口角が持ち上がっていた。
……生者が皆去った後の海岸には、船の残骸と幾人かの死体が残されているのみ。
『やっちまった』とでも言いたげな表情をした死体達を、大きな海鳥達が無慈悲についばんでいった。
※
シロ視点・嵐から半日後
「………う、ん……」
酷く乱れた平衡感覚。泥のように重い体。シロは手をつき、強引に体を引き起こす。
周囲を見渡す。シロが立っている場所は小さな砂浜。近くには鬱蒼と茂る森。木々の一本一本が異様に大きい。
「ここ……どこ?」
>>695
──────あの時、真鍮色の巨獣が襲来した時。巨獣のまとう凄まじい嵐に船から弾きだされた時。ばあちゃるは折れたマストに吹き飛ばされてどこかに流されていった。生きているかどうか心配だ。
ブイデアとの通信は繋がらない。嵐の時に壊れたな。
シロがそんな事を考えていると、背後から微かに足音が聞こえて来た。シロは武器を出さずにそのまま振り向いた。知っている人間の足音だったからだ。
「シ、シロちゃん! 目覚めたんだね! 良かったよぉ!」
「うん……シロも会えて良かった。それで、シロは何日眠っていたの? シロとイオリちゃん以外には誰が流れ着いている?」
抱きついてくるイオリの蒼髪をそっと手でくし解かし、シロは努めて明るく微笑む。
「えっとね、あのね、ラークさんと一緒にばあちゃるを探してみたんだよ? ただその、うん、色々と探すのが難しくって」
「ラークさん……マリンちゃんの部下だね。その人と一緒にいるって事で良いのかな?」
「そうだよシロちゃん! 今は食料の調達に行って貰っているんだ!」
「……そっか」
>>696
ポツリと呟くシロ。彼女の微笑みが少しだけ硬くなる。
ばあちゃるが死亡し、シロが一人で流されていた可能性もあった。今の状況は最悪の事態から程遠い。だというのに彼女の心は酷く沈んでいた。
蒼い瞳が静かに閉ざされる。シロは、イオリの鼓動と穏やかな波の音に耳を澄まして心を落ち着かせた。そして──────
「ギィッ!?」
森の中から這い出してきた、半透明の怪物を撃ち抜く。英霊としての力を使い出現させた銃剣で。
センチメンタルな空気が一瞬にして消し飛ぶ。イオリはシロに抱きつくのを止め、自身の護衛である”赤いオジサン”を出現させた。
「ねぇイオリちゃん。もしかしてここってさ──────」
「…………うん。多分シロちゃんが想像している通りかなってイオリは思うよ」
──────ここは、地球の何倍もの面積を持つこの特異点において、ブイデアが観測した中では最も過酷な生態系を持つ巨大な島である。
英霊すら凌ぐ狂った生物が跳梁跋扈する島。その名は『アンダーヘル』。
9月末締め切りの文学賞に応募する為ミステリーを執筆しており、投稿が遅れました……
今回出した海賊のイメージはピーターパンのフック船長がモデルです
あのコミカルさの端々から漏れ出る残虐さが好きです
そんな事よりシロちゃんの新オリソンが良き!
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=AKaRUH5wPaQ&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=14
おっつおっつ、海賊ってそのイメージよね、黒髭見てるとそう思う、オリソン良いよねぇ、ピノ様のライブも楽しみ
>>699
海賊はやっぱ愉快な悪でないとですからね
ただ、この特異点では”とある事情”から島に秘宝財宝の眠る確率がかなり高いため
fgoの海賊よりもロマンの比率がやや大きかったり
>>697
シロの日記
一日目
私──シロの流れ着いた場所に日記が漂着していた。どうも嫌な感じのする日記だが、自分の思考を文字にして整理しないと気が狂いそう。
それはそうと……食料と水は一週間分も残っている事をイオリちゃんから知らされた。
何故そんなにあるのかと言うと、ラークが流される直前に水と食料を掻っ払っていったかららしい。
そんな事する余裕があった辺り、ただ流された訳では無さそうだね。イオリちゃんにそれとなく警戒を促し……イヤ、この状況で不和を招く様な行動は良く無いか。
因みにラークはいない。森の調査に行っているそうだ。
現状補足
・ブイデアからの魔力供給は問題なし
・馬からの魔力供給は途絶えている、距離が離れているのだろう
二日目
朝目覚めても馬がいない。まあ当然か。
ラークが調査から戻ってきた。森の調査へ行ってきたとの事。
やはりというか何と言うか……ここらの森は相当にヤバいらしい。
まず昼間は鱗の怪物が森林の中を闊歩している。少しちょっかいを出してみたが、傷一つつかなかったみたい。
どうも彼らは長時間は動けないようで、逃走自体はそこまで難しくなかったとの事。避けた方が賢明だね。
他にも周囲から光と音を奪う獣、人食い樹木など注意すべき相手は多いっぽい。
次に夜の森。
夜は肉食性の蟲が跳梁跋扈するので森に住む猛獣すらマトモに行動できないらしい。
樹上などに居ればやり過ごせるが、落ちたら終わりとの事。
……ラークはどうやって調査をしたのかな? 後で聞いてみよう。
>>701
三日目
シロとイオリちゃんの二人で沿岸部の調査に行ってきた。ラークはお休みだ。
沿岸部はほとんど岩がちで、常に濃い霧がかっている。
奇妙な生態系が築かれており、何故かワカメ等を食って生きる水陸両生のヤギ、そこそこ凶暴な人型の水生生物(食料を少し与えたら大人しくなったが)、空飛ぶクラゲ、歌うフジツボなどを見かけた。
フジツボの歌は聞いていると鬱々とした気分になる……しかし、ヤギがペースト状にした海藻を与えると歌が止まった。
『歌が嫌なら栄養をよこせ』という事なのだろうか? なんとも悪質なジャイ〇ンだ。
……シロ達が流れ着いたような砂浜は見受けられない。不思議。
一時間に一回ほど不自然に音の消える瞬間がある。音を食う生き物でもいるのだろうか?場合によっては有効活用できそうだ。
明日も調査を続けよう。
四日目
ラークに魔術で連絡を送り(彼も魔術使いだ)、調査に出かける。
異様に静かだ。フジツボの歌はおろか、波の音すら聞こえない。霧が濃くなってきた。
海が凪いでいる。
五日目
おおきな がいた
きりのむこうに がいた
六日目
気がつくとあの砂浜で呆然と立っていた。となりにはイオリちゃんが居る。
ラーク曰く『半日くらいの間、話しかけても体を揺らしても一切反応がなかった』との事……確かに昨日の記憶がない。日記を読み返しても意味不明な事がチョロっと書かれているだけ。
体が冷えて仕方ない。
もう沿岸部に近づくのはやめよう。あそこは異質過ぎる。
>>702
七日目
手持ちの食料が底をつきそう。
イオリちゃん、ラークと協議を重ねた結果『食料を調達しつつ森の奥へ足を伸ばす』ことに決まった。森から食料を調達しつつこの砂浜に拠点を築く案もあったが、そちらは不採用になった。
ここはどうにも平穏すぎるから。
森から獣が侵入してきたのも初日だけ……動物が寄り付かない場所には大抵理由があるんだよね。
八日目
砂浜から物資を動かし、森の少し奥に拠点を作った。
イオリちゃんもシロ、英霊が二人もいるので作業自体はすぐに終わったけど、一つだけ怖い事が。なんとシロ達が流れ着いた砂浜が消えていたのだ。
土地ごと消えていた。不自然に抉れた海岸だけがあった。
『安全な場所に擬態して人を食おうとする生き物だった』とかの仮説は立てられるけど……それに意味はないね。
九日目
この森、食料がやたら取れる。
水も果物から摂取できるし飢える心配はなさそう。
にしても……リンゴとココナッツが同じ森に自生しているのはおかしくない? ぶっ飛んだ生態とかは『そういうモノ』として受け入れられるけど、こういうのは何か気になる。
夜中には確かに肉食性の蟲が出てきた。こちらには何故か興味を示さない。
気になってしばらく観察してみたところ『蟲たちは夜になっても巣に戻っていない、死ぬ戻るだけの体力がない』動物だけを狙っているのだと解った。賢い。
>>703
十日目
夢の中に馬が出てきた。馬がアホほど広い砂漠を横断する夢だ。
シロと馬はマスター契約によって魔術的な繋がりが出来ている。アレがただの夢ではなく、馬の現状を示している可能性は十分にある。
よくよく考えてみると、今まで一度も『馬が死んでいるかもしれない』という発想が頭に浮かんでこなかった。繋がりによって馬の生存を感じ取っていたのだとすればそれにも納得がいく。
拠点を作りつつ、順調に距離を稼げている。
出来ればここに住む人なんかと合流したいのだけど……そもそも人が存在するのか微妙かな。
十一日目
今日は鱗の怪物と戦った。
拠点の近くだから逃走も難しかった。
まずイオリちゃんの守護霊(多分)である”赤いオジサン”が一撃を放ち、怪物は転倒。ラークがすかさず魔力弾を撃ち放って眼球を潰す。
シロは木を蹴って上へ跳び、落ちる勢いのまま怪物の首に銃剣を突き刺し────それでもなお鱗の怪物はやみくもに暴れ続けた。完全に動かなくなったのは、五分も経ってからだっただろうか。
ラークから鱗の怪物が頑丈だとは聞いていたけど、まさかあそこまでとは。
イオリちゃんの使役?する『赤いオジサン』の拳を受けてマトモに生きている時点で異常。英霊でもモロに喰らったら死ねるのに。
それと……首に刃物を刺されて動けるのも異常かな。ちゃんと頸椎まで刃を押し込んだはずなんだけど。
三人掛かりかつ、万全の状態だったから問題なく勝てたけど、タイマンだったら手こずっていたかも。刺してみた感触からして銃弾はまず通らなさそうだし。
十二日目
いつもの様に樹上でキャンプの設営をしていると、遠くに人のような影が見えた。人に擬態する怪物の可能性も十分にあるので期待は禁物だけど。
毎晩出現する虫たちが今日は不思議と大人しい。
>>704
十三日目
奇妙な大亀がいた。森の中を闊歩している時点で割と珍しいが、それより注目すべきはその周囲環境だろう。びっくりするくらい平和。猛獣はいるのだがこちらに一切興味を示さない。
香水みたいな香りがあの亀から漂っており、それを嗅ぐと異様に心が落ち着く。多分この匂いのお陰なのだろう。
昨日見た人影をまた見かけた。あちらも興味を示しているような……気がする。
十四日目
十五日目
十六日目
失敗した失敗した失敗した
シロのせいだ。
久しぶりの投稿です
横溝正史ミステリ&ホラー大賞というのに応募する為、小説を仕上げたまでは良かったのですが、無理が祟ってしばらくダウンしてしまいました……
そろそろ本格的に環境が牙を剝き始めます
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=GgMwbkEsHrA
>>707
お気遣いいただきありがとうございます
今回の話はお察しの通り『野生の怖さ』がコンセプトです
野生は色んな生物の価値観が不規則に重なり合って動いています
だからこそ次に起こることが予測できない
そんな野生が怖いから……人は村や街を作ったんだと私は思います
>>705
十六日目
イオリちゃんは今日も目を覚まさない。あの”大亀”と接触してからずっと眠りっぱなしだ。
シロの方はなんら問題ない、精神状態以外は。ラークは……よく解らない。彼は常に真面目なんだか不真面目なんだかよく解らない態度を取っている。
仲間として信頼したい気持ちはあるけど、正直難しい。こんな時に馬がいてくれたらなと思う。馬がいれば……いや、ない事を嘆くのはやめよう。
これ以上のミスは許されない。
十七日目
『何故イオリちゃんが眠ってしまったか』について仮説を立ててみた。
あの大亀と接触した後にイオリちゃんが倒れたので、アレが原因である事は間違いない。
そしてあの亀がいた時、周囲の動物は皆温厚になっていた。多分アレは生き物の精神……それも害意や敵意といった負の部分を喰らう亀だったのだと思う。
イオリちゃんの心には負の部分がかなり少ない。少なすぎて、負の部分以外の大切な部分まで喰われてしまったのだろう。多分だけど。負の心なんて生きてる限り無限に補充されてくけど、それ以外はそうもいかない。
強いて例えるなら負の部分が『webサイトのキャッシュデータ』で、それ以外が『パソコンのOSデータ』。今のイオリちゃんはOSが破損して動けなくなっているような状態なのだ。多分。
>>709
十八日目
寝たきりのイオリちゃんが獣に喰われそうになった。
なんであの子がこんな目に……なんて嘆いても状況は一切改善しない。けど嘆きたい。
イオリちゃんを看病する為に長期滞在可能な拠点を設立した。樹上にツリーハウスのような建築を建てたのだ。魔術で偽装を施してあるから早々襲ってはこないはずだ。
ここの生物は極めて獰猛だ。普通戦闘って格下相手でも負傷のリスクがあるから極力戦いを避けるのが普通なんだけど……ここではその普通が当てはまらないっぽい。
とにかく殺す為に殺す、食うモノには困らない環境なのにわざわざ人間などの大型動物を殺しに来る。そんな生き物ばかり。
多分だけど自分が生きるためというよりは『環境を保つため』に他の生物を襲っているんだろうね。どんなに肥沃な土地でも養える生き物の数には限界があるから。なんにせよ、眠ったままのイオリちゃんを庇いながら移動するのは不可能に近い。
シロが頑張らないと。
十九日目
イオリちゃんはまだ目を覚まさない。森で取れた色々な薬草を試してみたが一切効果を示さない。知識にない薬草っぽいモノもあったが、流石にそれを使う気にはなれなかった。
ラークに変化はない。
二十日目
手持ちのリソースでできる儀式魔術による治療を一通り行った。イオリちゃんは眠ったままだ。いくら英霊とはいえ、そろそろヤバいかもしれない。
……ラークは儀式魔術に協力してくれた。そろそろ彼を信じてしまっても良いだろうか。
二十一日
今日もイオリちゃんは目覚めない。今やれる治療法はやり尽くしてしまった。どうしよう。どうしたら良いんだろう。こんな時にオペレーターのあずきちゃんや牛巻ちゃんに連絡が取れたら……いや、いない人を思ってもどうにもならない。なって欲しいけど。
>>710
ここ数日、どうにも獣たちが慌ただしい。イオリちゃんを看病する為、樹上に建てていた拠点を放棄した方がいいかも知れない。何かあってからでは遅いし。
けどそうすると寝たきりのイオリちゃんに負担が……どうしよう。今日は準備だけして明日以降に動こう。ラークと今後の指針をすり合わせる作業もしなくちゃ。
ラークからの提案で彼を近辺の偵察に送り出す事となった。少し前に見かけた人影の正体も気になる。リスクはあるが、このまま立ち止まっている方がよっぽど危険だ。
本来であれば彼に看護を任せ、シロが偵察に出た方が良いのだろうが……如何せんイオリちゃんは女の子なので、まあ、男性には任せられない作業がいくつかある。
二十二日目
獣たちが昨日よりも騒がしい。まるで[紙に誰のとも知れぬ歪な文字が焼きついている]
私──シロ──がふと空を見上げると龍がいた。それは子供の落書きをそのまま三次元に貼り付けたかの様であった。近いと思えば近くに、遠いと思えば遠くに見える。ある瞬間においてソレは無数の色彩を纏い、次の瞬間には透明となり、色の概念を再定義する。
変化。あの龍は常に変化しているのだ。『龍である』という楔が辛うじてアレを一つの生命に留めている。その事実をあの龍はその威容のみでもって知らしめていた。
その変化に合わせて周囲も組み変わってゆく。獣も草木も、雄大なる大地でさえ。
石は捻じれた灰色の蛇となり、近くの獣は人の形をとった直後に沸騰して極彩色の気体になった。何もかもが変化する。不規則に、無秩序に、けばけばしく。私のいるこの場所を置き去りにして。
この拠点には魔術で防護が施されている。恐らくはその防護が変化から守ってくれているのだろう。完全に守ってくれているかどうかは微妙だが。
>>711
五感に激しい痛みを覚え、私は外から顔をそらす。
「────」
この森を構成する大樹たちが細い若木のように頼りなく傾ぐ。全てが引き寄せられているのだ。あの龍に。
「イオリちゃん!」
寝たきりであるイオリの体が、拠点の出口に向かって滑り動く。私は顔を青く染めながら彼女を抱き止めた。
何となくだが、外に出てしまえば”アレ”に巻き込まれる、そう思えてしまったのだ。
……ちょっと前に偵察へでたラークは無事だろうか。いくら魔術が使えるとはいえ、この環境下では英霊でも死のリスクが付き纏う。異常事態が巻き起こっている今であれば尚更。
そんな風に思考を一時逃避させ、肩の震えを押さえつける。怖くて仕方がない。あの龍もそうだが、イオリにこれ以上何かあったらと思うと、それ以上に怖い。
ばあちゃると離れ、ブイデアとは連絡がつかず、その上にイオリまでどうにかなってしまえば……私は戦う理由をきっと見失ってしまう。孤独は人を蝕む、そして英霊も。知性ある限りそこにきっと例外はない。私はそう思っている。
「────!」
変化の嵐が周囲を包む最中、私はイオリを抱きながらジッと嵐が過ぎ去るのを待つ。魔術防護を施された拠点が外の変化に侵され、徐々に崩壊してゆく。私の意識が情報の海に沈んでゆく。
────意識が沈み切る直前、私は人のような影を視界の端に捉えた。
vtubeバトルロイヤルがメッチャ面白かった!
それはそうと、ずっと前から温めていた展開に入れそうで楽しみです
おまけの裏設定
創造龍
危険度S(対策するだけ無駄)
死したティアマトの心から生まれた龍。砂漠の方にいる個体とは対の関係にあり、こちらは怒りや乱心といった激しい部分の具象化。
ティアマトが元々持っていた怪物の生産能力をより強化継承しており、無生物からも怪物を生み出せる他、一時的にでがあるが周囲の環境すら書き換える。
シロちゃん達のいる場所に生息する怪物たちは全てこの龍によって生み出された存在……というより、この世界に存在する怪物のほとんどはこの龍由来。
これに理性や思考能力はない為、生まれた怪物の大半は半日以内に生理機能の不備で死ぬというかなり残酷な運命を背負っている。
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=kgO7qOc1z5Q
おっつおっつ、やばくなってまいりましたわ!楽しみがえぐいですわ!
バトロワはシロちゃん惜しかったなぁと、武器持ちすぎると撃てないっていうルールが極限下ではすっぽ抜けるよね、あの二人がそろうと敵なしに見えるぜ
>>712
「……」
シロは目覚めた。緑のけぶる風がほほを撫でる。
「……ふぁ」
酷い寝起きに特有の泥めいた眠気。シロは頭とアホ毛をユラユラと揺らしながら周囲の情報を脳に取り入れる。
ここ最近ずっと所持していた日記には、小さな節足が生えていた。あの龍による変異の影響であろう。何故か脳内に『日記を手放してはいけない』という声が響いてきたものの、それについて考える必要はなくなった。
日記がうぞうぞと節足を蠢かしてどこかへ去っていったからだ。
「うわっ」
余りにもあんまりな光景にシロの眠気がすっと覚める。脳が正常に回り出す。
────自分が寝ていたのは見たことのない場所。周囲には太陽光が過不足なく入って来る程度に樹が生えていて、樹のサイズもこれまで見てきたモノよりはいくらか常識的だ。(それでもかなりの大きさではある)
遠くには凄まじく巨大な樹が見える。幹が雲をぶち抜いてその遥か上まで伸びている。もしかしたら宇宙まで伸びているかも知れない。
>>716
「イオリちゃん、どこかな?」
そう言いながら周囲を探るも、人らしき気配は感じられない。それどころか獣の気配すらない。不思議だ。この島は常にむせかえる程の生命に満ちていたはずなのに。
よくよく注意してみると、シロは周囲に無視できない空白があることに気が付いた。このような野外であればあらゆる場所から虫の気配がしてくるはずなのだが、所々ソレが途切れている。
(空白の数は一個。空白の正体は多分『気配遮断の魔術を使用している人間』……害するつもりならシロが寝ている間にいくらでもチャンスがあった訳だし、そこまで警戒はしなくていいかな? いや、イオリちゃんを人質にしてこっちに何か要求してくる可能性もある。とはいえ、相手にやまれぬ事情があってこちらを隠れながら観察している可能性も捨てきれない……ダメだ、そんな甘い思考をしちゃ。シロが油断する度に、誰かに寄りかかろうとする度に誰かが失われていく。間違えないようにしないと。想像するべきは最悪。最悪を常に考慮し、備えるのがシロの義務)
そんな思考が脳内を何度もグルグルと回り、一巡する度にシロは攻撃的な気配を増して行く。その攻撃性は周囲にいる正体不明の相手というよりは、彼女自身にベクトルを向けたモノだった。
「そもそも……ここはどこなんだろ?」
>>717
地面に座り込んだままそう言って、シロは近くに落ちていた石をそれとなく握り込んだ。適切に使えばこんなのでも人を殺せる。
ゆるりと立ち上がって向かう先は、気配の空白。きっと誰かが潜んでいる、あの空白。偶然を装って近づき相手の出方を伺う。
「と言ってもまあ、周囲を把握しないと何も始まらないかぁ……一人だと独り言が増えて嫌になっちゃうよ。独り言は一人の時にしか言えないんだからそりゃそうか」
『────』
シロが”空白”に近づくと────木の葉が擦れる音、風の吹く音、枝の折れる音、こういった自然の音たちに奇妙な法則性が混じり出す。魔術を行使した気配はない。『どうやっているのかまでは解らないが、自然音に見せかけた暗号でどこかへ連絡を行っているのだろう』と考察し、手中の石を固く握りしめた。
ある程度聡い人であれば容易に気づける規則性なところを鑑みるに、対人というより対獣に特化した技術であろうか。とはいえこういう技術は決して侮るべきではない。
あと三歩、二歩、一歩。空白との距離が眼前にまで縮まる。
『……』
茂みの中から音もなく出現してくる女性が一人。
身長は150cm程度で体格は極めて華奢。瞳は新芽のような薄緑、形は切れ長。耳が鋭い。概ねファンタジーのエルフとほぼ同じ顔をしている……が顔の三分の一程が黒い殻に覆われており、怪物めいた異質さを醸し出していた。
>>718
『おいで下さイ。貴女のご友人がお待ちでス』
樹のウロから響いてきたかのような声。話している間、相手の表情は一切動かない……というより、木肌部分に阻まれて表情を動かせないのであろう。
シロはしばし思案した後、脳内から戦闘の選択肢を除外した。
目の前にイオリを人質として突き出されたのであれば戦闘による奪還の余地は十二分にあるが、この場にいないのであればどうしようもない。
それに今のところ相手に敵意は感じられない。今のところは。
「……解った、ありがとう。ところで名前はなんなの?」
『プアナム・ドゥム……プアナムとお呼びくださイ』
プアナムはぎこちない動作で手を胸に当て、シロを案内し始めた。
(友好そうなのは良いけど……そうすると最初気配を隠してこちらを観察していたのがどうにも不可解だね。ちょっと怪しいかも)
※
『ここガ私たちノ住む場所でス』
シロが案内をされ始めて数分後。まばらに建物が現れ始める。周囲の木々は先程までよりも疎らで、獣の姿はどこにもない。
たまにプアナムと似たような見た目の人間?がこちらを覗いてきている。
数はさほど多くなく、彼らの顔も黒い殻に一部覆われている。一体アレは何なのだろう、とふとシロは考えたが、そんな事を考える前に警戒をしなければ、と意識を現実に引き戻す。
周囲の建物を本格的に観察し始めると、それらには奇妙な特徴がいくつか見受けられた。
>>719
「……」
いずれの建物も巨大な木々の枝から果実のようにぶら下がっており、魔術を使わないと実現困難な構造をしている。材質は木製で、表面には緑コケによる魔術的な紋様。やはりここにも獣の気配は無い。
遠くに見えていた規格外の巨大樹は、相も変わらず雲をぶち抜いて悠然と立っている。
シロは何故か酷い疲労感に襲われ、ふと上を────
「白髪の姉御! ラークです。いやぁ……色々ありましたが、親切な人たちに拾われてどうにかなりましたぜ」
見ようとした瞬間、背後からラークに声をかけられた。シロ・イオリと共に島に漂流した、上司であるマリンに下剋上するためシロたちに恩を売ろうとしている、あのラークだ。
シロは振り返って挨拶を返そうとしたが、出来なかった。彼女の胸を打つ衝撃によって。
「そ……それどうしたの?」
「ん? ああ、なんか変な龍が近づいて来たと思ったら……こんなんなっちゃいましてなぁ」
ラークが頬をかきながら己の右脚をぎこちなく揺らす。
彼の右脚……その膝から先が、昆虫のような黒い節足に置き換わっていた。
シロの瞳が罪悪感に揺れる。
ラークはそんな彼女を見て一瞬だけ思慮深く目を細めた後、いつも通りの海賊らしい笑みを浮かべだした。
「……まあ、気に病むことはないですぜ、白髪の姉御。そりゃ脚がこんなんなったのはちょいと残念ですが、まぁ、姉御が気にするようなことじゃねぇですよ。ほら、青髪の姉御もここに匿われてるんで、早いとこ会いに行きましょうや。な、プアナムさん」
ラークが話を振ると、プアナムは深い頷きを返し、歩き始める。
彼女が歩む先にはあの大樹があった。
メッチャ久しぶりの更新です……
冬場に入ったせいか体がバグり散らかしてました
それはそうと.liveの箱イベメッチャ楽しみ
馬の白スーツが普通にかっこよくてなんか腹立つ
裏設定
プアナム・ドゥム
『プアナム』はギルの出生地であるメソポタニア文明の王様の名前
『ドゥム』はシュメール語で『子供』という意味(諸説あり)
名前が生まれに準ずるので血筋はガチで高貴です
顔の殻はラフムのと同じもの
創造龍は基本的にランダムで周囲の存在を変化させますが
ティアマトが元になった存在なので
相手が人間の場合に限り確定でラフム化させようとしてきます
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=WKvUcrBUEL8&list=PLWnDfZkfcqo-32emnwBVeMRXIZXUoFaPY&index=2
おっつおっつ、貴重な現地協力者(仮)だぁ!
箱イベ楽しみよね、地方民だからチケは買わなかったけど(血涙)馬とリクム姐さん並べると凄い格好いいのムカつくよなぁw
令和ちゃんは季節のベクトルめちゃくちゃにしがちだから体調にはお気をつけを〜
>>723
スーツってガタイが良い程映えますよね
箱イベはきっと配信があるのでそっちで楽しみましょう!
>>720
歩き始めてから数十分。シロとプアナム、それとラークの三人は大樹の近くにまでたどり着いていた。直径3m程もある木の根が無数に隆起し、絡み合い、立体的な地形をなしている。
「……」
この数十分間、会話らしい会話はなし。普段のシロであれば空気を読んで程々に場を盛り上げる所だが……いかんせん今は余裕がない。そしてプアナムは寡黙な人間であり、ラークは顎に手を当ててなにやら考え事をしており、誰かと話すつもりは無さそうだ。
よってこの気まずい沈黙は保たれ、この先も続くかに思われていたがしかし、プアナムがそれを破った。顔についた殻と皮膚の境をやや気まずそうに掻きながら。
『そういエば……御客人の名前を直接伺っテおりまセんでしたネ。一応、そこのラーク様より一通りの事情は伺っておリますが』
「……ん、ああ、えっと……」
唐突に声をかけられたのと、精神状態の悪さ故に口ごもるシロ。
「おいおいプアナムさん。様付けは勘弁してって前に言いましたぜ。俺ぁこれでも名うての海賊……それが様付けで呼ばれちゃ形無しってもんでさぁ」
そこへラークがスルリと会話に割り込んだ。彼の気安い態度からは自称するほどの海賊らしさはない。
そのまま自身の”らしさ”を誇示するように海賊帽を指先でクルクルと回して放り投げ……そして取り損ねた。一連の動作を見たプアナムが小さく吹き出し、ラークはゆっくりと帽子を拾い上げ、誤魔化すように肩をすくめる。
>>725
「まあ、今回は失敗しましたがね、これでも俺は名うての海賊なんですって……ああそうだ。白髪の姉御、プアナムさんに名前を教えてやって下せえよ」
「……そうだね。私の名前はシロ、よろしくね」
シロは軽やかに頭を下げ、自身の頭頂部に生えたアホ毛を揺らす。
周囲の気安い空気が彼女に精神的余裕を取り戻させ、ある程度いつもの様に振る舞う事を可能とさせていた。
「話は変わるんだけどさ、馬みたいな頭部をした人を見かけた事ってある? シロの……まあ、大切な人でさ、でも今は逸れちゃっててさ」
『馬の頭? 頭部が馬に変形した人というのは聞いたことが御座いまセんネ。基本的に人が変異する時は黒い怪物になりますのデ』
「ああいや、本当に頭部が馬そのものって訳じゃなくてね、馬のマスクを被ってるの」
シロは幼げな顔に苦笑いを浮かべ、手をパタパタと振る。
────話しながら歩く三人。彼らの行く先に薄っすらとした光が見え始める。光の色は穏やかな薄青。
『そういう事デすか。しかし、馬のマスクというのも聞いた事が御座いまセん……申し訳ございまセん、シロ様』
「謝らなくて良いよ、ダメ元で聞いただけだし。それと、シロも様付けはしないで欲しいな。助けて貰ったシロ達の方が本来そっちに敬意を払うべ────」
『そレだけはあり得まセん』
>>726
プアナムは唐突に足を止め、酷く疲弊した悔恨の表情をシロへ向けた。それはどこか祈りめいていた。
────薄青の光が不規則に揺れ動く。
深く息を吸い込み、彼女はまた歩き始めた。
『私達はかつて大きな過ちを犯しました。そレにより、完成しテいた”楽園”へ続く船は押し流され、同胞たる石と砂漠の民は……楽園へゆく機会を永久に失いました。故に私達は罪人デす』
「ど、どういう事?」
『……そうデすね。少し長い話になりますが、よろしいデすか?』
シロは小さく頷く。
『今は昔。かつての故郷、ウルクが荒ぶる神に滅ぼされた少し後の話。ウルクの民は二つの島に分かれていました。二つの島は距離こそ近いものの、環境は大きく異なっておりました。怪物がはびこる森の島、不毛の砂漠の島、どちらも違った地獄。ただ幸運なことに森の民である祖先は今よりずっと強く、砂漠にはまだ大地の恵みが多少残っていました。故に祖先は怪物に抗することができ、砂漠の民もなんとか生きてゆく事ができたのです』
滔々と流れる語り口。それまでの言葉にあったぎこちなさは立ち消え、彼女がこれを何度もそらんじてきたであろう事が伺える。
>>727
『しかしそれらの幸運は、いずれ無くなる事が目に見えていました。祖先の血は少しずつ衰えてゆき、砂漠の恵みも同様に枯れてゆき……ジワジワと迫りくる衰退と破滅に、祖先たちはどうすることも出来ませんでした────そんなある日、遠くの海から二隻の船がやってきたのです。一隻はこの島へ、もう一隻は砂漠の方へ』
プアナムは寝れない子供をあやしつけるように単調な抑揚をつけて語る……実際、彼女はこれを子守唄代わりに聞かされてきたのかもしれない。何度も、何度も、夜が来る度に。
────話を聞きつつシロ達の足は前へと進む。遠くに見えていた光が僅かに強まる。
『祖先の方に流れ着いた船は怪物たちによって破壊されていましたが……幸いなことにその乗員と通信を行う装置だけは生きておりました。そこから砂漠に流れ着いた船と連絡を取ることが出来……それを通じて砂漠の民とも連絡を取ることが出来たのです。
祖先は流れ着いた男から様々な話を聞きました。途方もなく発展した都市からやってきたこと。その都市には不治の病が蔓延していること。男もまた病に犯されていること……しかし不思議なことに、祖先が霊薬を使うとその病はあっけなく治りました』
────光がさらに強くなる。
>>728
『男は勇み喜び故郷へ帰ろうとしましたが……肝心の船が壊れてしまっており、直せるような状態でもありません。とはいえ、手が無いわけでは有りませんでした。砂漠の方に流れ着いた船はまだ直せる程度だったのです。
砂漠の民との話もつつがなく進み、砂漠主導で船の修理を進めようという話になった時……男は言いました「厚かましい願いになるが、あなた達も一緒にきて欲しい。仮に故郷の病を治したとしても、もう住民はほとんど死んでいるだろう。万が一……一人で生きていくことになったらと考えるとゾッとする」と。実際のところ、それが地獄めいた環境に住む祖先を慮っての言葉なのは明確でした』
────光はこれ以上ない程に強くなり、巨大な木のウロが見えてきた。
『砂漠の民も共にいく意向を示し、そして男の故郷……”楽園”へ行くための大事業が始まりました。砂漠の民は船に載せられていた機械により岩の体を手に入れ……その体でもってある者は船を治し、ある者はその為に必要な資材を収集していました。そして私の祖先はかつてウルクを滅ぼした荒ぶる神の成れの果て…………創造龍を島に閉じ込める為の儀式を始めていたのです。
かの龍は周囲を改変しておぞましい生命を生みだす怪物。この島から外に出さぬよう、定期的に結界が張られておりました。その結界を永遠の物とするための儀式を行っておりました。改変を受け付けないようにした迷いの霧で島を包み込み、永久に閉じ込めようとしたのです』
────ウロにたどり着くまで後少し。
>>729
『長い長い準備を経て船の修理が概ね終わり、封印の儀式がほぼ完了した頃。私達の祖先は…………気のゆるみから儀式の手順を間違えてしまいました。
それによって霧を出すだけだったはずの魔術は暴走を起こし、島を包み込む迷い霧の巨人となり……そして三日三晩島の周囲は霧の濁流に晒され……霧が薄まった時にはもう……治りかけの船は沖の遥か遠くに流されてしまっていたのです。故に────』
「プアナムさん。目的地に着きましたぜ」
トントンとつま先を打ち鳴らし、話を遮るラーク。彼の言う通り、目的地と思わしき大樹のウロが目の前にあった。樹皮は長い年月によって色褪せ、その質感もあいまり樹というよりは岩のそれに近い。
先ほどまで眩しい程に感じられた光はもうない。不思議だ。
ウロの中には────
「……シロちゃん?」
眠たげな瞳をしばたかせるイオリの姿があった。
今回のBGM
https://www.youtube.com/watch?v=AKaRUH5wPaQ&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=14
今回は過去回でした
それはそうと.liveの箱ライブメッチャ良かった!
またみたいなぁ
裏設定
砂漠の民と森の民で伝承の精度に格差がある理由
ウルクが滅んだ辺りにゴタゴタについて砂漠側が詳しいのは、砂漠の民の先祖が『最後までウルクに残り抗戦した末、王権の象徴である粘土板を死守して生き延びた人たち』である為。
楽園周りのゴタゴタに関してはあえて『そんな物なかった』となるように色々改変したりぼかしたりした上で当時の事を後世へ伝承している。
というのも、『森側がなんかやらかしたなコレ』というのを薄々察知していたため『会えもしない相手への恨みを子孫が抱いてもアホ臭いだけ』という発想に至ったため。
ちなみに森側はケツァルコアトルに拉致られたウルク民の末裔。
エルフっぽい見た目になってるのは文化圏がメチャクチャ違う神の守護を直に受けた影響。
フルパワー状態の南米ゴッドが気合で彼らを守り切ったため、ラフムとかについてはあんま知らない
おっつおっつ、いろいろと考えられる過去でして、箱イベマジでよかった、まぁちょっとロス気味だけど、でも星物語の円盤も来るしこれからも楽しみだぁ
>>732
DVD楽しみですよね!
過去に関してはこの特異点の正体を語る上でどうしても外せないのでここに差し込みました
>>730
「シロちゃん、シロちゃんだ……ウッ」
ウロに横たえた体へ力を入れ、起き上がろうとするイオリ。しかし出来ない。長い間寝たきりだったせいで、体の動かし方を忘れてしまっているのだろう。
イオリの倒錯した美貌もあいまって真に痛ましい姿である。
だがそれでも────シロは嬉しかった。蒼い瞳を細め、寝たきりのイオリの手を優しく握りしめる。そして静かに涙を流す。
「良かった……戻ってきて良かった……二度と治らないんじゃないかって……」
それは、遭難してから一度も口にしていなかったシロの弱音だった。彼女の顔には相手を懐柔するためのモノではない、心底からの笑みが久方ぶりに浮かんでいた。
「ありがとうプアナムさん。他人のシロ達を、イオリちゃんを助けてくれてありがとう」
『いえ、イオリ様は助けテも大丈夫であると解っテましたから……その症状は例の大亀によるもの。あれは周囲の邪念を吸い取っテ生きる無害な生物ですが……邪念のなさすぎる相手だと稀に心の大事な部分まデ……つまりこの症状が出たイオリ様は善良という事デす』
「そんなこと言っちゃって、別に善良じゃなくても助けてたでしょ?」
『……人命救助は人としテ当然のことデすから』
顔に付いた殻をポリポリと掻くプアナム。彼女は気恥ずかしさを振り払うように、話題を変える。
>>734
『それはさテおき……今後の話をしましょう。貴女方はこの島に漂流しテきてますので、イオリ様が治り次第、船デ外へ……と、言いたいのですが問題がありましテ』
「問題?」
『エエ……先祖が創造龍を閉じ込めるために使用した魔術が……ややこしい状態になっテおりまして。島沿岸部が霧の異界と化しテおり、外に出ようとすると誰であろうと引き戻さレてしまいます。血は衰え、同胞は数を減らし、もはや私たちが祖先の魔術をどうこうするのは不可能なのデすよ』
彼女はゆっくりと手を振って周囲を霧で満たした。霧はプアナムによく似た……しかし彼女よりも大きな人型となる。直感的な魔術行使のもたらす現象。これだけで彼女が一流の魔術師であるという事が解る。
────そんな彼女が断言するのだから本当に不可能なのだろう。ブイデア本部にいる牛巻やあずきと連絡が取れれば、また話が違っていたかも知れないが。
シロはそう考え表情を歪ませた。イオリから手を離し、彼女から自分の表情が見えないようにしてから。
「……じゃあ島から出るのは不可能って事?」
『いえ、祖先が遺した秘宝『霧払いのランタン』があれば霧を超えて島の外ヘ行けるでしょう。ですが、以前に秘宝を持ち出し外に出ようとした者がおりましテ。まっ、海岸にたどり着く前に捕食されましたがね。今更海へ出たとテ、楽園への道などないというのに…………と、無駄話が挟まってしまいましたネ』
霧を操り奇妙なランタン──涙を流す目玉が中央に浮かんでいる──を形作った後、プアナムが手を乱雑に振り払って霧を消し去り、自嘲めいた笑みを浮かべた。
>>735
『まあ、そんなこんなデ秘宝が怪物に持ち去らレまして。祖先より伝わるモノなので取り返そうとはしたのデすが……どうにも歯が立たず……』
「解った、シロがその怪物を倒して────」
シロが頷こうとした瞬間、腕を引く者がいた。横たわったままのイオリだ。彼女の紅い瞳から強い意思が感じ取れた。
「シロちゃん……イオリも一緒に戦う…………」
そう呟く彼女はシロの腕を強く握る。その力はつい最近まで寝たきりだった人間のモノとは思えない程に強く────しかし英霊のソレには届かなかった。
シロは笑みを浮かべ、イオリの髪を手櫛でとかす。
「ううん、大丈夫。安心して、シロが全部どうにかしてみせるから。もう失敗しないから。大切な人はみんなシロが守るから」
そして手の中に魔力を集め、単純な眠りの魔術でもってイオリを眠らせる。
まぶたを伏せるシロ。彼女の顔に影がかかる。プアナムはそれを困惑気味に見届け────ラークはヘビのように瞳孔を細めつつ口を開いた。
「じゃあ姉御……俺も守ってくれるんですかい?」
「もちろん、ラークは仲間だからね。まだ完全に信頼してる訳じゃないけど」
「おや、まだ心底からの信頼は勝ち取れてないんですねぇ」
「そりゃ海賊相手だからねぇ。それにラークが協力してるのは打算ありきでしょ? あくまでビジネス仲間だよ、ビジネス」
「そりゃ酷いですぜ。俺ぁこんなにも尽くしてるってのに」
胸に手を当て、ラークは大げさに悲しむフリをする。
会話の内容に反し、お互いの態度は至極気安い。確かにラークは海賊であり、言動も胡散臭いが、何十日も接していれば人並みの情は湧く。少なくともシロはそうであった。
>>736
「尽くしてくれてるのは認めるけどね。まぁ、イオリちゃんとは付き合いの長さが違うからね」
「へいへい、さいですか……じゃあそうだ!」
ラークが唐突に目を見開く。そしてシロの肩に手を回す。何故か体に触らないよう微妙に手を浮かせ、シロの顔色を伺いながら。なんとも奇怪な気の使い方だ。
「どうしたの?」シロが首をかしげる。
「その……ここじゃちょっと話しづらい内容でしてね、ちょっと場を移しましょう。じゃっ、プアナムさん。青髪の姉御をしばし頼みましたぜ」
※
歩くこと僅か数分。ラークとシロの二人は巨大な切り株に、互いに背を向けて座っていた。この場所は彼たっての願いによって選ばれたモノだ。
「場所を移した訳だけど、話ってなんなの? あそこじゃ話せない内容ってなぁに?」
「まあ、他の人にゃちょいと聞かせたくない話でしてね……まあ言うより見せる方が早いですかねぇ。ほら」
そういってラークが一枚の紙を渡す。その紙には複雑な魔力が込められていた。
シロは紙上に指をしばし這わせた後、瞳に驚愕の色を浮かべる。
「これは……セルフギアススクロール!?」
────セルフギアススクロール、またの名を自己強制証明。魔術師が実質違約不可能な契約を結ぶときに使う、極めて強力な魔術契約書だ。間違いない。
シロはブイデアの機密保持のため何度かこれを使った事があるため、その存在を知っていた。
「ご存知でしたか、じゃあ話が早い。話というのは、この契約書に署名して欲しいって内容でしてね。なに難しい話じゃございません」
「いや……署名って言ってもさ。肝心の文面がないんじゃ契約書としてなりたたないよ」
>>737
真白いアホ毛をいじりながら、そう答えるシロ。彼女の顔には困惑と警戒が浮かんでいた。ラークを敵か味方かどちらに認識するか決めかねているのだ。元より打算ありきでの協力だとは解っていたが、ここまであけすけに駆け引きをして来るとは予想していなかった。
そんな懸念を他所に、ラークが契約書をひったくってシロに背を向け、手際よく文字を書き連ねた。
「そりゃそうですなぁ……内容を……書きましたよと……ほいっ」
契約書がシロの手に戻される。
「……内容は『1.シロ及びその仲間に対し、ラークは直接的・間接的に意図して危害を加えない。2.シロはラークに対し、一度だけどんな願いでも聞かなければならない。3.ただしシロに対し直接的な不利益を及ぼすような願い、遂行不可能な願いは無かったことに出来る』……この契約でシロにメリットはあるの?」
「ありますとも、ありますとも!」
契約書を再度ひったくって手元に戻し、ラークはもみ手をしつつ笑みを浮かべた。混じりっ気のない悪党の笑みを。
冷え切った風が二人の間を吹き抜ける。
「なんと、俺に裏切られるリスクを無くす事ができるんですよ! コイツは、昔に俺を殺そうとした魔術師崩れから何枚か分捕ったモンなんですがね……これ使った契約が破られた事は一度もないんですよ。ただ信じるのと、100%信じられるのとじゃ任せられる事が大分変わりますぜ?」
「……それで、ラークのメリットは?」
「そりゃ勿論『願い』の部分ですよ。俺の目的を達成する為にゃ姉御の力が必須でしてね……目的がなんなのかは秘密ですぜ? これだけは誰にも言えないものでして。それで、署名はしてくれるんですかい?」
ラークが切り株の上で仰向けになり、紙を差し出す。彼の表情は海賊帽に隠れて見えない。
>>738
対するシロは顎に指を当てて思案する。
────願いの内容や態度など不明瞭な点は多いがメリットがあるのも事実。リスクのない協力者が手に入るのは確かにありがたい。
それにこの先……シロの力でどうにもならない敵が出て来た場合、『馬や他の娘たちに知られたくないような』手段に訴えかける覚悟がある。良心は痛むが、仲間を失う痛みに比べれば些細なモノ。なんにせよ、その場合ラークが手駒として使えるのは大きなメリットだ。海賊であればそういった手段に抵抗はないだろう。
「解った。サインを────」
『する』と口にしようとした瞬間、つむじ風が巻き起こり無数の青葉がシロの手にまとわりつく。彼女を思いとどまらせるかのように。
しかし、シロはそれを振り払った。
「サインを、する」
そう口にするとペンが手に握られていた。
シロが名前を書き、ラークが紙を三度ひったくって懐にしまう。それで終わり。
契約書に名前を書いてもこれといった変化は現れない。ただ、契約してしまったのだという実感がシロの胸を重く締め付けた。
ふと上を見上げると空は夕暮れで、夜がすぐそこまで迫って来ていた。
森の夜は危険だ。たとえ獣がいなくとも。
今回のbgm
https://www.youtube.com/watch?v=ETEg-SB01QY&list=PLUjwA-Z4c05rAfdrDkQt8ZJP7iohktSIP&index=69
次回更新で地味に久しぶりの本格的な戦闘回の予定です
それはそうとバーチャル歌伝楽しみ!
裏設定
森の怪物について
理性のない創造龍が作り出した存在であるため
ほとんどが生理機能の不備で死ぬか仮に生き残ったとしても子孫を残せず一代限りの存在で終わる事がほとんど
しかし極まれに生き残り繁殖する種族もいる
スケイラー
危険度B(危険ではあるがある程度有効な対策アリ)
トカゲと木が混ざって変異した怪物
生態系の頂点に位置する
二足歩行の鱗つき熊といった風体をしている
鱗のせいで異様に頑丈な上
半分木であるためか怪我にも並外れて強い
腕力は言わずもがな
脚力も山道で時速40kmをだせる程のパワーを誇る
しかし体温調節機能に重篤な欠陥を抱えており
夜は体が冷えてマトモに動けない上
太陽が出てからも動けるようになるまで数時間かかる
かといって運動をしすぎて熱が溜まっても動けなくなるため
実は10分〜15分程度しか全力で動けない
なのでその間どうにかして凌げば対処可能
ハイブビースト
危険度A〜C
夜行性の獣
ラクダとハエとサソリが混ざって変異した怪物
ラクダの頃に存在した背中のコブは穴の開いた肉塊で
手足はサソリめいたグロテスクな形状
夜行性とはいいつつ昼夜関係なく自身が動くことはほとんどない
コブから出るフェロモンで肉食昆虫を操りそれによってエサを得る
昼でも普通に活動できるが天敵のスケイラーに目を付けられたくないのでやらない
サソリ由来の巨大なハサミを持っておりそれを用いて地下に昆虫用の巣を造営している
また、手駒の虫自体も自身で産んでいる
虫を産む為の産卵機構は本来の生殖器とは別にオスメス関係なく存在しているが、メスの生む虫の方が微妙に大きく強い
出来損ないのキメラのような見た目をしているが知能は非常に高く
弱った獲物にしか手を出さない(出させない)
なのでそこを弁えてさえいれば対処は比較的容易
しかしそもそも万全の状態でも貧弱な人間の場合
弱っていなくとも襲われる場合があり油断は禁物
>>742
戦闘回の前半はオーソドックスな能力バトル
後半はジャンプラのダンダダンのような変わり種のような感じにする予定なので
楽しみにして頂ければ幸いです!
>>739
※
プアナム達の住む里に戻ると、彼女と同じような見た目をした人らが準備をしていた。里の皆で集まって準備を行い、明後日には歓迎の催し物をしてくれるそうだが……数は二十と少し、目視で数えきれる程度。子供に至っては二人しかいない。
わざわざ今ウソをつく意味はないので、本当にこれで全員なのだろう。
シロは里で久方ぶりに身を清め、食事を取る。里の空き家に案内され、そこで眠る様に言われた。
里の建物はどれも巨大な木の枝から果実の様にぶら下がっており、一度木を昇らなければ中に入ることが出来ない。恐らくは、怪物が侵入して来ないようにする工夫なのだろう(里には怪物を退ける結界が張ってあるのだが、たまにそれを突破してくるのがいるそうだ)。
建物はそれほど広くない。住めて三人……頑張っても四人といった所か。木にぶら下がっている割には、歩いても特段揺れなどは感じられない。そういう魔術をかけているのだろう。
内部には生活感のある家具が置かれたままになっている。形が元の世界のモノと大分異なっているので確かな事は解らないが、シロが見る限り割と最近まで使われていそうだ。人の住まなくなった家は急速に寂れて行くそうなので、最近まで人の住んでいた家を客人用として選んだのであろう。
シロは小さく伸びをして、ベッド?(床に四本支柱を立てて水平にハンモックを張ったようなモノ)に身を横たえ────
>>744
「……これは」
ベッドの下に古びた日記帳を見た。
シロは日記を一度手に取り、肩をすくめながら元の場所に戻す。好奇心で他人のプライベートを覗き見るのは流石に趣味が悪すぎる。
────元の場所に戻す時、偶然のいたずらによってページがめくれた。
そこには『妻が怪物に食われた。一矢報いに行く』とだけ書かれていた。
「……」
何処から吹き抜けた隙間風がビュウビュウと、恨み言とも泣き言ともつかぬ様子で鳴いていた。
※
次の日。シロはラークと共に例のウロにいた。
イオリはもうすっかり良くなって、ふらつかずに歩くことができる。通常であれば寝たきりから回復するために長期間のリハビリが必要なのだが……そこは流石英霊といった所だろう。
「じゃあラーク、イオリちゃんの事は頼んだよ」
「へい! ……しかし良いんですかい? 病み上がりの姉御を護衛するのに俺を使っちまって。そりゃ姉御達にゃ敵いませんがね、これでも俺ぁそこそこ名の知れた海賊ですぜ?」
腕に力こぶを作り黄ばんだ歯を見せるラーク。本気で疑問に思ってるというよりかは、じゃれつくような聞き方だ。
シロは微かに苦笑を浮かべて、
「今確実に信じられるのは、契約があるラークだけだからね。一番大事なイオリちゃんを護衛していて欲しいの」
>>745
といった。
────シロとラークが話している間、イオリは適当な所に腰掛けて二人をジッと見上げていた。普段はやや過剰なくらいに感情豊かな彼女の表情は今や、菩薩様を思わせる微かな苦悩を孕んでいる。
青く長いイオリの前髪が沖波のようにゆるりとのたうち、濃く紅い彼女の両瞳がシロを不意に捉えた。
「シロちゃん、イオリの事も信じて欲しいな」
そういったきり彼女は口を閉ざす。
『もちろん信じているよ』そうシロは返そうとしたが、何故か言葉が出てこなかった。
「…………いってくるね」
結構、こう返すのが精一杯だった。
※
数時間後、シロはプアナムから貰った地図に沿って森を進んでいた。
常軌を逸したサイズの木々、砲弾を打ち込んでもビクともしないであろうそれらは、半ばから融解し倒れ、開けた場所を形作っている。
鼻をつく酸の匂い。
シロは足を止め、目の前の光景を驚愕と共に見据えた。
「……」
プアナム曰く、獰猛な森の怪物達ですらここには近づかない。『アンケグ』がいるからだ。大型動物を持ち上げられる程に発達した長い節足を持つ……大長虫。強大な顎で穴を掘り地下を潜行し、上を通った動物を喰らう。
喰らった獲物の消化しづらい部分、骨や殻などを体内の消化液と共に吐き出す習性があり、それ故にアンケグの巣には酸の匂いが絶えない。
この酸はドラゴンブレスのように吐き出すこともでき、マトモに喰らえば英霊でもタダでは済まない。また原始的な魔術を使うことができる。巨大なムカデめいた外見に反しその知能は比較的高く、魔術のかかった品を収集することを好む。
魔術回路を持つプアナムの同胞死体もアンケグのコレクション対象であり、薬草を取りに里から出た人間などがコレの餌食となっている。
>>746
数百年前に創造龍の力で偶然生まれた怪物であり、森の一角を長らく支配する生態系の絶対的上位者。龍が産んだおぞましき龍モドキ。
それがプアナムの語る、『島から出るための秘宝』を持ち去った怪物の全容。
英霊であるシロといえども容易に勝てないと覚悟を決めた相手。
「……死んでる」
その怪物が、死んでいた。
おかしな格好をした男に殺されていた。紫と黒の縞々模様の服に身を包み、仮面──猫を模したモノ──を被った男に殺されていた。
男は左手にランタン、右手に無骨なレイピアを持っており、道化師めいた服とのアンバランスさが余計に可笑しさを強調している。服の上からでも解るしなやかな筋肉。明確な目的意識をもって形作られた、アスリートめいた筋肉だ。
「こんな森の奥にお若い女性が一人。新手の怪物……ではない。しかし人間でもない……おお、サーヴァントか! こりゃ珍しい! 野良の同族と会えるとは」
レイピアについた血を袖でふき取ると、男は大仰に腕を広げシロに近づいてくる。
「実は私も英霊でしてね! 厳密にいうと『英霊に近しい存在』ですが、これ以上言うと……おっと!」
彼の足元に打ち込まれる銃弾。シロが手元に愛用の銃剣を呼び出し、撃ったのだ。
男は顎を引いてくつくつと笑う。
「中々に熱烈な返答で。まだ私が敵と決まった訳でもないでしょうに」
「アナタ、憑依幻霊でしょ? 前に会った憑依幻霊と魔力の感じが似てるから一目で解った。そっちの実力は身にしみて解ってるから。前回は一応……勝ったとはいえ、油断はしないよ」
「おお、よくご存じで! 一応、憑依幻霊については機密事項なんですが……同胞で漏らしそうなの……暴走して制御を離れた”ハートの女王”、もしくはお喋りなウサギ騎士とみた!」
>>747
「まあ……ウサギ騎士の方だよ」
「なんと!? アレに勝ったと? 召喚されて一年程度の新参で、憑依幻霊として与えられた力への理解もまだ浅かったとはいえ……それを差し引いても割と強い方だったんですがね…………大変な仕事になりそうだ」
最後の部分以外をお道化た声で言い切った男は、手元のレイピアをクルリと回して鞘に収めた。
男が剣を収めたのに応じて、シロも銃の引き金から指を離す。
「ああそうそう、私の名前はチェシャ、チェシャ猫。かの名作文学『不思議の国のアリス』を彩るトリックスターにございますにゃあ。この度は主の命を受け、”願望器モドキ”である『霧払いのランタン』とかいうのを回収しにきた次第でして」
「……私の名前はシロ。目的は大体同じで、シロもそのランタンが必要なんだけど……願望器モドキって何?」
「おや、知らないのですか。じゃあ聞かなかった事にしてください。それはさておき、どうもお互いの目的は競合しているようで。衝突は不可避ということで早速……」
そういって男、もといチェシャはレイピア────ではなく羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「宣誓書にサインを」
「……へ? どういうこと?」
「生前に色々とあり、無秩序な闘争って奴が大嫌いになりまして。人と戦う時は誓約書を書いてもらうようにしてるんですよ。まっ、ポリシーって奴です」
「そ、そう……」
>>748
ペースを崩されたシロは誓約書に目を通す。特段魔力などは感じられない。本当にただの誓約書だ。内容も『どちらが死んでも恨みっこなし』という……至極当たり前のことしか書かれていない。
手の中で羽ペンをしばし弄んだ後、シロはやや躊躇い気味に署名した。
「どうもどうも、こちらの我儘に付き合ってくれてありがとう。じゃあ戦いますかね、ボチボチそろそろ、真剣に」
チェシャは署名のお礼とでも言わんばかりに銀貨を親指で一枚弾いて投げ渡し、二枚目を自身の真上に弾き上げ……遡る雷のような剣筋でソレを刺し貫く。
シロの目をもってしてもレイピアを抜く瞬間は捉えられなかった。
距離にしておおよそ五歩分まで距離を取ると、ランタンを安全な場所におき、チェシャはレイピア片手に頭を下げた。抑揚のついた道化師じみた動作で。
「仮面越しにどうも失礼! 改めて、私の名前はチェシャ。剣に長けた我が身ですが、汚い手も積極的に使います……どうかご容赦を!」
頭を上げ、チェシャが裂帛の気合と共に踏み込んでくる。
初手で繰り出したのはもちろん突き……ではなく真上からの振り下し。手首の向きを固定したまま振る、古い剣術のやり方だ。
シロはそれを横に動いて捌き、愛用の銃剣で返しの突きを────
「……痛ッ!?」
額に走った鈍い衝撃により妨害された。シロの額から血が流れ、彼女の視界を少なからず苛む。突きをとっさに横凪ぎの動きに変更してチェシャをけん制しつつ、シロは安全な距離まで下がった。
────今、何をされた? 銃弾や石礫であれば見て避けられたはず。魔術であれば発動に何かしらの予兆があるはず……憑依幻霊としての能力か。つまり能力は『見えない弾を飛ばす』事…………か?
>>749
袖で血を拭い去り、シロは一瞬の内に思考を終える。そして銃弾を三発打ち放つ。
「アン! ドゥ&トロワ!」
急所に飛んで来ていた一発目だけをハンドガード(レイピアの柄につけられた簡易的な盾)で弾き、二発目と三発目を体に掠らせながら前へ踏み込むチェシャ。
再度レイピアを直上に振り上げ放たれたのは……鋭い袈裟斬り。手首を返すことで剣の軌道を操る、オーソドックスな技術だ。
シロは例の衝撃に警戒しつつ半歩退いて銃剣で攻撃を受け止め、お返しに最小限の動作でチェシャの手首を傷つけ、出血を強いる。続けざまにそのまま────
「まずっ……!?」
背中に走る悪寒。死の気配。
目を見開きながら本能に従って体を後ろに逸らす。シロの首元スレスレに斬撃が走り、産毛を斬っていった。
シロはたまらず大きく後ろに飛んで距離を稼ぐ。
────また、動作が見えなかった。銀貨を貫いた時と同じ。おかしい。多分さっきのは袈裟斬りからの切り上げ、それほど高度な技って訳でも無いのに。もしもこんな時……いや、もしもの話はやめよう。今ある手札で頑張らないと。
歯噛みし、冷や汗を流すシロ。彼女の青い瞳が疲労と焦りでかすかに濁る。
「……!」
本能的な危機察知に従い、シロが銃剣を振って『見えない弾』をガードする。『見えない弾』は妙に硬い感触と共にアッサリ弾かれた。
チェシャとシロ……互いの距離はおよそ十歩分。互いに決定打を失い、戦いの中に小休止が生まれる。
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