>>346
次の日、屋敷の中での事。
『祭りもはや三日目! 今日は一人楽団(ワンマンオーケストラ)ことビープ・B・ビート氏による演奏が……
「ね、ねえシロちゃん。このナイフ数おおいから手入れてつだってくれない?」
「え? ……あ、ナイフの手入れね。勿論良いよ! おけまる!」
窓の外から賑やかな声が聞こえる。屋敷の中では小さな話し声が遠慮気味に反響している。日光を受けてチラチラ光る埃共が、朝の屋敷をフラフラゆらゆら気だるげに舞い落ちている。
今日の屋敷はまるで別世界だ、隔絶されている。それは何故か? 明日の戦い、『楽園』の戦いへの準備をしているからだ。外ではお祭り、中では戦闘準備。隔絶されてしまうのも当然。
双葉もシロも何処か緊張した雰囲気を漂わせている。表情が硬く、瞬きの数がいつもより多い。
「銃火器の手入れ苦手なんですよね私。分解すると毎回パーツが行方不明になるんですよ」
「あー、ちょっと解るかも。あとあれ、ちゃんと組み立てた筈なのにパーツが余る事も良くありますわ」
シロ達と違い平然と雑談を交わすスズとピノ。会話の内容が色々残念な事を除けば、如何にも熟練の戦士と言った感じだ。とは言え、流石に普段よりかは多少口数が少ないが。
「……うう。オイラ役に立てますかね? そもそも生き残れるかどうかの問題が」
「大丈夫ですよ。足さえ止めなければ大抵生き残れます」
「な、なるほど……説得力が凄いっす」
明日の事を考えて胃を痛くするばあちゃる。まあ、これが常識的な反応だろう。しかし『生き残れるか?』よりも『役に立てるか?』の疑問が先に出る辺り、非常識側へ傾き始めてるのは間違いない。
対してエミリーは自然体そのもの。彼女にとって戦いは日常の一部、今更狼狽える訳もなし。
>>351
「マイクテス、マイクテス、あずきちゃん、牛巻ちゃん、聞こえてる?」
『聞こえてるよ〜』『大丈夫ですぅ』
「明日はオペレーター頼むね」
『まっかせてよ! シロピーが惚れるぐらい頑張っちゃうぞ!』
『あずきもそれなり以上には、頑張るとしましょうか』
何事も無く一日が過ぎていく。明日に向けて。
次の日。
「ピーマン、パプリカ。留守をたのんだよ」
「任されたッパ! ……ご武運を、オーナー」
「オイラ達の生業は戦いを魅せるモノ。華の無い二流が何万人攻めてこようと追い返してやるっピ」
屋敷から出るシロ達七人を見送る二人の巨漢。スパークリングチャットの覆面スター、ピーマンとパプリカだ。
覆面に隠れて表情は見えない。だがその声色からは誇りと、押し殺した悔しさを感じる事ができる。留守を守る大役を任された誇りと、『楽園』への戦いに連れて貰えない悔しさだ。
ピーマンとパプリカは強い。だがその強さはリング上でのみ最大限発揮されるモノ、実戦においての強さは他の実力者に数歩及ばない。二人はそれを自覚している。
故に二人はその悔しさを表に出すような”ダサい”真似はしない。各々の思う”カッコイイ”振る舞いで手を振って見送る、闘技場のスターに相応しい振る舞いで。
二人の見送りを背に外へ出れば、そこにあるのは昨日までと打って変わって静かな街並み。三日間も盛大に騒げばそりゃ誰だって精魂尽き果てよう。
>>352
「…………」
屋敷の前に止まっている二台の車、『楽園』からの御迎えだ。
塗装は鏡面仕上げのパールホワイト。角張ったフォルムに角張った正面灯、フロントグリルとホイールカバーにウサギのエンブレム。マフラーなどの突起物は車体下に隠し、品の良いシンプルさを強調。
黒の革張り内装、要所要所に飴色の木材をあしらいアクセントを加えている。シートカバーには虹を模った刺繡。優雅かつ懐古的、誰が見ても高級だと解る。
同乗している二人の運転手は何も話さない、顔すら見せない。早く乗れと言わんばかりの沈黙をたてている。そこらのタクシー運転手の方が100倍愛想良いだろう。高級な車に対して何とも不釣り合いな事だ。
「右の車にピノちゃん、双葉ちゃん、セバスさんとエミリーちゃん。左の車にシロ、すずちゃん、馬で良いかなぁ?」
「わたくしは良いと思います」「それでいいよ」「御意」「お心の召すままに」「ハイ!」「了解っす」
「OK! じゃ、そう言う事で。運転手さん、短い間ですがよろしくお願いお願いします」
「…………」
シロの挨拶にも運転手達は沈黙で返す。余りの愛想の悪さに思わず苦笑が浮かぶ、白いアホ毛が気まずく揺れる。
緊迫した空気感の中、シロ達は車へと乗り込む。
>>353
(エブリカラーファクトリー製ハイエンドモデル『クレセントバニー』。押しも押されぬ最高級品ですわね。
莫大な金を納めた者だけが入る事を許される『楽園』。VIP待遇の相手を運ぶ車としては最適な選択………ですが、色々と雑ですね)
真っ先に車へと乗りこんだピノが内装を見れば、そこに在るのは座席に薄く積もった埃、そして乾いた泥のこびりついたフロアマット。後部座席に飲み物が幾つか置かれているが、その一部に開封された跡がある。隠そうとはしているが、隠蔽の度合いが素人の域を出ていない。
『楽園』にはカカラの大元があるのだから妨害工作は当然。とは言え余りにも露骨かつ稚拙すぎる。
(あちら側も相当焦っているんでしょうね。工作を仕掛ける知恵があるのは警戒に値しますが…………ま、伝える必要はありませんか。お姉ちゃん方も気づいてるっぽいですし)
それと無く周りを見れば、シロを始め幾人かが開封された跡の有る飲み物を見つめているのが解る。下手に言及して事を荒立てるメリットは無い、余計な動きは極力抑えるべきだろう。
ピノがオーロラ色の瞳をスゥと細め、そんな事を考えている内に皆は乗車を済ませる。二台の車は静かに発進する、戦場へ向けて。
凡そ一時間後。『楽園』の入り口に辿り着いた車が停車する。
「あれが……楽園の入り口っすか。想像以上に物々しいですね」
ばあちゃる達の前に聳え立つ二重の壁、見上げても見切れぬ程に高い。過剰な程に重厚な門、厚さ5mの鉄筋コンクリートを鋼鉄で覆ったモノだ。一定間隔で存在する監視塔、小銃を携帯した警備員が常に二人以上在中している。世界中の何処を探してもこれ以上厳重な場所は存在しないだろう。
>>354
グーグルシティ中央区。幾つもの高速道路や公共交通機関が合流する交通の要所であり、大企業のビルが身を寄せ合うように乱立している場所だ。しかし、中央区に存在する『楽園』の入り口周辺だけは何の建物も存在しない。法律によって、許可された者以外は『楽園』の出入り口半径500m以内に侵入してはならないことになっているからだ。
「…………」
二人の運転手が無言のまま車から降り、門の両脇に取り付けられた二つの認証装置にカードを通す。重厚な門が騒々しい音を立てて鈍重に開き始める。
鼓膜がイカレそうな程の地響き、膨大な粉塵が舞い上がる。暫しの間フロントガラスが粉塵で塞がれる。それが終われば『楽園』の中が見え始める。『楽園』の中は、閑静な住宅地だった。
似たような形の住宅が建ち並び、小さな庭には芝生や低木が植わっている。ばあちゃるが特異点に来る前の日常風景とまるで同じだ。
この風景はきっと、怪物によって壊された日常の名残なのだろう。豪華な料理に舌鼓を打ち、高級品に囲まれて生活し、万人を傅かせようと忘れられぬ、強い郷愁の現れなのだろう。ジッと瞼を閉じれば、誰かの笑い声話し声が幻聴となって聞こえて来そうだ。
莫大な金を払い手に入る生活がコレと言うのは、人によっては滑稽だと感じるかもしれない。だが、ばあちゃるはこの生活を求めた人達にむしろ共感せざるを得なかった。無かった事にされた過去を取り戻し、日常を取り戻す為に特異点へ挑むばあちゃるは、その郷愁に痛いほど共感出来てしまう。
「───」
>>355
昨日から収まらなかった緊張がウソの様に消える、いつの間にか戻ってきた運転手達が車を再度進め始める。
車のガラス越しに見える風景に人は居ない、住宅もよく見れば人の気配が無いと解る。カカラの親玉が『楽園』に居るのを考えるに、恐らく殺されてしまったのだろう。
無論100%そうと決まった訳ではない───だが、住民の生存に希望を持つのは難しい。外と隔絶された環境、人や情報の出入りが極めて少ないこの場所でわざわざ大人しくするメリットはほぼ無いのだから。
静かな怒りを込め、拳銃の撃鉄をそっと起こす。吐き出した熱い息がマスクの中に滞留する。戦いの時はすぐそこに。
.liveの全体ライブクッソ楽しみ
細々とした裏設定
『クレセントバニー』
名前の元ネタ:月ノ美兎
見た目の元ネタ:センチュリー(白)
VIP用のクッソ高級な車。後部座席にマッサージ機能とか付いてる。
怪物の被害から運よく生き残ったト〇タ幹部が頑張ってセンチュリーを再現したモノ。
ビープ・B・ビート
元ネタ:ビープ音+ビートボックス
日本人とアメリカ系黒人のハーフ。『一人楽団』の異名を持つ一流のミュージシャン。
体の一部を機械化しており、一人で様々な楽器を同時演奏可能。
音楽の腕もさることながらパフォーマンスも一流。
>>358
ずっと書きたかった所に突入出来るので、書いててかなり楽しいです
ライブマジで楽しみ、統一衣装とかワンチャン無いか期待してしまう
>>356
数十分後。
『…………』
「……おっと」
突如車が二台とも停止する、それも道のど真ん中で。生気のない住宅街の、痛いほどの静寂が辺りに満ちる。本当に静かだ、呼吸音すら響く程に。
風が吹く。辺りの庭に植えられた茂みやら低木やらがザワザワ揺れる。窓やシャッターがガタガタ震える。植物と人工物の合唱、そこに動物の音は無い。
「───アァ」
運転手が静寂を破る、後ろを振り向く。後部座席から初めて見えるその顔は確かにヒトの顔だ───しかし生気が無い。
何と言えば良いのだろうか───強いて言うならまるで良く出来た人形の様な、作り物の様な──そう作り物、紛い物の顔だ。
「─────コロス」
運転手だった怪物共の被っていた人間のガワが剝がれ落ちる。ガワの下より現われしは骸の仮面、ノッペリ黒い影の体。シャドウサーヴァント、例の影だ。
流れるような動作でナイフを取り出し、今まさに襲い掛からんと───
「やっぱそうっすよね」
「そりゃあそうでしょ。それと馬、狙うなら心臓狙わないと。一昨日教えられたでしょ?」
した影を押しとどめる二人の銃弾。ばあちゃるの拳銃弾は影の頭部に、シロの小銃弾は座席を貫通し影の心臓部に、二筋の連射がそれぞれ叩き込まれている。立ち込める硝煙と鉄の匂い、二挺の銃がけたたましく吠える。躊躇も困惑も無し、『運転手に変装した怪物』なんてありがちな策謀はとうに想定済みだ。
「グ……グゥッ!?」
「謀るな! 怪物風情が!!」
一拍遅れて獲物を呼び出したスズの追撃。魔力放出にて加速したバットによる強烈な一撃。圧倒的な一撃は影の肉体を車のフロントガラスごと豪快に吹っ飛ばす。
>>360
「グ、ウゥ…………」
影が倒れ伏す。死んではいないが、動けもしないだろう。怪物にかける情けなぞないが、無理に殺す必要もあるまい。
シロが横の車を見れば…………あちらも似たような感じだ。ピノの槍で心臓を一突きにされている、ああも鮮やかに貫かれては痛みを感じる間も無かったろう。エミリーとセバスは外の警戒、双葉はピノの背後を守っている。
ひと先ず襲撃を凌ぎ、一息『後方から高速の飛来物! 高魔力反応!! 牛巻の探査をかいくぐる高度な隠蔽! 相当な手練れによる物と思われる!』───つこうとした瞬間に牛巻からの報告。
シロの背後に迫りくる飛来物、ソレは捻じれた剣、蒼き光を纏い彗星の如く飛来する剣。なぜ剣なのか、どの様な性質の剣なのか、不明な事だらけ。だが一つ確かな事がある、アレはヤバイ。宝具に準する魔力をアレから感じる。
運転手に化けた怪物、工作された跡の有る飲み物。どちらもブラフだったのだろう、車内に意識を向けさせる為の。そうまでして差し込んだ一撃、しかもその上でシロ一人を狙い撃ちにしてきたのだ。致命的な一撃に決まっている。
「不味ッ!」
『緊急防護術式起動……強度不足ですぅ! 分散型ダメージ転移呪術………推測生存率10%………!』
油断した一瞬を完璧に狙い撃ちする一刺し。牛巻の警告が有った上でなお体が反応しない。そもそも車内だから逃げ場がない。オペレーターのあずきが手を尽くしているが焼け石に水と言った感じだ。
「お守りします!」
だが味方もさる者。いち早く飛来物に気付いたセバスとエミリーが『ボンッ!』
「グッ!? ……クソッ!」
>>361
突如起こる爆発。車内にあった飲み物が爆発したのだ。爆弾を仕掛けられていたのだろう、それ自体は想定の範囲内。威力も大したことは無く、精々ガラスの破片が幾らか刺さる程度。だがタイミングが悪すぎた。爆発によるホンの僅かな動揺が致命的な遅れを招く。
嫌になる程完璧なプラン。エミリーなどは柄にもない悪態を付いてしまう。
「───」
爆風で軌道がズレるのを嫌ってか、シロ達の車にある爆弾は起爆されていない。だがなんのプラス要素にもならない。
研ぎ澄まされた致命的な一刺しが「やらせねえっすよ!」
ソレを防ぐ者がまだいた、ばあちゃるだ。シロの体を咄嗟に押し退け、全身に硬化魔術を発動させて剣を受け止める。
「馬…………ねえ馬!」
「大丈夫」
シロは切実な声でばあちゃるに呼びかける。それに対してばあちゃるは、きっぱりと、清々しい声で『大丈夫』とただ答えた。
案の定、受け止めた腕に剣が突き刺さり、貫通を始める。ばあちゃるの全身に激痛が走る。だが声は上げない、逆に笑顔なんかを浮かべて見せる。隣にいる女の子(シロ)を安心させる為に。
ばあちゃるは多少魔術の才能に恵まれただけの一般人、ただ硬化魔術を発動させただけで受けきれる筈もない。相手が悪すぎるのだ。
理性的に考えればこんな事すべきでない。だが体が勝手に動いてしまったのだからしょうがない。
───それに、己の強みと言えばこの中途半端な硬さくらいしかない。今シロを庇うのが一番効率的に己を活かせるだろう。そんな、後付けの自嘲的な考えでばあちゃるは激痛を誤魔化す。
>>362
「お、うおおおオオオ!!」
だがしかし、剣の威力が予想以上に高い、己の腕を犠牲にすれば流石に止まるだろうと高を括っていたのだが、一切止まる気配が無い。
腕を貫通してそのまま臓器に突入しそうな感じだ。掘削機の如く回転してばあちゃるの肉体を削り進まんとしている。文字通り傷口をかき回されるような痛みだ。集中を乱され、ただでさえ未熟な硬化魔術がどうしようもなくほつれて行く。
「グゥ…………ゥアアア!!」
遂に腕が貫通される。剣が細いため腕の傷自体は大した事無い。だが胴体まで貫通されては、流石にそうも言っていられなくなる。死ぬ覚悟もしておくべきか、いずれにせよ重傷は不可避。
覚悟は決めているが、それでも痛い物は痛いし、死が怖いのは変わらない。どうしようもなく苦痛を浮かべる。
「………へ?」
───だがここで想定外の幸運が起きた。剣の軌道が不自然に逸れて、ばあちゃるの懐に入れておいた蹄鉄に弾かれた。誰のものともつかぬ間の抜けた声が小さく響く。
魔道具屋で購入した蹄鉄の効能『持ち主に幸運を与える』が発動したのだ。
「何故か無事っすよオイラ…………ハハッ」
膝から力が抜ける、変な笑いと脂汗が出る。腕がジクジクと痛む。
「馬…………ありがと」
「どういたしまして」
青い瞳に浮かべた涙を隠し、シロは端的に礼を言う。馬に肩を貸して車内を出る。言いたいことは沢山あるが、それは後で言えば良い。今はするべきことをするだけだ。
愛用の小銃を握りしめて心を切り替え、目の前の問題に対処を始める。
>>363
「すずちゃん宝具お願い、アレで移動する。ピノちゃん、双葉ちゃんの二人は周囲の警戒。
セバスさんとエミリーちゃんは、宝具発動まですずちゃんの護衛をお願い。あずきちゃんは馬の治療。治るまでシロが護衛しとく。牛巻は周囲状況の探査継続ね」
取り敢えず周囲に指示を出す、いつもより低めの声で。周囲を満遍なく見渡す。今の己はリーダー、戦意も勇気も不要、必要なのは冷静さのみ。
不意を突かれた時は醜態を晒した、ここからは名誉挽回といかせて貰おう。
「壮大なる鉄、堅牢なる巨人、雲上より降りて、牛飼いの蔦を伝い、来たれわが友、『人機の絆(タイタンフォール)』」
『召喚要請を受理、出撃します』
スズによる宝具発動。巨大な二足歩行ロボットが空より堕ちる。轟音を立て道路のアスファルトを叩き割り、盛大に舞い上がる粉塵。壮大堅牢なる鉄巨人のお出まし。
青く光るモノアイ、腕部に取り付けられたガトリング砲、近未来的なカッコ良さと機能美が同居した姿。これこそ宝具、ブイデア随一の汎用性を誇るスズの宝具だ。
「…………この剣は、やはりそう言う事なんでしょうかね」
「あの鋭さ、ニセモノって線も無いでしょう」
スズを狙って剣が飛んで来るがセバスの手によって逸らされる。不意さえ突かれなければこんな物だろう。
エミリーと共に意味深なセリフを吐いてるのが少々気になる。
『外なる者よ、祖となる物よ、骨肉へ変じさせ給う、かの者の欠落を埋めさせ賜う』
「…………」
>>364
あずきの魔術治癒。詠唱と共に半固形物質が湧き出し、瞼をプカプカと優しい方に開閉させ、規則的な胎児と共に反老人的骨肉が穴住まい、腰回りのキツイコートが結んだ肉屋とビーバーの友情を以ってクラゲの大鍋が…………ダメだ、マトモに認識出来ない。
気にはなるが怖くて聞けた試しがない。そんな感想をシロ抱く。
そんな事より、と気を取り直して次の指示を考える。
今まで来た道にカカラらしき存在は無かった、ならば進むべきは前方。しかし後方に居るであろう狙撃手も無視できない。
『周囲にカカラの「根」らしき反応が地下より多数出現! 「根」より通常カカラ生産開始!! シャドウサーヴァントの反応多数接近! 30秒後に会敵するよ!!』
動き出す戦況、考えてる時間は無い。今大事なのはスピード、正確性じゃ無い。決断の早さは時間的猶予を産み、時間的猶予は選択肢の幅を広げるのだから。
「すずちゃん、大雑把でいいから剣の飛んできた方向にミサイルお願い。発数は任せる。
皆はすずちゃんの宝具にしがみついて、移動するよ。噴気孔付近は避けるように」
一先ずの指示はこれで────「お待ち下さい」
セバスが割り込む様に発言をしてきた。
「どうか───どうか、私とエミリーめに殿を命じて頂きたく」
突拍子も無い発言。そもそもこんなタイミングでする話では無い。それはセバスも自覚しているのだろう、相当に申し訳なさそうな顔をしている。
…………だが理にかなった提案ではある、宝具に乗る人数が減ればその分機動力は上がるし、例の狙撃手の抑えになるやもしれぬ。
無論、殿を務めさせれば二人に大きな負担をかけることにもなる、最悪死ぬ。リターンは高いがリスクも高い。
>>365
提案を受けるか受けないか、難しい決断───
「解った、お願い。シロ達の為に命賭けて来て」
だが迷いはしない。何がベストかなぞ解らない、しかし迷う時間は無い。きっぱりと即座に決断を下す。
シロの返答を聞いた二人はうやうやしく首を垂れ、楽しげに息を吐く。
セバスは腕より展開した仕込み刃をツウと撫で、噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「ワガママを聞いて下さりありがとうございます。まさか『エミヤさん』に再会出来る日が来ようとは…………本当に信じられない」
「敵としてですけどね。わたくしも血が滾りますわ、頭の血管ブチ切れそうな位に」
エミリーも似たような感じだ。両の手を強く握りしめ、その内に激しい喜びと戦意を凝集している。
待ちきれないモノを待つ興奮。あのもどかしくも愉快な感覚。誰もが一度は経験する喜び。ソレを今、あの二人は滾らせている。
きっと何か喜ぶ理由があるのだろう。わざわざ殿を務めてまでしたいことがあるのだろう。それが何なのかは解らない、解らなくて良い。
人には人の物語が有り、そこに必要もなく踏み込むは無粋。それが長く生きた人の物語ならなおさらだ。
「お願いすずちゃん」
「ええ! 機関始動、全速前進!!」
『エネルギー上昇開始、5秒後に最高速度へ到達予定』
二人を尻目にシロ達は前へと進む、スズの宝具に乗って。猛然とただ一直線に。
>>366
「───さて、仕事をこなすといたしましょうか」
遠くに消えゆくシロ達を見送ったセバス。機械の指をキシキシ鳴らす。
周囲から近付く無数の影にノスタルジーな感傷すら覚える。
「おっと」
影の手から放たれる、弾丸の如き速度のナイフを紙一重で避け続ける。
「懐かしいですわ影共め。今なお薄れぬ怒りと恐怖、恨み辛みってのはどうにも消えぬものですわね」
数十年前は飽きるほど殺した化け物共。もう戦う事は無いと思っていたが、人生解らない物だ。
セバスの前以外では決して見せぬ般若の面を浮かべ、エミリーは真っ先に近づいて来た影の心臓をブチ抜く。愛用のパイルバンカー、ついさっき装着したパイルバンカーで心臓をブチ抜いたのだ。
ああ爽快だ。地獄に叩き込んでやるぞ影共。お前らが生きていたら、殺された家族が穏やかに眠れないじゃないか。
「…………そうだな、消えぬよな」
一足先に敵へ突貫するエミリーを悲しげに見つめるセバス。
影を目前にしてセバスも怒りを感じる。エミヤさんにこれから会える喜びもあるが、それと同時に怒りも感じる。そしてその事実に悲しみすらをも感じる、恨みを忘れられぬ己に対して。
心の傷が治れども、傷を付けられた事実は変えられないのだ。結局のところ。
「殺してやる、セバス」
「私の名前を呼ぶな怪物」
「───カッ!?」
こちらに襲い掛かって来た影。長い腕、髑髏の仮面。昔と何も変わらない。すれ違いざまに首を斬り落とす。
>>367
…………さて、進撃を始めよう。眼前の敵を滅ぼし、十重二十重の陣を切り潰し、この先にいるエミヤさんに会いに行こう。かつて『無尽の英雄』として影に立ち向かったエミヤさんに会いに行こう。
死んだはずのエミヤさんが何故生き返ったのか、なぜ敵対してくるのか、何も解らない。解る事は『この先にエミヤさんが居る』ただそれだけ。
あの時、シロを狙った剣は間違いなくあの人の手によるモノだった。それは間違いない、共に戦ってきたから本物だと解る。
歓喜と怒り、二つの感情と共に戦い始める。
今回ちょっと短めです
ルルンちゃんの犬っぽい口が結構好き
それはそうと、第二特異点の方で出そうと思ってたネクロマンサーのVtuberの方が色々あって出しづらくなっちゃったので
代案のアンケートを取ろうと思います。
1.他の有名なVを代わりに使う(ネクロマンサー設定の人で)
2.作者がオリキャラを生やす
3.キャラ募集
今回は募集キャラがあった場合に限り、基本そちらを採用させて頂きます
おっつおっつ、馬ぁ!格好いいじゃねぇか!アンケだけど個人的にはバーチャルな訳だし1か3かな、バーチャルもキャラも詳しくないから他人任せだけどな!
>>370
カッコイイムーブを自然と出させられるので、馬は書いててかなり楽しいですねぇ
取り敢えず、ネクロマンサー設定のVを色々調べておきます!
>>368
時は少し巻き戻り、シロ達視点。
ゴウと吹く排気口、理知的に光るモノアイ、高速で移動するスズの宝具だ。ソレに皆が掴まっている。
体の側を通り抜ける風が酷く冷たい。人気の無い街並みが余計にそう感じさせる。
影やカカラの姿は何処にも見えない、セバスとエミリーが後ろで押しとどめているのだろう。
『前方500m先に魔力反応、高密度の神秘を観測。魔力の反応より英霊と断定、敵主力と推察されるよ』
「……」
無言の内に皆が身構える。ソゥと目を細める、瞬きをせぬように。聴覚を研ぎ澄ませる、どんな兆候も聞き逃さぬように。
『敵英霊行動を開始! 魔力の急激な上昇を確認! 何か来る!!』
牛巻からの警告。警告が来て間もなく、前方遠くに立ち昇る黒色の光柱。遠近感覚が狂う程大きな光柱。
それは禍々しく、神々しく、そして何より『死』を感じる。アレに触れたら死ぬ、問答無用で死ぬ、灰も残さず死ぬ。そんな事を確信させて来るのだ。
「………なんなんすかアレ」
「横に方向転換してすずちゃん! 今すぐ!」
余りのスケールに思わず惚けるばあちゃる。叫ぶように指示を下すシロ。
そうしている間に光柱が動き始めた、こちらに向かって倒れ始めた。遠目にはゆっくりと、近くから見れば凄まじい速度で。悍ましい程のスケールが産みだす錯覚、現実味に欠ける光景。
>>372
「ハ、ハイ!」
突如現れた巨大な力に一瞬我を失ったスズ。だがシロの声で我に返り、宝具の進路を横に動かす。脇にある路地裏に機体をねじ込む。苔むしたブロック塀や民家の壁を削り爆走する。
飛び散った破片がシロ達の身を打つが、そんな事気にしてはいられない。既に頭上近くへ死の光柱が迫っているのだから。
「全速全速、前進前進!! ヤバいヤバいよ本当にヤバい!!」
『了解、最高速度へ上昇を開始します。急激なGの増加にご注意ください』
乗る人の安全を無視した全速力。無茶な加速で機体が不穏に揺れる。死から全力で逃げる、生きるために。
『ブースター出力低下。原因、放熱機構の不調』
「ちょ、BT君! 今それなるの!?」
『故障遠因、メンテナンス不足』
「そっか! ごめんねBT君…………って、うわああ!!」
ついに光柱が大地へと触れる。
鼓膜を焦がす重低音、破壊の音。黒い極光は触れたモノ全てを焼き潰し───だがシロ達には当たらなかった。
「───当たってたらマジでヤバかったすね」
凄まじい熱量の余波が吹き付け、ばあちゃるの全身が汗ばむ。その汗はきっと熱さによるものだけではない。
後ろを振り返り身を竦ませるばあちゃる。そんな彼にシロはハンカチを渡し、話しかける。
>>373
「とっさにシロを庇う度胸があるのに、こう言う時は普通の反応するんだねぇ」
「いやまあ、アレは度胸じゃどうにもならないっす。殺虫剤を前にした羽虫のような気分でしたよハイ」
「アハハ、例えの生活感凄いねぇ」
顔の汗をぬぐいながら話す内、彼の緊張がほぐれて行く。シロはそれを確認して薄く笑みを浮かべる。
過度な緊張はパフォーマンスの低下を招く。油断は禁物だが、張り詰めてばかりでは身が持たない。
「──────」
蒼い瞳で周囲を見渡し、顎に手を当て、シロは状況の整理を始める。
まずあの光柱について。
威力は凄まじいが発動に時間がかかるようだ。牛巻曰く相手は英霊、宝具による攻撃とみて間違いない。
次にカカラの大元が存在する場所について。
あの凄まじい一撃を放てる英霊、恐らく伝説由来。
カカラの大元が『楔』を所持しており、ソレの力を用いて怪物の生産を行っている、と言うのがピノの考察。
そこから考えるに敵方の英霊への魔力供給も『楔』で行っているのだろう。
魔力供給はマスターと英霊の距離が離れるほど難しくなる。あれ程の宝具だ、必要な魔力も尋常ではあるまい。カカラの大元は英霊の近くにいる可能性が高いだろう。
…………ただ、どうやって英霊を従えたのか不明だし、牛巻の探査に未だ引っかからないのも気になる。油断はできない。
>>374
思考を続けるシロの耳に、ふと会話が入ってくる。
「すずお姉ちゃん、宝具は大丈夫ですか?」
「ん〜、ちょっとヤバいかも。次同じの来たら…………気合で避けるしかないですね。ハハハ」
「もう、笑ってる場合ですかそれ」
「のんきだなぁすずちゃんは」
呆気からんと笑うスズ。呆れ顔のピノに双葉。緊張も油断も見受けられない。
───宝具は不調だが、三人はさほど動揺していない。心さえ折れなければ大抵の窮地はどうになる、良い兆候だ。
「牛巻ちゃん、カカラの大元、若しくは『楔』らしき反応はある?」
『…………ないね。ここまで来て反応が無いとなると、自身に高度な隠蔽を施しているか、もしくは地中深くに潜んでるかのどっちかだと思うよ。
ただ牛巻の見解を述べさせてもらうとね、後者の可能性は低いと思うんだ。地中と言う物理的に手出しされにくい安全圏にいて、こうまで躍起になって妨害する理由はないから』
「なるほどねぇ。近づかれたら困るから妨害を繰り返していると。ありがとう、参考になったよ牛巻ちゃん」
こっちから手出しできる場所にカカラの大元が存在する可能性が高い。スズの宝具は不調、次避けるのは厳しい。士気はいまだ軒昂───打つべき手は決まった。
「──────」
>>375
拳を胸に当て、シロは祈る。瞼を閉じ、思いつく限りの神を脳裏に浮かべる。そして短く、敬虔に、何度も祈る。上手く行きますようにと。
過去を回想する。生活と復興の温かみに満ちたニーコタウン、発展しつつも何処か人間味に満ちたグーグルシティ───そして故郷。どこも命を賭して守るべき場所だ。
祈りと回想を終え瞼を開く。カラカラになった唇を濡らし、小さく息を吸う。
「───すずちゃん。今出せる限りの速度でさっき光が出た場所、敵英霊へ向かって」
幼げな顔を薄く薄く歪めて指示を出す。
敵英霊への突貫、これは賭けだ。敵英霊が対処出来ない程強ければ終わり。正直分が悪い。
だがそれ以外に打てる手がない。カカラの大元が敵英霊近くにいる可能性が高い以上、接近しなければ始まらない。今は高いリスクを背負ってでもリターンを取りに行くべき場面だ。
「……」
僅かな沈黙、シロは上目遣い気味にスズの反応を伺う。
きっと、知恵の回る者ならもっと素晴らしい作戦を立てられるのだろう。だがシロにはこれが精いっぱいだ。
仲間の命を背負う覚悟はある。だがソレに相応しい能力まであるかと言うと…………正直自信がない。確かにシロは英霊だ、能力は高く条件さえ満たせば宝具も最強クラス。だがそれは条件を満たせばの話、安定感はない。
英霊という強者達の内での凡人、それがシロの自己評価。
リーダーを任されているけど、ぶっちゃけ他に適した人がいると思ってる。自分が命を賭ける分には良いが、仲間を巻き込んだ決断をする時は胃が痛む。
シロはそう言う意味でばあちゃるに似ている。心の中に恐れを飼っている所が似ている。
「…………」
>>376
スズの大きな背中はいつもと変わらない。彼女の背中は何も語らない。シロはだんだんと不安に──────『ガコン』、音が鳴る。何事かと思ったシロが周囲を見れば、スズの宝具が方向転換を始めているのが判る。
「もちろんですよ。とっとと近づいてぶっっ飛ばしてやりますよ、私の手で」
不敵に答えるスズ、眼鏡越しに見える若緑色の瞳に宿るは──信頼。
シロさんの命令なら大丈夫、この人になら命を預けられる。そういった信頼だ。
───シロは決して恐れを知らぬ勇者ではない。恐れを知ったうえで決断出来る、賢い勇者だ。だからこそスズも全幅の信頼を置いている。
「行きましょう」
スズは眼鏡をクイと持ち上げ、光の襲ってきた方を見据える。
先程まで静かな街並みだった場所に、破壊の溝が深く横たわっている。
凄まじい熱量によって一部ガラス化したその溝は相当に通り易そうだ…………ここを通るのが良いだろう。
「よっっと…………あ、BT君のパーツ落ちた。まあいいや」
「ちょと、だいじょうぶなの?」
「大丈夫ですよ双葉さん。見た目は機械でも中身は宝具なので、余程ヤバい壊れ方しない限り走りはします」
『推奨、丁寧な走行』
>>377
風をきりシロ達は進む。黒焦げた溝を進む。溝は緩く上へと傾斜を描く、どうやらこの先は丘になっている様だ。家屋は徐々に数を減らし、代わりに木々が増える。
シロ達は進む。遠くに見え始める寺。寺には立派な門があり、その前にポツリと誰かが陣取っている。あれが敵英霊だろう。
進む。点の様に小さかったそれは徐々に大きくなり、人の形を取り始める。
進む。顔が見える、凛とした女性の顔だ。無機質に完成された美しい顔。鎧に包まれた肉体。騎士、あれは女騎士だ。
近付く。騎士が手に持つ剣が見える。どす黒い剣、血管のような赤いラインが走った禍々しい剣。
寺の門前で止まる。目の前の騎士が口を開く。
「私の名前はアルトリア・ペンドラゴン。先程の奇襲は申し訳なかった」
アルトリアはそう言うと、剣を正眼に構える。
「そして重ねてお詫びしよう。私はあなた達を殺さなければならない、悪しき事の為に。申し訳ない」
疲れた覇気のない声、諦めと苦痛に錆びついた声だ。剣を振り上げるそのぎこちない動きは、何かに抗っているかのよう。
だが覇気が無かろうと、ぎこちなかろうと、それでもその華奢な肉体から悍ましい程の威圧感を感じる。
「…………行くぞ」
春休みが終わって大分バタバタしてました、、、、星物語良かった、馬のガチ歌って初めてな気がする
第一特異点はアルトリア&エミヤの原作勢が事実上のラスボスです
遠坂凛さんには第二特異点の方でちょっとだけ重要な立ち位置になる予定です
流石に万全の状態だと勝ち目ないので、操られ&やる気なし&微妙に反抗状態&風王結界なし、のナーフをしました
アルトリアの宝具、エクスカリバーは原作だと『剣を振る→レーザー出る』なのですが、色々な都合で『レーザー出る→剣を振る』に改変しちゃいました、、、、、何の予兆もなくブッパされたらどうあがいても無理ゲーなので
それと、ネクロマンサーの件ですが、fate作品の中でもかなり性格上位に入る獅子GOさんを代役にしようと思います
>>380
見れるのは今日までなので、何度も見て思い出に刻んでおく予定です
fate勢もV勢も互いに格を落とさない決着を考えてあるのでお楽しみください!
>>378
人の手を離れた山寺。古びた寺門は閉じており中は見えない。朽ち果てた石段、参拝道であった頃の名残だろうか。寒々しくも美しい静謐、そんな光景を台無しにする破壊痕、痛々しい巨大な溝。
ソレを作り上げたアルトリアが、剣を振るわんとしている。破壊の為に。
『…………』
「名は聞かぬ。聞く資格が私にないのでな」
アルトリアの魔力が場を満たす。それは赤黒く、それは火のように荒れ狂って、それは──────「長々話して、随分余裕がありますわね」
首を狙った槍がアルトリアに迫る。ピノによるものだ。己の小さい体躯と地形の傾斜を生かし、限界まで身を屈めて接近する事で実現せしめた、真正面からの不意打ち。
「ほぅ」
『………、………』
だが敵もさるもの、鎧の肩で決死の一撃を逸ら「あなたは強い。だけど勝つ!」
スズの豪快なスイングが胴体をぶっ叩く。だが、
「ッ!?」
「事を急いたな。踏み込みが甘い」
アルトリアの鎧が攻撃を弾く。反動でスズの手が痺れる、その凄まじい硬さに。
スズの瞳が驚愕に揺れる。無傷で受け止める硬さ、そして目の前の攻撃を即座に『効かない』と判断するその胆力に。
だが、アルトリアがどれ程強かろうと数の利はシロ達にある。それに突破手段もないわけではない。
>>382
『………』
「カバーお願いします!」
「了解!」
後ろに飛びのいたスズ。間髪入れず差し込まれるピノの連撃。止まることなく舞の如く振るわれる槍、その全てが敵の死に繋がる。優雅苛烈な槍技でもって相手を攻めに転じさせない。
「良い業だ…………!」
対して、堅牢たるアルトリアの剣技、さながら要塞。緩急をつけて縦横無尽に繰り出される槍に最適解を返し続ける。そこに疲労や焦りは一切ない。
ピノの僅かな隙を埋めて来る石礫、スズの投げた礫。当然それも敵を傷つけるに至らない。
(アルトリア・ペンドラゴン。アーサー王伝説の主人公、騎士王でしたっけ。そりゃ強い筈ですよ)
─────スズは思考を回す。
英霊とは過去に名をはせた英雄の写し身、それを使い魔にして使役したものがサーヴァントだ。未来からの英霊である私達など例外はいるものの、それら例外は極小数と言える。
ここで大事なのは、英霊の能力が元になった人物の逸話によって決まる、と言う事だ。そしてそれは弱点にもなり得る。英霊は、己の死因となったモノに対して極めて弱いのだ。
今回敵として立ちはだかって来たアルトリア、彼女はカムランの戦いで生を終えた。その戦いの結末は『裏切者モードレッドと相打ち』と言うもの。
早い話、アルトリアは裏切りに対して弱い。まあ、今は役に立ちそうもない弱点だ。
だが死因だけが弱点になる訳ではない。伝説を紐解けば相手の思考回路、そして有効な騙し方も見えてくるのだから。
アルトリアの性格は騎士そのもの。わざわざ名乗りを上げる程の筋金入りだ。この性格なら、シロさんの作戦もまず決るだろう。
>>383
『………作戦開始』
「了解」
シロから合図が届く。作戦内容は既に伝達されている、密かに。
ブイデア本部と現地を繋ぐ通信機能。アレを応用することでお互いの意志をテレパシーとして伝達出来るのだ。
これはローカル通信の様なもので、少し距離が離れると出来なくなる上、やたらとノイズが入りやすい。
だが相手から会話内容を隠せるのは大きなメリットだ。
「そうらっ!」
「……何だ、その動きは?」
ピノの動きが変わる。今までの槍舞に、足技や柄による殴打が混ざり始めたのだ。アルトリアは眉をひそめて怪訝な困惑を示す。
そこに術理はなく、一分と絶たず討ち取られるだろう─────だがそれで充分。相手を困惑されられれば。
第一段階終了。
「よしっ! 今のうちに門をこじ開ける!!」
アルトリアが困惑したのを見届け、スズは寺門へ走り出す。
「……そうか、気づいていたか」
「ここまで近づけば解りますよそりゃ! 門の先に居るんでしょ? カカラの大元」
───そもそも『カカラの根絶&カカラの大元が所持すると見られる楔の奪取』が目標なのだ、アルトリアの撃破は勝利に必要ない。
シロの考察通り大元はアルトリアの傍に居た。
高度な隠蔽を自身に施し、目の前の山寺に引きこもっている。それを牛巻が先ほど察知した。
大元を潰せばそれで終わり───しかし、それを許す程アルトリアは弱くない。
>>384
「なるほど、良い………グッ!? 怪物め、無駄口すら咎めるか。つくづく余裕がありませんね」
アルトリアは地面を蹴る。大地を割り轟音を立て彼女の体は前方へ飛ぶ。
凄まじい速度、残像すら残さない。これでは、スズが寺門をこじ開ける前に追いついてしまうだろう。
───第二段階終了。
「気持ちいいですねぇ。ここまで決ると。BT君、三人をお願い」
一秒と掛らずスズに肉迫したアルトリア、その背後より鳴り響くは重機械音。
アルトリアが後ろを振り向けば、スズの宝具が誰かを山寺の中に投げ飛ばそうとしてるのが見えた。
(素晴らしい。私に仕掛けてきた二人はオトリ、残りの三人が本命か! ……これなら、これならきっと…………)
振り返りざまの裏拳でスズを弾き飛ばし、全霊の魔力でもって身体能力をブーストし、駆ける。力強く、軽やかに駆ける。薄紅の頬に笑みを浮かべて。
寸毫の後にアルトリアは、投げ飛ばされる直前のシロとばあちゃるに──────「なっ!? 二人しかいない? 残りの1人は─────!」
「事を急きましたね。踏み込みが甘いですよ」
先ほど殴り飛ばしたスズの武器がこちらに飛んできた。
破れかぶれの雑な投擲、とは言え鎧のない所に当たればタダじゃ済まない。飛んで来たソレを剣で弾く。
第三段階完了。
「────ガハッ」
アルトリアの背後より閃く白刃。今の今まで潜伏していた双葉による、首を狙ったナイフの一振り。
飛来物を剣で弾いた一瞬の隙。無数の駆け引きを叩きつけて判断力を飽和させ、作り上げた一瞬の隙。シロ達の作戦は全てこの一瞬の為にあった。
───確かにアルトリアを倒す必要はない、だが放置も出来ない。放置するには余りにも強すぎる。
>>385
「作戦かんりょう」
アルトリアの首より夥しい血が吹き出す。切断にまでは至らなかったが、これ程の出血なら5分と掛らず死に至る。
だが──
「オオオオオァァァ!!!」
アルトリアは止まらない。彼女は英雄、その名高きアーサー王伝説の主人公。首を切られた程度では止まれぬ。
「行くぞ!」
「ちょ、うわあああぁぁぁ!?」
スズの宝具を両断し、シロとばあちゃるを山寺に投げ飛ばし送り込む。
動揺の声を上げ飛んでゆく二人を見送る。
「…………やってくれましたわね」
ピノが忌々しげに呟く。
山寺に突入しようとする動きは全て欺瞞。ハナから、アルトリアの撃破に5人全員を宛てるつもりでいた。
それに気付いたアルトリアは逆にブラフを利用。スズの宝具を壊した上で、シロ達を分断せしめた。
致命傷を受けた彼女はもうじき死ぬ、それは確定事項。そして、そうなれば5人全員がカカラの大元と対峙することになる。ソレを避けるための行動だ。
「………ああ、そうだ。やってやった」
───と、言う風にアルトリアは己を騙した。普通に二人を叩き斬ればソレで済むところを、屁理屈付けて『投げ飛ばす』などと言う非合理的行動をやってのけたのだ。
操られの身たるアルトリアは、常に自身の思う最適解しか取れない。だから自分を騙す必要があった、そしてソレをやってのけた。
>>386
ほんの一時、瞼を閉じて過去を思い返す。
─────あの老醜、『蔵硯』の成れの果てに召喚され、長いこと経つ。
契約で縛られ、門番として長いこと苦役に従事した。
精神はそのままに体を操られる屈辱を受け続けた。
いくら心が拒もうと、体に染み付いた絶人の剣技が侵入者を斬り裂いた。
そうしてまた門番を続けた。
繰り返し繰り返し、終わらぬ苦痛。ソレにやっと反抗をなした。些細な裏切り、きっと誰にも解らぬだろう。だがそれでよい、結果としてアレが死ねばそれでよい。
─────怪物よ、老醜なる怪物よ。お前の元に終りが来たぞ、震えて目せ。
重い体に力を入れ、己を出し抜いた強者達に名乗りを上げる。
「改めて名乗ろう。我が名はアルトリア・ペンドラゴン」
体から血と熱が抜けてゆく。死の気配を感じながら言葉を紡ぐ。
「そしてどうか、卿らの名を教えてはくれまいか」
それは一度アルトリアが拒否した事だ。奇妙な申し出に三人は顔を見合わせ、僅かな逡巡の後に口を開く。
「…………カルロ・ピノ」「北上双葉」「神楽すず」
三人の声は穏やかで、そして厳か──────これは、そうか。死する者への、手向けの声だ。
なんと優しい者達だろう。今すぐにでも仲間を助けに行きたいだろうに、それでも敗者への情けを優先するとは。
だが、それは酷い勘違いだ。決して、冥途の土産に名を聞いたわけでは無い。
「そうか、良い名だ…………我が魂に刻んでおこう」
>>387
手を抜いたまま死ぬ事など出来ぬ。己が理性は『このまま死んで道を開けてやれ』と叫ぶが、そんな事は出来ぬ。我が身に沁みついた騎士の誇りがソレを許さないのだから。
巨人殺し、龍殺し、聖剣の担い手、騎士王、ブリテンの救世主、円卓の主──────数々の勇名、その所以をしばし御覧あれ。
アルトリアは短く息を吐き、己の意志で剣を構えた。肉体と意志が噛みあう感触、久方ぶりのソレに薄く笑みを浮かべる。
「──────ッ!」
ピノ、双葉、スズ、三人の本能が同時に警鐘を鳴らす。
命の刻限は刻一刻と減り行き、膨大であった魔力は今や矮小と化している。だがどうしてだろうか、三人の本能は目の前の半死人を、今までとは比べ物にならぬ強敵として認識している。
「オオアアア!!」
最早言葉は要らない。裂帛の気合いを込めた踏み込みと共に剣を振るう。
「ぬっ、グッ!?」
双葉は両手のナイフで持って応戦するが、完全に押されている。剣速は決して速くない、が何故か対応出来ないのだ。全ての攻撃に対して認識が一拍遅れる。
技の起こり、人はこの瞬間攻撃に意識が集中し、無防備になる。視線、呼吸、重心のブレ、僅かな兆候からその瞬間を読み、狙う。アルトリアはこれを行っていた。
──────北上双葉。チャンスが来るまで一瞬たりとも殺気を漏らさぬその忍耐力、誠に素晴らしい。だが正面戦闘はやや不得手な様だ。
大上段からの唐竹割りを受け止めて体勢が崩れた所に、蹴りを入れる。剣の対処で既に精いっぱいだった双葉はソレをあっさり喰らってしまう。
「シッ!」
割り込む様に突き出されるピノの槍。彼女の動きは鋭く、そして堅実だ。何が有ってもこちらの間合いに入ろうとはせず、槍が得意とする中距離に徹している。
>>388
槍の弱点である遠心力の過大さを動きを止めない事で克服。小柄な体躯と言う弱点に対し、間合いの長い槍を使うことで『的が小さい』と言う長所を強調してのけた。感嘆に値する。
だが──────
「ハァ!」
────筋力が少々足りないのは頂けない。突き出された穂先を叩き落とす。
剣を振るう腕を脱力させ、相手の獲物と接触する瞬間に力を込める。筋肉の収縮によって生まれる、ごく一瞬の加速。その加速を用いて武器を叩き落とす業だ。
力の強い相手には通じないが、そうでなければ良く通る。
「やらせるかぁ!!」
武器を落としたピノを掴んで引き下げ、スズが前に出てくる。
岩すら砕くスズのフルスイング。一撃でも当たれば、今度こそアルトリアを倒せるだろう。
──────彼女も素晴らしい戦士だ。己の強さへの確固たる信頼、それ故全ての攻撃に躊躇いが無い。
「ハガッ!?」
スズの懐に潜り込み、彼女自身の力を用いて投げ飛ばす。放り投げられたスズの体は、石段へと強かに打ち付けられる。
─────躊躇いが無いのは良いが、重心の移動が少々ぎこちない。闘争心が体を追い越してしまっている。これでは簡単に投げ飛ばせてしまう、こうやって。
そのままスズに追撃を入れ「ゴフッ…………」
ようとした瞬間、アルトリアの身体から突如力が抜ける。どす黒い血が口元から溢れだす。
「──────」
4、5歩後ろに下がり、口を抑える。
もう終わりなのか。嗚呼、これではダメだ──────こんな剣ではダメだ。黒く、禍々しい剣。門番を務めた長い年月、その間に多くの罪なき者の血を吸い、堕ちたこの剣では、あの強者達に相応しくない。
嗚呼無念──────「!!」
>>389
突如アルトリアに魔力が供給される。どうやら少しでも長く足止めさせる為、怪物の主様が魔力をくれた様だ──────これは何とも好都合。
戦いへの衝動、騎士の衝動がやおら煌々と燃え上がる。
「ハアアアアア!!!!!」
湧き上がる衝動のままに、己が剣をへし折る。折った剣を全霊の魔力で燃やし、溶かし、整形し、打ち直す。
ソレは己が伝説の再現。折れたカリバーンを打ち直し、聖剣エクスカリバーを作り上げた、伝説の一幕。その再現を今ここで行ったのだ。
「…………これで最後だ」
美しき蒼の柄、研ぎ澄まされた刃、全体にあしらわれた金細工は王権の現れ。これぞ聖剣エクスカリバー。
──────自身の霊基が崩壊を始めた。聖剣をその場で作り出す無茶、それが決め手になったようだ。
己が消えゆく虚脱感の中アルトリアは聖剣を振るい、凛とした声で叫ぶ。
「───束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!─────『エクスカリバー』!!」
聖剣より放たれるはエネルギーの大奔流、星のエーテルそのもの。黄金の光を放つソレは、通過した遍くを破壊しながら三人に迫る。
「受けてやるもんか!」
双葉はスキル『植物操作』でもって宝具の迎撃を試みる。四方八方から生え伸びたツタが奔流を阻み──────すぐさま消し飛んだ。
「うわっ、まじか」
「黒々煌々、千万億万の我が兵よ、我が元に集え、空裂く羽にて軍歌を鳴らせ、節持つ足にて軍靴を刻め『億万蟲軍 大黒津波』」
>>390
続けてピノが宝具を発動する。
何処からともなくハエがアリがシロアリが蟷螂がクモが蜂が蝶が虫が虫が虫が虫が虫が幾万の羽音を刻み重ね、幾億の節足を踏み鳴らして馳せ参ずる。膨大な数の群れ、大地を黒くガサガサと塗りつぶす黒津波。これぞピノが宝具『億万蟲軍 大黒津波』。
──────膨大な数の虫を操る強力な宝具。ピノはこれの使用を好まない。蟲の制御が非常に困難である上、宝具の使用にかなりの代償を必要とするからだ。
だが、この状況で贅沢は言えない。
「行け、わたくしの虫さん達」
膨大な数の虫が黒き濁流となって奔り、黄金の奔流へと身を投じる。奔流を止める為に、ピノの為に。
甲殻が灰へ変じ、六本八本の脚が何本欠けようとその動きは止まらぬ。先頭の虫が死ねば、後続が先頭を踏み越えて先へと進む。
────しかし、徐々にだが、蟲の軍勢が、黄金の奔流に押され始める。相手の出力が高すぎるのだ。
「─────あぁ」
これをどうにか打開できないか、ピノは思考を回し────直後『不可能』と言う結論に至る。手持ちの切り札は吐ききった。避ける余力もない。
嗚呼、ここまで来て相打ちか。口惜しい、悔しいな──────だが、あんなに綺麗な光、黄金色の奔流に飲まれて死ぬなら中々悪くない。
走馬灯が巡る脳内、遅延する体感時間。死を確信したピノは諸手を広げて光を迎え入れ「お願いBT君! 皆を守って!」『了解』
スズの宝具──────大型二足歩行兵器、BTが前に出る。鉄の巨体から火花を散らしながら。
────────────有り得ない。スズの宝具は、アルトリアに両断された筈なのに。動くはずが無いのに。
>>391
「なんで…………」
「魔力供給による修理、宝具が持つ逸話の再現──────色々理屈は付けられますけど、要は気合と友情の賜物ですよ」
スズの言葉を聞いてか、BTのモノアイが頷くように明滅し、その直後光に飲まれる。
『──────』
鉄の巨体は紅く融解し、一部は蒸発した。もう原型は殆ど無い──────だが、守り切った。己が身を崩壊させても守り切った。
『損耗率95%、長期休暇を要請します』
そしてちゃっかり生き残ってもいる。流石機械、コアさえ無事なら他がどうなっても問題は無い様だ。
「…………流石、だ。聖剣の一撃を、凌ぐか」
そして、聖剣を打ち放ったアルトリア。全力を出し切った彼女は消える寸前、いや消える最中だ。
足は既に消滅し、腰から上へと消滅が進行している。後十秒もすれば完全に消えるだろう。
アルトリアは薄れゆく顔に称賛の笑みを浮かべ、擦れた声を張り上げる。
「強き者らよ…………これを、受け取れ。我が聖剣を託そう」
聖剣に付いた血を拭きとり、鞘に納める。崩壊し、拡散し、消えゆく己が魔力を聖剣の中へ注ぎ込む。
>>392
「急造ゆえ、一度振るえば壊れる。賢く使うが良い」
心地の良い風が頬を撫でる。山の木々が豊かに騒めいて、落ち葉が一枚こちらに─────────────────ああ士郎、貴方もそこに居るのですか。私もお供しましょう。
アルトリアが最期に感じたモノ。それはひんやりと優しい若落ち葉の感触、愉快な満足感、そして古い思い人の姿だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まったく……勝った気がしませんわ」
「とちゅうから、物凄くつよかったもんね」
「まあ、聖剣なんか託してくれたぐらいだし、こちらの勝ちって事で良いと思いますよ」
その場でへたり込む三人。シロ達を助けに行きたい気持ちはあるが、流石にもう戦えない。体力も魔力も全部出し切った。
それにピノがまだ、宝具の代償を支払っていない。
「ほら、飲みなさい」
ピノは己に槍を突き刺し、流れ出た血を虫達に与えた。虫は血に群がって我先にと啜り出す。
>>393
───武士が領地を求めるように、騎士が叙勲を求めるように、ピノの虫も献身に見返りを求める。
主従関係とは、主から与えるモノがあって初めて成り立つ関係だ。故にピノは代償の存在に納得している。しかしそれはそれとして、代償が重いのは確かなのでピノは宝具の使用を好まない。
「…………さて、どうしましょうか」
「さすがにもう余力がないかなぁ」
「加勢するにしても、体力と魔力を回復させてから、ですかね」
アルトリアが遺した聖剣を手に持ち、遠い空を眺める。今日の空は薄曇り、あの雲を抜ければきっと、さぞや綺麗な雲海が見える事だろう。
死した人の魂は天へと帰るそうだが、英霊の魂に帰る場所はあるのだろうか──────そんな事を考えている内に瞼は閉じ、深い眠りへと誘われていった。
シロちゃんのメン限良かった、、、、
英雄が死の間際に自分を取り戻す系展開が好き
首切られてからの動きは、宝具周り以外は現実でもある程度再現可能だけど、ある程度の技巧が無いと出来ない動きだったりします
ちなみに、アルトリアが意識そのままなのはカカラ側にあんま余力が無いせいだったり
おっつおっつ、熱い戦いでしたな!(ピノ様の宝具とオベロンの宝具同時にしたらヤバいだろうなとか考えてたのは内緒)最近までやってたイベの水怪クライシスのダゴンの間違った信仰により姿が変えられたって話でVにも通ずるものを感じてた。ようは偏見よね。
>>396
そうですねぇ、、、、、『無辜の怪物』を始め、偏見由来のスキルは碌なもんじゃありませんし
この先、ちょこっと変わり種のストーリーテリングを予定しているので、お楽しみ頂けたら幸いです。
>>394
[急募]蟷螂と蜜蜂の排除方法を考えるスレ
1:スレ主
助けて、目を付けられた
2:名無しさん
>>1
諦めろ
4:名無しさん
無慈悲で草
5:名無しさん
でも実際そう
あいつら割と脳筋だからハメるのは簡単だけど、何やっても生き延びてお礼参りに来るんだもの
燃料満載したトラックで激突されても死なないって最早ギャグだろ
6:スレ主
そんなこと言わずに助けて下され、、、、、
既に幹部が何人も音信不通になってて士気ガタガタなんじゃ
7:名無しさん
草
8:名無しさん
もう終わりだよその組織
9:名無しさん
>>1
そもそもスレ主はどういう役職なん?
それ次第で出来ること大分変わると思うが
10:スレ主
>>8
麻薬事業の部門長
11:名無しさん
普通に上級幹部で麻生える
12:名無しさん
あほくさ
13:名無しさん
最近壊滅気味の組織、、、、『blue-faced』辺りか?
裏ビデオと個人情報売買が主なシノギで、元はハッカー集団だったとこ。
15:スレ主
そうそこ! まあ最近は落ち目なんですけどねww
頭キレる幹部は早々にどっか行っちゃったよ
ちなワイが部門長なのも、上級幹部が消えて繰り上がったからやで
元は麻薬事業の警備責任者や
16:名無しさん
クォレは麻薬部門にまるまる夜逃げされましたね、、、、
スレ主は体の良いスケープゴートかな
>>398
17:名無しさん
もう終わりだよ(二度目)
それはそうと(唐突)スレ主のスペック開示よろ
18:スレ主
>>16
イグザクトリー、正直泣きそう
>>17
ええで、ほい
性別:男
年齢:24
改造済み部位:眼球(弾道補正モジュール)、脚部(強化義足、電磁式)、腕部(仕込みレールガン)
脳(体感時間加速装置)、皮膚(アラミド繊維による防刃強化)
愛用武器:レッドレンズ(装弾数12発、セミオート式ショットガン)
19:名無しさん
元警備担当なだけあってほぼフル改造、殺意が凄E
なお例のジジババ二人には通じん模様
20:名無しさん
残酷な現実を押し付けるのは辞めろ
21:名無しさん
蟷螂(セバス)
性別:男
年齢:60代
改造済み部位:脳を除いた全身、武装は仕込み刃のみだと推察される
愛用武器:上記の仕込み刃
蜜蜂(エミリー)
性別:女
年齢:60代
改造済み部位:(恐らく)無し
愛用武器:パイルバンカー
特記事項:老化による身体能力の低下が見られる
うん(カタログスペックだけ見れば)普通だな!
22:名無しさん
なおry
23:スレ主
取り敢えず、策略or政治的圧力でどうにかする手段が欲しい
24:名無しさん
策略なあ、、、、結局一時しのぎにしかならんのよなぁ
そもそも何で目ぇ付けられたんや? ここ数年は異常に大人しくなっていた筈だが
>>399
25:スレ主
ウチのハッカーチームが先走って『スパークリングチャット』んとこに手出ししたせいや
マジでふざけんな、何が『あそこは大きな計画を企てている、資金の流れがおかしい』だ
26:名無しさん
全力で虎の尾踏みに行ってて笑えない
蟷螂と蜜蜂の飼い主に手だしたらそりゃそうなるよ
27:名無しさん
あそこのオーナーがそもそもヤバい
先代オーナーの急死をきっかけに起こった実権争い
最終的にエルフc4とサンフラワーストリートの一騎打ちになるも結果が付かず
両者の共同所有で話が纏まりかけた所を、横から全部かっさらって行った戦巧者ぞ
28:スレ主
それはそうと(軌道修正)
例のジジババをどうにかする方法は無いんですか?
29:名無しさん
全力で逃げろ
30:名無しさん
前は政治圧力かければどうにかなる事も多かったけど
今は半端に圧力掛けても、スパチャのオーナーが跳ね返しちゃうんよ
31:名無しさん
ぶっちゃけエルフc4みたく腕力と影響力の両輪でゴリ押しするのが最適解まである
出来ない場合? 逃げろ
32:スレ主
OK、夜逃げするわ、、、、ん?
33:名無しさん
どうした?
34:スレ主
なんか外がうるさくせあふじこjp
35:名無しさん
これは手遅れでしたね
殺されはしないだろうし別に良いか
36:名無しさん
大抵は獄中で謎の記憶喪失をする運命なんですけどね(記憶消去技術)
幹部は大事な情報持ってるから特に
37:名無しさん
死ぬよりはマシ
>>400
38:名無しさん
そうか? (社会復帰困難、前科持ち、積み重ねた技能も記憶ごと消し飛ぶ)
44:名無しさん
組織壊滅状態だから案外無事に出所出来そう
47:名無しさん
刑務所によっては賄賂の分割払い受け付けてる所もあるし解らんぞ
月々の分は個人でも払える額だし
48:名無しさん
賄賂の分割払いとかいうパワーワード
刑務所民営化はさすがに駄目だろ(悪人感)
49:名無しさん
つか政府がやってたこと殆ど民営化されてんのよな
裁判所、刑務所、社会保障、、、、もろもろ
政府運営なのって公共警備隊くらいか?
53:名無しさん
あの警備隊も胡散臭いけどな。
賄賂が通らなくなったのはまぁ良いとして、
ここ数年の警備隊員の身辺状況が不明過ぎるのが怪しい。
54:名無しさん
で、でたー 陰謀論唱える奴ー
55:名無しさん
>>53
なにそれ初耳
少し前にデカい不祥事があって、上役が軒並み首切られたのは知ってるけど
56:名無しさん
デマやろどうせ、、、
57:名無しさん
いやさ、その不祥事以降に入隊した奴らの身元がマジで軒並み『不明』なのよ。
元々『楽園』絡みの警備隊員は身元不明だったけど、あそこは特殊な場所だから別に不自然ではない、んだけど
普通の隊員まで身元不明なのはガチで謎。
不祥事の内容も入ってこんし。
58:名無しさん
そもそもなんで警備隊の身元何か調べてんのさ
59:名無しさん
>>58
警備隊にウチの部下が捕えられる→賄賂送っても反応なし→脅しかける為に個人情報掘っても何も見つからない→不審に思って警備隊全員を本格的に調べる
こんな感じ
>>401
60:スレ主
>>57何それ気になる
61:名無しさん
>>60 生きてたんかワレ!
62:名無しさん
やったんか!?
63:名無しさん
!?
68:スレ主
例のジジババじゃなくてただの刺客だった
『お前を組織のボスに仕立てあげてスケープゴートにする』だってさ
ま、余裕で撃退出来たんですけどね。こちとら腕っぷしと運だけで成りあがった身ぞ
心配してくれた人たちはサンクス
71:名無しさん
無事で何より
つうか、その計画は無理あるだろ、、、、馬鹿すぎん?
72:スレ主
有能はとっくに夜逃げしたからしょうがないね
今残ってるのは状況も解らない下っ端と、ワイみたいな踏ん切りの付かない馬鹿だけや
因みにボスもいつの間にか腹心と一緒に蒸発してたらしい。今刺客から聞き出した
マジでいつ消えたか誰も解らんらしいね、やっぱ組織の長務める人は凄いなって(小並感)
73:スレ主
とりま、刺客にそれっぽい記憶植え付けてワイに仕立てあげるわ
記憶操作する器具は刺客が持ってたのでええやろ
後は顔潰しときゃどうにかなる
そんな事より、警備隊の件についてもっと詳しく頼んます
これから夜逃げするんで通信器具は捨てなきゃだし、今のうちに少しでも情勢を知っときたいんや
78:名無しさん
計画パクってて草
>>402
80:名無しさん
サラッと顔潰した上で記憶書き換えてて笑う
幹部になりたきゃそう言う思い切りが必要なんやなって(下っ端並感)
88:>>57
>>1
情報屋だからホントはこう言う事しちゃダメだけど、スレ主の生還記念にぶちまけたる。
調べてみたところ、不祥事以降の警備隊員の大多数は身長とかの身体的特徴が皆同じなんや。
ブーツの厚みとかを変えて誤魔化してるから分かりにくいけど。
それぞれの身長がミリ単位で一致しとるから偶然はあり得ん。
装備越しに見える顔の特徴もほぼ一致しとるから100%クロ。
90:スレ主
うわ、完全にやってるやん
人員をアンドロイド的なナニカに置き換えてんのか
91:名無しさん
やけに情報持ってんなと思ったら本職の人だったのか、、、、納得
95:>>57
>>90
身内でもその説が有力
でもそれらしい工場の稼働記録も無いのよね。人に擬態できるアンドロイドとか、相当大きな工場動かさんと作れん筈なのに。
結局確かな事は解らず終い。
はっきりしてるのは『公共警備隊』に近付くなって事だけ。
それはそうと、スレ主。ワイの元で働かんか?
顔を変える為の裏医者も紹介するで。
100:スレ主
マジで!?
ありがたいわ、、、、でもええんか?
105:>>57
有名所の元警備責任者なら用心棒として大歓迎や。
スペックと近況を聞く感じ本人なのは間違いないし。
メールで住所送っといたからそこで待ち合せな。
107:名無しさん
『スペックと近況を聞く限り』、、、、サラッと個人情報把握してるよ、、、、
1
>>403
109:名無しさん
スレ主の個人情報バレバレで草も生えない
そういや主のいるところ『blue-faced』って個人情報の売買もやってるんだっけか
主の情報も売られてたりして(笑)
111:>>42
組織の別派閥から安価でもらい受けたで。
勿論渡される人数は限定されてたけど。
120:名無しさん
えっ
124:名無しさん
草
126:スレ主
えっ
129:名無しさん
もう終わりだよその組織(n回目)
131:スレ主
ホントにメール来てる、、、、
まあいいや、ありがとうなスレ民達
おまいらのお陰で転職先ゲット出来たは
このスレは三日後に消去されます
レポート課題で忙しいので、今日は閑話休題だけ投稿して、本編は後日投稿します
世界観の補強&伏線の再確認回です、少し変わった形で本編にも絡んでくると思います
裏設定
『Blue-faced』
元ネタ:ミルダムのアイコン(顔のついた蒼いカメラ→顔を付けた蒼い物体→Blue-faced)
個人情報の売買から組織を大きくしたは良いものの、調子に乗って多角経営やって赤字出しまくった残念な組織
一度組織をスリム化してやり直す為に、わざとヤバい所に喧嘩売って組織内部が混乱している内に腹心つれて蒸発した
>>406
一回シャドウサーヴァント達に人間社会ぶっ壊されて、そこから無理くり再建してるので歪みも多いんですよねぇ
メタ的な事言うと、グーグルシティのモデルがサイバーパンク2077のナイトシティだったってのもあります
>>404
時を少々遡り、エミリー&セバス視点。
「ハァ、少し疲れましたな」
セバスは気怠げにため息をつく。周囲にはシャドウサーヴァント、例の影共の死体が転がっている。
8分、それが影の殲滅に掛かった時間だ。一体辺り10秒で片付けたので…………エミリーの分も合わせると凡そ100体は居た計算になる。
──────剣は飛んでこない。無駄打ちはしてくれないか。
必要最低限の労力で敵を刈り取って来たので、肉体的な疲労は少ない。だが精神的な疲労は溜まっている。
命のやり取りはどうしてもストレスが溜まるし、影共を見てると嫌な事を沢山思い出してしまう。
「──────ま、疲れてもいられませんか」
影共の死骸を蹴り飛ばし、遠くに見える人影に瞳を向ける。
遠くを見つめるセバスの瞳、そこには火が宿っている。静かに、穏やかに、確かに燃ゆる熾火が。
「脳ミソ以外機械なんだから疲労もクソもないでしょうに」
「エミリー、機械だって疲労するさ。ほら、金属疲労とかあるだろう?」
「…………それは何度も曲げられた金属に折り目が付いてしまう現象であって、生き物の疲労とは意味が違いますわ」
「そうだったのか……」
返り血を拭い、二人で他愛無い話をしながら古びた道を歩く。その足取りに恐怖は無い。
────────────────────────────────────────────────
何分も歩かない内に大きな武家屋敷へと辿り着く。先ほどの人影がいた場所だ。
瓦の屋根、ふすまで仕切られた縁側、漆喰壁の土蔵。適度に整えられた庭が生活感を醸し出している。
「……」
>>408
──────土蔵の前に人がいる。髪は赤、肌は健康的な日焼け色、両手に持つ黒と白の双剣。薄琥珀の瞳。
アレは、あの姿は、若かりし頃のエミヤさんだ。真っ先に影共の脅威へ立ち上がった人。私たちが剣を取るキッカケとなった人。
エミヤはこちらへ振り返り、ゆっくりと歩を進め出す。
「…………久しぶりだな。20、いや15年ぶりか。まだ一線を引いていないのは少し驚いたぞ」
「ええ、そうです。"竈馬"の葬式以来ですな」
「最近の若者はどうにも軟弱でして。この調子なら寿命が来るまで現役で行けそうですわ」
セバスの胸が感動に打ち震える。色んな言葉がせり上がり、喉元で渋滞を起こす──────間合いに入るまで後五歩。
「最近はどうだ?」
「最近はメイドをしておりますわ」
「メイドか…………メイド?」
「デカい屋敷のメイドになるのが昔からの夢でして」
「……昔世話になった闘技場の後継者騒ぎに巻き込まれて、そこから色々となし崩し的にって感じです」
積もり積もった思い出話、湧き出て止まらぬ近況話。影共と戦って沈殿した泥の様な怒りが捌けてゆく。
自然と口角が上がる。喉元で固まっていた言葉が解れだす─────間合いまで後四歩。
「エミヤさん、貴方はどうなんです?」
「……死んだと思ったら、何故か生き返らせられて、気が付けば怪物の操り人形になったのが現状だな」
「…………」
「そうか、死んだんですねエミヤさん」
「………驚かないんだな」
「えぇ、最近『宝具』とか『スキル』とか魔法みたいな技を使うのが出てきましてね。死者蘇生位じゃ驚けませんよ。というか、貴方も大概だったじゃないですか」
>>409
────後三歩。
鉄の肉体は何の熱も宿さず、しかし心は回春の熱に揺蕩う。この時間がずっと続けば良いのにと思ってしまう。
「20年前に引退してからは殆ど音信不通でしたけど、どうしてたんですの?」
「妻の"桜"と共に宿を営んでいた。妻が体調を崩してそんなに長くは一緒にいれなかったが、それでも『幸せでした』と妻は今際の際に言ってくれたよ」
そう話すエミヤの視線は、背後にある家へと向けられている。辛さ、やるせなさ、嬉しさ、罪悪感、懐かしさ、色んな感情をぐちゃぐちゃに混ぜた視線が。
──後二歩。
「妻が死んでからは暫く寂しかったが、いつの日かに賑やかな居候を拾ってな。仕事も料理も滅茶苦茶だったが、とにかく楽しい奴等だったよ」
「………」
後一歩踏み込めば間合いに入る。丁度そんな距離でエミヤは足を止め、優しく目を細める。
「ミライアカリ、ヨメミ、萌美、エイレーン………そういう名前の女性に出会ったら『ありがとう』と伝えてくれ」
「えぇ、解りました」
「…………必ず、伝えておきますわ」
「………」
沈黙。エミリーとセバス、二人の視線がエミヤと交差する。
暫し続いた交差の後セバスは視線を落とす。ジッと己の腕を見る。
──────家族や友人、大切な人を怪物に奪われて絶望して、そんな中でも戦うエミヤさんにただ憧れた。
そんで死ぬ気で戦い始めて、弱かった俺は何度も死にかけて、戦う度に体は機械になっていって、それでも戦い続けて、気が付いたら英雄なんて呼ばれてた。
正直自分には過ぎた称号だが、それでも周りが”かくあれし”と望むのならそう振る舞おう。その為なら目の前のエミヤすら屠って見せる。
>>410
顔を上げ、セバスは口を開く。
「……エミリー」
「えぇ」
名を呼ばれたエミリー、彼女は短い返事と視線でもって答えを返す。
────エミリーの根源は果てしない"怒り"だ。家族や友人を根こそぎ奪った怪物を絶対に許さない。これ以上怪物に人間を殺させない。
だからエミヤさんであろうと、怪物の味方になったのなら殺す。
過去に体験した事は同じであれど、二人がそこに感じたモノは違う。違うからこそ足りないモノを補い合える。
「──────」
セバスとエミリーは共に武器──腕に仕込んだ刀とパイルバンカー──を構える。
「…………お手合わせ、お願いします」
「ああ、掛かってこい」
間合いに入る。戦いが始まる。流れるように。
「シッ!」
真っ先に攻撃を繰り出したのはセバス。最速最短の軌道で仕込刃を振るう。
だがエミヤとて強者の一人。幅広の双剣を盾の様に用いて刃を──────「ッ!?」
受け止めた瞬間にエミヤの頭部を襲う鉄杭。エミリーのパイルバンカーだ。
「わたくしを忘れないで下さいませ」
エミヤは身を屈めて鉄杭を避け、お返しに足払いを────
「ガハッ……」
しようとした瞬間、セバスの回し蹴りに胴を打たれる。
蹴られた衝撃を後ろに飛んで軽減し、ついでに距離を取「セイッ!」
三歩、大きく踏み込んで距離を詰め、セバスは渾身の一撃を振り下ろす。
>>411
「……!」
身を護るため掲げた双剣は、セバスの鋭く重い斬撃に二本とも両断され、絶死の二撃目が───
「……流石に、そう簡単にはいきませんか」
『新たに投影された双剣』によって往なされた。
────エミヤは魔術師、不思議な力を用いて超常の現象を起こす存在だ。
使用魔術は投影、自身の想像した物を具現化させる魔術。これを用いて様々な剣を『投影』して闘うのがエミヤのバトルスタイル。
エミヤは『剣』の投影を非常に得意としており、剣に限ればほぼ何でも投影出来る(剣以外も投影できなくは無い)。それこそ伝説の中に出てくる武器ですら投影可能。
シロを狙った時、弓矢ではなくわざわざ剣を飛ばしてきたのはこれが理由。弓矢を作るよりも、弓矢の様に飛ばせる剣を作った方が強いのだ。
二撃目を往なされたセバスはすぐさま距離を取り、戦況を仕切り直す。
お互い暫し手を止め、にらみ合い、隙をうかがう。
「まさか、一撃で剣を叩き切られるとはな」
「友の忘れ形見、銘刀『忘時』。岩だって両断出来ますとも」
口を動かしながらも、敵から絶対に目を逸らさない。既に攻防は始まっているが故に。
視線から次の動きを予測し、視線でフェイントを掛ける。ゆっくりと、滑るように動き有利なポジションを奪い合う。
達人同士だからこそ成立する静かな攻防。
靴が大地を擦る音、微かな息遣いの音、刃が空にふれる音。あらゆる音が無に収束し、痛いほどの静寂が耳を鳴らす。
「……!」
光の柱が遠くの空に立ち昇る。アルトリアの宝具によるものだが、二人はそんなこと知る由もない。
エミリーは驚きに目を開『ガキィン!』
>>412
僅かな隙に攻撃を差し込んだエミヤ。エミリーはパイルバンカー本体で斬撃を受け止めるが体勢を崩してしまう。
「──────!」
「───ハァッ」
エミヤはよろめいた彼女に追撃を掛け───避けられた。
わざと体勢を崩された勢いのまま倒れ込み、倒れきる直前で地面に対して斜めに鉄杭を放ち、そして反動で後ろに吹っ飛び、エミリーは攻撃を避け──────
「ウオオォォ!!」
エミヤがすぐさまエミリーを追撃しに行き──────
「やらせん!」
後ろから襲い掛かろうとしたセバスに、投影した剣が投げつけられ────
「ガァッ!!」
獣じみた怒声を上げ、セバスが剣を機械の体で受け止めながら奔り───
「────ッ!?」
体勢を立て直したエミリーが渾身の鉄杭を放ち──
「甘い!」
エミヤが盾を投影して攻撃を受け止め、
「…………むぐッ!?」
受け止められて動きが一瞬止まったエミリーを投げ、背後から迫るセバスにぶつけた。
エミリーとセバスは互いに衝突し、その隙にエミヤは距離を取る。
「ハァッ、ハァッ…………」
──────息が上がる。汗が流れる。今の攻防でかなり気力と体力を消耗した。
ごく当たり前の話ではあるが、戦闘において数の差は大きな要素になる。
今の攻防でどちらか一人落としておきたかったが……想定通りにいかなかった。
こうなってはもう、これ以上消耗する前に短期決戦を仕掛けるべきだろう。
そうエミヤは思考を回す。
>>413
息を整えて額の汗を拭き、エミヤは双剣を構える。
魔力を、己の体内を巡り流れる魔力を隆起し、放出し、整形し────心の中の風景、心象風景を描く。現実と言うキャンパスの上に。
「二人とも、強くなったな」
エミヤは複雑な笑みを浮かべる。
怪物に操られし我が身。怪物の意志に抗おうにも、抗うだけの格を持ち合わせていない。それはそれは情けない事だ。嘆くべき事だ。
──────しかし、後輩達と戦える事に喜びをも感じてしまっている。
自分が現役だった頃より明らかに強い二人。鍛え上げられた業が二人の成長を雄弁に語ってくれる。それがどうしようもなく嬉しいのだ。
「……!! アレはやらせな、ゲフッ……」
「『mode shift OVERLOAD』……内燃機関不調、作動開始まで後10秒だと? クソッ、剣を受けた時に壊れたか」
エミヤが醸し出す異様な気配。魔術に縁亡き者でも解る、濃密な魔力の気配。
──異常を察知したエミリーが動くも、パイルバンカーの反動が体を蝕みその動きを止めた。
大きな力にはそれ相応の代償が伴う、それは当然のことだとエミリーも自覚している。だが余りにも間が悪い。
セバスは歯噛みする。己の武器は仕込み刃唯一つ。唯一つしか武器を持たぬ故に機動力は高いが、奥の手である『mode shift OVERLOAD』無しだと決定力にかける。
かくして、エミヤの切り札は誰にも邪魔されること無く発動を始める。
「──体は剣で出来ている
血潮は鉄で 心は硝子
幾度の戦場を越えて不敗
唯の一度の敗走もなく
唯の一度の勝利もなし
咎人はここに一人。
剣を集いて丘と為し、友と宴て夢を語る
故に、生涯は果てども意味は継がれ
この体は、無限の剣で出来ていた」
>>414
朗々と響き渡る詠唱、一小節謡われるごとに世界は軋みを上げる。それはエミヤ自身の生涯を詠ったモノであり、心象風景を呼び出す呼び水でもある。
唯の武家屋敷であったこの場所が、夕陽に煙る荒野へと変化してゆく。現実など胡蝶の夢だと言わんばかりに、我こそがその胡蝶だと謳わんばかりに。ただ刻々と。
(発動の妨害は無理ですわね。迎え撃つ準備に移行するといたしましょうか)
「ヤクを打ちますか。副作用の事は後で考えましょう」
「……7,6,5,4……」
世界が変わりゆく中、セバスとエミリーは先程までとは打って変わって冷静に準備を整えだす。
エミヤが何をやろうとしているのかは知っている。共に戦い、アレを使うところを何度も見てきたが故に。
アレのヤバさは知っているし、だからこそ急いで止めようとした。だがこうなってはもう止め様がない、備えるしかない。
「アガッ、グウウウゥッ!」
エミリーは自身に薬剤を打ち込む。一切の躊躇なく。
『TAME-Jet』、シャドウサーヴァントに対抗するために開発された薬液。血管に投与することで鎮痛に興奮、思考速度の加速など様々な効能を齎してくれる。
ただし副作用として睡眠障害、五感の一時喪失、体感時間の乱れなどの症状を伴う。また、これらの副作用は下手すれば命にかかわるので使用者は少ない。
普通なら使用など考えもしないが、エミリーは違う。己の力が足りず怪物やその仲間を殺せないのは死ぬより辛い。それ故に必要があれば躊躇なく使う。
───心臓が調子外れな8ビートを刻む。悪酔いに似た不快感が臓腑を捩じる。トビそうになる理性を舌噛む痛みで引き留め、閉塞する気管に喘息めいた呼吸で酸素を送り込む。
「3,2,1……Engine ignition」
>>415
セバスは己の体に内蔵されたエンジンに火を入れる。高圧電流が体内を駆け巡り機械関節に力を満たす。迅速に、強引に、強烈に。
『血は雷へ、肉は鉄へ、変わらぬモノは心のみ』羞恥と闘志を込めセバスは呟く。
若い頃、エミヤの切り札に憧れて考えた詠唱。エミリーからのウケは良かったし、若い頃は良く口にしていた。だがこの年になると流石に少し恥ずかしい。
何の意味もない詠唱、若気の至りの産物。しかしそれでも、いざという時にはつい呟いてしまう。
密かな照れと胴体から伝わる熱に頬を薄く赤める。
この熱がたまり続けばセバスの脳は蒸し焼きとなる、タイムリミットは3分と言った所か。まあ、得られる力に比べれば安い対価だ。
「──────」
二人が準備を整え終わるのとほぼ同時に、世界の変革も終わる。
──────剣の群れが突き立つ赤の荒野。剣の一つ一つに使い込まれた跡、微かな傷や研ぎ直した跡が無数に刻み込まれている。
不毛たる荒野に反して、空は清々しく何処までも蒼い。軽く高らかに鳴り響く槌の音、槌の音が鳴る度に剣は増える。
此処はエミヤの世界。無限の剣を内包する世界。
エミヤの切り札『固有結界 無限の剣製』。心中に眠る風景で現実を書き換える魔術。
「行くぞ英雄達──武技の冴えは十分か」
闘志を込めてエミヤはそう言うと、剣の切っ先をエミリーとセバスに向ける。
「…………ッ! アレが来るぞ!」
「了解」
数10メートル先の二人に向かって、無数の剣が襲い掛かかる。無数の剣の一つ一つが鋼鉄すら両断せしめる業物、一振りでもマトモに喰らえば死ぬ。
この剣の嵐を叩きつけられて死ななかった者は今までいない──────最も、これからもそうだとは限らないが。
「シィィィィ!!」
>>416
上下左右、四方八方、縦横無尽かつ無数に襲い来る剣を、叩き落とし、避け、打ち砕く。
セバスとエミリー、互いが互いの死角を補い、隙を補う。剣で出来た死の嵐は二人の前に撃ち散らされる。
決して一人ではたどり着けぬ、才能だけではたどり着けぬ、無数の共闘を経てのみ辿り着ける連携の極致。
「やるな…………だが甘い!」
「ッ!?」
──────しかし、エミヤの切り札はそれだけで打ち破れるほど甘くはない。
一本の剣が仕込み刀を透過し、慌てて首を捻ったセバスの頬を掠める。
この世界が内包する剣はただの業物ではない、一つ一つが伝説や神話の武器である。当然、それらの剣がただ鋭いだけな筈もない。
他の武器を透過する剣、癒えない傷を刻みつける剣、伸びる剣。一本一本が固有の能力を持っている。
液状の刃がエミリーの腕を撫で、不可視の剣がセバスの脚に傷を刻み──────
「まだまだぁ!」
「死に立ち向かう感覚…………久しいですわねぇ!」
だがそれでも、二人は巧みに致命傷を避けながら進撃を続けている。熱い血を流し、闘志の籠った笑みを浮かべながら。
二人は人生が変わる程エミヤに憧れ、何度も彼と共闘し、その度に戦いへの姿勢や戦い方を学び取って来た。故にエミヤの戦い方は熟知している、ともすれば彼自身よりも。
故にどう攻めて来るかが解る、故に対処できる。
「おおおオオオオッ!!」
彼我の距離、既に8メートルまで縮まれり。
荒野に巻き上がる赤い砂ぼこり、その向こうから二人が迫ってくる。全霊を込めて迫って来る。師を超える為、正しく死なせる為に。
>>417
「…………! やるものだな」
エミヤは無数の剣の一つを用いて壁を作り出し、4,5歩後ろに下がる。
『投影・開始(トレース・オン) 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』
今より投影するはカリバーン。格が高過ぎるが故に『無限の剣製』の中に内包されぬ、最高峰の聖剣が一つ。
──────あの時、あの『聖杯戦争』での力不足、それが齎した大災害。シャドウサーヴァントの発生、カカラの発生、今まで爪痕を残す災害達。
もしもあの時、これを投影出来ていれば。もしアルトリアを失っていなければ。きっとこんな事にはならなかった。
だからこそ、この剣は己が罪の象徴なのだ。『無力』と言う罪の。
「──────」
身の丈に合わぬ奇跡を呼び起こす代償に、おぞましい程の激痛が体を揺らす。
エミヤはそれに耐えるでもなく、抗うでもなく、ただ粛々と受け入れる。
『mode sift BEE SOUND』
怪音鳴らし壁をぶち抜くエミリー。
『mode sift BEE SOUND』、猛烈な勢いで鉄杭を回転させ威力を引き上げる業。
只々只々破壊する事のみに特化した一撃は英霊の宝具にすら匹敵する。
「超えさせて頂きます!」
エミリーの背後より飛び出すセバス。
赤熱した体躯が凄まじい速度で駆ける様はまるで地上の流星。
圧倒的な速さを持ちながらも決して突出することは無く、エミリーとの連携を保ち続けている。
「──────」
「──────」
エミリーとセバスはたがいに目で通じ合い、闘志を滾らせ進撃する。エミヤはただ迎え撃つ。
>>418
──────二人は全方位から襲い掛かる13本の剣を避け──────エミヤの手元に聖剣の柄が生まれ──────
──────炎纏う魔剣をエミリーが粉砕し──────聖剣の柄に刃が生え──────
─────セバスが無数に分裂する針剣を全て弾き──────刃は聖性を帯び始め────
───二人は見上げる程大きな剣に行く手を阻まれ────────────カリバーンの投影は完了し、今まさに振る『────士郎』
「!?」
声が聞こえた。エミヤ、衛宮士郎の名を呼ぶ声が。酷く記憶を揺さぶる声、色褪せた記憶を呼び起こす声。
ああ、あの声は間違いない。俺の力不足で犠牲にしてしまった、アルトリアの声だ。
…………しかし何故彼女の声が聞こえる? 彼女は俺を庇い死に、そして今の俺と同じくあの老醜の手駒へと成り下がった筈では──────いや、そうか。やっと解放されたんだな。
エミヤの手から力が抜け、琥珀の瞳に一粒の涙を浮か『ズン』
「…………カハッ」
隙を見せたエミヤの右腕が斬り飛ばされ、間髪入れず鉄杭が胸を貫通する。
肩に短く残った腕から鮮血が噴き出す。空洞化した胸から心臓が転び出る。エミヤの体から熱と仮初の命が抜け落ちて行く。
エミヤは膝を突き、口を開く。
「俺の、負けか…………いやはや、本当に強くなったな」
「…………」
赤黒く酸化した血が、赤土の荒野へと垂れ堕ちる。心からの賛辞が崩れ行く荒野に響き渡る。訥々と。
セバスとエミリーは武器を納め、祈るように黙している。
「此処は俺の育った家でな、色々と思い出が眠っている。良い思い出も、過去の罪も。
土蔵の中…………そこを調べると良い。役に立つかは解らないが、何かしらは…………得られるだろうな」
>>419
血まみれの体を引き摺り、家の縁側に腰を下ろし空を見る。
───薄曇りの空に星は見えず、雲越しの太陽だけが空を曖昧に照らしている。
「………俺は正義の味方には成れなかった。全てを守る事が出来なかった」
エミヤは独白する。掠れた声で搾り出すように。
きっと彼以外の誰にも解らぬ独白。きっと誰にも消せない後悔。死の間際だからこそ零れ出た弱音。
「……エミヤさん、アンタの過去は知りやせん。何を救えなかったのか、なんの罪が有ったのかなんて解りません。
でも、それでも俺達はアンタに救われたんです。それは確かなんです。だから、そんな寂しい事言わんで下さいよ」
「正義の味方でなくとも、貴方は『英雄』でした。『無尽の英雄』エミヤ、貴方が居なければこの街は無かった。其れだけは覚えて逝って欲しいです」
───しかし解らずとも、消せずとも、寄り添う事は出来る。憧れていた人が穏やかに逝けるよう寄り添う位は。
「………シャドウサーヴァントの発生が、俺の力不足のせいで起きた事だとしてもか?」
「「勿論」」
「……………………………………………そうか」
迷いも躊躇いも無い二人の返答。ソレを聞いたエミヤはホウと溜息を付き、目を閉じる。
─────貴方もそこに居るのですか。私もお供しましょう──────何だ、声が聞こえたと思ったら側に居たのか。そうだな、三途の岸辺まで供を頼む。
>>420
────────────────────────
眠るように死んだエミヤ。その体が薄れ、大気に拡散して行く様を二人はただ見つめている。
──────もっと話していたかった。出来る事ならまた共闘したかった。そんな願いが今になって去来する。
何かを選ぶという事は、それ以外の選択肢を捨てると言う事でもある。『最善の選択』など、捨てた選択肢への未練から目を背ける為の言い訳でしかない。
人生は選択の連続であり、生きるほど未練は積み重なる。しかし生きねば何も得られぬ。
「…………行くとしますか。蔵の中を調べに」
セバスはそう言うと、蔵の方へ歩を進め「頬、水が垂れてますわよ」
後ろのエミリーがハンケチを突き出し、頬を乱暴に拭く。
「……ありがとう」
重くなった足を動かし蔵の前まで辿り着く。
─────錆び切った鉄扉を開ければ、綺麗に整えられた蔵の中が二人の視界に入る。
蔵の物々は分厚い埃の層を身にまとい積み重ねた年月の長さを静かに示す。重く積もった埃に刻まれた足跡。足跡の先を辿って視線を動かせば、自然とあるモノへと視線が集約する。
赤い宝石と一つの箱。赤い宝石が載せられたその箱は、蔵にある物の中で唯一埃を被っていない。
「…………」
箱を開ければ中に入った数冊の日記が見える。手垢の付いた分厚い日記が。
二人は何も言わず外へ出て、日記を開いて読み始める。
シロちゃんの等身大パネル応募した、当たるか楽しみ
それはそうと、今回はサブキャラである二人の掘り下げ回&世界観掘り下げの前振り回でした
一応この特異点にはフワッとしたテーマっぽいのがありまして、それが「過去」です
民衆は辛い過去をなかったことにし
二人は辛い過去に答えを出し
エミヤは過去に今でも後悔しています
それ以外にも過去絡みの話は結構盛り込んで来ました
因みに何故このテーマなのかと言いますと、黒幕が奪ったモノの一つが「過去」だからです
>>423
過去は消えませんからねぇ、良くも悪くも
初期服のグッズ何気に貴重なので、パネルは是非とも欲しい
>>421
『エミヤの日記』
■■■
──歴史に名を残した英雄の写身、英霊。
セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカー、7つのクラスに分けられた7騎の英霊、それを従える7人のマスターが殺し合う儀式。それが聖杯戦争。
敗北した英霊は聖杯の燃料となり、最期に残った英霊とマスターだけが聖杯を手にすることが出来る。
聖杯は膨大なエネルギーをため込んだ願望器。大抵の願いは叶ってしまう。叶ってしまうが為にそれを求めて殺し合う。
英霊同士が戦うところを見てしまった俺は殺されかけ、そして死ぬ間際、俺はセイバーを偶然呼び出し難を逃れた。
凛とした女騎士、凄まじい剣を振るう彼女の姿は正に英雄のソレだった。
英霊を呼び出し、マスターになった俺は聖杯聖杯に参加することになった。
邪な願いを持つ人間の手に聖杯が渡るのは避けたいし、俺にも叶えたい願いがある。
『正義の味方』、皆を守れるような人間になること。俺が親父から受け継いだ夢だ。
………この決心をしたのが昨日の話。聖杯戦争についてのアレコレはセイバーが教えてくれた。
召喚された英霊は聖杯戦争について最低限の知識をインプットされる様になっているらしい。
今が非日常であることを忘れぬよう、日記をつけることをセイバーから勧められたのでやってみる。
>>425
■■月■日
今日はいい日だ。以前から友人であった間桐慎二がマスターになっており、自然な流れで同盟を結ぶ事が出来た。
友人との殺し合いなんてゾッとしない。同盟が結べて良かった。
俺としては邪な人間に聖杯が渡らなければそれでいい、セイバーもそこにはある程度同意してくれている。
……ただ、セイバーが慎二を疑っているのが少し気になる。あいつは良いやつだが、確かに様子が可笑しい。何かに怯えているような、そんな感じだ。
聖杯戦争に参加した理由も頑として語らないし、少し不審だ。一度問い詰めてみるべきだろう。
■■月□日
学校で有名な美少女の遠坂、あいつもマスターだったらしい。
同盟を持ちかけてみたがすげなく断られてしまった。二対一と言う状況が不味かったのだろう。不要な警戒心と反骨心を抱かせてしまった。
一対一の対等な状況ならもう少しスムーズに話が進んでいたかもしれない。
■■月△日
取り敢えず慎二の奴と作戦会議をしてみた。
『金で釣れば行けるだろ』『僕の顔さえあればイチコロさ』と慎二は言うが…………正直無理そうな気がする。
………作戦会議の最中『何かに怯えているようにみえる』と問い詰めたら、あいつは顔を蒼くして考えこんでしまい、それで会議はお流れになった。
■■月〇日
慎二の奴が『少し、考える時間をくれ』と言ってきた、蒼白な顔で。
……今日から、セイバーに剣の手解きをしてもらう事にした。
当然の事だが剣が掠りすらしない。
余りにも強いんで素性が気になり、訓練の合間にクラス名じゃない本当の名前を聞いてみたがはぐらかされた。
ちょっと気になる。
>>426
■■月▽日
今日は間桐桜が家に来た。桜は弓道部の後輩で慎二の妹。一年半くらい前から時々家に来て飯を作ってくれる。
飯を作ってくれるのは非常にありがたいが…………桜も慎二と同じく顔色が悪いように見えるのは気のせいだろうか。
■■月〇■日
慎二から『いずれ話す、ただ今は無理』と書いた紙を無言で渡された。
それはそうと、今日は改めて遠坂との交渉に向かった。相談の結果、取り敢えずシンジが買って来た菓子折りを持っていく事にしたが…………果物ゼリー1箱はちょっと多く無いか? しかもこれ生の奴だから持って2日だろうし。
…………驚くことに交渉は上手く行った。まさか本当に懐柔できるとは。
どうも遠坂はこちらが実力行使に出ると思ってたらしく、出会い頭にゼリーを渡されて毒気が抜けたそうだ。
あと、このゼリーはそこそこ有名な店の奴なんだろうな。物凄い目を輝かせてそう言われた。
遠坂の側に控えてた英霊が苦笑いしていた。
>>427
■■月〇◇日
遠坂、俺、慎二の三人で取り敢えず戦力や目的の確認をした。
解ったことをざっと記録しておく。
・残りの英霊が一体になった段階で聖杯は出現する。
・慎二が呼び出したのはランサー、遠坂はアーチャー
・聖杯戦争においては英霊の素性を隠すのが定石(正体がバレると弱点もバレるからだそうだ)
・遠坂は腕利きの魔術師であり、属性? と言う物を沢山持っているそうだ
・慎二も一応"魔術を扱える"が、あまり得意ではないらしい。
・最悪マスターは倒さなくても、英霊さえ倒してしまえば大丈夫
・令呪と言うモノが有り、これを使うことで三回まで命令を聞かせることが出来る
・他のマスターが全員脱落するまで同盟は継続
・同盟破棄はその日時を宣言してから行う(他のマスターが居なくなった瞬間同盟破棄とかはしない)
・英霊には宝具と言うモノがあるが、消費がデカい上正体がバレやすくなるので可能な限り温存するように
俺が余りにも聖杯戦争の事を知らないせいか、途中から聖杯戦争セオリー講座になっていた気がする。
■■月〇▲日
昨日に続き、今度は三人で魔術の教え合いをした。
…………どうも俺のやっていた魔術鍛錬は一度やればそれで済むであり、二回以上やってもリターンがないと言われた。マジか。
魔術師である育て親に教えられた鍛錬だったんだけどなぁ。
慎二からは虫の使役、遠坂からは魔力の扱い方を教わった。
魔力の扱いは何となく解ったが、虫の使役の方はまるで出来なかった。
虫は極めて自意識が薄く使役が容易であり、魔力のある人間でこれが出来ないのは、何かしら理由があると言って良いレベルだそうだ。
>>428
■■月〇〇日
今日は一日中セイバーと稽古した。こんだけやって掠りもしないと魔術か何かの仕業を疑いたくなる。
セイバー曰く『センスはある』とのことだが…………正直自信がない。
飯の買い出しに行く途中銀髪の少女を見かけた。こちらをジッと見つめていたが、俺に何か付いていたのだろうか?
■■月〇□日
段々と日記を書くのが面倒になって来た。
今日は銀髪の少女に公園でまた会った。見た目から察するに小学生、ただその割に言動が大人びていた。最近の子は皆こうなのだろうか?
『あなたの夢はなに?』と聞かれたので『正義のミカタになること』と答え、
次いで『何故その夢を持ったの』と聞かれたから『それが親父の夢だったから』と答えた。
そしたら何とも言えない顔をした後、『受け継いだ夢だけじゃなく、自分の夢も持つと良いよ』と言ってきた。為になる。
こんな事書く位には何もない一日だった。
■■月〇×日
家に来てくれた桜と慎二が鉢合わせした。
一言二言言葉を交わして別れていたが、その時に紙切れ? の様なモノをそっと交換しているのが見えた。
紙切れについて聞こうとしたら、被せるように『ケチャップがどの会社が一番素晴らしいか』と言う話を振られた。
『値段』派の俺と、『味』派の慎二で1時間ほど討論したが決着は付かなかった。
次来た時には、安いケチャップを使って美味しいオムライスを出してやろう。
…………慎二が帰った後、椅子に手紙が置いてあるのを見つけた。
>>429
[日記のページに手紙が貼り付けられている]
『僕の御爺様、間桐臓硯は数百年もの年月を生きている。アレは間桐家を支配する化け物だ。
ただそれでも、圧倒的な力と狡猾さで長年支配を続けてきたアレとてボケからは逃れられないらしくてね。最近は明らかに言動が不安定で、時折虚空を見つめていたりする。
今回の聖杯戦争で臓硯は”永遠の命と衰えない知能”を願うつもりだ。もしそれが叶ってしまえば、僕も桜も一生をアレの道具で終えることになる。
だから頼む。残りマスターが僕らだけになった瞬間、僕のライダーを後ろから刺してくれ。そうすれば裏切りを悟られる事なく目論見を潰すことが出来る、筈。
アレにとっては今回の聖杯戦争がラストチャンス。今回が上手く行かなければ、後はたった数年待つだけで勝手に破滅する。
あとさ、実は妹の桜もマスターなんだよね。
そっちの英霊は遠坂に任せるつもりなんだけど…………ちょっと心配でさ。
遠坂ってなんか肝心な時に失敗しそうな雰囲気があるとゆーか。ま、いざと言う時はそっちも頼んだよ』
■■月■□日
今日は魔術鍛錬に少し進展があった。
俺に『投影魔術』と言う分野への適性がある事が解ったのだ。
魔力を用いて既存の物を再現する魔術なんだそうな。
やたら難しい癖に、投影で出来上がるのは大概劣化品だから極める人は少ないらしい。
遠坂の英霊が投影魔術を得意としているので、ソイツからある程度教えて貰った。
気障な奴だが教え方は結構親切だった。根は真面目なのかもしれない。
>>430
■■月■〇日
今日は始めて戦いを行った。夜中に突然、黒い巨人に襲われた。
凄まじい巨体、悍ましいまでの腕力、狂ったような唸り声。バーサーカー(狂戦士)のクラスとみてほぼ間違いないだろう。
そしてそれを従えるマスター、それは何時ぞやの幼い少女だった。
バーサーカーは英霊三人掛かりで何とか撃退出来た程に強かった。今回は誰も大した怪我をせずに済んだが…………もし同盟を組めていなかったと思うと、正直ぞっとする。
あの少女は去り際に名を名乗って来た、礼儀正しく超然的に。
「イリヤ フォン アインツベルン」彼女はそう名乗った。
■■月○×日
今日は三人でイリヤの対策会議をした。
出た案や情報をザッと書き留めておく。
・アインツベルン家は御三家の一つであり、聖杯そのものを用意した家
・遠坂凛と間桐慎二も御三家の末裔
・遠坂家が聖杯戦争に適した土地の提供、そして間桐家が聖杯戦争のシステムを構築したらしい
・イリヤの魔力量は異常なレベルであり、アインツベルン家の来歴も合わせて考えると『聖杯から魔力のバックアップを受けている可能性がかなり高い』
・イリヤの従えている英霊は凄まじい実力であり、正面戦闘は避けるべき
・兎にも角にも、イリヤを弱体化させるのが先決
最終的に、空間ごと隔離して聖杯から切り離してみよう、ということになった。
二人だけでは空間を隔離する事は出来ないので、助っ人を呼ぶと慎二が言ってきた。
数時間後、桜が慎二に連れられてやってきた。
遠坂も手紙を受け取っていたのだろう、余り驚いた風は無かった。
>>431
『桜はかなり強力な魔術師でね、御爺様の意向でマスターである事を秘匿してたんだよね。
ただまあ、相手が御三家ともなれば御爺様も切り札を出すのに賛成してくれてね。今日から桜にもマスター仲間として参戦してもらうよ』
……なるほど、計画の為に桜を引っ張り出したのか。
しかし桜は戦えるのか? 正直、戦いに向いた性格とは思えない。彼女は心優しすぎる。
■■月〇♦日
…………桜、物凄い強かった。ぶっちゃけ心根とか意味なくなる位強かった。後、桜と遠坂は実の姉妹とのこと、だから驚かなかったのか。
模擬戦闘をしてみたが、虚数魔術? とか言うので成すすべなく拘束されて無力化された。俺、まだ投影魔術で剣を出す位しか出来ないんだけどな…………
因みに、虚数魔術と言うのは拘束や封印に適した魔術なのだそう。良く解らないけど凄そうだ。
■■月〇♤日
早速作戦を決行する事にした。具体的な作戦はこうだ。
桜が中核となって隔離するための魔術を行使し、遠坂と慎二がその補助をする。俺はその間、英霊達の指揮をして時間を稼ぐ。
…………かなり苦戦したが、何とか勝利できた。
イリヤが聖杯からバックアップを受けている、と言う予想は大当たりだったようで、隔離した時点でかなり弱体化していた。
……それでも尚バーサーカーは強力な英霊であり、セイバーの宝具を使わねば勝てない程であった。
それと、セイバーが宝具『エクスカリバー』を使った事で真名が解った。『アルトリア・ペンドラゴン』アーサー王伝説の主人公だ。
なる程、これならマスターにすら名を隠すのも頷ける。アーサー王伝説は余りにも有名で、情報が多すぎる。
>>432
…………しかしアーサー王がまさか女性だったとは。正直ちょっと驚いてる。
イリヤについては三人で処遇を話し合い『まだ子供だし、士郎の家で監視するだけで良いんじゃね?』と言う事になった。
彼女にその事を伝えたら、しばらく黙りこくった後に提案を飲んでいた……子供扱いされたのが嫌だったのだろうか。
■■月〇♡日
セイバーの調子がおかしい。かなりヤバい感じの寝込み方をしている。
高熱を出した時みたいな寝込み方だ。兎にも角にも桜、遠坂と慎二を呼びに行こう。
…………遠坂曰く『衛宮君のマスター適性が低すぎて、ちゃんと魔力を供給出来ていないのではないか』との事だ。
どうすれば俺でも魔力を供給出来るのか、と聞いたら何故か遠坂は真っ赤な顔をして黙ってしまった。
何事かと思って首をかしげていると、慎二が『男女のまぐわいをすれば良いんだよ』とニヤニヤ顔で耳打ちしてきた…………
おのれ慎二、こうなる事が解ってて遠坂に答えさせたな。気持ちは解るけど。
どうしたモノか。こう言うのは互いの合意がないとダメだと思うが、このままではセイバーを見殺しにする事になってしまう。
イリヤからは『やっちゃえ士郎!』と言われたが、そんな簡単に踏ん切りつかんて。
■■月■□日
昨日、セイバーの看病中に突然意識が飛んだかと思うと、何故か布団に縛り付けられていた。
霞む視界に映ったのは半裸になったセイバーと桜…………何で?
朝になり、気がつけば布団の中にセイバーと桜が居る。昨日までと違って、セイバーは穏やかな寝姿を見せていた。
……いやまあ、100歩譲ってセイバーが来るのはまだ解るけど、何で桜?
>>433
朝ご飯を作りに厨房へ行くと、イリヤがニヤニヤ笑いでこちらに話し掛けてきた。
『やったね士郎!』って……どう反応すれば良いんだこれ。と言うか、イリヤ馴染むの早いな。一昨日家に来たばっかりのはずなんだが。
遠坂と慎二も何故か俺の家にいて、なんとも言えない笑みを投げかけてきた。物凄く気まずい。
取り敢えず今日は他の英霊をどう探し出すかの話し合いをした。
セイバー、アーチャー、ランサー、ライダーの4騎で同盟を組めている以上、残りの2騎を各個撃破すればほぼ確実に勝てる。
正直、『これもう勝てるだろ』と油断する自分がいる。参加者の過半数が味方な状況で負ける気がしない。
……後は、間桐臓碩にさえ気をつければ良い。それは覚えておかないと。
■■月■〇日
キャスターを見つけた。どうやら山寺に潜伏していた様だ。
マスターの姿が見えないのが少々気になるが、まあ良いか。
[数ページに渡って乱雑に塗りつぶされたページが続く]
失敗した。臓硯への裏切りがバレていた。
キャスターを倒したその瞬間、俺たちは突如現れたアサシンに背中を切られ、成すすべなく倒れ伏した。
アサシンを従え姿現す臓硯。
人とは思えぬほどに老いた姿…………いや、既に人ではないのだろう。そんな男が『お前たちの裏切りは知っていた』と言ってきた。
一体何故バレた? まず遠坂、慎二、桜がバラした可能性はまずない。遠坂は接点が無いし、桜と慎二はそもそも裏切りを画策した側だ。
……最初から裏切りを察知されていた。と考えるのが妥当か。
ランサーは殺され、アーチャーも戦えない程の傷を負わされた。戦える英霊はライダーとセイバーだけだ。
>>434
■□月■日
慎二が秘蔵の使い魔を出してきた。慎二自身は戦闘力がない為、遠隔から使い魔を飛ばして攻撃する予定になっている。
血呪蟲、血縁者である臓硯に呪を叩き込む事に特化した使い魔。
虚浮橋、食虫植物を桜の虚数魔術で変異させ、臓硯が好んで使う蟲の使い魔への対処に特化させた使い魔。
いざと言う時の為に体内で密かに育てていた二体、との事だ。
用意に費やせた時間の関係で二体だけだそうだが…………こんだけ対臓硯に特化していれば充分過ぎる。
イリヤ、桜、遠坂、俺は直接対決しに行く。直接会って解った、アレの手に聖杯が渡ったらヤバい。まず間違いなく碌でも無い事を願うだろう。
俺もこの暫くの間にかなりの鍛錬を積んだ。魔術は遠坂と慎二に、剣術はセイバーから散々叩き込まれた。投影魔術だって今じゃそれなりの練度。
干将莫邪と言う白黒の双剣(結構凄い武器)を投影出来るようになったし、扱いだってかなり熟れてきた。
俺だって戦力になれる……と思いたい。
■□月●日
失敗した。失敗した。失敗した。御三家を甘く見ていた。
セイバーとライダーの宝具でもって臓硯とアサシンを消し飛ばし、勝利を確信した次の瞬間。
桜の体から一匹の蟲が飛び出し、宝具の使用で消耗した英霊二人の首を掻っ切って行った。
蟲は首から吹き出す血を啜り、人の形、臓硯の姿を形成する。肉体を再生させる。
『桜に、ワシの魂を入れた蟲を隠しておいたのだ』と嘯く彼の姿には、目も当てられぬ程の狂劣が見て取れた。
焦点定まらぬ不安定な瞳、泡立った唾が漏れ出る唇、枯れ枝の如き足は持ち主を支える事すら出来ずに破断する。そして、そこまで墜ちても尚衰えぬ魔術の腕。
己が魂を虫けらに押し込める苦痛、英霊という身の丈に合わぬ存在を取り込んでの再生。それが彼を狂わせたのだろう。
>>435
臓硯の操る無数の蟲。俺らを押し潰さんと迫りくるソレらを前に俺は賭けに出た。
俺の知る最強の宝具『エクスカリバー』を投影し、放とうとした。
……エクスカリバーを投影し、それを振るおうとした所で俺の記憶は飛んでいる。
目を冷ました時には深夜だった。皆が俺の顔を心配そうに覗き込んでいて、それが頭に酷く焼き付いている。
遠坂が言うには、俺の不完全な投影で産み出されたエクスカリバーは一振りで砕け散り、それでも臓硯の使い魔の内半分を焼き尽くしたらしい。
……ただ結局、それでも臓硯から逃げるのが精一杯だったそうだ。
[潰れて解読不能な文字が数ページに渡り続く]
背中を炙る火、何処からともなく響いて消えるダレカの悲鳴、黒く染まった英霊が跋扈している。ここは地獄だ。
聖杯を手にした臓硯の『永遠に生きる』という願いを叶えるため、聖杯は『臓硯の生存を脅かすかもしれない他生命体の殲滅』を行い始めた。
…………俺が子供の頃経験した大災害にそっくりだ。みんなしんでいくんだ。
そういえば、俺が正義の味方を目指したのって、親父に憧れたからだっけ。
俺をすくってくれたときの、うれしそうな親父に。
誰かを助けないと、そうしないと生き残った意味が無い。
[暫く空白のページが続く]
夜の■を探せ。真っ赤な服着た悪魔を探せ。
手桶の水を零すな。歩む先を強く踏め。
名前を呼ぶな消えてしまう。名前を書くな消されてしまう。
ゆるりと廻した言葉に託せ。剣突き立つその日まで。
>>436
『慎二の日記』
一日目
地獄、地獄がここにある。俺たちは失敗した。
もっと警戒すべきだったのだ、備えるべきだった。
火、見渡す限りの火が僕を睨んでいる。
この地獄は何処までも続き、あの世に繋がっているのだろう。
僕らは負け、バラバラになって壊走した。誰がどこにいて、生きているかもわかりゃしない。
今回の話を書くにあたり、UBWとZEROを再度視聴してきました
やっぱ名作は何度見ても名作やなって
出てくるサーヴァントは炎上汚染都市冬木のモノを想定しております
原作からの主要な差異としては、
『クーフーリンがキャスタークラスで現界しているため、聖杯戦争を目撃した衛宮が自宅まで逃げおおせている』
『上記の関係で、遠坂と衛宮が出会う時期にズレが生じている』
『慎二がある程度魔術を使えるようになっており、その関係で慎二のコンプレックスと桜の処遇が大分マシになっている』
『慎二&遠坂と共闘したことにより戦闘回数が減り、セイバーの消耗するタイミングが大分後ろ倒しになっている』
『桜の処遇がマシになったことで、第四次聖杯戦争に雁夜おじさんが参戦しなくなる』
『バーサーカーのマスターにアイリが就く、原作よりも有利な状況に』
『有利な状況ではあったが、結局原作と同じような結末を迎える』
『マスター二人体制、と言うほぼ理想的な状況でも事を仕損じたため、アインツベルン家の聖杯戦争への意欲が低下』
『イリヤに対する肉体改造が大分軽微なモノになり、改造の代償が成長阻害程度にとどまる』
因みに、臓硯が慎二&桜の裏切りを察知していたのにはちゃんと理由が有ります。
もしあれが無ければ、ホロウアタラクシア見たいな感じになってました
>>440
形式上は掲示板に動画を張ってるだけ&権利元にも広告利益が入る(動画投稿者がちゃんと申告してれば)&営利目的でない、なので
どんなBGMでもある程度自由に使えちゃいます(勿論自重はします)
掲示板だからこそ出来ることは無いか考えた結果この発想に至った次第です
>>437
二日目
外套で顔を隠し、黒く染まった英霊に立ち向かうエミヤを見つけた。
隠れてる桜を見つけた。
イリヤと遠坂はまだ見つかっていない。
昨日と変わらず地獄の様な環境だが、流石に火は消えている。朝方に大雨が降ったお陰だろうか。
とは言え、服が濡れてしまったのは正直辛い。冬場でないしまあいいか。
二人と合流出来たお蔭か、大分心に余裕が出来た気がする。
それと、黒く染まった英霊はオリジナルより大分弱いことが解った……ま、それでもかなりの脅威ではあるが。
現状黒化した英霊は一種類しか確認していない。姿は臓硯の従えていたアサシンに似ている、輪郭だけだけど。
エミヤの家が殆ど無傷だったので、今日からここを拠点にする事にした。
三日目
遠坂と合流した。
どうやら家にある秘蔵の魔術礼装(魔術を補助、増幅する為の器具)を取りに行っていたらしいが、どうも目当てのモノは何処かに持ち去られてしまっていたようだ。
何とも奇妙な話だ。
魔術礼装はどんなものであれかなり値が張る。他人に隠し場所を教える事はないし、盗人の対策だってそれなりに厳重だっただろうに。一体誰がどうやって持ち去ったのやら。
…………イリヤはまだ見つからない。エミヤの奴はふらりと何処かへ行って、夕方に帰ってきた。
全身に刻まれた傷跡を見るに…………まあそういう事なのだろう。何かせずには居られない気持ちは解る。
>>442
四日目
エミヤが朝にまた何処かへ行って、黒化した英霊の首を持って来た。
……いくら弱体化してるとは言え、そう易々と狩れる存在ではない。生半可な攻撃は弾き、ナイフの投てきは薄い鉄板程度なら容易く貫く。戦闘技術だってかなりのモノだ。
今のエミヤは修羅だ。情念があいつに強さを与えている。
イリヤは未だ見つからない。そろそろ生存を信じるのも厳しくなって来た。
付き合い短いし僕的にはどうでもいい人間だけど…………こんな状況じゃそんなのでも生きていて欲しい。
五日目
イリヤが見つかった! 如何やら生存者の集団に匿われていたらしい。学校で僕のクラスの担任をしていた藤村、ソイツが率いてるグループに。
今日は生存者たちと情報交換を行った。解った事をざっとメモしておこう。
1.家の跡から(今のところは)幾らでも食料が見つかるので当面飢えることはない。
2.廃墟を使えば雨風もそこまで問題ない。
3.兎にも角にもあの黒化した英霊共がヤバい。
大体こんな感じだ。
黒化した英霊だが、これからは便宜上シャドウサーヴァントと(若しくは『影』と略称して)呼ぶことにする。
今日は生存記念にささやかなパーティーをした。ステーキや刺身を使ってのパーティー。
電気はもう死んでいるし、ナマ物はしばらくしたら腐って食えなくなるんだ。今の内に喰いきってしまおう。
>>443
六日目
腹が痛い、どうやら昨日喰った刺身が少々傷んでいたらしい。
僕がボーと寝転んでいると、何処かに行こうとするエミヤと、それを引き留める桜を見かけた。
『もう止めて下さい! お願いだから自分を大切にしてください』と桜は言っていたが、そりゃ酷な話だろ。今のあいつは責任感や罪悪感に押しつぶされかけてる、止まれば最後壊れちまう。
まぁ、桜ならあいつを壊さずに止められるかもしれないけど。
桜の奴、こんな状況なのに自分よりエミヤの事を心配している。そんな奴の言葉なら流石にいつか響く…………かもしれない。
七日目
遠坂が出かけて行った。何でも生存者を一ヶ所に纏めて、その周囲に結界を張って保護するんだと。
上手く行くとは思えないが…………ま、結界の構想位はしといてやるか。どうせ暇だし。
牛肉の缶詰を集りに藤村のグループへ会いに行った時、『恐ろしい影の怪物を倒しまくってる奴がいる』と言う噂を聞いた。
アイツ、こんな短期間で噂になる程殺しまくってるのか。
牛肉の缶詰はもらえなかったけど、色んな植物の種と鉢植えをくれた。ついでに栽培方法も教えてくれた。
でも僕野菜嫌いなんだよね。肉の成る種とかないかな。
八日目
今日はエミヤが捕獲して来たシャドウサーヴァントを調査し、幾つか知見を得た。
1.十字架、蹄鉄、銀製品といった魔除けの性質を持つ物体に対してやや弱い。
但し、それら魔除けに武器としての適性が無いことを考えると、アレらへの対抗策としては銃や刃物の方が望ましいだろう。
>>444
2.ぱっと見普通の人間と同じ構造をしているが、それは見かけだけ。雑に配置された内臓は何処にも繋がらず、黒い汚泥が非合理的に絡まった血管の中を流動している。
殆どの内臓は動いていないが、唯一心臓だけは拍動している。何とも歪な事だ。
3.以前作成した血呪蟲。臓硯に対してのみ強い効果を発揮するよう調整したはずの蟲が、何故かシャドウサーヴァントに対しても一定の効果を示した。
最近イリヤがなんか作ってる。まあ一々踏み込む必要は無いか。
九日目
エミヤが不思議な子供たちを連れて来た。
先を潰して尖らせた鉄パイプを持つ、目に恨みの刻まれた女の子。それと二本の包丁を持つ男子、こっちは比較的普通の目つき…………今の状況を考えれば不自然な位だ。どちらも10歳かそこらと言った感じだね。
それと、不健康そうな男も一人いた。こちらは中学生後半くらいだと思う。
エミヤが言うには『シャドウサーヴァントに殺されかけていたところを助けた』のだそうだ。
武器を持ってるのを見るに、『やけくそで影共に立ち向かおうとしたら、返り討ちにあった』て感じだろうな。
子供がアレに勝とうなんて無謀に過ぎる…………いや、そうか。死に場所が欲しかったのか。殺される位ならいっそ立ち向かって死にたいと、そんな感じだろうな。
大体どの生存者からも『大切な人を全員失った』と言う話を聞く。目の前の三人も例外ではないのだろう。
僕たちはそれなりに余裕あるし、暫くここに住まわせることにした。
十日目
昨日の子供たちに何で戦って居たのか聞くと、『あの化け物共に立ち向かう人がいると噂を聞き、居ても立っても居られなかった』のだそうだ。
ただ、よくよく話を聞いてみると子供たち同士でも微妙に温度差があるようで、
>>445
男の子は『怪物をやっつけるヒーローに憧れた』
女の子は『他の人が殺せるなら、自分等でも殺せるかもしれないと思った』
中学生位の子は『無茶する二人を放っておけなかった』
といった感じだ。
絶望に塗れたこの世界でも、前向きな願いを抱けるモンなんだな。
今日はエミヤがそこそこの手傷を負って帰ってきた。
桜が無茶を止めようと説得しているが、あいつは聞く耳を持たない。
何処か遠くを見ているような感じ、多分過去を見つめているのだろう。それしか見えないのだ、きっと。
十一日目
桜が『例の子供たちに自衛の為にも戦う術を教えてみてはどうか』とエミヤに提案していた。
…………我が妹ながら健気な事だ。エミヤの戦いに回す時間を減らそうと言う試みなのだろう。
あいつエミヤにぞっこんだからな。死んでほしく無いんだろう。
だがそれじゃあどうしようもない。
あいつはもう今を見ていない、背後にある過去を悔いながら死に場所を探し彷徨ってる。
夜中にシャドウサーヴァントが襲撃してきた。シャドウサーヴァントが強く歯が立たない、遠坂達は食料集めに行ってて助けたが来る見込みもない。
痛い殺され方は嫌だな。そんな事を考えていたら、シャドウサーヴァントがいきなり頭ぶち抜かれた。エミヤが弓でぶち抜いたらしい。
アイツ元弓道部だから弓結構上手いんだよね。
十二日目
結局エミヤは子供たちに戦う術を教える事にしたようだ。
僕もチョットだけ訓練風景を見学したけど…………素人の僕でも解る、エミヤの剣技は修羅の業だ。
殺される前に殺す、骨を断たせて首を断つ。そんな感じ。
そんな業を編み出してしまったエミヤは勿論、それを嬉々として学ぶ子供たちも正直異常、いや、今の世界じゃこれがスタンダードなのかもな。
影の化け物が徘徊するこの世界じゃ。
>>446
十三日目
遠坂の交渉が実を結んで、幾つかの生存グループ同士が集まって共同居住地を作ることになった。勿論年スパンでの計画だが。
ここ数日シャドウサーヴァントの目撃数が減っていて、相手方もこのタイミングで動くしか無い! と言う感じだったらしい。
もしかしなくてもこれ、エミヤがここら一帯の影共を狩りまくってるお蔭じゃね?
………あいつ一日に何体狩ってるんだ?
二十日目
ここ一週間位忙しくて日記が書けなかった。
間の抜けた日付を見ると嫌な気持ちになるね、収まりが悪くて落ち着かない。
学校からシャドウサーヴァント共を排除し、望む人に拠点として提供することにした。
花壇はそのまま畑に転用出来るし、グラウンドも頑張れば畑に出来なくもない。
最近エミヤがちょっとヤバい。子供達に戦い方を教え始めてから上達速度がメチャ上がってる。
人に教えると自分も成長するってよく聞くけどマジだったんだな、あれ。
そんなエミヤを見て桜が複雑そうな顔をしている。そりゃそうか。
二十一日目
最近人が増え始めてる。なんでもここら辺に『顔を隠した化け物狩りの英雄がいる』との噂があり、それを聞きつけた難民が流れてきてるらしい。
今日は遠坂と一緒に結界の作成をした。取り敢えず今日は設計作業と魔術理論の確認だけする。
見た感じ理論は大丈夫そうだけど、作成するための素材が足りなそう。
ま、素材の調達は手の開いてるイリヤと桜に任せれば良いか。
二十ニ日目
今日も結界の作成をした。遠坂から『最近の慎二は目の死に具合がマシになった』と言われた。失礼な奴め。
でも、最近気分がマシになり始めてるのは確かだ。やることが多いと気が紛れてくれる。
>>447
たまたまエミヤの『狩り』を見かけた。
複数体いた影共の腹を矢が貫き、相手が異常事態を認識する前にエミヤと子供たちが飛び出して命を刈り取る。
アレは戦いではなく狩りだ。それもかなり原始的な奴…………というか、子供たちの実戦投入早くない? ま、今の状況じゃ経験を積まず無力でいる方が危険か。
血呪蟲が結界の素材として使えそうな感じがする。ぶっちゃけアレ『僕の血液と魔力、臓硯への怨念、適当な蟲』を揃えれば簡単に作れるんだよね。
しかしなんで、血呪蟲がシャドウサーヴァントへ効果を発揮するんだろうか? 臓硯を呪殺する為だけに開発した蟲なんだけどね。
シャドウサーヴァントと臓硯が一体化している……………………? いや、それだとシャドウサーヴァントが複数いる事に説明が付かないか。
兎にも角にも生態を理解しないとね。その為にも研究で得た知見を纏めとく、めんどくさいけど
・シャドウサーヴァントから臓硯のモノ以外に奇妙な魔力を検知した
・一つは恐らく悪魔由来のナニカ
・も■一つは■■■■
[何重もの消し跡が刻み込まれたページが一枚、殆どは解読不可]
聖杯 は二 重に 汚 染さ れ てい た 僕 ら の 敗 北は 仕 組 ま れて い たの だ 忘 れる
二十三日目
例の子供たち、その一人から相談を受けた。病弱そうな中学生の奴からだ。
『過去と決別するために新しい名前が欲しい。強くなれるような名前が』とせがまれたそうな。
中学生の感性で考えた名前とか酷い事になりそうだし、僕も名前決めを手伝う事にした。
それと、今日は実験に大きな発展が見られた。
シャドウサーヴァントが臓硯のモノと酷似した魔力を発していることが分かった。臓硯に近い存在だったから血呪蟲が効果を発揮できたのか。なる程ね。
>>448
シャドウサーヴァントは聖杯によって生まれた怪物。臓硯の『不老不死』と言う聖杯への願いをかなえる為に、聖杯が『生存を脅かしうる他生命体の抹殺』を行うために造られた怪物…………こう書くと意味不明だな。なんで不老不死の為に他生命体の抹殺をしようとするんだ? 非効率的過ぎるだろ。
と、まあそれはさておき……………………聖杯から生み出された怪物と臓硯に共通点があるってことは、臓硯と聖杯にかなり密接な関係があるのは間違いない。
下手したら同化してる可能性もある。聖杯と同化するのは不老の手段として無くもない、人格が消えるか変異する事に目を瞑ればだけど。
エミヤに付き添って貰ってフィールドワークをした甲斐があった。
しかしエミヤの奴、やっとマシな顔になって来たね。教え子を持ったお陰だろうか。
遠坂は他グループとの交渉やスケジュール調整に奔走してる。結界の作成はほぼ僕任せ…………何気にアイツ、一度も絶望してないんだよな。
イリヤは資源集めに精を出している、いずれ店を開きたいのだそうだ。年齢相応の願いでなんとも微笑ましい。
桜は…………なんかしてる。何してんのかは良く解らない。
二十四日目
相も変わらずシャドウサーヴァントの出没が絶えない。今日も一体出くわした。今日も何とか逃げ切れた。
ただ、最近は一般人でもちょいちょい武器を持っているのを見かける。そのおかげかは解らないが犠牲者が減ってるように思える。多分。
武器の出どころを聞いたら『中学生位の子供から貰った』のだそうだ。
>>449
昨日頼まれた名づけの発表会もした。
例の子供が持ってきた名前は案の定中二じみていた。
男の子には『蟷螂』。女の子には『蜜蜂』。自分には『竈馬』…………格好いいとは思うけどさ、人名に蟲の名前はちょっと冒険しすぎよそれ。二つ名とかならまだいいと思うけど。
僕の考えてきた名前は『セバス』『エミリー』『ジャック』。どれも海外じゃありきたりな名前で、そしてそれこそが大事なのだ。
今までの生活は崩れ去り、今じゃ非日常が日常に成り代わっている。だがそれでも、非日常はいつか終わる、また日常が来る。僕はそう信じたい。
だからこそ敢えて普通な名前にした。『普通』をまた謳歌できますようにと願いを込めて。
…………ま、結局名前の理由は言えなかったんだけどね。やっぱ気恥ずかしかった。
二十五日目
僕の提案した名前はまあまあ受けが良かったらしい。ジャックの奴がそう話してた…………自分でつけた名前を呼ぶのって違和感凄いな。まあ直に慣れるか。
それと、武器を配ってたのはジャックだったらしい。
『自分には戦う才能が無い、僕が戦っても犬死するだけだ。だから僕は戦える人を増やして現状を打破する』と言っていた。素晴らしい考えじゃないか。
因みに、武器はエミヤに出して貰った剣で鉄パイプやなんやらを切削加工して作ったらしい。俺もそれやろうかな、簡単な実験器具だったら作れそうだし。
割とどうでもいい事だけど、シャドウサーヴァントから抽出した魔力で除草剤が作れることを発見した。ま、存在そのものが有害だしそりゃ草も枯れるか。
二十六日目
狩りに出かけようとしたエミヤを、桜が突如虚数魔術で拘束した、、、、、と思った瞬間、粉塵が巻き起こる。エミヤが足元の砂を強烈に蹴り上げたのだ。
砂をかけられた桜が顔を覆った瞬間、猛然と駆け出すエミヤ。
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