※この注意事項を確認してから読んでね※
・このSS内で行っているゲームは『シークレットゲーム』『キラークイーン』というゲームに登場するゲームを元にしております。
気になった方はswitch版が出ているのでそちらをどうぞ。
・元ネタはデスゲームですがルールや設定を一部変えて【デスゲーム風レクリエーション】みたいな感じにしております。そのためアイドル部の面々が裏切りを行ったりしますが、あくまでゲームだから行っているのであってゲーム以外では普通に仲良くしている設定です。ドカポンで裏切りしているようなもんだと思ってください。
・作者は『キラークイーン』『シークレットゲーム』やそれを元ネタとした創作の影響を当然受けているので似たような展開があっても許してください。個人的には『彼らは最後まで殺しあうようです。』とかがオススメの創作キラークイーンです
・視点がコロコロ変わります。作者はプロじゃないので許して。あとキャラ崩壊も許して。
・不定期更新です。失踪する気は無いので気長にお待ちくださいませ
≪機能拡張ソフトウェア【振動探知機能】を起動しますか?≫
すずが開いたソフトウェアは建物内の振動を探知することができるというソフトウェアだった
高性能なだけあって弱点があり、一つはバッテリー消費がすごく大きいこと、二つ目は走っている振動でギリギリ探知することが出来るくらいで、歩いている者や止まって休んでいる者は探知できないこと。そして最後に近くに別の大きな振動があるとそれにかき消されてしまうということが弱点として挙げられる。
すずはこれを使い、二人がいる場所を判断しようとして……何か別の振動があることに気がついた。
「ん?これは……?」
すずは立ち止まった。
そして少し経ち、
その振動の方へと向かっていった。
Side:花京院ちえり 一人称視点 五階【01:18:36】
ちえりだよ(警戒体制)
ついさっきちえりたちはトラップに巻き込まれてすずちゃんとはぐれてしまった。
そして今は、ちえりはもちちゃんと二人きりですずちゃん側の方に進んでいる。
……そう、もちちゃんとだ。
もちちゃんはりこぴんのダイイングメッセージ的なのによるとりこぴんを殺った犯人。二人きりのタイミングでやったみたいだから、もしちえりを殺すつもりならこの二人きりのタイミングがピッタリ。
そのためちえりは常に自分の視界の中にもちちゃんを置くことで警戒中。
なんだけど……
ただ、あまり警戒する必要は無いかなって思いはじめているんだよねー
「マップ的にたぶんコッチの方向!」
その理由はもちちゃんの声には明らかに焦りが見えているからだ。
この焦りはすずちゃんと離れたときからずっとだ。こんなに焦っているということはつまりすずちゃんと分断されてしまったシャッターはもちちゃんも意図していないことということ。
たぶん何か計画があったんだろうけれど狂いが生じているのかな?たぶん急いでいるからちえりなんて構っている暇なんて無いのだろうっていうくらい無防備で逆にちえりが襲えそうなくらいだもん。
「たぶんこの辺だけれど……」
もちちゃんの動きが止まる。
もちちゃんはマップで予測を立てているだけって言っているけれど、ここまで早く走ってきて一度も迷ってないのを見るに明らかに探知系のソフトウェアを持っているのは間違いない。
普通はこんな簡単にボロを出すわけないから演技じゃなく本当に焦っているんだろう。
わざわざ自分がソフトウェアを隠し持っていることを遠回しにちえりに教えるメリットも思いつかないし。
となると気になるのはなんですずちゃんと別れてこんなに焦っているのかっていうことだけど……
……わからんちゃー
「あっ!いた!」
曲がり角を先に曲がっていたもちちゃんの声でちえりは急いで曲がり角に行く。
廊下の先には確かにすずちゃんが居た。
すずちゃんはどうやらT路路の縦と横が交わる方にちょうどいるみたいでこちらの方じゃなくて横を向いている。
……ん???
「あ、あれー?もちちゃん。ちえりの見間違えかなぁ?すずちゃんがロケットランチャー構えているように見えるんだけどー」
「あーやっぱりこれあたしの幻覚じゃ無かったんだ」
すずちゃんのロケットランチャーを構えている方向はこっちじゃないから直接殺される心配は無い。
けれど問題はそこじゃない。
「ヤバくね?」
「ヤバい」
ちえり達は即座にさっきまでいた廊下に駆け込む。
こんな狭い場所でロケットランチャーなんて使ったらどうなるか。
……ここが電脳世界なの加味しても絶対まずいよ!!!
「ぜったい気分とかノリで後先考えずに使ってるだろ!アレ!」
「ちぇりたん気持ちは分かるし、同じこと言いたいけれどチューニング!!」
「ハッ!んっんんー。やっほやっほちえりだよ」
そうちえりが声を元に戻した瞬間だった。
ドカァン!!
すずちゃんの方で爆発音のようなものが聞こえた。少し遅い気がするけれど慌てて耳をおさえる。
ちえりの脳内ではロケットランチャーの弾によって吹き飛んだ可哀想な誰かと、反動で吹き飛ばされながら延焼するすずちゃんのシーンが幻視した。
「うっわーこれはひどい」
発射後少しだけ待ってちえり達はすずちゃんの方に行った。
壁は少し抉れ、床は焦げている。
すずちゃんがロケットランチャーを向けた方向を見ても誰もいない。
まぁ居たとしたら吹き飛ばされて何も残ってない気もするけれど。
そして反対側に目を向けると……
「すずちん大丈夫!?」
返事はない。服が少しこげ、太ももは擦り傷だらけ、ロケットランチャーの反動をくらったのか、完全に気絶したすずちゃんがいた。
「……普通反動を殺す為に後ろ側からも大量に水とか飛ぶよね?」
「水は飛び散ってるけど中途半端に飛び散ってるから……たぶん途中で壊れて衝撃が吸収しきれなかったんじゃない?」
「それで何で生きているんだ……信じられん。そもそも普通こんな狭い所で撃ったら撃った本人も焼け焦げちゃうのではー?」
「たぶんこのゲーム用に威力を下げたやつなんだろうねー。そうじゃなかったら今頃ここは六階にも四階にも行ける直通ルート開通しているだろうし」
「とりあえずすずちゃんは放置してアッチ見てみない?もしかしたらロケットランチャーから逃げ延びた人がいるかもしれないし」
ちえりが指差したのはちえり達がやってきたT字路の更に奥にあるT字路だ。
それ以外にロケットランチャーの射程から逃げられる場所は目視できる範囲では存在しない。
逃げ延びた人がいるならここしかない。
ちえり達はこっそりと近づき同時に曲がり角を覗いた。
そこには
「余波で殺られたのかな?とりあえずすずちゃんロケットランチャーは禁止にしよう」
少しこげたごんごんの衣装と、かなりパーツがバラバラになったマネキンが周りにパーツや持ち物をばらまいて倒れていた。
【金剛いろは】 脱落
ちえり達は一旦戻ってすずちゃんを起こすことにした。
勿論ロケットランチャーをこれ以上使われないように押収をしてからだ。たぶん一発限定だと思うけどよくわからないし一応ね?
「ぺちぺち、起きてー」
PDAを拾う前に起こすのはすずちゃんの解除条件的に目の前で拾った方が良いだろうっていう理由だ。すずちゃんが見てないところで回収して怪しまれたらめんどくさい。
まぁそこまで重要なことでも無いからすぐ起きなかったら諦めて回収に向かうつもりだけれど……
「ハッおはようございます」
「にゃっほーすずちん。ロケランぶっぱなして気絶した後の目覚めはどう?」
「全身をぶったのか痛いです。……私には身に余る代物でした」
「そもそもJKこんなの普通扱わないから」
すずちゃんに状況を説明して、すずちゃんにもどうして撃ったのかを説明してもらった私達はバラバラにばらまかれたいろはちゃんの物を集めることにした。
すずちゃんの説明曰くあっちが先に銃を撃ってきたからだって言っているけれど……嘘だろうな。
ロケラン構えている間に銃で何発も撃たれてしまうだろうし、銃の射程範囲外から先制攻撃したか、私達がやってきた方の通路でロケラン撃つ準備をして、不意打ちぎみに飛び出して撃ったかのどちらかだろう。
狙いは賞金かPDAか……あるいは両方かな?
すずちゃんは全身打撲でまだ痛いらしいのでちえりともちちゃんが拾うことになった。
勝手にどちらかが取らないように何が何個落ちているかを数えてからだ。
落ちていたのはPDAと拳銃、いろはちゃんのマネキンが着ている防弾チョッキ的なのだけだった。
そして落ちていたPDAの数はなんと3つ。
これでジョーカーが混ざっていなければすずちゃんは解除条件を達成できる。
ちえりは銃と防弾チョッキを拾うことになった。
防弾チョッキを取ろうとしていろはちゃんの服を見てたらあることに気がついた。
いろはちゃんの服には銃で撃たれた穴が何発もあったからもしかしたら元々誰かと交戦して弱っていたのかもしれない。
「はいPDA」
ちえりが拾っている間にもちちゃんがPDAを3つ拾ってきてすずちゃんに手渡した。ちえりが拾った銃と防弾チョッキはとりあえず放置かな。まずは解除条件のチェックだ。
「じゃあ解除条件見ますね」
解除条件はワンタップで見ることが可能。さて何が出るかな
「まずは3」
3っていうことは三人殺すのが条件のやつか。いろはちゃん自身が3の可能性も3に襲われて撃退して手に入れた可能性もあるね。
「次は5」
5はチェックポイント巡り。自分から殺しに行くような解除条件じゃないね
「そして最後は……えっ?」
すずちゃんが息を飲んだ。ちえりともちちゃんもPDAの中身を見る。
最後のPDAの解除条件は……8
そう、すずちゃんの持つ解除条件と同じものだった。
本日の更新はこれで終了です。
遅くなって申し訳ありません。
すずちゃんのまさかの行動でやられてしまったいろはちゃんですが、実はちえりちゃんの考察通り、あずきちの銃で撃たれてわりと満身創痍でした。一番大事な急所こそ何とか防ぐことが出来ていましたが他にも色んなところを撃たれています。それでも逃げ延びて、五階までチェックポイントを埋めることができたのは凄いでしょうね。
さて次回まさかのジョーカーを発見し、4つのPDAを獲得したすずさんがどう行動するのか注目です
乙
牛巻のメモでエレベーター知っただろうこととイオリン脱落にメリットのあるちえりちゃんが若干怪しく思ってるけど六階にエレベーターがあったのがなあ
お久しぶりです
大変遅くなって申し訳ありません。1です
失踪したわけではないよという報告のために参りました。
更新ができていない理由は単純にとても忙しかったというのが一つ、もう一つは致命的に近い矛盾を発見して辻褄合わせに四苦八苦していたというのが一つです。
ようやくまとまった時間が見つかって辻褄合わせの方法も思いついたので来週の火曜日ぐらいに更新しよううと考えています
以上おしらせでした
お疲れ様です
実は自分はこのSSきっかけに(先月セールがあったのもあって)原作switch版の購入もしたので再開がとても楽しみです
今更になりますが原作には無い仕様や、原作とは異なるルールの解釈(特にジョーカー周り)がありますのでご了承ください。
矛盾点についてなのですが、色々考えた末におとなしく矛盾を作ってしまった原因である描写を削ることにしました。
変更点は>>235>>236の残り生存者数表示のソフトウェアをすずちゃんに見せているところです。
ここの描写を消して【すずちえりりこはもちが残り生存者数表示のソフトウェアを持っていることを知らない】ことにします。
後から設定変更して本当に申し訳ありません。
それと読み直しをしているときに気づいたのですが>>367のロケットランチャーの台詞の前にロケットランチャーを拾った描写が入るはずなのですが抜けていたみたいです。
そのせいで唐突に校則とロケットランチャーの話をし始めるワケわからない文になっていてすいません。
長々と書き連ねましたがついに六章が終わります。のでもう少しだけお付き合いいただければ幸いです
前回のあらすじを三行で
・すずのロケランにいろは散る
・もちえりがすずと合流
・いろはが持っていたPDAは何とすずと同じ8
Side:神楽すず 三人称視点 五階【01:18:46】
「えっ8?……あっ!それジョーカーだ!私のPDAはここにありますし!」
すずは8と表示されたPDAを見て驚いたように言った。
8と表示されているPDAが2つあるということは片方は確実にジョーカーであることは間違いない。
だが、すず本人以外にはどちらがジョーカーかは判別がつかないのだ。
そのため、もちとちえりはすずに対して少し疑いの目を向けていた。
すずの8がジョーカーだったとしたらすずの解除条件は別の何かということになる。
わざわざジョーカーで隠す解除条件なんてほぼ確実に他人に危害を加える系だろう。
だとしたらすずはいつか自分達に凶器を向けるかもしれないのだ。
だから二人が疑うそぶりをみせるのも仕方がないといえるだろう。
……実情はともかくとして。
「……ねぇさぁ、すずちゃんが持ってるPDAって本当に8なの?」
短い沈黙のあと、ちえりがおそるおそるといった様子ですずに切り込んだ。
「そんなわけ無いじゃないですか。ちえりさんは私を疑っているってことですか?」
それに対し、すずは自分が疑われているのだと気づいたのか少し目を鋭くして返答した。
それに対してちえりは顔色を変えずに言い返す。
「いや、そんなことはないよー?ただもしすずちゃんが気絶している間に、誰かが入れ替えとかしていたらまずいんじゃないかなーって思っただけだよー」
「それに関しては確かに否定はできません。でも中に入っているメモとかで見分けをつけられるんじゃないですか?」
すずはちえりの意見に納得したらしく、自分の持っていた8のPDAを操作しはじめた。
ちえりもいろはの8のPDAを操作してメモの項を開く。
「ほら、ちえりさん見てくださいよこれ」
すずのメモの中にはルールの写しや色々な情報が書かれていた。
一方、ちえりが持つ8のメモの中には一切ルールの写しは書かれていないどころかメモ自体一個も作られていないか全て消されているようだった。
「じゃあちえりの勘違いかー」
ちえりはそれを確認して満足したのかおとなしく引き下がることにしたようだ。
が、まだ納得がいっていなかった者が一人。
「でもさーメモなんていつでも写せるし、逆に消すことだって出来るんだから分からないよ?あたしはアンインストールが気軽にできないソフトウェアの方を確認した方が良いんじゃないって思うんだけど。たしか……すずちゃんの方には振動探知のやつが入ってたよね」
もちがちえりから8のPDAを受け取り、すずに問いかけた。
もちはいろはが持っていた8のPDAのソフトウェアを調べるようとしているようだ。
しかし、その前にその問いかけを予期していたのかすずは自身のPDAのソフトウェア選択画面を開いてもちの前に差し出した。
「そう来るんじゃないかと思っていましたよ。はいどうぞ」
その画面にはちゃんと一つだけ『振動探知機能』の項が。
「一応保険で聞いてみたけれど……まあ普通にすずちゃんの持っているやつが本物だよねーごめんねすずちん疑っちゃってー」
もちは申し訳なさそうにしながらすずに言う。
それに対して
「立場が逆だったらたぶん私も同じことしてましたし、二人とも別に大丈夫ですよ」とすずも返した。
「えっ?ソフトウェアの数多っ!?」
もちが驚いた声で呟いた。どうやら一応いろはの8のPDAに入っているソフトウェアを調べていたらしい。その言葉が気になった二人はもちが持つPDAの画面を覗きこんだ。
≪ソフトウェア一覧≫
【PDA探知機能】
【トランシーバー】
【遠隔爆破装置】
【残り生存者数表示】
「4つもって……よほど運が良かったか協力者がいたかかなぁ」
「まぁ4つもソフトウェアが入っている経緯なんか考えなくても良いんじゃない?今はちえり達が持っているんだし。ソフトウェア4つも入っているPDAがゲットできてラッキーって思っていればさ。充電残量は少ないけれどジョーカーだからすずちゃんが破壊する必要も無いし」
「そうか。ジョーカーは壊さなくて良いから中に入っているソフトウェアが失われないっていう利点もあるんですね。……あ、そうだ。おそらく私が壊すことになるでだろういろはさんが持っていた他の2つのPDAのソフトウェアも今の内に調べておきましょうか」
そう言ってすずは床に置かれていたいろはが持っていたPDAの内、5のPDAを手に取った。
「じゃあもちちゃんとすずちゃんがソフトウェアのチェックと……あとついでに書いてあるメモの確認をお願いね。メモから前の所有者の情報とか脱落した原因とかが分かるかもしれないから。ちえりはジョーカーの解除条件をどうやって変更できるか調べとくよ」
ちえりはそう言って自分の視線をいろはの8のPDAに向けた。
「ソフトウェアとメモだね。おっけまーる」
もちもそう言って床に置かれていた3のPDAを拾った。
「あー!ジョーカーの解除の仕方がわからんでござるー!普通のPDAと違うところなんてないよー!」
ちえりはジョーカーの偽装の解除法が分からなかったのか叫ぶように言った。
「簡単にジョーカーだってばれないように偽装解除の方法は難しくしてあるんですよきっと!これがジョーカーであるということだけ分かっていれば問題ありませんし投げ出して良いですよ」
今にも投げ出してストレスのあまり暴れそうにも思えるちえりに対してすずはジョーカーの仕様を予想しながら言った。
事実、彼女達は知らないがジョーカーの偽装を解除する方法はジョーカーの偽装が解かれた状態でのみ確認することが出来るため、偽装した状態では所持者が戻す方法を言わないでいると2のPDAの効果で強制的に解除されない限り元に戻すことはできない。
「実際にそこは重要じゃないよね。それよりすずちん5のPDAは勝手に壊れちゃったけど3のPDAは壊す?それとも壊さない?手に入ったのはすずちんのおかげだしさ。あたしはすずちんが決めるべきだと思うよ」
いろはが持っていた二つのPDAの内、3のPDAには【トランシーバー】と【カウントダウン】、5のPDAには【首輪探知機能】と【地図拡張機能】が入っていた。
しかし、それを調べた直後に5のPDAが急に黒くなって一切反応しなくなりどうならPDAが壊れてしまったようだった。
PDAが壊れたことに最初は酷く慌てた三人だったが、原因はほぼすずのロケットランチャーと推定され、壊れた瞬間に持っていたのもすずだったので、すずの半径5m以内で破壊するという解除条件に含まれていると最終的に考えて三人は胸を撫で下ろした。
ちなみに一階二階ではアイテムとしてPDAを守る強化カバーや保護フィルムやバッグがときおり落ちており、それらに守られていた他のPDAは無事に済んだようだ。
壊さなかったPDAはもちとちえりに譲渡される予定のため、有用なソフトウェアが入っているものは当然壊さない方が良い。
だが、終盤になるとそれに応じて手に入ったPDAの中に入っているソフトウェアが有用である確率も高くなっていくので、厳選をしているといつまでも解除が出来なくなってしまうからある程度は割りきる必要がある。
既に壊したPDAが1つ、確実に壊す予定のPDAが2つ。すずは熟考して口を開いた。
「壊します。トランシーバーは対応する相手じゃないと通話できない仕様なのでジョーカーとは通話できませんし、カウントダウンは既に五階にいますし、大丈夫だと思います」
すずの決断は壊すことだった。二人も壊していいと思っていたのかすんなり決まった。
「そういえば途中で壊れた5はしょうがないとして3にはメモが一個も無いなんてー!……もちにゃん消してないよね?」
「ちぇりたんジョーカーの解除方法調べるのメンドーになったのか、わからんちゃーとか言ってあたしが3調べてるのずっと後ろから眺めてたでしょ!」
「そうなんだよねーマジで一枚も無いとか持ち主は面倒くさがりなんだろうなぁ」
そのまま今後の話し合いをする三人。
三人は熱中するあまり近づいてくる足音にすぐに気がつかなかった。
いろはのマネキンからほんの少しだけ離れた場所にいた三人は、迫り来る彼女がいろはのマネキンの近くまで来たところでようやく後ろから足音がするのに気がついたようだ。
彼女達が振り向いた先には
「お久しぶりです。すでに首輪を解除した人のPDAを持っています。あずきが4なのは皆さん既に知っていますよね?解除条件8の神楽さん。もし誰かの首輪を持っているなら交換しませんか?」
かつて彼女達を襲ったあずきが立っていた。
Side:木曽あずき 一人称視点 五階 【01:19:02】
ついに見つけた。風紀委員長が言っていたジョーカーを持っている4人で一緒に動いているチーム。あずきとたまさんで襲って失敗したチームでもある。
どうやらりこさんが欠けているようですけれど……会議していた様子だし別行動しているとは思えないのでたぶん脱落したのだろう。
そういえばこのチームがジョーカーを持っているって風紀委員長が言っていたなぁ。
もし、ジョーカーを持っていることを隠してきたら知っていることをバラしてジョーカーを持っていない二人を味方につけて隠し持っていた人を殺してその人の首輪で解除すれば良いか。
たまさんが聞き出した解除条件のラインナップは78JQと安全なものだったけれどジョーカーを隠し持っている以上信用できない。たまさんがおそらく3だった以上、隠さなきゃいけない解除条件なんてほぼ9の全員殺害。
持っているって正直に言ってくれた場合は警戒する必要はあまりありませんし、風紀委員長と北上さんに献上したいところですが……連絡手段とか無いし……
……既にあずきより先にこのチームに接触している、もしくはあずきと神楽さんが解除したあとに残り二人と運良く遭遇することでも祈りますか。
とりあえず自分の用件を手短に言おう。
あずきは既に首輪を二個持っているから、亡きヤマトイオリさんのPDAをエサに首輪と交換すれば解除条件を達成できる。
「お久しぶりです。すでに首輪を解除した人のPDAを持っています。あずきが4なのは皆さん既に知っていますよね?解除条件8の神楽さん。もし誰かの首輪を持っているなら交換しませんか?」
この4人の解除条件はたまさんと襲ったときに神楽さんから聞き出した。もしかしたらあのとき嘘を言っていた可能性はある。けれどたまさんから聞いた神楽さんの様子や言い方から考えるにおそらくない。少なくとも神楽さんが8は合っているだろう。
その証拠に
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね。あっちで作戦会議してきます」
そう言った神楽さんの両手にはおそらく戦利品と思われるPDAが3つも握られている。
この戦場も地面が少し抉れているくらいだし、相手の持ち物が壊れても問題ないとなると8しか無いだろう。
まぁ数分後分かることですけどね。
あずきは神楽さんが二人を連れて更に廊下の奥に移動して作戦会議的なものを始める様子を眺めた。
……時間が勿体ない。待っている間に金剛さんの遺体でもチェックしましょうか。
金剛さんの服はボロボロですが大事なところは一応隠せるようなボロボロのなり方だ。ほら、アニメとかで良くみるやつ。
……マネキンと入れ替わるプログラムがあるから大丈夫とはいえ、何かプログラムのミスがあって生身風アバターのままになってしまうとだと垢banされてしまうから、何重にも保険をかけて健全を維持しようっていうことなんだろう。
涙ぐましい努力がひしひしと伝わってくる……このプログラム組みに駆り出されなくて良かった。良かった。
さて肝心の首輪の方だけど……首輪の形状こそ保っていますけど……これは無理ですね(諦念)完全に壊れている。
あずきの解除条件は作動が必要な10の解除条件とは違って持つだけでいいので、もしかしたら数に含まれる可能性もある。けれど……
あずきは博打は打たない主義。神楽さん達の返事を待ちましょうか。
さて数分後、戻ってきたすずさんの返答は……イエスだった。
Side:神楽すず 一人称視点 五階【01:21:32】
「残念ながら私達は今、首輪を一つも持っていません。そこのいろはさんの首輪は壊れているので解除条件にはおそらく使えません。でも、あずきさんの持っているPDAが貰えるなら私の解除条件であるPDA五個破壊の条件は満たすことが出来ます。それを解除したあとの首輪でもよろしければ」
「……交渉成立。と思いますー」
そんなこんなを経て現在、あずきさんを含めた私達は、私がPDAを破壊するにあたってちえりさんの『地図拡張機能』を使って戦闘禁止エリアへと向かっている。
このゲームにおいて時間は大切だ。
時間をかけて部屋を回ればソフトウェアや武器が手に入るし、逆に言えば他プレイヤーより先に部屋に辿り着かないと取られてしまう。『地図拡張機能』を使ってどの部屋に何があるかが分かる私達ですら誰かに先に取られてしまっていてお目当てのモノに辿り着けないことが多々あった。
睡眠や食事、休憩も大事だし、侵入禁止エリアが下からどんどん増えていくというルールの都合もある。
そんな今すぐやることで得られる時間の余裕という大きなリターンを捨ててまで、戦闘禁止エリアで行う理由は万が一誰かがやって来て妨害されたときに困るから……とみんなの前では言ったけれど、本当は部外者だけでなくもちさん、ちえりさんも警戒してのことだ。
勿論他者の乱入も警戒しているけれど、ジョーカーに入っていたソフトウェアである『生存者人数表示』によれば残りはあと7人。つまり私達の敵になる可能性があるのは表面上は3人だけ。
私達にはジョーカーに入っている【PDA探知機能】で近づいてくれば分かるし、ちえりちゃんのPDAに入っている【ドアコン】で来る経路をシャットアウトすることも出来るから妨害される確率は低い。
更にあずきさんが先程、ジョーカーを持っているか聞いてきたので正直に持っていることを伝えたところ、なとりさんと双葉さんがジョーカーが必要な解除条件だから余裕があったら渡してくれと言われたから、二人の解除条件は2と6。妨害するメリットは賞金狙いでなければ無い。
ジョーカー持ちだったり、既に死んでいる可能性もあるけれどジョーカーだったらいろはさんとほぼ交戦しているから負傷しているはずだし、あずきさんは数時間前まで共にしてきたようだから最低でもどちらかは生き残っているはずなので更に私達を妨害してくる可能性は低くなる。
だから、ここで今すぐ解除しても良いのにわざわざ戦闘禁止エリアに向かっているのはほとんどもちさんちえりさんを警戒してのことなのだ。
ちなみにあずきさんを警戒する相手に含めていない理由は取り引きを持ちかけたのに自ら壊す理由が見つからないからだ。
二人がずっとジョーカー持ちじゃないことは、二人が寝静まっているときに自分の目で一つしかPDAを持っていない確かめているから本当は警戒する必要はあまり無い。けれど、ちえりさんが露骨に私を警戒しているのが引っかかった。
露骨すぎてもちさんへの警戒のカモフラージュのために私を疑っているようにさえ思える。
もしかしてちえりさんは私が知らない何かを知っている?
ちえりさんは『地図拡張機能』を使っているのもあってソフトウェア入手を優先的に手に入れることが可能だったから私が知らない情報を知っている可能性は高い。
知らないことの対策を建てるのは難しい。この場合の有効打は防御を固め、相手に攻撃させないこと。
ゲームプレイ中の私はヒートアップして脳筋になりがちだけれど流石にこういう状況なら攻撃以外もする。……牽制とか。
そう、この提案は私からの牽制も兼ねている。
こっちはお前らを警戒している。闇討ちしようとしても無駄だっていう牽制を。
私、もちさん、ちえりさん、あずきさんは目当ての戦闘禁止エリアとなっている部屋へと辿り着いた。
そして私だけがその部屋に入って、残り三人は廊下で待つことにした。
戦闘禁止エリアとなっている部屋にも幾つか種類があり、私が今いるこの部屋には鍵がかけられる機能と、床に一人しか入れない小さなスペースだけど爆発が防げるシェルターのようなものがある。部屋自体も大きくないコンパクトサイズだ。
おまけに外にいる3人にはナイショだけどドアの前でこっそり中にあった物を使って軽くバリケードを作っておいた。
この部屋なら外に何があっても生き延びることができそうだ。
出来るものならかかってこい。
私の持っているロッシーちゃん、りこさんのPDAといろはさんの持っていたPDA。そしてあずきさんが持ってきたPDA。私の解除条件に必要な4つのPDAを机の上に並べる。
私のPDAとジョーカーのPDA、そして既に壊した5のPDAは間違えて破壊しないようにポケットの中に。
ジョーカーもいろはさんの8だと分かっているし不安材料は無い。
ジョーカーの中に入っていた拡張機能でPDAの位置を調べた結果、きちんとこの場所にある4つのPDA、私の8のPDA、他の三人がPDAを一つずつ持っている結果しか出なかった。
5のPDAは確実に壊れているし、直前に三人の解除条件も見せてもらってちゃんと4、7、Qだったから、誰かが解除条件を偽装してくる可能性も薄い。
やっぱりちえりさんの警戒は私の考えすぎでしたかね?
私は相棒のトンカチを取り出した。ロッシーちゃん討伐にも役立ってくれた相棒だ。少し緊張して周りを見渡す。やっぱりこの部屋があまり大きくないですね。
当たり前だけれど部屋には私以外誰もいない。この部屋に入る前に見た廊下の光景はドアの近くでちょこんと座るあずきさん、その近くで壁に背を預けて立っているもちさん、少し離れた位置で立っているちえりさん……だったかな。
「あー緊張するー!」
PDAの強化フィルムは全部剥がした。さっきフィルムが貼ってある状態で軽くトントンとトンカチで叩いてみたが、電脳世界だからかフィルムを貼るだけで耐久力が飛躍的にアップして画面に小さなヒビすら入らなかった。
「よし、じゃあやりますか」
私はいよいよ意を決してトンカチを一つ目のPDAに振り下ろした。
パリン
画面が割れる音。トンカチの振り下ろし方をミスったのか腕が痛い。これがあと三回だと思うと気が遠くなる。
「神楽さん。PDAを壊したらちゃんと壊れたか確認した方が良いのでは……と思いますー」
あっ忘れてた。
「あずきさんありがとうございます。失念してました」
「すずちん〜実は一個壊れてなくて解除失敗とかやめてよー?」
「……気をつけます」
私は助言にならってPDAのスイッチを入れるボタンを押した。
電源は……点かない。壊れている。
「よしじゃあ次行きましょう」
最初の一回こそ緊張していたものの一度壊せばあとは意外と簡単。
私はついに最後の一個に向けてトンカチを振り下ろした。
パリン
電源は……点かない。
よし、やりました。じゃあPDAを首輪に近づけて解除すれば達成ですね。
「皆さん全部壊しました!今から首輪解除します!」
「解除失敗したら即死亡でちえりーらんど送りなんだから最後にもう一度破壊できてるか確認しておきなよー」
「そうですね。最終チェックします」
もちさんのアドバイスに従ってもう一度PDAの電源を確認をはじめた。
そのとき
パァン
「えっ?」
隣の部屋から発砲音が鳴り響いた。
Side:猫乃木もち 三人称視点 五階【01:21:40】
パァン
「えっ?」
銃声の後、最初に聞こえた声は木曽あずきの驚きの声だった。
彼女はその声を出した直後、マネキンに変わる。
あずきの近くにいたもちは即座にちえりの方を振り返った。
しかしちえりは既にもちから距離を取っている。
「もちにゃん。ちえりはさっさと逃げるよ」
バァン
その台詞の最中にも銃弾が放たれた。が、誰にも当たらない。
更に一発の銃弾と、手りゅう弾が投げられたが、両者共にほとんどダメージを負わず、手りゅう弾を避けるために両者の距離が広くなっただけだった。
お互いがお互いをぎゅっと睨む。
しかし、直後相手の姿が見えなくなった。
ガシャン!
二人の間に鉄のカーテンともいえるようなシャッターが降りたのだ。
「ドアコン……か」
もちはすずがいる部屋の扉に寄りかかって小さな声で呟いた。
「そっちで何かあったんですか!?」
緊急事態だと判断したすずは隣の部屋から呼びかけた。まだ首輪の解除はしていないが、何があってもいいように体の半分は既にシェルターに入れている。
「ちぇりたんがあずきちを撃った!私は何とか取り押さえようとしたんだけど、銃と手りゅう弾で距離を取られてドアコンでシャッター降ろされて逃げられちゃった!」
もちはすずに急いで説明した。
しかし、すずはもちに対して一切の応答をしない。
「何やっているのすずちん。聞こえる?信じられないかもしれないけれどとりあえず一度出てきて!そしたら分かるから!」
もちはそれを不信に思って少し焦ったように言った。
「手りゅう弾です」
その焦りに呼応するかのようにすずはようやくもちに向かって口を開く。
「へ?」
すずの急な言葉に当然もちは面食らった。
「ど、どういうこと?」
「おかしいと思ったところですよ」
「えっおかしいところって?」
「私、二人が寝静まっている中こっそりと二人の持ち物を調べたことがあったんですが、そのとき手りゅう弾を隠し持っていたのは……もちさんです」
「あのーもちさん」
「本当はもちさんがあずきさんを撃ったんじゃないですか?」
「やだなーすずちん。あたしはQだよ。殺す理由なんて無いじゃん。確かに手りゅう弾は持ってるけれど、ちぇりたんも手りゅう弾を持ってたんだよ。あたしは使ってない」
「手りゅう弾の後ろに小さく白く数字が書かれているはずです。何て書いてありますか?」
「えっ?」
「私、こういうときの為に数字を書いていたんですよ。ありますよね?読めますよね?」
「………………」
もちは何も言えなかった。
「やっぱりそうでしたか。手りゅう弾を相手に投げられたのに自分のやつを投げ返さないのはおかしいと思ったんですよ。……今この部屋に入って殺そうとしても無駄ですよ。ドアには鍵がかかっていますし、バリケードも作ってあります。爆発物を投げ込もうとしてもシェルターがありますし、この部屋には人が通れるくらいの大きさの換気ダクトも無いですからね」
すずは牽制するかのように言った。
「それに今から私は首輪を外すんでこの中でも戦闘できるようになりますからね。この部屋入ってきた瞬間、鉛玉をプレゼントしてあげますよ」
更にすずは言葉を続ける。ちなみにこの言葉はブラフだ。現在のすずの武器はトンカチの他には煙玉ぐらいしか無い。食糧はこの部屋に充分あるので立て籠るのには困らないが。
「はぁこれは完敗だね。すずちんの予想大当たり。……せっかくだしさぁ首輪を外すカウントダウンでもしてくれない?そのあとに完全勝利宣言でもしたら視聴者のみんなは喜ぶと思わない?それだけしたらすずちんは諦めてちぇりたん追うからさ」
「しょうがないですね。私達アイドルですからね。パフォーマンスは大事です。じゃあカウントダウンしましょう」
すずはもちの提案に応じるようだ。
「じゃあ始めますよ」
「5」
「4」
「3」
「2」
バァン
1のカウントダウンの直前に銃声が響いた。
銃声が鳴ったのはもちがいる廊下。
銃を撃ったのは……もち。
撃った先にあったのは……強化フィルムを剥がしたもちの持つQのPDA
もちのPDAが壊れると同時に
すずの首輪から音声がピーピーという機械音と共に流れた。
『神楽すず様。あなたはPDAを6つ破壊しました』
『解除条件の達成失敗により15秒後に首輪が作動します』
「!!」
すずは驚きで言葉がでないようだ。
「8のPDAの解除条件には別に誰が壊せ〜なんて一言も書かれていないからね。博打だからできればやりたくなかったけど」
もちはすずと視聴者に語りかけるように説明した。
もちの言う通り8のPDAの解除条件は【自分のPDAの半径5m以内でPDAを5個破壊する。6個以上破壊した場合は首輪が作動する】であり、もちはドア越しとはいえすずから5m離れていない所でPDAを破壊したため、『すずの半径5m以内で』破壊されたPDAの数は合計6個となり、すずは解除条件を満たすことに失敗したことになった。
破壊するという文の解釈によってはすずが破壊したPDAのみがカウントするようにも読めるため、もちは自分で破壊しても意味が無い可能性が高いと考え、この作戦をする気は無かった。
しかし、もちはこの状況ですずをちえりーらんど送りにするためには解除条件失敗に賭ける他なく……賭けに勝った。
「くっ、そうかあずきさんのPDAを壊せたのか!」
すずはそんなことを言いながら、せめて部屋から出てもちに一矢報いようとするがタンスで自分で作ったバリケードが邪魔で外に出ることが出来ない。
「あ、そんな方法があったとは!しまった自分のQ壊しちゃった」
「壊しちゃったーって……自分の壊したら首輪解除出来ないですよ!」
バリケードを壊しながらすずがツッコミを入れる。忘れがちだが自分のPDAが破壊されると首輪の解除にはPDAが必須の為、首輪が解除ができなくなりゲーム終了直前に死亡がほぼ確定するため自分のPDAは自分の命に等しい。
「あたしの解除条件Qじゃないから問題無いよ」
カウントダウンは残り6秒。
「えっ?でもPDAはずっと一個しか持ってないはず!」
「らんどの土産に教えてあげる。あたしは本物のQを手に入れたのはついさっき。あたし本当は数字の9だけど、すずちゃん達と出会った直後にとある場所に隠してて、ず〜っとジョーカーだけを持っているんだ」
「ずっと自分のPDAを持ってないとか……これには完敗です。私や皆さんの分まで頑張ってくださいね」
すずがそう言った直後、すずの体はマネキンと入れ替わった。
「……オッケー頑張るよ」
【木曽あずき・神楽すず】 脱落
Side:猫乃木もち 一人称視点 五階【01:22:18】
「さてトランシーバー……っと」
あたしはドアの鍵穴付近を無理やり壊して開けて、バリケードも何とか崩してようやくあずきちのPDA、すずちんのPDA、ジョーカーのPDA、二人の首輪を確保した。
シェルターを見てここ逃げられたら完全に負けていたなと思いながらピノちーと連絡を取るために残り充電も少ないジョーカーを開いた。
『もしもしもちお姉ちゃんですか?』
「うんそうだよ。ピノちーのおかげもあって首輪三個ゲットしたよ」
『あ、上手くいったんですね。おめでとうございます』
「それでピノちー。首輪取りに来るでしょ?場所は……」
『お断りします』
「えっ?」
『もちお姉ちゃんの本当のPDAって9ですよね?』
「えっ?違うよ……8だよ」
危ない危ない、ピノちーの前では8だと言うことにしていることをつい忘れそうになってしまう。それにしても何で9だって分かったの……?
『トランシーバー機能って実は相手が了承していなくても接続可能なんですよ』
「……盗聴可能ってこと?」
『はい。わたくしもちょっと前に気づいた機能なんですけれどね。なぜか相手のバッテリーは消費せずにその分自分が倍消費するという意味わからない仕様になっているんですけれど電脳世界ですし……まぁちょっとそれを使っていたらつい聞いちゃったワケなんですよ。すずお姉ちゃんともちお姉ちゃんの会話を』
あぁ、なるほどさっきのらんどの土産に言ったやつ。しくったなぁ。
『元々もちお姉ちゃんのことは警戒していましたし、これが無くても行かなかった気もしますが全員殺さなければいけない9とは絶対仲良くなれません。わたくしが首輪三つ手に入れば解除できるのは知っているのですから大人しく解除させてもらえるわけがありません。誘き寄せて殺す気だったのでしょう。ではさようなら』
通信が切れる。色々調べたら確かにそういう機能があった。
相手のトランシーバーを勝手に起動しているだけだからちゃんと注意していればやられているのが分かるし、一度使うとしばらく使えないみたいだから切っちゃえば問題無いけれど……
「やっちゃったなぁ……ちぇりたんも逃しちゃったしピノちーも今回でやる予定だったからなぁ。元々みんなへの妨害でPDAを一気に壊しておくのは確定してたけど余分に一個壊しちゃったのは痛かったな。一気に5人ちえりーらんど大作戦が……」
そういえば残り何人なんだろう?ふと気になったあたしは【生存者人数表示】のソフトウェアを開いた。
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五人。
あと四人かぁ……いけるかな?
いや、やるしかないね。
第五章【偽の王女は自らを壊す】終
残り生存者数……5人
【2】
【6】 【7】
【9】 【10】
next……第六章【Fake number】
ばあちゃる「はいはいはーい世界初?!男性バーチャルyoutuberのばあちゃるです。いやー今までBETしてくださってありがとうございました。ついに5人出揃った!ということでね。なんと今までのBETは別のBETをご用意しましたんでね。ご説明いたしますとー生存者を予想するっていうのは同じなんですが違うのはですねー【花京院ちえり・北上双葉】みたいな感じで生存するのはこの組み合わせだ!っていう予想をするっていうのが違うんですねー。いやーばあちゃるくんはみんな応援したいんでね【猫乃木もち・北上双葉・花京院ちえり・八重沢なとり・カルロピノ】みたいに全員にあげたいところなんですけれどねー。猫乃木もちにゃんは9の解除条件的に一人でしか勝てないのでもちちゃんと他の人を入れて投票は駄目みたいなんですよねーこれ皆さんも注意ですよー。というわけでそろそろ負荷もかかってきたのでね!終わりにします!」
要約
ゲーム終了時に誰が生き残ってるかを完璧に当てる投票ゲーム
誰と誰が生き残ってるみたいに予想してください
※もちにゃんの解除条件は9(自分以外全員死亡)なので他の人と一緒に生き残るパターンが無いことに注意してください
A【×ヤマトイオリ×】…QのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。
2【八重沢なとり】…JOKERのPDAの破壊。このPDAのみ半径1m以内でJOKERの偽装機能は無効、初期化される。
3【×夜桜たま×】…3名以上の殺害。ただし首輪の作動は含まない。
4【×木曽あずき×】…自分以外の首輪を3つ取得する。首を切り取っても、解除条件を満たし外すのを待つのも良い。
5【×金剛いろは×】…館全域の24個のチェックポイントを全て通過する。特殊効果として地図上にポイントの表示がされる。
6【北上双葉】…JOKERの偽装機能を5回以上使用。自分で使う必要も、近くで行う必要も無い。
7【花京院ちえり】…開始から6時間目以降に全員と遭遇。死亡している場合は免除。
8【×神楽すず×】…自分のPDAの半径5m以内でPDAを5個破壊する。6個以上破壊した場合は首輪が作動する。
9【猫乃木もち】…自分以外の全参加者の死亡。手段は問わない。
10【カルロピノ】…首輪が5個作動すること。ただし2日と23時間より前に行うこと。
J【×牛巻りこ×】…開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存していること。
Q【×もこ田めめめ×】…2日と23時間の生存。
K【電脳少女シロ】…PDAを5台以上収集する。手段は問わない。
JOKERの持ち主【猫乃木もち】
勝利条件まとめ
2 八重沢なとり:猫乃木もちが持っているジョーカー破壊する
6 北上双葉:猫乃木もちが持っているジョーカーを5回使用(内確実に3回は使用済)
7 花京院ちえり:八重沢なとりと北上双葉に出会う
9 猫乃木もち:他全員の死亡
10 カルロピノ:首輪が5個作動する(現在3つ作動済だが、内二つはピノ視点では確実性が無い。現在たまの首輪を所有)
というわけでようやく六章が完結いたしました。次はようやく最終章である七章です(>>414で間違えて六章って書いていますが)ちなみに一度だけあった分岐によってこのタイミングでの生存者のラインナップが変わります。(合計5人なのは変わらない)
次の投稿も少し遅くはなりますが今回の一ヶ月という期間ほどにはならないはずなのでBETや考察でもしてお待ちしていただけると幸いです。
あ、本当のPDAの隠し場所はいくつか伏線を貼っているのでよく考えれば分かるかもしれません(えぇ…嘘だろって思うところです)
あずきちもちにゃん警戒してそうだったけど脱落かあ
予想はさくらんぼアイスで
【花京院ちえり・カルロピノ】
(あと>>418の解除条件ジョーカー確実に4回使用済みじゃないですかね)
>>422
無→Q→8→Q→8
なので確かに四回使用済ですね間違えてました!
あずきちはジョーカーを隠された場合めっちゃ警戒しましたが、ジョーカーを隠されなかったのでそれぞれのPDAは言われた通りで賞金狙い以外で殺されることは無いと思っていたのと完全に不意打ちだったのが原因でおなくなりーになっちゃいました。
ジョーカーを持っていることを言うか言わないかに気をとられていつ手に入れたかを聞かなかったのがポイントですかね。
【花京院ちえり・カルロピノ】かなー
単純に従業員にはならなそうw
でも個人的に頑張ってほしいのはふーちゃんとなとなとかな
続き期待して待ってます
大変お久しぶりです。遅れて申し訳ありません。
こんなに遅くなったのは忙しかったのに加え、ほぼ書き終わったデータが消えて最初から書き直すモチベが無くなったのが原因です。
設定変更:トランシーバーの仕様を『相手のバッテリーは消費せずにその分自分が倍消費』から『相手のバッテリーも消費するけれど自分は倍消費』に変更します
Side:花京院ちえり 一人称視点 五階【02:01:38】
ちえりだよ(常在戦場)
ちえりが今いるここはさっきの戦闘禁止エリアとはまた別の戦闘禁止エリア。
もちちゃんから逃げてからはずっとここで隠れながら休んでいる。
「ここまで辿り着いたのは良いけれど……すずちゃんが万が一やられちゃったらここもバレちゃうなぁ」
【地図拡張機能】を使ってほぼ最短で戦闘禁止エリアに辿り着くことはできた。これでしばらくは安全のはず。
けれど完全に安心は出来ない。普通に考えたらもちちゃんが戦闘禁止エリアで閉じこもっているすずちゃんを殺ることは無理。
でも万が一出来ちゃった場合、現在すずちゃんが持っているジョーカーに入っている【PDA探知機能】でここにちえりがいることがバレちゃう。
しかもそうなっちゃったらもちちゃんには戦闘禁止エリアを突破できる何を持っているということだから安心なんて出来ないのだ。
とりあえずここまで来る途中にあったシャッターをいくつか【ドアコン】を使って閉めたり開けたりして遠回りになるようにはしておいたけれど……
殺られちゃっているなら焼け石に水のような気がするし、休憩したらさっさとここから出て解除条件解除を目指す予定でござる。
とりあえず今後の方針でも考えよう。
ちえりの解除条件は開始から6時間目以降に全員と遭遇するのが条件。
リスクを負ってでも動き回らなきゃいけないので基本的には遭遇を期待しながら歩き回るのが方針となる。
ちえりのPDAには探知系PDAは入っていないからそれを見つけるために『地図拡張機能』でソフトウェアが配置されている部屋を片っ端から巡るのもありかも。
りこぴんのダイイングメモによれば同じ種類のソフトウェアは2個ずつあるらしいから、ジョーカーに入っていた『PDA探知機能』とかごんごんが持っていたPDAの一つに入っていた『首輪探知機能』とか見つけられれば大分楽になる。
それとメモにはここの施設の一部を管理している部屋の場所も書かれていたから一度そこを確認しに行くのもありかもしれない。
だけどそんな余計なことをして最終目標にして最大目標の首輪の解除に遅れちゃ意味無いし……
……そういえばちえりはあと何人と出会えば良いんだ?
ちえりの解除条件は開始から6時間目以降に全員と遭遇するのが条件。達成するのが難しく見えるけれど死亡したら免除してくれるし、出会った数のカウントまでしてくれるからそこまで難しくはない気がする。
ゲーム開始以降に会ったのはりこぴん、もちちゃん、すずちゃん、たまちゃん、あずきちゃん、ごんごん、ピノちゃん、シロちゃんの8人。
で逆にまだ会っていないのは双葉ちゃん、なとちゃん、イオリン、めめめちゃんの4人のはず。
ただこの4人に出会えば解除条件達成して終わり……というわけじゃあない。
だってカウントによればちえりの出会った人数は7人ということになっているのだ。
これはつまり、ちえりが出会ったと思っている8人の内、誰かしら一人は遭遇できていない扱いになっているということ。
遭遇判定の条件は自分の半径3m以内に人が入ることだからずっと行動していたすずちゃんもちちゃんりこぴんは確実に遭遇している。それとあずきちゃんとたまちゃんと会ったときに遭遇人数をチェックしたらちゃんと2人分カウントされていたからこの2人でも無い。
となると可能性として残っているのはごんごん、シロちゃん、ピノちゃんの三人。
この三人と会ったのは二階での乱戦のとき。乱戦だったから誰と出会ったことになっていないかちょっと記憶が曖昧なんだよねー。
出会っていない判定がごんごんだったら既にリタイアしているから問題ない。けれどそうじゃなかった場合、死んだのを確認するか会わないといけない。
今のところ出会ってない方も考えると双葉ちゃん、なとちゃん、イオリン、めめめちゃんの内、あずきちがイオリンは脱落したって言っていたはずだから会わなくて問題ない。
それでも3+2で5人も会わなきゃいけないのはつらい。
この5人の中でも何人か脱落していたら楽なんだけど……
あと気になるのはもちちゃんの目的。
りこぴんのメモを信じて警戒していたから突然の凶行から逃げおおせることができた。けれどなんでもちちゃんが急にあのタイミングで私達を殺そうとしたのか未だに分からない。
もちちゃんの解除条件はQだ。これは疑いようも無い。ジョーカーを持ってなかったし、PDA探知機能で持っているそれぞれのPDAの数を調べたときも一つしか持っていなかった。
みんなで寝てるときにすずちゃんがちえりともちちゃんの荷物漁っていたのに特に何も反応しなかったっていうのももちちゃんがQである根拠の一つとなっている。
……すずちゃんが漁っているのに気がついたとき、PDAを盗んで逃げようとしない限り、静観することにして寝たフリしていたけど今考えるとこの選択は正しかったなぁ。
もしすずちゃんを糾弾することにしたとき、絶対ちえりはもちちゃんを起こす。
さっきの動きから察するにもちちゃんは絶対すずちゃんをちえりーらんど送りにすることを提案して、ちえりはたぶんそれに乗せられてすずちゃんをちえりーらんど送りにした瞬間、後ろからドカン!ってもちちゃんに殺られてたと思う。
ともかく、解除条件が理由で殺しにきたワケじゃないだろうから……可能性としては
『賞金狙い』
か
『手を組んでいる人がいてその人の為に殺しに来た』
の2パターン。このどちらかかな?
賞金狙いするにはりこぴんを狙うのが早すぎる気がするし、あるとしたら手を組んでいる方かなぁ?
となると手を組んでいる相手の可能性があるのはPDAに関わっている解除条件2つか首輪に関わっている解除条件2つだろうけど……前者のすずちゃんと後者のあずきちゃんは殺しのターゲットになった以上協力者じゃないだろうし、すずちゃんのPDA破壊前に動かなかったからKの『PDAを集める』解除条件では無い……となるともちちゃんの協力者は10の『首輪を5個作動させる』かな?
一応、りこぴんを殺したときとあずきちを殺したときの理由が違う可能性もなくはない。
でもりこぴんのダイイングメッセージには『急に襲われた』って書かれていたから、少なくともりこぴんを自発的に狙っているだよね。
そう考えると可能性はやはり低そうだ。
タッタッタッ
そんなことを考えていると靴の音が聞こえてきた。
近づいてきているといっても一直線にこちらって感じの音じゃないし、来たのは偶然っぽい。
ただ偶然だろうとちえりの解除条件的に誰が来ているか確認する作業は必須。逃げるわけにはいかない。
その音がする方に振り返りながら立ち上がる。
照明が多い場所に陣取って座っていたからか、はたまたテンションのせいでそうみえているのかは分からないけれど、自分がこれから行く先がどこかどんより薄暗く感じる。
「できればまだ会ってない人が良いなあ」
ちえりはそう小さく呟きながら緊張で少し震えながら歩きだした。
next……Side:カルロ・ピノ
Side:カルロ・ピノ 三人称視点 六階【02:02:21】
「……流石に首輪は切り取られていますか。もちお姉ちゃんが9なら首輪を解除されて下の階に逃げられるのは何としてでも阻止したいでしょうし、作動しないように六階まで運ばれたのでしょうね」
ここは少し前にもちの裏切りがあった廊下。
既に首輪が取られたあずきのマネキンを眺めながらピノは呟いた。
もちとの事前の作戦会議で、もちがどこで殺しを決行するのかを知っていたピノは少し時間を置いてから一応手を組んだ目的である首輪が残っていないか確かめようとやって来た。
「……りこお姉ちゃんの首輪を作動させたっていうのが本当か分からない以上、確実に作動したって分かっているのはすずお姉ちゃんの一つだけ。たまお姉ちゃんの首輪を入れても2つ……まずいですね」
更にピノは独り言を呟いた。彼女がわざわざ自分の思考を口にしているのはこの放送を見ている視聴者達に自分の思考を開示する為……だけではない。
彼女の真の狙いはもちがトランシーバーの盗聴機能を使ってくることを見越して嘘の情報を掴ませることだ。
今回のケースの場合、本当のピノが知っている確実に作動した首輪はすずとシロ、それと約一時間前に侵入禁止エリアになった四階に置きっぱなしにしておいたたまの首輪の計三つである。
全員殺しが解除条件であるもちに自分の解除条件の残りがバレてしまった場合、厄介なことになるのは確実。
と考えたピノは自分の達成数を少なく誤認させることで相手の想定よりも速く解除して逃げ切る作戦に出た。
最初からもちとの同盟を信用していなかったピノは自分がシロを脱落させたことが絶対に漏れないようにしていたため、この嘘がバレる心配は無い。
ちなみに相手がトランシーバーの盗聴機能を使っているかどうか自体はトランシーバーのソフトウェアを表示していれば確認することができる。
しかし、それも画面を付けて見ている以上バッテリーを消耗する。
終盤戦を前にした状況でなるべくバッテリーの消耗は避けたかったピノは、一々盗聴されているかどうかは確認はしなくとも、もちへの対策と視聴者へのサービスも兼ねて嘘を交えた独り言をときどき漏らすことにしたようだ。
「もちお姉ちゃんでもすずお姉ちゃんがお星さまになった部屋は突破できてないでしょうから、ジョーカーは手に入るはず!とおもったのに……まさかドアごと破壊するなんて、アイドル部のお姉ちゃん方は脳筋しかいらっしゃらないのでしょうか」
ピノの視線の先には、穴あきになったドアとその先にあったであろう少し焦げているバリケードの残骸があった。
どうやら五階から入手することができるようになった軍事兵器の火力で押しきったようだ。
部屋を眺めてみると小さなシェルターの扉が跳ね上がっており、むりやりこじ開けられた形跡がある。そしてその中にあるのはすずのマネキンだけ。
既に破壊されたPDAも武器もジョーカーも持ち去られていた。
「作動した首輪は消えるってルールに書かれていましたから……マネキンの首が切られていないのに首輪が無いこの状況から考えてトランシーバーで聴こえていたおはなしがウソって可能性は低そうですね。わたくしを混乱させるためにわざわざ切っておいた方が良かったはずなのにしなかったってことは、思ったよりあずきお姉ちゃんから首輪を外すのに時間がかかったんでしょうかね」
そんなことを言いながらピノはPDAのマップを開き、今後の動きを考え始めた。
タッタッタッ
「!!」
マップを見はじめてから数分後、ピノは廊下から足音がするのに気がついた。
熱心に考え込んでいたせいで接近に気がつくのに遅れたピノは慌てて銃を構えようとして……
今いる部屋が戦闘禁止エリアだったことに気がつく。
銃を構えるのをやめてドアの脇まで音を立てないようにこっそり音がする方を見る。
廊下の先の曲がり角の手前、ちょうど自分の方から見える位置に来たのは……
八重沢なとりだった。
Side:八重沢なとり 三人称視点 五階【02:02:33】
一方、ピノがなとりに気がついたときになとりは別のことに気を取られていた。
「あれは……あずきさんのマネキンですかね?ドアも壊れてますし、ここで戦闘があったのかな?」
なとりの発言はピノの存在に気づいていないと言っているようなもの。
この発言を聞いたピノは今すぐドアから出て攻撃を仕掛けるか、それともこの部屋の前まで来るのを待って攻撃を仕掛けるかで悩みだす。
あくまで冷静に、どっちの方がメリットがあるかを考えるピノだったが、この次の発言で多いに焦ることになる。
「ちょっとこっち来てください。ここで戦闘があったみたいですよー」
なとりがこの場所に興味を持ってしまった以上、このままでは確実に自分の存在が見つかる。これまでは来ているのはなとり一人だと考えていたので別に問題は無かったが、実際は二対一、もしかしたら三対一とすらなってしまうかもしれない。
圧倒的に不利であり、勝てる見込みがない。どうしてもちえりーらんど送りになりたくないピノは死にたくないので必死に頭を働かせる。
そしてピノは不意打ちが可能で一対一の状況にできる今このタイミングで攻撃を仕掛けて逃げることに決めた。
バタン!
壊れかけで存在価値を無くしかけているドアを勢いよく開け、ピノは廊下に踊り出た。
「えっピノさん!?」
なとりは急に出てきたピノに驚き足を止めるも……その手に握られた拳銃に気づき、急いで元いた廊下に戻る。
「逃がしませんっ!」
パァン!
ピノが一発撃ったものの、それはなとりの体に当たらなかった。
なとりは当たらなかった幸運を喜びながら元々来ていた廊下へと逃げ込む。
一方ピノは追撃をせず、なとりが廊下へと逃げ込んだ瞬間に逆方向に逃げだした。
なとりはこのあと仲間を引き連れてこちらに戻ってくるだろう。どう考えても不利だ。そのためピノは元々一発撃ったら即座に退散するつもりで行動していた。「逃がしません」と言ったのもすぐに逃げるためのブラフであり、逃げるときはドア側の壁に沿って走ることで開けっ放しのドアで少しでも自分の体を隠す。
など彼女が思い付く限りの手段を取った。
確かにピノはこの場で出来る中で最上の手を取っただろう。
だが、結局彼女はこの場から逃げ出すことは出来なかった。
彼女にとって不運だったのは2つ。
1つは本来この戦闘禁止エリア前の廊下はT字路のようになっており、なとりが居る方向を除いても2方向を選んで逃げられたはずなのに、ちえりがもちから逃げるときに【ドアコン】を使ったことにより、片方は行き止まりになっていたこと。
このせいでピノの逃げるルートは最初から一択だった。
そしてもう1つはなとりの同行者のスピードが人間離れした速度だったこと。
その不幸を知らぬピノはなとりをさっさと振り切るために曲がり角を確認もせずに曲がってしまった。
その結果、挟み撃ちをするために回りこんだ『同行者』と対面することになってしまったのだ。
「えっ?」
パァン!
疑問符を頭に浮かべたまま、ピノは『同行者』に撃たれてしまう。
ピノが負った傷自体は軽かった。
が、銃弾に何か塗ってあったのか彼女は脱力して膝をついてしまう。
なとりと思われる足音が近づくのを聞きながら彼女は小さく呟いた。
「何だこれ……」
nest……side:北上双葉
始めに断っておくが、八重沢なとりの『同行者』は北上双葉ではない。
何故ならほぼ同時刻、双葉はそのとき花京院ちえりと会っていたのだから。
Side:北上双葉 三人称視点 五階【02:02:20】
双葉とちえりが現在いるのはほの薄暗い廊下。
部屋に入っていない理由は、互いに互いを警戒をしており戦闘になったときに逃げられるようにするため、そして双葉の現在の武装では部屋に入るのが難しいからだ。
「ちえりちゃん情報交換におうじてくれてありがとう」
そのような状況で双葉は戦闘にならず『平和』に情報交換できることに微笑んだ。
「……感謝の心があるんならその銃口を下ろして貰えると助かるなーって」
一方、ちえりの口元はひきつっていた。
「なに、ちえりちゃん?双葉は手も足もけがしてるんだよ?この武装があってもちえりちゃんにやられちゃう可能性があるんだけど」
双葉の言う通り、彼女の手足は未だに怪我をしていた。
持っているのが『普通の武装』であったならば確かにちえりの方が有利だっただろう。
だが、そうではなかった。
「い、いや、その武装なら怪我してても問題ないのではー?こんな状態じゃ安心して情報交換できないと思うのですが」
ちえりは少し震え声になりながら言い回しを変えて武器を下ろさせようとした。
「え?もう安心で平和な状態が整っているでしょ?」
おそらく本気でそう思ってはいないのだろうが、双葉はすっとぼけたような顔をして言った。
あるいは『双葉にとっては安心で平和な状態』という意味なのかもしれない。
ともかく双葉の持つ強力な武装により、ちえりは説得(脅)されて、公平(一方的)な情報交換が行われることになり、それは見かけよりかは円滑に進んだ。
双葉が提供した情報は自分となとりの解除条件、たまとイオリの脱落、自分がサブマスターであること。
一方、ちえりが提供させられた情報は『りこがサブマスターであり、ダイイングメッセージの情報を持っていること』を除いた全ての情報。
ちえりがりこがサブマスターである情報を秘匿した理由は双葉が持っていたサブマスター権限で貰える情報とりこの情報に若干の差違があることに気がついたからだった。
これは双葉かりこが嘘の情報を混ぜているから……とはちえりは思わなかった。少なくとも双葉とりこで渡される情報が元々少し違いがあったと考えた方が自然だと思ったようだ。
りこと双葉の情報の差違は一つだけ。りこの情報に書かれていた『この施設の電気の管理室』の情報が双葉には無く、その代わりに双葉は『この施設にある監視カメラの管理室』の情報を持っていたという点だけ。
双葉が先にこの情報を提示してくれたおかげで自分が持つ情報との差違に気がついたちえりは、自分が持つりこの情報以外の情報を洗いざらい吐くことで怪しまれることなく情報を秘匿することに成功したのだった。
数十分後、PDAにちえりから聞いた情報を全てメモし終えた双葉は「気になることができた」と言って、すっと立ち上がる。
「ちえりが言うのもなんだけどさーここでちえりのこと脱落させた方が良いんじゃないのー?」
「えっ?ふーちゃんの解除条件に必要ないし」
「いや、でも賞金とかあるじゃん。後々賞金狙いのちえりにやられちゃうかもよ?」
「……もしかしたら生き残っている全員が協力しなきゃいけなくなるかもしれないから人手は多い方が良い」
「甘くなーい?そんな考えだとさ、いつか後悔するときが来ると思うよ?」
「なにその悪役みたいなせりふ。……あぁ、ちえりちゃんは元ヤンだもんね」
「ちえり悪役じゃ無いし、元ヤンでも無いよ!」
「げんふりょーにん?」
「現不良人でもないよ!……ともかくお互い頑張ろうね」
「うん。じゃあね」
「ばいばーい」
そんな会話をして双葉はちえりと別れて別の場所に向かった。
双葉が消えたあとちえりは双葉と逆方向にゆっくり進んでいた。
ほの薄暗い廊下で彼女は悩ましそうな顔をして呟く。
「……ちえりも六階に行こうかな」
next……Side:猫乃木もち
Side:猫乃木もち 一人称視点 六階【02:05:12】
充電ノコリ10% 02:05:12
┏━━━━━━━━━┓
┃ 解 除 条 件 ┃
┗━━━━━━━━━┛
┏━━━━━━━━━┓
┃ ル ー ル ┃
┗━━━━━━━━━┛
┏━━━━━━━━━┓
┃ マ ッ プ ┃
┗━━━━━━━━━┛
┏━━━━━━━━━┓
┃ 機能拡張ソフト ┃
┗━━━━━━━━━┛
「もうバッテリーも限界だね。さっさとアレを回収しに行かないと」
あたしはジョーカーのPDAの充電残量をチェックしながら呟いた。
PDAのバッテリーはソフトウェアを使用する度に減っていき、バッテリーが切れると首輪の解除を含めた全てのPDAの操作が一切出来なっちゃう。
そうなってしまったPDAは投石の代わりにくらいしか使えない。
さっきの出来事で何とかあずきちゃんとすずちゃんからPDAを奪うことはできたけれどPDAを余計に壊すハメになっちゃったのが痛かった。
PDAをすずちゃんに壊させて全員の生存確率を下げつつ……
何の横槍も入らずにPDAを壊せたという警戒心が薄くなるタイミングであずきちとちぇりたんを脱落!
コロシアイに気がついたすずちゃんが部屋から出てきた瞬間に撃ち殺す!
っていう考えたあたしから見てもこれカンペキじゃーん?っていうワルな作戦だったはずなのだ。
……それなのに二人の、特にあずきちの警戒心が強くて中々不意打ちできなかったし、
シャッターのせいで一人取り逃すし、
最悪外からドアこじ開けて外から蜂の巣にすれば良いかなーって思ってたのにバリケードとかシェルターとかのせいで籠城されかけるし、
そのせいでQのPDA壊すハメになったし、
上手くいかないもんだねー。
まぁ今落ち着いて考えたらすずちゃんの籠城については毒ガス撒き散らすとかPDA壊す以外にも色々出来たなぁって思うけれど。
Qを壊したせいであたしが今持っているPDAはあずきちの4、すずちゃんの8、ジョーカーだけ。
……そうあたしのPDAは無い。一旦別の場所に隠して置いているのだ。
だからジョーカーのバッテリーが切れる前にあたしのPDAを回収しなければ色々と困る。
ちらりと『PDA探知機能』を見て、誰も近くにいないことを確認したあたしは更に足を進めた。
10分後、急いだ甲斐もあって、何の波乱も無く回収に成功。
このまま何もなければ良いなぁと思ったんだけど……
計画がさっきから崩れまくっているあたしが波乱無く過ごせるはずがなかった。
PDAを回収し終えて、元居た場所に一旦戻ろうと歩いていたあたしの前に現れたのは……
「……もちちゃんちょっと待ったっ!」
そう言いながら足を引きずって睨む双葉ちゃんだった。
Side:北上双葉 一人称視点 五階【02:03:56】
「ということでたぶんQじゃなくて9が本当の解除条件だと思いますよ?」と???ちゃんが言った。
現在、私達は五階のとある部屋で情報交換をしている。
……???ちゃん曰く、もちちゃんの解除条件は9らしい。ここで嘘をつく理由も無いし、9なのはほんとうっぽい。
そういえばちえりちゃんと情報交換したときに、ちえりちゃんはもちちゃんはQって言ってた。
ということはつまりちえりちゃんといっしょに行動していた三人とあずきちゃんは全員だまされていたということだよね。
……ん?それっておかしくない?
たしかちえりちゃんがもちちゃんがQだと断定した理由の中に、睡眠を取っている最中にすずちゃんがみんなの荷物漁っていて……みたいなのがあったはず。
ほんとうのQのPDAの持ち主はめめちゃん。
これはずっとめめちゃんと行動していた自分が信じなくて誰が信じるのだ。
ということはすずちゃんが確認したときもちちゃんが持っていたPDAはQに偽装したジョーカーだけ……ということになる。
PDAが壊れたら自分のリタイアが確定するのに隠していた?
寝ているときに見られる可能性を考えて寝る前に隠しているのだとしたら、毎回隠さなきゃいけないはず。
集団で行動してて寝る前に取られないような場所に自分のPDAを隠して、隠していることを他のメンバーに一切気取られない?
そんなの無理でしょ。
……もしかしてもちちゃんは
「何か思いついたんですか?」
無意識にハッとなってしまったのか???ちゃんが聞いてきた。
確かに思いついた。これならどうしてアレが起きたのかの説明もつく。
けれど……もし本当にこれをやったのだとしたら、もちちゃんは相当勇気がある。
かなりの部分が説明できるし
「……うん。なんでイオリンのエレベータが爆発したのかわかったよ」
ふーちゃんやっぱり名探偵の才能あるかもしれない。
Side:猫乃木もち 一人称視点 六階【02:05:32】
「……双葉ちゃん。あたしに何かよう?もしかしてあたしを殺しにきた?あたし血生臭いの嫌なんだけど……」
色々と聞きたいことはあるけれどとりあえず軽いジョブから。
現在のあたしの武装は六階で拾った防弾チョッキにヘルメット、それにプラスチックのバックラーと防御特化な装備。この装備なら目の前の相手に不意を打たれることは無いだろうし、即戦闘!じゃなくて多少は情報収集する余裕はある。最終的には脱落してもらうけれど。
この装備は逃げるときに少し不安があるけれど相手は手負いだしね。
「うそつき。もう三人はころしているでしょ?」
……!あずきち、すずちんはともかくりこぴんまで知っている?警戒レベルを少し上げよう。
けれどもしかしたら二人分しか知らないけれどカマを掛けているってパターンもありえる。
というかそちらの可能性の方が高い。
とりあえずジョーカーで誤魔化すべきかな。
「そんなことないよーだってあたし殺す旨みが薄い解除条件だよ?」
と言いながらジョーカーのPDAを取り出す。
……双葉ちゃんか。双葉ちゃんには始めて会ったからどれに偽装したら良いか分からない。今ジョーカーの偽装は8にしているけれど……Qにすれば問題無いかな。
「ほら見てあたしのPDAはQ。殺す意味はほぼ無いよ。たぶん双葉ちゃんは誰かに嘘をつかれたんじゃない?戦闘が起きてくれるとうれしい人はたぶんいっぱいいるよ?」
誤魔化せるかなどうかなと思っていたけれど上手く誤魔化せたみたい。
あたしの言葉は聞いた双葉ちゃんは緊張していた顔が和らぎ、少し考えるそぶりを見せたあとこう言った。
「そっか。じゃあさ、ふーちゃんの解除条件は6なんだけど。ジョーカーもってたり、もってる人を知ってたりする?」
6?……6!忘れてた!そんな解除条件あったね!……あたし今まで何回ジョーカーの偽装使ったっけ?
1、2、3、4……うん。今の合わせて最低五回は使ってるね。
この場で双葉ちゃんを殺れば何の問題も無いけれど、逃したときのことを考えるとちゃんと6のPDAのことを考えて使う回数をセーブするべきだったな。
「もちちゃん苦虫をかみつぶしたような顔をしてるね。何か知ってるでしょ?」
どうやらあたしの心の中での後悔が顔に現れていたようで、あたしがジョーカーについて何か知っていることがバレてしまった。
どうにかして誤魔化さないと。
「うん。シロちゃんがジョーカーのPDAを持ってたんだよねー。さっきまで一緒に居たんだけどついさっき別れちゃって……それで別れなきゃ良かったなって思ってさ……」
よっしゃー!我ながら良い誤魔化し方。
きっと10人中9人は騙される演技だっただろうね。
たださ、人を騙す演技というのはそもそも相手が全ての事実を知っていたら意味をなさないわけで。
「ぜんぶウソでしょ?」
「えっ?」
「もちちゃんの本当のPDAは9だし、今見せたのはジョーカーの偽装。そしてりこぴん、イオリン、あずきち、すずちゃんを殺した犯人でもある。違う?」
どうやら双葉ちゃんは10人中の1人……どころか真実を知っていたらしい。
双葉ちゃんが言っていることはほぼ合っている。イオリンについては心当たりが無いからそれ以外はだけど……いや、心当たりが無いことも無いかな?
ともかく何を知っているのかが分からなくて怖いからさっさと脱落してもらおう。
あたしは双葉ちゃんにバレないようにこっそり腰に手を当てて閃光弾を手に取ろうとした。
「まってよもちちゃん。視聴者のみんなも今盛り上がっていると思うよ?ここにいるのは二人だけなんだからそう急がなくても良いんじゃない?せっかくなんだしふーちゃんの推理を最後まで聞いて欲しいな。どうしてバレたか気にならないなら、別にしょうがないけれど」
けれどその行動はばれていたようで直前でストップがかかってしまう。
確かにどうしてバレたのかは凄く気になる。気になるけれど……予期せぬ事態が怖い。
さっさと脱落させるのが一番楽かつ安心だけれど何故バレたかが分からないとこの先足をすくわれてしまうかもしれない。
うーん。あ、そうだ。伏兵がいるかどうか判別する方法をあたしは持っていた。
ジョーカーとすずちゃんのPDAを取り出して『PDA探知機能』『振動探知機能』を使用。反応は……あたし達二人以外の反応は六階に無し。
近くに階段もない以上、これで双葉ちゃんが時間稼ぎしている間に近づいた協力者があたしを殺すことを狙っているという可能性はほぼ無くなった。
なら……聞いても大丈夫かな?
「使ったのは……PDA探知機能?分かったとはおもうけどここにいるのは双葉だけだよ」
あたしがPDAを操作している間静観していた双葉ちゃんが訊いてきた。
「そうだよ。確かにこの階にはあたし達以外いないみたいだね」
実際は振動探知機能も使っているけどわざわざ余計なことまでいう必要はないよね。
「そう、そのジョーカーに入っているPDA探知機能がもちちゃんの行動の鍵……じゃあこれからふーちゃんが考えた推測を言うけれど殺さないでね」
「しょうがないなぁ良いよ」
「まずちえりちゃんりこちゃんすずちゃんの三人との最初のコンタクトでもちちゃんは自分がQのPDAって言ったっていうことはその時点でジョーカー持ちだったっていうことだよね」
「そもそもあたしのPDAはQだから前提が間違っているけれどね」
「まぁちょっと待って。この推理はもちちゃんが9であるという前提で組んでるからその可能性は今はスルーするね。ちゃんともちちゃんが9である根拠は後で話すし、とりあえず続けるよ」
あたしが9である根拠ねぇ。ピノちゃんに聞いたとかだろうけれどピノちゃんが嘘をついているパターンは考えないのかな?
「その時点でジョーカーを持っていたならばたぶん開始してすぐジョーカーが手に入ったんだろうね。いち早く二つのPDAを手に入れたもちちゃんはきっと誰よりも早く行動指針が建てられたはず。自分が有利な状況にあるならアクティブに動けるし、ジョーカーにもルールが二つ書いてあるから状況把握もしやすかっただろうしね」
「へぇ、まるでジョーカーを仕様を把握しているみたいな言いかたじゃん。もしかして最初にジョーカー持っていたのって双葉ちゃんだったりする?それでごんごんに渡ったとか」
「ふーちゃんはサブゲームマスターですゆえ、そういう仕様は把握済です」
「サブゲームマスター……そういうのもいるんだね。今更そこは嘘だとは思わないけどサブゲームマスターがこんなに干渉しても良いの?」
「教えてもらえるのは有利になりすぎない程度のゲームの仕様とこの世界で不具合が起きたときの対処法くらいだし、それ以外の条件は普通のプレイヤーと変わらないから問題無いと思う。駄目だったら今干渉しているだろうしね」
サブゲームマスター……?サブゲームマスターねぇ。双葉ちゃんが嘘を付く理由も無いし、本当にそういう役職があるんだろうな。
有利になりすぎない程度の情報しか渡されないなら序盤での事故死もありそうだし、サブゲームマスターが序盤で死んだら世話無いからもう一人くらいいそうだなー。
「話をもどすよ?……りこちゃんは銃でやられていたらしいね。でも二階の時点で銃っておかしいんだよ。だって銃は三階より上にしか無いから。となると銃をもちちゃんが既に持っていた理由は一つ。その時点で一度上の階に行っていたんだ」
双葉ちゃんはどんどん話を続ける。
「でも一階一階は凄く広いから三階まで行って戻ってきてすずちゃんたちと合流っていうのはとてもじゃないけれどむずかしい。罠で落ちるのも隠し階段を見つけるのも結局時間がかかる」
「となると可能性はひとつ。エレベーターしかないよね」
……これマジで全部バレてる感じかな?
「ジョーカーを手に入れたもちちゃんは誰よりも早く行動を開始して……たぶんすぐエレベーターを見つけた。エレベーターはどの階に行っても同じ位置にあるからみんなが寝ている間とか数回は行けたはず。そのときに銃とか拡張ソフトウェアとか手にいれていた。違う?」
「違う?って言われてもそもそもあたしQだし、なかなかスジが通っていておもしろいなとは思ったけどね?」
「おうじょうぎわがわるいなぁ。……ところで9が一番おそれることってなんだと思う?」
「……そりゃ誰かが首輪を解除して侵入禁止エリアになっている階層まで降りることなんじゃないの?」
「うんうんそうそう。だからPDA探知機能を手に入れたら間違いなく安心すると思うんだよね。9は。降りる階段を目指して動くPDAがあったらそれを狙っていけば動けば良いんだし」
「ただ一つだけ予兆が読みにくく、しかも対処が間に合わないのがある。それがエレベーター」
「罠とか隠し階段は?」
「そんな起こる可能性が低いものの対処法を考えて実践なんかしていたら最終目標の全員死亡が達成できないよ?そんなあほなことしないよねもちちゃんは」
「……」
「さてここでもちちゃんは考えました。『今まで便利に使っていたけれどよく考えたらこれ危ないなぁ。爆破でもしておこうかな』と」
「ふぅん。それでエレベーターが壊れているっていう話?」
残念ながらそのままの答えじゃ外れなんだなぁ。そこさえバレていないなら問題ない。あたしがずーっと頭を動かして思いついた一世一代のトリックがまだ誰にもバレていないって分かっただけでも双葉ちゃんの長い推理を聞いた甲斐があったってもんだ。
「と、話が行けば簡単だったんだけれどもちちゃんが考えたのはもっとリスクがあってフクザツなやり方だった。」
……
「ところでさ、さっきもちちゃんが脱落させたメンバーの中にイオリちゃんを混ぜてたじゃん。イオリちゃんってさ首輪の解除に成功してエレベーターで下の階層に降りる途中でなぜかエレベーターが故障して脱落しちゃったんだよね」
「うん。あずきちが言ってたからそれは知ってるよ。……それをあたしがやったって?無理だよそんなの。どうやってイオリンが降りるタイミングがわかるのさ」
>>456訂正
「ところでさ、さっきもちちゃんが脱落させたメンバーの中にイオリちゃんを混ぜてたじゃん。イオリちゃんってさ首輪の解除に成功してエレベーターで下の階層に降りる途中でなぜかエレベーターが爆発して脱落しちゃったんだよね」
「うん。あずきちが言ってたからそれは知ってるよ。……それをあたしがやったって?無理だよーそんなの。爆発させること自体はソフトウェアさえあれば誰でもできるだろうけどどうやってイオリンが降りるタイミングを把握できるの?」
「ジョーカーに入っている『PDA探知機能』があるじゃん。あれを使ったんだよ」
「エレベーターにPDAの反応があって降りているときに爆破したと……。でもさ、あずきちに聞いたけれどイオリンは首輪を外してPDAもあずきちに渡していたみたいじゃん?エレベーターの中にいるかどうかは振動探知機能じゃ分からないだろうし、双葉ちゃんの推理だとおかしくない?」
「だから自分の9のPDAをエレベーターに仕掛けたんでしょ?エレベーターに直接PDAを仕掛けておけばPDA探知機能で探知が可能だから」
「…………自分の生命線であるPDAをずっと持ってないって流石にバカなんじゃ」
「9は持っている方がリスクが大きいし、ジョーカーも持っていたから問題なかった。だから思いきって9を隠した」
「エレベーターに仕掛けてたら爆発させるときに壊れちゃうんじゃないの?」
「中に入る人を脱落させるのが目的ならそこまで威力は必要ないよね?床を破壊するだけでもまっ逆さまに落ちて終わりだし。あと爆弾を仕掛けたのはエレベーターだろうけれどPDAをつけたのはエレベーターを上下させるのに重要なヒモの方だろうし爆発に巻き込まれて壊れる可能性は低いよ」
……完璧にバレていると分かった以上、もう待つ必要はない。9である根拠についてまだ教えてもらっていないけれど早く排除する方が優先順位は高い。
あーあ、どうせ9っていう無理ゲーだし、博打打ちまくりのやり方やっちゃおうかなーと思って上手く嵌まったのになぁ。
「ふぅん。面白い予想だね。あとは9の根拠とかを教えてもらえば終わりかな?ちなみにこれって双葉ちゃん一人で考えたの?」
気を反らすためにこっちが質問を振る。双葉ちゃん以外にこのことを知っている人がいたら困るし、最後にこれだけは聞いておきたい。
「ふたりで考えた」
「誰と?」
「えっとねぇ……」
双葉ちゃんが口に出すのを迷っているのか一旦言葉を止めて……ん?あたしよりも後ろの方を見た?
もしかしてあたしの背後に何かいるの?
でもここで双葉ちゃんに何かされるのも怖い。
どうしようか
双葉ちゃんが再び口を開いた。
結局、あたしは振りかえった。そしてそこにいたのは。
「なとちゃん!」
緑の服に短いスカートの少女と、その周りには何体もの四足歩行ロボット。
そのロボットの口の中には銃口があり、あたしの方に向いている。
勝手に動くロボット。明らかに四足歩行する羊のフォルム、そして特徴的なちょーださい足のカラーリングからも考えてあれらが『オートマトン』だろう。
タッタッタッタ
あたしの背後で双葉ちゃんが遠ざかる音が聞こえる。
なるほどさっきまでの双葉ちゃんの大演説は味方がオートマトンを揃えてくるまでの時間稼ぎだったんだねぇ。
『PDA探知機能』にも『振動探知機能』にも一切引っ掛からなかったのが気になるところだけど目の前にいる以上、そんなこと考えても仕方がない。
あたしは少しでも防御しようと大急ぎで後ろ走りしながらバックラーを構える。
数秒後には銃口から銃弾の嵐が降りかかった。
最終章前半戦これにて終了です
は?お前嘘だろって位置に9は隠していましたが皆さん分かりましたでしょうか。
たぶん正解者はいないと思います。
補足になりますがもちちゃんは最初の六人で集まった時点で9は置いていっています。もしもなとなとによってジョーカーしか持っていないとバレた場合、誰かに盗まれたから自分のPDAが何か分からない。と言う予定でした。
293辺りでもちちゃんが9だと分かるときに解除条件画像が出てこなかったのもそもそも持っていないからというオチでした。
せっかくなので今貼ります
次回は最終更新です。ストックが無いのでまた遅くなると思います
貼れてなかったので再掲
何で二回もミスってるんですかね……
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