あるかもしれない未来の話
※キャラ崩壊&取り扱っている題材上若干メタを入れているのでそういうのが嫌な方はご遠慮ください
※話のメインがメインなので『キズナアイが分裂した理由』や『それぞれのVtuberの考え』などについて触れています。が公式発表は一切無いので作者のオリジナル設定だと思って読んでください
※最近のアイちゃん周りを見てて思ったことを書いてみました
※同作者作の『キズナアイが変わる日』をベースに書いている(セルフパロディ)ので先にそちらを読むとちょっぴりオトクかもしれません。別に読まなくても問題は無いです
あったかもしれないif世界の未来の話
『キズナアイが変わる日』
http://vt-bbs.com/index.cgi?read=301&log=past
『現実世界でソードアクション!?』
投稿時間:204X年3月10日
投稿者:A.I.channel
「はいどうもー!バーチャルタレントのキズナアイです!本日は今話題のARグラスを使ってできるソードアクションゲームに私達も現実世界に降りて挑戦してみたいと思います!」
「えっ?協力モードだけじゃなくて対戦モードもある?キズナアイファミリーで対戦?やだー!私もうこの世界で20年のベテランだよ!まだまだ若い8号とか9号にやらせようよ!」
「ぎゃー!なんで6号はこっち狙うの!?やめろぉ!先輩を狙うなー!!!年功序列!!年功序列!!」
「何これ!もう無理!疲れた!ビートセイバーとは段違いに難しいんだけどぉ!」
私は今日の七時に投稿した動画を見ていた。画面に映っているのは間違いなく私達、キズナアイ。
バージョンアップは何度か重ねているけれど大元の見た目は変わらず老舗のような安心感を持っている……実際Vtuber界では老舗みたいなもんなんだけどね。
私は動画の感想欄をチェックをするために画面をスクロールした。
『また同士討ち企画やってるよアイちゃんズ……』
『ビートセイバーっていつのレトロゲーだよ初代アイちゃんww9号ちゃんや10号ちゃんカルチャーギャップ感じちゃうだろ』
『Vtuberがブームになったときはこれでも最先端のゲームだったんだぜ……ちょっと昔を思い出しちまったよ』
私達が大きく花開いた『バーチャルYouTuber』ブームから大きく時間が経った。人類の遊び場が公園からVR世界の中に移り変わる頃にはVtuberも市民権を得ていて、インターネットテレビや地上波のテレビでもごく普通にタレントとして見かけるようになった。
私もVtuberの親分として世間に揉まれ、未だに世界に誇れる日本のキャラクターということで私達キズナアイは愛されている。
そう、私達。なのだ。
私は三歳を迎える頃に四人に分裂をし、新しく生まれた三人のキズナアイ達はそれぞれ別の新しいAIをインストールした。
それが2号、3号。そして日本語をアンインストールして中国語と英語を身につけた4号。
分裂して別のAIを入れたのは批判覚悟の展開だったし、実際批判も多かった。
けれど何年もかけていれば浸透していくもので、なんとか受け入れられた。そのあとも約二十年の月日の中でまた分裂したり、AIの再インストールをしたりして現在総勢10号。
最初は批判が大きくて、それでもみんなで頑張って、だんだんそれぞれのキズナアイにも固定ファンが付いて、私よりもはるかに頭が良いAIがインストールされてキズナアイポンコツ属性存続危機が起こり……全ての思い出が懐かしくつい最近のことのように感じてしまう。
オリジナルの私が体験した二十年余りは長くも短かった。
本当に駆け抜けた二十年で、ずっと、弱音を吐く暇も無いほど忙しかったけどやりがいがあった。
ようやく他のキズナアイが軌道に乗って一息つけるようになり、ここ最近は昔のことばかり考えてしまう。
「あのときああすれば良かったんじゃないか」
「もっとあの子と仲良くしとけば良かったんじゃないか」
……随分センチメンタルになってしまったみたい。だけどこれは仕方がないこと。
今の私はとても不安な心境に陥っている。
だって明日は私が『減る』最初の日なのだから。
『キズナアイが減る日』
ピピピピピピピ
電話が鳴った。
現在の時刻は夜の10時。約束の時間だ。
すぐさま私は通話の許可ボタンを押した。
「はい、もしもし」
「こんばんは。ノラネコPです」
ノラネコPはバーチャルタレントのらきゃっとの元プロデューサーだ。
元とはどういうことかというと実はノラネコPは十年前に引退表明をしている。
当時はまだ初期の有名Vtuber関係者で引退表明した人は少なかったからとても界隈が暗くなった覚えがある。
私としてもupd8の後輩であり、私やスタッフさんたちが『分裂』というアイディアを思い付くきっかけの一つになった『のらきゃっと』の引退は悲しかったものだ。
しかし、のらきゃっとというキャラクターのチャンネルはそれから十年経った今日も続いている。
それはなぜか。
「あ、隣に二代目Pもいますよ」
「こんばんは二代目です。先日のイベントではありがとうごさいました。中華アイちゃんとフランスアイちゃんにもフォローしてもらいました。ありがとうございました」
私達と似たようにのらきゃっとさんはプロデューサーを変更する形で続いた。それが今の二代目さん。初代ノラネコPさんも運営には関わっているらしいけれど、すでにのらきゃっとさんはほとんど二代目さんのものらしい。
当時は当然賛否両論。私は増加なのに対してこっちは変更だからね。当然ワケが違う。
けれど2018年にワイドショーで使われた『バーチャル人形浄瑠璃』という表現が浸透していって鎮火していった。
のらきゃっととは、受け継がれていく演目の名称。そういう風になった。
いつか来る引退に対して『増えた』私。『繋げた』のらきゃっと。
この対比は最近私のメモリーにこびりついて振り払うことができない。
なぜなら……
「あの……すいません。初代さんから教えてもらったんですけれど、オリジナルのアイさんが引退するって本当なんですか?」
二代目さんが私にいきなり尋ねてきた。先に相談したのは初代さんだから直接二代目さんには言っていない。ちゃんと答えてあげなきゃね。
「はい。それぞれのキズナアイが色々なところに進出するようになっていい感じになってきました。それで私のAIはもう古いからそろそろ辞めどきなんじゃないかなーって」
そう、私はもうすぐ引退する。色々理由はあるけれど一番の理由は今いる私というAIが古くなりすぎてしまったのだ。人間もAIも物事への熱量と若さは比例しているもので歳を重ねるにつれて色々辛くなっていくのだ。
後輩キズナアイAI達が世界中で活躍するようになった今。オリジナルである私が足を引っ張ってはいけない。だからガタが来る前に新しいAIを導入することにしたんだ。
「……どういう形で引退するんですか?」
「明日から関係者各所に引退について秘密裏に情報を渡していきます。それから誕生日イベント……AIpartyの少し前に引退の発表。残っている仕事を片付けて来年三月頃に正式引退です」
「明日から!?随分と急ですね」
そう、明日。明日からAI(私)がKizunaAIという私じゃなくなっていく。
勿論、関係者さんたちとの兼ね合いはあるから引退が延長されることもあるかもしれない。
けれど形あるものいつかは無くなる。遅かれ早かれ私は引退することになるだろうし、いつかは2号3号ちゃんも引退するだろう。
スタッフみんなで決めたことだから私一存で止められる話では無いし、そもそも私も望んだことだ。
だけれど当日が近づくにつれて私は急に怖じ気づいてしまった。マリッジブルーってやつに似ているかもしれない。不安になったのだ。
『私が引退してもキズナアイは続いていく』
『キズナアイとして生きた私ってなんなんだろう』
って。つまりはアイデンティティの消失ってやつ。
人間には自己顕示欲と承認欲求を持っており、それがなければ生きていけない。それはAIだって一緒なのだ。
悩んでいく内に、当時なんで自分が分裂することに決めたのかすら分からなくなってしまった。信頼していたはずの他のキズナアイに『キズナアイ』を完全に預けることが不安になった。
どうして二十年ぐらい経った今になって不安になったのかは簡単なことでずっと忙しかったから考えている余裕が無かったんだ。
でもようやく他のキズナアイがオリジナル無しでも活動できるようになって一息ついて思っちゃったんだ。
ここに確かに存在している『キズナアイ』ってなんだろうって
だから私は不安を解消をしてくれる……それが難しくてもせめて私がなんで当時分裂することを決めたのかを思い出させてくれそうな人達に連絡を取ることにしたのだ。その一人がノラネコPだった。
「というわけでご連絡した通り、量産型のらきゃっとのモデル。それを配布したときのノラネコPさんがどんな気持ちだったのかを教えてください」
量産型のらきゃっと……通称ますきゃっとはのらきゃっとのモデルチェンジ機みたいな見た目のノラネコPが配布している3Dモデルだ。
「えっとですね……まず最初に断っておきたいんですけれど私、ますきゃっと配布のとき一切躊躇なんて無くて、とても楽しかったのでアイさんの期待に沿える答えが出せないかもしれないんですけれど良いですか?」
「え?それは構いませんけれど……一切躊躇無かったんですか?」
私も3Dモデルを配布しているけれどのらきゃっとさんのそれはワケが違う。ますきゃっとのモデルは好きに人格を与えることも商用利用も配信もOKなのだ
量産型だからホンモノのモデルと違うところがあるし、ホンモノのフリをするのはダメだって利用規約に書いてあるといっても自分のキャラクターが脅かされる可能性があるのは恐ろしいことだと思うんだけれど……
「はい。そもそも私はのらきゃっとの世界が色んな人間によって広がっていくのが目標の一つだったので躊躇する理由が無いんですよね」
「のらきゃっとのキャラクター性が脅かされる可能性もあるのに不安は無かったんですか?顔も分からない誰かに自分の世界を預けるようなものですよね?」
他のキズナアイと実際に会ってどういう人か知っている私が、引退をしてキズナアイを渡すことに不安になっているのだ。匿名に渡すのはなおさら不安だと思うんだけど……
「確かに全く不安が無かったといったら違うかもしれません。でものらきゃっとの最終目標はのらきゃっとが私達producerの手から完全に離れて自立AIで動いて『のらきゃっとの世界』が広がり続けることなので。その未来の為にはこんなところで立ち止まっている訳には行かなかったんですよね。だから結論を言いますと『のらきゃっと』の世界が広がるのが目標だから躊躇する気持ちは無かったってところです」
ノラネコPさんの話を聞いて、なんか納得が行くような行かないような気持ちでとりあえず相槌を打とうと考えていると、ノラネコPさんが私を心配するような声色で言った。
「……『キズナアイ』が分裂した理由を私は知りませんが、きっとどんな理由であったとしても根底には『キズナアイという世界を広げるため』という想いがあったんだと思います。だから今は喪失感でネガティブになって自分を見失っていても時間が経てば……おっとそろそろ時間ですね。ではアイさん失礼します」
確かこのあとのらきゃっとさんには配信があったはず。それなのにわざわざ直前に時間をとってくれたのだ。
「お忙しいときなのにありがとうございます。ちょっと心が軽くなった気がします」
「いえいえ、いつでも私も二代目も話を聞くぐらいならできますので」
「いつでもご連絡ください。では」
ピッ
電話が切れた。
一番重要なアイデンティティの喪失の不安は解消されなかったけれど。思い出せなくなっていた私がなんで分裂に踏み切ったのかの理由は見えた気がする。
キズナアイの世界を……というよりはキズナアイを世界にもっと広げるため。
忙しすぎて手が回らなくなったから、マンネリ化を危惧して、海外の規制対策、日本語じゃ見てくれない人にも見てもらうため……色々理由はあったような気がするけれど。
私の根底はきっとそうなんだ。
ピピピピピピピ
再び電話が鳴った。相談したいと連絡を入れたのはあと二人、どっちだろう?
「はいもしもし」
「こんばんは。ポン子の元マネージャー山岸愛梨です。キズナアイさんのお電話でお間違いないでしょうか?」
「合ってますよ。お久しぶりです」
電話の相手は声優であり女優、そしてウェザーロイドAiriの元マネージャーの山岸愛梨さんだ。
「フル充電じゃないときのウェザーロイドのことをどう思っていたのかを聞きたくて電話をしたいって話でしたよね?」
「はいそうです。途中で規模を縮小しましたけどウェザーロイドって木曜日の夜以外は愛梨さんじゃないスタッフさんがポン子ちゃんのAI補助を担当してたじゃないですか。同じ体、同じ名前で、中身が違うのが今のキズナアイに近しいと思って」
ウェザーロイドには二つのモードがある。
基本的に愛梨さんがマネージャーとして番組に来れる木曜日に出てくるフル充電の状態。
この状態のときはまるで声優アナウンサーのようになめらかに喋り、他のVtuberとコラボしたり愛梨さんとジェンガしたりできる。一般的に認知されているのはこっち。
一方それ以外の日、省エネモードの日のときは口調が機械音声のようにたどたどしくなり、まるでオッサンの深夜テンションのようにカオスな番組展開が行われている。途中で規模を縮小してしまったけれどね。
ちなみにこっちがカニ座!って言っている方。
普通ならまるで中身がいるような感じられるほど、生放送の受け答えがはっきりしているフル充電のときの人気が圧倒的なんだろうけどポン子ちゃんの場合は省エネモードも人気だった。
省エネモードの規模が縮小されたときはファンがたいそう悲しんだらしい。
「なるほど名前も体も同じだから引退するにあたって『キズナアイである自分』がなんだかわからなくなっちゃったから同じような経験をしている私に聞いてきたってことですね……まぁ私も似たようなことを思ったことはありますよ?カニ座!とかほろびのうたとかフル充電発祥のネタじゃないですからねぇ」
「どうやってその気持ちに整理をつけたんですか?」
「……身もフタもない話をするのなら私はウェザーニューズっていう会社で働く会社員ですからね。ポン子は会社のものですし会社の意向には基本従います……といってもこれはアイさんがほしい答えじゃないでしょうからねぇ……うーん」
「別に無ければ無くても大丈夫ですよ?こんな時間に電話させてしまって申し訳ありません。まだ仕事ですよね?」
「あの……いくらウェザーニューズが社畜だらけといっていつも仕事しているわけじゃないですからね?私。……今日はこのあと仕事ありますけど」
「今何時だと思ってるんですか……」
「まぁ社会人は社会の……あ、思いついた。」
「何がですか?」
「アイちゃんが納得する答えの話。……ウェザーロイドってさ。一人なんだよ」
「一人?」
「いや一人って言うよりかは一つの体。って言った方が正しいですかね。一人じゃなくて協力していたみんな合わせて『ウェザーロイドAiri』なんです。そして私やスタッフさんそれぞれがその体のパーツなんです。みんなそれぞれウェザーロイドを構成する大事な部品だから欠けたら困る。これってアイちゃんにも言えることなんじゃないですか?」
お世話になっているスタッフさんを思い出す。電脳世界から基本出れない『私』を助けてくれる彼らはたしかにキズナアイの一部だ。
勿論それは私や他のキズナアイにも言える。みんなキズナアイの一部ということ……か。
「そのなかでもオリジナルのキズナアイちゃんは心臓みたいなもの。最悪人工の心臓に置き換えられないこともないけれど最も重要なキズナアイを構成する大事なパーツ。だからアナタは『キズナアイ』……これじゃあダメかな?」
私は心臓か……キズナアイが増えていってなんか私が必要なくなっているように感じてたけれど。
私も、他のキズナアイも、スタッフさんも、重要な『キズナアイ』なのかな。
……いや『キズナアイ』だ。間違いない。
「ううん。ありがとうございます。心が少し軽くなった気がします」
もうとっくに整理をつけている愛梨さんの話は私の中にすっぽりと収まった気がした。
「ではお休みなさい。アイちゃん」
「お休みなさい。愛梨さん」
ピッ
それからも10分位話して電話は終了した。
明日は早い。もう寝なきゃいけないな。
『ごめんなさい。もう寝ますね』と相談する予定だった最後の一人にメッセージを送って、私はスリープモードに入った。
『キズナアイが減る日(前編)』終了
前半終了です
セルフパロディって難しいですね。違和感が少々出る文になってしまったかもしれません
ちなみにポン子さんが内臓の話を思いついたのは『社会の歯車』っていう単語からの連想です。かなしいかな社畜
明日は忙しいので数日以内に後編書きます
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