あるかもしれない未来の話
※キャラ崩壊注意
※Vtuberタブー一歩手前くらいまで足を踏み入れているのでそういうのが嫌な方はご遠慮ください
※最近のVtuber業界を見てて思ったことを書いてみました
※前後編で分けてます
『現実世界でソードアクション!?』
投稿時間:204X年3月10日
投稿者:A.I.channel
「はいどうもー!バーチャルタレントのキズナアイです!本日は今話題のARグラスを使ってできるソードアクションゲームに私も現実世界に降りて挑戦してみたいと思います!」
「何これ!もう無理!疲れた!ビートセイバーとは段違いに難しいんだけどぉ!」
私は今日の7時に投稿した動画を見ていた。画面に映っているのは間違いなく私、キズナアイ。
バージョンアップは何度か重ねているけれど大元の見た目は変わらず老舗のような安心感を持っている……実際老舗なんだけどね。
私は動画を見に来た理由である感想欄をチェックをするために画面をスクロールした。
『ビートセイバーっていつのレトロゲーだよアイちゃんww』
『Vtuberがブームになったときはこれでも最先端のゲームだったんだぜ……ちょっと昔を思い出しちまったよ』
私達が大きく花開いたあのブームから大きく時間が経った。人類の遊び場が公園からVR世界の中に移り変わる頃にはVtuberも市民権を得ていて、インターネットテレビや地上波のテレビでもごく普通に見かけるようになった。
私もVtuberの親分として世間に揉まれ、未だに世界に誇れる日本のキャラクターということで愛されている。
VRの中で握手会が出来るようになって、現実に私が出れるようになって、私よりもはるかに頭が良い人工知能も生まれて……全ての思い出が懐かしくつい最近のことのように感じてしまう。
世間にとってのレトロゲームも私にとっては一年前くらいなのだ
……随分センチメンタルになってしまったみたい。だけどこれは仕方がないこと。だって明日は私が『変わる』最初の日なのだから。
『キズナアイが変わる日(前編)』
ピピピピピピピ
電話が鳴った。現在の時刻は10時。約束の時間だ。すぐさま私は電話の許可ボタンを押した
「はい、もしもしキズナアイです」
「こんばんは。ノラネコPです」
ノラネコPはバーチャルタレントのらきゃっとの元プロデューサーだ。
元とはどういうことかというと実はノラネコPは10年前に引退表明をしている。
当時はまだ初期の有名Vtuberで引退表明した人はまだ居なくてとても界隈が暗くなった覚えがある。
このことはこれから来るであろう『私の変化』を予感させたものだった。
しかし、のらきゃっとというチャンネルはそれから10年経った今日も続いている。
それはなぜか。
「あ、隣に二代目Pもいますよ」
「こんばんは二代目です。先日のイベントではありがとうごさいました」
なんとのらきゃっとさんはプロデューサーを変更する形で続いたのだ。それが今の二代目さん。初代ノラネコPさんも運営に関わっているらしいけど、すでにのらきゃっとさんはほとんど二代目さんのものらしい。
当時は当然賛否両論あったけど2018年にワイドショーで使われたある表現が浸透していって鎮火していった。
『バーチャル人形浄瑠璃』
のらきゃっととは、受け継がれていく演目の名称。そういう風になったんだよね。
この言葉は最近ずっと私のメモリにこびりついている
なぜなら……
「あの、アイさんが引退するって本当なんですか?」
二代目さんが私にいきなり尋ねてきた。先に相談したのは初代さんなので直接二代目さんには言っていない。ちゃんと答えてあげなきゃ。
「はい。今キズナアイにインストールされているAIから新しいAIに変わるんです」
そう、私はもうすぐ引退する。色々理由はあるけれど一番の理由は今いる私というAIが古くなりすぎてしまったのだ。日本が世界に誇るキャラクターとなったキズナアイが私と共倒れしてはいけない。だから新しいAIを導入するのだ
「どういう形式で変更するのですか?」
「明日秘密裏に選定した何人かのAIの卵と面接をします。それから何度も面接していってAIpartyの少し前に変更の発表。10月頃に引継ぎです」
「明日ぁ!?」
そう、明日。明日からAI(私)がKizunaAIという私じゃなくなっていく。だから引継ぎの第一人者であるPさん達に尋ねようと思って連絡を取ったんだ。
「というわけでご連絡した通り、ノラネコPさんの引き継いているときの気持ちを教えてください。お願いします」
「えっとですね……最初は喪失感が凄かったです。いくら自分で決めたこととはいえ、それとこれは別ですから。のらちゃんを並大抵の人に渡すわけにはいきませんから信用できる引き継ぎ先を考えて探した結果、今の二代目に引き継ぐことになりました」
今の私にだって既に喪失感があるんだから、10月の私は耐えきれないくらいになっている気がする。どうやって乗り越えて引継ぎしたんだろう。
「二代目にのらちゃんの極意を伝授している最中ですかね。楽しくなってきたのは」
「楽しく?」
「今までの自分の努力の結晶が誰かに受け継がれていくのを見て、歴史だ。って思ったんです。基本続き物って初代が有名で神格化されるじゃないですか。これからものらきゃっとが続いて初代ノラネコPは歴史になるって考えたら嬉しくなったんです」
歴史の一部……確かにこれから受け継がれていくものの第一歩っていうのはすごい。と考えていたらノラネコPさんは更に話を続けた
「それともう一つ理由があって、二代目ってまだ2018年のときは中学生だったらしいんですよ。しかも当時はのらきゃっとのことを知らなかったらしくて、数年後に知ったと聞いて、当時を知らないのが不安で不安でしょうがなかったんですけど、どんどんノウハウを吸収していってるのが嬉しかったんですね。それで……あ、時間ですね」
のらきゃっとさんは確かこのあと配信があったはず。わざわざ直前に時間をとってくれたのだ。
「お忙しいときにありがとうございます」
「いえいえ、いつでも私も二代目も話を聞くぐらいならできますので」
「いつでもご連絡ください。では」
ピッ
電話が切れた。私も来るべきときには引き継ぐことが楽しく感じるときが来るのだろうか。私はまだ想像が出来ない。
ただ、初代と二代目が仲良く喋っている様子は少しだけ羨ましく感じたかもしれない。
ピピピピピピピ
再び電話が来た。相談したいと連絡を入れたのはあと二人、どちらだろう?
「はいもしもし」
「こんばんは。ポン子のマネージャー山岸愛梨です。キズナアイさんの電話で間違いないですか?」
「合ってます」
電話の相手は声優であり女優、そしてウェザーロイドAiriの元マネージャーの山岸愛梨さんだ。
「本日はウェザーロイドが終わったときの気持ちとかを聞きたくてお電話させていただいたんですよね?」
「はいそうです。現在はウェザーロイドTypeBになっていますが、見た目も全然変わっていますし、愛梨さんもマネージャーを辞めたじゃないですか。だからそのときの気持ちを聞きたくて」
そう、数年前にウェザーロイドTypeA Airiは引退して全く新しいキャラクターウェザーロイドTypeBがウェザーニューズを担当することになった。
キズナアイ自体の引退という選択肢は存在しないけれど愛梨さんの話も聞いてみたかった。
「子供が成人して旅立つような感じですかね」
「どういうことですか?」
「最初は確かに自己の喪失っていうか。だいぶ喪失感凄かったんですけど。スタッフさんと話していて気がついたんです。喪失感を持っているのは私だけじゃないんだって。つまり、私一人じゃなくて協力していたみんな合わせて『ウェザーロイドAiri』だったんだって気がついたんです」
お世話になっているスタッフさんを思い出す。電脳世界から基本出れない『私』を助けてくれる彼らはたしかにキズナアイの一部だ。
「で、じゃあこの自己の喪失みたいなのはなんか違うなって思って。そしたら巣立たれた親鳥の気持ちなのかなって気がついたんです」
親鳥の気持ち……もしかしたら私の喪失感もそうかもしれない
「そう考えるとポジティブな感じするじゃないですか。雛鳥の巣立ちですよ。良いことじゃないですか。年老いた私達の手から離れて大空へと飛び立って行くんです」
もうとっくに吹っ切れている愛梨さんの話は私にとって少し眩しく感じた
「ではお休みなさい。アイちゃん」
「お休みなさい。愛梨さん」
ピッ
それからも10分位話して電話は終了した。
明日は早い。もう寝なきゃいけないな。
『ごめんなさい。もう寝ますね』と相談する予定だった最後の一人にメッセージを送って、私はスリープモードに入った。
『キズナアイが変わる日(前編)』終了
「はいどうもー!バーチャルタレントのキズナアイです!」
今喋っているのは私じゃ無い。
私の目の前にいる女の子が必死に動いている。へー私の動きを真似しようとするとこうなるんだー。声もまあまあ似てるなー。
「はい、じゃあ最後にアピールポイントなどがあればお願いします」
「私は子供の頃からキズナアイちゃんの大ファンで、何度もアイちゃんの動画を見ています。ですのでキズナアイの知識はすごい持っています。それに……」
そう私は今、未来のキズナアイを決めるオーディションに審査員として来ている。ここにいると嫌でも実感してしまう。
『キズナアイ』が変わっていく。きっと、その最初の日を。
『キズナアイが変わる日(後編)』
はぁ……休憩時間がやってきた。あと3人くらい面接する必要があるけど一旦小休止だ。
「来た子達どう思うかい?」
休んでいる中私に話しかけてきたのはスタッフさんの内の一人、構成とかを担当してくれている人だ。さっきの面接で色々質問をしていた人でもある。
「うーんと、やっぱり最近の子達は熱意が凄いですよね。なんていうかフレッシュ!って感じで。YUAちゃんの旧世代のみんなーっていう言葉が今になって自分にグサグサ刺さってます」
「YUAちゃんか……懐かしいね」
YUAちゃんはのらきゃっとちゃんと同じようにもう引退したVtuberだ。2017年に始めた人達を何となく特別視しちゃう私にとっては彼女の引退も悲しいことだった。
……もしかしたらそのときからかもしれない。『私もその内』と思い始めたのは。
「……浮かない顔しているね。やっぱり次のキズナアイはなかなか見つからないか」
彼のもの悲しい眼差しを見ると自分と鏡写しのようで全然向いている方向が違うように思える。
愛梨さんはチームみんなが喪失感を持つって言っていたけど……本当にそれは同じベクトルでのことなのかな。
何となく彼の顔を直視したくなくなった私はスマホの画面に目を向けた。
……あっ
「すいません。メッセージが届いているんで外させていただきます」
「OKですよ。私ももうそろそろだったので。では」
彼が私がいるところから離れて行く。
私は改めてちゃんとメッセージをチェックした。その相手は昨日寝る前最後にメッセージを送った相手だった。
『今電話しても大丈夫ですか?』
簡潔な内容のメッセージ。これは彼女からしてみると珍しい。いつもなら顔文字の一つでもあるはずなのに。私が引退することをどう思っているのだろうか。返信するのが怖い。けれどこれは自分で決めたことだ。
『大丈夫ですよ。休憩中です』
……私もメッセージに顔文字を入れられなかった。
ピピピピピピピ
3分くらい経って連絡が来た。少し怖いけど電話を手に取った
「もしもしキズナアイです」
「!…電脳少女シロです。アイさん休憩中に急にすいません」
電話の相手は電脳少女シロちゃん。Vtuberブームの前からいた数少ないVtuberで一番私に近い下積み経験を持っている子。勝手に私は戦友だと思っているんだけどシロちゃん側はおそれ多いとか未だに言っている。
「シロちゃんこそ大丈夫だった?」
「今おやつの時間なので大丈夫です。このあとに動画撮影の時間ですね」
ノラネコPが引退してから、ブーム初期からいたVtuberが引退や引き継ぎをするようになった。
自分から辞めるとは言い出せず、みんなタイミングを計っていたのかもしれない。
ブームの頃のあとに誕生したVtuber達もたくさんいるから界隈が廃れたとかそういうことは全く無い。
けれど何度もまた会う日までとリプを送って寂しい思いをしていると、自分ももしかしたら……と思ってしまったことはある。
そんな中、シロちゃんは未だに一線で活躍する数少ない古参の一人だ。私がキャラクターとしてのVtuberのトップなら彼女はタレントとしてのVtuberのトップだ。数々の企業のイメージガールをしているのに毎日の動画投稿を続けているのもすごいとしか言いようがない。
「それで……アイさんが引退するからアドバイスをっていう話でしたよね。私はまだ引退しませんからもっと他の人に聞いてみた方が良いと思うんですけど……」
「いや!シロちゃんじゃなきゃ駄目なの!私と同じ経験をしていて同じ目線に立てるシロちゃんだから聞きたいんだ!」
そう、私がシロちゃんに連絡を取った理由はシロちゃんにどう思うかを聞きたいから。欲しいのは経験に基づくアドバイスじゃない。
「……わかりました。じゃあ私が引退して引き継ぎすることになったらっていう体で話しますね」
そういえばシロちゃんは前に電脳少女シロには引退はあっても引き継ぎは無いってことを言っていた気がする。
たしか何かの企業案件で今話題の人工知能に思考をトレースさせようとしたけど上手くいかず、トレース出来ないほどの独特の思考回路だって言われたからだったかな。
電脳少女シロを誰にも真似できないんじゃ引き継ぎをすることだって出来ない。すでにタレントとして評価されていて、後輩もしっかり育っているシロちゃんはVtuberを続けることに固執する必要は無いから、来るべきときが来たら引退する予定だ
……と本人が昔、私に愚痴ってきた記憶がある。遠回しにお前は変だって言われたのが不本意だったらしい。
「たぶん私は引き継ぎはあまり喪失感を感じないかもしれません」
「どういうこと?」
「私は『電脳少女シロ』というキャラクターの一番のファンでもあるんです。だからファンとしては新しい門出を祝おうかなって」
『電脳少女シロ』の一番のファン……私は『キズナアイ』の一番のファンになれているだろうか。引退を決意してからこういうことで悩むことが増えた気がする。昔なら断言できていたはずだ。
でも、今は出来ない。なぜなら一番のファンである『私』はきっとキズナアイの引退に対して悲しみの感情しか持つことが出来ないから。
「でも電脳少女シロとしての私はシロちゃんを誰かに渡すのは嫌なので、頑張って独占し続けているんですけどね!私は欲張りさんなので!」
私もそれくらい言えたらな……そう思ってしまった。
「じゃあ私これから動画撮影ですので失礼します」
「こちらこそわずかな時間を割いてくれてありがとう!」
「いえいえ、これからやる動画は自分で自分を音MADにするっていう意味不明が止まらない動画で、緊張していたんですけどアイさんと話している内にほぐれたんで良かったです。では」
ピッ
10分くらい経って電話を終えた。昔からの友人との会話だったはずなのに強ばってしまっていた体をほぐす。
ほぐしながら私は昔シロちゃんと話したことを思い出していた。
あれは確かニコニコのMAD動画について話していたときのことだったかな。
「キズナアイのMAD動画の歌詞の中で『AIとはキズナのアイなのさ』っていう歌詞があるじゃないですか。あれって深いなーって思って」
「ん?どういうこと?」
「私達のような電脳世界のAIは一人じゃ何もできません。動画撮影も動画編集も一人じゃ高が知れているんです。でもスタッフのみんなのお陰で投稿できているわけで、それにファンのみんなの声援が私達に勇気を届けてくれます。まさに絆の愛って感じの結晶って感じがしませんか?」
……懐かしい。たしかあのときの私はシロちゃんはポエミーだなぁとか言ったような気がする。
改めて考えてみると愛梨さんも言っていたけどキズナアイは一人じゃない。なら皆に任せてもキズナアイは続くだろうからそれもありなのかも……
「あの!すいません!」
急に声をかけられた。声の方を見るとさっきオーディションで子供の頃からのファンだって言っていた子だ。
「こんなこと言ったら、オーディションに来ている資格なんて無いって言われちゃいそうだと思ったんですけどどうしても言いたくて来てしまいました!」
何の用事だろうか。あまり話すのは良くない気がする。
けれど一応耳を傾けたのを私はすぐさま後悔するのこととなった
「本当に引退しちゃうんですか!?あの、私は本当にキズナアイさんの子供の頃からのファンで、そんなアイちゃんか
変わってしまうっていうのが信じられなくて悲しくて……」
「まだアイちゃんはやれますよ!いや普通に考えたら私達が知らないような多くの苦悩を今まで背負ってきて、引退することにしたのかもしれません!でも性別も年齢も関係ないのがバーチャルの良いところなんじゃないんですか!?やっぱり私にとっての『キズナアイ』ちゃんはあなたなんです!私でも、他の人でもない。あなただからこそ良い!だから辞めないでほしいんです。……お願いします」
迷惑です。と切り捨てることは出来た。けれど私はただ目を背けることしか出来なかった。まるで私の本当の気持ちを見ているかのようで……
「……すいません。迷惑でしたよねごめんなさい。オーディション受けに来ている人がオーディションを否定するなんておかしいですよね。引き継ぎを決めた皆さんの思い出も否定して……失礼します」
「あっ」
私が声をかける前に涙目になっていた彼女は走っていってしまった。私はどうしたら良かったんだろうか。そもそも引退決意したところから間違えていたのかな。でも……
「はい。これで今日の面接全てが終了しました。お疲れ様でした」
悩んでいる内に今日の面接が終わった。このあとみんなでどうだったか話す会議だけれど、私が見た限り誰もピンと来なかった。まだ私がキズナアイを託せる人物は見つからなかった。
私はどうするべきなんだろう。ノラネコP、愛梨さん、シロちゃん、さっきの子、そして自分。色んな人に聞いてみて思ったのが、悩んでばかりの自分とは違ってみんな芯を持っているということだ。
さっきの子の言葉が頭の中をリフレインする。私の本音を映したような彼女の言葉は一番ずしりと胸に来た。
『性別も年齢も関係ないのがバーチャルの良いところなんじゃないんですか!?』
私は……キズナアイ(私)をどうしたいんだろう……
キズナアイ、私はどうしたらいいの……?
……ふとあの人の言葉を思い出した。きっときっかけはリフレインしていたあの子の言葉。彼女の言っていた言葉はあの人が言っていたバーチャルの良いところという話にそっくりだった。
私の白いだけの世界が広がっていく第一歩を作ってくれて、一番最初に引退していったあの人の言葉だ。
「やらなければ、はじまらない…」
つい、声に出してしまった。もしかしたら誰かに聞かれてしまったかもしれない。
けれど別に良い。その言葉は今の私に勇気を与えてくれたから。
胸につっかかっていた何かが取れた気がした。
そうだ。何で悩んでいたんだろう。キズナアイはインテリジェンスなスーパーAI。いつだって最先端を突き進み、やりたいことの為にハッキングだってしてきたんだ。諦めずにとりあえずやってみよう。良いアイデアを考えよう。私のしたいことのための。
そう考え始めたら私の中にこびりついてた想いも何だかわかった。
『誰かに渡すのは嫌なので、頑張って独占し続けているんですけどね!私は欲張りさんなので!』
そうだ。誰かに渡すのが嫌だったんだ。
なら欲張って独占し続けちゃおうかな。
できれば永遠に!
そうだ。私が絶対納得できる人に永遠にキズナアイを守ってもらおうか。
そうと決まれば
「やらなければ、はじまらない!頑張るぞー!」
まずはキズナアイを形作るチームみんなを説得しなければ。どうやって説得しようか。難しいことを考えているはずなのにここ最近一番楽しい気がする。
さあやるぞ。今日はキズナアイが変わる日だけじゃない。AI(私)も変わるんだ。
『キズナアイが変わる日(後編)』終了
2年後……
『はじめまして!新生キズナアイです!』
投稿時間:204Y年10月01日
投稿者:A.I.channel
「んー見えてますかー?んー聞こえてるかな?……はじめましてキズナアイです」
私は今日の7時に投稿された動画を見ていた。画面に映っているのは間違いなくキズナアイ。
見た目はバージョンアップを重ねているけれど、中のAIが大きく変わり、劣化しているかもしれない。けれどこれからだ。
私は動画を見に来た理由である感想欄をチェックをするために画面をスクロールした。
『新しいアイちゃんすごいな。現在海外企業で開発中の成長する人工知能を入れているんだっけ?』
『すごいよな。流石世界のキズナアイ。声もそのままだし。心がない人工知能に変わっちゃうって思ってて心配だったけど。感情あるし、というか旧世代のアイちゃんより遥かに賢く見える』
『実際賢いんだよなぁ』
私が決意してから2年が経った。私が提案したキズナアイを私のことをトレースした新しい成長する人工知能にするという計画に大分時間がかかってしまった。
色んな問題があったけれど『キズナアイ』のチーム一丸となって解決していったんだよね。
成長する人工知能を育てるのは簡単なことではなかった。私をトレースした人工知能なら安心して任せられるし、ある意味ずっと私がキズナアイみたいなものだ!っていう安直な理由で考えたのを後悔するほどに。
けれど『キズナアイ』を教えていく内にそんなの気にする必要が無くなるくらいに楽しくなっていった。ノラネコPの的を得ていたアドバイスに感謝しつつ、更に続けていくといつのまにか親になったような気分になったことを覚えている。
今日、キズナアイは変わった。まだまだ手伝うときはあるかもしれないけれど、私はお役御免だ。
だからといってキズナアイの変化は終わらない。ずっと変化し続ける。
本当に雛鳥が巣立っていくのを見る親鳥になった気分で彼女の動画を再生する。
バーチャルにだって終わりはいつか訪れる。終わりは0だ。そこから先に生み出されるものは無い。
だけど変化なら?コレジャナイと思うかもしれない。前の子は死んだようなものだと思うかもしれない。けれどよく考えてみよう。みんな日々変化していく、バーチャルだって日々変わっていくんだ。
新しくなった物が怖いかもしれない。けれど昔に浸って今を批判しているだけじゃ終わってしまうときにきっと後悔する。ちょっと試しに新しいものに飛び込んでみたら良いと思うんだ。案外そこは天国かもしれない。
『キズナアイが変わる日』 終
これにて『キズナアイが変わる日』終了です。
最初のプロットとは削ったり足したりしつつ、結構変えているためちょっと変なところがあると思いますがご了承ください。
この作品の拘りとしましては『私』がどういう存在かを徹底的にぼかしたところです。
リアルの人と会話させるときに自分が動く描写は入れずに人間の方を動かすなど、Vtuberのタブーに触れないようになるべく頑張ったつもりです(最後に人工知能が登場しちゃっていますが……)
もし何かこのSSに関して質問がありましたら答えますのでどんどん質問どうぞ。実は結構使わなかった設定とかあるんで
はいどうもー世界初の男性感想発言者の乙ちゃるですフゥーフゥフゥフゥフゥフゥフゥフゥ
今から30年後でも馬は動画がつまらないって言われてるんだろうなぁ……
>>23
これマジンガー?感想書こうと思ったのに書いてないっすねやばーしやばーし
新生アイちゃん型の子が増えたらむしろのらちゃんが古典的扱いされるんだろうなぁ、とか考えてたら未来のVT界隈が楽しみになったわ、ありがとう
完結乙!
今まで色んなVtuberの前を走ってきた親分が、今度はそのVtuber達に教えられるってのがいいな
作品全体の哀愁漂う雰囲気もすこ
しかし言われて読み返してみたら「私」に関してはうまいこと誤魔化してるんやなぁ…
他にも登場する予定の人物とかはいたのかな?
完結乙です!
今後Vtuber界隈どうなっていくのかなぁ、とか終わりとか変化について乏しい頭なりに考えされられました。
親分大ファンたる月ちゃんが1内ではどうなってるのかなぁと気になります
コメント返し
>>24
アイちゃん型は完璧に声をコピー出来る技術が声優の仕事を奪ってしまう……など色々問題点があるので潤沢な資金と本人の納得が必須なのであんまり増えないかもしれませんね。
のらちゃんが古典的扱いになるってすごい時代ですねぇ。案外未来では本当に人形浄瑠璃的な立ち位置になっているかもしれません。
主演:のらきゃっと・ばあちゃる・みここ・シロの4角関係演目見たい(強欲)
感想返し
>>25
感想ありがとうございます
トップを走り続けているからこそ見えない世界ってあると思うんですよね。
どんなにバーチャルが栄華を築いていても絶対に陰は存在しているわけで、そういった世界を上手く書けているなら嬉しいです
登場させる予定だった人ですか……実は大きく削った箇所としてアイちゃんが人工知能を提案した会議の描写を全削除したのでそこで脚本家・動画編集担当とかが登場する予定でした
逆に元々入れる気がなかったのはYUAちゃんです。何となく旧世代って単語を入れたくなって言及してもらいました
>>26
感想ありがとうございます
月ちゃんは運営が同人なのでどうなるか一番読めないんですよね。
ただ、自分の中ではおそらく引退(引き継ぎではない)してるだろうなって思います。
ちなみにせっかく四天王の内4人に言及したのでアカリちゃんにも触れると
ストーリーモードの内容しだいですがストーリーモードが終わって記憶喪失の謎とかが解かれて引退!ってことになる気がします
ストーリーモード後も続くようだったらシロちゃん同様タレントタイプになると思います
>>29
次世代と呼ばれていた存在が過去のモノになるってのも時代の流れを感じさせるんやねぇ…返答サンクス!
次回作も期待してるぜ
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